●闇の中、放たれる矢 降魔と呼ばれる一族がいる。 政界にも顔が聞く一族で、ナイトメアダウンの際に前頭首が命を落し、頭首不在が続いていた。空位となった頭首の座を求める者、利権を得て離れるもの、新たな頭首を祭り上げようとするもの……様々な派閥が生まれる。 だがその争いは息子である降魔 刃紅郎(BNE002093)の帰還により、終結する。無論、皆がすぐに頭を垂れたわけではない。だが反抗する勢力は刃紅郎の持つ王威の前に伏し、そして心酔する。王の器を見せ付けられ、降魔頭首の座は正式に刃紅郎が継ぐこととなった。 だが、全ての反抗勢力が従ったわけではない。幾人かの者は従うフリをして野心を潜ませていた。 真正面から戦えば勝つことはできない。革醒者とそうでない人間との戦闘力は、圧倒的だ。 ならば、暗殺者を雇うのみ。革醒者に対抗しうる革醒者の暗殺者を。 しかしこのとき彼らはミスを犯した。 実力を重視するあまり、相手の経歴の確認を怠ったことである。 「ターゲットはこの男。彼を死亡させればいいのだな」 「ああ、金に糸目はつけない」 「ふむ……貴方は革醒者を甘く見ている」 スーツを着た男は依頼主から渡された写真を返す。そこには王座に座る刃紅郎の姿があった。 「ライフルを脳天に叩き込んでも革醒者は死なない。革醒し、運命に愛されるということはそういうことなのだ。むしろその不死性をアピールすることになる。『我等の王は、不死身だ!』……と」 「なら、どうすればいいのだ?」 「かーんたんよ。大勢の前で『普通なら死亡した』と思わせる事件を起こすの。例えば派手な爆発とか。その爆発で『社会的に』死亡したと思わせて、闇の中で殺すのよ」 質問に応じたのは、褐色肌の少女。幻視により隠している牛の角を触りながら、楽しそうに答えた。 「都合よく、新春のパーティがあるようだな。その会場を吹き飛ばし、そして殺す」 「なんだと!? そんなことは認められん! あのパーティには私の娘も参加するんだ! この依頼は破棄させてもらうぞ!」 「違約金はお前の命だ。我々の顔を知っている者を、許すわけにはいかん」 「もらっても殺しに行くけどねぇ」 「……なっ!?」 慌てふためく依頼人。だがすぐに拘束され、床に伏せられる。 「あの男に死んで欲しいと思うのは貴方達だけじゃない。箱舟のリベリスタが邪魔になる組織は、片手に余る」 「私は事情なんてどうでもいいけどねー。人殺しができればそれでいいの。あははははは!」 笑う暗殺者。そしてそれに従う部下達。 狂った矢は、こうして放たれた。 ●新春パーティ。アークからの連絡 「……そうか」 アークからの連絡を受けた刃紅郎は重々しい顔で通信を閉じた。降魔の一族とその友人を集めた新春パーティ。そこにフィクサード軍団が攻めてくるという。刃紅郎は幻想纏いを取り出し、会場にいるリベリスタに連絡を取った。 「――と、いうことだ」 パーティに参加していたリベリスタは刃紅郎を含めて八人。 「馬鹿はどこにでもいるものだな。新年ぐらい休めば世界は平和なのに」 毒つくように批判するユーヌ・プロメース(BNE001086)。幻想纏いに送られたデータを確認する。 そこに映るのは褐色の少女とスーツを着た男。そして多足型のEゴーレム。 「コイツラは何をするつもりなんだ、王様?」 宮部乃宮 火車(BNE001845)は料理片手に問いかける。酒を飲んでなくてよかったぜ、と思いながら生ハムメロンを食べた。 「我を暗殺するつもりらしい。この娘が我を足止めし、その隙にこちらのEゴーレムが遠距離からこの会場を砲撃するようだ」 「派手な暗殺だなぁ、そいつは」 頭をかきながらランディ・益母(BNE001403)は答えた。しかし刃紅郎を社会的に『死んだ』ことにするにはいい作戦だろう。この方法なら神秘のことを何も知らない人は『降魔の主はテロの爆発に巻き込まれた。死体は爆発のに巻き込まれて見つからなかった』……と判断する。 「……問題は時間だ。それがいつ行われる?」 「五分後。今からそのEゴーレムのところに走れば、砲撃の少し前につけるそうだ」 司馬 鷲祐(BNE000288)の問いかけと共に、幻想纏いに地図が転送された。屋敷の場所とEゴーレムの場所。確かにそんな距離だ。 「思うに、狙われている刃紅郎殿がここから離れればいいのではないか?」 「我も民も決してテロには屈さぬ。それにここを手薄にすれば、こちらを襲撃するフィクサードに民が蹂躙されてしまう」 黒部 幸成(BNE002032)の言葉に刃紅郎は首を横に振った。それは刃紅郎の性格からすれば当然の反応であった。リベリスタたちは諦めたように肩をすくめる。 「つまり俺達がやることは、ここに来るフィクサードの撃退とEゴーレムの破壊か」 「主賓の王様を殺させないようにするのも大事だね。部隊をどう分けるかがキモかな」 守り手であるゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)と新田・快(BNE000439)がやるべきことを纏める。会場の警護、砲撃用Eゴーレムの破壊、そして主催者である刃紅郎の無事。 やれやれ年始早々厄介ないことになったものだ。そう愚痴りながらもリベリスタに撤退を望む者はいなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ リクエストシナリオ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月15日(水)22:37 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「レッパリー! 赤いモノを沢山ぶちまけてあげるねぇ」 扉を蹴り上げて入ってきた襲撃者。ブラッドレイの持つ斧が否応なしに死を連想させ、来賓者の動きを止める。 「皆! 今日は少々派手だが『いつもの余興』よ! 降魔に連なる者が斯様な事で心を乱すな!」 だがそんな彼らに『百獣百魔の王』降魔 刃紅郎(BNE002093)の檄が飛ぶ。年寄りや幼子を優先し、浮き足立った動きは刃紅郎のカリスマにより統率されていく。 (あの娘……) 刃紅郎は必死に誘導を手伝う一人の女性に目を止める。その親が襲撃者を手引きしたと知れば、なんと思うだろうか。知らぬが仏とはこのことか。刃紅郎は来賓客に背を向けて、襲撃者を睨む。ここより先は我が相手だ、と気迫で告げる。 「敵は任せるぞ!」 「任せろ。暴れるだけのチン問屋に遅れをとるつもりはない」 電子端末を刃紅郎に投げて渡す『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。この会場の最短ルート等を示した端末。その通りに逃げれば、被害は少なくなるだろう。影に命を吹き込みたかったが、そんな余裕まではなかった。 「さて遊ぼうか? 取るに足らない余興の一つ。精々はしゃいで場を繋げ」 「安い挑発! 面白いから、ノってあげるわ!」 言葉に神秘の力を篭めて、ユーヌが襲撃者を挑発する。来賓者に目を向かせないようにするために、こちらに目を向けさせたのだ。ブラッドレイの斧が振りかぶられる。見た目にそぐわぬ怪力で振るわれた豪斧がユーヌに振るわれた。 「悪いがここは通行止めだ」 その斧を 『鋼鉄の砦』ゲルト・フォン・ハルトマン(BNE001883)が遮る。重量のある斧を真正面から受け止めるのではなく、斧を振るうために踏ん張った足をナイフで一閃したのだ。痛みでバランスを崩し、勢いを削がれる斧。 「先に進みたいなら俺を倒してから行くんだな」 「あははははは! バラバラのひき肉にしてあげるわ、かっこいいお兄さん!」 ゲルトはブラッドレイの目に映るようにナイフを構える。お前の相手は俺だとばかりに。隙をうかがい、それを見せれば即座に懐に飛び込みその命を絶つ。褐色の襲撃者も、その気迫が理解できないほど愚かでもない。舌で唇を舐め、間合を図る。 「さて、バラバラになるのは果たしてどちらでござろうな」 『影刃』黒部 幸成(BNE002032)が黒衣を纏って会場を走る。走りながら掌に仕掛け暗器を滑らせ、襲撃者の群れに身を躍らせる。狙いはマグメイガス。装備と立ち様から当たりをつけて、駆け抜け様に刃を振るう。 「我が王とその御客人への手出し……一切赦さぬで御座るぞ」 糸が宙を舞い、襲撃者の足に絡まる。幸成がその糸を引っ張れば、バランスを崩してたたらを踏む襲撃者。生まれた隙は一瞬。しかしその一瞬で幸成は懐に飛び込み、押し倒す。そのまま刃を喉元に突き刺そうと―― 「させるか!」 襲撃者の振るうナイフが、幸成に迫る。とっさに飛びのいた幸成は挑発するように刃を向ける。 「さすがアークのリベリスタだねぇ。楽しめそう」 その状況を楽しそうに笑う褐色の少女。だがその微笑みは無邪気な殺意。その斧は例え革醒者であっても油断のできない破壊力を持っていた。 勿論、リベリスタもそれに臆するつもりはない。 ● 「――ったく、降魔よ。貸しだからな?」 そう言って館を出た『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)は、改めて戦場を視認した。四脚で走る『sentry』と、それに指示を出す本郷。そしてその後ろにある自走砲型Eゴーレム『Siege engine』。その角度は既に館のほうに向いていた。 「んじゃ殺るとしますか」 ランディは『グレイヴディガー・ドライ』を構え、戦場を駆ける。大重量の斧はその圧倒的な質量だけではなく、神秘の加護を含んでいた。柔剛組み合わせたランディの戦い方。それが戦線を切り開く。 「……やれやれ。人の上なんざ、厄介の多いだけだな」 そう呟くのは『神速』司馬 鷲祐(BNE000288)だ。偉くなれば命を狙われ、こういったトラブルを誘発する。だが誰かがその役を担わなければならないことも鷲祐は知っている。だからこそ、そういう立場の友人に協力は惜しまない。 「――さぁ、トライアルだ」 自らの神経を神秘の力で刺激する。瞳から映る情報がクリアになり、命令伝達速度が加速する。速度において今の鷲祐に追いつけるものなどこの場にはいない。緩やかに流れる世界の中、鷲祐は破界器を構えた。縦に一閃、さらに横に一閃。相手がその傷を認識するより先にさらに一歩進み、刃を突き立てる。 「悪いが美味い飯が待っている。手早く片付けさせてもらうぞ」 「そうだね。高い買い物だってことを思い知ってもらうよ」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が戦場を走る。本郷の射撃に纏めてやれれないための横一列の陣で。神々の黄昏を意味する付与を味方に書けながら、襲撃者を見た。それに応じるように鋭い殺気が快を貫く。 「逃げてもいいぜ、ジーク本郷」 「お前達こそ、このまま逃げても文句は言われまい」 言葉と共に何かが快に向かって飛んでくる。手にした盾でそれを弾き飛ばす。小さく、しかし硬く重い投擲。何を投げたかは理解できないが、派手な挨拶だ。 本郷の手には何もない。だが彼が『構えて』いるのは快にはわかっていた。隠し武器なのか、目視はできないが油断できないのは確かだ。指揮だけの存在でないのは『万華鏡』の情報から判っている。 「王様相手の暗殺ってなるとこんな派手になるってのも、大いに納得しちまえんのがウケるぜ!」 そのお返しにとばかりに『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)が掌に炎を集わせる。炎の集まった拳を回転させ、遠心力を載せる。足を踏み込み、勢いよく拳を突き出した。 「クソ寒ぃ中ぁ御苦労さぁん! 土産の一つも持ってけよぉ!」 炎は拳から撃ち出され、本郷に向かって飛ぶ。凝縮された炎は本郷に当たった瞬間に爆発するように広がり、衝撃と熱波を撒き散らす。『sentry』と本郷がそれに巻き込まれ、その身が炎に包まれる。 「燃えて花道彩り照らせぇ!」 「派手さではそちらも変わりあるまい」 コートを振るいながら、本郷が炎の中から歩み出る。彼もまた腕利きのリベリスタ。ダメージを受けてはいるが、まだ倒れるほどではない。 「エネルギーチャージ、35%。ハッシャマデ、アト――」 『Siege engine』の電子音が冬の空気に響いた。カウントダウンは少しずつ進んでいく。 ● 会場襲撃者のトップであるブラッドレイは火力に傾倒して回避等の防御を疎かにしている。やられる前にやれ。それが彼女の信念だ。故にユーヌの挑発に乗り、ゲルトに阻まれている形となった。予定していた来賓者への攻撃が激減することになる。 同時に幸成がマグメイガスの足を止めてリベリスタの範囲火力を封じ、刃紅郎が誘導することで来賓客への被害はかなり少なくなっていた。 それは逆に言えば、リベリスタに火力が集中する流れになる。事、アリサの火力を受けることになるゲルトの傷は、少しずつ深くなっていく。 「俺一人倒せない程度では、力自慢もたかが知れるな」 ナイフを手にゲルトが吼える。重量のある斧が振るわれ、ゲルトの腹部に当たる。灼熱が走るが、悲鳴をかみ殺してナイフを握る。攻撃により生じたブラッドレイの隙。その隙を逃さず反撃する。飛燕が空を飛ぶように、速く鋭い一閃。 「痛いなぁ……! 邪魔だから死になさい!」 「生憎としぶとくてな。死神の名刺はいただけそうにない」 服にじわりと血が滲む。呼吸を整え、ゲルトは傷を再生させる。鋼鉄と称した自らの防御力と再生能力。高い継戦能力がゲルトの強み。自分の役割はあくまでこの少女の足止めだ。運命を燃やし、自らに活を入れる。 (さすが、武器の熟練度が高い。いい一撃をもらえば長くは持たないか) どこか冷静な部分で、そう思う自分もいる。 「一年の計は元旦にありだったか?」 ユーヌはひきつけた襲撃者相手に閃光弾を放ち、足止めする。この状況ではさすがに逃げる一般人のほうを向ける余裕はない。気を抜けば襲撃者に攻撃の隙を与えてしまう。的確なタイミングで放たれた閃光が、襲撃者の足を止める。 「この先が程度の低い馬鹿ばかりなら楽で良い」 「ほざけ!」 閃光で足止めされなかった襲撃者がユーヌに迫る。繰り出されたナイフをユーヌは護符で構成した手袋で受け流し、重心を落とす。そのまま手首を回転させて、相手の腕を跳ね上げた。生まれた隙を逃すことなく、右手の拳銃が火を噴く。 「どうした? その程度では傷一つつけることもできないぞ」 挑発を繰り返し、ユーヌは襲撃者を足止めを続ける。 「その通り。その程度では拙者たちを捕らえることすら叶わぬ」 幸成が影を自身にまとわせ、刃を構える。黒装束がふわりと宙に浮いた。襲撃者もけして素人ではない。後衛職とはいえある程度の動きなら捕らえ、刃も避けることができる。だが幸成の動きは『ある程度』を超えていた。 「それは残像でござる」 襲撃者が放った魔力の矢は、幸成が退いた場所のみを焦がして消える。相手がそれを認識する頃には黒の糸が襲撃者に絡まり、その腕を封じていた。動きを封じられ、もがく襲撃者。それを怜悧な瞳で幸成は見ていた。 「見事だ幸成。我が仕留める!」 封じた隙を逃さず刃紅郎が宝錫を構える。傲慢且つ残虐な王がその身に下ろす闘神のイメージは、今は亡きかつての戦友。己の覇道を天から見守る戦士にして友。体に、破界器に、精神に、静かに闘う力が満ちてゆく。 「退け下郎、我が民を襲う者は皆極刑に処す!」 刃紅郎が持つ宝錫に力が集う。圧倒的な力と、不可視の神秘の刃。二種類の力が重なり合い、鋭い一矢となってマグメイガスを打った。元々体力が高くなかったのだろう。その一撃で意識を失い、絨毯の上に伏した。 「ふふ。たいしたものね、王様」 「小娘もなかなかの手練だな。惜しむべくは仕える相手を間違えたことか」 ブラッドレイと刃紅郎。タイプの違うデュランダル同士でにらみ合い、すぐに動き出す。 襲撃者の攻撃を上手くいなすリベリスタ。しかしそれだけでは『勝利』には届かない。 ● 「ほう。懐かしい顔だな」 本郷がランディの顔を見て口を開く。ランディはその言葉に反応して本郷の顔を見る。初めてみる顔だ。戯言とばかりに斧を構え、力を篭める。ここで一気に攻めなければ時間が足りないのだ。戯言に付き合っている余裕はない。 「『――』は、死んだのか? 然もありなん。あれだけの惨事だからな」 誰だ。誰のことだ。ランディは無視しようとして意識を――惨事。その言葉で連想する事件は多いが、筆頭に上がるのは1999年8月13日のあの事件。 「ナイトメアダウン」 ランディはナイトメアダウン以前の記憶がない。その空白の記憶を揺さぶられる。あの日、何があった? こいつはそれを知っているのか? ハッタリだ。いやしかし。 それで足を止めるほどランディの精神は未熟ではないが、その動きが確かに鈍る。 そしてそれは明らかに作戦に支障を生んでいた。ランディが動きを止めている間に、『Siege engine』に迫るはずだったリベリスタは、その足並みを崩されてしまう。 「仕方ない! 数を減らす!」 ランディの不調を悟ったのか、鷲祐が『sentry』に迫る。もとより本郷たちの足止めが目的だ。その速度を最大限に生かして駆け回り、敵の認識を狂わせる。一定の空間内を飛び回り、その範囲を少しずつ狭めていく。 「見えたところで追いえるものではない」 刃が『sentry』の装甲を削る。刃は速度により切れ味を増し、幾重にも叩き込まれる。一撃自体はわずかだが、短期間で繰り返し刻まれることにより大ダメージとなる。時間すら凌駕しようとする鷲祐の動き。その向上心が速度の領域を上げていく。 「やる事派手なのぁ結構だがぁ!」 火車が炎を両手に纏わせ、戦場を駆ける。身を低く掲げて重要箇所をガードしながら突っ走り、しっかり足を踏み込んで拳を振るう。荒々しくに炎を撒き散らしながら、しかし一撃一撃は丁寧に。 「ケンカ売ってる相手のが派手だってんだぁ!」 本郷に向けて炎を放つ。接近戦は得手ではないのだろう。五合で間合を詰められ、炎の拳を押し付けられる。火車は拳を押し当てたまま、上半身をバネのようにしならせて一気に突き出した。ゼロ距離からの高インパクト火拳が、叩き込まれる。 現状一番厄介なのは火車か。そう判断した本郷が『sentry』の火力と自分の攻撃を火車に集中させる。だが、 「させないよ。悪いが誰も倒させるわけにはいかないんだ」 それを庇った快が、笑みを浮かべる。本郷の指先に金属の光が見える。見えないよう隠しながら攻撃する『狙撃手』の攻め。しかし冷静にその動きを見て、正体を探る。正体が知れれば、仲間を守る術が見えてくる。 そして快はその正体を看破する。 「極小の針か。派手な襲撃に見せて、おまえ自身は暗殺者なんだな」 『いつどこから狙ってくるのか判らない』から狙撃手は怖いのだ。だがそれがわかれば防御は易い。手首と指先。そこに注意して仲間を庇う快。仲間にかけた付与もあり、体力的な十分に余裕はある。このまま攻めれば本郷は倒せるだろう。 だが、時間内に自走砲のEゴーレムを倒せるかといわれると話は変わってくる。このまま攻めれば突破は可能だ。『Siege engine』に手が届くが、一撃二撃で倒れるほど脆いとは思えない。 本郷もそれを悟っているのか、防戦に徹している。自分を『sentry』に庇わせ、戦意を自失させる武技で攻撃力を削ってくる。 「エネルギーチャージ、85%。ハッシャマデ、アト――」 『Siege engine』が時を刻む。絶望が少しずつ、圧し掛かってくる。 ● 「ここまで、か」 ブラッドレイを押さえていたゲルトが力尽きる。もっともゲルトのナイフはブラッドレイの褐色の肌を刻み、かなりのダメージを与えていた。少女がフリーになる前に幸成が暗器を使って足止めに走る。 「悪いがまだ倒れてられないな。お前達の道化っぷりが面白くてな」 襲撃者の気を引いていたユーヌが運命を燃やす。一概にとはいえないがナイトクリークは自分の運を武器にする者もいる。襲撃者の刃が届いたのは、ユーヌの妨害をその幸運で抜けて、少しずつダメージを重ねた結果だ。だが、運命を燃やしただけでしかない。 「時間だ」 ブラッドレイを除く襲撃者が後ろに下がり、逃亡に回る。戦線を離脱し、壁を抜けて離脱していく。 それは『Siege engine』の砲撃が近い証―― 「まだ負けるわけにはいかないよ」 本郷の指揮による集中砲火に運命を燃やす快。しかし血を吐きながらその瞳に絶望の色はない。 「砲弾入ってる場所何処だ!」 「王の舞台へ無粋はさせん。今この瞬間が――斬劇公演だッ!」 Eゴーレムの壁を突破し、火車と鷲祐が『Siege engine』に迫る。炎が鉄を叩き、刃が切り裂く。快も攻撃に加わり、少しずつ自走砲に傷が入っていく。 しかし圧倒的に時間と火力が不足していた。 それはランディの精神的な不備か、あるいは襲撃のメインである『Siege engine』に割り振った人数の少なさか。ある程度会場の来賓客を見捨ててこちらに人数を割けば、結果は変わっていたのかもしれない。 それでも全てを救おうと足掻くのが、リベリスタなのか。 「エネルギーチャージ、カンリョウ。ホウゲキ、カイシ」 無慈悲にも砲撃は放たれ、会場は紅蓮に包まれた―― ● 砲撃が館を襲い、瓦礫が降り注ぐ。立ってられないほどの衝撃が足を揺らし、リベリスタたちに隙が生まれる。その隙をついてブロックを突破したブラッドレイが斧を振りかぶり、刃紅郎に疾駆する。 「当主様、危ない――!」 そう言って刃紅郎を庇ったのは、皮肉にもブラッドレイたちを雇った者の娘だった。ブラッドレイは二撃目を振るおうとして、幸成とユーヌの攻撃に止められる。 砲撃が続く。機を逃したと悟ったブラッドレイはそのまま踵を返した。 事切れた少女と、気を失っているゲルトを抱えてリベリスタたちも館から逃げ出す。 結果として―― 刃紅郎の暗殺は阻止され、来賓客の犠牲は少量で済んだ。 だが館は砲撃で崩れ、王を信じる民は不安に包まれることになる。 暗殺チームの行方は不明だ。彼らが暗殺を諦めたか否か、それさえもわからない。それが民の不安を一掃濃くしていた。 刃紅郎は自分を庇った娘の亡骸を横たえ、その瞳を閉じさせる。惨殺され苦悶に満ちた表情が穏やかなものになった。 王は涙を流さない。自分を信じてくれる民のために、覇道を進むのだ。 それが辛く、苦しい道だと知っていても。 雨が静かに降り、王の頬を濡らしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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