●だから常にPLの素が出続ける依頼なんだってば 「ククク、ついに手に入れたぞ! 周囲の人間たちの人格をどこかの誰かと入れ替え日頃ネットでゲームとかしてるいい大人がうっかり謎の超能力戦士の身体に入ってしまったかのような雰囲気になるアーティファクトその名も――」 ビジネススーツに身を包んだおっさんが振り返った。 カッと光る目。 「『米田牢流』!」 ●つまりね、PCがずっとPLの素を出し続ける依頼なんだって。 「どうも皆さん、こんにちは」 お手製のステージへ悠然と歩いて行き、マイク片手にくるっとターンするアイワ ナビ子(nBNE000228)がいた。 何度も鏡で練習したんだろうなってくらいポーズがキマっていた。 そして紅いスーツだった。 何ヶ月もかけて洋服店やネットショップを巡り続けてようやく見つけた派手すぎず高すぎずあざとすぎずそれでいて人目に付き印象にも残りやすい素材とデザインの紅スーツだった。靴も気取りすぎないようにと革製ではあるもののカジュアルなデザインで、全体的に私服なのか礼服なのかはたまたふざけているのかいまいち分からない雰囲気で統一されていた。あとちょっと清潔感のある香水もついていた。 どっかで見たことあるような気がするんだけど会ったことないな。一体誰紅のつもりなんだ。 「どうやら、大変なアーティファクトが見つかってしまったようです」 ナビ子は椅子に腰掛けると、より『目立ちたがりの馬鹿』に見えやすいように幾度となく練習したんじゃないかっていう足の組み方をして、若干身体を傾けつつ語り初めた。 「『米田牢流』。それは周囲の人間の人格だけを超次元的かつ一時的に変容させてしまう恐ろしい道具です」 そして、真面目そうだが身の丈程度に安っぽそうにみえる眼鏡を中指でなおすと、うす笑いを浮かべる。 「能力は……そう。『PLの素が出続ける』というもの……一体『PL』とはどういう意味なのでしょうか。ファントムレイ? 偽りの光? それともサイコラブ? 狂おしき愛? 全く分かりませんが、原稿用紙何百枚にも渡る論文でようやく説明の糸口がつくような複雑怪奇なものに違いありません。一体どのような人格に変容してしまうのか……。しかも個人活動をしていたフィクサードがそれに取り込まれ今や能力をまき散らすだけの機械と化しています。このまは放置すれば、必ずや恐るべき事件に発展してしまうことでしょう」 ナビ子はすっと立ち上がると、特定の集団から代表視された際、その集団にクリーンでホワイトなイメージを持たせるべく訓練された爽やかかつ熱いまなざしと仕草で親指を立てた。 「しかし、人格が変わることがあろうともその目的と技術、そしてなによりあなたの魂が変わることはありません。そう、あなたはあなたのまま……ある意味あなたの素が出ているといっても過言ではないでしょう。ですから、きっと成し遂げることが出来るはず。さあ……!」 ナビ子は大きく腕を広げ、民主派の大統領のごときアピール感の強いポーズで言った。 「愛してるぜみんな、後は……よろしく!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月23日(木)22:08 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●ロールプレイをしないロールプレイングゲームってどういうことなの それってサイコロ転がして駄弁るだけのTRPGってことなの? マンチプレイヤーでもそこまでやらな……あっもう本編始まってる! 「ふーすっきり」 水の流れるジャーっていう音と共にトイレから出てくる『哀憐』六鳥・ゆき(BNE004056)。 「口調口調……あーあー、ゆきっぽく、ですわですわ……はい、中身と外見が違うだなんて、不思議な心地がいたしまひゅ」 「噛んでる噛んでる」 『ハンドリングマスター』杜若・瑠桐恵(BNE004127)が虚空に向かって鞭を振っていた。 「……なにやってるんです?」 「モブリスタをこきつかおうと思って」 「あっ、はい」 居ないんだけどなあ、とは言わないで置くことにした。 とち狂ったのか元からなのか『ルキエちゃんだよ~☆ よっろくぅ♪』とか言い始めたので近づきがたかったのもある。というか旬のネタ過ぎるので触りたくない。権利関係が恐い。 手を拭きながらリビングへ向かう。 と、扉ごしにいーあるFCのミュージックが流れてきた。名前を略して権利関係のトラブルから逃げるの図。 開けてみると、テーブルの上でずんたかリズムを取る『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)の姿があった。 「恒例のシィンいぢめはいります!」 怪盗スキルでフォームをぐにゃぐにゃ変えつつ。 「うーにゃんです」 「ノアノアでーす!」 「ゆきですぅ」 「ベルカッ」 「ルキエッ」 「すぃいいいいいいいいんあばばばばばばばぶわぁうぃいいいいいいいいいるるるるるるるるあばばばばば」 足を内股にし小刻みに左右に揺れながら利き腕の肘を顎につけようとしつつ口を半開きにしてうわごとを言い続ける偽シィンの図がそこにあった。 「なんだろうなあこの執拗なディスりっぷり。ジョンとポールですらここまでディスってねーぞ」 堅揚げポテチの袋をパーティ開きにしつつ、床に寝そべってぽりぽりやる『桃源郷』シィン・アーパーウィル(BNE004479)。 と思ったら地面から三センチくらい浮いていた。 「なんで浮いてんの」 「床暖房熱いし」 「くっそ! ブルジョアを持て余しやがってくっそくっそ!」 クッションを胸に抱えた『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が床の上をごろごろ転がった。 途中で『ピンクの害獣』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)の足に当たった。 「あ、ごめ――」 「チッ」 見下し目線で舌打ちをされた。 夏栖斗は涙目でシィンの所へ帰った。芋虫式移動法で。 本棚の探索に戻るうーにゃん。 「おーい夏栖斗の中の人泣いちゃったじゃん。ていうか何やってんの」 「本棚漁ってる。トラブルダークネスがあったから南国アイスホッケー部とカバー交換してる」 「鬼の所行だそれ!」 「奥の方にぬーべーあったから裸体シーンだけ黒塗りしといた」 「鬼畜の所行だそれ!」 「さーてDVDケースの中にはなにがあるかなっと。大帝国くらいあるかなー……あ、ドラゴンズレアだ、カセットかよ割っとこう。あ、夜勤病棟みっけ」 「戻してあげて、戻して置いてあげて! 折角隠してるんだからやめてあげて!」 「いいじゃないの隠す場所があるくらい」 あぐらをかいて顎肘つく『まごころ宅急便』安西 郷(BNE002360)。 その場に置いてあったコーラのリッターボトルからコップに注ぎ入れると、ちびちびと飲み始めた。 「うちなんかさ、アパートだからさ、風呂にはシャワーついてないし、バランス釜だし」 「バランス釜って?」 「ググれ。寂しい心になれるから、ググれ」 「あーなんか分かるかも。冬場の寒さがなんか心に来るよね。床暖房なんてもってのほかだから、仕事するときは毛布必須だよね」 「だよねー今も私膝に褞袍かぶせてホッカイロ常備で執筆してるし。室内で使い捨てカイロ常備ってお前。そりゃコンビニでアルバイトするより収入低いもんこうなるよお前」 「誰あんた」 「なーそんなことよりさー」 なんか妙なポーズをとった『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)が只管に乳を強調してきた。 こう、足を肩幅に開き乳を下から持ち上げる感じのポーズである。勿論目はカッ開いていた。 「すげえぞこれ、胸部に重力を感じる。やっぱり人は引力に引かれてるんだ! な! 神秘だよ、な!」 「あー、女に変身したら最初にやることランキングにあるやつね。揉んだの?」 「ばっばか……初めては、好きな人って決めてんだ……」 「きめえ」 「きめえゆうなハゲ」 「ハゲてねえしDT」 「DTゆうなファッションDT」 「なにそれシャレオツ!」 「お前な、分かるか? おっぱいだぞ? 人類として生まれた時、空気の次に求めるものだぞ? 場合によっては神格化されてもおかしくない部位なんだぞ?」 「えー、そんなもんかねぇ」 シィンが自分の胸をもみしだきながらぼやいた。 「肉じゃん」 「てめえ許さねえ!」 ノアノアとシィンが取っ組み合ってるなか、『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)がすごく普通にお茶すすっていた。 「あー、今日は俺語りをし続ける会ってことでいいんですよね」 「間違ってはいない」 「まず主張したいのは泣きぼくろですね。千年女優みたいな」 「リツコさんみたいな?」 「寧々さんみたいな」 「アシンメトリーなのがいいんですかね、フィンファンネルみたいな」 「人の顔フィンファンネルで例えた人初めて見たわ」 キャンディ包装されたアルファベットチョコレートを口の中でころころするベルカ。 「あ、あと長身の豊満体系は萌えますね。くそ重たい武器振り回すんだし骨太なおなごじゃないとなって」 「あー、分かる分かる。欧米じゃそういうひとが多いから、アクションゲームの女主人公はもれなく屈強になっていくみたいよ」 「腹筋系女子ってやつね。進撃のなんちゃらで日本にも到来した感じするけど」 「確かに、日本では余り見かけないジャンルかもしれませんわねえ。昔のドラクエでいう女戦士ですよね、つまり」 ゆきがわさビーフをパーティー開けしながら言った。 それをちょいちょいつまむ一同。 さて次の語りに入ろうといった所で、後ろにいたうーにゃんがでかい舌打ちをした。 「チィッ……」 「なんなの! お腹痛いの!?」 「ついでに肩もな。クソが」 天井裏をべりべり剥がしつつ毒気尽くうーにゃん。 「あ、天井のうえにはあおいそら」 「やめてあげて!」 「いいじゃん、どうせ最後は家に火つけるんだろ。液晶テレビとか車に積んで持ち帰るんだろ」 「スラム街かよ……」 「まあいいじゃん、おっぱいの話しようぜ! な!」 ノアノアが『1っぱい、2っぱい、3ぱい!』とか言いながらひたすら腕立て伏せしていた。 ちなみにこれは乳の先端部分だけを床につけては離しを繰り返すトレーニングで乳立て伏せと呼ばれている。はい今キミ知る必要の無い知識が増えたよー。 「……ところでカズト」 「え、なに」 「自分のちん(ピー)見るのやめろよ」 「みてねーよ!」 「どうせジャミラ星人なんだろ」 「どうせってなんだよ! 見たことあんのかよ!」 「うるせえファッションDT! そのうち気が向いたらバルタン星人になるんだろ!?」 「そのうちってなんだよ! ていうか気に入ってんのその表現!?」 「何ですみなさん、PL会話って下ネタって意味だったんですか? ここがBNE(どういう意味の略語だろう)じゃなかったら即刻バッシング食らってますよ」 トイレから戻ってきた瑠桐恵が手をふきふき床に付いた。 「で、乳の話でしたっけ。大きいのがいいですね。いいですね……」 「やめて、しみじみ言うのやめて」 「しかし小さい人は見てるだけでも楽しめますね」 「どっちなの……」 「わかります。貧乳こそ……いいえ、賓乳こそ至高」 カラムーチョをごっそりまとめ食いしつつしんみり語るゆき。 「特にコンプレックスを感じて恥じらう様子は秀逸で、個人的には気の強い高飛車な少女が胸の薄さを指摘されて気弱になる一瞬が本当に可愛らしいと――」 「ゆきさんストップストップ。キャラの壊れ方がハンパないから。ほら、夏栖斗を見習って!」 「僕巨乳大好き!」 「な! いつもと変わんないだろ!」 「でも魔乳はいやかな! EからGが理想かな! 特にアシュレイちゃんのだらしないおっぱいとか直球だよね、あとなに、アンダーテイカーさんとか褐色だし銀髪だし超好みなの」 「な、いつもと……」 「おいカズトちん(ピー)いじるなよ」 「いじってないよ!」 「しょうがないですね。ちょっとお風呂場にアーティファクトないか探してくるんで」 「いてらー」 夏栖斗たちに見送られ、瑠桐恵はお風呂場を訪れた。 郷が斜め下に溜めてた。 「…………」 「…………」 「Pardon?」 「あっ、これは違うの、豪華なお風呂だったからむしゃくしゃして、壊したくなっちゃったの! ちゃんと後で火放つから、液晶テレビ車に積んで逃げるから!」 「だからスラムか!」 そこからは郷がはっちゃけちゃって『あー! 出る、出るぞー!』とか言いながらソニックなんちゃらを風呂場で思う存分放ちまくってたので、瑠桐恵は黙って部屋に戻った。 すると。 「犬ビスハといえば涎。涎と言えばパブロフの犬。パブロフといえばスターリングラードと発展して爆誕したのがベルカさんの設定なんですよ。いいですかヤコブ・パブロフなる大戦の英雄がいた。終戦後研究機関を立ち上げ祖国のために秘密裏の戦いを始めたのだった。しかし時代の歩みはとまらず世界は変わり、祖国もまた変わった。英雄の心は渇き、戦火を持ち帰るだけの軍用犬を鍋で煮ることを考えるようになった。犬は極東へ走る。遠くへ飛んだあの栄光を、口に咥えて帰るべく……そして12番目の犬だけを残し、姉妹たちは倒れたのだった。第一部・完!」 ベルカが一生懸命紙芝居を疲労していた。 気になる人はプレイング読もう。もしくは本人に聞こう。 そんなんを見つつ、部屋で暫くポリンキーをぽりぽりしてたら賢者みたいな顔した郷が戻ってきて、スッと床に座った。 「ふう……別にこんなことしてもこの家が手に入るわけじゃないんだ。帰ってコンビニ弁当食べる日々に戻るだけなんだよな」 「向こうの部屋でナニやってきたの?」 するとトイレから戻ってきたキンバレイが賢者みたいな顔して座った。 「シィンいじって現実逃避するのもいいんですけどね。もう今の経歴からして人生積んでるっていうか、どうにもならなかったら楽に死ぬ方法探さないといけないんですよね。今のうちに練炭と七輪とガムテープだけは確保した方がいいんですかね」 「やめて、なんかリアルだから」 「おい違法ロリ、しぃんのコラ画像でつくったエロゲ売れたんだって? 肖像権行使しないでやるから二割回せよ」 「あ、いつもお世話になってます」 「なにその態度キモ!」 キッチンから戻ってきた瑠桐恵が変な物体を手に持ってきた。 「あのーすいみませんー、アーティファクトあったんですけどー」 「あ、じゃあ壊す方向で」 「いいのかな……?」 乳立て伏せをしていたノアノアが賢者みたいな顔して起き上がった。 「毎日あくせく働いて、わずかばかりの金を貰って、そんな毎日が続くだけじゃないのか? ずっとこのままの方が幸せなんじゃないか?」 「いえ、待ってください」 それまで存在が軽く消えていたフィクサードが部屋に入ってきた。 「この世界は楽しい。幸せだし、色んな欲望が叶えられる。現実ではまず不可能なことが、ここではできる。それは確かに素晴らしいことです。ですが……だからこそ、僕らは現実を生きていけるんじゃないですか」 「知らん人……おまえ……」 「現実が苦しくても、幻想が幸せなら生きていける。そうやって生きて、未来へ繋いで、社会を回していける。社会が回ることで幻想が続き、幸せでいられる。そんな大きな歯車を、僕らは一緒になって回しているんじゃないですか」 「そうだな、知らない人の言うとおりだ」 「帰ろう、待っている人が居る」 「親とかな」 「仕事とかね」 「特に現実がね」 「じゃあ、そういうことで」 彼らは頷き合い、アーティファクトを破壊した。 あとフィクサードは瞬殺した。 あと家には火を放った。 液晶テレビを車に積んだ。 発掘したとらぶるDは郷が回収した。 中身が南ホだと知って泣きながら川に捨てた。 こうして彼らは『彼らの現実』に帰った。 少しばかりの悲しみと、わずかばかりの哀愁を残して。 また、明日が来る。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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