●下っ端だもの 小さなビルの小さな事務所。柄の悪い男たちが屯するそこは一般的な視点で見ても真っ当な場所ではない。では神秘界隈の視点でどうかといえば、所謂フィクサードの溜まり場である。 もっともその建物、集まっている人数、この組織をどう評価しても下の下だろうが。 「俺たちも運が回ってきたもんだぜ!」 弱小なりに盛り上がっている彼らの中心に、木箱の中で大切に梱包された『何か』がある。 「貴重なアーティファクトだ。これを差し出して顔を繋げば、俺たちの組織も上位組織に編入してもらえるかもしれんぞ」 フィクサード末端組織のブラック率は異常なので、中堅の顔役に可愛がられるかどうかで運命が決まると言っても過言でなかったりするのだ。 となれば一刻も早く届けたいところだろうが、はやる気持ちを抑えて事務所で待機しているのにはわけがある。 ――ピンポーン。 「よーし、来たか」 男が1人玄関へと向かい、若い女を伴って戻ってきた。 「どうも」 複数の男に囲まれて特に気負いもなく淡々と口にすれば、周囲の男たちが頭を下げた。 「いつもすまねぇな。今日はアンタにこれを運んでもらいてぇんだ」 割れ物だから気をつけてくれよと渡された木箱は軽く、脇に抱えられる程度の大きさだ。 「俺たちは他の組織に見張られてるんでな。事務所を出られねぇんだ」 アンタなら腕を信頼できるしなと笑う彼らは彼女とは幾度か仕事上での付き合いがある。フリーのフィクサードであるという彼女と情報のやり取りをしてきたのだ。 「アーティファクトを横取りしようって輩だ。何人かは妨害がくるだろうから気をつけてくれよ」 貴重なもんだからなと念を押す男に、女は大丈夫と顔を上げた。 「用行捨蔵って言葉があってね。意味は知らない」 「お、おお……」 アーティファクトを受け取って事務所を出る。暫し考えて――数人に連絡を取り始めた。 ●簡単だもの 「おつかいね……」 この年になってその響きはどうにも気恥ずかしいなと呟いた『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)。周囲に流されたとはいえ身に纏うことになったカソックの裾が引っ張られる。 「あははっ、いいじゃない仁。お小遣いも貰えるよ」 くすくすと笑う『虚無色ジャンク』虚守 ありす(BNE003093)に、仁は嘆息を返すしかない。 「それでモーガンさん。そのプレゼントを知人に届けて欲しいって頼まれたのよね」 木箱を指差し『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)が問いかければ、『名無し』ジュリー・モーガン(BNE004849)が小さく頷いた。 「そう。報酬は貰えるから安心して」 あの後ジュリーはアークのメンバーに連絡を取った。フィクサードの振りをして末端組織から情報を得ていた彼女は、このような小さな仕事をこなしては信用を得ている。 今回のように人手がいる場合、お人よし数名に手伝ってもらうこともあるのだ。 勿論、フィクサードなどの話は省いている。今回はただのおつかいなのである。 「だがそれはアーティファクトだろう? 危険ではないのか?」 神秘に精通した者にその力は隠匿できるものではない。リオン・リーベン(BNE003779)が中身は何かと問えば、ジュリーは正直に答えを返した。 「ワインの熟成を早めるアーティファクト」 「ほう、それは……微妙に価値があるものだな」 事実、好事家のフィクサードに届けられる物である。危険な物なら阻止もしようが、これならば問題ないだろう。 「365日寝かせると、368日分寝かしたことになるそうだわ」 「……」 意味があるのかそれと呟く一行に「いいねそれ」と笑い声。 「コレクターなんてそんなものだよ」 おかしげに笑って『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)が振り返った。 「じゃあこれを車で運べばいいんだね」 「聞きつけた他のコレクターに狙われる可能性がある、か」 倒してしまっていいんだなと問う仁に頷いて、一つだけとジュリーが周囲を見渡す。 「個人的な頼まれごとだから、アークに所属してる事は隠したいの。なるべく顔を隠して、身元は明かさないようにしてね」 お願いねと言われればそれ以上言葉はない。「じゃあ行きましょ」とシュスタイナに背を押され車に乗り込んだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月23日(木)22:20 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●簡単な始まり 「これがそのアーティファクト、よろしくね」 丁重に厳重に梱包された木箱を抱え『名無し』ジュリー・モーガン(BNE004849)が集まったメンバーに頭を下げた。周囲に立つ5人は彼女からの『個人的な用事』でこの場へと呼び出されたメンバーだ。 「事情はよく分からないけれど、無事にこれを運べばいいんでしょ?」 まあ簡単よねと口にした『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)の視線の先、木箱の中身は貴重かは微妙なところだがれっきとしたアーティファクトである。 「頼み事があると言われてきてみれば……また変わった物を欲しがる人が居るものだね」 ワインの熟成を早めるアーティファクトとは実に限定的だと『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)が楽しげに笑みを見せる。 「コレをそのままワインの貯蔵に使いそうなところがまた良いね」 時間を早めるという性質を解明すれば、その使い道は無限に広がりそうなものであるが……現状ではコレクター以外は見向きもしない存在だろう。 「おつかいなど何時ぶりか」 苦笑混じりの声は『渡鳥』黒朱鷺 仁(BNE004261)のもの。この場において最年長、唯一の三十路越えである仁にとっておつかいという響きはどうにも気恥ずかしいものである、が。 「……まあ引き受けた以上、全力でこなすとしよう」 そう語る仁が手早く服装を変え終えていた。日頃神父としてカソックに身を包む彼は、今は目立たない地味なスーツを着込んでいる。その姿に「ああそうか」と紗夜が手を打った。 「そういえばアークってばれたら駄目なんだったかな?」 ジュリーに示された条件は『ごく個人的な頼まれごとのため、アークに所属してる事は隠したい』ということ。見た目も気を配るべきだろう。 「私の仮面は隠すには少々手間だね……ふむ」 だからと外すのは本末転倒。というよりも外す気は毛頭ない紗夜が自身のアクセズ・ファンタズムであるウサギの縫いぐるみの頭部に手を差し込んだ。ずるりと音を立てて引き抜かれた衣装を身に纏っていく。あまりの絵面のグロさに仁が口元を引きつらせた。 やがて黒いフード付きポンチョに髑髏の面をつけたなら。 「ふふ……今日の私は悪魔ではなく死神だね」 満足げな笑みを浮かべ紗夜が笑う……もっとも仮面で遮られているのだけれど。 「まあしっかり頑張りましょ」 そろそろ行きましょとシュスタイナが仲間の背中を押し――用意された車へと乗り込んでいく。 「車酔いしなければいいわね」 妨害が予想されている以上、長く荒々しいドライブになるだろう……小さな溜め息を残してドアが閉まった。 この輸送任務、メンバーにはジュリーが持ち込んだごく個人的なおつかいだとしか知らされていない。 だが実際は――影で暗躍する彼女が掴む情報の糸口、その信用を得る為にフィクサード組織から引き受けたものである。危険な綱渡りを行う彼女にとって、これも大事な仕事なのだ。 ――協力してくれてる皆には申し訳ないけど―― 利用させて貰うねと内心でもう一度頭を下げた。1人ではこなせないこんな任務も、アークの力を信用しているから。 「……どうした?」 運転席からバックミラーを覗いて訝しげな声をあげたりオン・リーベン(BNE003779)に、澄ました顔でジュリーが口を開いた。 「和衷共済って言葉があってね。意味は知らない」 「……」 仲間の微妙な表情に気にした様子もなく、小さく歌うように呟いた。 「Let's do this.」 ――何が因果かは分かったものではないな。 ふんと鼻を鳴らしたリオンがハンドルを握り、緩やかな田舎道を走らせる。内心で思考を重ねながら。 (時間軸に干渉するアーティファクトとはいえ、用途がワインではな……) 好事家というものは得てしてそのようなものか。ちらりと横に向けた視線が、頷き銃を抜いた仁を映す。 「まあ、仕事はきっちりと遂行する」 ――裏は信用できるものではないにしろ、な。 声にならない呟きを残し、握るハンドルに力を込めた。 「ふふん、このありすにもよーやくお仕事の手が回ってきたの!」 ひとでぶそく? 答えはノンノン。 「永遠の秘密兵器のありすのじつりきを、きっちりはっきり世に知らしめてあげるの!」 ぐっと固めた拳を勢いよく空に突き出せば、車の天井で痛打して悶絶する少女。ナイトメアダウンから近年までの空白の時を越え、なお変わらない姿を保つ『虚無色ジャンク』虚守 ありす(BNE003093)が目尻に溜まった涙を拭って。 「ふふ、ありすってばちょーうきゅっ!?」 突然の急ハンドルに舌を噛んだ。同時に「しっかり背中をシートにつけておけ」と声がして――車の速度がグングン上がる! 一方助手席から身を乗り出した仁が数発後方へと射撃を行い、すぐに顔を引っ込める。 「ふむ。やはり、俺に狙撃は向いていないな」 仁の苦笑を聞いたこの時点で全員が気付いている。後方から猛スピードで追い上げる1台の車両に。 「この人数では振り切るのは難しいな。皆に任せる」 運転に集中するリオンが指示を出した。大人数を乗せたこちらの車に対し、向こうは運転席と助手席から銃器を向ける二人のみ。スピードも小回りも敵が遥かに上だ。 「来るぞ!」 仁の言葉を待たず連続する射撃が車を掠めた。観察眼を駆使する仁とバックミラーの情報を頼りに、リオンが最善を最短で打ち出していく。銃弾を避け、反撃の糸口を見極めて。 蛇行する車内で、ありすは必死に布団を抱きしめる。その中で大事に包まれたアーティファクトを護るため―― 「アーティファクトガーディアンありす、頑張るの!」 魔道具を手に、後部座席から身を乗り出して。 「緩やかなカーブが続く。少し左を狙え」 運転しながらリオンが互いの状況から得る情報を元に攻撃の支援を行えば、シュスタイナと紗夜がタイミングを合わせ紡いだ神秘を後方へと飛ばした。 紡ぎ重ねた四色の魔術が、振り切った鎌が生み出す風に押し出されて……タイヤを激しく叩く! 「……さすがに強化されてるね。厄介なことだよ」 「いいわ、追ってこなくなるまで撃ち続けるまでよ」 2人の視線の先で、ダメージを受けながらもタイヤはなお走り続ける。 「追いつかれるぞ! ありす!」 幾度の射撃戦の後、急カーブで斜め後方についた車両、助手席から重火器がタイヤへと向けられ――リオンの叫びに。 「がってんしょーちなの!」 突き出した小さな手が爆炎を生む! ありすの放つ火球がフロントガラスを叩けば目眩ましとなって攻撃の手が緩み。 「この距離なら外さん」 窓から突き出した仁の二丁銃が、銃弾をタイヤに撃ち込み続ける。 「……おまけ」 精神を集中させていたジュリーが気糸を貫く力にして。銃弾が穿った穴へ押し込み開いたなら派手な音を立てて車両が道を外れていく。 「……まずは突破か」 リオンがバックミラーを確認した先で、車を降りてどこかに連絡を取る敵の姿が目に入った。 ●簡単な山越え 「万華鏡を介していない以上、どうもな」 山道に入って暫くのこと。仁が周囲の地形を気にして呟いた。 「うむ。先の連中が連絡していたことを考えれば、待ち伏せされている可能性も高いだろうな」 アークの依頼でないということは、情報の詳細が不明であることを意味する。この木々の乱立する峠道で伏兵の危険性は考えられても、どこでどう仕掛けられるかなどわかりようがないのだ。 嘆息し崖に沿って車を走らせるリオンに。 「音……上からよ走り抜けて!」 シュスタイナの叫びが届けばアクセルを踏み切った。すぐに崖を削って落下する落木が道を強く叩いて下へと落ちていき…… 「冗談でしょ。なんて乱暴なこと」 「もう! われもの注意のステッカーが見えないの?」 ありすが車に張ったステッカーを指差し叫ぶが、まぁ見えないだろう。 「アーティファクトならば頑丈だと思い込んでいるな。落として後で回収する気か」 リオンの舌打ちは、このまま峠に沿って上っていけば落木を正面から受けるしかない事実に対して。 「構わん。そのまま突っ切ってくれ」 そう口にした仁の姿はすでに助手席になく。車体を足場にして車外へと張り付いていた。この時期に猛スピードで駆け抜ける車外は堪える寒さだが…… 「ちょうどいい。一服する理由が欲しかったところだ」 子供のいる前では吸えないんでな。そう言って煙草を咥えた。 「ずっと先……左右のあの辺りにいるわ」 木の影に潜む伏兵の熱源を感知したシュスタイナに従って狙いを付ける。車体を中心に浮き上がった魔法陣がその魔力を高め…… 「来るぞ」 遥か先を見る目でリオンが警告すれば、坂道を転がるように切り倒された木々が迫る! 「このこのっ!」 ありすの紡ぐ四色の魔光が木々を狙うが、互いが猛スピードで接近し、地面を跳ねる物体を狙うのは容易ではなく―― ぶつかる直前に仁が動く。身体を、判断を、全てのねじを速めた仁がそれをしっかりと捉え、接近ぎりぎりで狙いを撃ち抜いて進路を逸らす! 「まだまだ来るわ」 迫る木々の動きを見極めてジュリーが気糸を操る。もっともよほど引き付けなければ効果的な一撃は難しいが…… 「車が止まりさえしなければいい。見極めればなんとかなる」 観察眼を働かせて直撃を避ける。リオンの巧みな運転が車の被害を擦り傷で済ませ、襲撃者のポイントへと瞬く間に近づいていった。 「見えたよ。そら」 紗夜が大鎌を振り回せば、強力な衝撃波が男たちが抱えた木を破砕した。狼狽する男たちの、その身体を魔法陣によって高められた魔光が取り巻き動きを封じて。 「これでもう妨害できないわよね」 シュスタイナがくすりと笑って取り残された男たちに手を振った。 「ついでにドーン!」 去り行くついでに、ありすが近くに止められていた男たちの車に火球を叩き込んで。 「山道ももうすぐ終わるね」 ドライブも終わりが近いかなと笑う紗夜に。 「油断大敵って言葉があってね。意味は知らない」 ジュリーが仲間の精神へと働きかけその消耗を充足させながら呟いた。 その言葉にははと笑って、不敵に前を見据える。 「勿論、そうでなくては寂しいからね」 紗夜の視線の先で、山の出口を塞ぐ大型車。そしてわかりやすいギャングのボスのような、全身白スーツの大男。 ●簡単な決闘 「お嬢ちゃんたちよ、アーティファクトを渡してもらおうかい」 「ずいぶん捻りのない言葉だね」 葉巻を咥えたまま言う台詞に紗夜が笑い混じりの言葉を返す。 車を降りた6人に対し、対峙する敵は3人。腕に自信はあるのだろうが、それもこちらを末端組織と舐めきった結果か。 息を深く吸い、全身の血流を意識する。次第に立ち上る可視の闘気は紫電のオーラとなって紗夜を押し包んだ。 「彼の相手は私がするよ」 「お前らはさっさとアーティファクトを奪っちまいな」 同時に上がった声はすなわち互いと得物を交える意思表明。向けられた拳が大鎌の刃に映りこんだ。 紗夜とボスの横を2人の部下がアーティファクトを求めて駆け抜ける。ナイフを構えて目標を探し――その足が止まった。 「大切なアーティファクトなの!」 「あら、こっちが本物かもしれないわよ?」 ありすとシュスタイナ、2人が背負う『何かを包んだ布団』こそアーティファクトなのだろうが……そのどちらが正解だなどとわかるべくもない。 わずかな躊躇の後、部下は二手に分かれて飛び掛る。戦力を分散させたならまずは成功、2人は悠然と術式の構築を始める。余裕を見せた態度の理由は勿論、敵が自分のところまでたどり着かないという自信の表れだ。横から飛び出した仲間、仁が敵を食い止めると信じているならば! 「迷惑な奴らだ」 嘆息と同時に火線を走らせて敵を牽制する。ナイフの一撃はかわしきれなくても、動きを観察して見極めれば致命傷にはならない。時間を稼げば、後方からシュスタイナが魔力を灯した黒の翼を撃ち出して。飲み喰らう黒翼の連撃に部下はなすすべもなくその身に無数の傷痕を作った。 一方、もう1人がありすへ飛び掛るべく踏み込む、その足元を抉り叩いた鋭い気糸。 「無駄よ」 小さく一言。ジュリーが操る気糸が眼前を通過すれば、踏み込む敵にわずかな躊躇を与える。 それで十分。戦術論を唱え情報を共有し終えたリオンが敵に取り付くのに十分な時間を稼いだなら。 「押されるとジリ貧なのは間違いない。一気呵成に仕留めるのみだ」 リオンは1人と対峙していながらに全てを見る。その指先が一人ひとりに的確な指示を現して。 速度頼りに直線的な動きで迫る身のこなしはソードミラージュ。けれど、ナイフを逆手に持ち身を低くして切り込む動きはナイトクリークのもの。 「複合能力者か」 様々な局面に対応するため、複数の戦闘訓練を受ける者もいる。その優位性もあろうが、この場に置いては一つの道を究められるよりはましだ。仁が小さく息を吐き、敵の攻撃をしのぐ。しのぎながらねじを巻いていく。そのたび世界が遅く――仁の感覚が速く鋭くなっていった。 牽制の銃弾に敵が1歩引く――瞬きのうちにその隙間は埋められた。踏み込み突き出した銃を慌てて敵が打ち払う……その幻影に惑わされて。幻惑の戦技、虚は実となり二丁の銃弾が派手に身を穿つ。 鮮血が生じ、激昂して振るわれたナイフが生み出す傷はすぐに閉じ――シュスタイナが魔力を癒しの力にして響かせたなら、最早仁を打ち倒す手段はない。 「そういうわけだから……消えてくれない?」 強気に微笑んでシュスタイナが黒の翼を打ち出した。 「最後の大しょうぶなの!」 気合を入れてありすがマナを取り込み高めていく。その間敵を抑えているのがリオンだ。大盾を構えナイフを弾き、そのまま消耗する味方の精神に働きかけ。 「加減は不要だ。消耗は支える。全力で行け」 リオンの後押しを受ければ遠慮の必要はない。誰もが全力を尽くして最高の技を披露する! 「このまま一気にせんめつなの」 爆炎撒き散らしふふんと笑みを零したありす。瞬間、その身に差し向けられた投げナイフ! 「え? ひゃあ!」 お布団抱えて悲鳴を上げたありす。とっさにアーティファクトを抱えた、その小さな身体に吸い込まれたナイフ――が激しい気流に飲み込まれて。風圧に弾かれて地に落ちた。 一瞬で爆発的な衝動を生み出した気の奔流。瞬く間に清らかな清流となったそれを静かに纏わりつかせ、気を自在に操ってジュリーがありすの前に立った。 「このアーティファクトは壊れやすい。あまり激しくされると割れてしまうわよ?」 「そうなの! 壊れちゃったら大変なの!」 ジュリーの言葉にいじわるしちゃダメと言葉を続けた。ありすがカレーなる経歴に傷がついちゃうのと頬を膨らませて。 舌打ちして戦いづらそうにする敵に、リオンの戦闘指揮の元ジュリーたちの連携が次々と押し寄せる。 切り刻む。徹底的に。振るい裂き抉り押し斬る。地に空に赤を色づかせ。 紗夜は笑っていた。幾度も打たれた肩は歪に膨れ上がり、腕は痛みに感覚を麻痺させ、なお笑う。もっとも仮面で遮られてはいたが。 「俺様を1人で抑えるなんてとんだ貧乏くじだと言いたかったがね。ところがどうだ、想像以上だぜ」 白いスーツを赤く染めて笑うボスに、そうそう抑えだよと微笑み返し。 「……抑えるのは良いけれど、別に倒してしまっても構わないんだよね?」 踏み込み一息に薙ぐ死神の一閃! 例え格上であったとしても何を構うものか。この身は力。この身は悪魔。世界を護る悪魔だ。紫電のオーラを乗せて怒涛のラッシュを繰り広げる! 「最後の際まで切り刻ませてもらうよ」 「面白いやつだ。それだけの力があって末端組織に身を寄せる理由がわからんがね」 興味を差し向ける相手が、何者だと問いかければ。 「やぁどうも、キミ等の望みを叩いて砕いて……もとい、ただの通りすがりの死神だよ?」 ――そういえば正体は秘密だったね―― 紗夜が思わず口に仕掛けた口上を慌ててぶった切った。 「ここまでだな」 一人ひとりの実力が想定外。アーティファクトの奪取は不可能と、判断すれば長居は無用。 背中を向ける敵を追う必要はない。シュスタイナが傷ついた仲間を癒しながら息を吐いた。 「これで妨害は終わりかしら」 「ありすたちの勝利なの!」 ぶいっ! とありすが雄叫び上げ。 ●簡単なお仕事 運転席で腕を組み、リオンが嘆息した。表があれば裏もあろうが、憶測だけでは意味もない。ジュリーは何も語らないだろう。 まぁ今はいい。もう一度嘆息して外を見れば、仁が長く吸えなかった煙草を存分にくゆらせていた。 「変なおつかいだったねえ」 「全然大したこと無いアイテムだったの。ワイン好きな人がいるのねぇ」 紗夜が笑えばありすが興味なさそうに頷く。目的地の近くで車を止め、アーティファクトを届けに行ったジュリーを待って雑談中。 「たまにはこういう依頼もいいわね。……お駄賃。何に使おうかしらね。馬鹿姉に甘いもの買って帰ろうかしら」 シュスタイナが口元に小さな笑みを浮かべて。 「約束のブツ、中身を確認して」 言葉少なに語る女から宝を受け取り、報酬を渡す。 「確かに確かに。おかげでコレクションがまた一つ増えたぞ」 ホクホクと笑みを浮かべるが、女は興味がないのか早々に踵を返す。その足を、一度止め。 「無病息災って言葉があってね。意味は知らない」 一言告げて、扉を閉めた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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