●冬のある日、寒空の下 空気が染みこんでくるような、とでも言うのだろうか? 肌がいつもと違うような、自分のものではないような……ちょっと不思議な気分だった。 空は晴れているものの、そのせいか余計に寒さを感じる……そんな気持ちもある。 夏と違って白みのある、色のうすい感じの空には……うまく言えないけど独特の雰囲気があるのだ。 それでも……風はあまり無いせいか、ひなたにいると暖かかった。 もっとも、着込んでいるお陰なのは間違いない。 コートや耳当てがあっても、顔から冷たさが染みこんでくるような感じなのだ。 普段だったら多分わざわざ外には出なかっただろう。 ……何故だろうかと考えた。 ……とくに理由は思い浮かばなかった。 しいて言うなら、普段外出しないから……という事かも知れない。 昔はどうだっただろう? 子供は風の子なんていうけれど、冬になるとあまり外には出なかったんじゃないだろうか? 防寒対策をキチンとして、偶になら。外出というのも悪くないかも知れない。 そんな事を考えながら足の向くまま歩いていると、3台ほど自動販売機が並んでいた。 (そういえば消費税あがるんだっけ?) 自動販売機も値上がりするとか言っていたかな? そんな事を考えながら。ホットにどんなメニューがあるかなと思いながら。 私はそちらに足を向けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月27日(月)23:09 |
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■メイン参加者 25人■ | |||||
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●ふつうの、何事も無い、一日 「や、マルさんおはようございます。今日も可愛いですね。何か飲むならご馳走しますよ」 タオルで汗を拭きながら、亘は偶然出会ったフォーチュナの少女に挨拶した。 週末は早い時間からランニングするのが亘の日課である。 冬は身体が芯から温まり肌で感じる寒さが爽快な気持ち良さになるくらいに、駆ける。 それで、今日も頑張ろうと身が引き締まるのだ。 ずっと続けていたから辞めると逆に落ち着かない。 何より、走るのが好きだから続いてる習慣だ。 だから、走って走って……休憩に立ち寄った自販機の前で偶然友人に会えたら。 「楽しい気分になるの仕方ないですよね」 「なるほど、そういうものですか……」 どこか感心した様子のマルガレーテに、ジャージ姿じゃ決まらないですがとジュースを選ばせたあとで。 亘自身はスポーツドリンクを買って、ぐいっと一気飲みした。 「ふー寒くても身に染みますね」 「私は見ているだけでも身に染みる思いです」 そう言って、ホットの紅茶を両手で転がす少女に笑顔を向けながら。 (……普段があれで、今の彼女の目にどう映るのか) そんな事が、ふと気になって。 少女と話しながら、亘は適当な言葉を探す。 「三高平に来たばかりですからねぇ、お気に入りのお店を開拓しなければいけないんです」 ファンタジーな世界観を感じさせる雑貨や服を求めて三千里。 鎖々女は休日をお店巡りに費やしていた。 もっとも、実は既に用は終わっている。 充分見て、欲しい物も買ったのだ。 (けどお外寒いから出たくないなぁ) そんな想いはあるが、当然いつまでもここに居てもなぁという思いもある。 「うーん」 (走るのはちょっと恥ずかしいので早足で駅に駆け込みますかね) 「いやぁでも、う~ん」 帰らなければならないのだと分かってはいるけれど。 「もう、こんなに迷うのも全部冬が寒いのがいけないんですよ~」 外の、冬の風景を眺めながら。 鎖々女は誰に言うでもなく呟いた。 ●ててろしすたーずの1日 テテロ姉妹は3人姉妹である。 ミーノは姉で、ミミミルノのあこがれの存在だ。 ミミルノとミミミルノは双子の姉妹。 ミミルノは、いっつもドタバタしていて落ち着きがないけれど、いざという時はミミミルノを助けてくれる。 (でもいざというときいがいはどちらかというと、とらぶるめーかーなのですっ……) 「くうねるあそぶ! ミミルノのモットー! いらいのないひはさぼるっ! 1にちじゅうさぼるっ!」 お布団から出ずにゴロゴロもだもだしながら、ミミルノが大きな声でそんな事を言っている。 「だってそれがオフのたのしみだからっ」 キリッとしながら……ではなく、言いながら……カッコつけてお布団にもぐったままなのだ。 ミーノの方もそんな感じだった。 「きょうはおしごとはないのでおこたからでないことにきめたっ」 布団から出てきた分だけ、姉……というべきなのかどうかは分からない。 「おこたがぬくぬくすぎるのがわるいっ」 やはりキリッとしながら……ではなく、言いながら断言する。 (さいきんさむいのでミーノおねえちゃんはおこたからでません) 寒くなくて依頼のない時は3人で遊んでいる事が多かった。 ミーノは何か食べていて、ミミルノも負けじと何かを食べて……ミミミルノがそれを見ている、という事が多い。 食べた後はおねむやお昼寝が多かったように思う。 食べる事を遊んでいると言うのかは分からない。 「ミミミルノー! おかしもってきてっ、あとジュースもっ! あ、やっぱりロイヤルミクティーがいいっ!」 今は食べる為の呼び出しがかかる。 言われるままにミミミルノは、お菓子と紅茶をコタツの姉へと持っていった。 「ふぉーおこたでぬくぬくしながらぽてちをたべつつ、みるくてぃーをのんでTVをみるせいかつ!」 言いながらミーノは幸せそうに、目をキラキラさせる。 (せれぶ! せれぶのくらしがいまここにっ!) 「さらなるせれぶりてぃー! きょうはふんぱつしてピザをちゅーもんしてしまうのっ」 「えびかにぴざ!」とか「みみにもちーずがはいってるやつ!」とか言いながら電話で注文して…… 「じゃぁピザがとどくまでごろごろしとくの~」 注文を終えると、ミーノはコタツに入ったままゴロゴロと横になった。 「たべたいものいったらミミミルノがもってきてくれるから、おふとんからでなくてだいじょうぶっ!」 「もつべきものはふたごのしまいなのだっ!」とか言いながら、ミミルノも布団に籠ったままである。 注文したピザを玄関まで受け取りに行って、差し込む冬の陽を眺めてから。 部屋に戻って、相変わらずの2人を見ながら……ミミミルノは呟いた。 「そしてきょうもおわるのです」 ●物語と、物語り ボトムの文字は難しいから、読んで貰ってお勉強。 「今日はメリッサおねーさんが絵本読んでくれるので楽しみーっ」 わくわくそわそわしながら、シーヴがメリッサを上目遣いで見上げる。 「そうわくわくされると気恥ずかしいものがあるわね」 (でも、こうしていると本当に子供みたい。こういう時くらいは、おねーさん気分もいいものね) ちょっと照れつつ、嬉しくもあり……そんな気持ちで、メリッサは本棚に手を伸ばした。 場所はメリッサの家の書斎である。 この世界の文字に慣れるためにと、メリッサがシーヴに読み聞かせを行うことになったのだ。 「ボトムの文字は慣れないなら、絵本がいいでしょうね」 そう言いながらメリッサは慣れ親しんだ1冊の童話を手に取り、椅子に腰掛けると丁寧に本を開いた。 「昔々のお話です。あるところに――」 「ふむふむっ」 メリッサはシーヴが文字を見やすようにと本を広げながら朗読し、シーヴは身を乗り出すようにして、驚いたり楽しそうにしたりしながら、物語に引き込まれていく。 「ボトムには不思議がいっぱいっ」 怖がったりもしたものの……本当のお話ではないと知ると、シーヴは残念そうな言葉をこぼした。 「私の故郷に伝わるお話は、また別ね」 「えっ、メリッサおねーさんの故郷にも似たお話あるの?」 メリッサがそう言えばシーヴは驚いた顔をして、どんなお話~と、首を傾げ目を輝かせる。 「そのお話は、また今度」 「あう、今日は駄目なの?」 彼女の物語は、まだ終わっていないから。 「うーっ、次を楽しみにするのですっ」 そう言いつつ、しょんぼりした様子のシーヴを慰めようと思って。 「見届けたら、またお話してあげるわ。さ、おやつにしましょう」 メリッサがそう声をかければ。 「はっ、クッキー食べるーっ」 シーヴは嬉しそうに、笑顔で元気に言葉を返した。 ●一緒に 前から「一緒に遊ぼうね!」って約束してて、念願かなったので。 「とっても幸せ!」 「あー、まあ、うん。約束だからね……ま、いいけど」 困惑気味のフランシスカを引っ張るようにして、アリステアは嬉しそうに街へと繰り出した。 「あっちの雑貨屋さん、フランちゃんに似合いそうなアクセ置いてるんだよ」 「へー、そうなの? どんなものかしら。わたしそういうの詳しくないから……」 そんな会話を交わしながら店に着くと、アリステアはさっそくペンダントを色々と見始める。 フランシスカの方はというと、そういったのはお任せという感じで見て回るアリステアを見守っていた。 「フランちゃんの瞳の色に合わせるならアメジストかなぁ。似合うと思うんだ。どうかな?」 「んー、そうね。悪くないんじゃないかな」 悩むアリステアの姿を微笑ましく思ったりしつつ……分からないなりに問い掛けに答える。 そうやって時を過ごし雑貨屋を後にすると、一緒にケーキを食べようと話して……2人は少し歩いてから店を選んだ。 アリステアは、いちごタルト。 フランシスカは、イチゴのショート。 「あ、これ美味しいわね」 違うものを頼んで、お互い一口ずつ交換する。 「気づいたら仲良しさんになってたよねー。今日はありがとうなのですよ」 「仲良し? そうね……いつの間にかよね」 「すごく楽しかった! また遊んでくれると嬉しいなっ」 「うん、こちらこそ宜しくね。遊ぶんならいつでも」 嬉しい気持ちを伝えようと、アリステアは笑顔で真っ直ぐな言葉を向ける。 それに少し戸惑いつつ……フランシスカも素直な言葉を返した。 ●戯言と貪欲とパフェと苺 (せっかくの週末だししっかり着込んであったかくして、テラスでパフェでもたべたいよねぇ) 「あ、俺様ちゃん甘いもの嫌いなんだった」 てか寒い時に寒いものとか普通にいらないし。 そんなこと考えたり呟いたりしていた葬識は、見知った顔を視界の隅に発見した。 (あ、黄桜後輩ちゃんだ) 「元気だよねぇ」 呟いた次の瞬間。 「居た! 先輩っ、黄桜とデートしてくだしゃぁオラァ!」 言いながら魅零が突進してくる。 突っ込んでは来たものの、テーブルの上の物を荒らさない辺りは配慮しているという事なのだろうか。 突撃した魅零をそっと避けて見物してから、葬識は笑顔で彼女を拾い上げ隣の席に座らせた。 「いいとこにきたねー。うんうん、おごってあげるよーほかなんか欲しいものある?」 言いながらパフェのスプーンでひと掬いして、彼女の口に持っていく。 「すぷーんもぐもぐ……」 「わお! 間接キッス。俺様ちゃんてれちゃうぅ☆」 「え゛!? かかかかか関節キス!!?」 (男性耐性無い黄桜には強烈過ぎる!!) 「ふおお、この街綺麗な人多過ぎるよ! 葬識先輩も美人さんだし目が奪われてまうやろ!」 グフッと魅零は撃沈して……色々あってから、ケーキを10個くらい注文した。 (ケーキ10個。あ、お財布にお金はいってたっけ?) 「まいっかー」 呟きつつ葬識は、ケーキを食べる魅零を見学する。 「んふーい! んふ、むんむ、むごむごんふふふ!!」 わんこのように、尻尾ぶんぶん振り回しそうな勢いで彼女はケーキを貪っていた。 「せんぱぁい、この街飽きませんね♪」 思い出したようにそう言って、再び貪り(おやつ)を再開しようとして…… (苺くらいなら甘くないから先輩にさしあげてやってもいい) ふと、そんなこと考えたら緊張して……でも、そうしてみたいから。 「先輩……っ、あ、あーんっ」 そう言って魅零は、がくがく震えながら。 フォークに刺した苺を、葬識へと差し出した。 ●偶然の連鎖 依頼もミサも何も無い休日。 (一人で寂れた聖堂に居てもつまんねーし……散歩がてら、珈琲豆でも見繕ってくるか) そう考え街に出た聖は、街中で声を掛けられた。 「こんにちは。今日はお出かけ?」 「……おや、奇遇ですね。ちょっと買出しに来ていたんですよ」 そう答えながら……オフで完全に油断してましたと、聖は自分を省みた。 (口調を整えるのに一拍間が必要とは……変に思われなければ良いですが) そう思いつつ目の前の少女、シュスタイナに言葉を向ける。 話しをしながらシュスタイナは……ほんの少しだけ首を傾げた。 彼の仕草に何か、違和感のようなものを感じたのだ。 (一瞬雰囲気が違ったような? 気のせい……よね) 少し気になりはしたものの自分に言い聞かせ、シュスタイナも聖に言葉を向ける。 良ければお茶でもという言葉に頷いて、最近一緒に過ごす時間増えたと思いながら。 「ここのガレット美味しい。珈琲も種類置いてるし、いいお店ね」 少女は聖の勧めた店を一緒に訪れた。 珈琲を楽しみながら言葉を交わし……ふと、思いついた問いを発する。 「……そういえば、鴻上さんはお休みの日とか何してるの?」 私は本読んだりして過ごしてるけどと付け加えてから、ちょっと不躾だったかしらと思いはしたものの……やはり好奇心というものが、少し働くのだ。 「休日は……今日みたいな買い物や読書、それに掃除や鍛錬……ですかね?」 聖はそう答え、並べてみると味気ないですねと付け加えた。 「珈琲なら、趣味で自分の好きな味を出す為に色々試しては居ますね」 「味気ない、なんて事ないわよ。珈琲かぁ……一度私にも飲ませてくれる?」 聖の言葉に反応するようにシュスタイナは提案し、その時はお茶菓子作って持って行くからと付け加える。 「色々試してる、なんて言われると気になるじゃない?」 そう言われると断れない。 (まさか、珈琲をご馳走する流れになるとは) ちょっと不安になりつつも頷いて、聖は聞こえないように呟いた。 「……喜んで貰えれば良いですが」 ●過ぎてゆく日常 「……休みか」 寝ぼけまなこを擦って、久々の休暇。 どこまでいこうか。熱海か伊豆あたりまで走ろうか。温泉入りに。 それとも宇都宮。足を伸ばすのも悪くない。餃子食いに。 色々な想いが浮かんだりして…… ……結局、一人でふらふらする休日。 鷲祐は街を歩いていた。 馴染みの店で大食いチャレンジに勤しみ、新しい服を買いにいく。 シルバーのアクセサリーは、そろそろ新しい物がほしい。 寒いし、マフラーやデニムがほしい。 (ああ、コートもほしいな) 「……さて、どうしたものかな」 最終的に彼は、カフェに入って珈琲を注文した。 一人の時間を誤魔化すのに都合がいい……そんな事を考えながら、だ。 それは、自分を省みるのに都合がいいという事でもある。 黙って人の側で、人に関わることなく、座っていられる。 そんな時間が……案外自分は好きなのだろう。 浮かんでくる想いをそのまま揺蕩わせながら…… 鷲祐は、珈琲の薫りを楽しむ。 古びた本屋で一人、義光は参考書の棚を眺めていた。 リベリスタとして活動をしているとは言え、学生の大義である勉学を怠る日はない。 間近に高等学校三年目を控えた彼にとって、赤表紙の本は……ギラギラと眩しく感じる存在になったのである。 ソレはまるで、血塗れのエリューション・ビースト。 (角ばったフォントで刻まれた名はさながら異世界への扉!) 「苦悩し絶望する程……燃える! ……燃えるではないかッ!?」 全身の血流が音速で巡る! ……ような感じ!! 気が付けば彼は数冊の漫画と参考書を胸に抱き、本屋の外へ立っていた。 レシートには……お小遣い額とほぼ同等の数字が羅列されている。 (真に恐ろしきはあの空間であったのか……?) 「……ウウム。暫く冬風に当たり、己の熱を冷ますとしよう……」 色々な気持ちが混じり合うのを感じながら、義光は……何とも言い難い表情で口にする。 「俺も今年度で大学卒業だからね。4月からのこの店をどうしようかと思って」 「大学ですか……私にはまだまだ先に感じられます」 「快ちゃんてそういう処、しっかりしてるわよね~」 快の言葉に少女が考え込み、青年は感心した様子で言葉を送る。 快が考えていたのは、自分のやっていた店の4月以降の営業形態の検討だった。 運営している酒店内で思案していたところに、2人が通りかかったのである。 「閉店も考えたんだけど、続けてほしいって声が結構多かったし」 「でしょうね~」 「私も前にお邪魔しましたし」 快の言葉に2人が頷く。 「もともと試飲センターみたいな店だからね」 そう言ってから快は、自分の考えている方法について2人に話してみた。 小売は通販をメインにし、店舗の営業時間は夜間や土日に縮小する。 商品も量よりは種類を揃えて、特に地元の三高平酒造を中心としたラインナップで。 「まあ、この辺はこれまで通りかな。卒業してからも続けられるように、色々工夫してくつもり」 「そうね……こういうお店ってやっぱり、クセのある品揃えの方がときめくわ」 そんなトニオの言葉に頷いてから。 「あ、マルガレーテさん達、良かったら甘酒飲んでかない?」 今年の新酒の酒粕で作ったんだと勧めれば、それではお言葉に甘えてとフォーチュナの少女が頷いて。 「トニオさんには新酒がいいかな?」 「……良いわね~ それじゃ昼間から失礼しようかしら」 そう応える青年に笑顔で頷いて。 先ずはと快は、マルガレーテに出す甘酒を温め始めた。 ●歩む軌跡の、先 「改めて見てみると……色々と種類があるのだな」 「本当、種類も色々ですね……」 拓真の言葉に悠月があいづちを打つ。 デザインのタイプにボリューム、色、生地に装飾。 (これ程までに多様化しているとは、私もちょっと驚きましたが) 「……ウェディングドレスか」 悠月は何気なく呟いた。 ウェディングドレスの下見というのが、今日の2人の目的である。 (女性にとっては、華々しい舞台ともなるのだから……当然といえば、当然) 「幸い時間はある、ゆっくり眺めて帰ろうか」 拓真がそう言えば、悠月は頷きながら並ぶ和装やドレスに視線を向けた。 洋式や和式、さまざまな種類の結婚式の為の衣装が展示されている。 (まさか自分の婚礼衣裳を考える時が来るなんて思ってもみなかったけれど) そう想いながらも悠月は、飾られた衣装に……文字通り、目を奪われるような気持ちになった。 実際の事は決まっていない以上、あくまでも下見である。 話しを聞いたり可能な品を試着させてもらったりというのが精々だ。 それでも何か、心が湧き立つ。 「ふむ、難しいな。すぐに決まるとも思っていなかったが……どれも悠月に似合いそうだ」 一着、一着。実際にそれを着た彼女を想像して、悩んだりしながら拓真が呟く。 平穏な時間、心安らぐ居場所。 (それを与えてくれたのは、彼女だった) だからこそ、二人で幸せになろうと思う。 なりたいと思う。 下見を終えて、帰路について。 「悠月」 名を呼びながら拓真は、そっと彼女を抱き寄せた。 悠月が応え、身を寄せる。 其儘、唇を静かに重ね合わせ…… 「必ず、二人で幸せになろう」 拓真が柔らかな笑みを浮かべて、言葉を紡げば。 「はい」と、頷いて。 悠月も微笑んで、拓真を見上げた。 ●いつもの2人 (竜一がレポート書いてる横で読書しようと思ってたのだが) 「膝に抱きかかえられてしまったな」 ユーヌが呟く。 「俺も大学生! レポートの一つや二つはあるけれども、そんなことでユーヌたんを 可愛がる時間を割くわけにはいかないのさ!」 そう返した竜一は、ユーヌを膝に乗せてレポートを書き始めたのだ。 「やれやれ、別に抱えていても何もないと思うんだが」 (他のこと出来ないだろうに) 「……まぁ、楽しいなら良いけどな?」 相変わらずの竜一にそんな言葉を向けつつ、ユーヌも気にしない様子で用意した本を広げる。 レポートかきかき。ユーヌたんなでなで。 レポートもりもり。ユーヌたんすりすり。 「ほら口を開けろ」 言いながらユーヌが、あーんとクッキーを後ろ手に差し出す。 クッキーもぐもぐ。ユーヌたんぺろぺろ。 「うまうま」 「ふむ、美味しいなら良いが……餌やりをしている気分にもなるな」 (雛鳥みたいに優しく扱った方が良いかな?) そんな事も考えつつ、結局はいつも通りに時を過ごして…… 「さて、いい加減良い時間だ」 夕食ぐらいは作ってやろうと、ユーヌは竜一に声をかけた。 「何が食べたい?」 「夕飯なら、俺は肉かな! 肉肉ー! 血肉をつけて、ユーヌたんをより可愛がれるよ!」 竜一はそう言ってから、でも……と、付け加えた。 「ユーヌたんが作ってくれたものなら何でも食べるよ!」 「何でも良いなら聞き直すぞ、何が食べたくない?」 「って、なぜ、食べたくないものを聞くの!? まあ、最後のデザートにはユーヌたんを頂きますけどね! うひひっ!」 ユーヌたんは今日もかわいいなあと相変わらずの竜一に、半分呆れたような仕草をしつつ。 「まぁ、デザートはちゃんとつけるから安心しろ」 ユーヌはそう言って、ほんの少し表情をつくってみせた。 「甘いかどうかは知らないがな?」 ●2頭と2人 家では2頭の犬を飼っている。 チョビ(ハスキー。1歳以上)と、まろ(雑種むく犬。生後半年くらい)だ。 それを木蓮が洗うと言い出したのである。 「流石、よく懐いているな」 木蓮と2頭の様子を眺めながら龍治は呟いた。 (……似た様なものの因子がこの身にあるからか、否か) そういうことは、口にはしない。 「へへー、湯船には浸けないから安心してくれよ?」 Tシャツ姿の木蓮はシャンプーを手にそう言ってから、チョビが暴れそうなのを見てあわてて龍治に呼びかけた。 「っとと、耳にかからないようにチョビを押さえといてくれ……!」 「全て任せるつもりでいたのだが……」 仕方ないと龍治は手を伸ばし……ぎこちなくチョビを押さえこむ。 どうにも……犬との距離を測りかねた。 (普段はあまり接する必要もないので、気にはならないが) 「お、大人しくしろ……!」 言いつつ、感覚で……チョビが痛くないように、暴れないように、抑えようとする。 チョビが何とか終わり、まろも終わり、何とか一息と思ったところで。 木蓮の正面でチョビが体をふるわす。 「ぶ、ぶあー! 眼鏡がえらいことに! えっ、まろも!?」 お座りか伏せをさせようとしたものの、間に合わない。 「ちょ、わあああ長毛種のぶるぶるやべえぇ!!」 ふき取る前の冷め始めた湯が、浴室内にせいだいに撒き散らされた。 「……全く、酷い目にあった」 「うぐぐ、シャツが張り付いてきもちわるい……」 (ついでに尻尾と耳もぐっしょりだし!) 2匹を乾かし終えたら、自分たちも入っちゃおうと決めて。 「ほら、龍治も一緒にいこ!」 伸ばされた木蓮の手が、龍治を掴む。 「……風呂か。ああ、行こう」 木蓮にそう返してから……龍治は繋いだ手を、握り返した。 ●日常の中で 「あ、らいよんちゃん。こんにちは~」 「こんにちは。お買い物ですか?」 「うむ、今日は一人で買い物なのだ」 両手に荷物を抱えた雷音は、見かけたヤミィとマルガレーテに声をかけた。 ひとりでウインドウショッピングをするのも悪くない。 そう思いのんびり街を歩いていて、年始のセールを思い出したのである。 この服は兄と父に似合いそうだ。 あのスカートは、今あるあのセーターにあわせるといいかな? そういえば紅茶の在庫も切れかけてきた頃だ。 そんな感じで気が付けば……荷物は両手いっぱいに近付いていたのである。 「まだ、回るつもりだけれど一緒にどうかな?」 「えへへ、それじゃ」 「お言葉に甘えさせて頂きます」 終わったらカフェにでもいこうと言えば、マルガレーテが不思議そうな顔をした。 「たまには自分の家以外のカフェも楽しみたいのだ」 雷音がそう言えば、少女は成程と言いながら頷いてみせる。 荷物を持つというヤミィにお礼を言って、少し任せてから。 「本当に寒いな、今日は」 そう言って雷音は、二人の真ん中に飛び込んで腕を絡ませた。 「くっついていたら、あったかいのだ」 「えへへ、それは何よりです」 「あ、危ないですよ、落としたら……」 嬉しそうなヤミィと、慌てた様子のマルガレーテ。 ふたりの顔を笑顔で見比べながら、雷音は抱きしめた手に力をこめた。 ●その日の終わりに すてきな靴と巡り合えたお買い物の帰り道。 「あ。ランディさんだ」 バイクの音に振り返り見つけた見知った姿に。 声は届かないだろうからと、旭はちいさく手を振って挨拶した。 「喜多川か、今日も元気だな」 単車を点検ついでに流していて彼女に気づいたランディは、バイクの進路をそちらに向ける。 「こんにちはぁ♪ んー、ドライブ?」 単車を止め少女の言葉に返事をしながら、買い物帰りと見て取って。 (我ながらお節介と思うが折角だ) 「単車の点検ついでに流してたし、送りついでに見晴らしの良いトコまで行くか?」 そう提案すれば、少女は笑顔で頷いた。 「そだね、予定ないならお願いしちゃおっかな」 (えへ、バイクってのってみたかったの。ちょっとわくわく) ジェットコースターみたいな感じなのかなぁと思いながら、旭は後ろに腰を下ろす。 何度か依頼でご一緒したおにーさん。 (普段はどんなひとなんだろ?) 大きな背中を見ながら、そんな事を考える。 (何度か同行したがこの歳でリベリスタやんのは色々と思う事もあるだろう) 単車を走らせながらランディも、後ろに乗せた少女の事を考えた。 (気分転換になれば良いが……俺らしくないか) バイクはそのまま道を往き、市が見渡せる高台へと到着する。 「わぁ……! こんなとこあったんだ」 (住んでる場所だけど、上から一望するのって新鮮) ちょっとはしゃいだ様子の少女を見守りながら。 「……今の季節は風が冷たいな」 そう言って、ランディは上着を旭にかけた。 「! ふわ……ありがと」 「この仕事やってると嫌でも滅入る事もある」 だから、と。ランディは続けた。 「こうして日常を確認するのも、大事な事だと思うのさ」 誰かに言っているようで、自分に言い聞かせているようでもある。 (コートかけてくれるとか、けっこー紳士なんだ) いいひとだ。 なにか不思議と嬉しくなって。 「えへへ、今日はいい日かも」 にこにこと笑顔になった旭に、何か気恥ずかしさのようなものを感じて。 「ま……たまにはいーだろ、こういうのもよ」 ランディは彼方に視線を向けながら、呟いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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