●浜の真砂は尽きるとも 世に盗人の種は尽きまじ リベリスタとフィクサードの境界線は曖昧だ。 革醒した力を世間の為に使えばリベリスタ。私利私欲に使えばフィクサード。だがリベリスタとて時には我欲で革醒した能力を使い、私利私欲とはいえそれが社会の常識に反しないこともある。 アーク内部においても、元フィクサードと呼ばれるリベリスタは多い。そしてその逆にリベリスタが何らかの理由でフィクサードになることもある。 正義と悪の境界線はいつだって曖昧だ。ほんのわずかなことで人は悪に堕ち、また悪から這い上がる。 さて、『ワイルドウルフ』と呼ばれるリベリスタ組織がある。 フォーチュナ不在のこの組織は、小規模ながらも神秘事件にかかわり、個人の実力だけならかなりのものである。如何せん大規模戦闘を経験したことがないため、集団の戦いには不慣れだ。 この『ワイルドウルフ』もまた、神秘の戦いに身を投じて疲弊していた。 圧倒的かつ理不尽な力を持つ神秘の力。 嫌悪感を通り越して吐き気すら覚える悪意持つフィクサード。 残酷な運命により選別されたノーフェイスの殺害。 そして――努力が何一つ報われない現実。 悪の種は尽きない。悲劇の種は尽きない。泣き叫び疲れても、現実は待ってくれない。 心折れ、リベリスタの志を失うのは時間の問題だった。 小規模な組織だが、実力はある。その実力を売り込むにはリベリスタの一大組織に勝負を仕掛け、勝つのが一番だ。そう思った彼らは、アークに挑戦状を送るのだった。 ●リベリスタということは 「悪い奴らではないのだがな。腕も確かで助けられたこともある。だが……」 『無銘』 熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は送りつけられた挑戦状を広げ、顔を歪めていた。 集まったのは、伊吹が知るアーク所属のリベリスタだ。彼らはアークに対する挑戦状を前に首をひねっている。 「質問があるのだが。なぜ熾竜がこの挑戦状を受け取ったのだ? アーク宛のようだが」 「彼らとは交友があってな。彼らの挑戦状をアークに叩きつける直前に止めたのだ」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)の質問に伊吹が答える。実際にアークに送られていたら、色々問題が起きるか、スルーされるかだ。 「スルーはできないの、これ?」 「ウム、このまま握りつぶすほうがお互いの為だと思うぞ」 『かたなしうさぎ』 柊暮・日鍼(BNE004000)と『てるてる坊主』 焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が提案する。事実、そのほうが問題がない。リベリスタ同士で決闘自体はともかく、それを手土産にフィクサードになるなどあってはならない行為だ。 「そうするのが一番なのだろうが……彼らはこの勝負に応じなくても、フィクサードになりかねないのだ」 伊吹の言うとおり、『ワイルドウルフ』はリベリスタの境界線を踏み外しそうになっている。アークとの決闘はその為の『儀式』に過ぎない。断られたら、別の『儀式』を行うだろう。 「つまり、彼らを叩きなおしたいということか」 「引退させるというのもありかな。無理に戦い続けることもなかろう」 『赤き雷光』 カルラ・シュトロゼック(BNE003655)と『足らずの』晦 烏(BNE002858)の言葉に伊吹が頷く。どういう形であれ、フィクサードにさせなければいい。 「しかし気持ちは分かるんだよな」 「確かに。なまじ閉鎖的な組織だから、他人に相談もできなかったんだろう」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が『ワイルドウルフ』の資料を見て同調する。彼らがぶつかっているのは、リベリスタならぶつかる『壁』といえよう。 「この件は俺の識る最もリベリスタらしい者に託したいと思ったのだ」 伊吹は集まったリベリスタたちに向かって言葉を紡ぐ。ただ倒すだけなら数をそろえればいい。だが、倒しただけでは意味がないのだ。『ワイルドウルフ』の心にリベリスタの火を点さなければならない。 「それ故、そなたに声をかけさせてもらった。戦いを通して彼らに伝えてほしいのだ――リベリスタとしての在り方を」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月27日(月)23:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「細かいことはいいや。僕らが勝てば君たちは、僕らの言うことを聞く。それでいい?」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)の言葉に、誰も異存はなかった。 「語るのはあまり得意じゃないな」 『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)はそう呟き、銃を構える。胸にある思いは、行動で示すのみ。 「リベリスタにはいろんな形がある。フィクサードとの境界は曖昧で、誰も彼もが善悪の彼岸を行き来する」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が拳を握り、そして前を見る。いつだってこの手を伸ばしてきた。今回も。 「あの『ワイルドウルフ』と戦うことになるとはな……」 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)の思いは複雑だ。『ワイルドウルフ』と戦う理由が、こんな理由になろうとは。 「人生色々だわな……何が良いのか悪いのか」 『足らずの』晦 烏(BNE002858)がタバコを携帯灰皿に入れながら破界器を構える。きっと死ぬまで悩み続けるものなのだろう。その足掻きこそ人生なのかもしれない。 「半端者フィクサードを叩き潰させてもらうぜ」 『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は手甲を腕にはめながら、静かに口を開く。フィクサードには憎悪しかない。そうなるのなら、怒りをもって応えるのみだ。 「リベリスタパワー見せつけたろ!」 『かたなしうさぎ』柊暮・日鍼(BNE004000)はサングラスの位置を直しながら元気よく口を開く。力量は確かに劣るが、その心意気だけは負けはしないと自らに檄を飛ばす。 「生きてまた会えたというのに、このような形になるとはな」 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は戦友との再会に喜び、そして嘆く。共に歩んだ道が、このような形で分かれてしまうとは。 『ワイルドウルフ』のほうも各々準備を整える。 リベリスタとリベリスタ。その戦いの火蓋が、落とされた。 ● 「奇遇だな、俺も正義に興味はない」 最初に動いたのは伊吹だった。サングラスに冷徹な表情。だがその心中は怒りに満ちていた。それはフィクサードになると心折れたことにではない。ペラッツァーニに迫り、拳を振り上げる。半歩踏み込み、強く穿つ。無駄のない、真っ直ぐな拳。 「唯々自分のためだ。俺もそなた達を失いたくはないからな」 仲間と別れたくないというペラッツァーニ同様、伊吹も『ワイルドウルフ』のことを気にかけていた。その思いが裏切られたことが腹立たしい。同時に、こうなる前に相談してくれなったことがさらに怒りに火をつけていた。何故、ここまでなるまでに相談してくれなかったのか。 「ま、フィクサードになったら狩るだけだがな」 冷たく言い放ち、カルラがエドウズを押さえる。兜の奥から見える嫉妬の瞳を受け止めながら、カルラは手甲を操作する。魔力弾丸をスライドさせて装填し、腕の動きだけで装填口をロックする。幾度となく繰り返してきた戦闘動作。腕から弾丸が装填された感覚が伝わってきた。 「俺の拳は、この部屋中に届くぜ」 カルラが拳を振るうと同時に、手甲内の魔力弾丸が爆ぜる。魔力が迸り、同時に赤い光が放たれた。振るわれた拳の軌跡を延ばすように衝撃波が飛び、戦場全てに行き渡る。遠距離にいた江崎にも衝撃波は届くが、直前で弾かれてしまう。 「ルンシか」 「大丈夫。私が突破する」 杏樹が江崎の魔力壁を見据えて銃を構える。慣れない片目での距離感に戸惑いながら、しかし経験がそれを補正する。ぶれる視界なのに銃を構える腕は、思っていたよりもスムーズに動いてくれる。 「トドメを刺すつもりはないけど、手加減はしない」 銃身の重さが心を落ち着かせる。それはまるで祈るように穏やかな精神状態。杏樹は自分の為には祈らない。ただ誰かのことを思いながら、引き金を引いた。貫通力を増した弾丸が、江崎の魔力壁を貫き通す。 「悪いね、僕が相手だ」 藤咲が突撃しそうになるのを、夏栖斗が止める。両手にトンファーを持ち、それを回転させながら間合を計る。頭の中で幾つもの攻め方を考え、相手の隙をうかがう。思考は一瞬。滑らかに足は前に出た。 「止めてやるよ、『ワイルドウルフ』」 真っ直ぐに夏栖斗が突き進む。それを撃激するように藤咲の槍が突き出された。その一撃をトンファーで受け流しながら、さらに前に進む。トンファーから伝わる槍の衝撃に腕を震わせながら、もう片方のトンファーに気迫を乗せて突き出した。藤咲と、そしてその後ろにいる江崎を衝撃が貫く。 「さてご老体。お相手願おうか」 快が石川の前に立ち、仲間に付与を与える。仲間に広がる暖かな光と、神秘の鎧。それに呼応するように石川は自らの刃を研ぎ澄ますように付与を行う。守るもの、攻めるもの。守護神と戦闘狂。相対する二人は静かに睨み合う。 「若いの。楽しませてもらうよ」 言葉と共に石川が迫る。石川の両手に装着された刃を、ナイフと盾で快が防御する。変幻自在な石川の刃に対し、基本に忠実な動きで快のナイフが動く。金属の交差する音が何度も響き、何度かの攻撃を避けきれずに快の体に浅い傷が残る。だが、問題ない。挑発するように快が言葉を続ける。 「潮時だろ。引退してもいいんだぜ」 「まだまだ若いものには譲れんよ」 盾と刃が、再び交差する。 「手を抜いて勝てるとは思えないな」 相手の動きを見て、フツがそう判断する。前衛の隙を縫って後衛の江崎に向かう。真紅の槍を真っ直ぐに構え、連続で突き出す。後方で魔力を練る江崎はその槍捌きについてこれない。フツの動きのたびに身体が凍りつき、守りの結界が砕け散る。 (回避が甘いのは、生きるのに諦念があるからか。自分の努力(まりょく)では叶わないことに対して、諦めているのか) フツは攻撃しながら、江崎の心を読み取る。死を受け入れているのではない。だが捨て鉢になっている。築き上げたものが通じないことに対し、仕方ないと受け入れ諦めているのだ。 「こいつはキツイ説法が必要かもな」 「気持ちはある程度分かるんだけどね」 烏が江崎の高位雷魔術を警戒して、相手の動きに合わせて間合を取る。そのまま愛銃を構え、天井に銃口を向けた。数多の弾丸が討ち放たれ、それぞれに神秘の力が宿る。烏はその一つ一つを操作し、弾丸を戦場に降り注がせる。 「形あるものはいずれ滅び行く定め、それは人であろうとも世界であろうとも。江崎君はまだ若いのに随分と諦観したもんだな」 降り注ぐ弾丸は味方を避け、敵だけを正確に穿つ。多くの弾丸を操る故に、命中精度は確かに劣る。だがそれを苦ともしないのが烏の銃の腕である。一つ一つを見るのではなく、立体的且つ相手の動きも踏まえても射撃。その動きの素晴らしさを証明するように、血飛沫が舞う。 「バラバラになりたくない気持ち、よくわかるで……」 日鍼がペラッツァーニを相手しながら言葉を紡ぐ。長年過ごしてきた仲間との別れ。善悪のこだわりさえないのなら、確かに悪に染まってまで皆といたいという気持ちは分かる。だがそれは、違うのだ。 「でもこのままやと否が応でも皆倒さなアカン。せやからカテーナさんからも説得してくれへん?」 「いやだよ! アークを倒せば済む話じゃない!」 ペラッツァーニが日鍼の言葉を拒否しながらナイフを振るう。日鍼はそのナイフに糸を絡ませ、左手を軸に引っ張って相手のバランスを崩した。傷を与えない拘束術。日鍼に殺意はない。できるなら穏便に説得で済ませたい。 一進一退。数の優位性こそあるが、アークのリベリスタも無傷ではいられない。 江崎は仲間を巻き込む形で稲妻を放ち、他の『ワイルドウルフ』も、相応の攻撃力を持ってアークのリベリスタを攻める。烏とカルラと日鍼が運命を燃やし、藤咲に相対している夏栖斗が肩で息をする。 もちろんそれは『ワイルドウルフ』のほうも同じだ。集中攻撃を食らっている江崎はもう限界が近く、他のメンバーも無傷な者はいない。 互いに回復のない火力特化の構成。回復はエドウズの自己再生能力と、快が施した付与によるもののみ。自然と戦いは短期決戦になる。砂時計の砂が落ちきるよりも先に、戦いは終わるだろう。 勝敗の天秤はゆらゆらと揺れている。 ● 「オレは霊と会話ができる。なまじ、相手が霊でも話せるからか、生きてる相手に色々言うのは得意じゃあないんだ」 フツは槍を構えながら口を開く。その槍とて、フツに何かを語りかけてくる。何かを伝えようとする声。 「生きていれば聞こえる言葉がある。生きていれば出会える誰かがいる。そしてここには、お前達に言いたいことが山ほどあるっつー仲間が揃ってるんだ。 聞いてもらうぜ、あいつらの言葉を。だからこの戦いでお前さん達を殺しはしない」 南の聖獣を召喚しながら、フツは告げる。特定の誰かではない。『ワイルドウルフ』全てのメンバーに向けて語りかけていた。 「オレ達の言葉を聞いて、それでもまだフィクサードになるっつーんなら、その時はしょうがねえ。次に会うときは、敵同士だ」 強要はしない。互いの信念がぶつかり合い、それでダメなら次は―― 「強いな。それにいい破界器じゃないか。それも時村財閥の金と権力だろう」 エドウズがカルラと交戦しながら告げる。その言葉には嫉妬が含まれていた。権力と経済力で有名になったアークに対する嫉妬。 「金と権力を利用して真っ当な事して、何が悪い」 「悪くはないさ。だがその金と権力があれば、俺達も有名になれたってことさ!」 カルラの言葉に叫ぶように言葉を放ちながら、エドウズが剣を振るう。その一撃を手甲で受け止めながら、カルラは言葉を返す。 「確かに武装だって物資だって情報だって、アークの……時村の力あってこそのものだ。 だが俺は有名になりたいからアークにいるんじゃねぇ。フィクサードを狩る為にアークにいるんだ!」 世間の評価が重要なのではない。自分の目的が重要なのだとカルラは叫ぶ。リベリスタを名乗るつもりはないが、フィクサードだけは許せない。それがカルラが戦う理由。 「悪に染まったらその内楽しいことも楽しくなくなってまうよ。誰かの恨みを買ったら必ず返ってくる」 ペラッツァーニを押さえながら日鍼が言う。 「そんなの、力づくで押さえ込めばいい!」 「それは自分だけやなくて、仲間にまで降りかかるんや。カテーナさんはそれすら楽しいって思うん?」 重ねられた日鍼の言葉に、ペラッツァーニの言葉が止まる。仲間に危害が加わる。その光景を想像し、反論の言葉が詰まった。 「何か困ったことがあったらわいらが聞くよ。同じリベリスタ仲間やん」 「だって……だって……」 優しく語り掛ける日鍼に泣きそうな顔をするペラッツァーニ。相談できなかった辛さと、相談する相手がいる喜びの感情が入り混じっていた。 「悪くない守りだねぇ。楽しくなってきたじゃないか」 「……俺はまだ革醒して三年の駆け出しだ。武に関わった時間はまだ短い」 戦いを楽しむ石川に、快が静かに言葉を返す。 「武を頼みとした事はある。起ころうとしている惨劇を止めるために。強さを求めたことはある。守ろうとするこの手が、もっと遠くまで届くように」 「当たり前さね。力がなきゃ何もできない」 石川の言うことは真理だ。優しさだけでは人は救えない。何かを為しえるのは何かしらの『力』を持つものだ。 「だけど――武に愉悦を求めたことは、ただ一度だってありはしない!」 快は激情を乗せた瞳で石川を見た。今まで乗り越えた戦い。その中で快はいつだって誰かを守るために戦っていた。 「強さを競うことを否定はしない。けれど人は、それぞれが戦う理由を抱いて戦場に立てるんだ!」 例えそれが相容れぬ理由であったとしても。戦場に立つ理由は確かにある。 「繰り返すよ。戦う理由がないのなら、引退してもいいんだぜ」 快の言葉に驚きの表情をする石川。その後、笑みを浮かべて刃を繰り出す。 「散る桜、残る桜も散る桜ってやつだねぇ。江崎君はまだ若いのに随分と諦観したもんだな」 烏が江崎に向けて言葉を放つ。雷撃に体を囚われながら、しかし戦意と意思だけは鋭く『リベリスタ』を見ていた。 「過去にだって世界は何度も滅びかけただろうさ。だが滅び行く定めであろうとも、人はそうやって世界を変え滅びの定めを覆しているのさ」 例えばナイトメアダウンの用に。バロックナイツの襲撃の用に。様々な悲劇の用に。 「己が信じられぬなら一つおじさんに騙されて見ると良い。世界は滅びず変わって行くもんだってな。 新しき出会いが、友が仲間が世界を共に変えていってくれる筈さな」 烏が指差す先には、アークのリベリスタの姿があった。 「世界をなんとかしようとしてリベリスタに成ったんだろ? ミコトちゃん」 夏栖斗が藤咲越しに江崎に語りかける。変わらぬ世界に絶望するマグメイガスは、静かにかぶりを振った。 「そうね。でも、世界は何も変わらない。どれだけがんばっても、何も変わらない」 「変わらなく見えても変えようとすることをやめたら、もうとっくにこの世界は滅んでるはずだ。見えなくても世界は変わり続けてる!」 「世界だって、簡単に壊れるかもしれない」 夏栖斗の言葉に重ねるように杏樹が語りかける。確かに世界は残酷で、努力をあざ笑うような出来事もある。 「でも、綱渡りでも繋がっていくなら私は諦めない。助けた子や、守り切った時に仲間と笑ってると、無駄じゃなかったと思えるから」 それでも誰かを救えることも事実だ。それが小さく儚いものだとしても、その笑顔を守ったことには価値がある。 「…………っ」 それは誰かを救った小さな証。江崎だって、経験のないことではない。息を詰まらせ、胸元で手を握る。現実の辛さに流されて、忘れていた大切なコト。 「鈍ったな、数馬。そんな曇った穂先に仕留められるほど俺はヤワではないぞ」 伊吹が藤咲の槍の内側に入り込み、拳を振るう。藤咲は石柄で伊吹を迎撃しながら、かつての親友の声を聞いていた。 「俺は怒っているのだ。子故の闇は俺も他人事ではない。何故こうなる前に話してくれなかったのだ」 「話してなんになる? お前はアークのリベリスタ。そちらが対応している事件の規模を考えれば、外様の弱小規模組織の個人的事情などかまけている余裕はないだろうに」 「命の価値に差などない。救えるなら救いにいくのがリベリスタだ。 そなたがどう思われようが俺の方は違うぞ。振り切るなら殺しに来い」 藤咲の言葉を伊吹は気遣い無用と斬って捨てる。神秘や規模など関係ない。困った人がいたら救うのがリベリスタなのだ。 「娘さんのことを思うんやったら、尚更こんな危ない橋渡るようなことはやめてほしいんや」 日鍼が藤咲に言葉を重ねる。娘の為にお金を稼ぎ炊き持ちは理解できる。だけどそれは娘の為にはならない、と告げた。 「もし数馬さんが戦場で命を落としてもうたら、娘さんは最期の時までひとりぼっちなんやで……」 「……それは……」 藤咲とて自らの命の危険を考えなかったわけではない。だが、自分の死後、残されたものがどうなるかを考えれば、言葉が詰まる。 精神的な動揺こそあるが、『ワイルドウルフ』の戦闘能力刃は高い。藤咲の槍で夏栖斗が運命を燃やし、石川のカタールが快の運命を削り取る。江崎の雷撃が杏樹の運命を奪い取った。 しかし集中砲火で江崎が倒れてから、『ワイルドウルフ』の攻勢も薄れていく。個人の戦闘力が高くとも、連携ではアークのリベリスタに劣る。ペラッツァーニのナイフが日鍼を倒し、エドウズがカルラを切り伏せるが善戦はそこまで。一人、また一人と倒れていく。 「緋は火。緋は朱。招来するは深緋の雀。これぞ焦燥院が最秘奥――」 フツが赤の四神を召喚する。赤い炎が戦場を照らした。 「俺達の言葉は届いたか? 今はゆっくり眠れ」 羽ばたく鳳凰。その炎がエドウズと藤咲を同時に吹き飛ばし、地に付した。 ● 戦い終わって。 「折角だ。時間があれば甘いものでも食べに行かないか?」 という杏樹の提案により、一同は近くの喫茶店に移動していた。 とはいえ、一同全員ではない。 「とめさんとハロウドは?」 日鍼の言葉に、ペラッツァーニが悲しげな顔で首を横に振る。二人は袂を別ったようだ。 「次にあったときは、敵同士か」 「狩ればいいだけだ」 「そうだな、念仏はサービスしてやるぜ」 快がため息をつき、カルラとフツがそう結論付ける。 とはいえ実力があっても『手土産』がなければ、大きなフィクサード組織には受け入れられない。石川は組織の大小にはこだわらないが、エドウズはそこで二の足を踏む可能性は高い。 「アークは人手が足りないらしい。そなた達なら歓迎されよう」 伊吹の提案を、藤咲はやんわりと拒否した。小規模ながらも今まで戦ってきた組織を潰すつもりはないらしい。何とかなる、と小さく微笑んだ。 (親か……) 夏栖斗はそんな藤咲を見ながら、ケーキを食べていた。自分を庇った母。傍にいてくれる養父。娘を助けるために神秘事件で戦う藤咲への感情は複雑だ。 ケーキを口にする。人生もこれほど甘ければいいのに。 正義と悪の境界線はいつだって曖昧だ。 ふとした事情で踏み外す可能性は、誰にだって存在する。 だからこそ、人は手を繋ぐのだ。 誰かが境界線を越えたとき、殴ってでも引っ張り戻す為に。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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