下記よりログインしてください。
ログインID(メールアドレス)

パスワード
















リンクについて
二次創作/画像・文章の
二次使用について
BNE利用規約
課金利用規約
お問い合わせ

ツイッターでも情報公開中です。
follow Chocolop_PBW at http://twitter.com






自由な職場 不自由な選択

●ヤブヘビ
 町の外れ、ポツンと建物、夜の光。
「この俺を呼び出したって事はそれなりの理由があるんだろ、臣丞?」
 夜と同じ色をした外套を翻し、振り返る無頼の名は『相模の蝮』蝮原 咬兵 (nBNE000020)だった。
「せや。一生のお願いっちゅーやっちゃ、マムシ君」
 関西弁で応えたのは臣丞と名を呼ばれたもう一人の男。所々に傷を負い、顔には疲労の色が浮かび、その手にはまだ血の乾ききっていない金棒が握られている。
 その様子が普通ではない事は明白――そもそも夜中にこんな所へいきなり呼び出す時点で非常事態だ。『古くからの友人』のそんな姿を一瞥した咬兵は微かに眉根を寄せる。
「……『久し振りだ』なんて感傷に浸ってる場合じゃあ、なさそうだな。で? お前が命を代価にしてでも俺に聴いて欲しい願いとやらは何だよ」
「頼む! マムシ君の強さを見込んでこそのお願いや……ワシの娘を護ってくれへんか!」
「娘……金芽か?」
 咬兵は知っている。藪沢金芽。それはこの臣丞という男の一人娘であり、革醒もしていないただの少女。母親は彼女を産んだ時に他界している。その為、臣丞はフィクサードを辞めて『ただの人』となり、彼女と二人で平凡で平穏な日々を過ごしていたのだ。
 咬兵の記憶が正しければ、『そう』であった。
 けれどどうやら、『それ』は終わりを告げたらしい――涙をボロボロ零す臣丞が、その隣で今にも泣きそうな顔をしている少女が、その何よりの証拠だった。
(こいつ……)
 一目見て理解する。このあどけなさの残る少女は最早、人ではない。かといって自分や臣丞と同じでもない。
 即ち、ノーフェイス。フェイトを得られず、世界から愛されなかった少女の成れの果て。
「さっきもどっかのリベリスタに襲われてん……そんで……そいつらしばき倒してなんとか逃げてきたんやけど……ワシだけの力じゃ正直無理や。戦うんも久し振りやし、それに、アーク――あのバロックナイツを仕留めた奴等とかに襲われたら、勝てへんよ! 二人とも殺されてまう……」
 臣丞は悔しそうに吐き捨てる。その娘、金芽は不安そうに父親の袖を握り締めた。
「お父ちゃん……うち、どうなるん? 死んでまうん?」
 震えた声。ノーフェイスの少女は恐怖している。突然放り出された非日常は、漫画やアニメみたいな優しいものではなかった。
「ったく……馬鹿か、どいつもこいつも」そう言いかけた言葉を、咬兵は飲み込む。
 アークが怖い? 馬鹿野郎。俺はその友軍やってるんだぞ。確かに今もフィクサードだがリベリスタと組んでるんだぞ。
 そんな俺に、ノーフェイスを護れ? 護ってどうなる? フェーズが進行して手に負えない化け物になったら?
 馬鹿かコイツは。確かに昔っから考え無しの所もあったけれども。馬鹿か、コイツは。
 だが。
 臣丞は自分が成人するより前からの知り合いで、金芽にしたってその幼少期から知っていて。咬兵の世界の、日常の一部だと言っても過言ではない存在で。
 なにより咬兵は――子供が、特に少女が泣く事が大嫌いだった。雪花が重なる。重ねてしまう。ああ泣くな。泣くな泣くな。
「チッ、面倒臭ぇ……」
 天井を仰ぐと共に吐き捨てた。
 遠くから近付いてくる気配、靴音、その正体の察しが付いたから。嗚呼。不自由な選択。きっと答えは一つしかない。

●サイドアーク
 その日、リベリスタ達に下された任務はなんてことはない『ノーフェイスの討伐』だった。革醒した少女を屠れ。その父親である元フィクサードがその妨害をしてくるだろう。だが世界の崩界を防ぐ為にも辛いだろうが何だかんだ云々かんぬん。
 そう、リベリスタならなんてことない。
 その筈だった。
 だが、どうだ。
 駆け付けたリベリスタの視界、その真正面に立ち塞がっていたのは、蝮原咬兵。『相模の蝮』。アークの友軍。
「よう。今日も任務か? ご苦労さん」
 そう言葉をかけてくる咬兵であるが。その立ち位置はどう考えても『手助けに来た』のではなかった。何故なら、彼の肩越し。後方。震える少女と、それを護る様に傍にて得物を構える男。前者は一目見てノーフェイスだと理解できた。そして後者は革醒者だ。
 どう見ても、どう考えても、咬兵は少女と男を護っている。
 そして、咬兵が「そこを退いて下さい」なんて言葉に頷くような男ではない事を、リベリスタは誰よりも知っている。
「陳腐な言葉だがよ。ここを通りたきゃ俺をどうにかしろってこった。なぁに俺ぁフィクサード、お前等はリベリスタ、それだけでもう理由になるだろ?」
 咽の奥の、どこか皮肉めいた笑み。ただそこに居るだけだと言うのに威圧感、存在感、まるで巨大な壁の如く。蛇の双眸がリベリスタを射抜いている。
「……本当にやるのですか?」
 最中の声はリベリスタ達に同行していた『元・兇姫の懐刀』スタンリー・マツダ(nBNE000605)のものだった。その言葉は咬兵に対してであり、リベリスタに対してでもある。蝮原咬兵。数度手合わせをした事があるがその度に容赦なくコテンパンにされているスタンリーにとっては正直、『出来れば敵にはしたくない』相手なのである。
「帰りたかったら帰っていいんだぜ、マツダ」
「成程、名案ですね蝮原様。帰りの交通費を下さるならそうしますが」
 毒と溜息。嗚呼。不自由な選択。きっと答えは一つしかない。スタンリーは「たまにはそとにでないとだめっていうかえーっとそのーなんていうかーふええてつだってください~~~」等と言ってきたリベリスタを密かにジロリを睨み付けた。
「まぁ、なんだ」
 ゴキッ、と咬兵が拳を鳴らした。
「俺にもお前等にも意地だの立場だのなんだの『どうしようもない選択』っつーのがあって……それを選ぶ為にはどっちかがどっちかを蹴落とさなきゃなんねぇ訳だ。で、俺達ゃ普段は仲良しこよしだが、今夜はたまたま『そう』なっちまっただけ。そうだろ?」
 別に互いが憎い訳でもない。ましてやスポーツでも安全が約束された手合わせでもない。不可避の状況。納得済み。
 だが『そう』なってしまった。そうなったからそうなったのだ。偶然的な必然。ならば仕方ない。やるしかない。やられたくなければ。
「恨みっこ無しだ。お前等は全力でノーフェイスを殺しに来い。俺は全力でお前等を潰しに往く」
 絶対的自負。主張する彼のルールは常識すらも捻じ曲げて。
「来い。『相模の蝮』、推して参る――!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ガンマ  
■難易度:NORMAL ■ リクエストシナリオ
■参加人数制限: 6人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年01月07日(火)23:19
●目標
 ノーフェイス『藪沢 金芽』の討伐

●登場
『相模の蝮』蝮原 咬兵
 ヘビのビーストハーフ×クリミナルスタア。
 強いです。ただただシンプルに、『強い』です。
・EX荒覇吐:近複、詳細不明。状態異常と言うよりは火力重視。

『藪金棒』藪沢 臣丞(やぶさわ・しんじょう)
 ジーニアス×覇界闘士の大柄な男。金芽の実父、咬兵の友人。直情的な熱血漢。
 元フィクサード。現在は金芽と二人で一般人と同様に暮らしていた。
 金芽を護る・庇う事を第一に動く。

ノーフェイスフェーズ2『藪沢 金芽(-・かなめ)』
 16歳の大人しい少女。元々は一般人だった(神秘界隈の話については臣丞から大まかに説明されている)
 理性はあり、凶暴性は皆無。戦闘力はそこまで高くない。攻撃というよりは防衛・支援に特化。


◎味方ユニット

『元・兇姫の懐刀』スタンリー・マツダ
 ヴァンパイア×ナイトクリークの紫杏の元側近。神物両刀バランス型。
 Aスキルは吸血、シャドウサーヴァント、ロイヤルストレートフラッシュ、EXサイコダウナー(神近範、ショック、無力、隙、鈍化、無)
 基本的には指示に従う(相談で【スタンリー指示確定】とつけて発言された『最初の』発言を参照)が、あまり咬兵とは戦いたくはないようだ……。
・アーティファクト『サドクターⅡ』
 巨大メス型。通常攻撃に呪いを付与
※特殊状態『不定の狂気』
 アザーバイド『混沌』による精神影響で極稀に行動が鈍る

●場所
 郊外の廃ビル、1階の広いフロア。足場問題なし。
 時間帯は夜。戦闘に問題がない程度に明るい。

●STより
 こんにちはガンマです。リクエストありがとうございます。
 生きる事は大変ですね。すんごく。
 宜しくお願い致します。


※相談期間1日目が実質1時間程度となってしまうため
見た目の相談日数が希望より1日増えています
参加NPC
スタンリー・マツダ (nBNE000605)
 


■メイン参加者 6人■
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
メタルフレーム覇界闘士
ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)
ハイジーニアスデュランダル
新城・拓真(BNE000644)
ノワールオルールクリミナルスタア
依代 椿(BNE000728)
ジーニアス覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ハイジーニアスクリミナルスタア
坂本 瀬恋(BNE002749)

●Re:ヤブヘビ1
 蝮原咬兵が敵として目の前に居る事実。それはリベリスタ達に差異こそあれど衝撃を与えた事に間違いはなかった。
 思ってもいなかった。『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)は思う。だが彼にも曲げられぬ信念がある様に、自分達にもそれがある。敵が味方になる事もあれば逆もまた然り。

 だが──俺は呪うぞ、運命よ。何故、あの娘に運命を与えてはくれなかったのだ。

「リベリスタ、新城拓真」
 抜き放つ、金の剣と銀の剣。それを藪沢金芽<ノーフェイス>に突き付けて。
「その命、貰い受ける」
 少女を狙い地を蹴った。『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)もそれに続きながらも「うっそだー……」と我知らず呟いてしまう。
(だって蝮さんはそりゃあ敵だったころもあったかもしんないけど、わかりあって、今は味方だって……)
 複雑な気持ちを解決してくれる答は何処にも無かった。ただスタンリーだけがヘルマンへ一瞬だけ視線を遣り、影の従者を呼び出しながら標的へ向く。
 が、それを易々と赦す咬兵ではない。彼の拳銃が拓真とヘルマンとスタンリーに向けられんとする。しかしその手首に絡み付いたのは『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)がその血を代価に拳銃Retributionから撃ち出した呪鎖だった。
「二人に未来が無いと理解しつつ、それでも仁義……情を優先する辺り、蝮さんは格好良いおじさんやわぁ」
 至近距離。向けた銃の奥で、咬兵の目を見据える椿の瞳。個人的な気持ちを言えば彼を応援したいけれど、も。仕事だ。儘ならないものだ。似たような組織に属しているのに、根はリベリスタとフィクサードだなんて。
「まぁ、こうなったんもなんかの縁や。せっかくやし、此処は一つ『恨みっこ無し』の言を信じて蝮さんと手合わせさせてもらうとしよか?」
「あぁそうだ。分かってんなら本気で来い」
 引き千切る鎖。向けられる銃。神速射撃。乾いた銃声。『家族想いの破壊者』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)の身体を貫く。されど彼が咬兵へと肉迫する勢いは全く弱まる事はなかった。無表情の顔が揺らぐ事はなかった。
 咬兵の肩越しに藪沢臣丞が見える。娘を護りたいだけの父親。彼は、己と同じだ。虎鐵は思う。娘を世界と思い、娘のためにフィクサードを捨て、娘の為に世界に敵する。自分も娘が『そう』なればそうするだろう。唯一違うのは咬兵というダチに頼れる所だろう。
 俺にはできねぇ芸当だ――
「よぉ咬兵……そいつを殺しにきたぜ?」
「よう虎鐵、好きにしな。俺も好きにする」
 破滅の闘気を纏う虎鐵に咬兵はシンプルに述べた。咬兵は彼が娘を溺愛している男だと知っているからこそ、『きっと臣丞と己を重ねているだろう』と思ったからこそ、言葉を無駄に重ねる事はしなかった。情けではない。それでも尚、覚悟と共に刃を抜き放った友人に対する彼なりの敬意だ。
「鬼蔭虎鐵……いざ参る」
「どっからでもどうぞ」
「じゃ遠慮なく」
 虎鐵とは別の声、それが言い終わる前に咬兵目掛けて振るわれた業炎撃。それを今アークで使う者など限られている。咬兵が遣った視線の先には彼の想像通り、『消せない炎』宮部乃宮 火車(BNE001845)がそこにいた。
「難儀だなぁ? 蝮のおっさんも」
 今日もまた、頼られて。断らずにまた、背負い込む。「実際、複雑だと思うぜ?」口角を吊って笑いかけると「全くだ」と浅い笑いが返って来た。
 きっと選択出来ぬ選択肢。その前に今さら言葉は不要だろうと『ザミエルの弾丸』坂本 瀬恋(BNE002749)は思う。言うまでもなく分かっている事など改めて言う必要など無い。
 が。当然の事だがコレだけは言わせて貰おう。
「おい、マムシのオッサン。くたばるんじゃねえぞ」
「いつも言ってるがよう、坂本。『俺を誰だと思ってんだ』?」
「言うと思ったよ」
 吐き捨てる様にそう応え、瀬恋はその血に流れる誇りを以て完全無比なる己のルールを『世界の法則』に叩き付ける。捻じ曲げる。真正面。搗ち合う目線。
「ハッ。どいつもこいつも馬鹿正直に真正面から来やがって」
 嫌いじゃないぜ。咬兵のそんな言葉とは対照的に、ゴキンと鳴らされる拳は何処までも暴力的な威圧感を放っていた。
 誰も彼も出し惜しみなどしやしない。「一発で逝くんじゃねぇぞ」と咬兵が身構える。膨れ上がる荒々しき覇気が大気を戦かせる。
「……来るで!」
 椿が緊迫した声を張り上げたのと全く同時。決壊するかの様にリベリスタ達へ雪崩たのは気の濁流だった。それは無数の蛇が唸りを上げて襲い掛かるかの如く。荒覇吐。叩きのめす。
(ま、わかるよ)
 夥しい数の覇気の蛇に噛み付かれながら瀬恋は思う。相模の蝮に真正面特攻など馬鹿のやる事だ。が、馬鹿だろうがなんだろうが――アタシはアタシのやり方でやらせてもらう。
「んじゃ、行くぜ。あんま余裕かましてくれんなよ?」
 最初はグー。拳骨かます。

●Re:ヤブヘビ2
「聞いておくが、ノーフェイスを引き渡す心算は無いのだな」
 止まらずの破気を纏った拓真が臣丞に問いかけた。
「そのまま放置すれば、何れフェーズ進行を迎えその子はその子で無くなる。知らない訳では無いだろうに」
「正論で全人類がイエス言うと思たら大間違いやで坊主!」
 やはり言葉でどうこうできる出来る訳ないか――身体のタガを外したヘルマンが臣丞に迫る。そして繰り出すのは闘気を込めた重い蹴撃。男の鳩尾を捕らえたその衝撃は、彼を彼方に吹き飛ばす。
「あの男は私が」
 すかさずスタンリーが臣丞の間合いに踏み込んだ。彼が出来るだけ金芽を庇えない状況にする事が懐刀の任務。5重の凶器が臣丞の身体を容赦なく切り裂き、彼の気を一身に引き付ける。
 そんなスタンリーに、バシャリ、と返り血がかかった。一瞬だけ息が止まった――様な気がして、ヘルマンはすぐに声をかける。
「よーしよしよし大丈夫ですよ、いまみえるものはなに?」
「余所見をしている貴方ですよ、ヘルマン様」
 敵を見なさい。そう言われて。大丈夫そうだ。そう思った。ふぅっ。息を吐いてヘルマンは視線を戻す。腰を抜かして震えている少女へと。
 彼女の眼前、立ちはだかり見下ろす男の名は拓真。その両手に持った剣には限界を超えた力が込められていた。
「い、いや、助けて、殺さんとってよぉ」
 少女が泣く。少女の姿をしたバケモノが請う。それに刃が鈍るなど、甘ったれた事にはならない。120%。この技を使うからには、彼は目の前の存在を全力で殺しにかかる。
「親が子を守ると言う気概は買う、だが──これまでにしよう!」
 轟と振り落とされる双剣、少女の悲鳴、固いもの同士がぶつかり合う音。蹲る少女の包む様な光、これは、バリアーか。反射の衝撃が拓真を焼く。少女の無意識的な力か。拡散する光は臣丞と咬兵にも及び、その傷を塞いでゆく。
 立ち上がる臣丞。へ、椿は言葉をかけた。咬兵と相対し、断罪の魔弾を銃口より放ちながら。
「臣丞さんはえぇ友人を持ったもんやね。ちゃんと感謝せんとあかんよ? 娘の生死に関わらず……この先も生きてくんやったらな」
 返事は無かった。する余裕もない、が正しい。代わりに椿へ繰出されたのは咬兵の重い拳、彼女の腹を的確に捉える。くの字に折れた身体。気が付けばコンクリートの床に叩き付けられている。
「っくは……!」
 腹を抱えて胃酸を吐くほどの激痛。それでも武器を放したり音を上げる事はしなかった。
「他所事たぁつれねぇな紅椿の」
「うちは今回普通の女子大生として来とるからなー! 組とか関係ないというか知らんからなー!」
 咳き込み噎せて強がって。跪くのは趣味じゃない、跳ね起きると同時にお返しだと言わんばかりに拳を構えて吶喊する。やるからには殺るつもりで。生半可な気持ちで勝てるものか。いやまぁホンマに死んでもうたら困るし死なんと信じとるけども。
「……その辺り、蝮さんの強さは信頼しとるつもりやよ?」
「ありがとよ」
 言葉と拳と銃声の応酬。
 立ちはだかる咬兵は流石に強い。金芽によって常に回復が供給されている故に尚更だ。お父ちゃん助けて。娘の声。今助けたる。父の声。
「折角無事に足洗って、普通の生活送ろうってのに……なぁ?」
 全く良くある話だわ。火車は誰とはなしに呟いた。普通に良くある一般的な神秘の話。立場も事情も分からない事はないけれど。が、火車は常々思うのだ。
(運命クソ喰らえ……ってな)
 尤も同じ様な状況になっても自分は迷う事無く潰すのだろうが。
「フェイトねぇ奴放置すりゃ ソイツが居た形跡すら無くなっちまうからな……」
 世界が崩れてしまえばそうなるのだ。だから火車はそれを阻む。拳に炎を宿して挑みかかる。そして崩界を阻む者をリベリスタと、皆は呼ぶのだ。
 弾丸に拳に、斬撃と。雷光を纏う虎鐵の斬魔・獅子護兼久が咬兵の肩口を切り裂いた。
「……どけ……そいつを殺さなきゃいけねぇ」
「どけ言われてどく阿呆が居るかよ阿呆」
 鼻で笑う咬兵が銃を撃つ。銃声の中、穿たれる最中、虎鐵はいつぞやの夢の言葉を思い出していた。

『強くならねぇと』って思ったんなら、血反吐はこうが最後まで覚悟決めやがれ。

「ああ、いいぜ吐いてやるよ血反吐を」
 ぼたぼた。垂れる赤。
「咬兵……テメェの日常を……世界の一部を壊すなんてのは分かってるんだよ。
 だが俺はテメェと戦ってやるそしてその娘を殺してやるよ。そいつを殺さねぇと今度は雷音が危険な目にあう」
「殺せるのか?」
「……殺せる!」
 友人に嫌われても良い、友人の友人に恨まれても良い。「恨むなら俺を恨め」と虎鐵は臣丞に叫ぶ。彼と己は似ている。彼の生の為なら安いものだ。その位の咎は背負ってやる。
 そうしてまでも護らなければならないものが、虎鐵にはあった。
 殺意だけを乗せた『護る為の刀』が唸りを上げて咬兵の身体を切り裂く。圧倒的破壊力を持ったそれは決して浅い傷ではないだろう。
 なのに咬兵は一歩も下がらず、虎鐵の胸倉を掴み取るとそのまま頭突きを彼の顔面に叩き込んだ。蹌踉めいた虎鐵を蹴り飛ばし、声を張り上げる。
「ぐだぐだうるっせぇ! 分かってんならつべこべ言わずにかかって来やがれ、虎鐵!」
 虎鐵の覚悟を理解している。嫌いじゃない。本気で来い。故に罵声にも似た声を友人に浴びせた。つくづく友達想いな男だと、虎鐵は心の中で一笑した。刀を構える。真っ直ぐに。
「俺だって本気だ。相手してやるよ、咬兵!」
 コンクリートを血で濡らし、攻勢。
 おーおー。オッサン共がムキになってやがらぁ。溜息を吐く瀬恋は正直、気乗りはしなかった。咬兵と戦うだけなら楽しかっただろうが、子供を殺す為だなんて。
(ガキを守る為にヤクザのオッサンが戦うなんてよ……思い出しちまうだろうが)
 だが、この道を往くと決めたのならば。誰が相手でもどんな状況でも己は前に突き進む!
「でもま、アンタのそういうとこは嫌いじゃねえぜ」
「ありがとよ。正直な奴ぁ好きだぜ」
 文面だけなら和気藹々としたものであるが、その攻防を表すなら『壮絶』。特に瀬恋は泥を這う様な戦い方で咬兵に挑む。勝つ為ならなんだってやる。やれる事は何でもやる。相手は相模の蝮、ママゴトもどきのお上品な戦いで勝てる訳が無いのだ。
「食われる前に食い殺してやるよ、マムシのオッサンよぉ!!」
 向けた砲。撃ち出すのは刻まれた痛みを呪いに変えた脅威の魔弾。半歩分、けれど確かにあの咬兵を押し遣った。硝煙の向こうに不敵な笑んだ無頼の姿。それは既に、『身構えていた』。
 迸るのは再度の荒覇吐。瀬恋は飛びそうになった意識を気合と言う名のドラマで引き止める。拳を構え、踏み込んだ。荒れ狂う大蛇が覇気の波を逆流する。血に塗れ、突き出した拳。
「だぁってやられるかよボケがぁ!!!」
 ゴキン。鈍い、堅い。瀬恋の拳と咬兵の拳がぶつかり合う。ごり押しであり、力尽く。
 その瞬間、『爆』の文字。咬兵の後頭部を殴り付けたのは助走と付けて飛び掛った火車の拳だった。
「何処見てんだラぁ! 目的の為なら浄不浄なんざクソ喰らえなんだよ!」
 何だろうが知ったこっちゃない。意地の張り所だ。脚に燃え盛る気を込めて、飛び退く咬兵へ更に踏み込む。踏み込んで殴る踏み込んで殴る。殴り返され銃で撃たれようと。『最早やるしかない』。ならばそれ以外に何が必要か?
「馬鹿なテメェ等は!」

 信念に従って全力で抗がってりゃあ良い! オレ等はソレを綺麗サッパリぶっ潰す! 成す術なかった理由にでもしろ!
 全部終わらせてやっからよぉ!

「――精々抵抗するんだなぁ!」
 心の中で吐いた声。裂けた唇で吐いた声。

●Re:ヤブヘビ3
 臣丞はヘルマンと拓真に弾かれ、更に割り入ったスタンリーに邪魔をされ、中々金芽を護る事が出来ない。その間にも拓真の刃が、ヘルマンの蹴撃が。金芽を覆う光膜は罅だらけだった。直感する。この膜が破れた時、少女は死ぬ。
 ヘルマンが繰出す空を裂く蹴りが更に金芽のバリアーに傷を付けた。やめてくれ、と少女の父親の叫ぶ声が耳に届く。今日もヘルマンは人を殺す。その人を大切に思う人の前で。いつもの事だ。かといって慣れていると言えば嘘になるし脚だって震えるけれど、それだって『いつもの事』だった。
 初めてなのは、味方だと思っていた人が向こう側に居る事実。多分アークよりも大事なものがあったから咬兵はそれを選んだのだろう。裏切りなんかじゃないと思う。事実、咬兵から悪意や害意は感じられない。分かっている。
 けれど、いつもあの仲間を見るあの優しい瞳が、敵意を持ってこちらを映しているのもまた事実で。それが、ヘルマンには悲しかった。
 何より悲しいのは、かつては敵だったけれど分かり合えて大事な仲間になれた存在が『選んでしまったら』敵になるかもしれない事を知ってしまった事。
(人間は、どちらかひとつを選ばなきゃいけないんです……よね)
 スタンリーさん、あなたは。それは思わず口を突いた言葉だった。「何ですか」と続きを促され、けれどヘルマンは首を振る。
「……ううん、なんでもありません」
 目を逸らしたまま。戦闘中故にスタンリーもヘルマンをじっと見詰めるような事はしない。それでもヘルマンは、友人からの視線を痛いほどに感じていた。眼差しが刺さるそこから自己嫌悪が滲み出る。嗚呼、酷いな。こんなに悲しい事が起きているのに、自分の事しか考えられないなんて。
 その時だった。跳び下がったスタンリーがヘルマンの横に並ぶ。
「私は味方ですよ。貴方がノーフェイスやアンデッドになったとしても」
 スタンリーは咬兵というより臣丞に近い。大切な人を護る為なら一切に刃を向けるだろう。それこそ『彼』の為ならアークだって裏切れる。
「まだ戦えますか」「もちろんです!」そんなやり取り、蹴撃と斬撃。
 金芽のバリアーに大きな亀裂。臣丞の悲鳴。少女の涙。
 これを正義だと言うのならば、幼い頃に自分が信じたモノは何だったのか。拓真は己に問うた。何が正しくて、何が間違いなのか。少なくとも人を殺す事自体は悪だ。ならば己は――
「……」
 それは罪。どんな理由があろうとも拓真が背負わなければならない罪。
(……それを忘れた時、俺は只の悪鬼と成り果てるのだから)
 振り上げた。輝けぬ栄光。届かぬ願い。理想の代価は皮肉ばかり。悲劇ばかり。込めた力。込める思い。
「俺は、俺が正しいと思う事を貫き通す。この命、果てる迄」
 振り下ろす。それは過剰なほどの威力を以て――金芽の光膜を、彼女の身体を、一片残らず消し飛ばした。

●夜の終わり
 戦闘時間自体は短かった為に、運命を散らしたり重傷を負ったりする者は居なかった。
 金芽の死。ガックリと膝を突く臣丞。咬兵は感情を露にしたり何か言ったりする事は一切無く、ただ一言。たった一言。
「まだやるかい」
 それはリベリスタ達の戦闘態勢を解くには十分だった。
「分かった。……あばよ咬兵」
 虎鐵の声と刀が鞘に納まる音。そのまま踵を返した彼の顔は誰からも見えなかった。今日は家に帰らずに飲んだくれよう。今は誰にも、会いたくなかった。
 それは瀬恋も似たようなもの。溜息、武装を解いて一歩下がる。楽しく喧嘩、なんて気分にはとてもなれなかった。
(クソッタレな気分だぜ)
 きっと勝敗がどうなっていてもそうなっていただろう。
 黙したまま去り行く仲間達。言葉など無粋だろうと、椿と拓真も続いてその場から消え去った。
 が、火車は一人、呆然と蹲っている臣丞へと言葉を放つ。
「金棒よぉ。今後の事はテメェに問えよ。娘と一緒に過ごした世界をどうするのかは テメェ次第だろ」
 復讐したいならそうすれば良いし、死にたければそうすれば良い。慈善殺人など真っ平だった。
「……今すぐ決めれるワケあらへんやろ。暫く……独りにしてくれ」
 搾り出す声。少なくとも「死にたい」とは言わなかった。まだ一先ずは生きていたいと、彼は言ったのだ。
 無音。歩き出した咬兵が「行くぞ」と言わんばかりに火車の肩を押し促した。
 無音。正しくは足音のみ。それもやがて消えて、本当に無音になる。


『了』

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 臣丞は取り敢えずは失踪したり自殺したりはしていないようです。
 咬兵は今回の件に関して語る事は何も無いようです。

 リクエストありがとうございました!