● その山では、1羽の鳥が神として崇められていた。 人々を災厄から守る鳥。 祓い、受け止めたその災厄を運び、鳥は天に帰る。 3匹の獣を引き連れ、舞うその巨体は神が如し。 土着由来であるせいだろう、遠く過去から今に至るまで、地元民は毎日欠かさず鳥を祀る。 ――そんな祈りに、世界が応えた。 『……キュイ』 社の近くに聳え立つ神木に止まるのは1羽の鳥。 獅子、虎、狼の3匹の獣は神木の下、鳥を守るかのように横たわっていた。 周囲には、3匹を小型化したような獣の群れ。配下を従えているとでも言わんばかりの手勢は、さながら1つの軍、或いは部隊のように見える。 しかしこの動物達は決して人々を災厄から守る存在ではなく――、むしろ災厄をもたらす存在だ。 双眸の眼は明かりの灯る集落を見渡し、災厄を届けるその時を待つ。 破滅の朝が訪れるまで、時間はそう残ってはいない。 ● 「凶ツ鳥……って呼ばれてるそうだけど、この鳥は凶鳥そのものね」 まぁこれはエリューションだから仕方がないと、桜花 美咲 (nBNE000239)は言う。 今回のミッションは至ってシンプル、そして簡単だ。 現れた4匹のエリューションと、その取り巻きを倒してしまえば良いだけの話なのだから。 が、問題は時間に関係している。 「現れるのは夜なんだけど、朝日が昇り始めれば地元の人が社にやってきてしまうのよね。それまでは時間があるから問題はそうないんだけど……」 朝日が昇れば、地元民は日課だといわんばかりに社にやってくるらしい。 時間的には余裕があるのだが、彼等は社にやってくる前には起床し、動き始める点が問題だと美咲は告げた。 外に出れば神木は必ずと言っていいレベルで彼等の目に留まる。 もしも戦いの情景がその時に見られてしまえば? 結果は自ずと想像はつくだろう、騒ぎになると。最悪の場合は、彼等に向けてエリューションが向かう可能性だってある。 下手をすれば近づいてくる者もいるだろう、そうなれば餌食となる事は確実だ。 「時間との勝負ね、出来るだけ速やかに倒す必要があるわ」 ならば力押しだけで勝てるのか? と問われれば、答は否。 神獣という人の『想念』から生まれただけあって、扱う力はそれに近しいモノであるといえよう。 自分達が大いに力を振るうための結界。 不吉を授ける力、そして敵対者をなぎ払う光。 精鋭とされるリベリスタであっても、甚大な被害は免れない。 「難しいかもしれないけど、皆ならやれるはずよ。だから、頑張って!」 それでも集まったリベリスタなら出来ると信じている。 美咲は確信したような目を向けながら言い、リベリスタ達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月30日(木)22:54 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真逆の存在 災厄を祓う神鳥。 人の想い、祈りを毎日のように受け信仰されるソレを、世界は真逆の存在として具現化した――。 「とんだ詐欺だな。不出来なゴミが群れをなし、我が物顔で歩くとは」 その事実は『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)がいうように確かに詐欺といえる。 「中途半端な伝承の再現ね。守り神として顕現してくれれば助かったのだけれど……向かう先の集落こそ受け止める災厄だ、なんて言うつもりかしら?」 どちらにしろエリューションという形で現れたならば、倒さなければならないが。それでも神秘世界はいつもベクトルがズレているように、『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は感じずにはいられない。 「人を災厄から守る鳥に凶ツ鳥と名付けるセンス。光るものを感じるぜ」 災厄を一身に受けて災厄に塗れる様から『凶ツ鳥』と呼ばれる凶鳥ではあるが、現れるソレは『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が意味合いを素直に取った通りのもの。 本来なら逆の意味合いを持つ存在を、そうせずに顕現させたのは運命の悪戯。 「災厄から守ってくれるはずの存在が、一転して災厄を撒くだけの存在になる。相も変わらず神秘に属する代物は性質が悪い」 つまるところ、神秘世界はそういう性質の悪いものだという『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)の言葉は的を射ていると言えよう。 そんなエリューションの討伐に向かうリベリスタ達が成すべき事は、至極単純。 凶鳥を含め全ての敵を撃破する事に加え、地元民が起きるまでに、という条件が付加されただけのものだ。 集ったリベリスタ達はアークの中でも精鋭ぞろいだが、それでも苦戦は免れない――それほどの強さを持っている点だけが厄介だが。 「単純に戦うだけなら俺もそう不得意じゃないんだが……」 ふと、『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)は呟く。 戦いは時間との勝負であり、あまりゆっくりもしていられない。求められるのは、迅速な撃破である。単純に攻め立てれば良い相手では決してない点が、劫の表情をわずかに曇らせた。 敵の強さを考えれば迅速性と安全性は反比例する。 しかし通用するかはともかく、そのどちらをも追い求めた作戦を彼等は立ててきているのも事実。 (俺は俺の、戦う為の刃を研ぎ澄ませて狩れば良い、か) ならば、自分のやれる事をやれば良い。仲間達に背中を預け、眼前の敵を打ち据える事だけを考え、劫は進む。 戦場は、もうすぐそこに迫っている。 「神木への被害は出さないようになるべく心がけよう。よそ者の俺に理解できずとも、現地の人には大事なものなはずだ」 地元民が毎日欠かさず訪れる神木に凶鳥は止まっているが、可能な限り傷つけまいと考える『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)。 獣の側からも、攻撃すべき対象が近寄ってきている事は察知出来ているのだろう。走るリベリスタ達を取り巻く空気が、緊張感を漂わせていく。 だがその緊張感も、リベリスタ達の感覚を研ぎ澄ますスパイスに過ぎない。 「では狩猟を開始しましょう。アーク猟友会出撃ー」 それは敵を前にして余裕を崩さない『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)の口振りから、そう判断する事が出来る。 『……キュイ。キュ、キュイ!』 軽く翼をはためかせ、攻撃を配下に指示したのだろう凶ツ鳥も、現れた敵の数から優位を感じ取ったのか。 あばたの口振りと同じように、そこから感じられるのは余裕の2文字。神を気取る凶ツ鳥は、ここまで来れるのかとも言いたげだ。 「猛禽類は大好きですけれど……これは唯の鳥モドキ。神として崇めるほどのモノでもない、災厄しかもたらさない偽神ですものね」 普段ならば愛でる対象と見るであろう『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)は、それが鳥としても、神としても贋物だと断じた。 眼前に広がるは、それぞれ6匹の配下を従えた3匹の神僕。 「さて躾の時間だ。野良犬並みの知能でも仕込んでやろう、伏せ程度」 戦端は、凶ツ鳥でも目で追うのがやっとかもしれない程の速度で迫ったユーヌが開く。 無駄のない動きで多くの獣を巻き込む形で玄武を招来する様は、電光石火の早業だ。 「ああ、起き上がらなくてもいいがな。……やはり起きるか」 よしんばその一手で数匹でも倒せればと思う彼女ではあったが、やはりそう簡単にやらせてくれる相手ではない。 ●凶鳥は大地を見、嘲笑う 「相手は所詮エリューション。なら俺のやることは変わらない」 森の中に響き渡るのは、櫻霞の撃ち放つガトリングの炸裂音。 「狩猟というよりは乱獲という雰囲気がありますが」 続けて鳴り響くのは、あばたのマクスウェルとシュレディンガーが複数の獣を撃ち抜いた音だ。 如何に凶ツ鳥の結界が及ぶ戦場とはいえ、攻め立てるリベリスタの火力は確実に獣達に傷を負わせる激しさを持っている。 3匹の神僕はその攻勢の中で配下を鼓舞するように吼え、 『キュイ』 神木の上、凶ツ鳥は唯一攻撃の届かない範囲から戦場を見下ろしたまま。 自分の所まで攻撃が及ぶことはないと考えているのか? それは違う。 「色々とヤバい事が露見する前にさっさと討伐ね、スピード勝負だな」 そう口にした劫が周辺で唸る獣やその先にいる神僕の1つ、狼に取り付くべく進軍する様からは、その刃が最奥に鎮座する凶ツ鳥に向けられる可能性は今の時点でも十分にある。 「悪いな、獅子。お前にとっての災厄は、今のこの時、この俺だ」 仲間達の火線に浮き足立つ獣達の間をかいくぐり獅子へと肉薄する竜一へ、 「来いよ虎野郎、楽しませてみな!」 まるで影から現れたかと思わせるほど静かに、木の中を突き抜けて虎に迫った影継を、凶ツ鳥はゆっくりと見やった。 どこに敵がいるのか、どれほどの数がいるのか――凶ツ鳥はその攻撃本能の赴くまま、ただ敵の状況を見極めていたに過ぎない。 「さて踊ろうか?」 もしもこの時、機動力にもっとも優れたユーヌが、獣達への挑発ではなく凶ツ鳥の抑えに回っていたならば、ここからの過程も多少は変わっていたことだろう。 すべからく数匹の獣に怒りを覚えさせ、 「くるり回って神遊び。捧げる神は居ないがな」 自身にその怒りの矛先を向ける事は、リベリスタ側にとっては作戦通りの巧手だった事には違いない。 ユーヌの機動力は確かに他を圧倒しており、「もう少し上手く踊れないのか?」と怒りに任せた攻撃をかわす事など造作もない事である。 彼我戦力の差に双方の戦闘要員の数に開きがあるならば、まず数を減らしにかかるのは定石といえよう。 ――が、それは凶ツ鳥を抑えなければ双方の消耗はイーブン、或いはリベリスタ側がやや多い状況に陥る危険性は高い。 「最初はしょうがない。問題はその後だな」 虎を相手取る影継の視線が瞬間的に神木の上へと向いた時、音もなく舞う凶ツ鳥。 今回の戦いにおいて、作戦の根幹を組み立てたのは他ならぬ影継だ。頭上を飛ぶ鳥をほぼ放置した場合のリスクも、念頭に置いて作戦を立てている。 それでも1撃目だけは、凶ツ鳥の居場所の問題もあるせいか、どうにもならない事は事実。 『キュ、キュイ!』 神木から移動した先の木に止まり、振りまかれるのは1度目の災厄。 再び凶ツ鳥が別の木へと飛ぶと、2度目の災厄がリベリスタ達に降り注いでいく。 「射線をさえぎっても、動かれたらあまり関係無いわね」 仲間達が可能な限り最低限の動きで身を隠す中、小夜香の眼前でその攻撃は確実に彼等の居場所を焼いた。 どれほどに木々に身を隠そうとも、『そこにいる』と認識した上で攻撃を行う凶ツ鳥の放つ風や羽は、すべからく相手に不幸を届けるモノ。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 しかし凶ツ鳥が見たのは、災厄に喘ぐ彼等の姿ではない。受けた傷に耐える仲間達に癒しを施し、態勢を整えるべく動く小夜香と櫻子の姿だった。 『キュイ?』 凶ツ鳥は不思議そうな顔を浮かべ、首を傾げる。 不吉を、不運を届けたはずだ。表情もそれに伴い、暗い絶望に染まったはずだ。そのはずなのに、彼女達には届いていない。 「まぁ、彷徨かれても迷惑ではあるか」 ユーヌは持ち前の機動力もあるせいか、ほとんど無傷で済んですらいる。 (残念だったな、鳥野郎) ふと目が合った影継は、そう言っているような目で凶ツ鳥を見つめ、 「お前にも後で災厄を届けてやるから、待ってろ!」 一方で竜一は通じるかはともかく、はっきりとその意思を口に出して見せた。 「さて、暫く一緒に踊って貰うぜ、犬っころ。油断も手加減もしない、どっちが先に狩るか……勝負といくか?」 劫が眼前に捉えた狼はフェーズ2の猛者。だが相手が強いほどに彼の感覚は研ぎ澄まされた刃となり、凶ツ鳥に油断ならぬ相手だと認識させている。 なるほど――なるほど。 彼等は神獣の威光に恐れを抱かない、狩人なのだ。 妖しく目を輝かせた凶ツ鳥がその身から放つオーラが、より黒く濁る。 「……牽制はできるか?」 「これを殲滅しない事には、なんとも」 大事な存在である櫻子の盾になるように立つ櫻霞は、その危険性を肌で直感したらしく、あばたに問うた。 が、周囲を取り巻く獣は未だ健在。 リベリスタ達の火力は相当なものではあるが、その火力を遮る神獣ノ結界がある限り威力は削がれてしまう。 「口や目を狙っては見ますけどね」 ならばおよそ弱点だと思しきところを狙うしかないと、あばたの二挺拳銃が獣達の目や口を目掛け飛んだ。 普通の獣ならば、そこは大半が攻撃されたくない場所に違いは無い。 「……通用しない?」 「やっぱり想念で出来た存在だからか?」 が、直撃にも関わらず獣達はひるむ気配を見せなかった。 通用すれば御の字程度に考えていたあばたの呟きに劫が答えたように、彼等は想念から生まれたエリューション。 カテゴリ的にはビーストではなくフォースであり、獣の姿を取るのも想念が関係しているからに過ぎないのだ。 「そう甘くはないか、やっぱ強いな」 それならそれで、正面から叩き潰せばいい。簡単ではないだろうが、手間取るようでは頭上の凶ツ鳥を倒す事は出来ないと、影継は戦斧を構えなおした。 ●災厄をもたらす神獣 「ちっ、中々に素早い」 災厄を届ける。そういったはずの獅子は、やはりフェーズ2だという事か。 さしもの竜一といえども、獅子の機動力に加え神獣ノ結界が展開されている中では、やはり決定打に欠けていた。 「そろそろ終わらせる」 「ですね、もう少しだけ待ってくださいなー」 周囲を取り巻く獣達は櫻霞とあばたが中心となって壊滅に追い込みかけているものの、リベリスタ側がてこずる理由は他にある。 確かに相手の数は確実に減った。 が、凶ツ鳥を自由にさせている点は拙かったといえよう。爆撃とも呼ぶべき樹上からの攻撃は今もなお続き、好き勝手に動き続けている。 風を、羽を刃とし、時折に降り注ぐ激しい神鳥の光は、自身と神僕の届ける不吉や不幸を起点に連鎖する凶悪な攻撃だ。 「攻撃一辺倒の方が良さそうだな」 降り注ぐ不運を弾く戦気を発していた影継にとって、光に戦気を打ち消される事は、戦気を発しない選択に繋がったらしい。 防ぎにかかっても消されるのならば、攻めた方が良い――と考えるのも当然の話だろう。 「さっさと叩き落しておけばよかったか?」 一方でIfの話になるが、飛ぶ事が出来る上に機動力に長けたユーヌが凶ツ鳥を抑え、あわよくば叩き落していたならば? 攻撃の応酬が苛烈になる事には違いないが、それでも凶ツ鳥が現時点でほぼ無傷という状況は避けられていたかもしれない。 「癒しよ、あれ」 凶ツ鳥が自由に動き、攻撃を続ける中、仲間を癒す小夜香の消耗は相当に激しい。そこまで逆に追い込まれる程、凶ツ鳥を放置する事は危険も孕む策。 「援護します、ここは乗り切らないといけませんしね」 「すみません、ありがとうございます」 ここで櫻子が小夜香の魔力の補給に徹し、多少なりとも補給線が維持出来た点は、窮地を乗り越えるという結果をもたらすの要因となっただろう。 だが果たして、乗り越えられるのかどうか? 「剥製にしてやるぜ、虎野郎!」 「傷は深いはずだ、そろそろ倒れろよ!」 乗り越えて見せると、攻め立てる影継と劫の攻撃は苛烈さを増し、 『『グルル……グゥ』』 同時に唸った虎と狼の体が僅かによろめく。 リベリスタ達も苦しいが、それは地上で戦う獣達も同じ。 唯一そうでないのは、凶ツ鳥ただ1匹のみ。 「もう少し、か? お前もまったくタフだな」 獅子の爪牙による攻撃を宝刀露草で捌いた竜一が、もうそろそろ倒れろと言わんばかりに刃を振るう。 これ以上の消耗は避けたいものの、全力で仕掛けなければ眼前の敵は倒れてはくれない。 ――そんな時だ、飛び込んできた式符が獅子を襲い、竜一を援護したのは。 「出来損ないの獣なら、鳥の餌が精々だな」 その符の主、ユーヌの声に辺りの気配を感じてみれば、既に取り巻く獣の姿はなし。 「片付いたみたいだな」 「あぁ、このままこいつ等も叩き潰そうぜ」 地上の戦いが終わる時は近い。好き勝手に動いてくれた凶ツ鳥に攻撃を叩き込む時が来たのだと、影継と劫が刃を握る手に、更なる気迫が篭る。 凶ツ鳥もそれを察知したのだろう。 バサッと翼で風を切る音と共に、上空から舞い降りる様はリベリスタ達の想定の外。 「高みの見物が終わっても、逃げないのか?」 櫻霞をはじめ、大半のリベリスタが凶ツ鳥が逃げる可能性を考えていた中、地上に近づく行為はそれを否定する動きに他ならない。 しかしそれも凶ツ鳥のエリューションとしての運命。 この地、この神木の周辺に存在する土着信仰が生んだ想念のエリューションであるが故に、本能がこの地に居座り続ける事を選んだのだ。 故にここからは、どちらが先に相手を倒すかの殴り合い。 低空を飛行する凶ツ鳥の攻撃に薙ぎ払われながら、果敢に反撃を続けるリベリスタ達。 「余力を残す必要は無ぇ、120%全弾叩き込んでやる!」 神僕との戦いで相当に消耗してしまっていたが、最後の1匹を倒しさえすれば終わりなのだと影継の戦斧が風と共に凶ツ鳥を斬る。 「元々が俺達人間の思念から生まれた以上、多少哀れだとは思うがそれまで。人間なんて元々、自分勝手な生き物だろう?」 こんなエリューションを生み出した原因も人間。倒すのも人間。哀れだという劫がそういう中、 「本来の姿から捻じ曲げた形で生み出す世界も勝手だがな。いうなれば――運が悪い」 神獣であるはずの本来の姿からは程遠い存在として生まれた凶ツ鳥を、皮肉交じりに不運だと断じる櫻霞。 眼前には幾つもの刃に斬られ、その後ろから放たれる銃弾に撃たれ。リベリスタの攻撃は少し、また少しと凶ツ鳥の存在を破壊する強烈な火線となって襲い掛かる。 このまま攻め立てれば勝てるだろうか? 「一点集中、その火力はさっきまでの戦いとは桁違いね」 仲間達の繰り広げる戦いを後方で見守りながら援護する小夜香だったが、実際のところ消耗した彼女に余力はほとんどない。 櫻子に要請すればこの状況に歯止めはかけられるものの、凶ツ鳥の攻撃はそれを許さないだろう。 リベリスタの抱える問題は、その点だ。 「すぐに癒しを……!」 とはいえ吼えた凶ツ鳥が放つ凶を届ける光と裁きをもたらす光は、決して櫻子1人でカバーしきれる威力ではない。何とか立ち上がったあばたが、一度は倒れるほどの――である。 だがそれは凶ツ鳥にとっても最大級の大技であり、集中する火線によって追い込まれているが故の必死の攻撃といえよう。 「なに、こういう災厄を受け止めても、立ち上がらなきゃいけないってのが、俺たちの仕事でね!」 「まだまだお前に倒されてやる訳にはいかない、その首……貰うまではな!」 2度、3度とやりあう間に小夜香の体力もついに無くなり、膝をつきながらも気力を振り絞り立つ竜一と劫の傷は相当に深く、 「お前の残った活力を、少しでも頂くとしようか」 全力を使い果たした櫻霞は最後まで諦めず、凶ツ鳥から力を奪わんと指先を向けた。 どちらが先に倒れても、おかしくはない。 ならば何が勝敗を分けるのか? 「逃がしゃしないぜ! 翼一本、貰ったァ!」 それは気力だ。恋人を思うあまり櫻子が櫻霞の援護を最優先する中、傷だらけの体を押して飛んだ影継の戦斧が凶ツ鳥の翼を裂く。 もう影継も後がないに等しい状態ではあったが、すさまじい気迫に押されたように凶ツ鳥が下がった瞬間は、彼にとっては狙うべくして狙う好機。 「地べたを這いずれ。高みより汚れて落ちろ。泥塗れがお似合いだ」 空を飛ぶはずの鳥はユーヌの上空からの攻撃によって地に堕ち、 「……今です!」 「ええ、もらいましたよー!」 気力を振り絞り立ち続ける小夜香が援護しつつそう声をかける向こうで、あばたの銃弾が戦いに終止符を打つ――。 ●リベリスタの守ったもの 「凶ツ鳥様、おはようございます」 「今日も不運を受け止めてくだされ……」 それからほんの少しの後。 地元民達はリベリスタ達の死力を尽くした戦いがあった事など露知らず、何時ものように神木へと訪れていた。 傷だらけになりながら、倒れそうになりながら。彼等が守ったのは、静かに神を信じる人々の平穏な日常なのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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