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七匹の迷子

●寒さに震えて
『さむい』
 この場所に落ちてきて、彼らが真っ先に感じたのはそれであった。薄暗いこの場所は、彼らが今まで生活してきた場所に比べて気温が低すぎた。それだけならまだ良い。ここには食料もなかった。成長期の彼らにとって、それは死活問題であった。
『おなかすいた』
『ママ』
『さむい』
『さむい』
『ママ』
『ママ』
『おなかすいた』
 彼らは、寒さと空腹に耐えながら必死で母を呼んだ。母ならば、きっと彼らを助けてくれるだろうと思った。しかし、彼らの母は現れない。寒さとひもじさが募る。
 不意に、彼らは自分たちの足元が柔らかい事に気付いた。そっと足元を掘ってそこに身体をうずめてみる。そうすると、少しばかり暖かい事が分かった。彼らは顔を見合わせてひとつうなずくと、各々足元を掘り始めた。先程より深く穴を掘り、身体を潜り込ませる。すると、より暖かい事に気付く。
 意を決して、彼らは穴を掘っていった。より暖かい場所を求めて、各々が別々の場所へ穴を掘っていく。そうして、それぞれが最も暖かいと思った所へ身体を潜り込ませ、身を丸くして寒さに耐える体制に入った。寒さとひもじさが体力を奪い、彼らは次第に眠りの中へと落ちていった。
 ちょうどその頃異変に気付いた彼らの母が、彼らを探して飛んできたことも知らないで――。

●その正体は
「今回の任務は、言ってみれば迷子の救出だな」
 さらりとそう言ってのけたのは、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)だった。ブリーフィングルームの緊張感が崩れ、リベリスタの顔に疑問符が浮かぶ。
「迷子って、一体……」
「迷子と言ってもただの子供じゃない。アザーバイドだ」
 伸暁の言葉に、崩れていた緊張が再びリベリスタたちの間に走る。
「目標は……そうだな、こっちでいうところの幼虫の姿をしたアザーバイド。それが七体だ。それと、そいつらの後を追いかけてきた母親らしき蝶の姿の成虫が一体」
「虫なんか、そう簡単に見つかるのか?」
 幼虫と言われて、小さなものを想像したのだろうリベリスタが問う。
「それなら心配はいらない。目標の体長は30センチメートル前後だ、比較的見つけやすいはずさ」
それに、何食わぬ顔をして伸暁は答えた。その言葉に巨大な幼虫を想像してしまったのだろう、顔色を青くするリベリスタもいた。
「母親の方は、上手くすれば意思疎通が取れるほどの思考能力も持っているらしい。ま、こちらの言語とは似ても似つかないが」
 顔色の悪いリベリスタを意に介さず、伸暁は言う。
「場所は?」
 リベリスタの一人が問うた。
「古紙集積場だ。目標はそこで古紙に埋まっている。D・ホールも一時置き場の建物内にある。健闘を祈るぜ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:EASY ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年02月01日(土)22:16
★STコメント
 こんにちは。初めましての方は初めまして。
 苦手な方は苦手かもしれませんが、迷子の虫さんを探すお仕事です。
 皆さまよろしくお願い致します!

●任務達成条件
 アザーバイド『幼虫』七体と『母親』一体の送還及びD・ホールの破壊。

●場所
 真夜中の古紙集積場です。
 広い建物内に古紙が山と積まれています。
 人気はなく、場所も閉鎖空間なので誰かに見られる心配はほとんど無いでしょう。

●アザーバイド
アザーバイド『幼虫』七体
 体長約30センチメートル。
 色は乳白色で蝶などの幼虫というよりはカブトムシなどの幼虫に近い形をしています。
 寒さのため眠りについています。
 タワー・オブ・バベルの能力があれば簡単な単語での意思疎通が可能です。

アザーバイド『母親』
 体長約30センチメートル。
 巨大な蝶の姿をしています。
『幼虫』を探して古紙集積場内を動き回っています。
 タワー・オブ・バベルの能力があれば意思疎通が可能です。

●D・ホール
 古紙集積場の中央天井付近に存在します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
アークエンジェインヤンマスター
朱鷺島・雷音(BNE000003)
ハイジーニアスデュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
サイバーアダムインヤンマスター
焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)
フライダークマグメイガス
シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ジーニアスデュランダル
羽柴 壱也(BNE002639)
ハイジーニアスクリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
フュリエデュランダル
シーヴ・ビルト(BNE004713)


 チラチラとマリーヌ・ディヴェールの夜空から白い雪が降り注いでいた。
 凪いだ風が一枚の紙を空へと舞い上げ、弄ぶ様にヒラヒラと揺れて暗闇の中に消えていく。
 その些細な色合いの変化に反応したのは『母親』のアザーバイドだった。
 大きな瞳は揺らめいて消えた一枚の紙を視認して、少しだけ落胆の色を見せる。
 けれど、その目に映り込んだ次の色彩は温かい陽ノ色の光だった。真っ暗な異界の地で初めて見た優しい光。
「君の子供たちを探すのを手伝いにきたのだ」
 ゆっくりと近づいて来た陽ノ色の光は『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の首元に付けられたワークライトから発せられたもの。
「貴女は誰ですか? 何故、子供達が居なくなった事を知っているのでしょう。もしかして、貴女が子供達を隠したのですか?」
 異界の地で自分と同じ言葉を繰る雷音に対して警戒心を露わにした母親は、威嚇するように羽を大きく広げて静止する。光に照らされて映しだされた羽は七色のステンドグラスの様に多彩な色を帯びていた。
 チラリ。キラリ。
 母親の眼に複数の光が映る。光を帯びていない者を含めて全員で8人。害敵かもしれない物体が8人だ。
 アザーバイドの七色の羽がシグナル・レッドに変わっていく。『危険信号』なのだろう。
「武器や防具はすべておいてきた! 今回は戦いは必要ない! 俺たちは君たちの敵じゃない!」
 大声を上げて近づいて来た『一人焼肉マスター』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)に対して、タナグラの軌跡が風を切る音と共に炸裂した。
「竜一!」
 肩口から胸に掛けてアガットの赤を吹き上げた竜一。
 それでも、敵意が無い事を証明する為にじっと痛みに耐える。
「俺はただ救うのみ」
「ボク達の仲間は君と、君の家族に危害を加えるつもりはない」
 竜一の言葉を補うように雷音は母親へ優しい言葉を紡いでいく。
「……」
「よかったら、ボク達をたよってくれないかな? この寒い中闇雲に探すのも大変だろう」
 少女は純白の翼を広げて新緑を思わせるマラカイトグリーンの瞳で語りかけた。
「オレはフツ、焦燥院フツだ。お前さんの子供を探すのを手伝わせてもらうぜ」
 サングラスを外してにっかり笑顔を見せたのは『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)だ。
「本当に……探してくれるのですか?」
「ああ、もちろん!」
「任せてくれよ」
 竜一とフツが同時に言葉を乗せる。二人はBoZのメンバーであり信頼しあった相棒なのだ。
 二人の間に流れる清らかな心に呼応してアザーバイドの赤い羽がゆっくりと元の七色に戻っていく。
「ありがとうございます」
 警戒心を解いた母親。安堵した竜一とフツはお互いの瞳を見つめて頷きあった。
 ジェイドの天使が頬を染めながら微笑んだ気がした。
 ――姿かたちは違えども、母親は子供を心配するものなのね……。
 アザーバイドと仲間たちを見守る位置に『揺蕩う想い』シュスタイナ・ショーゼット(BNE001683)は居た。
 彼女の心の中の呟きは一般論的に言えばそうなのだろう。けれど、シュスタイナにはそれが実感できない。母親との記憶は無いに等しいものだったから。
 捨て置かれた身としては少し刺がある光景なのかもしれない。表層に呟く言葉が出てくる程度には。
「よろしくね。疲れたりしたら遠慮なく肩でも頭でも乗っていいよ」
 アザレアの瞳を細めて手を伸ばしたのは『腐敗の王』羽柴 壱也(BNE002639)。指先に止まったステンドグラスの蝶は感謝のお辞儀を壱也に向けた。
「お母さんも見つけたら教えてね」
「ありがとう、異界の方」


「さあて、救世開始と行くか」
 フツのさっぱりした頭がハピー・デイの輝きを放って行く。それはまるで後光の様に神々しく徳が高い。
 彼はディメンションホールの前に陣取って広大な古紙収集所に仏眼を光らせた。
「冬の夜中だし、みんなも風邪ひかないようにね」
 壱也の声に間延びした声を上げたのはシーヴ・ビルト(BNE004713)だった。
 彼女は何やらその場にしゃがみこんで地面の隙間から生えた草に語りかけている。
「植物さん植物さん、虫さんが美味しく食べれる葉っぱですか?」
『こんな場所に生えてるだけで精一杯』
「ふむふむ、抜いてしまうのは可哀想ですね」
 シトロン・イエローの瞳を草から仲間へと向けるシーヴ。
「あっ、話し込んだら遅れちゃうっ。まってまってー><」
 ぱたぱたと軽やかな足音と共に、レヨン・ベールの髪が揺れる。
 追いついたシーヴの頭をぽんぽんと撫でたのは『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)の嫋やかな指先。
 手の中に包まれたいちごのへたを木蓮は小さなフュリエに渡した。
「お腹が空いてるだろうから、これをあげればいいんだぜ!」
「わーっ! 木蓮さん、ありがとうございますーっ」

「迷子の迷子の幼虫ちゃん~っと、あなたのお家は別ですよっと」
 バグダッド・レッドの円錐から童謡に乗せた歌声が聞こえる。
『足らずの』晦 烏(BNE002858)はいつもの癖でタバコに火を着けようとして、一瞬動きを止めた。
 アザーバイドであれ子供には悪影響であるかもしれないそれを懐に仕舞いこんで、烏は歩を進めていく。
「さって、迷子は何処だ?」
 耳を澄ませて聞き及ぶ音は、アザーバイドの軽やかな羽ばたき。それと仲間たちの足音。
 カサカサ。
 視認できる動体ではない場所から聞こえてくる微かな色。それを確かめるように音のした方へ烏は進んでいった。
「この辺か?」
 先程聞こえてきた音を頼りに。もっと聞こえる様に。
 古紙の塊に耳……円錐の被り物をぺたりと着ける。
 トクントクン。
 鼓動が聞こえた。
 烏は眠っているであろう幼虫を起こさぬ様に古紙を押しのけてその姿を確認する。
 AFから取り出した寝袋にそっとアザーバイドを移してストールで隙間を埋めた。
『ふぁ、ママ?』
 ぱちくりと目を開けた子供は乳白色の身体を起こして赤い円錐を見つめる。
 ぷるぷると震え出したアザーバイドは見知らぬ烏を見て怯えているのだ。
「えーと、キャベツ食べるか?」
 目の前に差し出されたペールグリーンの葉っぱに、お腹が空いていた事を思い出した幼虫はぱくりと食らいつく。
『おいしい』
 無心に食べている隙にと、烏は寝袋ごと子供を抱えて仲間の元に運ぶのだ。

 虫、は正直好きじゃないけれど……。命を消すお仕事じゃないんだから、喜んで働くわ。
 シュスタイナは広い古紙の山を見つめて熱源を探していく。
 足音を立てないように少し浮きながら見逃さないようにゆっくり飛行して、周りの温度より少しだけ高い場所があるのを見つけた。
「こんなところに居たのね」
 深い場所に沈み込んだ幼虫を傷つけないように少しずつ紙束を崩して後ろへと置いていく。
 ふわりと包み込んだお布団。アザーバイドは夢心地でシュスタイナの腕の中に揺れていた。
 ゆっくりと浮上していく少女の翼はマリーヌ・ディヴェールの夜空に溶け込んで見えない。
 それでも、帰る場所は分かるのだ。
 収集所の中心で光り輝く仲間の姿がここからよく見える。彼に向かって飛んで行けば、迷わずに辿り着けるのだ。
 それは遊び疲れて帰路に着くと見る暖かな『家』の光に似ているのだろうか。
 シュスタイナには分からないけれど、この手の中の子供には帰るべき場所がある。
「もうすぐ、皆にあえるからね」

「母ちゃんがすぐそこまで来てるぞ、皆出ておいでー!」
 木蓮が暗視ゴーグルを着けたまま声を上げる。整然と並べられた古紙の山をダークグリーンの陰影が覆っていた。
 収集所の片隅にたどり着いた木蓮は周りと明らかに違う一山を見つけた。
「むむっ! これは」
 覗きこんだ穴の中にはクリーム色をした幼虫が健やかな寝息を立てている。
 ふふっと微笑んだ木蓮は優しく子供を掬い上げ、翁印のもふもふ毛布と布団のセットの中に包み込んだ。ふわふわの寝心地に深い眠りに落ちた幼虫は木蓮に抱えられながら運ばれて行く。
「カイロも貼れば暖かいよな」
 直接幼虫の身体に触れないよう注意しながら、ぺたぺたと掌サイズのカイロを貼った。
「あー、もしもし。木蓮です。一匹見つけたぜ!」
『おお、これで三匹目だな、良い調子だ』
 AFの通信から聞こえてくるフツの声は電子に乗ったものだとしても徳高く響く。
 木蓮は聖母の様に子供を抱きかかえ、収集所の中央へと足を向けた。
 モゾモゾ。
 暖かさに眠りから覚めたのか、クリーム色の子供が彼女の腕の中で身動きをする。
 クリケット・グリーンの瞳でその様子を見つめていた木蓮はお腹が空いただろうと花を幼虫の前に差し出した。
「こんなのしかなくてごめんな、あとで母ちゃんに美味いもん一杯食わせてもらうんだぜ」
 真っ黒な目を瞬かせた子供は目の前の綺麗な花を小さな口で食んで行く。
『わあ! あまくておいしい!』 
 言葉の伝わらない彼女にでも幼虫が喜んでいるのが分かった。

「う~、紙がいっぱいっ。むむむっ、森の中なら植物さんに聞けたのにっ><」
 シーヴが古紙の上を軽やかな足取りで進んで行く。この場所は収集所の中でもかなり奥まった所であった。地面すら見えないこの場所に草木が生えてあろうはずもない。
「少しづつ除けたらいいのかなぁ?」
 懐中電灯で辺りを照らしながらシーヴは闇雲に探していく。
「うー……見つからないっ。でも諦めずに頑張るっ」
 ぐっと拳を握りこんで一番高く積まれた雑誌の上によじ登った。
『シーヴ、そのまま真っすぐ! そこから1メートルくらい行って、左に曲がったところに幼虫がいる!』
 AFから聞こえてきたフツの声。
「えっ、ほんと? どれどれっ、うんしょ、うんしょっ! あ! 居たよーっ!」
 お布団六点セットで幼虫をゆっくり包んだシーヴは、すっかり起きてしまった子供に木蓮から貰ったいちごのへたあげる。
「ちゃんと食べられるかなぁ……? うん、いいこいいこーっ。可愛い良い子っ」
 小さな頭をよしよしと撫でるシーヴ。
「うーん、ちっちゃい動物と同じで可愛いのに苦手な人居るの不思議っ。結構感覚違うのかなぁ?」
 ねっと幼虫を見つめながら彼女は首をかしげた。


「こんな冬の寒い中に迷子になったのは可哀想なのだ。ボトムの冬はいまが一番辛い時期だ」
「そうなのですか? 私達が居た場所はとても暖かかったので少々この寒さは堪えます」
 暖かな陽ノ色で少し高い場所から辺りを照らしている雷音とその側に母親のアザーバイド。
 この場所からだと地上には壱也と竜一が見えた。
「それにしても素敵な羽だな」
 雷音は七色に輝くアザーバイドの羽をじっと見つめる。
「そうですか? 貴女の羽も綺麗ですよ」
「君の子供も大きくなったらそんな風に綺麗になるのかな? それを見ることがかなわないのは少し残念だが」
「いずれ、子供達も巣立つ時が来るでしょう。その時、もしかしたらこの場所を再び訪れるかもしれません……あ、子供達の声が聞こえる」
「え? この近くだろうか?」
「はい。どうやら、三匹が固まって身体を温めあってるようです」
 母親の声を受けて、雷音は地上に居る壱也と竜一の元へと舞い降りた。
「雷音ちゃん、子供達見つかったの?」
「そうみたいなのだ。この近くに居るらしい」
「そっか、じゃあ私、透視してみるね!」
 アザレアの瞳を大きく開いて辺りの古紙の山に意識を集中させる壱也。
 右前方に三匹の大きな幼虫がモソモソとみを寄せあっているのが見える。
「あ、居たよ。あそこの雑誌の山の中」
「よっし、行くぜ! いっちーとらいよん」
 駈け出した竜一は壱也に示された方向を見やり、熱感知で居場所を見出した。
 しかし、彼等の前には巨大な古紙の山が立ちはだかっている。
 魔法や武器で払いのけてしまえば簡単に崩せてしまうであろうそれを手作業で解いていくのは時間がかかるだろう。
 それでも、子供達を傷つけてしまってはいけないから、竜一は指先に小さな切り傷を残して行く紙達を手で除いて行った。
 紙の中にはホッチキスの芯やラミネート加工されたものも混ざっているのだろう。
 雷音や壱也の細い指先にも幾筋ものアガットの赤が滲んでいた。
「わたし透視って初めて使ったんだけど、案外見えるものだね」
 壱也の瞳には子供達の姿がはっきりと見て取れる。手の届きそうな位置にいるのに行く手を阻む無機質なモノが邪魔をする。
 ステンドグラスの羽がひらひらと束になった少年誌を持ち上げて別の場所に移動させた。
「私も手伝います」
 母親なのだから。子供達を助けるのは当たり前のこと。たとえ、それが自分と同じサイズの重たいものであっても持ち上げてみせる。

「よっと、見つけたぞ!」
 竜一が穿たれた穴に手を突っ込んで引っ張り上げた。ミルク色の幼虫を受け取った壱也はお布団の中に抱き込む。
「この子たちって、やっぱり名前あったりするのかな? お母さん、この子なんて名前?」
「ふむふむ。壱也、その子はカティと言うそうだ」
「かわいいね、白くてもちもちしてる。寒くない?」
 壱也は自分の巻いていたマフラーでカティを包み込んだ。彼女が持つ暖かさに子供は擦り寄る。
「これで全員かな? まだ見つかってない子いる?」
『いや、残りの子は全員俺の側に居るぜ!』
 収集所の中央に神々しく輝く彼の元に他のメンバーも集まっているようだ。
「じゃあ、戻るか」
「そうだね」
「ありがとうございます。本当に何とお礼をしたらいいか」
「気にしなくていいのだ。これがボクたちの仕事なのだ」
 ゆっくりと歩を進める3人とアザーバイドたち。竜一は途中で起きてしまった幼虫の頭を撫でて敵意は無いことをアピールする。


「お、帰ってきたぜ!」
「みなさん、おかえりなさいーっ!」
 ダーク・ヴァイオレットの境界線の前、烏が出した軽自動車の中に敷き詰められたボムボートと布団のミルフィーユ。その中に埋もれる幼虫達はご飯を美味しく平らげ、布団の中に潜り込んでいたのだ。
「お布団セットって便利よね。まさかこんな用途で使う事になるとは思わなかったけれど」
 シュスタイナがペール・ホワイトの子供を撫でながら呟く。
 彼女の行動をじっと見つめる母親に、少し表情を緩めて向き直った。
「危害は加えないわ。ちゃんと貴方達の居場所に帰してあげる」
 直接は伝わらない言葉かもしれないけれど、自分の感情は伝わると思うから。

「……6、7匹。全員居るな」
 フツがアザーバイドを抱えた仲間の数を数えて行く。
 ボトムチャンネルに転がり落ちてきた彼等とお別れする時間がやってきた。
「もう少しお話はしていたいが、子供たちを起こすのも可哀想だろう。もとの世界にもどったから今度は迷子にならないようにきをつけるのだぞ」
「はい。ありがとうございました」
 雷音が母親に声を掛けてお布団に包まれたままの一匹をディメンションホールの中へと解き放つ。
 白い羽を振ってサヨナラと挨拶をした。
「立派に大きくなってね」
 シュスタイナは手を振ってダーク・ヴァイオレットの境界線に幼虫を置く。
 この穴はすぐに向こう側へと消えてしまうものではないらしい。二匹の子供達が母親や兄弟が来るのをまだかと穴の中で待っていた。
「きっと綺麗な蝶になれるぜ、向こうでも頑張れよ!」
 木蓮は自分が見つけ出したミルク色の子供の頬をぷにぷにと突いておくりだす。
 ――きつい色彩の幼虫はさすがに怖いけど、この子らは綺麗な色してるからそんなに怖くはなかったな……。大きくなったら母ちゃんみたいな蝶になるのか、将来が楽しみだ!
 ふふふ、と微笑んだ木蓮。つられて笑うのはシーヴだ。
「もうはぐれちゃダメですよ? ふふふー、一緒が一番っ。おかーさんみたいに育つのですよっ」
 抱きかかえてぎゅうと抱きしめた幼虫をゆっくりと下ろす。
「今度は暖かい時に遊びにおいで。ピンクの花が咲くんだけどすごく綺麗だよ。元気でね!」
 壱也は元気よく子供と母親を送り出した。
「もう子どもたちを離さないようにな。気をつけていけよ」
 最後はフツが前に出て母親と子供に語りかける。
「今はちゃんとカーチャンにしがみついてないとダメだぜ。んで、大きくなったらカーチャンをおんぶしてやるんだ。お前達全員でやれば、カーチャンも楽できるだろうぜ」
 子供達はきょとんとしてから意気揚々と『まかせて!』と言い放った。
「本当に、ありがとうございました。異界の方々、どうかお元気で」
『ばいばーい!』
 シーヴが目を閉じて手を翳せばダーク・ヴァイオレットの境界線が解けて収束していく。
「みっしょんこんぷりーとっ、いぇーい」

「よしよし、らいよんにシュスたんにシーヴも。三人ともお母さんの事を思う年ごろだろう。母親にはなれないが、お兄ちゃんにはなれるよ。遠慮なく甘えてくるといい。」
 小さな少女達を纏めて腕の中に閉じ込めて頬ずりをしだした竜一。
「りゅ、竜一がお兄さんなのは構わないがっ!」
 その気持ちは嬉しい。けれど、頬ずりしなくてもいいだろうと困惑する雷音。なすがままのシーヴ。
 冷たい目線を投げつけるシュスタイナ。
「さて、寒いし帰ろっ。……って、何してんのかな竜一くん!」
 ゴッと良い角度で壱也の拳が竜一の背中に食い込んだ。
「もう、寂しがり屋さんなんだから、さあ、いっちーもおいで!」
 むぎゅむぎゅ。
「ぎゃー!!!」

「いや、蜘蛛とか百足とか足の数の多い虫じゃなくて良かったわ」
 懐からタバコを取り出した烏は一服しながら一言呟いた。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
長らくお待たせ致しまして申し訳ございません。
代筆にてもみじが書かせて頂きました。
気に入っていただければ幸いでございます。