●駆け抜ける閃光 『ソレ』は闇夜に生れ落ちた。まさに暗い夜の闇を母体とし、何も無い虚空からぽっと現れたのだ。否、『ソレ』というのは正しくは無い。『ソレ』は複数在ったのだ。 ぼんやりと光りながら地を踏みしめる影は、人と思しき姿をしていた。衣服を纏った人影が発光しているかのように見える。大柄な人影が二つ、やや小さめの影が三つ。 そして、まるで弾かれたように『ソレら』は駆け出した。人里から少しばかり離れた寂れた廃寺を中心に、ぐるぐると周囲を駆け巡る大柄な影。小柄な影は廃寺へと飛び込み、ぴょんぴょんと跳ねている。まるで妖しげな宴のような、音のない乱痴気騒ぎ。 声にならない怒号を上げ、大柄な人影は駆け続ける。バタバタとはためく衣服が、まるで大鷲の翼のような音を立てた。 母なる闇夜を切り裂くかのように、影が強い光を発する。光源は……『ソレら』が共通して持つモノ。そう、キラリと光る坊主頭だ。 バサバサと袈裟をはためかせ、時折坊主頭をテカらせながら、影は走り続ける。 ●師走 「もう年の瀬だってぇのに、悪いわね、アンタたち」 珍しくブリーフィングルームでリベリスタの到着を待ち構えていた『艶やかに乱れ咲く野薔薇』ローゼス・丸山(nBNE000266)が、少々微妙な面持ちで出迎える。しかし、リベリスタには盆暮れ正月ゴールデンウィークはないのだ。夏のバカンスはあるが。 「今回はどんな事態が?」 それを体言するかのように、真面目な声音で尋ねるリベリスタ。だが、それでもローゼスの顔は微妙なままだ。 「いやね、なんだか笑っていいんだか悪いんだか判らない状態なんだけど。とりあえず、五体のE・フォースの撃破が任務よ」 歯切れの悪いローゼス。そんなにも厄介な相手なのだろうか。僅かに緊張が走る室内。 「ぶっちゃけちゃうと、なんだか坊主みたいなE・フォースが出ちゃったのよ。しかも五体も。で、それらが何やってるかってゆーと、廃寺を中心に半径20メートルくらいの円でグルグル駆けずり回ってるのよ」 なんだそりゃ。思わずぽかんと阿呆のように口を開ける面々。何故、こんな師走の時に。いや、師走の時だからこそなのだろうか。 「それだけならまだ良かったんだけど、調べてみたら夜明けと共に人里まで駆けてって大暴れしちゃうみたいね。そーなっちゃう前になんとかしちゃいましょ、て話ね。なんだかくっだらないわぁ」 心底嫌そうに吐き捨てるが、その不機嫌さはE・フォースの存在か、それとも年の瀬に仕事に駆り出された事だろうか。 「グルグル回って袈裟着てる『和尚』みたいのが二体、廃寺の鐘楼に陣取ってる『小坊主』みたいのが三体ね。 で、『和尚』には面白い性質があってね。見た目に反して、実力はハンパじゃないわ。特に攻撃に対する耐性がとぉっても高いの。けどね、『小坊主』が守る鐘を鳴らせば鳴らすほど、どんどん弱体化していくみたいなの」 再び、形容しがたい表情を浮かべる羽目になるリベリスタ。しかし、判り易いと言えば判り易いだろう。 「つまり、『小坊主』を蹴散らして鐘を突いて『和尚』を弱らせて叩け、と?」 「飲み込みいいわねぇ、偉いわよぉ。けど、『和尚』の足止めもしとかないと、夜明け前であっても人里に向かう恐れがあるわ。テキトーに分かれて行動する必要があるかもしれないわね。 あと『和尚』はかなーり移動速度が速いわ。まぁこれも、鐘を鳴らせば低下するんだけど。最初は追いつけないかもしれないから、周回してきたとこを叩くとかしないとかもだわね」 なんだって、こんな任務に。ブリーフィングルームを出る頃には、一同の顔に呆れたような疲れたような、そんな表情が浮かんでいた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:恵 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月09日(木)22:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●師走(物理) アークに来てからどれくらいの時が経ったのか。時間の流れに身を任せることを止めた少年は、木陰からふっと空を仰ぐ。もう年の瀬だ。立ち止まっていようと時は絶え間なく流れて留まる事を知らない。『ロストワン』 常盤・青(BNE004763)の夜を溶かしたような黒の瞳が、星空を映す。 その近くでは、青と対照的に戦いに向けウズウズと自らを表現する少女、ルー・ガルー(BNE003931)が居る。仲間達は、正門から廃寺へと駆け上っていった後だ。その時、左右から発光する人影が迫ってくるのが見えた。なんというか、凄く目立つ存在だ。神秘の秘匿的に大丈夫なのだろうか。 「ルー、クーカイ、ブロック!」 それを確認すると同時に、弾かれたように駆け出すルー。青も、ちらりとルーに視線を送り、もう一人の和尚・最超へと立ち向かう。対照的な二人が、似たような敵の抑えに回る。全て打ち合わせ通りだ。ぶつかり合う、リベリスタとエリューション。まるで某歌合戦のように、お互いに一歩も引かない。 ルーの研ぎ澄まされた、凍気を纏った拳がゴツいハゲを襲う。まさに狙い澄ましたかのような拳が、寸分違わず空怪の胸を捉えた。 「オマエ、ココカラ、ニガサナイ!」 だが、叩き込まれた拳から這うように伸びる氷の蔦は、空怪の裂帛の気合で雲散霧消してしまう。見た目はアホだが、実力は伊達ではないようだ。しかも勢いを活かし、その剛腕を思い切り振り抜く。木々を巻きこみヘシ折りながら、ルーの身体を吹き飛ばした。それはまるで、沈みゆく夕日の如く相手を大地に眠らせる一撃。 それでも、ルーは跳ね起きる。こんなところで眠っているような場合じゃない。それに、戦いは彼女を熱くさせてくれるのだ。グイっと流れた血を乱暴に拭い、不敵に坊主を睨む。 「ヒェヒェ、キカナイ? ツギ、ビリビリ!」 冷気を雷気へと変え、ルーは笑う。 同じように、青も最超へと向かう。いや、同じように立ち向かうとは言え、手法は全く違った。木陰から静かに、針の穴を通すような鋭い気糸の一撃。 「和尚さん、説法を聴かせて下さい」 青は、冷静に自らの役割を勤めようとしていた。即ち、最超を抑える事。 (楽な役目では無いけど、鐘楼に向かった人達を信じて抑え続けよう) ギリリと締め上げる気糸だったが、やはり秘めたる力は凄まじいようで次の瞬間には糸はズタズタに裂かれ、闇に溶けてしまう。情報では、状態異常に耐性があるとのことだった。それはまるで、目的の目が出るまでサイコロをなげるようなものだと言えるだろう。しかし、それならば。 「……ボクは人よりサイコロを投げるのが得意なんだ」 小さく、青も笑う。仲間を信じ、仲間の為に戦う。もしかしたら、これも一種の存在意義なのかもしれない。 対抗し、輝く坊主の裂帛の読経が青を打つ。顔をしかめて耐える青だが、その横を閃光と化した和尚が駆け抜けていった。どうやら、廃寺を周回するという性質に忠実なようだ。ルーが抑える空怪も、既に豆粒のような大きさになるまで離れていた。 「坊さんが何が楽しくて走ってんだか知らないけど、この大暴れは見過ごせないね。平和に年が明けるように、気張ろうか」 少しだけ困ったように笑い、二人の傷を癒す『鏡の中の魂』 ユーグ・マクシム・グザヴィエ(BNE004796)。青とルーの二人が見える、丁度中間点に立ち援護の構えだ。彼がいなかったら、この戦線は支えきれないと言えるだろう。 「ありがとうございます」 「ルー、カンシャ! アリガトナ!」 「攻撃はからきしなんで、火力としては貢献できないけど。ルーも青も、誰も倒させるつもりはないよ」 浮かべる柔和な笑み。しかしその眼差しに灯る決意は固く固く。 ●誰が為に鐘を撞く 「E・フォースですか……。……どういう行動なのでしょうね、走り回ったりとか。姿かたちといい、朽ち果てた廃寺と残る鐘楼に関わるもの、と見ますが、昔このお寺で行われていた事……なのかな……」 「なんともシュールな光景です。師匠の僧が忙しいから師走と書きますが……このようにお坊さんが走り回るものではないですよね……」 廃寺内の小さな鐘楼を見据え、小首を傾げる『蒼銀』 リセリア・フォルン(BNE002511)と、背後に視線を走らせる『魔術師』 風見 七花(BNE003013)。少しばかり小高い立地の為、無駄に発光する人影が良く見えた。木々をヘシ折り爆走しているその姿に、七花の笑みも若干ひきつる。 「……いや、きっとこれって、あのダジャレからきてるのよね……あ、言わないで。なんか、ちからぬけるから」 その横で、『ならず』 曳馬野・涼子(BNE003471)は思いっきりイヤそうに呟く。その小さな小さな呟きは、しかし闇に溶け消えることはなかった。何故なら、その場に居た他の面々も同じことを考えていたからだ。 「……和尚が二体……。気付かない方が幸せだったかもしれない」 「和尚が二人でおしょうがツー。来年を気持ち良く向かえる為に張り切りましょう。うっきうきー」 涼子と同じような表情の『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)と、台詞だけなら至極楽しそうな『アカイエカ』 鰻川 萵苣(BNE004539)。『台詞だけなら』というのがミソだ。萵苣のその表情や口調は、これ以上ないというほどの棒読みである。 「さて、と。それじゃあ今年最後の任務といきましょうか」 微妙に沈痛な空気を払拭すべく、気持ちを入れ替える義衛郎。そう。如何にアホな状況とはいえ、遊びではないのだ。だが、改めて言うまでも無く、その場に居る全員がそれを承知していた。一つ頷き、鐘楼を睨む。其処に居座るのは、この世ならざるモノ。招かれざる珍客。 リベリスタの顔つきが変わる。 普段は傍らにいるペットのヒキコーモリ君は、大きな音に弱いという事で入り口待機となっている。トレードマークのステイストローをゆらゆら揺らし、萵苣は寂れた廃寺を駆ける。その背に小さな翼を生やして、夜風を纏いながら。その狙いはただ一つ、鐘楼に吊るされた、廃寺に不釣合いな立派な鐘だ。 「鐘、鳴らさせてもらいます。ばびゅーん」 静かに、抑揚の少ない声で萵苣は呟く。突然の来訪者に、小坊主共も騒ぎ立った。ぴょんぴょん跳びはね、萵苣の小柄なシルエットに我先にと襲い掛かる。しかしそれでも萵苣は勢いを緩めない。その赤の瞳は、ただ一点を見据えて。 「年末くらいエリューションも休業すれば良いのになあ。まあ役所も仕事納めの後だし気兼ねする必要が無いのは、ある意味助かるんだけど」 「悪いけど、押し通らせてもらうわ」 「鰻川さん、鐘をお願い致します」 小坊主の攻撃は、萵苣に届く事はなかった。計算されつくされた動きで、義衛郎、涼子、リセリアが小坊主の攻撃を受け止め、萵苣の進路を阻ませない。 「年の瀬にお坊さんと駆けっこしたくはないですよ」 発光し爆走する坊主を尻目に、しなやかな七花の指が虚空をなぞる。目の前の小坊主をなんとかしなければ、本当に坊主と追いかけっこをして年を越すハメになりかねないのだ。劈く雷鳴、閃く雷光。狙い澄ませた一条の雷撃が、小坊主を貫く。 そんな味方からの援護を一身に受け、萵苣は撞木を大きく振りかぶった。小柄な萵苣が、全身を使って思い切り鐘を撞く。ごぉぉん、と間延びした鐘の音が夜空に響き渡り、これぞ年越しと言った風情が生まれた。 萵苣は考える。鐘の音を鳴らす者だからこそ考えてしまう事もあるだろう、と。煩悩やら今年一年の反省すべきところやら。世の中は複雑に出来ているのだ。でも、それはつまり。 「反省をすると言う事は成長しようとしている証拠であり、むしろ反省する事が無いと言っている奴は成長するつもりも無いダメな奴なのである。つまり今の僕は向上心に溢れていると言えよう。まったく問題が無い」 何故だか盛大に胸を張り、満足そうに撞木を握り直す萵苣。背後では小坊主が、なんとか彼女を止めようとわたわたしているが、仲間がそれを見事に阻止している。 ……ぉぉん。 遠く、というほど遠くはない距離で、大きく空気を振るわせる除夜の音。途端、廃寺を周回しまくっていた発光坊主の身体がビクリと震える。 「お? どうやら、上手くやってくれたみたいだね」 ユーグの言葉通り、和尚二人は先ほどまでの猛々しさが消え、明らかにパワーダウンしているようだ。ここぞとばかりに、ルーと青も一気に攻め立てる。 「ビリビリ、ドーダ!」 「やっと、狙ったサイの目が出たね」 ガクリと落ちたのはスピードだけではないようで、幾度か挑戦した雷光の打撃も束縛の気糸も目に見えて効果が発揮されている。 が、それでも和尚は疾風のように走る事を止めはしない。空怪は拳を、そして最超は激しくその頭部を光らせる。それはまさしく、日の出の如き閃光。ぶすぶすとその光を浴びた木々が燃え、青の身も熱に包まれる。あまりに激しい光で、目の前にチカチカと星が舞っている。その間隙を縫い、再び最超は青の横を駆け抜けていった。ここまで本能に忠実だと、さすがに頭が下がる。 「大丈夫か、青?」 再びユーグから暖かな光が届く。一言に『光』と言えど、最超の放つ光とは全く別種のものだ。柔らかく安らぎを齎す光は、再び青の持つ夜の眼に覇気を与える。 「助かります、グザヴィエさん」 空怪もまた、ルーから喰らった電光を帯びたまま走り去る。一つの鐘で、ここまで優勢になるとは。 「ルー、ツヨイ!」 決して無傷とはいかない。だが、ルーは満足げに次の周回を待つことにした。状況は、彼女等の有利へと傾き始めたのだ。 ●ハゲ頭は陽光の輝き 夜風を打ち震わす鐘の音が響き続けている。発生源は勿論、萵苣だ。その背後では、激化した戦闘が繰り広げられていた。 小坊主といえどただの木偶ではないようで、一同には幾ばくかの傷が見受けられる。だが、どれもが致命傷とは程遠いものと言えた。そして、彼等とて無策に立ち向かっているわけではないのだ。 背の高い枝に括りつけられたLEDランタンが廃寺を照らす。その光源が作り出した、背の高い影法師が義衛郎と共に剣の舞を踊る。刹那、膾切りになる小坊主。さらに追い討ちをかけるかのように、リセリアの手にする蒼銀の刃から光の飛礫が放たれ、ついに小坊主は闇へと消えた。 残る小坊主は二人。その小坊主に対して、涼子の操る八又の神蛇が牙を剥く。巳年最後の大仕事と言った具合か。 「年の瀬にこんな仕事なんてさ。いつも以上に、笑えないね」 薙ぎ払われた小坊主だったが、気合いを入れなおし、和尚譲りの肉弾戦を仕掛けてくる。ただではやられはしない、そんな気迫が漂ってくるかのようだ。が、しかし。 「すみませんが、私たちも倒れるわけにはいかないのです」 先ほどまで雷光を苛烈に操っていた七花が、打って変わって癒しの風に囁きかける。如何に耐久性に優れている小坊主と言えど、持久戦となってしまってはジリ貧だ。加えて、本来止めるべき鐘撞きをも阻止できずにいる。 狼狽する小坊主の背後で、再び鐘の音が響いた。 その音を聞き、焦りからかそちらに視線を走らせてしまう小坊主たち。チラリとだけ視線を走らせ、戻したその目の前には。 「せっかくだから、そろそろ仕事納めにしておきなよ」 「悪さをしてはいけません、徳が積めませんよ」 義衛郎とリセリア。二人の持つ冷たく輝く刃が迫っていた。 既に二人の和尚は、ズタボロもいいところだった。袈裟は裂け、ハゲ頭からはその身を形成しているであろうモヤのようなものが滲んでいる。最初の頃こそまさに疾風の如くといった速度も、既にジョギングするお父さんレベルだ。 しかし、それでも彼等は走る事を止めはしない。何故なら、今日が12月であるからだ。……と思わなくも無い。 だからと言って、彼等に慈悲も情けもかけるつもりは、微塵もなかった。 「ヒェヒェ、カチコチ、コンドコソ!」 「和尚さん、そろそろ説法も終わりの時間はおしまいです」 ルーと青の二人が、和尚に立ち塞がる。痛烈な攻撃が見舞われるが、燻った和尚たちの瞳に再び光が宿った。 「! 二人とも、気をつけて!」 やや後方から戦場を見通していたユーグが、鋭い声を発する。身構える二人だったが、二人の和尚からの熱くハゲしい光の奔流がその身を飲み込んだ。その輝きは、まさしく太陽の輝き。圧倒的なまでの熱と光が、青とルーを包み込む。あまりのことに、一瞬朦朧としてしまう。 だが即座にユーグから不浄を退ける気が届く。これこそがユーグの戦い。二人が回復する頃には、和尚の姿はなかった。 けれど、耳を澄ませば聞こえてくる猛然たる足音。目を細めればうっすら夜空を彩る無駄に発光する姿。 程なくしてもう一周してくることは確約されているようなものだ。 ルーと青は、再び己の技を閃かせるべく力を込めた。 廃寺に、再び静寂が訪れる。目標であったE・フォースは塵と消え、辺りは闇が支配する夜の世界へと戻ったのだ。 が、その静寂を破るべく再び鐘の音が響き渡る。 「……鳴らし続ける事で救われる何かが和尚さんにあるのかも知れない。せっかくだし108つ、最後まで鳴らしてみようと思います」 「そうですね、彼等が生まれたのは鐘楼が役目を果たせなかったからかもしれないし。新しい年に少しでも良い年である事を願って……」 撞木を振るう萵苣の言葉に、青も頷く。そうだ。今夜はいくら鐘の音がなっても、不思議はなかろう。萵苣から撞木を預かり、ゆっくりと鐘を鳴らす青。青らしい、優しげな音色が響く。 それならば、と。義衛郎もゆっくりと撞木を振りかぶり、ゆっくりと撞く。 「日本国内の神秘事件の解決に励みます」 諸々の事情で海外遠征には行けない彼らしい抱負と言えるかもしれない。少しだけ、晴れやかな笑顔。 「次はわたしが」 涼子が、まるで戦闘中のような気迫を込め、力強く鐘を撞く。一瞬、殺気さえ感じそうなくらいに鋭い撞木の一撃。 「……フィクサードの連中をぶっとばすつもりで、思いっきり撞いてみたよ。なんて、むなしいだけだけどさ」 結局のところ、直接ぶち込んでやらなきゃ、気はすまない。そう考える彼女の闘志は、きっと来年も、その先も消える事無く静かに燃え続けていくのだろう。 「ルーモ! カネ、ツク!」 ざっくりと思いっきり振りかぶり、思いっきり撞くという、とても彼女らしい鐘の撞き方。一際大きな音が響く。 その大きな音に驚いたのか、一瞬だけきょとんとした顔をし、そしてまた楽しそうに笑うルー。 静かに響く鐘の音を、僅かに眉を顰めて七花が聞いていた。 「どうかしましたか? 風見さん」 そんな彼女の様子に気付き、リセリアが声をかける。リセリアも、除夜の鐘という文化は知ってはいるが理解しきれていない部分が少なからずあったのだ。 「あ、いえ。煩悩に溢れているからでは無いのですが……。どうも長く響く除夜の鐘の音は苦手なんですよね。それにしても来年の抱負ですか……なにも浮かばないのがなんとも……」 来年の抱負について真面目に悩む姿を見て、リセリアはくすりと小さく笑う。七花の生真面目さに、なんとなく笑みがこぼれてしまったのだ。 皆が皆、それぞれ思い思いに鐘を撞いている。正しい作法かどうかで言われれば、それは間違った作法なのだろう。だが、それでも皆の顔には笑顔が浮かんでいる。ならば、これはこれで良いのではないだろうか。 強弱がある除夜の鐘に耳を澄ませながら、ユーグは考える。 久方ぶりの除夜の鐘だったが、これはこれで悪いものではないな、と思えた。そう考えるのも、彼の中に流れる日本人の血が原因なのだろうか。 少しだけ笑って、こんな年越しも悪くないな、と素直に思えた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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