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エテルニテに揺蕩う亡失の日

●ある人の、
 響き渡る鐘の音は幸福を伝えている。
 ささやかながらも幸せな日だった。幸せになると誓った日、だったとも言おうか。
 何時からか傍に居る事が当たり前になった彼女とこれからも共にある事を誓う日。
 似合わないタキシードに身を包んで、ウエディングドレスを纏った彼女の姿を見た時は、どうしようもなく胸が高鳴ったものだ。
「病めるときも、健やかなる時も、富めるときも、貧しき時も――」
 牧師の告げる言葉を聞きながら、誓いを告げる時を待つ。
 そっと手を取って。左の薬指へとダイヤモンドを嵌めた指輪を宛がった時。
 からん、と転がった指輪に刻まれた“Eternite”。
「あ、」
 その後の言葉は聞こえない。重なる様に響いたのは誰かの慟哭か。
 劈く様な音に彼女の腕を引く、今、離したら二度とその腕は掴めないと思ったからだ。
 腕に力を込めた。引いた、力が抜けていく感覚がする。

「――――」
 彼女の唇が、ゆっくりと動いていた。
 声は爆発音に掻き消されて、彼女の姿と共に消えた。

●廃墟にて
『あ、あー……マイクテスト。聞こえるかしら? 噂のオカルト話調べてみたんだけど』
 電波が悪いのか、途切れ途切れに『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)の声を携帯電話越しに聴きながら『名無し』ジュリー・モーガン(BNE004849)は茫と教会を見詰めていた。
 そこは教会としては使われていない場所だ。
 寂れ、廃れたその状況は正に『廃墟』という言葉がぴったりだ。もしくは『心霊スポット』とでも言おうか――
『噂は本当、というよりそんなにオカルトでもないんだけども……。
 その、結婚式中に爆発事故が起きてから、その無念で結婚式をやり直す幽霊、だったかしら』
 世恋の言葉に「それは無念よね」と淡い笑みを浮かべた『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)もその噂話は耳にした事があった。
 人の噂は何とやら。肩を竦める『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)にティアリアが小さく笑ったのも仕方がないだろう。
 誰が話しだしたものか。若者たちは心霊スポットに興味を以ってこぞって遊びに行くものだ。
 それが何らかの被害を齎せば齎すほど、その場所は有名になって行く。
「つまり、そのオカルト話は『やっぱり』だったってことですか?」
「ふむ、アーティファクトか何かだったか」
『くろとり』天和 絹(BNE001680)の言葉を補足する様に『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)が推測を述べれば、電話口から『その通り、アーティファクトです』と世恋が頷く様な声を出した。
『そのアーティファクトは指輪。硬度が高くて壊す事はできないの。特殊な方法でその効果を取り除く事が可能よ』
「効果? 何か厨二チックな感じだね。ユーヌたん、どう思う?」
「ぶっ壊せないというなら、結婚式ごっこでもして無念を晴らせと言うのか? 傍迷惑な幽霊だな」
『一人焼肉マスター』結城 竜一(BNE000210)の言葉にユーヌが淡々と返しているが、世恋が『正解!』と大仰に言って見せている。

 ――結婚式ごっこ――

 晴らせぬ無念を晴らすのは『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)の様な人種の仕事でもあるのだろうが、アーティファクトが絡むとなれば、リベリスタとして馳せ参じぬ訳にも行かない。
 何よりも心霊スポットというものは面白くも感じるのだから、『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)が興味を持つのも分かる。
『結婚式を完遂して、指輪の効力を取り除いてほしいの。その後は指輪はお任せするわ。
 その効力は一度消えされば二度と復活しないものらしいの。でも、取り除くまでが注意が必要よ?』
 指輪は結婚式を行うためにその『役者』を生み出している。エリューションとして生み出されたソレらは外部から侵入する敵を拒み一斉に攻撃するのだそうだ。
 指輪を嵌め、結婚式を行う新郎新婦牧師役の三名は結婚式をきちんと執り行う為に一切の戦闘行動が出来ない。
 残る五名がエリューションから彼等三人を護りながら闘い抜く事が大事となってくるわけだ。
『何故爆発が起こったのかしらね、何かあったのかもしれないけれど……』
 無念だったでしょうね、と電話口から聞こえる声にジュリーは目を伏せて携帯電話の通話を切る。
 木の葉の擦れる音に次いで、ざわめく何かの『声』を聴く。

『あ、』

 ――あの言葉に続いたのは。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:椿しいな  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月13日(月)23:12
 こんにちは、椿です。リクエスト有難うございました。さあ、結婚しましょ。

●成功条件
 アーティファクトへの対処(『結婚式』の成立)

●場所情報
 心霊スポットとしてインターネット上で話題になっている廃墟の教会。
 昔、結婚式中に爆発事故が起きた事で果たせなかった結婚式を成功させる為に夜な夜な『幽霊』が結婚式を遣り直さんとしているという噂が出て居ます。
 光源は鳴く、足場も荒れて居る為に良好とは言えません。
 教会の最奥、祭壇部位に指輪が二つ置いてあり、周囲にはエリューションが多数存在して居ます。

●アーティファクト『per sempre』
 指輪の形をしたアーティファクト。二つで一つ。
 元は結婚指輪であり、嵌められることが無かった不幸な代物です。
 このアーティファクトの効果はエリューション・フォースを生み出す事であり、エリューション達は教会内の存在に容赦なく襲い掛かります。
 また、アーティファクトの効果が存在するうちはエリューション・フォースの数は固定され、倒してもターン始めには元の数に戻ります。
 
 指輪を使用し、『結婚式』をやり直す事によってアーティファクトの効果を消し去ることが可能。

 ・指輪(×2)を装着し、新郎新婦役を務める二名
 ・彼等の愛を誓う牧師一名

 上記、三名が役者になり切り、牧師の式辞、新郎新婦の誓約と指輪の交換、誓いのキスを完遂することで結婚式は成立します。
 また、役者である三名は結婚式をきちんと執り行う為に一切の戦闘行動が行えません。
(役者の性別は不問。女性同士、男性同士も可)

●エリューション・フォース『朽ちる幽霊』×30
 フェーズ1。アーティファクトから生み出されるエリューション。
 その姿はさながら『幽霊』の様に見える。耐久性もなく、特殊な攻撃も特にないが数の暴力的に襲い掛かる。
 アーティファクトの効果が存在するうちはその数はターンごとにリセットされ、減る事はありません。

 どうぞ、よろしくお願いします。

※相談期間1日目が実質数時間程度のため相談日数が希望より1日増えています
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールスターサジタリー
不動峰 杏樹(BNE000062)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
アークエンジェインヤンマスター
ユーヌ・結城・プロメース(BNE001086)
ビーストハーフインヤンマスター
天和 絹(BNE001680)
ノワールオルールホーリーメイガス
ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)
アークエンジェスターサジタリー
宵咲 灯璃(BNE004317)
ジーニアスプロアデプト
ジュリー・モーガン(BNE004849)


 インターネット上で心霊スポットとして話題になっていた一つの寂れた教会がある。
 その道の人には噂として聞き飽きた場所であったかもしれないし、是非とも足を踏み入れてみたい場所であったのかもしれない。噂も在り来たりではあるのだが、何でも、その昔、爆発事故が起きたと言う教会だ。事故により結婚式を成し遂げられなかった新郎新婦が幽霊となり今も彷徨っていると言う……。
「なーんてね! 『心霊スポット』ってわくわくするよね!」
『曰くつき』の場所であると言うのに『断罪狂』宵咲 灯璃(BNE004317)の表情は明るい。幽霊がこの場に居たならば灯璃に驚いて帰ってしまうのではないかと思われるほどのハイテンションだ。
「怖がってる子を驚かすのも楽しいし、本物の幽霊が見れるかもしれないし?」
「ええ。幽霊、幽霊ねぇ……。結婚式を執り行えない……ふふ、ホントにそれは無念よね」
 小さな笑みを浮かべた『慈愛と背徳の女教師』ティアリア・フォン・シュッツヒェン(BNE003064)の言葉に灯璃が鮮やかな焔色の瞳を歪めて「本物が出たら如何しよう? 捕まえて世恋にでも見せようか!」と心霊スポットを遊園地か何かのアトラクションを楽しむ様に全力で楽しんでいる。
「ふむ、それにしても結婚式か。竜一はどんな結婚式なら嫌か?
 愛のない物、終わらない物、誓わない物……いや、問題はその後の生活次第か」
「待って!? ユーヌたん、待って!? 普通、好きな結婚式を聞かない? 何で嫌な結婚式なの?」
 茫、と。黒い瞳で廃墟を見詰めている『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)が隣でサングラス型ビデオカメラをしっかりと装着した『一人焼肉マスター』結城 竜一(BNE000210)を見遣る。
 愛らしい恋人の姿でビデオの動作チェックを行う竜一ではあるが、思わず『嫌な結婚式』を問われた事にはツッコミを禁じ得ない。
 思い思いの様にこの場所を楽しむ仲間達を見つめながら噂をアークに持ち込んだ張本人『名無し』ジュリー・モーガン(BNE004849)は双界の杖を握りしめて小さく息を吐く。マフラーに埋めた口元がきゅ、と引き締められた。
「結婚式を行っている間はとても幸福で『幸福な時間が永遠に続けばいいのに』という言葉も耳にするけど……どうなのかしらね」
「きっと幸せなんでしょうね。ウエディングドレス……僕もいつか着る日がくるんでしょうか……」
 ジュリーの言葉に小さく頷きながら廃墟の扉に翼に化した両腕を押し当てた『くろとり』天和 絹(BNE001680)は頬を赤く染め「い、今のはなしで!」と慌てたようにジュリーへと告げる。
 どうやら乙女には色々ある様で。結婚式と言う憧れを抱くのは『女の子』として当たり前なのかもしれない。
 修道女として教会で育った『アリアドネの銀弾』不動峰 杏樹(BNE000062)も『女の子』だ。今回の心霊スポットへは普段のシスター服ではなく、男装を意識した装いをしている。対して、普段から愛らしいワンピースを着て居るティアリアはウエディングドレスを纏い『花嫁』として気合十分だ。
「こういう形で立つとはな……気恥ずかしくなる」
「あら、でも幽霊がいるんでしょう? 見せつけてあげましょう?」
 困った様に呟く杏樹に楽しみだと言う様に笑みを浮かべるティアリア。両者を見詰めていた『てるてる坊主』焦燥院 フツ(BNE001054)は影人を三体呼び出して「頼んだぞ」と呟いてから顔を上げた。
「HAHAHA! サー、行きますヨ!」
「……ねえ、ソレ何?」
「インチキ外人っぽい牧師デスよ!」


 作業灯の光りがゆっくりと照らしている。円陣を組み、フツ、ティアリア、杏樹と言った三人を囲い込んだ絹は緊張した様にグリモアールに手を滑らせて守護を展開させる。
 ふわり、と飛び上がり鼻を鳴らしたユーヌの手に握られた小型護身用拳銃。光りを発するそれが中に存在したエリューションの動きを止め、続く様に戦神の気合を纏い宝刀露草を振るい上げる。
「ユーヌたん。俺がいやな結婚式はねー、そうだなー、ユーヌたんが居ない結婚式かな。
 やっぱ、花嫁の居ない結婚式は意味がない……って、あれ? ユーヌたん、聞いてる?」
「……ああ。しかし、結婚式で死ぬのは幸せなのかもしれないな? 幸福の絶頂は結婚式の最中だろう。
 ならば、幸福の絶頂から落ちずに終わる。劣化なしの永遠だ。……まぁ、私には分からない範囲だがな」
 先陣を切った二人に続く様に内部に入り込む新郎新婦牧師役の三名。一気に前進する三人の往く手を塞ぐように飛び出す幽霊を仲間達が阻止し、一気に抜けられる様にと気を配っている。普段ならば戦闘で銃を唸らせる杏樹も、愛用する槍を振るうフツも今は武器を手に攻撃役として前線を立ちまわる事はしない。回復役として支援に特化するティアリアも今はベールの下で優しく微笑むだけだ。

 \さあ、野郎共! 新郎・新婦の入場だ!/

 彼等の中でも異色だったのは灯璃の『超』がついても可笑しくないハイテンション具合だろう。ここは廃墟。エリューションとリベリスタしか居ない空間。心霊スポットとして名高くなったのはある意味で定石であったのか。周囲には人気がなく、暴れても何ら支障もない場所だ。――つまり『好き放題』できるのだ。
「あははははっ! バージンロードは綺麗にしておかなきゃね!」
 足場の瓦礫もふっ飛ばす勢いで浮かび上がった灯璃が赤伯爵を投げ飛ばす。鎖で引っ張り上げて黒男爵がエリューションにお目見えする戦闘スタイルは灯璃ならではのものだ。降り注ぐ『二人』は彼女のハニーコムガトリング。
 集中領域に達したジュリーが円陣の奥で目を凝らし、動きを止めて居る幽霊(エリューション)へ視線を送れば、足場に気を付けてとティアリアの手を取った杏樹がゆっくりと進んでいく。幽霊たちの中を掻い潜り、目指すのは指輪の置いてある祭壇だ。何処か錆を感じさせるリングはその存在をハッキリと感じさせている。
「足場が悪くったって大丈夫よ。翼があれば自由自在でしょう?」
 数だけは多い幽霊達を竜一が吹き飛ばし、ユーヌは動きを阻害する。彼女に言わせれば『大根役者』だらけのこの場所を掃除する灯璃の楽しげな様子と言えば、結婚式と言うよりも披露宴――強いて言えば二次会のパーティだろうか!
「て、て言うか、他人の結婚式の好き嫌いは何でもいい、が、とりあえず、撮影は任せろー!
 ちゃんと讃美歌とか流す為のラジカセも持って来たぞ! 偉い! ユーヌたん、褒めて!」
「ふむ、ならばこの大根役者共も蹴散らせるか」
 Je te protegerai tjrsがユーヌの放ったフラッシュバンの範囲から外れて居た幽霊を受け止める。跳ね返す様に振るい上げるその腕に巻かれていた『幾星霜ノ星辰ヲ越エシ輝キヲ以ッシテ原初ノ混沌ヲ内に封ジ留メシ骸布』はある意味で竜一らしさをアピールしている様ではないか。
「ほらほら、待ちに待った結婚式でしょ? それをキミ達が邪魔して如何するのさ!」
 笑いながら両手剣を振るいあげ、動きを止める灯璃の背後で雨を降らせる絹は緊張した様に持ち前の直感を働かせ続けている。
「ゴーストの事なら任せてくれるかしら? データベースを駆使すれば為虎添翼でしょ。意味は知らないけど」
 マスターテレパスとエネミースキャン。自身が得た情報を発信するためにジュリーは目を凝らしている。
 とん、と杖を付けば一直線に気糸は飛んでいく。絡み付き、幽霊の存在を逃がさない様にと攻撃を行うジュリーの長い金髪を掠めた幽霊の攻撃に数が多い事を不服そうに唇を尖らせている傍ら、竜一がティアリアから得た翼を駆使して跳ね上がり、剣を一気に振り翳す。
「俺がすべきはなんだ? そう、俺がすべきは露払い――俺は、愛のキューピッドなのだから!」
「竜一は元気一杯だな」
 淡々と告げるユーヌの声に笑いながら竜一は演者三人を護る様に立ち回り、攻撃を続けている。アナライズを行いながら仲間達の支援を行うジュリーと笑う灯璃のバックアップとして懸命な攻撃支援を行う絹の元へと回復が注いだのが合図。三人の演者は指輪の元へと辿りついていた。


 やけに重苦しい空気がする場所だ、と認識した。
 指輪が転がっていた祭壇は何処か重々しい雰囲気を湛えて居る。
『結婚式ごっこ』とはいえ、きちんと式を完遂しなければいけないと言う責任は重大だ。
 この場所で杏樹は『リベリスタ』である事よりも何よりも『新郎』として振る舞っていた。結婚式を完遂する様に――自身の花嫁であるティアリアに攻撃が及ばぬ様にと緊張感を胸にしっかりと地に足を付けて居る。
「あ、あー……結婚式を始めマス」
 インチキ外国人牧師になり切るフツの言葉に杏樹とティアリアがしっかりと頷いた。彼等の背後では暴れ回る幽霊を竜一が吹き飛ばし、ユーヌが引き付けている。
「ふむ。式は静かに粛々と。待てないのなら犬以下か? いや、犬でも祝うか、その程度。
 単なる畜生以下か、ガラクタめ。ブーケでないがくれてやる」
「キューピッドの邪魔をするんじゃねーぞ! 愛、愛ってなんだーーー!?」
 大暴れするカップル――片方はかなり罵っているがそれも普段通りだ――と式を見守り雨を降らせる絹の様子はブリーフィングで見た物と変わりない。
「結婚式は神聖なものなんです、静かにして下さい……!」
「ホントだよね! そんなに暴れたいなら灯璃が捕まえて持って帰ってあげるってばっ!
 世恋が見たら阿鼻叫喚の大騒ぎで未練も忘れる位に楽しめるよ? あははっ!」
 頭の中二流れ込むジュリーのアナライズ。変わりない仲間達の様子にフツが頷いて『結婚式』を執り行った。
「アー。カミと証人の目の前で……ア、ワタシのカミはないですが、神はちゃんと見ておられマスからネ、ご心配なく! HAHAHA!」
 髪……。
 さて置くとして、フツの言葉に小さく頷いた杏樹が胸を張る。新郎としての格好を絹は「カッコいい」と称してくれた。自信を胸に、『誓約』を受けるだけだ。
「杏樹、あなたはここにいるティアリアを妻に娶り、病ンデレな時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も、妻として愛し、尊び、慈しむことを誓いマスか?」
 言葉を聞けば緊張が過ぎる。気恥ずかしさに思わず揺れた掌をぎゅっと握り込み息を吐く。
「はい。誓います。死が二人を別つ時まで、命の日の続く限り」
「ティアリア、あなたはここにいる杏樹を、病める時も、健やかなる時も、富める時も、貧しき時も夫として愛し、尊び、慈しむことを誓いマスか?」
 ヴェール越し、柔らかに微笑んだティアリアは鮮やかな赤い瞳を細めて微笑んで見せる。杏樹の緊張を余所に落ち着いた雰囲気のあるティアリアは結婚式を楽しんでいるのだろうか、瞳を細めてフツを見詰めて幸せそうに頷いた。
「はい、誓います」
 二人の意識の外では戦闘が続いている。小さな回復ならばと絹がサポートを行い、アナライズするジュリーが指示を送る中、大暴れする竜一と灯璃に続き『花束』を投げ渡す様に行動を阻害するユーヌが彼ら三人を庇い続けている。
「デハ、指輪を……」
 指輪は好感のためのものだったのだろう。二つで一つのそれはアーティファクトとなった今も嵌められる事が無かった無念の産物だ。依り代としてこの場所に幽霊を呼び出して居るならば、指輪に見せつけてやりましょう、とティアリアはゆるりと微笑んだ。
 指輪を交換する時に絹の作業灯の光を浴びて、ちらりと見えたのは“Eternite”と刻まれた文字だった。
 永遠を誓う為の指輪を手に取った杏樹はそっとティアリアの手を取る。緊張で揺れる指先を落ち着かせるように小さく息を吐いて白い指先を見詰めた。
「ふふ、緊張するわね」
 ゆっくりとティアリアのほっそりとした指先に指輪が嵌められる。神秘の力を帯びたそれはティアリアの左手薬指にすっぽりと収まっている。
 杏樹とティアリアの指先を飾る指輪を確認し、フツが大仰に手を叩き「ソレデハ!」と進行していく。
「それでは、誓いのキスを」
 向き直った時、ヴェール越しのティアリアの瞳と克ち合った。緊張からか、何処か動作が固い杏樹にティアリアが小さく笑みを漏らす。
「……ちなみにワタシの格好は袈裟です。牧師なのに、袈裟。こういうのワヨウセッチューと言うんですヨネ。
 そして2人がするのはチュー! チューをハヨウセイ! HAHAHA! 緊張ほぐれましたカ?」
 フツの計らいのお陰か、其れとも余裕を浮かべるティアリアを見てか。杏樹が小さく息を吐き、ティアリアの肩に手を置いた。ヴェールを持ち上げ、素顔が露わになったティアリアは何処か恥ずかしげに笑っている。
 小さく頷いたフツを見遣り、彼が頷くのを確認した後。
 目の前で微笑んでそっと目を閉じたティアリアに視線を送る。
 ゆっくりと近づく顔に杏樹がそっと目を閉じて――


 ひゅう、とマフラー越しに聞こえたのはジュリーの吹いた口笛だった。
 誓いの口付けという一大イベント。この時の為にマフラー越しでもふける様にと練習してきた口笛は式場内に響く。
「偕老同穴って言ってね。意味は……まあ、知らないけど」
 その音に合わさる様に赤い刀身がひゅん、と投げ込まれた。灯璃の焔色の瞳が細められる。この時を待っていたと言う様に一気に地面を蹴りあげて背負う四枚の羽根を揺らして唇を吊り上げる。
「結婚おめでとー! 二人の結婚を祝して盛大に大暴れしよーっと!」
 灯璃の目的はアーティファクトの回収でも破壊でもない。衝動的に大暴れしたいと言う気持ちが勝ったのだろう。朽ちた教会に翼を揺らす様はまるで天使その物だが行いは悪魔に近い。
「今回のメンバーには除霊のエキスパートも居るし大丈夫でしょう」
 それはインチキ外国人牧師役のフツを指して居るのだろう。幽霊に坊主とはまさしく天敵だ。
 灯璃の支援を得て氷の雨を降り続けさせる絹が指輪へと視線を送り、噂話を思い浮かべる。指輪の本来の主、花嫁の事を思い返せばなんと無念であったのだろうか。
『あ、』
 ――彼女は何と言いたかったのか。
 絹には想像のつかない言葉にふるふると首を振る。竜一の剣で傷ついた幽霊を浮かびあがったユーヌが小さく笑い、銃口を向けた。
 現れる水神。玄武を招来させたユーヌの瞳に宿す色は読みとれない。或いは恋人である竜一だけは読みとれたのかもしれない。
「頭は冷えたか? いや、冷やす頭もないか。同じことの繰り返し、飽きて消えればいい物を」
 呆れ半分の言葉を受けながら増える事を辞めた幽霊たちへと杏樹の弾丸が降り注ぐ。
 続けざまに、取り出した槍を向けたフツが一気に踏み込んだ。除霊のエキスパートとまで呼ばれた彼が握りしめる槍はユーヌの水とは正反対に燃え尽くすものだ。
「さあ、引き出物だ。残さずもってけよ。焼き尽くせ、深緋!」
 けらけらと少女の笑い声が頭の中に響き渡る。攻撃を受け、消えていく幽霊たちは光りの粒子となって暗闇に溶けていく。ジュリーにはその景色が寒空の冬に春の訪れを告げる様にも見えたのだろうか。
 何とも美しい光景は寂れた廃墟に良く似合う。ライトアップされて行く様に次々と消えるエリューションを見詰めて、マフラーに埋めた口元で小さく息を吐いた。
「柳暗花明って言葉があってね。意味は知らない」
 シン、と静まり返った教会で茫と昇る様に光りが瞬き、消えていく。
 それは映画のシーンの様に迫力があるものだ。電灯で作りだされるイルミネーションとは違う、死者が燃え尽きる時はこの様な物なのか――はたまた、神秘の力が可視化出来たのかは区別がつかない。美しさだけを湛えたソレは一言で言い表すならば『きれい』であっただろう。
 指輪には何の効力もないのだろう。左手薬指に感じる重みに視線を送った杏樹は小さく安堵の息を吐く。
「ここ、綺麗にしていきましょう。哀しい事故が起こった事は代えられないけど、ここで短い間でも幸せな人達が居た事には変わりないので……」
 出来れば綺麗な形にしておきたい、と心霊スポットとして注目を集めてから更に荒れ果てることとなって居た教会の中を整理する絹の後ろで大きな瞳を輝かせて「指輪はどうするの?」と灯璃は聞いた。
「指輪の持ち主って死んじゃったんでしょ? 呪われてそうだし、いらないなら灯璃に頂戴!」
「どうせなら『結婚した二人』が持ちかえればいいんじゃないかしら?」
 なんて、と続けるジュリーにティアリアが「今日の想い出ね」と可笑しそうに笑っている。
 灯璃が「要らなくなったら頂戴よ?」と冗談めかして言うとなり、静まり返った教会内で、武器を降ろし、息を付いた竜一が整ったかんばせを盛大に綻ばして一気に駆け寄った。
「俺は、ユーヌたんを、愛し、尊び、慈しむ事を誓うよ。ユーヌたんすりすりちゅっちゅぺろぺろ」
 そっと寄り添う竜一に相も変らぬ無表情のユーヌは「ああ」と小さく呟いたのみだ。表情の変わらない彼女に竜一は「ユーヌたん!」と嬉しそうにしているのだが、そこは当人同士にしか分からない事なのだろう。

 静まり返った『心霊スポット』は今は無害な場所だ。
 暫くはインターネットの噂を元に訪れる人たちが居るだろう――無害な空間は雰囲気だけでも十分な恐怖心をそそる場所だ。普通の『噂話』として幕を閉じてくれることだろう。
 くるり、と振り返ったジュリーの翡翠の瞳に映ったのは茫と光る何かだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れさまでした。
 結婚式ごっこでした。指輪の交換ってロマンチックですよね。結婚式の映像はしっかり録画ですね。抜かりない。

 リクエストありがとうございました。
 別のお話しでお会いできます事をお祈りして!