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Never escape

「ボトムチャンネル。再び来る事が叶ったか……」
 翼をはためかせ朝空を舞いながら、感慨深く空を見上げる。
 刻一刻と強くなる日の光に薄れゆく月が、しかし慈愛を湛えて地を見守っていた。
 その優美に、我知らずほうとため息を吐く。
「あいも変わらず美しい」
 初めて来た際、この地にて覇を唱えようと考えた事を思い出す。あの時そう思わせた美しさは褪せず、その輝きに惹かれる気持ちもまた一切減じてはいない。だが、今ではもう、この世界を我が物としようと言う気持ちは薄らいでいた。
「ここは、ありのまま故に美しい。天の営み、地の営み、そして人の営み……その全てがなすがままあるがままに流れていてこそ、美しいのだろう」
 そう思うようになった。であれば、外なる存在である己が余計な手を加える事は飛んだ蛇足事に他ならない。この美を損なっては、本末転倒以外の何物でもないのだ。
 だから己もまた、ただただなすがまま、ありのままであろう。
「そう、闘争を。この血を燃やす闘争を……!」
 場外より無理を通し覇道を敷こうとする暴君ではなく。
「ただこの心身を焼く一夜の逢瀬を望む、ただ一人の修羅として!」
 常であれば彼女は、異界に赴いた際は先ずその地に潜伏し過ごす。
 その地の新しい文化や習俗に触れる事で、知識だけではなく、彼女は新たな力に開眼する事が出来るからだ。それがこの若き暴君を闘争の申し子たらしめている所以の一つ故に。
「だが……ククク、今回ばかりはもう辛抱溜まらぬよ」
 溢れ出る愉悦を堪えきれず、笑いを零す。
 今、文字通り飛んで向かっているその先。そこから感じる。この気配。
 放たれる寸前の弓の如く引き絞られた熱、敵意、そして欲望。
 見渡せば、数多のツワモノ達がギラギラと目を輝かせ『その時』を待ち侘びている。
 間違いない、これは、戦の気配だ。
 きっと私はそれゆえに呼ばれたのだ。誘われているのだ。この闘争に!
「さあ、ここだ……! 愛しき戦場よ、無類の地獄よ。私は遅れずやって来たぞ」
 全ての熱量の中核たる巨大建造物の頂上に降り立ち、日の光にすら打ち勝った暴虐の吸血種は蕩ける様に、しかし高らかに笑った。
 そして数刻と経たず開戦は高らかに宣言され。
 鬨の声は、その地を揺るがしたのだ。

『2014年新春・コミックバケーション! ただいまをもちまして開催致します!!』



 リベリスタ達は即座に一斉に部屋を出ようとした。鍵がかかっていた。
「逃げちゃ、ダメ」
 今日も『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)は冷静だった。
「いや、だってコミックバケーションってさ……」
「同人誌即売会。結構規模が大きい部類なんだって。こう言うイベントは東京で一番大きいのがあるけど、地方でも時々あるみたい。大阪とか新潟とか」
 そうですか。としか言いようがないリベリスタ達だった。
「その、こいつはアザーバイド……だよな?」
「そう。過去に数度ボトムチャンネルへの来訪記録がある。闘争を何よりも尊ぶ武闘派のアザーバイド。ベリアル・クリムゾン。通称夜の女帝……もしくは納豆の女帝」
 前半の情報から来る緊張感が最後の一言であっけなく爆散した。
 だが、油断を出来る相手ではない。万華鏡が映した情報にもある通り、彼女は別階層を旅して得た新しい経験や知識を元に強力な力に開眼する異能を持つ。その成長力……いや、もはや進化力と言えるそれは、掛け値なしに脅威の一言だ。
「彼女はこのボトムにも何度か現れて、新たな力を得てきたの。
 その結果が納豆健康法や肝試しマスターとかでなければ、もう少し緊張感が持続するんだけど」
 すいませんイヴさん台無しになる事言わないで下さい。
「つまり今回はその……『同人誌即売会に影響された力』に開眼、してるって事か?」
 それはとっても、ヤなことだなって。
「ううん、それは大丈夫」
「え?」
 イヴはリベリスタ達の不安を否定しながら、未来予知の映像を再生したのだった。


「うわあああああああん!!」
「ちょ、なんでこの美少女は泣いてるのでござるか!?」
「フォカヌポゥ」
「泣き止め! 子供! ……駄目だ泣き止まん」
「泣き止ませる気あんのかそれ。いや、にしても本当どうしたんだ。見た感じレイヤー見たいだけど……」
「ひっく……ひぐ……ふえ、ふえええええ」
「アレンジが強くて確証はないでござるが、恐らくこのコスプレは宵闇の吸血姫レティシアたんで御座るな」
「かまぼこ大御神」
「かなり本格的なコスプレだな……後、物凄い子供泣きだ」
「……あー、理由分かった。なんかそのレティシアのその、あれだ、アレな同人誌読んじゃったんだってさ」
「「「あー」」」
「うえええええええ!」


 リベリスタ達は何とかして鍵を開け、あるいは窓を、扉を破壊して逃げようとした。
 無駄だった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月21日(火)22:36
ももんがです。ギャン泣き系アザーバイドの相手してきてください。

●成功条件
神秘を秘匿するために、放っておいたら大暴れを始めてしまうアザーバイドをなんとかすること。
適当になだめすかしたら良いんじゃないかな。

●アザーバイド『納豆の女帝』
 id/1935『Never die』
 id/2780『NeverEnding/SummerVacation』
以上のシナリオに登場したことのある、少女のような姿のアザーバイド。
元は「ヴァンパイアよりも古典的な吸血鬼」めいた能力だったが、
この世界で得た様々な秘術()によって大きくその力を変化、強化することに成功した。
いまや日光も流水も恐れるに足らず、ただこの世界の納豆を愛する健康マニア状態である。
本人曰く、腐敗食品が好ましいのではなく納豆が素晴らしいのだとのこと。
月光の糸で編んだ豪奢な夜会ドレスが、周囲の一般人たちからは偶然にもコスプレと認識された。
自分に似たキャラのアレな本を読んでしまい、ショックのあまり幼児退行を起こしている。
じゅんすいなんです。

●会場規模
徹夜まで必要ないけど確実に欲しいものがあったら始発に乗るぐらいの人出。
つまり東京の某アレほど大きくないけど、大阪の某ソレくらいかもしれません。
女帝はコスプレイヤーだと思われているため、コスプレ会場にいます。
ギャン泣きして周囲の注意を集めているので発見は難しくありません。

あ。二次創作も一次創作もあるよ。
売り子参加可ですが、アークに関する内容はARK倫が目を光らせますのでご注意を。
具体的には神秘の秘匿を考慮すること、参加していないPCいじり不可。

●会場周辺
こういう会場周辺にありそうなちょっとした買い物が出来る場所とかはあります。

●BNEは全年齢です
アレな本がいっぱいあるのは確かですが、内容の細かな描写等は一律マスタリング対象になりえます。

以上の注意点を守って遊んで下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ヴァンパイアマグメイガス
アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ビーストハーフスターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
ナイトバロン覇界闘士
喜多川・旭(BNE004015)
ビーストハーフマグメイガス
エルフリーデ・バウムガルテン(BNE004081)
ビーストハーフホーリーメイガス
テテロ ミミミルノ(BNE004222)
フュリエクリミナルスタア
ケイティー・アルバーディーナ(BNE004388)


「女帝、三度訪問か」
 過去の報告書を仕舞いこんで呟く『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は、その訪問全てで女帝を相手取っている。進化を止めず、戦闘センスにおいて抜きん出た異世界の住人は、しかし。
「来る度に残念っぷりを見せてくれるんで意外と楽しみなんだよな。美少女だし」
 ――ブレスの感想通り、非常にあれな感じの性格なのである。
「えっと……ここはいったいどこですか……。ミミミルノはなにをすればいいのでしょうかっ」
 正に戦場の如き熱気と人の群の中、迷いかけたところを長身のブレスを目印にした『さぽーたーみならい』テテロ ミミミルノ(BNE004222)がおろおろしている。彼女はこの同人誌即売会と言う名の戦場に来た事が無い。知識も無い――すなわち初陣。戸惑うのも当然だった。
「よぉし、わたしが一肌脱いで楽しませてあげよう!!」
 そこに響く、百戦錬磨の頼もしい声――『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)だ。
 安堵とともに壱也を見たミミミルノの目が、点になった。
 壱也は華美な中世貴族然とした男装をしている。どうやらちょっと別行動してたと思ったら、手早くコスプレ登録と着替えを済ませて来たようだ。小柄な男装とかなんというももんが得。それはともかく。
「!? え? え? みなさんどーしてそんなかっこうをっ??」
 ミミミルノのはてな顔が加速する。何せコスプレをしているのは壱也だけではない。
「んじゃ、コスプレして女帝からちょい離れたトコでうろちょろするっす」
 そう言って先行したのは『忘却仕様オーバーホール』ケイティー・アルバーディーナ(BNE004388)。女帝より目立つコスプレをする事で注目を集める囮役、と言い出した彼女は、ガショーンガショーンと音を立て動くロボットの外装を着ている。アメコミが原作のロボ物ゲームのコスプレらしい。がしょんがしょん。
「お、竜一くんかっこいいね! さすが顔だけはイケメン!」
 壱也が賞賛(?)したのは『一人焼肉マスター』結城 "Dragon" 竜一(BNE000210)。ポーズで返した竜一は、壱也と同じく中世めいた服装だった。それも当然で、この二人が選んだのは女帝扮する(と周囲に誤解されている)宵闇の吸血姫レティシアが登場する作品のキャラクター。それもレティシアと心を通わせ恋のさや当てをするキャラ達、つまり『合わせ』なのだ。
 ところでこの衣装、プロデュースしたのは壱也である。
(男装でセットでほも。新境地だ……!)
 内心はともかく。表向きは合わせなんだってことになっている。
「どう? 似合う?」
「……さすがだな、いっちー。その胸の無さとかまさに男。男装とは思えないぜ……」
「これちゃんとサポーターで抑えてるから!!!」
 かっこいいポーズを取る壱也に見事なまでにデリカシーの無い発言をして殴られる竜一は通常運行。
 ともかくちゃんと考えられた衣装なのだが、事前知識の無いミミミルノにはそれが分からない。言葉の節々と周囲の参加者の姿から、潜入捜査の為なのだと言う事で辛うじて納得するのだった。
「よし、みんなコスプレ広場にごーごー!」
「はいはーい、この先に友人が居るんでちょっと通してもらうよ」
 手を振り上げて壱也が仕切り、ブレスが人混みを切り分け始める。泣いてるからすぐわかるでしょっ、そう言って壱也は皆を見回し――あれ、と首を傾げる。『バットメード』エルフリーデ・バウムガルテン(BNE004081)が顎のあたりで軽く拳を作り、ずいぶんと考え込んでいるのが見えたのだ。
「日本の祭りに参加するのは初めてですね」
 自分が注目を浴びていることに気がついてか、エルフリーデが自分から口を開く。
「日本の?」
「ええ、日本の」
 祝祭、という意味ではなさそうなニュアンスに、それ以上の追求は誰もしなかった。


「お、オウ、アイのっとゆーずジャパーン……」
「ああ、日本語は話せますのでご心配は無用です」
 周囲の一般人を引き離すべく動いたのは『銀の月』アーデルハイト・フォン・シュピーゲル(BNE000497)だ。女帝を泣き止ませようと腐心していた人達に話しかけ、明らかな異国顔にびびられたところで日本語話者だと明かす。興味と注目を一挙に集めるには完璧なつかみだ。
「彼女は私共の連れなのですが、なにぶんこのような場所は不慣れなもので。しばらく落ち着かせたいのですが、紳士の皆様方にはどうかご協力をいただきますようお願いいたします」
「おおそれは助かる! ならば後は任せるぞ!」
「よかったー、連れがいたか……で、ござる」
 なりふり構わなかったり語尾の設定を忘れたりするあたり、余程弱っていたのだろう。アーデルハイトの言葉を聞いた途端に、おろおろしていた人々が去って行く。
「今の女性は何のコスプレだ? 服装的にレティシアと合わせっぽいけど」
「うーん、リアルな牙まで付けていたから、同族系じゃないか?」
 カメラを手にした男性達が首を傾げる。彼らは彼女の姿がよもやの『素』だとは夢にも思っていない。聞いてみようかと言い出し引き返しかけた彼らに、クラシカルなロングメイド服の女性が声をかけた。
「ねえねえそこの人達、ブログに載せたいから撮ってくれる?」
 デジカメを渡しながら笑ったのは、『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)だ。彼女が着ているのは実はバイト先であるメイド喫茶の制服だったりするのだが、それは大した問題ではない。
「ポーズのリクエストとかあるかな?」
「お、おお、それなら……」
「男のひとは、こーゆーのすきなんでしょ? わたし、しってるよ」
「「「うおおおおお!」」」
 彼女の目的は人目を引き、女帝から衆目を引き離す事だ。あえて距離を置かない位置に陣取る事で、かえってアザーバイドのいる所を死角にしようとする算段。リクエストどころか、自主的にスカートの裾を口にくわえ際どいポーズまで取っている旭はなるほど注目の的である。
「モデルさん体験だとおもえば結構たのしいの」
 待って旭さん待ってそれ何か違う気がする。
 少し離れた距離からはガショーンガショーンというメカメカしい足音と、それに合わせたどよめきも聞こえる。ケイティーの方も順調な様だ。囮作戦がうまく機能していることを確認したアーデルハイトは満足げに頷くと、本題の方を向き直り――その形の良い眉が顰められた。
「ベリりん、こんなところにいたのか。はぐれちゃダメじゃないか。さあさあ、いこう」
「やだあ!」
 竜一は普段の言動的に仕方ない可能性もゼロではないような気がしなくもないが。
「お、おいお姫様……」
 しかし女性に対する態度に卒のないブレスですら頭を撫でようとしたのを思いっきり逃げられている。
「ベリアルちゃんっこんにちは。わたしは初めましてだけど、わか……あれ?」
 声を掛けた壱也も困惑する。彼女はこのアザーバイドとは初対面なのだが、女帝は壱也に縋り付くようにしがみつき、その背に隠れたからだ。
「おいでおいで。お兄ちゃんだよー」
「やだ! 私に酷い事する気だろ? あのマンガみたいに! あのマンガみたいに!」
 女帝の言葉でリベリスタたちに理解が及ぶ。なるほど、アレな同人誌って言うと、加害者は大抵男だ。そこに男が近づいた結果、正気度判定に失敗したのだろう。
「お迎えに上がりました、陛下。拝謁叶い恐悦至極に存じます」
「ふえ?」
 不甲斐ない理由でSAN値減らした女帝の前に、アーデルハイトがひざまづく。
「陛下、取り乱す必要はございません。これで大人への階段を一歩昇られたのです。下々の者がかような妄想を抱くのも、全ては陛下の魅力が成せる業なのです」
 敬った態度と、自信を取り戻して貰おうとかけられた言葉に女帝の顔が少しだけ落ち着く。
「で、でもでも私あんなの出来ないし無理だし……!」
 それでも涙目である。あんなのって何なのか深く聞いてはいけない。
「泣くのはおやめ下さいお嬢様」
 そんな女帝の涙を拭うハンカチ。綺麗に折り畳まれたそれを持つのはメイドではなく拘りある発音でメードのエルフリーデだった。旭と同じく周囲にはコスプレと思われているものの、実は仕事着であるメード服に身を包んだ彼女は、本当はもう少し女帝が男子勢におもちゃにされているのを眺めているつもりでいたのだが、予定を早めて宥めに来たのだ。
「お嬢様、お名前をお聞かせ下さい」
 その背をゆっくりさすりながら名を問うエルフリーデに、女帝は少し逡巡した上で「えーっと、えーっと」とか言い出したがやがて以前の自称を思い出したのか、ベリアルと答える。
「このキャラクターはレティシア、貴方とは名前が違いますね」
「そうそう。つまりベリアルちゃんじゃないから大丈夫だよ」
 更に壱也が言葉を重ね。ようやく少女の姿をした異界の住人の目にハイライトが戻って来た。
「だから落ち着いて、息を吸って……吐いて……」
「すー……はー……」
 素直に従って呼吸を整えていくアザーバイドを見て、何時も冷静な侍女の頬が少し緩み、
「かまぼこ大御神」
(ああ、坊ちゃまが幼い頃を思い出しますね。可愛く利発な少年でした)
 背後を通った人間サイズのかまぼこコスに心情とセリフがテレコる。あれどうやって歩いてるんだ。
「それじゃわたしたちとあそぼう! 何か知ってるアニメとかないのかな……。
 女の子だからかわいいキャラクターや魔法少女とか好きかな!?」
 落ち着いたのを確認した壱也が笑顔を寄せる。
「アニメ? アニメなら一番好きなのは幽霊掃除人ビューティーゴッドだな!」
 食いついた。思いの外に前のめりに食いついた。
 壱也は関わっていないが、女帝は初めてボトムチャンネルに来た際。数か月間潜伏と修行、のはずがそのあたりすこーんと忘れて仲良くなった子供達と遊び倒していたのである。漫画もアニメもその際嗜んだ様子。即売会が始まった時点でここが女帝の望む様な『戦場』ではない事は分かった筈なのに、うっかりアレな同人誌を読んでしまうまで参加していた理由がこれである。
「ともかく、毎度お馴染みのアークだ。騒ぎ回避が目的だし、出来れば口裏合わせてくれ」
「ブレス・ダブルクロスではないか。それに竜一だったか。居たのなら声をかけぬか」
 もう大丈夫か確認する様に言葉をかけたブレスを、女帝はきょとんと見返す。
「最初にかけたんだが!?」
 報われない男性陣。


 ここで暴れてもお姫様好みの闘争は出来ないと言うブレスの言葉に女帝はあっさり頷き、一行は会場の隅の人の少ない位置に移動した。
「むぎゅむぎゅ。すりすり。もふもふ。ぺろぺろ」
「所でさっきから竜一はどうしたのだ。この階層での何かの儀式か?」
 竜一はさっきから女帝をを抱き締めたり撫でたりモフったりペロったりしている。どうも先ほど拒否されて出来なかった分を取り返そうとしている様だ。スタッフが「警察呼びます?」とやんわり確認してくる。
 大丈夫、通常運行。
「すっかり落ち着いたみたいだな。何か愚痴っておきたい事があったら聞くぜ?
 ここは出すもん全部出してスッキリさせておいた方が良いだろ」
 先ほどまでと一転してスキンシップさえも意に介さなくなった女帝に、自販機で買って来た飲み物を手渡しながらブレスがそう促す。
「愚痴? いや別に。と言うかそのええとちょ、ちょっと驚いただけだからなさっきのは!
 別にどうって事はわわわ……!? わーい」
 鷹揚な態度から言い訳がましい弁明を始めた矢先に竜一に肩車されて驚きいて見せたはずがスムーズに無邪気に肩車を楽しみ出した女帝である。なんだこいつ。
 その弁明に軽く肩をすくめたブレスは――竜一も同じ判断をしていた。この意地っ張り系が「驚いただけ」というからには当分口を割らないだろうから――それならと疑問に思った事を聞いてみる事にする。
「以前、名前を聞いた時に慌ててたが何かあったのか?」
 但しその表情には悪戯っぽい光が見えている。
 口には出さない物の恐らく告白とか求婚の類なのだと検討をつけているのだ。それに対する女帝の反応が乙女なのかそれとも大人なのかを楽しもうと言う魂胆である。
「んなっ!?」
 果たして再び慌てだす女帝。
「お、おまお前やっぱり私にあのマンガみたいな事する気か!?」
 竜一の肩車から凄い速度で這いずり下りその背中に隠れ、肩から顔だけ出して警戒の目を向けてくる女帝。芋虫と小動物を足して2で割った見たいな反応だった。
「あ、あんな怖い事だとは知らなかったんだ! 世継ぎの作り方教本には書いてなかった!」
 再びパニックを起こしかけた女帝を慌てて再び宥める一行。
 反応如何では更に食いついてからかってみるつもりだったブレスだが、この反応には流石に難しい顔になって考え込む。動揺と共に零れたアザーバイドの言葉を吟味するに。
「……つまり世継ぎを作る相手だけが、お姫様を名前で呼ぶって事か?」
 思わず声を漏らしたブレスの後ろに、人影が二つ近づいてきた。囮役を果たしたケイティーと旭だ。
「どうやら保護は完了した見たいっすね」
「ただいまー。落ち着いたのなら、折角だからみて回りた――ってケイティーさんコスプレ変わってる!?」
 ケイティーはいつのまにやらロボライクなコスプレをクロスアウツして、普段のがっつりピアスどころでなくゴテゴテジャラジャラピアスの、全身スーツのガラ悪そうなおねーちゃんのコスプレだった。無口で目つき悪いサイボーグ未亡人がロボ外装を着込んでいる設定だったらしい。どんなゲームなんですかそれ。
「トリガーハッピーなロボット操ってヒャッハーするゲームっす。
 操作がわかりやすくて楽しいっす。でも17才未満は買えねーっつーゲームっす」
 どの方向性でその指定が下ったのか、気にしないほうが良さげである。
「閉場まであと二時間位あるっすね。ちょいと本買ってくるっす。
 野郎淑女問わず、うねうねにあんなことこんなことされてる本がいいっす。
 エロいやつがいいっす。こう、男女問わずナイスボディがいいっす」
「女帝さんも一緒に……は、むずかしそう?」
 再び外装を身にまとい、がしょんがしょんと歩いていくケイティー。他にも何人かがそわそわしだしたのと、女帝が少し青い顔をしたのを見て、ブレスは女帝と一緒に留守番を申し出る。
 壱也は平然とした様子を取り繕っている女帝に、こっそり薄い本を差し出した。件のレティシアたちが属する、闇の貴族の美少年の道ならぬ恋の本。右側は一見女の子にしか見えないのもお約束。
「すごくいいストーリーだよ! 男の子しか出てこないけどね!」
「ほもってね、何故かこころひかれるの……だめっておもうのに。見せて貰っていい?」
 腐敗の王おすすめの一冊をぱらぱらと見せてもらった旭が、顔を赤くする。
「ふわ、こんな……え、やだ……すごい、やぁあん(*ノノ) こ、これ、どこで買えるの?」
「今日も売ってるはずだよ、この辺――あ、ここだね」
 カタログに書き込まれる道案内。「あうー、だめな一歩を踏み出してる気がするの」と呟きつつも、旭はその道筋を歩み始める。ようこそ腐海へ。
「あらあらまあまあ。これはこれで清楚で初々しいのですが、もっと絡み合ってもよろしいかと。貴族とは、考えていらっしゃる以上に苛烈なものですよ」
 待って今子持ちのアーデルハイトさんが凄いこと言った!
「ここはそういばしょなのですねっ……。そういえばミーノおねえちゃんもなにかいってたような……?」
 本を見せてもらえない(ここ重要)ミミミルノは、その横で受けたざっくりとした説明によって、ここは好きな漫画などの絵とかを自作して売る場所だと認識してしまった。
「これもきっとしゃかいべんきょーのいっかんなのですっ。
 ミーノおねーちゃんこーゆーのすきだったはずだから……よろこんでくれるかなぁ?」
 そうしてミミミルノが選んだのは、可愛らしい表紙の本。内容は――かげきなものをちっちゃいこにうるのはだめなのです。かわいいほんです。ほんとだよ!
「竜一くん! 買い物付き合ってよ、せっかくだしさ!」
 女帝prpr中だった竜一の腕を引っ張って、壱也は意気揚々と歩き出す。引きずられ気味の竜一だったが、ふと見かけた薄い本に目を留め立ち止まる。
「このアイドルアニメのキャラ、いっちーに似てるな。いっちいっちいーって感じで。
 今度来るときは、このコスプレだな! ついでにこのキャラの怪しい本とか」
「え? わたし? ――ほんとだ、似てる。竜一くんもコスプレしてくれるならね」
 にっこりと笑って壱也が指さした先。『合わせ』になりそうな雰囲気の、格好良い系のおねーさまがいた。


 日も暮れ、人の波も殆んど引いたころ、女帝は帰路のD・ホールを開いた。
「陛下、納豆と申すものはこの国の民には欠かせぬ食材なのです。
 どうか、納豆のように粘り強く、下々に優しく。同じ存在を愛する者に寛容であられませ」
 栄養や価格的な意味で。
 旭の持ってきた納豆パックと、エルフリーデの持ってきた納豆巻きをお土産に渡された女帝に、アーデルハイトがそう言い含める。
 至極感銘を受けた表情で、女帝は頷いた。
「そうか……妾と似たような姿をしているだけのことはある。
 貴殿、同士なのだな。
 よし、この我、ベリアル・D・クリムゾンの名において、納豆様バンザイ団のNo.2と認定しよう!」
「えっ」

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
成功です、お疲れ様でした。納豆様バンザイ団、現在団員二名。
……腐海? クリミア半島あたりの干潟の名前ですよ(そっぽ向いた)