●悪夢 人が死んでいく。 彼らに神秘に抗う力はない。無差別に。一方的に。人が死んでいく。 そいつらはただ力を振るう。笑いもしない。感情も出さない。ただ力を振るい、人が死んでいく。 人々を虐殺し、そいつらが次の犠牲者を探すように振り返る。 その顔は―― ここに集まった『自分たち』だった。 ●厄払 静まり返ったブリーフィングルーム。 万華鏡が予知したモニター画面に映るのは確かに自分。自分の手で次々に人を殺して回っているのだ。 唾を飲み込む。握り締めた拳は冬だというのに汗に塗れていた。 有り得ない。有り得て欲しくない。有り得てはいけないことだ。逃げ惑い悲鳴を上げる人々を襲うのが未来の自分であるなどと! 周囲の固い表情を見て、咳払いを一つして『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)が切り出す。 「これは変えられる未来デースよ」 アナタたち次第デスけどネと口にしたロイヤーに誰かが詰め寄った。 「状況を教えてくれ。どうして、こんな……」 こんな悪夢の様な状況になったんだ。続かなかった言葉を察して、ソーリーと手で制し。 「先に誤解を解いておきマス」 モニターに映る場面が横に滑り、凄惨な現場に倒れる複数人。 その顔は―― ここに集まった『自分たち』だった。 「アザーバイド『ミラーマン』。これらをそう仮称しマス」 先程の未来。それは、敵対する者と同じ姿・能力を写し取り人を襲う、敵性アザーバイドとの戦いに敗れた未来。 「廃ビルの鏡がゲートと繋がりこれらはやってきマシた。そのままでも一般人へは十分な脅威であり、ビルから出すわけにはいきまセーン」 エリューションにしか倒せない。しかし、エリューションと対峙した瞬間にこれらは装備から技能までを完全にコピーした、自分たちと全く同じ存在となるのだ。 更にこれらは特殊な結界を張っている。8人いる彼らは2人ずつ4組に別れ、ペアで結界を形成している。この結界は外からでは攻撃できず、内には同じ人数しか突入できない。 「タッグマッチというやつデスね」 4組による対戦。誰かが負けてしまっても勝った組同士で戦い、最終的に相手を全滅させられれば勝利だ。 もし全滅してしまえば……先程の未来が来てしまうのだけれど。 「詳しいことは資料に纏めマーシた。勝利のコツは、あれらにない知恵を振り絞ることデスよ」 ロイヤーが未来を変えまショーとウィンクした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月16日(木)23:25 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●初夢 音もなく。揺らめく影は形取る。その姿は紛れもなく―― 「なんともお誂えむきのエリューションもいたものです」 廃ビルに侵入して間もなくのこと。『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)はその眼前にある、自分自身と向き合って。 姿、能力をコピーするアザーバイド。これが利用できるならば戦力の充足は簡単なものになろう。 「……できないんですかねえ? 研究する価値はあると思うんですけど」 嘆息して銃を構える。まるで鏡のように、視線の先の自分が銃を向けた。 「オレをコピーしてしまうなんて、運の無いアザーバイドだなあ」 己の微力を知る『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は笑いもせずそう言った。 真似られるのは構わない。ただ哀れに思うだけだ。自分以上に自分を上手く動かせるはずがないのだから。 微力ならばこそ。自分に何ができるのか、どう動くべきなのか、ずっと考えて来た。思考感情のないモノに負けようものか。 ――さあ思考を始めよう。 広げた鉄扇を差し向ける“自分に似たモノ”を見た、『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)の表情は実に――楽しげで。 私は私。貴様は貴様。それで良し。同じに非ず。 「さぁ往こうか。知恵無き者らに“己”の意味を見せてやる」 ただ同等の力持つ者たちとの闘争を望み。 音が響く。瞬く光は遮る結界となって、踏み入る者を死闘へと導く。 この先で行われる戦いに敗れれば、悪夢は現実になるだろう。『ロストワン』常盤・青(BNE004763)が小さく息を吐いた。 自分と似た何かに襲われる。自分と似た何かが人を殺す。なんて悪夢のようなシチュエーション。 ――ボク達は無機質な鏡像に一体何を見るのだろう。 開いた手を結界に差し込んだ。空気が纏わりつく感覚に1度目を閉じて―― 負けられない戦いを始めよう。 ●夢悪 「割とアニメとかに出てくる偽物って、目つきとかデザインが違ってツッコミいれたくなることがあるんだけど」 結界の中心部で待ち受ける2人、シルフィアとレイチェル……否、それに似た鏡像を見やり『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)が独りごちる。 「全く同じ見た目になるならまぁ、許せなくもないかしらね」 変なコピーなんてされたらたまったものじゃない。そう口にしながら練り上げた雷の魔術を前方に向けて。 「まぁ抹殺確定なので許すも何もないんだけど!」 飛び出した鏡像を迎え撃つ! 激しい電撃を浴び、なお駆け抜ける黒猫が剥きだした魔性の爪。吸い込まれるようにセレアの胸へと向かい―― 合金がかち鳴らす狂騒。英霊を纏い鉄扇を構え、全ての動作が守護の意思。 セレアを庇いシビリズが立ちはだかれば、何者がそれを突破できようか。 「連携と呼べるかは怪しいレベルの極端な攻防分担だが」 笑みを零してその身を盾とするシビリズ。その背後でセレアが敵を一掃する力を紡ぎ。 ただ己の得意分野のみを押し出しそれに全力を尽くす力技。単純にして強靭なその戦法、打ち破るのは難しい! 「攻撃? 知らん知らんなんだそれは任せたぞセレア!」 「任されたわ。一気に殲滅してみせる!」 神秘の爪を、魔術の鎌を身に受けてもシビリズは微動だにせず。セレアが一呼吸のたびに鏡像を激しく削り飛ばし―― 「崩せるかな。貴様ら鏡に、私達を」 2人が悠々と笑みを見せた。 「自分のコピー、か。面白い相手だな……」 興味深いと呟く『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)の様子に苦笑して。 「シルフィアさんのコピーの相手をするのは別の方。オレたちはセレアさんとシビリズさん……のコピー討伐ですよ」 「わかっている」 真昼の言葉に嘆息を返す。可能なら戦いたいと思うが、任務なら仕方ない。 「さて、まずは……」 真昼が構えたナイフは並ぶ鏡像の片割れ、セレアの鏡像へと真っ直ぐに。 ナイフが辿る一振りごとを組み立てた道筋で模倣する。思考のままに。思考の末に。流れる乱舞が敵の思考を……今ある自分すら狂わせたなら、感情なき鏡像が味方ごと電撃で巻き込んで。 「では追撃といこう」 その電撃の届かない位置取りをキープし術式を組み立てる。計算式は力のベクトル、混沌の鎌は空から招かれて。シルフィアの一撃が鏡像の身体を派手に切り裂き震わせた。 「ふむ、やはり庇わないのだな」 対峙する者たちが本物であったなら、一方的に狙われる仲間を庇いその身を盾としただろう。だが目の前のシビリズの鏡像は仲間に目もくれず。 「負ける気がしませんね」 その攻撃を簡単な動作でかわし真昼が言い切る。すでにセレアの鏡像を捉えたなら、あとはそのナイフを思考のままに振るうだけ。電撃の直撃を避け、徐々に積み重なる傷はシルフィアが術式を癒しの向きへと変更すれば危険もない。 「力量をはっきりわかってますから、然程怖くはありません」 自分を、仲間を、そして敵すらわかっている。ならば思考するだけ。ただ勝利に繋がるその道を。 放った気糸が逃げ惑う人の群れに飛び込めば、哀れな犠牲者が私の元へと引きずり出された。私は笑みを零すことすらせず無感動に爪を引く。真っ直ぐ伸びた赤の軌跡は、すぐに何倍もの赤で空を彩った。 人々を虐殺して回る、私。 ――モニターに映った自分自身。 「大丈夫ですか?」 横から掛けられた声に意識を戻す。返事を返そうとして……青が向けるその目に、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)は苦笑を見せた。 「今の私、怖い顔してましたか?」 「……ええ、少し」 青が遠慮がちに頷いたのを見て小さく頭を振る。いけないことだ、“もしかしたらありえたかもしれない自分”に魅了されるなど。 モニターの光景を見た時、正直ゾクゾクしてしまった。自分にはしたくても出来ない事を、自分がしているのだから。 だけど違う。あれは違う。自分の形をした偽者だ。ならばその愉悦も背徳も自分に返るものではない。ただ同じ形をしたモノに好き勝手されるなど気分の良いものではない。 表情が切り替わったレイチェルを青がどう思ったかはわからない。ただ前方を見据えたまま一言「来ます」とだけ呟いて。 鏡像たち――あばたの援護射撃を受けて真昼が飛び掛る! 迎え撃ち大鎌を振り上げた青の隣にレイチェルの姿はすでにない。真昼の鏡像が顔を上げた、その眼前に黒猫の爪がすでにある。 互いが必中の腕を持ち、互いが敵の動きを引き寄せ操る。ならば。 「……勝敗を分けるのは速さです!」 ただ一閃。それだけで命運が別れえる一撃。手痛い傷を受けた鏡像が反撃を開始する……その相手が味方であることに気付くこともなく。 仲間から乱舞を受け、状況を見失った鏡像が味方ごと銃を乱射する。場は混迷、ただの一撃が運命を決めた。 「……それでも注意を払わないと」 青は油断しない。自分もレイチェルも打たれ強い方ではなく、銃の乱射を受け続ければ倒れるのは自分たちだ。 銃撃を掻い潜り一直線。鎌はすでに振り切って、赤の刻印があばたの鏡像に刻まれた。返り血を浴びて再び構え―― 「一気に決めます」 「ええ、さくさく潰してしまいましょう」 青とレイチェルが掛け合い、鏡像を囲み刃が煌く。 「初めましてでしたっけ? よろしくお願いします」 鏡像と対峙する2人、二丁の銃を構えてあばたが隣に話し掛ければ。 「……攻撃お願いします。前の守りは俺が」 向き合う鏡像から目を離さず『鏡の中の魂』ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)が応えた。 (……ずいぶん気負ってますねえ) ちらりと一瞥し、あばたはすぐに視線を戻した。戦いに臨む意思があるなら何の問題もない。人様の内面を気にかける必要もない。自分はただ敵を撃ち、討つだけ。視線を固定して動き出した鏡像目掛けて掃射を開始する! 派手な銃撃であがった土煙が視界を覆えば、掻き分けて進む鏡像の姿に――ユーグがぎりと歯をくいしばった。 そこにいるのは自分自身。ユーグはメンバーの中で唯一、自分自身と向き合う機会を持ったのだ。 その姿は紛れもなく。出発前に見たあの映像が――あの悪夢が蘇る。 「……ッざけんな」 口に出た言葉は怒り。重なるのは傷つける事しかしなかった過去の自分。痛みすら伴う過去の情景。 ……この上お前は人を殺すのか? この上俺は、人を! 怒りを紡いだ口が祈りをもたらす。自身とあばたの背に翼を形成すれば、翻して一気に距離を詰める! 「突破はさせない! これでも、俺は人を護る者です」 青の鏡像が振り回す鎌がその身を抉る。鋭い一撃がユーグに消えぬ刻印を刻んでも、一歩も引かず! 全力で食い止める。この場で鏡像を釘付けにすることが自身の役目ならば。 「来い……纏めて引き受けてみせる!」 激しい痛みに気が遠くなっても、刻印が癒しを遮り蝕んでも、保たせてみせると誓ったなら……後は耐えて待つだけだ。勝利を引き寄せる銃声を。 「防御はグザヴィエ様にお任せします」 あばたの声が、銃声がはっきりと聞こえる。その間はまだ大丈夫。 咆哮をあげて鏡像を迎え撃つ。 ●悪夢 突き立ったナイフが深く抉られる。噴出した血の線をなぞるように収穫の鎌が傷口を抉り取った。 無数に思える傷がなお加速的に増えていく――それでも。赤く染まった身を気にもかけずシビリズは黙って立ち続ける。いや……笑っていた。 「さぁ私が倒れるのが先か貴様らを倒すのが先かやってみようではないか! ハハハハハッ――!」 笑う笑う。傷を受けてなお笑う。英霊への助力以外は仲間を庇い続け、日頃の逆境に追い込まれて発揮する本領も今は捨て置いて。 この戦法は吉か凶か。否、吉と成すのだ! 「倒せるものなら倒してみせよ! 生きるのは私達だ!」 シビリズの言葉が雷を伴う。正確には呼応するように放ったセレアの魔術。碧のスパークが広がり這うように世界を侵食する。 「誰かが言ってた、『戦闘は火力』って」 くすりと笑ったセレアが腕に抱えた碧の本。アーティファクトを介して増幅された電撃は鏡像たちを取り巻きその身を削り取っていく。 長所は生かしてこその力。黒猫の精度の高い一撃は確かにシビリズに痛手を負わせるが、その従来の実力を彼に発揮することは出来ず。守りを考えなければセレアの力はこの場の誰よりも制圧に秀でていた。 故に。 「能力が同じ、っていうと厄介に聞こえなくはないけど」 セレアが鏡像たちを見やって呟いた。 「対策を立てていける分、効率が底上げできるあたし達のほうが圧倒的に有利な案件よね、これ」 ウィンクして魔力を紡ぐ。勝利を決める一撃を。 「どこであろうが誰であろうが同じ事よ。やはり血が滾るのは変わらんな! ハッハハハッハハ!」 やるべきことも、この身を燃やす熱さも何もかも! 「君らはどうなのかな。血が湧かぬかね? まぁなんでも良い! 鏡だろうが夢だろうが虚だろうが知った事か闘争を寄こせ!」 笑いかち鳴らす鉄扇の先で、全てを飲み喰らう電撃が結界を突き破り崩壊させた。 「ふむ、実に興味深いアザーバイドだな。そういえばこいつら、喋るのか? 言葉が通じない相手と戦うのは何よりも退屈で仕方ないのだが……」 「あの、真面目に戦ってくださいよ……」 真昼の苦言に「手は抜いてないぞ」と返してシルフィアが幾度目かの収穫の鎌を振るう。大技を遠慮なく幾度と繰り返すのも真昼が万全のサポートを用意しているからこそのもの。 空間に裂け目が入る。力の向き、大きさに修正を加え、虚に実を与える混沌の魔術! 鋭く裂く一撃が鏡像を背後からまともに捉えれば、渇いた音をたててセレアの鏡像が粉々に砕かれた。それを見やれば真昼は息を吐き。 「後は持久戦ですね。最後まで油断せずきっちり理詰めで行きましょう」 敵の攻撃手であったセレアの鏡像を破壊すれば、残るシビリズの鏡像は守りを得手とするもの。恐ろしく時間のかかりそうなこの戦いも敗北の危険はまずなくなりそうだ。だからこそ、油断するなと口にしたわけだが…… 「欲を言えば、私自身と戦ってみたかったな。後で私と戦った奴から話を聞くとしようか。……脆いのだろうな、やはり」 「……もし目の前にいたのが妹のコピーだったなら殴れる気は全くしませんけど、今回は余裕ですね」 実際は完全に油断していた。ここで対峙しているのが本物のシビリズであったならば、逆境に身を置いた喜びから戦況を変えた可能性もあるが……鏡像にそれを期待するのは無理な話だろう。 銃を構えるあばたの鏡像が、しかし敵を見失ったように銃口を泳がせる。レイチェルと挟み込むようにして青が鏡像の注意を引きつければ、手痛い掃射の効果を半減させて。 鎌をかざして一気に間合いを詰める。強力な一撃を持つ頑強な鏡像を破壊するために、休む暇も油断する余裕さえも欠片もない。 強力な攻撃手段を持つ鏡像たちは上手くすれば逆転のすべを持っているといえる。それでも戦況を磐石としているのはレイチェルの先見によるもの。 もっとも有利となる組み合わせを考える戦略眼、誰を狙いどう動くかの最善を練る戦術眼、そして今なおタイミングに注意を払い勝利を磐石なものとするその判断力。互いを傷つけあう鏡像たちを見やってふっと息を吐いた。 「あばたさんも椎名さんも、本人であればこう簡単には狙わせてくれないでしょうね」 撃ちあい、削りあいになればレイチェルと青のペアに勝ち目は薄かっただろう。自身を知り、生存に知恵を絞る命ある者ならば勝負はわからなかっただろう。 でもコレは、ただ能力を写し取っただけの偽者だ。 「……勝たせてもらいますよ」 黒猫の名を持つナイフを構え、再び躍りかかるレイチェル。青は乱戦の中で静かに鏡像を見やった。 目の前の相手は仲間の姿を真似ている。けどその瞳に、立ち振る舞いに意思は感じられない。 そしてアークの人達の強さは、身体的な能力ではないのだ。 故に青は知る。知っている。 ――温もりも心の強さも存在しない鏡像に、ボク達が負ける事なんてきっと無いのだろう。 大鎌の一撃が鏡像を捉え――四散させた。 「――っ」 悲鳴を噛み締めて抑える。鎌の一撃が振るわれるたびに身体がばらばらになるような感覚に襲われた。 相手取る青の鏡像と自分との力量差は承知の上。ならばこそユーグは全ての感覚を防御に注ぐ。 死を刻まんとする大振りの鎌に1歩踏み込む。直撃のポイントをさけて杖を差し込めばまずは一手を稼ぐ。 攻撃を観察し読み取れ。動きを阻害せよ。わずかにでも時間を稼げ。直撃を避けて、もう一手に繋げろ! その稼いだ一手は、あばたが狙いを違わぬ精密さで敵を撃ち抜く時間となる。 連続する射撃が眉間に、各急所に容赦なく正確に撃ち込まれていく。 「そろそろ限界でしょう」 フィニッシュですと呟いて放った銃弾が胸を抉り青の鏡像を破壊した。刻まれた刻印が解除され、怪我の治癒が見込めるようになり息を吐くユーグに。 「使い潰れなくてよかったですね。それが最適とわかっては居ても、後輩を盾として使い捨てるってのはなかなか刺激的な気分でしたけどねえ……」 あばたの感慨深い言葉にははと苦笑い。そのまま射撃のスタイルを切り替えて掃討の構えを見せるあばたに習い、残る鏡像に目を向けた。 自らの傷を癒し立ち続ける自分自身の鏡像。……自分自身の過去の鏡像と対峙して。 過去がある。辛くて。痛くて。もう誰も傷つけないと、これからは守ると、誓った過去が――だから! 「――行かせねぇよ」 腕が千切れようと。足がもげようと。殺させてたまるものか。 決意を瞳に宿らせた後輩を見やり、あばたは銃撃を続ける。ついで倒れ伏す鏡像に、あるいは他の鏡像たちに思いを馳せ。 倒れ伏す鏡像。あるいはリベリスタ。 ――いずれ来る、わたしがアークと戦う日。 「その日の予行演習の一環だと思えば多少は明るい気持ちになれます」 口元に小さく笑みを浮かべて、あばたが最後の弾丸を放つ。 ●晴れる 全ての結界が崩れ去る。 立っているのは8人だけ。それぞれの顔を見やって、誰かが笑みを零した。 「完勝、でしたね」 「まぁ当然よね」 レイチェル、シルフィアの言葉に頷いて。 「同じ能力なら、思考しない相手には負けませんよ」 「うむ、おかげで物足りぬ闘争ではあったがな!」 真昼の言葉にシビリズが嘆息を漏らした。 「ではこれで任務完了ということで」 帰りましょうとあばたが仲間を促す。 「うーん今日はフォーチュナの力を実感したかも」 背筋を伸ばしていたセリアがふと難しい表情のユーグに疑問を浮かべれば、ユーグが慌てて手を振った。 「いえ……行きましょうか」 過去は変わらないが、未来はどうとでも変えれるのだから。 最後に息を吐いて、青が廃ビルの奥に立てかけられた鏡に手を置いた。 「……ボクたちは、無機質な鏡像に負けることはない。絶対に」 一際高く響かせて――ゲートが音をたてて壊れ落ちた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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