●幸福の在処 真理子はその日、沈んでいた。 パート先でミスをして、得意先から苦情を受けたのだ。 自分がミスをした事は確かだったから、上司の叱りの言葉にも大人しく頭を垂れるしか無かった。 仕方ない。 次からはこんなミスはしない。 前向きに考えても、心は晴れない。 そんな時だった。 帰り道の公園の砂場に、光っているものが落ちているのに気付いたのは。 もしガラスの破片などであれば、子供が怪我してしまう。 そう思って近付いたが、落ちていたのは淡い青色の石がついたペンダント。 子供のおもちゃにしては重く、プラスチックではないようだ。 落し物だろう、警察に届けなくては。 目線を落とせば、掌にあるのは雑誌で見た南国の海にも似た、澄んだ青。 海は、久しく見ていない。 まるでそれは、嫌な気分まで全部吸い取ってくれるようだった。 明日に届けよう、とひとまず結論付け、バッグの中にペンダントを落とす。 そして真理子は首を傾げた。 ――あれ、私、さっき何考えてたんだっけ。 思い出せないのならば大した事はあるまい。 夫はまだ帰っていないだろうが、子供はお腹を空かせているだろう。 早く帰らなければ。 次の日。 真理子はパート先から姿を消した。 前日に受けた苦情の後処理について尋ねられ、きょとんとした顔をして怒られた後、休憩時間を過ぎても戻ってこなかった。 いや、戻れなかった。 彼女は仕事のことなんて、綺麗さっぱり忘れていたから。 ぜんぶぜんぶ。 いつになく楽しい気分で、新鮮な気持ちで町を歩くのが楽しかった。 何か大切な事を忘れている気がしたけれど、何か思い出せなかった。 家に帰らなくちゃ、と考えたのは一瞬だった。 夫は仕事が忙しく、会話もままならない。 子供はうるさい年頃になってしまい、怒らなければ言う事も聞かない。 ぜんぶぜんぶ、いやなこと。 だからわすれてしまった。 気付けば夜の公園で、ジャングルジムの上に座って空を眺めていた。 明かりの絶える事のない街中では、星は少ししか見えなかったけれど、それでも久しぶりにゆっくり見上げる夜空だった。 綺麗だった。 帰るべき場所も忘れた彼女は、綻びかけた桜の中、ただ少女のように足を揺らしながら星を眺め続けていた。 ●忘却の彼方 「アーティファクトの回収か破壊をお願い」 『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はモニターを見詰めながらそう告げた。 振り向いたその顔は、いつもの通り。 「『忘却の海』は、嫌な記憶を消し去ってくれる」 イヴの言葉が間違っていないと証明するかの様に、映るのは幸せそうな顔をした女性だ。 年頃は四十代に差し掛かる頃だろうか。 とりたてて特徴のない、ごく普通の女性。 「彼女の名前は、喜多見真理子。一般人。旦那さんと、小学五年生になる息子がいる。 ――彼女が帰ってこなくて、探してる」 帰らないとは、と尋ねたリベリスタに、白の少女は小さく息を吐いた。 「……このアーティファクトは、嫌な記憶を消し去ってくれるけど、それに関連する記憶も削っていく。『嫌な記憶』が消えうせたら、そうでない記憶までも、全部」 効果が家族や友人にまで及ばないのは、不幸中の幸いであったろう。 例え彼女自身が、彼らの多くを忘れてしまっていたとしても。 「彼女はこれを拾った経緯も忘れてしまったけれど、『大切な宝物』だと思っている。 肌身離さず持っているから、傷付けず手に入れたいなら説得しないといけない」 そしてイヴは目を閉じた。 「ただ、あくまでも目的はアーティファクトの回収か破壊。 彼女がどこかに逃げてしまえば、再発見までの間に別人の手に渡ってしまうかもしれない。 それだけは避けて。何としても」 アーティファクトは現在、彼女の精神と感応している。 不用意に武力で追い詰めれば、暴走して周辺の人物……つまりリベリスタの記憶までも混乱させかねない。 一時間、いや、十分でも、過去と今の記憶が混ざれば、咄嗟の対処が難しくなる。 その様な事になれば、彼女は場が混乱している隙に逃げ出すだろう。 もし武力で奪うなら、気付かれない様に、速やかに。 背にしたモニターには、夜空を見詰めて微笑む女性の姿。 このままでは、綻びかけた桜が散る頃には、彼女は全てを忘れてしまうだろう。 「忘れてしまった事は、きっと戻らない。けれど、まだ全部忘れた訳じゃない。 全部を忘れて、全部が壊れる前に――回収するか、この世から失くして」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:黒歌鳥 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月22日(金)23:22 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●しあわせ、しあわせ、しあわせ 彼女は夜空を見上げて微笑んでいた。 こんな風に空を眺めるのは、いつぶりだろう。 こんなに幸せな事ばかりなのだもの、明日もきっと、良い日。 微かな風が髪を撫ぜる中、そう考えていた時。 「今晩は、どうしましたか?」 優しげな笑みを浮かべた女性が、柔らかい光を片手に真理子に話し掛けた。 冷たさの減った風に着物の裾を揺らし、明るい町の中で持つには些か珍しいランプを片手にしたこの人は、もしか桜の精かしら、などと考えて彼女は少し笑う。 無論、それは桜の精などではなく、『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)である。 結界を張り周辺から人払いをした後、リベリスタ達は各々真理子を見守る形で公園内部に潜んだのだ。 季節柄もあり先程までは公園内外に多少人の姿があったのだが、いなくなったのに彼女は気付いていない。 『嫌な記憶』を失っている事で、それに伴う警戒心も薄れているのかも知れない。 だから彼女は、何も疑わず返事をした。 「いいえ。ただ、星が綺麗だから」 「そうですか」 頷く沙希と真理子を『ドラム缶型偽お嬢』中村 夢乃(BNE001189)が見守る。 今は穏便に話が進んでいるが、もし何らかの要因で真理子が錯乱した場合には飛び出せるように、と耳を澄ませていた。 沙希は良い夜だから物語でもと、ランプの光の下、浦島太郎を紡ぎ始める。 だが、一般に語られるそれは決して幸福と言える終わりではない。 異郷から帰還した男が望んでいたものは既になく、家族や知人を失い、男は一人。 沙希の語りを静かに聴いていた真理子は、最後にポツリと呟いた。 「……彼は、忘れたままでいた方が良かったんじゃないかしら」 望郷の念が引き起こす結末を知らなかったとしても。 何もかも忘れて、覚めぬ夢を見ていた方が良かったのではないか。 ならば、悲しい事なんて何もなかっただろうに。 そう告げた真理子に、沙希は少しだけ悲しそうに微笑んで礼をする。 「……では、夜風は体に悪いから、お早めにお帰り下さいね」 来た時と同じ様に、柔らかな光と共に消えていく女性を見送りながら、帰る場所とはどこだろう、と真理子は思案した。 ――次の方、お願いします。 目を閉じ沙希が頭の中で囁いた声を受け取ると、入れ替わりで靴が地面を踏む。 「御機嫌よう、美しいご婦人、今夜はとても素敵な夜空ですね」 「あら、」 深くに沈みそうになる思考を留めたのは、そんな言葉。 平素は仮面と布で覆われている『幸福の鐘』ハッピー チャイム(BNE001429)の姿も、顔を上げた彼女には幻視によって極々普通の男性に見えていた。 美しいなど、世辞ですら言われる事はなくなって久しい。 常の真理子ならば胡散臭いとも思うような台詞だったが、今の幸福の中では相応しいように思えた。 「こんな夜空を何の憂いもなく見上げる事が出来る、私達は幸福だと思いませんか?」 「……ええ」 一瞬間が空いたのは、この人は本当に憂いがないのだろうか、という疑問。 表情を窺おうにも、男は夜空を見上げていて真理子には分からない。 月光が黒髪を照らす中、ハッピーは言葉を続ける。 「しかしこうも思うのです、美醜とは表裏一体ではないかと……真っ暗な夜空もこの輝く夜空も」 くるりと真理子を向いた瞳は細められていて、中に秘められたものは、矢張り分からない。 「同様に、忌まわしい事も幸福な事も自分を形作るパズルの様なものです」 幸福であるほうが良い。 嫌な事など忘れてしまった方が良い。 その方が、きっとしあわせ。 真理子はそう思う。 が、ハッピーは唇に笑みを浮かべたまま、止まずに動かす。 「痛みは教訓となり、想いとなり、戒めとなる」 告げられるのは、警鐘。 彼の名が示す幸福ではなく、喪失の虚無への警告の鐘。 より不幸な結末に、ならない為の。 「それでは、貴女の『幸福』を願っていますよ」 最初から自分がペンダントを得る気はないハッピーは、それだけ告げて再度御機嫌ようと礼をして背を向ける。 その間も、夢乃はじっと真理子を見詰めていた。 記憶がどこまで残っているのかは分からない。 けれど、残っているならば、これ以上は。 大切な記憶がなくなってしまっても、生き続ける事。 それは真理子に、死ぬより辛い苦痛を与えてしまうのかも知れない、と考えて、その眉が不安げに寄った。 けれど待つ人がいるならば、大切に思っている人がいるならば、喜びはこれから作り出せるはず。 願い、夢乃は祈るように手を組み合わせた。 ●しあわせ、しあわせ? 禍福は糾える縄の如し。 よく聞く言葉だ。だが、今の自分にあるのは幸福だけ。 それは、歪なことなのだろうか。 「隣、いいかしら?」 考える彼女の耳に届いたのは、あどけない少女の声。 時間帯は少々遅いが、公園と言う場所柄を考えれば子供がいるのは不自然ではない。 姿を認めるよりも早く頷けば、『ナーサリィ・テイル』斬風 糾華(BNE000390)が登る。 小柄な体でちょこんと座り込んだ糾華は、何を言うでもなく僅かに開いた桜を見た。 可愛らしい子だ、こんな時間に一人で歩いていては危ない。 早く帰るように促すべきだろうか――。 「遅くなっちゃったけれど、帰らなくて、いいの?」 真理子の思考を読んだかのように発したのは、当の糾華。 瞬いた彼女を見上げ、少女は頭のリボンを揺らす。 「結婚、してるのでしょ? 家族、いるのでしょ?」 声に、緩やかに記憶が浮上する。 家族。家族、は、 胸元が仄かに青白く光り始めたのに気付いた糾華は、真理子の思考を切る様に言葉を続けた。 「私の家族ね、事故で死んじゃったの」 はっと真理子が思考から帰り、糾華を見詰める。 その間にも、少女は親戚に疎まれ、家々を盥回しにされた事をぽつぽつと語っていく。 「一人になって、少し楽にはなったけど。……同じく、たまに少し寂しいね」 私のお母さんは、貴女くらい、と、年に似合わぬ大人びた雰囲気を漂わせて笑う少女に、真理子は傷ましげな表情を見せた。 糾華が把握したペンダントの位置は胸元、服の下。 けれど強引に奪うことはしない。 なるべく、自分で手放して欲しいから。 「死に別れた事は、とても哀しくて辛い出来事だったけれど。でも、その記憶は宝物だから……」 良いものでなくとも、抱いて生きるのだと。 自分にも、そんな記憶があっただろうか。 でも、自分にあるのは、幸せな思い出ばかり。 どうして? 思わず口にしようとしたその時、パーカーのウサギ耳をぴょこりと弾ませジャングルジムの下から別の少女が顔を出した。 「ねぇ、魔法って信じる?」 唐突な出現と問いに驚いた真理子に笑ったのは『カチカチ山の誘毒少女』遠野 うさ子(BNE000863)だ。 真理子を指し、うさ子は無邪気に発する。 「キミ、青い石のペンダント持っているよね」 言葉に、真理子は服の胸元を握った。 少女は勿論、今まで誰にもこのペンダントの存在を話してはいなかったからだ。 何故、という顔をしている真理子に、うさ子は指を立ててみせる。 「うさ子は魔法使いだから分かるのだ」 発言と同時、少女の姿が失せた。 瞬いた次の瞬間には、うさ子はジャングルジムの下にいる。 目の前でピンクのパーカーが薄れたかと思った時には、再び真理子の隣に。 声も出せず見詰める真理子に、少女は仲間たちが見詰める中『魔法』を紡ぐ。 「ほら、ね? ……そしてキミが持つそれは、嫌な記憶を消してくれる魔法の石なのだよ」 「――ええ。嫌な記憶を。そして、全ての記憶を。手放すのをお薦めしますなあ」 いつの間にかジャングルジムに寄り掛かる形で立っていた青年――『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)が少女の言葉に付け加え肯定する。 常ならば不審が枕詞に付きそうな彼も、今は街中を歩いても不自然ではない格好を整えていた。 「あなたがずっと幸福な気分なのは、それがあるから。優しいけれど、それだけの、とても残酷なもの」 「でも……これは、大事な物だから」 「本当に?」 糾華に戸惑いながらも返すと、魔法使いの少女がじっと、真理子を見詰めた。 彼らは、彼女らは、何なのだろう。 行き先を失い視線を動かす真理子に、声が重ねられる。 「嫌な記憶であっても、その後の人生で良い記憶になることもたくさんあるんですよ」 「……良い記憶?」 問う真理子に、九十九は花を見上げて答えた。 跳ねた髪がジャングルジムに押し付けられる。 「そうですの、ここに合う例ならお酒。初めて飲む時に美味しいと感じる方は少ないでしょうが、慣れれば花の下の酒盛りを楽しみにも出来るし、過去の『苦い』経験を肴にもできる」 青年の杯を持つ形を取った手が、見えぬ別の杯と乾杯をした。 失敗も同じ、と九十九は語る。 その場では嫌な記憶でも、後で失敗を懐かしむ事が出来るのはそれを経験した人間だけだ、と。 「記憶は全部が全部、積み重なって大切な宝物になるんだと、私は思う」 「哀しい記憶も、今を作る大事な物、でしょ」 流れる青年の言葉に、二人の少女も同意するのを、真理子はぼんやりと見ている。 拒絶ではなく、理解が追い付かないのだろう。 「ねぇ、キミの宝物はそれじゃないでしょう?」 差し伸べられたうさ子の手も、ただただ、困ったように見詰めるだけ。 三人は顔を見合わせ、そして真理子から離れる事を決めた。 まだ、届ける言葉を持っている仲間はいる。 ジャングルジムから飛び降りた糾華とうさ子は一度だけ振り返り、公園の闇に消えた。 九十九は戻り際に振り返り、一言告げる。 「……白紙の人生なんて、寂しいではないですか?」 ●しあわせって何だっけ 真理子は混乱していた。先刻までの幸せな気分はなく、疑問だけが渦巻いている。 記憶を失う。嫌な記憶を。 彼らの言う事が正しければ、自分が幸福であるのは、嫌な記憶が失せたからだろう。 けれど、そんな事があるのだろうか。 そう、自分は生まれてからこれまでずっと幸せで、家族にも――そう、家族、帰る場所……。 どこ、だっけ。 言いようのない不安に襲われた所に、朗らかな声が掛かった。 「お姉さんどうしたん。難しい顔して」 びくりと顔を上げるが、そこにいたのは鞄を抱え、人の良さそうな笑みを浮かべた男性。 あ、そうや、と彼――『たい焼き屋のおっちゃん』今川・宗助(BNE001708)は鞄を探る。 何が出るのか、と息を呑んだ真理子の前に差し出されたのは甘い香り。 「食べへん? 冷めてまう前に誰かに食べて貰った方がボクは嬉しいんやけど」 思わず受け取ったそれは、知らず握り締めていた真理子の指を解く。 現実を離れた気がしていた真理子は、確かな暖かさにほっと一息ついた。 彼女を見て、宗助は少し寂しそうに笑う。 「ボクの息子と奥さんもたい焼きが好きだったんよ。早くに亡くしてしまったんやけど」 「……まあ」 どうにか出せた言葉の後に、真理子は細く息を吐き出した。 今日は随分、悲しい話を聞く。 けれど、先程までのは現実だったのか。確かに、魔法の様な、不可解なものは見たけれど、記憶を失う、なんて、そんな事、が。 「けどねぇ。二人と過ごした時間は幸せだったから、どんなに辛くてもボクは忘れたないね。 ――お姉さんにもそういう思い出があったはずなんよ。消したくない思い出が」 すい、と優しげに細められた目に、真理子は呆然とした。 何事もない日常を体現するかのような宗助でさえ、今までの人たちと同じ様に、真理子が何かを失っていると語る。 「その首飾り、本当に必要? もっと大事なもん、ない?」 「で、でも……」 「……だってほら、こんな何もない夜に一人で寂しくはございませんか」 緩やかに歩み寄る『夜闇逢魔を狙う猛禽』夕立・梟(BNE002116)に、真理子はひどく頼りない目を向けた。 どこか気品を纏い落ち着いた物腰の青年は、穏やかに真理子を視線を合わす。 「寂しいとしたら、それは幸福でありましょうかね」 彼女は、ゆっくりと首を横に振った。 幸福であった、はずなのに。今は酷く、心許ない。 「ご家族は、いらっしゃいますか?」 梟の問いに返す真理子の頷きは、曖昧。 家族の記憶は、全てではないが飛び飛びに思い出される。 その全てが笑顔である事に、今は逆に不安を覚える。 「お姉さん、帰りたい?」 宗助の言葉に真理子はやはりこくりと頷くが、何処に帰れば良いのか彼女には分からなかった。 残る記憶は、断片ばかりではっきりしない。 迷った幼子のような顔をする真理子に、梟は微笑む。 「お送りいたしましょう。貴方を心配している方の元に」 けれど、その宝石は置いて。 囁く青年の手に導かれペンダントを乗せた真理子は、もう片手に引かれるようにジャングルジムから降りる。 桜が、風に揺れる。 「ご家族が、お待ちですよ」 姿を現した夢乃が、公園の入り口の方を示せば、木々の向こう。 ジャングルジムの上からは見えなかった場所。 沙希が掲げた柔い光のずっと先のベンチに、疲れた表情の男性が座っていた。 つい先程、妻を捜し公園に訪れた彼を、夢乃が探してくるから少し休めと待たせていたのだ。 似た人は見掛けたが、どうやら何らかの原因で記憶が曖昧になっているらしい、と断りは入れて。 幼子が寄る辺を見付けたのを悟り、梟は真理子の背を優しく押す。 夢乃の示す手の方向に従い、沙希の明かりを、膨らみ始めた桜の下を通り、彼女はゆっくりと帰るべき場所へと歩いていく。 「もう彼女に『魔法』は必要ないのだよ」 シーソーに腰掛けたうさ子が、にこりと笑う横、何処か憧憬か懐古を含むような目で見送る糾華にたい焼きを差し出し、宗助もまたそれを見送る。 全てはきっと、夢と現の間に。 一夜の出来事はきっと、また忙しい日常に戻る内に現実味をなくし、夢となるだろう。 それで良い。 例え、記憶を失ったことは夢にならなかったとしても。 「後は、新たな思い出を作り上げて頂くのを願うばかり、ですなあ」 「ええ。家族って、本当にいいものでスヨネぇ……うふフふ」 九十九の呟きに返した、微かに虚ろを孕んだようにも思えるハッピーの言葉も――幻の様に儚く、夜風に掠われて行く。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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