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【跳兎の事件簿】Runners High!


「ぶっちゃけ、そうなったら討伐でもいいと思うんですけど。せっかくですし、新春に行われる実業団駅伝に出てみませんか?」
 リベリスタたちを前にして、「ただし、剣林ロジスティクスの陸上部員としてですが」と『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)はさらりと言ってのけた。

 剣林ロジスティクスの陸上部とは。

 貫田正嗣という一人のフィクサードが3年前に組織内に立ち上げた部で、数は少ないものの部員たちは全員走ることを純粋に楽しでいた。
 いた、と過去形なのは今朝未明、他のフィクサード組織との抗争によりほとんどの部員が死亡したからだ。
 これが出場が決まっていた実業団駅伝当日のことであり、このままでは剣林ロジスティクス陸上部はレースを棄権せざるを得ない。 

「実業団駅伝には3年前からでていたようですね。少しずつですが順位を上げてきています。昨年は19位。今年は15位圏内を狙えそうでした。あ、みたらし団子、食べてくださいね」
 朝飯前にみたらし団子はないだろう、とう突っ込みは無視して、健一は言葉を継ぐ。
「部のエース・貫田正嗣のほか無事だったのは、貫田の舎弟である高良義美ただひとりです。補欠の彼を急遽出場させてもあと5人足りません。現場には覚醒能力を使用すると激痛を起こす“たすき”型アーティファクトを作成した六道のフィクサードがいますが、彼らを巻き込んでもメンバーはそろいません」
 つまり、このままではレース棄権で自棄を起こしたフィクサードが暴れまわり、一般人に被害がでる……かもしれなかった。
 ここで話が最初に戻る。

「ぶっちゃけ、そうなったら討伐でもいいと思うんですけど。せっかくですし、新春に行われる実業団駅伝に出てみませんか?」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:そうすけ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月12日(日)22:59
●全国選抜、実業団駅伝コース
全長100kmのコースを。7区間7走者でタスキをつないで走るアレです。
全国から37チーム(フィクサードは剣林だけ)が参加。レースはテレビで放送されます。

・1区(12.3km)……貫田正嗣(変更可)
 全体的にフラットなコース。
 「俺がスタートダッシュでできる限り順位をあげる。あとはそのまま順位をキープしてくれればいい」
・2区(8.3km)
 直線主体のコース。最速の2区と呼ばれている。
・3区(13.6km)
 コーナーが多く、順位が目まぐるしく入れ替わる事から変動の3区と呼ばれている。
・4区(22.0km)
 前半は緩やかな下り坂、後半約3.5kmは緩やかな上り坂になっている。
 全区間中最長、かつエース級の選手が投入される事から花の4区と呼ばれている。
・5区(15.8km)
 スタートからだらだら上り坂が続くコース。強い向かい風が吹く。
 試練の5区と呼ばれている。
・6区(12.5km)
 直角に曲がるコーナーや激しいアップダウンなど、全体的に走りにくい。
 戦略の6区と呼ばれている。
・7区(15.5km)
 ゴールまでコースは至って平坦。
 走りやすいゆえに、しばしば壮絶なアンカー対決となる。
 最終区間であり、かつ日本一のチームが決まる事から栄光の7区と呼ばれている。


●プレイング1行目に出る区間をお書きください。
 2行目以下自由。
 走っている間に何を考えるか。
 給水ポイントで給水するか・しないか。
 どういう戦略をとるのか(例、最初から全力疾走するぜ)などなどご自由に。
 1度だけフェイトを消費して3秒間アーティファクトの効果を解除できます。
 使う、使わない。使うとしたらどのタイミングで使用するかご明記ください。

※どのNPCを走らせるか、どの区間を走ってもらうかについては掲示板から拾います。
 指定がなければそうすけが勝手に指定します。
 リベリスタが6名そろっている場合、高良義美と高原流、石田隆志はレースに参加しません。


●出場確定選手
≪剣林フィクサード≫
・貫田 正嗣/ジーニアスのデュランダル/22歳
 Rank2までの全スキルを使いこなします。
 剣林ロジスティクス陸上部の若きエース。
 本来は4区を走るはずでしたが……。
 1区で走るつもりでいます。


●補欠枠
 リベリスタの数が5名以下の場合、以下の3名の中から選手を補充します(指定可)

≪剣林フィクサード≫ 
・高良 義美/ビーストハーフのクリミナルスタア/20歳
 貫田正嗣の手下。
 Rank1の全スキルとRank2の一部のスキルを使いこなします。
 剣林ロジスティクス陸上部員。
 スタミナもありそこそこ走れますが……メンタル弱し、ヘタレです。 
 そのため出場選手に選ばれませんでした。

 なお、剣林の2名はそうすけのシナリオ『深き闇を走るもの』『回らない寿司を食べに行こう!』に登場しています。


≪六道フィクサード≫
 ・高原 流/ジーニアス。ジョブ不明/見かけは20代前半。実年齢不詳。
  表の職業は脳神経外科医。パペットのモーモーさんは相棒。
  アーティファクト『携帯型・神秘抑制装置β』を作った人物。  
  正嗣とは組織同士の取引の場で知り合ったようです。
  「『任せな。流の代わりにモーモーさんがモー・スピードで走ってやるぜ?』」

 ・石田 隆志/タヌキのビーストハーフ。ジョブ不明。/48歳
  表の職業は内科医。メガネをかけたセクハラ親父。
  流に無理やり呼びつけられたかわいそうな人。夜勤明けで目がしょぼしょぼしています。
  「マラソン? え、走る? ボクが? じ、冗談でしょ……」
  
 この2名はそうすけのシナリオによく顔をだしています。とくに知らなくても問題なし。
 どちらも正嗣たちより強いと思われます。


●“タスキ”型アーティファクト(白)
 高原流が作ったアーティファクト。
 これを装着中に覚醒能力を使用すると全身に耐え難い激痛が走ります。
 普段、どんなにスピードがあっても、1万メートル28分台前後(速度100~180の場合)に抑えられます。
 速度100以下の場合は29分台、50以下の場合は30分台のタイムになります。
 1度だけフェイトを消費して3秒間アーティファクトの効果を解除できます。
 逃げきりの猛ダッシュとか、体力回復などができます。
 使うとしたらどのタイミングで使用するかご明記ください。

 ちなみに剣林ロジスティクスのユニホームは青シャツに白パンです。


●注意!!!!
 ジーニアスの男子以外は“幻視”で正体を隠す必要があります。
 幻視”を活性化していなかった場合は出場できません。


●マスターコメント
戦闘なしのイージーです。よろしければご参加くださいませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 4人■
ジーニアス覇界闘士
嵯峨谷 シフォン(BNE001786)
フライダークナイトクリーク
月杜・とら(BNE002285)
★MVP
ギガントフレーム覇界闘士
コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)
ジーニアス覇界闘士
奥州 一悟(BNE004854)


 スタート3時間前。
 しんと肌に染み入る寒さの薄明けの中、県庁舎前は独特の緊張感で満ちていた。警察車両やテレビ中継車の横を出場チームの選手が軽く走って流す。スズメの鳴き声をBGMに大会関係者がせわしなく動き回る中、リベリスタたちは庁舎の角を曲がったところでやっと目的の人物を探し当てた。
 携帯を耳にあて、切羽詰まった声で怒鳴っているオールバックは剣林のフィクサード貫田正嗣だ。時には恫喝、時には泣き落としの言葉はどうやらあきらめず組織内に走れるものを探しているらしい。
 正嗣の横で拳を握りしめて立っているのは高良義美だろう。幻視で非覚醒者たちの目から隠したネコ耳が、茶色の髪の上でぴくりぴくりと動いている。
 ひとつ冷たい空気を胸の中に落とし、『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)はふたりに声をかけた。
「おまいら、走りてーよね?」
 とらの声に文字どおり、剣林のフィクサードたちは飛び上がった。
「なんだ、てめーら!」
 瞬時に後ろに立つ4人組が覚醒者と悟ったのだろう、前に出る義美の目には強い警戒感と殺気が籠っていた。
 尖った殺気を受けて前に出たのは『きょうけん』コヨーテ・バッドフェロー(BNE004561)だ。が、こちらは顔に余裕の笑みがある。
「へっ。こんな朝早くから敵と一緒に走ろうって出張ッてくる物好きはアークしかいねぇゼ」
「なに?」
 携帯を耳から離して正嗣が振り返る。強い光を宿した目がまっすぐリベリスタたちに向けられた。
「とりあえず今回は助っ人してやるけども、おまいら一般人に八つ当たりとか絶対ダメだからな?」
 とらが腕をぐるりと回してウォーミングアップする出場チームのランナーたちや場所取りに集まってきた応援の人々を示す。
「予選勝ちあがったからこそ、ここにいるんだよね? せっかく勝ち取った枠なのに、仲間ヤラレて出らんなくなったって思った時、悔しかったろ? じゃあ、一時の感情で、んな事やっちゃダメだ」
「はぁ、八つ当たり? なんだそりゃ、オレたちがな――」
「よせ、ヨシ。万華鏡で見たんだろ、そいつらのフォチュナーが」
 だからアークがここに来た。正嗣は体を横向けると、空を這う薄雲に向かって白い息を吹きあげた。
 なあ、と奥州 一悟(BNE004854)がコヨーテの横へ出る。
「恩を着せるつもりはねぇぜ。みんな走りたいから来たんだ。悪くとるなよ」
「だれが信じ――って?」
 正嗣の手が義美の頭を押し下げた。正嗣もまた頭を下げる。深く体を折ったままで、よろしくお願いします、と腹から振り絞った声をコンクリの道に響かせた。
「ただまあ、我々は競技的には素人、なので走りやすいと感じた区間を走らせていただきたいのであります」
 やや気まずくなった感のある場を『飛行機だって殴ってみせる』嵯峨谷 シフォン(BNE001786)のひょうひょうとした声が抜けていった。
 シフォンは剣林とはまるで縁がないわけではない。ないどころか大ありで、父親は頭を下げた2人の仲間である。あくまで“らしい”という話なのだが。
「嵯峨谷? どこかで聞いた名だな」
 シフォンの名を聞いて正嗣は軽く首をひねった。
 頭に1人の男の顔が浮かんだが、まさかこのアークの娘と関係があるはずはない。偶然の一致、と男の顔を苦笑いで掻き消した。
 希望の区とアンカー義美の案を聞かされた正嗣はすぐ同意した。
「こちらは助けてもらう立場だ。それで文句はねぇ。しかし……」
 あと1人足りない。アークの4人に補欠の義美を加えても6人にしかならないのだ。
 問題ないと一悟が笑った。タスキの製作者を走らせればいい、と。
『ぐっモーにん! おもしれーことになってンな。流をヘルプに入ってやってもいいぜ』
 一悟に呼ばれたわけではないだろうが、沿道に音もなく横づけされた黒塗りの高級車から、牛柄パーカーを着こんだ若者が滑るようにして出てきた。右手に白いタスキ、左手に牛のパペットをはめている。六道の高原流だろう。
 流に続いてメガネをかけた中年男が大あくびをしながら車の中から姿を現す。
「だから言ったじゃないですか。よけいなおせっかいだって」
 じゃ、ボクはこれで、と後部座席へ潜り込む石田隆志の襟首にパペットのモーモーさんが噛みつく。
「ボクが走るとサポーターがいなくなります。記録係、その他もろもろ。石田先生、やってくれますよね?」
 モーモーさんに加勢して、寒い眠いとぐずる隆志をドアの外へ引きずり出したのはとらだ。
「よし。来れなかった仲間へ、いい結果報告出きるように、一緒に頑張ろー☆」


 まさかゼッケン番号順に整列させられるとは思っていなかった。
 幻視で青年の姿になったシフォンは、19番と21番のランナーの間で軽く体を弾ませた。
 タスキの色は濃い紫色に幻視で見せている。
「1分前」
 拡声器から流れるスタート前のアナウンスに徐々にテンションが上がっていく。
(目標は前回より上位? 15位圏内?)
 ぱん、と両の掌で頬をはさみ打ちして気合を入れた。
(目指すなら優勝でありますよ!)
「30秒前」
 後ろに並んだランナーの息がシフォンの首筋にかかった。少しでも前へという気負いが、スタート前から足を出させたのだろうか。左右の男たちも微妙に脇を開いて腕をぶらぶらとさせてスペースの確保をしている。
 戦いは始まっていた。
 むき出しになったランナーたちの闘志が、シフォンに未体験のプレッシャーをかけくる。1区はこの気の塊とともに走るのだ。
 とにかく離されるな、と正嗣は言っていた。
(とりあえず少し早いくらいのペースで、先頭集団に入るのであります)
 ふと、シフォンの頭に監督気取りで場を仕切っていた流の言葉がよみがえる。
「倒れ込むほど走るなんて愚の骨頂です」
 短距離走は苦しい。なぜなら短距離走は“無酸素運動”だから。駅伝ランナーはいい順位でタスキをつなげたいと思うばかりに、自分のペースを考えずがむしゃらに走ってしまう。結果、長い距離を短距離のように無酸素運動で走りがちだ。だからゴールした途端に道端に倒れ込んでしまう、と流は言った。
「このタスキは覚醒者の能力を著しく弱めます。ごく普通の人間にもどるわけです。無茶はせず、心地よいクルージング的走りを心掛けなさい」
 ”ランナーズハイ”
 酸素運動の平衡状態がきれいにできている状態で脳にもたらされる快感。
 当然、ここに至る前と後に苦しみはやってくるのだが、ランナーズハイを感じるか感じないかでは走りに大きな違いが出てくる。
 流のいうことも分からなくはないが、バトンを渡してしまえば仕事は終わりなのだ。
(先頭になってもペースは落とさず、周りのペースを崩すくらいできるといいでありますな)
 スターターピストルが鳴らされ、37名のランナーが一斉に走り出した。
 シフォンは第二集団の中ごろに位置することを余儀なくされていた。飛び出そうにも前を走るランナーたちが壁となって邪魔をしてくる。かといって左右どちらにも抜けられない。みえない檻に閉じ込められているようなものである。
 3キロを前にやや第二集団が縦長になり始めた。
 先頭集団トップの通過タイムは8分33秒。区間新記録のペースで快走を続けている。レースのペースは決して遅くない。
 その中でシフォンは自分らしい走りをさせてもらえずにいた。現在の順位は不本意ながら25位。沿道から一悟が声を飛ばして教えてくれた。
 5キロまで変化なし。とにかくここを抜け出せしたい、と焦りが出てきた。苦しい。意に反して遅くなったり早くなったり、自由に走れないことがこんなに辛いとは。自分でも少しずつ表情が険しくなっていくのが分かった。
 10キロ地点で先頭集団に変化が起きた。目に見えてばらけてきたのである。
 左側に空間ができた。旗を振って応援する人々や、並走して走る子供たちの姿が誰に隠されることなく目の端に映り続ける。
 シフォンは迷わず左側へ体を寄せると、それまでの遅れを取り返すべく強く肘を振りぬいた。
 ぐん、と加速すると同時に強い風が前髪を跳ね上げる。体中の血管が、どくんどくんと強く脈打ちだす。
「ガンバレ! もうすぐ中継所だゼ!」
 シフォンはコヨーテの声を上の空で聴き、上がらなくなってきた足に森羅行で喝を入れた。


「20番!」
 とらの真横で係員が叫んだ。
 ベンチウォーマーを脱いで隆志に手渡す間も次々と番号が叫ばれていく。
「行ってくるらっしー☆」
 すね毛ぼうぼうの暑苦しい男に変化したとらは、内心の緊張を悟られまいと某市のイメージキャラをまねた道化台詞とともに六道フィクサードの肩を叩いた。
「20番、剣林! 順位上がってきているので早く出てください」
 とらは隆志と顔を見合わせておや、と眉を上げた。一悟からの連絡では10キロ地点でのチーム順位が25位だったはずだ。
 さてはフェイトをつかったな、とあきれ気味に隆志がこぼす。
 とらのすぐ目の前を16番目にタスキを受け取ったランナーが走って行った。それを目で追いながら係員に促されて道路へ出た。
 17、18番位で並走するランナーたちの後ろから、剣林の青と白のユニフォームが姿を現す。
 並んだ。
 抜いた。
 苦痛で顔を歪めたシフォンが迫ってきた。
 とらの両腕が空に向かって伸びる。
「ここっ! とらはここらっしー☆」
 シフォンがタスキを前に突き出す。
「頼むであります、とら殿!」
「任せるらっしー☆」
 右手でタスキを受けたとらは、弾かれるように走り出していた。
 最速の2区。
 とらの前に中継地点を飛び出したランナーの背はもう小さな点になっていた。
 駆け引きもクソもない。この2区こそ短距離走のノリで長距離を駆けなければならなかった。8.3キロと距離こそ短いが、走る選手にとって一番きつい区間である。
 が……。
「皆、応援ありがとうらっしー☆」
 ゆるい。
 沿道の応援に手をあげて応えるとらの後ろから、ひたひたと規則正しい靴音が迫ってきた。中継所手前でシフォンに抜かれたチームのランナーたちだ。
 あっという間にとらの左右をはさみこみ、前後に振る腕で風を巻き起こしながらそのまま並ぶことなく抜き去っていく。
 だが、とらは焦らなかった。かえっていい風よけができた、と内心で細く笑む。
 このまま2人の背について、ゴール直前まで体力を温存するのだ。
「皆の後ろを走って元気分けてもらうらっしよー☆」
 そう呟いてから間を置かず、とらの顔から余裕が失われた。
 風よけにするつもりだった背が、追いつくことなく遠くへ行ってしまう。そればかりかまたしても後ろから時を刻み落とすような足音が迫ってきているではないか。
(く……)
 とらはあわててピッチを上げた。
 タスキを任された責任の重みが足を前に進ませぬ枷となり、気持ちをひどく焦らせる。吐く息が体から水分を運び出していく。体からしみだした汗がタスキに吸い込まれていく。
 企業応援団の人々の間を割って、一悟がドリンクを差し出すのが見えた。
 あれを飲まなくては脱水症状を起こしてしまう。タスキを手渡す前に倒れてしまう。
 受け取りのためにスピードを落とさなくてはならなかった。
 一飲み、二飲みで紙コップを脇へ投げ捨てると、あとはもうがむしゃらに腕を振りぬいた。
 一人抜き、二人抜き、三人抜き、腕を伸ばした先に苦笑する流の顔が見える。
 悔しさとも恥ずかしさともつきかねるうなり声をあげて、とらは差し出された流の手にタスキを叩きつけた。
 倒れ込んだのは正嗣の腕の中。


 とらからタスキを受け取った高原流は周囲に安定した走りを見せつけて3区を余裕で走り切った。
 コヨーテが3人の汗を吸って重くなったタスキを手にしたときは、順位を更に2つあげての14位である。
「死んだヤツらのはなむけになるよォに、目指すは15位圏内……なんて気弱なコト言わねェでどォせなら優勝狙おうぜッ!」
 仲間たちを前にぶち上げた言葉。嘘にするつもりはサラサラない。
(神秘封じられたとしてもオレは絶対ェ負けねェ。全員ブチ殺すッ! ……もとい、ブチ抜いてやらァ)
 前を走る13人を追いかけながらコヨーテの意識は過去に飛ぶ。
 クソ重い武器を抱えて走った山道、僅かな水で駆け回った荒野……。傭兵モドキのダディ(養父)と仲間達とともにすごしたあのクソ楽しい日々は役に立つ筈だ。
 コヨーテは14キロ地点でまだ、先頭を行くランナーと中継地点で開いていた2分1秒差26秒をキープしていたが、沿道から正嗣の指示を受けてペースを上げることにした。
 フェイトを使って神秘抑制の枷を外し、3秒間の全力疾走に入る。
「燃え尽きてやンよッ!」
 その瞬間から風景は流れる色の線と化した。
 前へ前へと踏み込むコヨーテの足は先行ランナーの背を捉え、後続を大きく突き放した。
 まだまだ、と3秒が過ぎた後も脚を高く上げ続ける。食いしばった歯の間から荒々しく息を掃き出し、目を爛々と輝かせながら。  
 胸の奥で心臓が暴れ狂い、空気を思うように取り込めなくなった肺が熱く燃えて痛む。
「中継所まであと1キロであります!」
 シフォンの声を横に聞き流し、コヨーテはまっすぐ前を見つめたまま走る。
 少しでも先へ。この風の中から1秒でも多くタイムを削り取ってやるのだ。
 強豪たちが面を並べる4区にあって、コヨーテ・バッドフェローの走りは飛びぬけて光っていた。カメラマンたちがレンズの奥から熱い視線を送るばかりではない、沿道の人々もまたその力強い走りに魅せられていく。
「一悟!」
「おう!」
 タスキと短い言葉のやり取りに思いのすべてを託し、22キロを走りぬいたコヨーテもまた力尽きて、とらとシフォンが広げた真っ赤なバスタオルの中へ倒れ込んだ。


 もういい、なんて思えなかった。闘争心に火をつけ、一悟は山から吹き下ろしてくる冷たい向かい風を受けながら、登り坂が延々とつづく5区を序盤から飛ばしぎみに走る。
「できれば15位以上を目指して走らないか?」と言い出したのは自分だが、仲間の走りを見ているうちにもしかしたらと欲が出てきたのだ。現にいまの順位は11位。コヨーテがトップとの差を1分に縮めてくれたおかげだ。
(オレで順位を落とすわけにはいかねーぜ)
 一悟の後から、ゼッケン5番が独特の走りで猛追を見せていた。乱れのないフォームで2人を抜き去り、12位に浮上している。
 横からとらの声が飛んできた。
「後ろ! 1人追って来てるらっしー! 集団も来ているらっしー!」
 ゼッケン5番が一悟の背を5メートル差で捉え、左右に抜け道を探していた。
 4人の中では一番タイムが遅かった。体力も少ない。毎日のランニングで多少は走しることに耐性がついているが所詮アマチュアだ。くわえてコースを試走していない一悟は事前に戦略を練ることもできなかった。
 足で走るだけではない。駅伝は頭も使って走らなくてはならない競技だ。
 本能がここで抜かれれば抜き返すのは至難の業だと告げている。
 普段ならなんてことはない、だらだら長い坂道。それが風を割って走る一悟には壁に見えた。
 横に人影が並ぶ。
 乱れた風の流れに押されて体がよろける。
 顎が上がる。
 腕が、脚が重い。
 ゼッケン5番が遠ざかっていく。
(ちくしょう!)
 あっという間に後続の集団に飲み込まれ、そして後ろへ流されてしまった。
 ガンバレという声に涙がにじみ出て来た。声援は心強い支えとよく言うが、いまはその声援が情けない自分への罵声に聞こえる。
 悔しい。
 抜き去って行ったヤツが誰だとか、年齢とか、経験がどうとかそんなの一切関係ない。人の背中ばかりを見せつけられることがただ悔しい。
 テレビを見ているかつてのクラスメートたちは、歯をむいて涙しながら走るこの姿をどう思うだろう。
 シフォンの残り5キロを告げる声を合図に、一悟はフェイトを使った。

 ありがとう。
 どくどくと高鳴る血流で耳は聞こえなくなっていた。涙にかすむ目でタスキを受け取る正嗣の唇の動きを読み、一悟は脇からコヨーテにベンチウォーマーで体を包み込まれた瞬間に人目をはばからず泣き声をあげた。


 21位で一悟からタスキを受け取った正嗣は、突然のコース変更にも関わらずエースとしての強さを十二分に発揮し、右へ左へと大きく振れるテクニカルな道を制して順位を再び11位にまで押し上げてタスキを義美につなげた。

「自分に負けンなッ! ゴールしか見なくてイイ、考えなくてイイ、とにかく全部絞り出す気で走れッ!」
「よしみ、傷は浅いらっしー☆」
「ゴールで健一殿特製の甘酒が待っているでありますよ!」
 脇腹を抑え、足を引きずりながら走る義美に、アーク+αの面々が激を飛ばす。
 メンタルが弱い、と健一に指摘されていた義美は案の定、1人抜かれた時点でフォームが大きく乱れだした。さすがのヘタレである。
 どんどんと順位を落としていく義美に横から流、いやモーモーさんが『テメー、これ以上順位を下げたら六道の実験体にしちまうぞ』と洒落にならない激を飛ばす。それで奮起すればよかったのだが、ビビった義美はますます順位を落としてしまった。
 サポーターの隆志とともに駆けつけた一悟が、涙で枯れてガラガラの声を張り上げる。
「義美っ、顔を上げて前を見ろ!」
 
 そこには先回りした正嗣が大きく腕を広げ、義美のタスキを待っていた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
成功です。

剣林ロジステックは目標の総合15位にぎりぎり入ることができました。
なお、4区の区間賞にコヨーテ・バッドフェロー選手が輝いています。
おめでとうございます。

フィクサードと戦うわけでなく、同じチームで走るという珍しいシナリオでした。
こんどはアークの純チームで駅伝シナリオを、と思うのですがさて需要があるか……。
たぶんやるとすればイベシナだろうなぁ、と思いつつ。

ではまた、別の依頼でお会いいたしましょう。