● 人々の生活豊かになるにつれて、土がむき出しになった道はほとんどなくなった。これはよいことだ、とヒタチクニノスケはゴトゴトと上下に揺れるローラーの上でぼんやり思う。 全国津々浦々、隅々まで道は舗装されなくてはならない。 でこぼこした土の道は、雨が降るとそこかしこに水たまりを作る。茶色く濁った水たまりの上を車が走ると、泥水をはねあげて歩行者の服をよごす。雨があがったらあがったで、乾燥してた土がホコリとなって空気中に舞い上げるだろう。人が気持ちよく歩き、車を快適に走らせるためには、道の表面をしっかりと固めなければならないのだ。 会社経営も同じだ。 立ち上げたプロジェクトが気持ちよく動き、金が流れるように入ってくるためには道……すなわち人員の整備が不可欠であった、とヒタチクニノスケはローラーを反転させながら考える。 中途半端はいけない。 だから今度こそ、泣かれようがののしられようが、毅然とした態度で「協調性のないもの」「反抗的なもの」「その他どうしようもないもの」をしっかりと圧し固めなければならなかった。 もちろん、その中には地元の反対者たちも含めるべきだろう。 ● 「ブリーフィングを開始します」 『運命オペレーター』天原 和泉(nBNE000024)が宣言するなり室内の明かりが落とされた。巨大モニターに建設中の道路らしき風景が映し出される。 どこの田舎町だろうか。田んぼばかりが目立つ土地の向こうに、ぽつぽつと四角い建物が見えている。画面の中央では細い雨の下で湯気をあげる黒いアスファルトの上を、一台のローラー車がゴトゴトと上下に揺れながら奥から手前へゆっくりと向かってきていた。 誰かが薄闇の中で、ずいぶんとでこぼこした道だな、と言った。 「音声を入れて、画面をズームしてください」 和泉が固い声で告げたとたん、ブリーフィングルームにはっきり人の声と分かる悲鳴やうめきが響いた。 拡大された映像は、まだ柔らかいアスファルトに埋まる人の頭や肩、助けを求めて伸ばされる焼けただれた小さな手を映したものだった。 と、画面の手前から棒のようなものが伸びて、その小さな手をぐいっと黒いアスファルトの奥へ沈めた。 次々と画面に現れる棒の先には板が取り付けられており、もがき出ようとしている頭をぐいぐいアスファルトの中に押し込んでいく。棒に押され、縮れて短くなった髪の毛ごとずるりと皮がとれて白い頭蓋骨がさらされるシーンもあった。 「数時間後、この村の人々はすべて道の舗装素材としてノーフェイスたちに殺されてしまいます。放置すれば道の先にある村や町の人々も同じ運命をたどるでしょう」 泉が手を振るとモニターの電源が落ち、室内が明るくなった。 「ノーフェイスたちのボスはローラー車を運転するヒタチクニノスケです。残念ながら万華鏡では彼が何者で、いつ覚醒したのか。そしてなぜこのような残虐行為を行っているのかがわかりませんでした。ですが――」 そんなことはどうでもいい。些細なことだ。指で落ちたメガネを押し上げると、和泉は毅然と顔をリベリスタたちに向ける。 「ヒタチクニノスケ以外にノーフェイスの作業員が12体、Eゴーレム化したローラー車が一台。すべて倒してきてください。そして……放置しておくとエリューション化して人や動物を飲み込んでしまう道路も撤去願います」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月24日(金)22:15 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 舗装工事は忙しい。 現場は器械が立てる音以外は案外静かで、作業員たちは根を詰めながらもくもくと作業をしていた。この仕事は一発真剣勝負。アスファルト合材が柔らかいうちに仕上げなくてはならなかった。 そこへ招かざる客、作業を妨害せんと反対派テロリストたちが現れたのだ。 まったくもって腹立たしい! 「すべては平らに……わたしの手、いやこのローラーで美しい道へと生まれ変わらねばならぬ。なぜ、そのことを理解できないのか?」 馬鹿ですか、阿保ですか。 嘆いていても仕方がない。突然のトラブルに対処するのもリーダーの役目だ。 ヒタチクニノスケは垂れた頬をぷるっと震わせると、均したばかりの道から飛び出る骨をトンボで砕いていた作業員を呼んだ。 「あれらにもこの道の礎となってこの場所に残り、この仕事を遥か未来まで伝えてもらおう」 はやくみんなに伝えろ、と手を振った。 ヒタチ建設は県の道路公社が発注するこの道路建設工事を、担当者を買収して最低制限価格を聞き出し、ぎりぎり採算の取れる額で落札した。倒産の崖っぷちに立たされていた会社を守るため、どうしても仕事を取らなくてはならなかったのだ。 それが地元住民の反対にあって中止となった。 突然、ここには山の神を祭った祠があっただの、落ち武者の首塚があっただの、嘘八百の迷信を並べだしたのだ。反対運動は盛り上がり、全地元住民の名が記された請願書署名簿が提出され―― 作業員の悲鳴がクニノスケの意識を、今敷かれたばかりのアスファルトの熱気の中に呼び戻した。 ● 「救えない相手がいるっていうのはやっぱり辛いわね。最初から決まってるなら尚更」 『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は胸のクロスに手をかけた。口より発せられた呪文が淡い光となって仲間たちの背で翼となる。 「ドカンと一発大掃除! こんなはた迷惑な気持ち悪い道は要らないわよ!」 とん、と地を蹴って空に浮かんだ『黒き風車と共に在りし告死天使』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)の憤慨の声に、『ヴァルプルギスナハト』海依音・レヒニッツ・神裂(BNE004230)がええ、と頷く。 「年末調整でもあるまいし、こんなところで道路作成だなんて酔狂にも程があるわね」 海依音は杖をノーフェイスとなった作業員たちへ向けて、「人柱みたいね。そんなことしても貴方たちはもう助からない」と宣言した。 『攻勢ジェネラル』アンドレイ・ポポフキン(BNE004296)は一歩前に進み出ると、薄い幕のような雨を降ろす天に向けて腕を上げた。 「整備された道は好きデスヨ。故に貴様等の血で赤く染めて整備して、我等に相応しき凱旋の道とシマセウ。さぁ戦争でゴザイマス」 振り下ろした腕に万感の思いを込めて、アンドレイは仲間たちの力を引き上げる。 「面白い事やってるじゃーん! 混ぜてよ、気に入らない奴を黙らせるんだよね」 被帛(ひはく)のような黒いオーラを後ろへたなびかせ、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)が一番に飛び出していく。 狙いはダンプトラックの車輪。 漆黒の刃がタイヤゴムを切り裂いた。 爆発音とともに砂利が空気圧で吹き飛ばされた。トラックの車体が前に傾き、鉄板のフェンダーが無残な形に歪む。 タイヤ近くにいた作業員が、破裂の衝撃で吹っ飛んだリングに当たって倒れた。 「わっ!」 同時に石つぶての洗礼を受けて叫び声を上げたのは、ほぼ魅零の真横にいた『墓守』ノアノア・アンダーテイカー(BNE002519)だ。 やはり前衛に出ていたフランシスカも少なからず石つぶてを受けたようで、思わぬ痛みに唇を震わせている。 大型ダンプともなればタイヤの空気圧は9キロ。すぐ近くで破裂すれば噴き出した空気だけでもかなりダメージになる。砂利混じりともなれば立派な凶器だ。 「はわぁ! ノアノア、フランシスカ、ごめんね」 ノアノアは被弾して血を流す腕を降ろした。やはり血で赤くした手を合わせる魅零に顔を向けてにっと笑った。 「こんな話を知っているかい? 道って言う字に首が入っているのは、呪いとして首が使われていたからって話さ」 こんなのは傷のうちに入らないとばかりに、ぺろりと舌で流れる腕の血をなめとる。 「人身御供を供えた安全祈願なんざ古すぎるだろ? 何時代だって言うんだよなあ?」 ノアノアの片顔がまばゆい白に塗り消された。 アンドレイが放った光によって、タイヤ破裂のショックから立ち直りつつあった作業員たちが再び動きを止めた。 フランシスカの後ろから『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)が気糸を放って、辛くもフラッシュバンから逃れた作業員を縛る。 風に体を運ばせて、『ロストワン』常盤・青(BNE004763)がノアノアたちの前へ出た。 「人の命を踏み拉き、屍と怨嗟の上に築いた道が平らな筈がない。彼の道は今日ここで途切れる」 青はぎくしゃくとした動きで体を回す作業員へ全身から発した生糸を飛ばし、肩に担がれた村人を巻き込まないように作業員の下半身を縛り上げた。 風向きが変わってコールタールの脂臭い臭いがリベリスタたちの鼻を覆った。 悪臭に怯んだのもつかの間、フランシスカがその瞳にとらえたすべての作業員たちに暗黒を叩き込む。 湯気を上げるアスファルトの上に落ちた村人は、ノアノアが素早く抱え上げて冷たくぬかるむ田んぼへ放り込んでいく。 小夜香は仲間の傷をいやすため神聖の息吹を出しつつ、ハイテレパスで田に落ちた老人たちへ「逃げて」と避難を呼びかけた。 (自力で逃げて欲しい。出来れば他の人の事も気にかけて。それと……既に埋められた人達は助けられない) 正直に、包み隠さず。小夜香は事実を淡々と伝え続ける。 田んぼに落ちた老人たちはみな気絶しているかもしれないが、やらないよりはマシだ。後はなるべく回復の息吹や風に助けた老人たちも巻き込んで、命を繋ぎ止めるしかない。 戦闘開始早々に、リベリスタたちとの圧倒的な力の差におののき、クニノスケの命令を無視して逃げ出そうとする作業員が出てきた。 動きを察したアンドレイが、エスケープを発動させてなるものか、と素早く作業員の前に立ち塞がる。 「何一つ逃がしませぬ」 立ち止まった作業員の様子から腰を痛めていることを見抜いたアンドレイは、「ураааа!」と断頭台の刃を横に薙いだ。 腰からずっぱと断ち切られた胴体が、口を開いた頭とともに横倒れた。ジュッと肉の焼ける音と匂いの中で、主を失った脚が小便を漏らしながらがくがくと震える。 荷台から見ていた作業員が村人をアスファルトの中に投げ捨てた。ダンプカーから飛び降り山へ向かって走り出す。 アンドレイの背から回り込んだ魅零が逃げる作業員の進路をふさいだ。 「因果応報。殺すのであれば殺される覚悟はとっくにお済だよネ☆」 雨の中で咲かせた可憐な笑顔とは対照的に、口から発せられたのは「きしし」と下卑た笑い声。 魅零はまるで挨拶でもするかのように手にした獲物をさらりと振るった。 頭を失くした首が血を吹きあげる。 その上を超えて赤いシスター服の裾をさらに赤くした海依音が、アスファルトフィニッシャの上に降り立った。 ゴリュッ……ベキベキ…… 足元で生きたまま粉砕される人骨の音と振動をあえて意識から締め出すと、罪深きシスターはゴトゴトと上下に大きく揺れるキャタピラ駆動の舗装器械の上でまっすぐ顔をローラー車のクニノスケへ向け、全身から強烈な閃光を放った。 火を噴くバーナーを掲げ持つ武装作業員もろとも、アスファルトに埋められ半ばノーフェイス化した村人たちを神聖なる裁きの光が焼き尽くす。 「神の運命が祝福しなかったなんて言い訳はしないわ。ワタシが殺した」 両脇にたらした拳を強く握りしめながらも、海依音は毅然と言い放った。 罪は罪。 覚醒したその時から、この手で落とした命を背負い、心に傷を刻んで生きていく覚悟はできている。 「灰は灰に塵は塵に!」 海依音は決意も新たに、まだ息のある作業員と呪いの声を上げる道に攻撃を重ねた。 アスファルトフィニッシャの傍にいた作業員が、合材の過不足を均していたトンボを振り回してシスターに襲い掛かった。 青は老人が焼けたアスファルトと砂利の中に落ちるのも構わず、荷台にいた作業員と一緒に武装作業員を大鎌の刃で巻き込んで切り刻んだ。 荷台で上がった断末魔に、青年の目は一層深い闇を帯びて陰る。 「大丈夫、見ないふり、聴こえないふりは得意だから……。ボクは、ヒーローにはなれない……」 青のつぶやきは頬に一筋の傷をつけて飛び去ったコップによって断ち切られた。 アスファルトフィニッシャの横にはたいてい水の入ったジャーとコップが幾つかぶらさがっている。作業員が仕事の合間に飲むためのものだ。 エスケープし損ねた作業員が、水ではなく熱したアスファルトをコップに入れて暗くかげるやみくもに投げつけていた。 あらかた村人の救助を終えたノアノアが青と作業員の間に割り込んでブロックする。 真昼は姿を消した作業員の探索を一瞬だけ切り上げ、生糸でコップの中にアスファルトを詰めている作業員を縛った。 ノアノアが攻撃しようと武器を構えたところへ、アスファルトフィニッシャの上から別の武装作業員がタックルしてきた。抱きつかれたまま湯気を上げる道に押し倒された。 「ひょー! 超忙しいなオイオイ。モテるってのも辛いもんだなァ!」 埋められた村人の手が伸び、ノーフェイスを振りほどいて立ち上がろうとしたノアノアの足首をがっしりと掴む。 「わりぃな、お前らに構ってる暇ねえんだわ!」 黒山羊は黒い道の中から浮かび穿ってきた歪んだ頭をサッカーボールのごとく蹴った。 首から千切れとんだ頭がアスファルトフィニッシャの0ナンバーに当たって鈍い音を立て、足首を掴んでいた手から力が抜けた。 すぐさま小夜香からもらった翼を広げて上へ逃げる。 「祝福よ、あれ」 ノアノアは小夜香からの回復を受けてダメージから立ち直ると、黒く焼けただれた腕を伸ばす道の呪いを解除した。「邪魔よ! お前、さっさとそこをどきな!」 生糸にからめとられて身動きの取れない作業員を、フランシスカが一閃、暗黒の波動を迸らせた剣でたたき切った。 ――と、フランシスカの黒い翼の下から、いきなりエスケープで消えていた作業員が這い出てきた。 腕を伸ばしてフランシスカのスカートの裾を捕まえると、ぐいと下へ引っ張った。 「きゃ!?」 ノアノアが上から作業員の頭へ踵を何度も落とすが、作業員はスカートを離そうとしない。何がなんでも道の中に引きずり込もうとしている。 「この変態! お前と一緒に黒焦げになるなんてお断りよ!」 横手から青が鎌を振るって作業員の両腕を切り落とした。 アスファルトの上で血踊りを見せる作業員にトドメを刺したのはフランシスカだ。 作業員がこと切れると、振り下ろした剣の先をあげて覚醒したローラー車とクニノスケへ向けた。 「後はお前たちだけだよ! 覚醒した経緯は知らないし知ったこっちゃ無い。お前が強そうなら楽しんで叩く。強くないなら仕事だからさくっと終わらせる。ただそれだけよ!さぁおいで!」 ● 「うむむ……」 ローラー車を動かし続けるクニノスケの前に、真昼と魅零が立ち塞がった。ローラーに巻き込んで均してやろうと思っても、相手が空を飛んでいたのではやりようがない。 それでも万が一のことを考えて、ふたりのリベリスタは止まらないローラー車の前から横へ回り込んだ。 「こらっ! 何をするか!」 恫喝を受けても魅零たちの手は止まらない。 横手からローラー車を破壊しつつ、真昼がクニノスケに問いかけた。 「ヒタチさんは人だった頃、何の為に道を作ろうと思いましたか」 「なに?」 「道は人の為に在るんだとオレは思うんです。事業の為だけに、作られる為だけに作られた、人に利用されない道ってすごく寒々しいから」 「ガキが! 聞いたような口を……ええい、黙れ!」 「救えない人達を見捨てるオレに言えた事じゃないですけど、もうやめましょう。血で塗り固められた道を誰が歩きたいと思うのですか?」 「やかましい! 首だ! とっとと、失せろ!」 見えない圧力の刃が真昼の体を捉えて吹き飛ばすと同時に、真昼が与え続けたダメージがクニノスケの狂った精神を混乱させた。 パニックになったクニノスケはローラー車から飛び降りた。 魅零はアスファルトフィニッシャ前で道を壊している仲間たちに「ローラー、任せた!」と声をかけた。 (彼等の全ての為にも小生が攻撃の剣となる。否,剣など生温い。小生は砲。一切を薙ぎ払い勝利への道を切り開く圧倒的な砲であれ!) 救えぬ者たちに心の中で謝罪を繰り返しながら淡々としかし徹底的に破壊作業をこなしていたアンドレイは、魅零の声を聞いて顔を上げた。 「行くよ!」 ローラー車の横手からフランシスカが黒き刃をたたき込む。 「気をつけて!」 田に降りて老人を介抱していた小夜香の忠告を横から受けるまでもなく、ノアノアは直感で巨体に見合わず素早く向きを変えるローラー車に気づいていた。 「おおっと、危ないあぶない」 空でバックステップを踏みながら、回転するローラーに一撃を入れる。 アンドレイが回転するローラーの軸に断頭将軍で傷をつけると動きが鈍った。 続けて青が鎌を振って運転席を壊した。 「終わりです。アーメン」 ジグザグに走るローラー車に海依音の審判が下し、轟音とともに火の球が上がった。 紅の炎を背にして魅零が笑う。 「ヒタチ!君の考えには賛同できない、だからとりあえず…死のっか! 命懸けで、どっちが先に細切れになるか勝負しようよ!」 「じ、冗談じゃない!」 「感じさせてくれる? エクスタシー☆」 勝負はついていた。 もうクニノスケを守るべき者は一人も残っていない。対するテロリスト……いや、リベリスタは傷を負いながらも一人として欠いてはいなかった。 手や尻が焼けるのも構わず、クニノスケは腰をへたりとアスファルトへ落とした。 「ま、待ってくれ。見逃してくれ、頼む!」 醜いブタ。 気概を失った情けないクニノスケ姿に魅零は顔をゆがめた。 これから殺し合いを楽しもうとしていたのに拍子抜けもいいところだ。ブタの末路にふさわしく、せいぜい苦しめてやろう。 ちっ、と舌に鳴らして魅零は大業物を構えた。 真横に真昼が並ぶ。 「とんだ小物でしたね。これでは死んだ作業員も、犠牲になった村人たちも浮かばれませんよ」 「あ、ああ……まってくれ。こ、これでどうだ!」 クニノスケは魅零たちに指を三本突き出した。 「なんのおまじないですか、それは? なにか知りませんがもう貴方は――」 ヒタチ!!! 軽蔑しきった真昼の声を掻き消したのは海依音だ。 何事、と振り返っ真昼の肩を、魅零が押して横へ突き飛ばす。 「む、骸ちゃん?」 真昼は一瞬にして悟った。 魅零はクニノスケに魅了されてしまったのだ。あの指三本で。だがしかし……。 いつの間にか海依音がそばに来ていた。クニノスケに向けられた目はらんらんと輝いている。しかも、敵をかばうかのように、真昼とクニノスケの間で魅零ともども背を向けて立っている。 どうも様子がおかしい。距離からしてクニノスケに魅了されるはずがないのだが。 仲間にかけられた状態異常を解除すべく、遠くから小夜香が飛んできた。 「さあ、おふたりとも、お気を確かに! 癒しよ、あれ!」 だが、依然としてふたりは真昼たちに背を向け続けている。クニノスケを討とうとする様子が微塵も感じられない。 「これはどうしたことデショウカ?」 「とにかく、騒ぎになる前にヒタチさんを――」 魅零が鎌を構えた青をブロックした。 フランシスカとノアノアが、なぜと首をひねる。 謎は海依音の言葉ですぐ解けた。 「ヒタチ、お前の目は節穴ですか? そんなことだから運命に見放されてノーフェイスになってしまったのです!」 「は、はあ?」 ジュウジュウと尻肉を焼き続けるクニノスケに向けて海依音は手を広げて見せた。 「通常、神の愛、デウス、聖神の息吹ひっくるめて3本。マネージャーであるわたくしには手当割増しで5本。分かりますね? 今回特別にみんなの分は割引して……1人2本! ピンハネ率は抑えに抑えて5割!」 はて、いつからマネージャーになったのか? しかも抑えて5割もピンハネねるとは恐るべきGの僕よ。 これには沈着冷静なアンドレイもさすがに呆れて口を開けた。 クニノスケは、「女神を見た!」といった塩梅の顔で海依音を見上げている。 「失礼しました、もちろん貴女には5本。ほかの方のぶんも纏めて1万9千を支払いますとも!」 魅零が、続いて海依音が、くるりと身をひるがえして仲間たちと向き合った。 「聞きましたか! 1万9……えっ?」 「はぁ?」 青は思わず魅零たちの顔から目をそらした。 真昼はそっとその場を離れた。 小夜香とフランシスカ、ノアノアが後に続く。 「ど……どうかしましたか、みなさん?」 「哀れな。余計なことさえ言わなければ、もしやがあり得たカモ――」 絶叫に遮られ、アンドレイの声は最後まで聞こえなかった。 ずっ、と重い音がしたかと思うと北の斜面が崩れた。 ヒタチクニノスケたちと呪いの道は土砂に飲みこまれて見えなくなった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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