●雷鳴と共に ここ最近、よく噂になる怪談がひとつ、ある。 「雷雨の日、必ず雷に打たれて人が死ぬ」 どこの誰が噂し始めたのかは分からない。全世界規模でみれば、どこかしらの土地で雷雨は起こっているだろうし、雷が落ちれば運悪く命を失う人もいるだろう。 だが、その話はある種の確信を持ってひそやかに人の間を伝播していた。 曰く、雷に打たれるのは悪人である。 曰く、雷に先んじて黒猫が現れる。 曰く――その猫は地獄の使者である。 噂の真偽など知れたものではないし、誰もがそれを本気にすることなどなかった。 そして、その噂が真実であることを知るのは、大半が雷に打たれてからのことである。 にゃあお。 死を運ぶ黒猫は、雷雨を伴って今日も世界を巡る。 ●地獄の火車 「実際には黒猫が獲物を定めるから雷雨が巻き起こり、狙われた方が雷に打たれて死ぬのですけどね。順序は逆ですが、神秘存在であることは確かです。対処をお願いします」 リベリスタたちを招集した『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はそう言って説明を締めくくった。 発生したのは黒猫の姿をしたE・ビーストが一体。フェーズは2と3の中間程度。付随する存在としてE・エレメントが複数体。こちらのエレメントはビーストによって作り出される存在であるという。 「発生に至るまでの経緯などは万華鏡で探知できる期間や範囲の外にあると思われて不明ですが、被害者は既に相当数出ているようです。ここ数カ月の自然災害による死者としてカウントされていた人のうち、少なくとも10名程がこのエリューションによる作為的な雷で死亡した方だと思われます」 雷に打たれて死ぬ人というのは日本国内で年平均13名程度と言われてるが、今年はその人数が異様に多いのだという。前年度に比べて、落雷被害を受けた者の数が6割増し、死者数にしてほぼ倍である。 「このまま放置した場合、死者数の増加が危ぶまれます。出現に際して雷雨による二次被害も併発しているため、万華鏡による探知ができたこの機会に討伐するべきと判断されました」 提示されるのは、直近10日間の全国天気予報。エリューションの存在を聞いてからその予報を見てみると、どこかしらで雷雨が起こるという予報が出ていて確かに奇妙である。 「万華鏡の精密予報によりエリューションの出現箇所、時間は予測できています。現地では強力な雨が予想されるので対策を。任務後の心配になりますが、時節柄、風邪にも気をつけて」 エリューションの能力に関する書類を配り、ついで、といって風邪予防の漢方薬を配って、和泉は皆を送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月27日(月)23:13 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●雨の中で その日、その場所に立った『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)に、雨は服越しに肌を叩く感触以外に感じるものがなかった。闇を見通し千里を見渡すその目には雷雨ならではの暗い情景も雨に煙る街並みもなく、ただ人気の感じられないオフィス街があるだけだった。 ただでさえ人気が少ない雨天の中、強力な結界で研ぎ澄まされたその場はただでさえ凍える冬の雨をさらに冷たく感じさせている。 「この先だな。雨の中でも隠せない気配がある」 「アークの方でも捕捉したみたいだぜ? 探す手間が省けて助かったな」 鋭敏に研ぎ澄まされた感覚で『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が火車の気配を捉える。ほぼ同タイミングで、アークと連絡を取っていた『てるてる坊主』焦燥院 "Buddha" フツ(BNE001054)がその証言を裏付けた。 「もうちょっと郊外ならよかったんだけどな……つっても、来ちまってるもんは仕方ない。良くない状況くらい、ひっくり返して見せるさ」 「なぁに、状況とか難しいことは考えなくてもさ。いつも通り、今日も派手に喧嘩の一つでも始めるとすっかねぇ!」 肩をすくめる『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)の言葉に、雨にぬれた手をパァンと打ち合わせ『蒼き炎』葛木 猛(BNE002455)が気合いを入れる。それを合図にしたように、リベリスタ各々が武器を取り出し、構えた。 「もう少しで目に見える距離ですね――先手をとります」 皆が武器を構える中、離宮院 三郎太(BNE003381)は魔術書におちる水滴を払いながら仲間に翼の加護を付与した。水音を伴っていた足音が軽くなる。 足元の不安が消えたリベリスタたちが瞬時に陣形を組み替えていく。雨のカーテンの向こうには、青白い雷電煌めくものがいくつか、既に見え始めている。その中央には不自然に雨を弾く、漆黒の猫。 「悪人のみが雷に打たれるという噂ですが……この場合、私達は悪人という扱いになるんでしょうかね? まぁ、否定しきれるものではありませんが」 手にした黒白の十字手裏剣「神罰」を火車に向けながら疑問を差し挟む『黒犬』鴻上 聖(BNE004512)に、エリューションはただ『にゃぁ』と鳴き返す。 「貴方が、死を運ぶ猫ですのね――申し訳ないですけど、ここで討たせて頂きますわ」 彼我の距離はおよそ10m。構えた古式銃「朱」の銃身は加工の甲斐あって水を弾き返して艶やかに光る。照準を合わせ『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)は振りむいた火車を見据えた。 ●雷鳴 黒猫が紫電を纏った。周囲の空間がばちばちと帯電し、ただおぼろげに舞っていた白い火花が互いに結びつき白熱の球電と化す。特殊な知識がなくとも解る明らかな神秘存在。 接触を控えて幾人かのリベリスタは既に自己強化術を施している。三郎太の翼の加護もその一環だ。 なぉん、と。小さな声だが火車が咆哮を上げた。雨足が変化し、チリチリと空気が帯電する。予知にあった遅延発動の雷撃招来だ。その鳴き声に釣られるようにしてぽっ、ぽっ、と灯が点るように雷火の数が増える。 「雷は回避しにくいんだったか?」 「なに、狩る分には変わりない」 不意打ちに近い形で接敵したというのに、火車に雷撃招来の暇があったことに驚きながら却は雷火の間を駆け抜けた。補助するのはユーヌだ。陰陽式符を用いて、研ぎ澄まされた五感で感じ取った空気中の電位差を誘導。雷火が自分の元へ寄ってくるように空間を仕立て上げる。 ゆら、ゆら、と不安定な動きで雷火がユーヌの元へと漂う。 進路を開かれて余裕を得た却が速度の乗った動きでエクスキューショナーズソードを一閃。激しい雷雨が切り開かれて、斬撃に沿うようにして一瞬、雨のカーテンが途切れる。 雨に遮られて見通しの悪い後衛陣からは、その一撃は完璧に決まったように見えた、が惜しいところで火車を捉えきってないのは処刑剣を振り切った本人が一番わかっていた。 千里眼で状況を見ていた俊介がそれを見てすぐさま身を翻す。 漂う雷火とユーヌの間に身を割り込ませ、その背に聖なる星型を背負った。 「うーぬを護るのはこれで2回目だっけか! 任せな!」 漂っていた雷火が槍状に姿を変え、それこそ槍の雨と見紛う密度で俊介を襲う。他のリベリスタが雷火を迎撃しようと火線や攻撃を放つも、ひとつ、ふたつを撃ち落とす程度で雷の速度には間に合わなかった。 轟音。 落雷の音と寸分違わぬ攻撃音にアガーテは思わず耳を塞いだ。前衛にいたフツや猛も、間近での閃光に戦闘に支障が出ないレベルではあるが一瞬視界を奪われる。 「まったく、困った猫ちゃん。あんまり人を困らせたらいけないんやで?」 雷撃の余熱で雨が蒸発していた。 「っと、心配させてもた? だいじょーぶ☆ 任せな! うーぬと組んで負けた事ないからさ!」 雨に押し流されて消えていく霧の中央には無傷の俊介。背負ったペンタグラムが煌々と輝き、雷撃の大半を無効化したことを示しており、同時に力を奪われたように、雷火のサイズが一回り縮んでいた。 さすがに直撃したものは威力を減衰しても雷そのものからは逃れ得なかったのか、バチバチと奔る紫電が俊介にまとわりついている。 「ふむ、飛んで火に入る夏の虫、とは行かないが楽でいいな。蚊取り線香並みには効果があるか」 護られているユーヌ本人はしれっとした顔で俊介をそう評した。そんなレベルなのか、と周囲のリベリスタは総ツッコミを入れたい気持ちを抑える。あきらかな直撃弾もいくつか。まともに喰らっていればこの場にいる誰であれ倒れることは免れない威力だ。 その中、猛は賞賛の口笛を吹きながら火車の元まで一足飛びに翔ける。 「すげえ雷だな……ワクワクするぜ! さぁ、お前らと俺の雷、どっちが強いか試すとしようじゃねえか!」 四肢でアスファルトを踏む火車がフゥ! と紫電を散らしながら威嚇する。 白銀の篭手が振りかぶられ、突進の勢いのまままず一打。次いで、目にもとまらぬ速さで2撃、3撃と拳が追加されていく。道路を割り砕く程の強烈な連打に水溜りの水が跳ねあがった。 連打の一撃が火車を捉え、勢いそのままに火車の身体が吹き飛んだ。飛びながらも四肢に纏う紫電がその輝きを増している。何をしかけたのか、雨の中を伝わる紫電は僅かにその量を増していた。その紫電に呼びこまれるようにして雷火がまた数を増やす。 「ナイスだ葛木――捉えたぜっ!」 フツの良く通る声。一喝と共に魔槍深緋の石突がアスファルトを叩いた。 数珠のAFがその声に共鳴しフツの頭上に梵字で描かれた召喚陣を構築。符が轟々と燃え上がりながら一匹の朱雀の姿を真似て顕現する。 「行け、四神が一柱! 焼き尽くせ朱雀!」 甲高い鳥の一声。翼を広げ羽ばたいた朱雀の依り代は雨をものともせず、火車めがけてその嘴を向けた。朱雀の焔が雨を消し飛ばし、まるでサウナのような熱風を巻き起こしながら突進する。 進路上、ユーヌの周囲に集まっていた雷火が悉く熱に呑まれて焼失する。朱雀はその身体で火車を包み込むようにしながら直進し、最後にもう一声を上げて消えた。 陰陽術による火焔は雨の中でも消えることなく立ち上がっている。火に包まれ黒こげ、とはいかないがプスプスと煙を上げながら火車が立ちあがった。紫電はまだ衰えていない。 「まだです! 今のボクに出来る最高の攻撃――行きますっ!」 火車に姿勢を立てなおす余地も与えず。立ち上がり、四肢でアスファルトを踏みしめようと動きの止まった火車の脚を狙い撃つように三郎太の魔術が放たれる。 回避する範囲を狭めるとでもいうように、アガーテの追撃が重なる。朱の銃身から放たれたのは爆炎の魔力を込められた爆裂弾で、着弾と同時に雨を弾き飛ばすようにして紅蓮の焔が立ちあがった。 元が獣であるエリューション故か、アガーテの弾丸を嫌うようにして火車が無理やり回避の跳躍をするものの、着弾地点からは逃れた火車の脚が三郎太の魔術に絡め取られる。精密な魔術が脚の関節を撃ちぬき、火車の身体に癒えぬ傷を穿った。 同時に、火車の周囲に浮遊していた数体の雷火へと、火車を貫通した魔術が拡散し、そのまま撃ち抜いて行く。一撃でその力全てを削ぐには至らずとも、雷火のサイズがみるからに小さくなる。 「これ以上の被害者は許容しかねますからね――」 終止符を打つ、という言葉は胸の内に仕舞いこんで。もともと聖はそこまで黒猫が嫌いではないのだ。 雨中、火車のいる個所を半ば直感に任せて推測して、十字手裏剣の形に組み合わせた一対の刃が投擲される。紫電も含めた居場所の予測は正しかったものの、弾丸に比べれば遅く、朱雀と比べれば制圧面積の少ない投擲は火車の体捌きによって寸前で回避される。 雷火は、というと金属質な刃に吸い寄せられるようにふらふらと浮遊場所を変えつつも、それぞれが無軌道に動いて偶然にも手裏剣の軌道から外れていた。 手応えなく手元に返ってきた手裏剣に舌打ちしながら、聖は次は当てると集中力を高めた。 ●夜帳は雷撃に染まる 夜空が光った、と思えばあとは一瞬だった。 火車が呼び寄せた稲妻は2本。1本が魔方陣に吸い寄せられるようにして俊介に下り、もう1本が火車の身を焼き、それぞれが周囲に拡散するように爆裂して轟雷と雷の熱を振りまく。飛びかかるようにして俊介がユーヌを庇うが、他のリベリスタが悉く雷撃に呑まれた。立ち位置を見誤ったわけでもなく、ただその雷撃の範囲が広すぎたのだ。 巻き込まれて残っていた雷火が全て雷撃と同化し消え去るが、消えた雷火よりも多い雷火がまたばちばちと顕現した。 その雷撃の閃光に隠れるようにして、火車の爪が却に襲いかかる。雷撃の余波が止まぬ中で、さらに雷撃の力を宿した爪がざっくりと猛の腹を切り裂いた。 「猫だからって油断大敵か……つっても、その程度かよ――」 直撃を避けたうえでも明らかに致命と解る2撃を貰い、それで血反吐を吐いても却は倒れるそぶりすら見えせない。雨で血が洗い流され、蒼白を超えて真っ白に見える表情がふてぶてしく笑う。笑みの唇の端からツゥ、と赤い筋が垂れた。 「見せてやるよ、ソードミラージュの意地ってのをさぁ!」 雷撃と雷爪。その双方を、完全ではないにしろ直撃から回避せしめたソードミラージュとしての速度。自身の傷をものともせず、むしろ鼻で笑い飛ばすような短い裂帛の掛け声とともに、処刑人の剣が雨を斬った。 一振り。 必要最小限の手の動きで、実現可能な最高速度を付与された断罪の剣の攻撃は、重なる全てがひとつの攻撃に見え聞こえるほどに研ぎ澄まされていた。 雨が、その場に降り注ぐことを拒否するように却の周辺から消える。剣圧が、今度はその中心で火車を捉え紫電迸るその身に無数の斬撃を叩きこむ。 「一発じゃあ――!」 それに足らず、剣圧で吹き飛ばされる火車の身体にさらに迫撃が入る。くるりと却の手の中で重さを感じない回転を見せ、剣がまた振られた。 「終わらないっ!」 ザァ、と。剣の筋道に存在することを許されていなかった雨粒が、一気にアスファルトを叩いた。超速の剣で鎮まりかえっていた戦場に、漸く音が戻ってくる。 「跳ねて、遊んで、満足か? 哀れな哀れな迷い猫。このまま不運を重ねてのたれ死ね」 火車の弱った様子にユーヌが畳みかける。それは後衛のアガーテや三郎太の致命傷に動いた俊介を見てでもある。雷火の攻撃が重なれば、この中で手練にはいる実力とはいえ体力の少ないユーヌに致命は免れない。口では蚊取り線香程度と評した俊介によるガードも、それを不当に低く評価しているわけではないのだ。 式符が夜空に昇ると、白く輝く。まるで死の予兆のような輝きを見せ、符は一筋の流れ星となって火車を強かに打撃した。光が強く影を生み出し、その影がまた火車を覆い尽くす。 白い闇とでも形容すべきその術に呑まれて火車が甲高く威嚇の鳴き声を上げるが既に遅い。前衛を務めるリベリスタの間を漂う雷火の1体がばつんっ! と爆ぜるも、俊介の回復が間にあった彼らにとって、手痛い傷になっても致命にはならずにいるのだ。 「これ以上喰らったらこっちの身体がもたねぇからな、このまま早々に決めさせてもらう!」 紫電を振り払いながら猛が両脇を締める。大振り過ぎては相手を逃す。自分の初撃と、つい先ほどの却の一撃がそれを証明している。 ならば 「手数で畳みかけるぜっ! これだけ叩きこまれちゃあ、てめぇも避け辛いだろっ!」 ユーヌの攻撃で足の鈍った火車に、その拳の連撃は酷だった。雷火の爆発の余波で身に纏った雷撃が、殴りつける猛の身にも帰るが、火車の体力が尽きる方が早い。 「今度は――!」 「当てさせてもらうっ!」 連撃でその身を宙に舞わせた火車を狙い撃つのはアガーテと聖。アガーテは先の雷撃で手酷い傷を負ったものの、救護に回った俊介と三郎太のお陰でなんとか立っているような様子だ。聖も倒れこそしなかったものの、傷は深い。 だが、運命に愛された者は強い。仲間の決めるという声に一瞬で引き上げられた2人の集中力は、この雨中に置いてこれ以上ないほどの精密さを持った攻撃に繋がった。 ブーメランのように左右から挟み込むように投擲された聖の刃が、火車の元でがちりと噛み合い十字手裏剣となって切り裂く。その中央を突きぬけて行ったアガーテの弾丸は着弾と共に爆炎の魔力を放出し、周囲の雷火ごと紅蓮の炎に包みこんだ。 聖の手元に『神罰』の文字を携えて手裏剣が戻る。 カキン、と。アガーテは古式銃の銃身を折り、中身のなくなった薬莢を落とした。からん、ころん、と。熱された薬莢は地面に落ちてジュウと音を立てる。 見据えたその目線の先には、雨に濡れる黒猫の身体が横たわっていた。 ●雨上がり エリューションが息絶えると、先ほどまでの雷雨がなんだったのかと思うほど簡単に空は晴れ上がった。そこかしこに水溜りは残っているが、逆にいえばそれ以外に雨の痕跡を残すのはない。 戦闘の痕跡も爆炎で薄く焦げたアスファルトや、軽く抉れた道路程度。流れた血は、皮肉にも火車が呼んでいた雷雨できれいに洗い流されている。周囲を封鎖しているアーク処理班が到着すれば、30分としないうちにいつも通りだろう。 「皆さん、お疲れ様です――」 自分の手傷も気にせず、アガーテは皆にタオルを配り始めている。一緒に配っているのは、まだ温かいペットボトルのお茶だ。あれだけの雨ということで身体を拭くのにアガーテが配った1枚だけで足りるわけもなく、いそいそと聖が取り出したバスタオルもリベリスタたちに笑顔で受け取られた。 「あぁ、早く帰って風呂に入りてぇ」 「その傷でか? ……染みるぞ?」 「それでもやっぱり風呂だろ!」 バスタオルで身体を拭きながら言う却にユーヌが短く忠告するも、どうやら馬耳東風だ。 「却の言う通りだな! 片付いたし、風邪引く前にどっか銭湯でも行こうぜ?」 寒くなってきやがった、という呟きはくしゃみに邪魔されて言いきることが出来ない。バスタオルで肩を覆うようにしながら、猛はいそいそとAFで近場の銭湯を検索し始める。 「――私は、あとで合流しましょう」 ひょい、と聖が黒猫を拾い上げながら言う。 「……埋めにでもいくのか?」 「ええ。私の信じる宗教での方法で、ですが」 フツの問いかけに聖がこくんと頷く。そうか、とだけ返したフツはただ軽く、自分が修行していた寺でしったやり方で手を合わせた。 「っしゃ! 徒歩でここから5分。帰り道から少し外れるけど風呂屋がある。決まりだ、行こうぜ!」 わいのわいのと、やれシャンプーはあるか、タオルはいくらだと騒ぎ始めた仲間を尻目に、聖はそっと抜けだした。 遺骸を弔うには彼一人で十分だろうと、そのあとを追う者は誰もいなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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