● その日、アークは比較的平穏だった。 新人を多く含むチームへの依頼は案件が急を要さない事もあり、基本的事項の確認等から始まり、昼の休憩を挟み午後から慣れた者を交えての実際の依頼説明を行う――予定だったのだが。 「あれ? 三芳さんと大崎さんはまだ戻ってきてませんか?」 ブリーフィングルームに集まった面々を見て、『スピーカー内臓』断頭台・ギロチン(nBNE000215)は首を傾げた。二人ともアークで活動するリベリスタとしては年少に数えられるだろう。 けれど活発そうな少年達であったし、午前中は依頼にも意欲的であったのを考えると放棄したとも考えにくい。昼時であったし五分くらいは、と待っても帰ってこない。 おかしい、と他のメンバーが顔を見合わせた所で、幻想纏いが通信を告げた。 『もしもし? ねえこれ通じてるの?』 先程この使い方を教えたばかりの少年の声だ。 「はいはい、通じてますよー。どうしました、その辺にいる職員か誰かに部屋番号を言えば教えて貰え――」 『違うよ!』 さては慣れない本部内、迷ったかと冗談のようにギロチンが言えば、憤慨したような別の少年の声が返った。すいません、と笑いながら返そうとした言葉が、少し和んだ室内が、次の台詞で止まる。 『ギロチンにーちゃん、このお化けってそんなに強くないんでしょ?』 「え?」 『おれたちだけで倒してやるからさー、待ってろよ!』 「……はい?」 こめかみを押さえて、瞑目。目を開いて机を窺えば、午後の説明の為に準備していた資料と地図がない。 『あ、そろそろ電車来る! じゃあまたね!』 一方的に打ち切られた通信に、お喋りフォーチュナの部屋には珍しくやや長い沈黙が落ち――。 「……えー、たった今この依頼の緊急度が跳ね上がりましたので、ちょっと人を調達してきます。皆さんは暫しそのままでお待ち下さい」 ● 「はい、つまりそういう事です。すいませんが急ぎでちょっとお願いします、皆さんのお口の恋人断頭台ギロチンです」 時間があいている、といったばかりにギロチンに部屋の中に引きずり込まれた者も含め、改めて始まる依頼の説明。 不法に打ち捨てられた廃棄物に堆積した人の想いが形を為したE・フォースと、それに近付いた為に革醒した野犬のE・ビースト。人里離れた場所であり、フェーズもそこまで高くない事から緊急度は低いとされていたが――当然、戦闘経験のない少年二人に倒せる相手ではない。 「あくまでベテランや慣れた人を含めた八人で挑んだ場合として、突出した能力もない相手だから必要以上に恐れる必要はない、という意味合いで説明していたんですが、通じていなかったようですすみません」 エリューション退治に加わった、少年二人の保護。 時計を確認するフォーチュナによると、時刻的に彼らが乗ったのは各駅停車の電車だ。 意図せず後発になったメンバーは車を飛ばすのでほぼ同じ頃合に着けるだろう、という。 「彼らもリベリスタですし、これから依頼に出る覚悟もあるみたいです。なので、おんぶに抱っこで守れとは言いません。ただ、勇気と無謀な特攻は違うというのを理解するのが死に際では活用もできませんので、まあ、死なない程度に」 それでは、宜しくお願いします。 資料を渡しながら、ギロチンは小さく頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月27日(月)23:11 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 三高平市に本部を持つアークが抱える人員は様々だ。 そこには数多の思惑があり、信念があり、過去があり、その上でひとつの組織を形成している。 年齢も事情も様々な人員が集まれば――ごく稀にではあるが、内部でもイレギュラーは発生するの。 「いきなり呼ばれて何かと思ったら……」 車から降りてすぐ、『星辰セレマ』エレオノーラ・カムィシンスキー(BNE002203)は頭に入れた目的地の地図に沿って走り出した。翼も使い小さな段差を飛び越えながら、いいところに来てくれました、と廊下で自分の服を掴んだフォーチュナを思い返す。 普段のお喋りの相手にしてはやや強引な引き込みに話を聞いてみればこれだ。恙無く終わったならば、あのお喋りに何か奢って貰わねばなるまい。 「先走って現場に行ってしまったとは……血気盛んなのは良い事なんでしょうが、周囲に無用な心配をかけるのは頂けませんのう」 のんびりとした調子は崩さずに、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)もほいほいと木々の合間を抜けていた。依頼の説明の最中に抜け出した子供達は、無謀にも自分達の力だけで敵を倒そうと意気込んでいる。確かにその心だけは買ってもいいかも知れないが、一歩間違えば死が待っている事を知っているリベリスタとしては微笑ましく見送る訳にもいかない。 「俺も新参者であれば大口は叩けないが、子供を見守るのも大人の役目だな」 カソックを纏った『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)は、外見で言えばこの中では一番の『大人』だ。革醒者の実年齢は必ずしも外見とつり合う訳ではなく、年を経て幼い者もその逆も存在するが、向かった二人はどう聞いてもまだ子供。そこに組織に入っての年数などは関係ない、彼は大人として出来うる限りのサポートで、彼ら二人を導くつもりである。 「ま、問題のあるガキにはちょっと躾が必要かしら?」 ふうっと艶やかな息を吐いて、唇には笑みを刷き、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は先を見た。常日頃気にかけるのが少年(であり少女)であるせいかショタコンとか言われても否定しない杏ではあるが、そこには好みがある。気が強かったり生意気だったりするのは好きじゃない。可愛い系だ。ともかく可愛い系。可愛いは世界を救う、間違いない。 愛しの彼(彼女)を思い浮かべて頬を緩めた杏の後に続きながら、『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)は引きずり込まれた時からずっと手にしたままだった餌を鞄にしまった。 『卓哉君と行慈君? あ~知ってる知ってる!』 そう言ったが為に部屋に加えられた陽菜は、可愛い野良猫達に会いに行く途中だったのに。卓哉と行慈も、その途中で遊んだ事がある。だがまあ、それはそれとして陽菜は今日は猫に会いに行く予定だったのだ。仕事を増やして猫との時間を削った二人は許しがたい。 とはいえ、任務は任務。 「帰ったら二人には一緒に三高平中の野良猫たちへの餌やり手伝って貰わなきゃね」 だからこそ、無事に連れ帰らねば。感情の行き場を作った陽菜はよしっと拳を握りスピードアップ。 そんなベテラン勢の最後尾に付くのは、『致死性シンデレラ』更科・鎖々女(BNE004865)。 「あはぁ、二人に追いつくまで全力疾走ですね~」 彼女は『本来この任務に向かうはずだった』新人の一人。本来の仕事をしているはずなのにこのアウェイ感はなんだ。ぼっちか。自分以外全員ベテランとか逆に凄く緊張するわ。 彼らの背中は見えない。いいだろう、それなら追いつくまで鬼ごっこと行こうじゃないか。 取り残されたか弱い乙女の心は着いたら告げてやろう。子供だってなんだって、女子を置いていくなんて男として一人前じゃないじゃないか。 駆けて行くリベリスタの歩みに迷いはなく、たった二人の若葉マークに追いつかぬ道理はない。 熱源が複数、と告げたエレオノーラの声のすぐ後に、複数の異形と――小さな背中が、見えた。 ● それは影にも思える姿をしていた。 それは犬とも狼ともつかない姿をしていた。 本来ならばいるはずのない、神秘によって形成された存在。 世界を歪める存在に対抗できるのが革醒者とは言え――無敵ではないのは、一度でも戦った事のある者ならば、誰でも知っている。 少年二人は、それをまだ知らなかった。 辛うじて、まだ敵の第一陣が終わってない頃合。リベリスタが辿り着いたのは、そんな瞬間だった。 唸る野犬が、行慈に狙いを定めたそこになだれ込んだのは、黒い奔流。 鳴り響く『人の奏でた音』に驚いたように振り向いた二人に、杏はうっすらと笑う。 「ま、言う事は他にもあるけど……とりあえずアンタ達に格上との戦闘の心得を教えてあげるわ」 Falcon Feather Vを肩に掛け、右手にピックを握る年上の女性に目を瞬かせる少年らに、杏は良く通るはっきりした声で、自信満々に告げた。 「フェイト復活よ。とりあえず書いておきなさい」 「書い……?」 「心の中に書いておきなさい」 次元を超越した何かに訝しがる少年に繰り返す。良いから。若干メタいけどいいから。大事。 「いやでも心の中でどうにかなるもんでも」 「えぇから書けぇ言うとるんじゃワレェ!」 口答えは厳禁です。何か背中に翼がばちばち見えた気がする杏の姿にひっとなったのはさて置き、エレオノーラがその横を駆けた。 自分より小柄な少女――に見える姿が圧倒的な速度で以って傍を駆け抜けて行くのを呆気に取られたように見詰める卓哉に、彼はくすりと小さな笑みを送る。 「元気がよくて結構。でもフォーチュナの話はちゃんと聞きましょうね」 手がほんの一瞬だけブレたように思えた。次の瞬きの間には、ダイヤモンドダストにも似た煌く霧がエレオノーラの周囲を覆い、黒の塵で構成されたチリアクタを散らすように吹き荒れる。 黒の塵が端から凍っていく。それを確認しながら、エレオノーラの邪魔にならないように彼のやや後方に陣取った仁は、己の残像を生み出しながら黒猫の爪で引っ掻くように無数の斬撃を蠢くチリアクタへと叩き込んだ。 ついでにちらりと二人へ視線を送る。怪我はあるが、致命傷ではない。立て直しは十分効くだろう。それでも血は、地へと滴っている。 「さて、卓哉君に行慈君。実戦の辛さが、多少は理解できましたかな?」 ちゃっ、と魔力銃を構えた九十九が背後から静かに問うた。とても気軽に出掛けていった様子ではあるが、実戦はそんなに簡単なものではない。ゲームのレベル上げのようにちょっと行ってくる、ではすまないのがリベリスタの世界だ。 傷も痛みも日常茶飯事、戦闘中は泣き言を言っている暇もないし、敵も待ってはくれやしない。 傷を受けて、多少はその認識も変わっただろう。少しだけ眉を寄せた少年二人に頷いて、九十九はその銃を指先でくるりと回し前に出た。 「ならば犬は私が引き付けますので、その隙を突いてください。怒って私を攻撃してる犬が狙い目ですぞ」 「え?」 「さて、犬さんこちらですぞ。私達の大切な仲間をこれ以上傷つけさせはしませんからな」 指先で手招くその声は、魔力を帯びて言葉を理解し得ない野犬の耳を打つ。 ぐるるるる、とまるで誘われたかのように喉を鳴らし九十九を威嚇する野犬に瞬いた行慈の背後で陽菜がその身に加護を宿した。昼間の今は見えずとも、天上に常に座す月の女神の慈悲を得て、サジタリアスブレードが淡く輝く。 「君たちは勿論連れ帰るけど、リベリスタとして戦う以上はチームプレイっていうのを理解しないと危ないしね」 「俺達がチームを組んでいる意味を、その身できちんと覚えろ」 「意味……?」 軽く目線を向けて頷く仁が続けた言葉に首を傾げる行慈だったが、その前に現れた鎖々女の姿に数歩下がった。何か今までとは別の気迫を感じたのだろう。 「寂しかったですよ、行慈くん……」 「え?」 「何で抜け駆けに誘ってくれなかったんですか、ショックですよ。この上で更に拒むっていうなら泣きますよ? 悪い噂流しますよ?」 「え、ええ!?」 彼らにしてみれば、同じ新人とはいえ年上の女性を引っ張っていくのは気が引けたのか、それともお姉さんという立場から止められると思ったのか――まあそのどちらか定かではないが、鎖々女を誘わなかったのに特に悪意はなかったし気にするとも思っていなかったに違いない。 だから指を噛みそうな勢いで見上げて恨み言を呟く彼女に何を言えるでもなく口をぱくぱくさせる行慈だったが……『その気配』に先に気付いたのは鎖々女だった。 跳躍する野犬。広げられた顎。九十九の声から逃れた一匹が仕掛けた攻撃の前に身を晒した鎖々女は、その牙で鎖骨近くを抉られて小さく声を漏らす。 「さ、ささねーちゃん!」 「……ささめ、です」 力量として、鎖々女は彼ら二人と然程変わる訳ではなかった。直撃すれば相当痛いし、血も溢れる。けれど、自らの代わりに傷ついた鎖々女に動揺した様子を見せた行慈に微かに笑った。 「ほら、無茶したらこんな風に仲間に怪我させちゃいますよ?」 だから、ね、前は任せて後ろに行きましょう? 口を閉じてこくりと頷いた行慈に、幾人かのリベリスタは小さく笑みを浮かべ――その色を消して、目の前の敵へと意識を向けた。 ● 黒の塵が、空気を汚す。木々に囲まれ清涼なはずの空気が、排気ガスにも似た匂いで満たされる。 とは言えその塵は速度に優れたものに効果を及ぼすには遅く、回避に優れたものを惑わすには到らず……主に被害を受けたのは新人勢であった。 「う、うわ、うわあ!?」 塵に惑わされたのだろう。慌てたようにレイピアを振り回す卓哉の刃先が向かったのは、チリアクタでも野犬でもなく仁である。だが、その刃先を自らの刃で止めた彼は、諭すように静かに語りかけた。 「塵には気をつけろ。意志を強く持って前を見ろ。惑わされるな」 「……あ! う、うん……!」 瞬いたその目が正気を戻したのに頷いた彼は、卓哉の頭を軽く撫でる。 「折角盾もある、攻撃ばかりに気を向けず、守る時もそれを意識しろ。口出しに文句もあろうが、あとで幾らでも聞いてやるから今は素直に言う通りにしてみるといい」 微妙な顔をした卓哉にそう告げて、仁は前に向き直った。手の中のナイフは、段々と以前の勘を思い出してきているようにも思える。口にする言葉は、己への確認でもあった。 ぱたぱた、ぱたぱた、血が地面に落ちる音。 「さてと、何でチームワークが大事かって話よね? 例えばほら――貴方達が身勝手な行動をしたせいで、仲間が傷を負ってるわ。こういう時に、回復の力を持った人に助けて欲しい場合は何て言えばいいのか分かる?」 「何を……?」 杏と鎖々女の間を行き来する視線。アークのリベリスタは、単に効率だけを求めて組むのではないのだ。信条も何も違う相手と共に戦場に立ち、命を預けるからこそ、そこには気遣いがなければいけない。お前の役割だから、と丸投げしていいものではないのだ。 「はい、『御免なさい僕が悪かったです、回復をしてください杏お姉さん』よ。ちゃんとお願いできる?」 「え、あ……」 「行慈くんの攻撃って複数攻撃できてうらやまですけど、自分も痛いですよね。回復なければ自滅しちゃいます。でも杏お姉さんが回復してくれたらいっぱい耐えられますよね~?」 血を流しながら、鎖々女が続ける。二人の年上女性の視線を受けながら、尤もな言葉を聴いて尚意地を張れる少年がどれほどいるものか。ぱたたっ、ともう一度鎖々女から血が滴った時、行慈は杏の方をむいて声を上げた。 「あ、杏お姉さん、ごめんなさい僕が悪かったです、回復してください……!」 「んんっ、素直な子は好きよ?」 敵を倒したら、いいことしてあげる。そう付け足した杏が奏でるのは、天上の調べ。強大な癒しの力を持った歌が、あっという間に鎖々女の、前に立つ仲間の傷を埋めていく。 「そうね、味方同士で何が出来るか把握して、どうカバーし合えば効率がいいか考えるのも大事よ」 エレオノーラの冷たい刃が、一瞬だけ氷の像と化したチリアクタの一体を砕いた。杏が攻撃だけではなく癒しにもその力を使える事を皆が知っていたように、事前の把握も大切だ。アークが他の組織から一歩も二歩も優れているのは、万華鏡を主体とした予知の正確性。 情報を制するものは世界を制す、ではないが――得たものを最大限に使う事が、成功への近道な事には違いない。間違っても、ロクに話も聞かず突っ込むなんて事はあってはならないのだ。 そんな事をすれば、いつか遠くない未来にどうなるかなんて見えている。 「ね、卓哉君。ナイトメア・ダウン……って言っても君たちは分からないかな」 前で敵に向かう少年に、陽菜がチリアクタに弾丸を撃ち込みながら語りかけた。 思い出すのはあの悪夢。多くの人が多くを失ったあの日。 「アレでアタシもお爺様を亡くしてね。強くなりたいって気持ちは分かるよ。でも、それで無茶して卓哉君まで死んじゃったら、残されたパパは可哀想じゃない?」 「…………」 置いていかれる側になったからこそ、分かるはずだ。悲しみを。苦しさを。 無謀に突っ込めば、彼らが周囲の人間に味わわせるのはその喪失感だ。 「無闇に叩くばかりが力ではありませんしな。火力が低くとも、急所に当て続ければ敵は死ぬものです。舐めず侮らず、しっかり見ましょう」 野犬の牙を背を仰け反らせてかわしながら、九十九が向けるのは銃口。一発放たれたはずのそれが、瞬きよりも早く弾けて無数の弾丸となり一斉に野犬を穿った。数をばらまく弾丸は、狙い撃ちより精度は落ちるものの――元の精度が尋常ではない九十九に掛かれば、多くは芯を捕らえている。 数体を纏めて地に伏せたその弾丸に瞬いた行慈に、鎖々女はそっと語りかけた。 「ねえ、行慈くん。彼らはなんだと思います?」 「何、って……お化け?」 「人の為に作られ、役目を全うしても不要になれば厄介者扱い。犬達も好んで野生化したわけではないですよね」 目の前に存在するのは、神秘の異形。人の手を渡り人の思いを受け、その思いが革醒してしまったE・フォース。それに誘われて革醒してしまった、恐らくは人の手によって離されたE・ビースト。 そこにはそれまでの積み重ねがある。単に『お化け』として片付けるには重い、彼らの生が。 かわいそうに。鎖々女の声が、静かに響く。 「思うのです。成れの果てと対峙する機会を得た我々が、彼らを軽んじてはいけないと」 敵はお化けと、倒すべきモンスターと、意気揚々と出掛ける無邪気な少年らと鎖々女が違うとしたならば、奪う事への自覚。 もし少年らが、敵が『お化け』だと認識したままこれからリベリスタとして動けば遠からず、その絶望を知るだろう。リベリスタはヒーローであるだけではない。奪わねばならない事もあるのだから。その命を塵芥の如く切捨てなければならない事も存在する。 生き残っている野犬は、呻いていた。体を頭を傷つけられ、血を流しながら、リベリスタを睨んでいる。 ぎゅっと唇を噛んだ彼に、鎖々女は一つ頷く。 仁が卓哉の背を軽く押した。 小さな刃が、残像を伴い野犬を切り裂き、黒の光がその頭を貫いて――どう、と倒れた後は、もう、何も動かなかった。 ● 「さて、と」 神妙にする二人の前に進み出た九十九が拳を黒と茶の頭に、連続して拳を叩き下ろす。 子供好きな怪人が、任務以外で手を上げる事は珍しいと彼らは知らないだろうが……反抗の様子が見られない事からして、悪い事をしたというのは実感で理解したらしい。 「人に心配をかけた罰です。一人前になることと、一人ぼっちになることは違うんですからな?」 「ええ。ひとりで出来る事なんて、たかが知れてるわ」 エレオノーラが目線を合わせて、二人に語り掛ける。強くなりたい、一人前になりたい、向上心を抱く事はとても大事だ。けれど自らを知らずただ闇雲に力を求めたって、その多くは空回りになるに違いない。 「だからこそ、俺らはチームを組むんだ。一人ではできない事を成す為に、な」 軽く首を回した仁が、何でもない事のように言う。一人が無理なら二人。二人が無理ならもっと多く。数だけではどうにもならない事もあるが、だからこそ連携は大切なのだと。 はい、ごめんなさい、と小さいながらも謝る声に、成り行きを見ていた杏がふふっと笑う。 「よし、それじゃあイイことしたげるわ。アタシ好みのきゃわわな洋服を買ってあげるわねっ」 「……へ?」 「ほらほら、杏お姉さんの言う事は聞いておくものよ?」 「え、きゃわわって何、え」 目を白黒させて行慈が助けを求めるように視線を向けた先は――陽菜に確保された卓哉である。 「あ、待ってよその前に二人には野良猫への餌やり手伝って貰わないと!」 「えええ何それひなねーちゃん聞いてない」 「あとでお菓子奢ってあげるから手伝うの!」 「ひなねーちゃん猫一緒だと長いからやだー!」 「ダーメ、アタシの癒しタイムを邪魔した罪は重いんだから!」 「あ、待ってくださいよぅ。また一人はやですって。置いていかないでください」 途端に賑やかになった声音に、エレオノーラと仁、九十九は軽く顔を見合わせて――。 「……報告はあたし達がするようかしら」 「その様だな」 「やれやれ、忙しい午後ですのぅ」 微かに笑い、息を吐くのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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