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降りて流れて

「犬よ。数は4匹。仔犬が3匹、親が1匹」
 ルナ・ウィテカー(nBNE000274)は開口一番そう言った。
 まず状況説明から、と要望が出るのは至極当然であった。


 時刻は夜。天候は雨。町中を通る大きな河の岸辺で、ジョギングに励む男性が殺害される。
 場所は、人と車を対岸へ運ぶ橋の下。かつてホームレスが住居として使っていた段ボールの家が、一つだけぽつんと佇んでいる。この一帯は、頻繁に犬や猫が捨てられる場所としても近所で知られる場所である。
 気分を変えてと普段と違うコースを走る男性は、ここに近づいたところで不意に襲われる。
 道沿いに座り込む小さな白い仔犬が入ると視界に同時に、男性は大きく転倒する。起き上がろうとしても力が入らず、それどころか次第に呼吸が苦しくなり始める。
 もがく彼のもとへ大柄な赤毛の雑種犬が走り寄ってきたかと思うと、両の前足を肩に載せて押さえつけ、一切の躊躇もなく喉元へと牙を食い込ませる。動かない身体で必死に抵抗しようとする男性の腕に、更に別の口が噛み付く。彼を押さえつけている犬は一匹。しかし、彼に牙を立てるその凶暴な形相を浮かべる顔は二つ。
 厚手のレインコートを羽織っていたが、肉を裂き、骨まで砕かんばかりの力の前には何の役にも立ちはしなかった。
 男性はパニックに陥りながらも、抜けていた力が戻ってきたことも手伝い火事場の馬鹿力で犬から逃れようと、噛み付かれたまま移動を試みる。
 必死の抵抗で橋の下から出ると、すぐ目の前には雨水によって作られたばかりの浅い水たまりが広がっている。それが突如大きく膨らんだかと思うと、一瞬で黒く濁り、大きな犬の形になったそれが大口を開け、男性の頭を目掛けて……。
 予知した光景の説明は、ここで切られた。


「縄張りに入った獲物の動きを止める1匹、そこを襲う1匹、確実にとどめを刺す1匹……」
 そして、段ボールの家の中に親がいるという。
 子供を身ごもったまま捨てられた犬が、エリューションビースト化したものと推察される。
 ルナがホワイトボードに、それぞれの個体の特徴を書き記してゆく。
 子供達のフェーズ進行度は高くなく、長男を除けば純粋な戦闘力はそれ程の脅威にはなりえない。一方で、それぞれが極めて異質な能力を持ち合わせている。
 母親のフェーズがもっとも進行しているとみられるが、彼女は現時点では一切の動きを見せていない。どのような能力があるのかも確認できないのが現状である。
「そうかと言って、フェーズの進行を黙って見過ごすわけにはいきません。……良い?」
 1人ずつ順番に、リベリスタ達に視線を巡らせながらルナは最後にその意志を問う。

 言うまでもない。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:クロミツ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月23日(木)22:12
新年あけましておめでとうございます。
大変ご無沙汰してしまっておりました。
本年は一層励んで参りますので、何卒宜しくお願い申し上げます。

今回はエリューションビースト4体の討伐が目的となります。
民間人が巻き込まれる心配は今回はありません。

以下に、敵の情報を記載します。

●仔犬
 3体おり、仮にA、B、Cとします。外見は大きく異なりますが三つ子のようです。
 Aに至っては既に全長2m近い規格外な体格に変貌しており、仔犬という表現には見合いません。
 一見すると雑種の成犬ですが、それぞれが異能を持っています。

A:黒毛の長男。身体を液化させ、水たまりや川に身を隠せます。
  この形態をとっている間はこちらからの物理攻撃が通りにくくなりますが、
  逆にこの形態の時にはA自身も物理攻撃を仕掛けることができません。
  身体がもっとも大きく、タフネスはピカイチです。

B:赤毛の次男。全身の器官、臓器を「2組」もちます。
  普段見えている犬の姿のほかに、全く同じ形の姿をもう一つもっています。
  出し入れは任意で行えるらしく、傍目には「突然双頭になり同時に噛みつく」ことや
  「2本の前足で押さえつけたところへ、もう2本の前足を出現させて爪を立てる」
  などといった常識はずれな芸当をみせます。  

C:白毛の三男。身体が小さく、動きも速くありません。
  3匹の中では唯一「仔犬」と呼んで差し支えない姿をしています。
  身体的な能力はもっとも弱いものの、身体の機能を低下させる細菌を
  身辺に絶えず放出しています。

 母親がいるとみられる段ボール製の住居を守ろうとします。


●母犬
 ホームレスが使用していた家を根城に、子供たちに囲まれて過ごしています。
 フェーズ自体はかなり進行しているようですが、自身は一切の動きを見せていないため
 能力はおろか、姿形まで全くの正体不明です。


これ以上フェーズを進行させないためにも、
すべてのエリューションビーストを撃破して下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ヴァンパイアデュランダル
東雲 未明(BNE000340)
ギガントフレームデュランダル
富永・喜平(BNE000939)
サイバーアダム(メタルイヴ)プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
ハイジーニアスプロアデプト
離宮院 三郎太(BNE003381)
ハイジーニアスクリミナルスタア
曳馬野・涼子(BNE003471)
ジーニアス覇界闘士
加賀乃 魅ヶ利(BNE004225)
ジーニアスマグメイガス
六城 雛乃(BNE004267)
ジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)

●降り響く雨音の中で
 とても雨脚の強い夜となった。
 天から降りた無数の水玉が、勢い良く地面に当たってはじけ飛ぶ。
 ざあざあと止めどなく響くその音は、これから始まるであろう戦闘の音も、すべて飲み込んでしまうに違いない。
 長さ400m、高さにして20m程の橋は、幅250m程もある河を渡すために必要なもの。歩行者も車両も運べるよう、非常に頑丈に造られている。それでも隙間はあるようで、橋の下にもぽたりぽたりと冷たい水玉が落ち、いくつかの水たまりを作っていた。
 両岸には小高い土手があり、河までの距離は50m程。河辺には大人の腰程にまで伸びた雑草が生い茂り、堤防側にはコンクリートで舗装された歩道がある。

 高水敷の橋のたもとに、8つの人影が近づいた。
「場所は、ここで間違いありませんね」
 アークのリベリスタ、離宮院 三郎太(BNE003381)が発したその言葉も、雨音の中に溶けこんでゆくようだ。ターゲットとなる犬のエリューションビーストの姿はまだ見えない。捨てられていなければこうはならなかったのかと思うと、少し心が痛む。
「ええ、間違いないわ。……本当に寒いわね」
 頷いて、『薄明』 東雲 未明(BNE000340)は懐中電灯を手にとりながら、最後は独り言のように呟いた。寒いのは嫌いだ。そして今回のような話に囚われるのも。今更どうにもならないことに悩んでしまうから。
「皆、準備は良い?」
 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)の問いに、頷かない者はいない。
 夜間である上に、勢いを増すばかりの雨。橋の上からの街灯だけでは、視界の十分な確保はできない。キリエをはじめとする暗視を使うことのできるリベリスタ達は、今、白毛の小さな犬の姿を捉えていた。
 彼の座っている場所は、上から滴り落ちる水のほか、外から流れ込んだ雨水によって満遍なく濡れているようだ。そんな冷たい歩道の上、こちらをじっと見つめながら身を縮こまらせて小刻みに震えるその姿は、外見からは危険を及ぼす存在には到底思えない。しかしその周囲で明らかに草木が萎れているのを見ては、やはりただの仔犬ではないとわかる。
 未明の懐中電灯が、暗闇を照らす。白い仔犬のほど近く、赤毛の成犬がゆっくり身体を起こすのが見えた。更に一頭、黒い大きな塊が身を起こすのが見えたが、一瞬で溶けるように姿を消した。臨戦態勢を整えたというわけだ。
 ただ、生きようとしているだけなのだと思う。そうであっても、エリューションである以上、放っておくという選択肢はない。『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)が、その華奢な身体には見合わない巨大な三日月斧を構えた。
「……大丈夫。みんな一緒だからさみしくないよ」
 今更、彼らに救いの手を差し伸べることはできない。せめて一緒にすべてを終わらせられるのであれば、それが自分たちにできる何よりのことであるはずだ。


●家族の絆は力強く
「こんなところで雨に打たれて、おたがい、運がわるいね」
 わたしにそんなこと言われても、しょうがないだろうけど。そう言葉をかけながら、『ならず』曳馬野・涼子(BNE003471)は双銃をくるりと一回転させる。
「そういうこと。言ってしまえば何時もと同じ『運』が無かっただけの話だね……互いに」
 涼子の言葉に軽く頷きながら、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は巨大な散弾銃を手に、白毛の仔犬へと駆ける。その仔犬はというと、銃口とともに向けられた殺意にさえ、きょとんと首を傾げるばかり。これから自分を狩ろうとしているものへの態度ではない。
 恨み事を言われるでもなく、抗う態度を見せるでもない。正直少しやりづらい、そう感じない訳ではないが、喜平のやるべきことに変わりはない。
 最初に放たれた弾丸は、涼子の銃からのもの。彼女自身のスピードも相まって、的確に眉間に狙いを定めたその動きは誰にも見えない程の速度であった。
 銃弾が、正確に、猛烈に、仔犬の眉間へと突き刺さる。その段になって初めて、彼は小さく飛びあがった。跳ね飛ばされたという方が正しいか。そんな彼が地に降ることも許さず、小さな身体を巨大なエネルギー弾が飲み込んだ。
「さあ、次か……ッ!?」
 アルティメットキャノンを放った銃口は、雨水を受けて熱い蒸気をあげていた。銃を構えたまま喜平がそう発した時、不意に足元からぬうっと黒い塊が持ち上がり、黒毛の大きな犬が彼の右腕に食らいついた。
 水たまりのような深みのあるものでなくとも、少しでも濡れているところであれば、そこを伝って移動することができるようだった。
「その体格で不意打ちとは、脅威じゃな!」
 身体のサイズに物を言わせて喜平を強引に引き倒そうとする黒毛の長兄に、『鋼仁義侠 百万扇壁』加賀乃 魅ヶ利(BNE004225)が狙いを定める。彼女の繰り出した蹴撃によって創りだされたかまいたちが、長兄の皮膚を連続で切り裂いた。
 それは長兄の頑丈な身体にはまだささやかなダメージでしかなかったが、おそらく生後初めてまともに受けたものとみられる攻撃は、注意を喜平から逸らさせるには十分だった。ぎろりと魅ヶ利を睨んだところで、喜平の右腕にかける力がわずかに緩んだ。
「いつもより頑張らないと、あたし達は倒せないわよ」
 その隙を逃さず、未明の剣『鶏鳴』がうなりを上げて襲いかかる。全身の力を爆発させた一撃は勢い良く、しかし正確に長兄だけを斬りつけた。さすがにこれに耐えることはできなかった。彼は苦悶の唸り声をあげながら、喜平の腕に食い込ませた牙を完全に抜いて小さく飛び退いた。そこはまだ、喜平の射程距離内であった。
 体勢を整えた喜平が再び銃を持ち上げ、その質量を強引に叩きつける。エネルギーを集中した一撃は、大柄な長兄といえども簡単に吹き飛ばすことができる程の力をもったもの。しかし、すんでのところで足元の水に溶け込んだ長兄を捉えることはできなかった。
 喜平の他のリベリスタ達の注意も自分に向けられている。長兄はこの状況を危険と判断したらしく、リベリスタから距離を取ろうと離れ始める。彼が移動していると見られるところは、よく見るとやや水が盛り上がったようになっており、冷静にみれば居場所を特定することは難しくない。それでもこの暗闇の中、一度見失ってしまえば再び発見するのは一苦労である。
 そのため、今のうちに少しでも打撃を与える必要がある。そう判断した『マジカルナード』六城 雛乃(BNE004267)は、四色の魔光を液化した長兄に向けて連射した。果たして物理攻撃を無効化する液化状態にも関係なく、光は次々に彼を襲った。効果のあった証拠に、光が貫くたび、野太いながらも悲痛な悲鳴が水から発されていた。

 この間、もう一匹……赤毛の次兄であるが……彼からは、リベリスタ達への妨害は一切行われなかった。兄と弟が攻撃を受けている間に何もしていなかった訳ではない。弟が攻撃を受けた段で敵達に飛びかかろうとしたところ、キリエと三郎太から放たれた気糸によって脚を貫かれ転倒していただけであった。
「足止めは成功ですねっ」
「このまま押し切れればいうことはないんだけど」
 2人のピンポイント・スペシャリティは、3つの標的を容赦なく狙う。素早く場を離脱した長兄には届かなかったが、怯んで動きを止めている次兄、地に伏して動かない末っ子の身体を次々と貫いた。
「きみの命、イタダキ……」
 トップスピードを遺憾なく発揮して気糸を掻い潜り、動けない次兄との距離を詰めた真咲であったが、愛用の三日月斧『ヘルハウンド』で斬りつけようとしたその瞬間、自分の身体に違和感を覚えた。
 斧を振り上げようとする利き腕に、力が入らなかった。それは本当に一瞬だったが、その一瞬が次兄に反撃のチャンスを与えることとなった。
 次兄が脚を『入れ替えた』。気糸が貫いた4本の脚を引っ込めると同時に、無傷の脚を4本出現させ、出し抜けに突撃したのである。
 野生のバネを活かした正面からの体当たりは、華奢な体格の真咲には十二分に有効な打撃であった。衝撃を受けきれずに転倒した真咲に乗りかかるや否や、上を向いて高らかに咆哮する傍ら、肩口から頭部をもうひとつ出現させて首元に噛み付こうとした。
「そこまでだ、放しな!」
 涼子のバウンティショットが、噛み付こうとした方の頭部を捉える。一瞬怯む次兄だったが、もう片方の頭部を向ける。そのおかげで真咲は必死に身をよじる時間が得られ、狙いを外して首ではなく肩口を噛ませることができた。

 真咲と涼子が次兄に応戦する間、他の2匹にも動きがあった。
 攻撃時の真咲の異変をみた雛乃は嫌な予感にかられ、地に伏した末っ子に視線を走らせた。額から血を流しながら、仔犬がよたよたと身を起こしかけていた。
「回復してる――」
 嫌な予感の的中を皆に伝えながら杖先を末っ子に向けようとするが、その杖を持つ手にも力が入りづらくなっていることに雛乃は気づいた。
「皆、細菌の効果範囲が広くなってる、気をつけて!」
 末っ子は回復したばかりか、その能力を強めていたのである。もはや、半径何メートルというレベルではなく、その場に居合わせる犬達以外のすべての生物に対し効果を発揮し始めていた。
 目につく範囲に生える草木はあっという間に萎れきってしまった。リベリスタ達も立てない程の状態にはならないが、襲いかかる並ならぬ倦怠感は、例えるならば38℃を超える高熱を出したかのようだった。

 そのようなリベリスタの状況を知ってか、水たまりから再び長兄が現れた。牙を剥いて唸り、先程傷を与えた喜平へと再び突撃してくる。
 魅ヶ利が業炎撃で迎撃を試みるも、踏み込みの力を十分に込められない一撃は空を切り、逆にその大きな身体全体を使ったぶちかましによって跳ね飛ばされてしまった。
 喜平はアルティメットキャノンを再び放とうとした。普段の体調であれば、長兄が跳びかかって来る前に元凶である末っ子を狙い撃つには十分な時間があったのだが、大きく鈍った身体の動きがそれを許さない。先程噛まれた場所に再び牙が深々と食い込み、肉が裂け、血が迸った。
 引き剥がすべくメガクラッシュを繰り出した未明だったが、今の状態では頑丈な彼の身体を吹き飛ばすに力不足。剣が筋肉に阻まれ、大したダメージも与えられなかった。

 事前の情報に、仔犬達がスキルを使用するというものは無かった。それが正しいのならば、この状況を作り出している存在はひとつ。
「子供たちを守っている、というわけだね」
 キリエはそう言いながらも冷静に詠唱し、清らかな微風を生み出した。その微風に包まれた三郎太に、力が戻ってきた。
 すぐに三郎太も詠唱を開始する。3匹とも健在である今、彼らを突破して母親から倒すのは難しい。しかし母親によって体力が回復されているのならば、一気に回復の及ばないダメージを与えなければならない。そのためには一瞬でも、現在の状態を脱する必要がある。
「ではいきましょう、皆さんっ」
 詠唱を終えた三郎太の声は、今度はこの雨音の中でも、とても力強く響いた。同時に、癒しの息吹がリベリスタ達全員の身体を包んだ。

 これまで弟の細菌が取り付いた敵は、長兄が噛み殺すまでに回復することはなかった。今回もそのはずだと、彼はたかをくくっていた。周囲にいる連中も、復活することはない。1人ずつゆっくりと始末してゆくつもりだった。
 そのため、つい先程自分に弱々しく斬りつけてきた未明が、肉を裂くばかりか骨をも粉砕せんばかりの破壊力をもった一撃を加えてくることなどまったくもって想定外だった。
「あたし達が弱ったところで一気に攻める、誰に習ったわけでもないでしょうに、大したものだわ」
 ぶんっ、と剣を振るった未明が、彼らの連携への評価の言葉を口に出す。
自由になった喜平が、未だによたよたと体勢を整えきらない末っ子に銃口を向けるや否や、再びアルティメットキャノンを放った。
「……死んでくれ」
 放ち際に、そう呟いて。
 強大なエネルギー弾がまたしても末っ子を飲み込む。弾丸が通り抜けたその後に、黒焦げになった仔犬がとさりと落ちた。ぴくりとも動かなくなると同時に、細菌も一緒に死滅したのか、周囲の草木が途端に生気を取り戻すかのように起き上がり始めた。

 こうなれば、もはや戦いにくい相手ではない。
「アンタも終わりだね、赤毛」
「中山さんを放してもらうね!」
 涼子の正確無比な銃弾と、雛乃が連続で放つ光が次兄の頭部を集中的に射抜く。撃たれても撃たれてもすさまじい勢いで回復していた次兄であったが、こうも集中攻撃を受けては回復の方が追いつかなくなったようで、嫌がるように身をのけぞらせた。
 すっかりもとに戻った瞬発力であっという間に脱出した真咲は、素早く起き上がり今度こそしっかと斧を構えた。
「こんどこそ、きみの命、イタダキマス」
 その線の細さからは想像しがたい、大きな斧を用いながらも光の飛沫が散るかのような華麗な連続攻撃は、身体の部位がいくつあろうと関係もなく、異形の赤犬の息の音が止まるまで切り刻んだ。

 最後に残った長兄に、もはや勝機はなかった。
 それは、先ほどの未明からの一撃によるダメージから回復した彼が、弟達の仇を討つことを強く望んだためか、それとも背後にいる大切な存在を護るためか、液化を行わずに真っ向から肉弾戦を挑んできたからであった。
 魅ヶ利の斬風脚を筆頭に、涼子達の銃弾から、キリエ達の気糸から、ありとあらゆる攻撃をその身に受けることとなった。
 その巨体がついに歩みを止めた時が、彼の最期の時でもあった。
「やっぱり、気分のいいものではないわね」
 全力の一撃で長兄の首を切り落とした未明が、目を閉じてそう言った。

 残るは、母親ただ1匹。
 息子たちを失ってなお、出てこようとしない母親。
 彼女がどのような状況にあるのか、リベリスタ達は想像する。
 念には念を。万全の体勢で、彼らは段ボールの住居へと足を運んだ。


●残された母は
 全身傷だらけで、汚れた灰色の毛に包まれたその雌犬は、既に虫の息だった。
 横たわったまま、喉の奥からかすれたような、息とも声をつかぬ音を発するだけ。
 これまでずっと、自分の力のすべてを、仔犬に注いできていたかのように。
 白く濁り、焦点の定まらないその目からは、涙が流れ出ていた。
 仔犬を失い、絶望に打ちひしがれているかのように。
「……ゴチソウサマ」
 何の抵抗もなく最後の一撃を受け入れた彼女は、二度と動くことのない塊と化した。

 リベリスタ達によって、4つの躯は一ヶ所に並べられ埋葬された。
「次に生まれた時は願わくば、母子ともども幸せな家庭に育てられますように。天寿を全うできますように」
 三郎太の言葉は、皆の心をそのまま表したかのようであった。
 雨音は、リベリスタ達が去った後も、いつまでもいつまでも響いていた。


●やがて流れゆく……
 翌日は、また激しい雨となった。
 昨夜の戦闘の痕跡が既に残らぬ橋の下へ、大きな箱を抱えた影がひとつ。
 はぁ、はぁっ。
 箱を持った少年が吐き出す白い息は、降り注ぐ雨水に溶けこむように消えてゆく。
 橋下まで辿り着いた少年は、人目につきやすい場所を探して箱を置いた。
 はぁ、はぁ……。
 息が震えるのが分かる。喉の奥から嗚咽が漏れそうになる。
 でも、仕方ないんだ。そうじゃないか。家じゃこれ以上の負担は背負えないなんてお母さんが言うんだし。
 そう。こんなに可愛い子供なんだから、誰かが拾ってくれる。だから大丈夫。
 自分に言い聞かせながら、震える手で箱の蓋に手をかける。
 か細く、鼻を鳴らす声が中から聞こえた。
 最後にひと目見ようと蓋を開けかけた手を、それ以上動かせなかった。少年は雨の中、踵を返して一目散に走り去った。

 残された箱。
 隙間から滴り落ちた冷たい雨水がじわりじわりと染み込み始める中、身を寄せ合った生後間もない仔犬達が小さく悲しい声をあげる。
 徐々に弱まりつつあるその声は、規則正しく降り続ける雨音と、流れる勢いを増す川音に飲まれ、誰の耳にも届かなかった。
 その生命がやがて別のものへと変異を始めても、誰にも気づかれることはなかった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
皆様、お疲れ様でした。
エリューションビーストは無事全滅、依頼は成功となりました。
癖のある3体でしたが、皆様の作戦通り、Cの末っ子から倒せたことで
その後の戦闘を非常にスムーズに進められました。

ラストは、少々後味の悪い終わりとなってしまいました。
根本的な解決は中々に難しい問題ですが、
こうした存在を生み出さないためにも、
家族は大切にしてゆけたらと感じるところでございます。

ご参加頂きまして、誠にありがとうございました。
リプレイの公開が遅くなってしまい、申し訳ありません。
また別の依頼で皆様にお会いできた際には、何卒宜しくお願い申し上げます。