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それぞれの、ゆく年くる年


 ぱしりと腕を掴まれた。あ、やべ、まずった。
「オイ、ねーちゃん何してんだ」
「は?」
「は?じゃねえだろ。何してんだって言ってんだよ、オイ」
「……えー。ちょっとわけわかんないんですけど。ナンパ? ナンパかなんか?」
「誰がお前みたいなガキをナンパするか。お前さ、俺の財布盗んだよな」
「何言ってんの? ゆーまちゃん、おっさん趣味ないんだよね。つーか痛い手ぇ離してくんない?」
「何しらばっくれてんだお前。来いやオラ、警察に突き出してやる」
「はあああ?!わっけわかんないんだけど! 離してっ、離せっ!チーカーンー!!!」
「うるっせーんだよ泥棒娘が!!」
「うるせーのはあんただろうがおっさん!!」
 耐え切れず力任せにぶん殴った相手はぐらりと傾いてから、人ごみの中に崩れ落ちる。
 途端に響き渡る悲鳴。今までの騒がしさとはすこし違う騒がしさがどんどん広がっていく。
 あーあ、やっちゃったー。ごめんねおっさん、あんたがしつこいからだよ。


「急に集まってもらってごめんね」
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が、申し訳無さそうに視線を向けた。
 彼女に仕事納めはないようだ。もちろん、呼ばれたリベリスタたちも同様なのだけれど。
 そんな複雑な感情を抱きながら見つめるモニターに、映像が映し出される。
「名前は、坂東ゆうま。フィクサード。人が集まる初詣で悪いことをしようとしてるみたい」
 高くひとつに結った髪にすらりとした体型。弓道部の部長でもしていそうな印象である。
 あまり悪人らしからぬ彼女だが、悲しきかな人を見た目で判断できないのが、この世界である。
 どんな悪いことを? 誰もが抱くであろう至極真っ当な疑問の声に、イヴは溜息ひとつ。
「………お賽銭泥棒とか、スリとか、そういうこと」
 少し押し黙った後、イヴの告げた悪事。え、あ、うん。セコい上にショボい。
「これくらいなら見逃す、訳にもいかないんだけれど。それが原因で、ちょっと面倒なことになる」
 一般人を彼女は油断していたようだ。スリがバレて彼女は一般人と喧嘩になる。
 その末に彼女が選んだ行動は、実にシンプルだった。一般人を暴力で以って黙らせること。
 後はリベリスタたちの想像通りだ。だから、事が起きる前に彼女の悪事を止めてほしいと言う。
「方法はなんでもいい。彼女の生死も問わない。でも、神秘は秘匿すべし。これだけは忘れないで」
 しっかりとまとめられた資料を手渡しながら、イヴはリベリスタたちをじぃと見つめる。
「おしるこくらいは用意できる、と思う。きっちりしっかり終わらせて、来年もいい年にしようね」
 表情を緩ませたイヴはひらひらと手を振る。風邪をひかないように、と付け加えて微笑んだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:あまのいろは  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月13日(月)23:10
 ご無沙汰しております、あまのいろはです。仕事納めで、仕事初めです。

●成功条件
 フィクサード『坂東 ゆうま』が行う悪事の阻止
 一般人の被害を最小限に留めること

●フィクサード『坂東 ゆうま』(ばんどう ゆうま)
 ビーストハーフ(ウマ)×インヤンマスター
 ビーストハーフ部分は馬の脚のみ。幻視を用いて隠しています。
 高校3年の女の子。普通の子だったが、革醒したり色々あってスレたらしい。悪事デビュー1年生。 
 この1年間でちまちまと悪いことをしてきたようで、経験はそれなりに積んでいます。
 変なところで勘が働くタイプのようで、今の今まで運良くトラブルは回避してきた模様。
 イヴちゃんが頑張って万華鏡で視てくれたスキル一覧。
 攻撃スキル:式符・影人、呪印封縛、陰陽・結界縛 、フラッシュバン
 戦闘スキル:超反射神経、大錬気、極錬気、ダブルアクションLV3
 非戦闘スキル:一人ぼっち 、幻視
 ちなみに当日は、スリ以外にも式符・影人を使ってお賽銭泥棒しているようです。
 あの、投げ入れられたお賽銭をフードの中に集めるという、そういう、地味な。
 また、リベリスタの気配を感じた時点で、彼女は逃亡を図ります。

●補足
 場所はとある神社。時間帯は大晦日の夜。初詣に来た人たちで大変込み合っています。
 その中からフィクサードのゆうまを見つけ出し、彼女が行う悪事を止めてください。
 参拝客を結界・強結界などで人払いをすることは無理でしょう。
 それなりに広い神社ですので、陣地結界などで一度に範囲に収めることは出来ません。
 神社裏にはあまり人が踏み込まない林があるようです。

 情報は以上となります。それでは、よいおとしを。
参加NPC
 


■メイン参加者 6人■
ナイトバロン覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ノワールオルールナイトクリーク
アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)
ハイジーニアススターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ジーニアスプロアデプト
氏名 姓(BNE002967)
ビーストハーフミステラン
テテロ ミミルノ(BNE003881)
ジーニアスクリミナルスタア
城山 銀次(BNE004850)


「むむむ………」
 まんまるの青い瞳がぱちくりと瞬き、周りをきょろきょろ。
 ぼんやりと灯る提灯はきらきらしていて、出店の屋台からは暖かそうな湯気が絶えず昇っている。通りでは楽しそうに話ながら歩く人々。
 今日は、12月31日。時間は新しい年に変わろうかという頃。つまり、大晦日の夜。
「……はつもうで……。……でみせ……。おなかすいたのー!」
 いつもとは打って変わって賑わいを見せる通りから、少し離れた静かな路地で少女の声がこだました。
 『くまびすはさぽけいっ!!』テテロ ミミルノ(BNE003881)が、ぷくうと頬を膨らませる。
「それに、さむいっ!!」
 大晦日に初詣に行くでもなく、冷たい風の吹く中ミミルノがひっそりと居るのにはもちろん理由がある。
 万華鏡で視えたというトラブルが起こる前に阻止する、詰まる所アークのリベリスタとしてのお仕事だから。遊びたい盛りのミミルノだが、遊びに来ている訳ではないのだ。
 人が集まれば集まるほど、その中に悪い人も紛れ込んでしまうもの。こんな日は特に。
 新年を迎えるという大きな行事の前に、すこし浮足立っている人々を狙う絶好のチャンスなのだろう。
 相手は手練ではないようだが、悪さをするのが革醒者ということでリベリスタたちが派遣されたのだ。
 他5人のリベリスタたちは神社の境内でその革醒者を探しだすことになっている。
 気合いは十分なミミルノだったが、見つかったら困ると思った彼女は仲間たちを信じてひとり待つことにしたのだった。
「ミミルノ、がんばる……!」
 風に乗ってくる香りに思わずふらふらと引き寄せられてしまいそうだけれど、そんな誘惑に負けじとミミルノはきゅっと拳を握る。くう、とちいさくおなかが鳴った。

 同時刻、神社付近にて。
「それじゃあ、ボクは人ごみを見渡せる高い場所から、ゆうまさんを探すよ」
「オッケー! アタシは姓さんと一緒に散財しまくってゆうまに見つけてもらえるようにするよ」
「散財……。それなりに、それなりに楽しむよ」
 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652) の言葉に、『0』氏名 姓(BNE002967)が苦笑いを返す。
 その様子を見ていた『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)が、おかしそうにくすくす笑った。
 リベリスタたちの背に向かって気をつけてね、と手を振る彼女に『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)が、軽く片手を上げて応える。
 彼のポッケのなかには、今回の悪事を起こす張本人、坂東ゆうまの写真。
 写真の中で微笑んでいる彼女は、ただの女の子だった。いきなり神秘の世界に放り込まれてしまった彼女は、きっと混乱しただろう、不安だったであろう。
 だから、そんな彼女を、すこしでも救ってあげたいと思うのだ。誰でも救う、ヒーローのように。
 夏栖斗だけでなく、他のリベリスタたちも、彼女を更生させたいと思っている。
 話だけで解決したいと思っていた彼らは、最初から武器も一切持たないという驚きの徹底ぶり。
 人ごみのなかに紛れて行くリベリスタたちを見送ったアンジェリカは、はたと隣に目をやった。
「あれ? 銀次さんは行かなくていいの?」
「きちっとゆうまの位置を把握しないと始まらねェからな、目星が付いてから行くことにすらァ」
 アンジェリカの横には、『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850) の姿。
 高い背にがっしりとした身体を持つ彼は、近付きがたい雰囲気を放っている。
「ここいらはウチの縄張りじゃあねぇが、まァ放っておく訳にもいかんだろ」
 近顎に手を当てクククと笑う彼の姿は、お世辞にも一見『いいひと』には見えないが、それは彼の仕事上、仕方がないことかもしれない。


 やはり、人ごみのなかから一人の人間を探しだすのはなかなかに骨が折れる。
「ええっと、ゆうまちゃん?」
 夏栖斗の問いかけに『坂東ゆうま』らしきそれから返事は無い。それ以前に、それがゆうまで無いことは分かっていた。
 それは、ゆうまが使う影人である。じりじりと距離を詰めて、背後に立つと至近距離からのアッパーユアハート。影人を怒らせて自然に自身へと寄せ付ける。うまく人を交わしながら、人気の無い場所へと誘導していく。
 影人と対峙してしまえば、それは一瞬だった。闇がざわめき、みるみる影人を飲み込んでいく。
 消滅していく影人を見ながら、ちょっと困ったようにぽりぽり頭を掻く。夏栖斗が倒した影人は、既に三体目になっていた。
「あーあ、またハズレかあ……」
『そっか。今度は今いる場所からはちょっと遠いかもしれない』
「うん、大丈夫。今度はどこ?」
 アンジェリカから情報を得てはいるものの、それらしき背格好の女性も多い上に、人間なのだから勿論その場所を絶えず動いていく。そんな中、陽菜と姓のふたりはと言うと。
「はー。初詣で甘酒って欠かせないよね!」
「うん。甘酒って、身体が温まっていいよね」
 ほっこりしていた。
 純粋に初詣を楽しんでいた。
「……何してんだテメェら」
 気付けば、銀次が呆れた顔で二人の背後に立っている。ふたりは動じることもなく振り向いて。
「甘酒!」
「おみくじ。なんと大吉」
「いや、そうじゃなくてよォ。……ああ、いや、いい。なんでもねェ」
「甘酒あっちで配ってたよ? あー、でも今ちょっと並んでるかなー」
 次の言葉が見つからず思わず頭を押さえた銀次に、陽菜はいつも通りの笑顔。
「銀次さんは、どうしてここに?」
 穏やかに告げた姓の言葉に、我に帰った銀次がくいと親指を人ごみに向ける。そこには、ブリーフィングルームでよく見た姿。その人物が財布をするりと抜きとった瞬間をリベリスタたちは見逃さなかった。
 姓はすぐさま、アクセスファンタズムに向かって告げる。
「見つけたよ。財布を抜き取ってたから、本物だと思う。大丈夫だとは思うけれど、フォローお願い」
「いよぉっし。そんじゃあいっちょ痛い目見てもらおうかい」
 にんまり怪しい笑顔を浮かべてゆうまに近づこうとする銀次を、陽菜がぐいと引き留めた。

(ちょっろいなあ)
 いくつめかの財布をするりと鞄の中に滑りこませる。
 この身体になってから、嫌なことがたくさんあった。けれど、この能力だけはほんの少し感謝している。
 ぼんやりと考えながら、ゆうまの視界に映った次のターゲット。それが囮だと、彼女は知る由もない。
(あーあー。盗って下さいと言いたげにそんな所に財布入れて)
 する、と手を伸ばした。その時。
「あーっ、ごめんなさい!」
「へっ!?」
 ばしゃりと紙コップからこぼれた甘酒が、ゆうまの腕に掛かる。同様したゆうまの手から、ぽてんと姓の財布が落ちた。
「美人さんがこういう事するのは感心しないな」
 自身の財布を拾い上げながら、怯えないようにと笑顔を見せた姓だったが、ゆうまはびくりと身構えた。
「警察は面倒だから呼ばないけど……。代わりに少しだけ話につき合ってくれる?」
「そうそう、甘酒かけちゃったお詫びもしたいし! 寒いでしょ、コート貸すよー?」
 いつもならその場で逃げ出す彼女だったが、予想外の出来事が重なりすぎてついていけない様だ。
 きゅっと手を握った陽菜に引っ張られるようにして、ゆうまは境内を後にする。
 ゆうまはただ黙ってついてくる。彼女が強気でいられたのは、それは相手が一般人だったからである。
 明らかに一般人では無い二人に囲まれ、逃げられる気もしない。
 それに、ひとりふたりと彼らの仲間が合流してくるのだから、抵抗は無駄だと思ったのだろう。
「えっと、ゆうまちゃんだっけ? ナンパって思ってくれてもおっけーだよ」
 彼女を安心させようと、夏栖斗がへらりと冗談めかして笑ってみせる。
 それでも表情が硬いゆうまの背を、軽くぽんぽんと叩いてみせた。
「大丈夫、悪いようにはしないし。君本人も荒事、好きじゃないんだろ?」
「そうそう! ミミルノたちはゆーまちゃんとね、ちゃんとおはなしがしたいのだっ」
 やっと合流したミミルノが、愛らしい笑顔を浮かべて無邪気にゆうまの顔を覗き込んだ。
 幼いミミルノの言葉にすこし表情が緩んだような気がしたが、やはり、ゆうまから言葉を発することは無いまま、歩いていく。暫くすると、薄暗い闇のなかから、アンジェリカが現れた。

 逃げないようにと繋いだ手はそのままに。ゆうまとリベリスタが対峙する。
「今年も終わるってのに、ずいぶんとセコいことしてんなァ?」
「……ああ、そういうこと。このあっち側みたいな人の雇われ?」
「おっと、勘違いすんなよ。ここらは俺らの縄張りじゃねェ。
 放っておいても良かったんだが、どうもそういう訳にはいかなくなっちまったみてぇでなァ」
 ゆうまが銀次を、リベリスタたちをきっと睨む。ぴりりと空気が張り詰めた。
「さァて、おとなしく捕まるか痛い目みてから捕まるか、どっちがいいよ? おとなしくしてんなら悪いようにはしねぇぜ?」
 彼の言葉に嘘は無いのだけれど。彼がドスの効いた声でそう告げると、含む意味合いが色々と変わって受け取られても仕方がない。夏栖斗が肘で軽く銀次をこづいた。
「雇われた訳じゃない。僕等はアークって組織のものだよ。君みたいな異能力者の組織だ」
「そんなに色々調べたの、たかがスリのためだけに?」
 この足のこと、知ってるんだ。そう消えるように呟いたその声は暗く重い。
 けれどもその暗さを吹き消すように、ぱあっと明るいミミルノと陽菜の声。
「だいじょーぶ!
 みんな、同じようにいきなり得た力に吃驚して一時はどうしていいのかわからなくなっちゃうけど、
 ミミルノ達とくれば同じ境遇の人も沢山いて、何より自分の事を理解できるよ!」
「そうそう。この世界の為に一緒に戦おうとか、今までの罪を償えとか言わないからさ。
 アタシとゆうまは歳同じっぽいし友達になれるかもしれないじゃない? 友達になろうよ!」
「ともだち?」
 その一言に、ぴくりとゆうまの表情が強張る。誰に言うでもなく、ひとつずつ言葉が絞り出される。
「助けてくれない存在は、友達っていうの。気持ち悪いって突き放す存在を、友達って、いうの?」
 些細な原因だった。けれどもそれは、普通に生きてきた彼女にとっては、それ以外の世界を知らない彼女にとってはあまりにも衝撃的な出来事だったのだろう。
「普通と違うせいで吐き出せず溜め込んだ淀はぶつけてくれていい。全部聞くよ、心の大掃除しましょ」
 次から次へと、大粒の涙が溢れだす。人目も憚らず泣く彼女は、理不尽な運命に巻き込まれてしまった可哀想なただの少女だった。
「ねえ、ゆうまさんは親に殴られた事、ある?」
 心の内を吐き出して泣く彼女に、アンジェリカが切り出したのはそんな言葉だった。彼女の返事より先に、アンジェリカは話を続ける。
「育ての親だけどね。神父様が助けてくれるまで、ボクは殴ったり蹴られたり、ずっと虐待されてきた。
 それに女だからね、育ての父親には口では言えないような事もされたよ」
 アンジェリカが語る話は、家庭で生まれ育ったゆうまにとってはまるで作り話のような話。けれど、それはアンジェリカが実際に体験した本当の話。
 そんな話をしているにも関わらず、アンジェリカの表情は穏やかである。
「別に不幸自慢をしたい訳じゃないんだ。ただボクは神父様に言われた。
 不幸を理由に悪事を為すのは自分を傷つけるだけだって。辛い時こそ誇り高くあれって。
 ゆうまさんも、辛かったよね。苦しかったよね。だけど、それは全て自分を傷つけるだけだよ」
 恨むことも憎むことも、人間ならば抱く感情だ。けれどそれに飲み込まれてしまったら。
「……難しいけどボクはそうありたいと思ってるんだ」
 彼女の瞳は優しく、気高い。その瞳から見つめるせかいは、きっと、やさしくて、いとおしい。
「君が全てを拒めば、何もかも敵になって当然でしょう」
 すこし落ち着いたゆうまが、ぐす、と鼻を啜る。めいっぱいに涙を流した瞳は赤く腫れぼったい。
「普通という枠組みの世界は逸脱を許されず窮屈だけど、世界の全てが君を拒否している訳じゃないよ」
 微笑んだ。
 拒まれたことで、歪んでしまったゆうま。けれども、彼女を拒んだものは、この世界の全てではない。
 でも、それをひとりで理解できるほど彼女は大人ではなかったのだ。
 けれど、今は違う。それでいいとリベリスタたちは言う。そのままの彼女でいいのだと。
「一人より皆の方が楽しいよ。一人でちょい悪なことを繰り返すより、もっと楽しい事一杯あるよ!」
「君がこのまま同じことを続けていたら、きっとどこかで失敗するよ。今までは運がよかっただけなんだ。
 せっかくの力、違う方向に生かしてみない? きっと君ならできると思う」
「そう! ミミルノたちと一緒にその力をもっと楽しいことに使おうよ!」
 不安な気持ちも和らげるのは、一人では出来ないこと。嬉しいことも悲しいことも、少しずつ分け合っていこうと、リベリスタたちが手を差し伸べる。
「………」
 泣き腫らした瞳でリベリスタたちを見つめたゆうまは、返事の代わりに僅かに頷いた。
「うん、こんなつまらない事は今年でおしまい! 新年からはアタシ達と一緒に楽しく暮らそうよ」
 ゆびきりげんまん!と差し出された小指。ぎゅうと彼女の胸の前で握られたままの、てのひら。
 リベリスタたちの顔をぐるりと見回して、それから。躊躇った指先が、遠慮がちに絡んだ。


「ねえ、なんで手を繋ぐの。もう逃げないんだけど」
「え? だってアタシゆうまと友達になりたいし!」
 複雑そうな顔をするゆうまに、陽菜がにこにこ無邪気な笑顔を返した。バカじゃないの、と視線を逸らしたゆうまの頬はほんのりと赤い。
 リベリスタたちは、もう一度神社に戻っていた。ずっと一人で待っていたミミルノは、念願の初詣。
「りんごあめ!キャラクターカステラ! あれもこれもおいしそう!」
 誰より嬉しそうにきゃっきゃとはしゃいでいる姿が、なんとも愛らしい。
「それにしてもすっかり身体冷えちゃうよねー。夏栖斗~! 帰りにタクシー奢って♪」
「えっ、なんで僕なの!?」
「それとも、アタシがゆうまからコートを奪えというのか! ゆうまが寒い思いをするんだよ!」
「甘酒かけたの陽菜じゃん!?」
「……、……。……リベリスタの先輩のカッコイイト見てみたいよね」
「ほら、ゆうまもそう言ってるし!」
「えっ! えっ!?」
 陽菜と、それに乗っかったゆうまがにやにやと夏栖斗を見つめる。
 からかっているだけの二人は、本当にタクシーを奢って貰うつもりなどなかったのだけれど。
 刺すような二人の視線に耐えきれなかったのだろうか。夏栖斗が財布に手を伸ばす。財布を入れておいた『はず』の、ポッケへと。
「………あれ?」
 けれど、有るはずの財布はそこには無かった。指先が空を切るのみ。さあっと夏栖斗の顔が青ざめる。
「落としたかスラれたか、どちらかでしょう」
 姓が現状を理解したくない夏栖斗の肩にぽんと手を乗せて、悲しい事実を告げる。
「えっ、嘘お!?」
「ゆうまさんに見つけてもらうために、見えやすくしておいたし、落としちゃったのかもね……」
「……その、なんか、ごめん」
「謝らないで余計虚しくなるから!!!」
「だいじょーぶ! ミミルノが探すの手伝ってあげるよ!」
 わあわあと騒がしい彼らを見て、ゆうまが思わず吹き出す。
「……どうしたの?」
「……あ。ええと。ありがとうございました、姓さん。大事にしないでくれて」
「君のした事を許した訳じゃないよ。盗みを不問にしたのも、話を聞いて貰う為の対価だったからね」
 それにあれは君を誘い出すための囮だから、とゆるやかに笑いながら告げた姓に、ゆうまは少しバツが悪そうな顔をした。それから、もごもごと歯切れの悪い言葉を紡ぐ。
「アークに行くかどうか、は、まだ分からない。行きたくなったら、行く、かも。
 ……ええっと、その。悪いことはしないようにするからさ。だから」
 リベリスタたちの顔をじいと見つめて一呼吸。ほうと昇る白い息。
「今度は、もっとちゃんとカッコいいとこ見せてよね、先輩」
 そう言った彼女は、じゃあね!と、陽菜にコートを押しつけるようにして返す。
「今回は見逃してやっけど、ウチの縄張りでやったら容赦はしねェからなァ!」
 走り去るゆうまの背に投げかけられた言葉に、片手を上げて応えたように見えたが、暗闇に消えていく彼女の姿は、もうよく見えなかった。
 アークへ来ることなく、去って行った彼女。
 今はもう、今後は悪さはしないという、その言葉を信じるしかない。
 それは不確定で絶対ではないけれど。けれど、きっと大丈夫だろうという確信がどこかにあった。
 リベリスタたちの安心したような表情が、それを告げている。
「……財布。僕の財布………」
 複雑な心境の、ただひとりを除いて。

 ちなみにこの後、夏栖斗の財布はリベリスタたちの懸命な努力により、無事発見されたそうな。
 めでたしめでたし。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 年末年始から、お疲れさまでした。このような結果となりました。

 彼女はアークへ来ずにに去りましたが、きっと悪さはしないでしょう。
 どうやら、色々とこっぱずかしかったようです。
 説得での、アメとムチ(?)の使い分け具合が、素晴らしかったです。

 もしかしたら、どこかで会うかもわかりません。またご縁がありましたら。
 リベリスタのみなさまにとって、よい一年となりますように。