● 串刺しの庭 西洋の城をモチーフに、その施設は建築された。本来は、貴賓館という海外からの重客を迎えるために明治の頃に建てられた建物だ。 時代は流れ、今は歴史的建造物としての役割しか担っていない。当然、その施設で過ごす者もなく、見物人もまばらであった。 ところがある日、施設の警備員に見物客から通報が入る。これが異変の始まりであった。 その内容は 『施設内に、タキシードにマントを着た怪しい男がいる』 と、いうものであった。 聞くからに怪しいその容貌。マンガか、そうでなければコスプレでしか見ない外見。訝しげな表情を浮かべながらも、警備員は監視カメラを見やる。 数カ所カメラを回して発見したのは、なるほど確かに、先ほど言われた通りの不振な男性の姿であった。その隣には、ドレス姿の少女も居る。 不思議なことに男性の周囲は、景色が暗く淀んで見える。 優雅に廊下を進み、男性は施設最上階の執務室へとたどり着いた。 そこで男性は、椅子に座して目を閉じる。 その直後、だ。 館の床や壁、更には館周辺の地面にまで無数の深紅の杭が飛び出してきたのは。 鮮血を吸ったような深紅の杭。警備員の眼前からも飛び出してきた。 杭が頬を掠める。痛みと、熱。溢れる血が杭に吸い取られていく。 堪え難い恐怖を感じ、警備員は施設を飛び出した。口から溢れるのは情けない悲鳴ばかりだ。 施設の外は、野犬や小鳥の死骸が散乱していた。どれも血を抜かれ、干涸びている。深紅の杭の餌食になったのだろう。 自分が助かったのは単なる偶然。自分はひどく幸運だったことを悟った警備員は、脇目もふらずにその場を全速力で後にしたのだった……。 ● かの者は吸血卿 「アザーバイド(ブラッド・マッド卿)。異世界から異世界へと旅をする変態コレクター」 モニターに映った貴賓館は、小さな城に似ている。城をモチーフに作られた、洋風建築であり、今は街の歴史的建造物の1つに過ぎない。 長らく主不在であったその館に、今は1人、招かれざる主が居座っている。 タキシードにマントという奇怪極まりない姿の男性(ブラッド・マッド卿)だ。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はやれやれとため息を零す。 「卿はDホールからDホールへと旅をしているアザーバイド。彼のコレクションは、その世界の生物の血液」 卿にとって、血液がどういった意味を持つのかまでは、イヴにも分からない。 ただ分かるのは、彼がひどく残虐で、そして無慈悲に、生物の血液を欲している、ということだけだ。 「卿は自分のテリトリーを決めたら、その場を中心に狩りを行う。もっとも、本人はあまり外出を好まない」 主に血液を狩ってくるのは、卿の能力である(深紅の杭)と、卿の娘である(ブラッド・マリー嬢)だ。 「杭の発動は、卿及びマリー嬢の任意によるもの。こちらが杭によってダメージを受けると、卿の体力が回復する。同時に発動させることが出来るのは、二ヶ所までみたいね」 杭は館内の壁、床や天井、それから館周辺の地面に予め無数に設置されている。杭の近くに獲物が来れば、後はそれを発動させるだけ。 それだけで、杭は獲物に突き刺さり、卿ご所望の血液が手に入るのである。 「卿やマリー嬢に獲物の位置を教えているのは、辺りを飛び回っている(B・B)と呼ばれるコウモリ達ね。メタルフレームやビーストハーフより、ジーニアスなどより人に近い外見の者から優先的にターゲットに選択するそうよ」 恐らくは、そのような指示を卿から受けているのだろう。 卿の元にスムーズに辿り着くには、種族の違いを上手く利用するのが効果的かもしれない。 「警備員が警察に連絡して、現場に到着するまでおよそ30分。状況により到着時間は前後するから、注意して」 現在、貴賓館周辺は串刺し卿の庭と化している。 「Dホールの存在は未確認。まだ有るか、それともすでに消失したかは不明。あるとしたら館の周辺だろうけど……。討伐、送還はお任せするわ」 そういってイヴはモニターを切り替える。画面に映ったのは、干涸びた動物の死体の山だった。どれも血を抜かれ、ミイラと化している。 異世界からの侵入者を排除すべく、リベリスタ達は立ち上がった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月25日(土)23:22 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●狩り場に狩人 干からびた死体と、漂う血臭。不気味な気配の漂う洋館と、飛び回る蝙蝠達。大きな洋館のどこかに、アザーバイドが潜んでいるという報告を受け、リベリスタ達はこの場へと足を運んだ。 異様な雰囲気を察してか、通行人の姿は無い。 近くに誰もいないのを確認して、『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)は強結界を展開する。 「さてと、これでこの館に用事があるのは我々だけだね」 これで、よほどの事が無い限り、この館の周囲に人が集まる事もないだろう。 どういうわけか、人と言うものは危険な場所ほど興味本意で覗きたがるようなのだ。普段はなんの変哲もない洋館だが、今に限って言えば非常に危険な怪物の根城だ。 「吸血鬼、というわけではないんでしょうね。単純な血液コレクター…お近づきにはなりたくないですね」 ミイラと化した鴉の死体を足で突きながら、『荊棘鋼鉄』三島・五月(BNE002662)は呟いた。現状、相手側の仕掛けた罠は発動していないが、この場に鴉や野良犬の死体が転がっているということは、すぐ近くにも罠はある筈だ。 「ワラキアのヴラド公爵みたいな人なんでしょうか。やーん、凄く怖いですよう」 千里眼で館内の様子を窺い、その見取り図を紙に移す作業を続けながら『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)は言う。 館内、及び、罠の位置も図面に印せば突入の用意は完了である。 厄介かつ迷惑な来訪者を殲滅すべく、リベリスタ達は洋館へと乗り込んでいく。 ●嗜血症の怪人 館周辺は、罠だらけだ。どこから入っても同じだろう、という結論に至り正面から乗り込む事になった。当然、こちらの存在は敵方にばれている。正面玄関付近で、早速罠が発動した。 地面と壁から、同時に数本の杭が飛び出してくる。 紙一重でそれを回避した『アカイエカ』鰻川 萵苣(BNE004539)だが、杭の先が肩を掠める。 流れた血が、一瞬で杭に吸い込まれた。 「血を吸うわけでは無くて集めるタイプの吸血鬼なのですね。敵パパと娘は採血が大好きなので採血鬼でいいでしょう」 吸血の能力を持つ萵苣からしてみれば、犬や鴉の血など吸う気にはならないようだが。集めるだけ、というのなら別なのかもしれない。もっとも、ブラッド卿とマリー嬢が、集めた血をどうするのか、現状誰にも分かってはいないのだが。 飛び出した杭を潜り抜け、リベリスタ6人は館内へと駆け込んだ。 擦れ違いざまに『アーク刺客人”悪名狩り”』柳生・麗香(BNE004588)の刀が一閃。杭の先端を斬り落とす。 「ボトムの戦士達からの採血は結構難儀シマスヨ」 「建物丸ごとたぁ派手にやってくれんじゃねェか。ふざけた野郎だな……気に入らねェ……」 麗香に次いで『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)がそう告げた。刀に手をかけている辺り、彼もまた麗香同様に杭を斬りつけようとしたのかもしれない。 ともあれこれで全員、館内への侵入は成功だ。 館内の何処へ行っても、蝙蝠の姿が散見された。ブラッド・マッド卿の下僕であるB・Bと呼ばれる蝙蝠の群れだ。 「BBについてはアンテナのようなものだな」 セッツァーの放った魔弾がBBを撃ち抜き、消し飛ばす。焼け石に水あろうが、このまま放置し追跡されるとマッド卿やマリー嬢にこちらの居場所がばれることになる。 否、すでにバレているのかもしれない。 それなら、何故罠が発動しないのか。 「この先、しゃがんで移動してください」 イスタルテの指示でBBの死角や罠を回避して移動しているとはいえ、これだけの数のBBが存在しているのだ。こちらの場所がバレていないわけがない。 マッド卿、マリー嬢の居場所はあるていど分かっている。マリー嬢に関しては、移動をしているので正確な位置は定かではない。 万が一の場合に備え、五月は拳を握りしめた。 そんな五月の隣では、萵苣が自分の肩にとまった蝙蝠を撫でている。同じ蝙蝠でも、BBと違って人に慣れた風である。萵苣のペットであるヒキコーモリだ。 「大丈夫、かわいさだけなら君が一番だから」 そう呟いて、蝙蝠の頭を撫でる。何気なく、窓の外を飛んでいたBBへと視線を投げる萵苣。 次の瞬間、萵苣の動きが凍りついた。 『あっはー♪ 侵入者?』 甲高い高笑いと共に、ドレスを着込んだ少女が窓を蹴破り飛び込んできた。真っ赤な眼に、尖った犬歯、白い肌には染み1つない。 それと同時、周囲の壁や地面から無数の杭が飛び出してくる。発動させたのはブラッド・マリー嬢だ。真っ赤な杭が銀次の肩を貫いた。血を吸われ、銀次の顔色が急速に悪くなる。 「……っ!? 喜ばしいなぁ、叩っ斬るには十分すぎる理由が出来たぜ」 刀を引き抜き、銀次が飛び出す。銀次の斬撃を踊るように回避し、マリー嬢は楽しげに笑った。 飛び出した杭を、麗香が斬り落とす。 杭の断面から、ドロリと大量の血液が零れた。 「ボトムで血をとっちゃダメ!死んじゃうじゃん」 一度発動した罠は、壁や床に戻るまでの間無防備だ。破壊するのは容易であった。 もっとも、それら全てに対処していては時間がいくらあっても足りはしない。 「抑えます」 拳に炎を纏わせた五月が、弾丸のような速度でマリー嬢へと跳びかかった。 マリー嬢の腕から血が滲む。形作られたのは剣である。両手に持ったその剣を、踊るようにして振り回す。 血の滴を巻きながら旋回する真っ赤な刃の真下を潜り、五月がマリーへ肉薄した。 『きゃはははは!! なに!? 早いのね?』 ドロリ、と血の刃が形を変える。まるで棘のついた盾のような形状に変化し、マリー嬢の身体を覆った。炎を纏った五月の拳が、盾を殴る。 「っ……。急ぎ片づけてしまうとしましょうか」 血の盾が、炎で蒸発し周囲に赤い霧が漂う。棘に貫かれ、五月の拳から血が流れるが、しかし五月は止まらない。大きく一歩踏み込むと、そのまま力任せに盾ごとマリー嬢を殴り飛ばした。 『っは!?』 楽しげな笑い声は、マリー嬢のものだ。吹き飛ばされながらも、血の盾を再度剣へと変化させる。壁を蹴って、身軽に宙を舞う。 左右から振り下ろされる剣を、それぞれ銀次と麗香が受け止めた。火花の代わりに血飛沫が飛ぶ。跳んだ血で頬を赤く染めながら、マリー嬢は恍惚と笑む。 『う、ふふふ……。強いじゃない!』 ドレスの裾を翻しながら激しく舞うマリー嬢。呼応するように、BB達も一斉にリベリスタへ襲い掛かる。数が多いBBは、視界の隅を横切るだけで鬱陶しい。おまけに、BBの攻撃の合間に、杭の罠やマリー嬢の斬撃も飛んでくるのだ。 「マリー嬢は少々アクティブみたいですね」 マリー嬢やBB、罠を避けるように萵苣が後退。飛び散る燐光が仲間の傷を癒す。彼女の役割は、後方からの支援である。傍らに控えた萵苣のペット蝙蝠が、彼女を守るようしてにBBを威嚇していた。 『あっははははは!』 蝙蝠の群れに混じって、血液の弾丸が飛び散った。その直後、無数に枝分かれしたマリー嬢の剣が最前線で戦っていた麗香と銀次の身体を貫く。 「ここはやられたらやりかえす、が基本なんでね」 腹部から血を流しながらも、麗香は刀を大上段に振りかぶる。罠も、血の剣も無視して渾身の一撃を、マリー嬢めがけて叩き付けた。 素早く血の盾を形成し、斬撃を防ぐマリー嬢。硬質な音が響き、血の滴が跳んだ。 「悪ぃな……。バッサリだ」 『んなっ!?』 戸惑いの声をあげるマリー嬢。いつの間にそこに居たのか。銀次による背後からの攻撃を受け、よろよろとその場に膝を付く。素早く罠を発動させ、追撃を防ぐがマリー嬢は痛みに顔をしかめて、呻く。 背中を抑えながら立ち上がるマリー嬢。挑発するように銀次は笑う。 『覚えてなさいよ』 瞬間、BB達が一斉に飛び立つ。館の廊下が黒く染まる。 窓から飛び出していくBBに紛れ、マリー嬢も逃げ出した。 「逃げられました。上階です」 窓辺に駆け寄るイスタルテ。千里眼でマリー嬢の行き先を追跡する。よし、と頷き後を追おうとする麗華と銀二をイスタルテが引き止める。 現場に残った蝙蝠を片づけながら、セッツァーが小さく溜め息を零した。 「すぐにEPを回復しよう、少し待ってくれたまえ」 リズムを刻み、タクトを振るう。 飛び散った燐光が、タクトに導かれるように仲間達へと降り注ぎ、失われたEPを回復させた。 体勢が整ったことを確認し、一同は再度、館の侵攻を開始する。 罠を回避し、BBの監視を潜り抜け、そして辿り着いたのは執務室。イスタルテの千里眼によれば、ここにマッド卿が潜伏している。 ドアの前で体勢を整えるリベリスタ達の鼻に、濃い血の臭いが届く。部屋の中からだ。 「行くぞ」 銀次がドアを大きく開いた。むせかえるような血の臭いが空気を侵す。赤く煙った視界の中に、タキシードにマントという怪しい洋装の男がいた。牙を剥きだし凶暴な笑みを浮かべるそいつは、ブラッド・マッド卿に違いない。 部屋の中は真っ赤だった。壁一面から血が滲んでいるようだ。今まで収集された、生き物の血だろう。血まみれの部屋で笑うマッド卿は、まるで獣のような気配を発していた。 『ようこそ。娘が世話になったみたいだね。丁度いい』 パチン、と指を鳴らす。 『血だけで結構、置いていってもらう』 なんて、一言。 窓が割れて、無数のBBが部屋に飛び込んできた。 「マ、マリー嬢の姿は見当たりません!」 戦場を見渡し、イスタルテが叫ぶ。襲いかかるBBを指先から放つ弾丸で撃ち抜きながら、罠の位置を確認する。 瞬間、イスタルテの表情が青ざめた。執務室の壁や床の、ほぼ全面に杭が仕掛けられていたからだ。 「こうも……多いと」 BBに巻かれながら、五月が唸る。マッド卿へ向かって突き進む五月、麗香、銀二の3人はしかし、飛び交うBBやマッド卿の発した血の霧に阻まれ前へ進めないでいた。マッド卿はそれを見て、にやにやと笑っている。 今だ、執務室の机から動いてさえいない。 「集めた血はこうやって使うんですね。だったらなにも聞かずに殺してあげましょう」 執務室入口付近から回復やサポートに従事していた萵苣は言う。ダメージを受けた仲間を即座に回復させる。 『ふむ……。鬱陶しいな』 萵苣の役割を察したマッド卿がパチンと指を鳴らした。数秒の後、廊下の奥から羽音が聞こえ始めた。振り返った萵苣が眼にしたのは、真っ黒に染まった廊下であった。蝙蝠の群れである。 「ひぇっ!?」 思わず口から、奇妙な声が飛び出した。肩にとまったヒキコーモリも口を開いて動きを止める。大量の蝙蝠に飲み込まれ、萵苣の姿は廊下の先へと流されて消えた。 「卿と戦っている間に、娘が乱入というパターンは防ぎたいね」 タクトを振りあげ、セッツァーが言う。宙に描かれた魔方陣から、無数の魔弾が解き放たれた。一直線に疾駆する魔弾が、蝙蝠たちを薙ぎ払う。魔弾はマッド卿の直前で消えたが、道は開けた。 十分だ。魔弾の影に隠れ、五月が疾駆する。炎を纏った五月の拳が、マッド卿の眼前に迫る。一瞬前まで余裕の表情を浮かべていたマッド卿だが、その眼に初めて焦りの色が浮かぶ。 「お近づきにはなりたくないのですけどね」 五月が呟く。彼女の拳が、マッド卿の顔面に突き刺さる、その寸前。 パチン、と小さな音が響く。床や天井から飛び出した無数の杭が、五月の身体を貫いた。 ごぽ、と血の泡を吐きだす五月。その全身から力が抜ける。 『はァい……。お待たせ』 『おお、マリー。助かったよ』 マッド卿のその背後、窓枠に腰かけたマリー嬢がひらひらと手を振る。 一閃、二閃と刀が閃く。五月の全身を貫いていた杭が切断され、五月の身体が床に落ちる。 杭を切った勢いそのままに、麗香と銀次がマッド卿へと切り掛かる。落下してきた五月の身体をイスタルテが受け止めた。 「あ、危ない」 飛び出す杭を寸前で回避。翼を広げて、一気に後退する。 「少々厄介ですね」 BBの群れから抜け出し戻って来た萵苣がイスタルテから五月を受け取る。襲いかかるBBの群れを前に、2人の表情は青ざめた。 「ボトムに飢える……。噛む、変態さん」 麗香の刀が閃いた。斬撃をすり抜け、マリー嬢が麗香の首筋に喰らい付く。それを引き剥がし、蹴飛ばす麗香。激しい戦闘が窓際で繰り広げられる。 こうやって肉薄している限りは、杭による攻撃を受けることはない。 それを察して、麗香と銀次の2人はマリー嬢とマッド卿に接近し、戦闘を続けている。 「ぶち壊しちまえば、罠もなにもねぇだろ!!」 鋭い斬撃を何度も繰り出す銀次。マッド卿はそれを逐一回避するが、その度に壁や床、そこに仕込まれた罠が切り裂かれて破壊される。 暴れまわる銀次を前に、マッド卿は大きく後退。それに合わせ、マリー嬢も卿の傍へ。マッド卿の放った血の鎖が、2人の身体を覆い隠す。 ●血の誘い 血の鎖を破壊すべく接近すれば、鎖の隙間からマリー嬢の攻撃が飛んでくる。 離れれば杭が発動する。 攻めあぐねる麗香と銀次の、その傍にセッツァーと、戦闘不能から無理矢理復帰してきたらしい五月が近づく。 「パパ娘両方討伐しかありませんね」 萵苣の回復術が仲間達の傷を癒す。その隣ではイスタルテがBBを撃ち払いながら、罠の位置を確認していた。 戦闘の末、罠の一部はすでに壊れてしまっている。 その場をそっと、イスタルテは指示した。それを受け、セッツァーはタクトを掲げる。 「さてと……。ワタシの奏でる曲は少々荒っぽいのだよ」 展開された魔方陣は4つ。放たれた4色の魔光が、執務室を埋め尽くす。光の奔流に嬲られ、BBごと、血の鎖が消しとんだ。 その直後、五月、麗香、銀二の3人が飛び出す。その様はまるで一陣の風だ。 『やっば! あぁぁぁぁぁあもう!! ちょっと血が欲しいだけなのにもおぉぉぉぉぉ!!』 ばりばりと頭を掻きむしりながら、マリー嬢は叫ぶ。杭の罠が一斉に発動。 だが……。 「負けるのは嫌いです」 広げた両腕を五月が振り回す。その腕を包んだ豪炎が、杭をへし折り、焼き尽くす。無数の杭が再度、五月の身を貫くが彼女はその足を止めなかった。 血を流しながら、そのままマリー嬢へと跳びかかる。 マリー嬢の身体を壁に押しつけ、頭突きを喰らわせた。鼻血を流しながら、メリー嬢が呻く。 『マリー!!』 マッド卿が叫ぶ。その眼前に、影が2つ。麗香と銀次だ。 「人の心配してる場合ですかー? 多種多様の生物の狩られた命のうらみ思いしれやー!」 大上段から振り下ろされた麗香の刀が、マッド卿の片腕を斬り落とした。噴き出す鮮血が麗香の頬を濡らす。切断された腕の断面から流れる血が、意思を持って蠢いた。マッド卿の放った血の鎖が、銀次の胴を貫いた。 「俺の血は高ぇぜ? 御代は、てめェの首でいい。さっさと置いていきなァ!」 下段から振りあげられた銀次の刀が、マッド卿の首を斬り飛ばす。血の雨が降る。マッド卿の身体が、その場に倒れる。 『パパ!! そんな!』 五月の身体を蹴飛ばして、マリー嬢が飛んだ。マッド卿の首を抱きかかえ、彼女は窓から外へと飛び出す。 後を追って麗香も窓から飛び出した。 しかし、追いつけない。壁から飛び出す杭が麗香の追跡を阻む。 館の真下、茂みの影にDホールが見える。 『覚えてなさいよぉぉぉぉお!!』 ヒステリックな金切り声。それを最後に、マリー嬢は、卿の首を抱えて元の世界へと帰って行った……。 後に残された麗香は、地面を濡らす血の跡を見つめ、小さな溜め息を零す。 血塗れの館と、マッド卿の身体だけ残して、異世界からの来訪者は消えたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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