● クリスマスケーキあります! 簡単に書かれた言葉を見て、「わぁ、パーティでもやるのかな?」なんて浮かれた気持ちになった『恋色エストント』月鍵・世恋(nBNE000234)が三高平学園の体育館に足を踏み入れた瞬間に後悔した。 「ぶへっ」 外見美少女(実年齢25)に有るまじき残念な声を出した世恋はその場で立ち止まる。 今日はクリスマスイヴだ。折角のクリスマスだ。 学生は冬休み、社会人は年末の追い上げ時期。そういえば、今年は九連休の人もいるらしい、だなんて『年末』の浮かれた頭でクリスマスパーティの誘いに乗った月鍵は自分の現状を考える。 ――私、何してるんだろう? 真顔である。 折角のクリスマスなのに、真顔である。 ● 「あっ! あのさ、クリスマスなんだけど、暇っ?」 乙女ゲームのキャラクターよろしく声をかけてきた『槿花』桜庭 蒐 (nBNE000252) が差し出したチラシには『クリスマスケーキあります!』とだけ書いてある。 首を傾げる『君』であるが蒐はにやつく頬を抑えて「どう? 暇?」と本題に入る前に執拗に聞いてくる。 「あ、大丈夫。夜はカップルで過ごしたりすれば良いし! 昼間だよ、昼間」 きらきらと輝く水色の瞳に『君』は一歩後ずさる。 それはその筈だ。訳も分からずに執拗に予定を聞かれて不審に思わない人は居ないだろう。 「あー、やっぱり言わなきゃ来てくれないか」 む、と唇を尖らせる高校生男子に話の続きを促せば、渋々「えっと」と口を開く。 「投げない?」 ――主語が、ない。 訳が分からないと『君』が蒐の顔を見つめれば満面の笑みだ。 どうしようもない程に微笑んでいる蒐に『君』が背を向ければ「待って待って」と騒がしく呼び止められる。 「クリスマスって恋人同士とか家族できゃっきゃウフフしてるじゃん? 俺さ、こう『リア充とか羨ましいっすね!』って気持ちになってきて、つい……」 俯き気味、呟く言葉には不穏な気配しか感じられない。 こういった季節イベントに全力ではしゃぐ月鍵(25)を普段から窘めている男子高校生は何故かこのイベントに対しては全力投球の予感だ。 「ケーキ焼いたら焼き損じてもったいないスポンジにクリーム塗ったらいい感じだった。リア充達がきゃっきゃうふふするって思うと、男子高校生としては無性に悔しさが浮かんできて、つい、思ったんだ――パイ投げしようぜ!」 用意したから! とはしゃぐ蒐が指定したのは三高平高校の体育館だ。 「あ、普通のケーキも用意したし、お菓子もあるけど、折角だから、投げようぜ! 全力投球だ!」 これ、詳細だから、と『遊びのしおり』と書いたものを『君』に手渡して犠牲者探しに出かけて行った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月07日(火)00:15 |
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● クリスマス。乙女が胸を高鳴らせ、街は色めくそんな日に。 「さあ、『お祈り』を始めましょう。リア充を滅する神――世恋様――のシ者となりて」 何やら不穏な空気を纏ったシエルが優しげに目を細めて片手にケーキを構えている。 そう、今日はクリスマス。街に感じる空気も何処か違う。煌めくイルミネーションに赤と緑の装飾が目に付くそんな、お祭りの日。 キリストの誕生日だとか、カップルの日だとかそんな事は関係なく。 「神の敵には『ケーキ塗れ』を以って天誅を!」 その場所にはケーキが飛び交っていた。 「なになに? パイ投げとか面白いことやってるって? アイドルとしては乗らない訳には行かないな! 任せろ!」 撮影は事務所を通してから! ヘソ出し、ノースリーブ、セクシーサンタコスチュームに身を包んだご近所系アイドル・明奈ちゃんの登場だ。 「し、白石部員。成程……これがパイ投げ! テレビでしか見た事無かったけど、ちょっと楽しそ―― えっ? サンタの格好しなきゃいけないの? え? 別に良いけど……って何これ!?」 「部長もミニスカワンピースサンタ貸して……胸が、キツいだと!?」 胸元を抑えてスカートの裾を握りしめ、半分泣きそうな顔をした美月を見るなり明奈ちゃん、そっとケーキを手に取った。 震える美月が「うう……スースーする……と、兎も角パイ投げを……」と顔を上げた所、 「わぶっ!?」 ――顔面に飛んだ。 「きゃはははっ!」 けらけらと笑い続けるケーキ投擲の主、マリアの死角に存在した十三代目。 のんびりお茶をしようと足を踏み入れた体育館にマリアの姿があったからにはグレイプニルになるしかなかった。 「ふむ。マリアが居るなら仕方がないがモンペは程々にな。私は傍で見て居ようか」 「ももももももも、もんぺちゃうからな!?」 影人を庇い手に存在させて――椿が逆上して暴れても問題だ、とついでにマリアの庇い手にもなっている――ユーヌはのんびりと一人で優雅なティータイムを楽しんでいる。 「お? 向こうにマリアを狙ってるやつが居るぞ?」 「何やて!? どこや!」 流石は十三代目。パイ越しに顔面に極道拳を放つ鬼畜っぷりを発している。 モンスターペアレントな椿に適当な指示を出しながらユーヌは茫と会場内を見詰めていた。 「モンペしてる方が鬼の組長っぽいな?」 もしも娘に何かの危機が訪れたらその時は紅椿組一同で潰しにでも行くのか。末恐ろしい……。 「マリアマリアマリア! ケーキはマリアのものーー!」 げらげらと笑い声を漏らす『クレイジーマリア』を手招いたのは杏樹だった。 これまた明奈や美月と同じ様なミニスカサンタ。シスターもクリスマスには大サービスと言う訳だろうか。 「スパッツ穿いたけどな」 残念――! 年末特別番組スペシャルとでも言った感じか。ケーキを手に杏樹が地面を蹴る。 身に纏ったのは月の女神の加護。投げる攻撃(ケーキ)が淡く輝きを帯びて居る。 「さて、全力で行こうか、風斗」 「お祭り騒ぎには全力で参加し、全力で楽しむ。それがオレのスタイル……! 例え相手が女子供ミニスカサンタであろうとも、全力で向かってくる者には全力を持って返すのが礼儀! オレに向かってくる者たちよ! 来るなら来い! 受けて立t……ぶっ!?」 顔面で受け止めた風斗が肉体のリミッターを外し、戦闘態勢に入る。 何処を見てもミニスカサンタが迫ってくる! (――おいおい、楠神風斗。一人だけ良い格好しようなんて、そうは問屋が下ろさないぜ?) (――新田さん、来てくれたんですね! 貴方が居れば100人力だ!) 風斗と快の視線が克ち合った。二人とも口では「ミニスカサンタ」と告げていたが、心は一つ。 詰まる所、「的は楠神部員だn……ぶぶっ!?」と言った訳だ。美月はそれでも全力で的だった。 FF――ふぁいなるふうと。成程、風斗さんが的とあっちゃあ参加しない理由がありませんね! と言って反撃はある、と。あの人の根性と火力は結構洒落になりません。では小狡く行きましょう。 怪盗で20代女性姿に、胸も増し増しで。げっへっへ、これであのムッツリ反撃し難くなる筈! 以上、うさぎの考えた理想である。 「ぐ、ぐぬぬ、いかん。何ですか、この戦場……想像を絶するにも程が……!」 歴戦の猛者であれどこの戦場(パイ地獄)には恐れを為すか。 飛び交うケーキやパイの中を駆けるうさぎ、投げつけたパイを反射した快(ラグナロク)。 「さあ投げて来いよ。投げれば投げた分、自分もクリーム塗れだぜ?」 「みゃー!? お顔が白いのでべたべたぁ~っ……」 あざといにも程がある。メイが顔についたクリームを拭い、可愛らしいミニスカサンタ服の裾を翻す。 じわり、と大きな瞳に涙を浮かべて、メイが頬を膨らませる。 「メリークルシミマス……」 え? 今、なんて……。 突如、輝きだす現場。メイの放ったジャッジメントレイ(イルミネーション)が見事に風斗へダイレクトアタック! 「攻撃じゃないよ、ぴかっと光らせて盛り上げようとしただけだよ!」 パイを片手に走り出すメイを掠めるケーキ。シューターの維持か、杏樹が投げた物は輝きながら顔面を狙っている。 ケーキを反射し、頬に付いたクリームを拭う杏樹に快がにやり、と唇を歪めて見せた。 ミニスカサンタだ。ミニスカ。ミニスカサンタがクリーム塗れとはなんとエロティックなのか。青年誌ではちょっとドキドキ描写がみられる可能性があるわけで。これには流石に妄想も捗りますね。ミニスカサンタだらけのパイ投げですからね。 「そう、セクシーサンタはワタシ一人でいい……倍返しならぬパイ返しだ!! いつぶつけるか! 今でしょ!!!!!」 声を荒げる明奈。いやはや、流行に乗るアッキーナ女史の流れ弾は見事に美月にHit! 健康的な小麦色の肌が眩しい。流石はアイドル、魅せる所を知っている。全力で投げ続けるパイは男子も女子もお構いなしだ。 明奈弾に被弾した杏樹がクリームを拭い口に含む。食べ物は粗末にしないという意思の表れだが……。 「普段は控えめな杏樹さんが、あんなに大胆に。これも冬のせいなのか」 べちゃ、と顔についたクリームを拭い、快が全力で振り被る! 「あわギャッ」 何故か、美月にあたった。 「ぐぐ、こ、これは一筋縄じゃギュぎゃっ!?」 ずるん、と滑って自分の顔面にHit! なんと美味しいのか! 色んな意味で! 「助けっ」 Hit! 「ひゃギャッ!?」 更にHit! 「ぢゅ!!?」 ――さてさて、白熱するパイ投げの中、メイが呪詛を吐きながら投げ続けている。 素敵なサンタ達が狙いを定める風斗はと言えば。 「……しかし、パイ、か。パイまみれ……パイがいっぱい……パイパイ……」 べしゃん。良い音を立てながら風斗の顔面にケーキがシューートッ! 「不穏な空気を感じたぞ」 「不穏だわ」 パイがいっぱい。パイパイ。はい、復唱。楠神君が変なこと言ってますよ。パイがいっぱい。 パイが降り注ぐ中、パイを手に、うさぎが走り出す。夜駆け鳩は伊達じゃない。 「こうなったら死なば諸共! 直接組みついて顔にパイを擦りつけてくれる!」 そのまま抱き着いてホールドすれば、他のパイも反撃できない! 捨て身の作戦を胸に、うさぎはダッシュ。だん、と地面を踏みしめて一気に跳ね上がり―― 「行きますよ!」 「って、ちょっ、うさ――!?」 ● べちゃ、と音がする。顔面でパイを受け止めた世恋がふるふると震えている。 「リア充めリア充め月鍵さんなんて初恋もまだですよリア充め」 「ええ、世恋様。天誅致しましょう。何処に放てばもっと効果的でしょうか?」 ケーキフェザード(EP消費:0 神遠複 追加BS:[ケーキ塗れ]、追加:[ダメ0]) 何故かシエルが考え出したケーキ投げの術――言っているだけだがそれっぽいので実に強そうにみえる――が全力でリベリスタを襲い出す。 弾幕世界、ではなく、ケーキ世界が敵(さんかしゃ)全てを包み込む幻想がそこにある。 「ふふ、怖いですか?(暗黒微笑)」 何かに乗っ取られているのか。晩春に人生を革命でもしてしまったのか。ミリィの笑みが深くなる。 思わず何か『イケナイ衝動』に襲われているミリィが首を振り、パイを片手に振り被る。 「お姉様、パイ投げですよっ! 覚悟っ!」 「ぶひゅ、」 クリーンヒット。折角のクリスマスなのだからと呪詛を吐く世恋に楽しい気持ちをお裾分けの心算で全力投球したのだが、見事に顔面にあたっていた。 このフォーチュナ、運動神経が皆無なのかという位に顔面で受け続けている。 「シエルさん! 今よ! ケーキフェザードっぽいの!」 「ええ、行きますよ? 受けて下さいませ――私はリア充を滅する神のシ者!」 ――ケーキフェザードがない? なければ作るのがリベリスタでございます! byシエル・H・若月―― 飛び交うケーキを逃れる様に身体を捻り、亘はチッキー(七面鳥)と連れ添ってパイ投げへ参戦。 無駄にスタイリッシュな様子の亘とチッキー。亘がスタイリッシュなのは頷けるが、チッキーまでスタイリッシュであると妙に面白可笑しく見える。 「御機嫌よう、あーちゃんさん。予想以上の激戦です。宜しければここは一つ共同戦線といきませんか?」 「ああ、亘さん。一つ手を貸してくれよ」 ケーキ片手に頷きあう。背中あわせに相棒感溢れるタッグプレイは正に少年の夢である。 とん、と肩が触れ合った。敵は、目の前にあり! 「はっはっはー! リア充どもめ! 須らくパイの餌食になるといい!」 フランシスカのパイ弾幕が降り注ぐ! 彼女が投げ続けるパイが亘の頬を掠めるが、反撃と言う様に背後から蒐が顔を出しパイを振り被る。 「こういうのはド派手にやるのが一番なのだ! さあ、どんどんいっ!?」 「とつげきーなのだっ!!」 チコーリアの可愛らしい反撃が見事にフランシスカの顔面にぶち当たる。可愛い顔してやる『きゅうけつおやさい』だ。 七面鳥に跨ったチコーリア。この為に動物と五感を共有する術まで身に付けた。その頑張りには流石と言うしかない。 懸命に地面を蹴る七面鳥。乗るチコーリアが両手のパイを懸命に投げ『撃墜王』を狙っている。 「……美味しいじゃない、これ……っじゃない!? よくもやったなこの野郎! 野郎じゃなくても野郎!」 お返しだと言わんばかりに振り被る黒風車の少女。チコーリアを乗せた七面鳥が急ブレーキを決めて避ければ。 「ぶへっ!?」 「お、おねえさ、ま……」 見事に世恋の顔面にぶち当たる。流れ弾の様子にミリィが背を逸らして小さく笑った。 折角のクリスマス。「初恋もまだなのにわたしなんてかみさまなのに」等と供述する月鍵(25)の手を引いて「一緒に楽しみましょう?」とミリィは世恋を誘っている。 世恋がやる気になったなら蒐にパイをぶつけよう。そう決めるミリィの闘志は段々と漲り出す。 体中についたパイを食べながら「おいしい……」と呟くフランシスカが何かに反応して身体を逸らす。 「よく避けたね……」 パイを携えた涼子に身構える。 カップルも一人身も関係ない。人も七面鳥も関係ない。 運は覚悟を選ばない。誰にも恨みはないけれど―― 「ハッ、全員そろって最低のぐちゃぐちゃにしてやる。誰もかれもが最低になればわたしだって笑えそうだ」 「こ、こわっ!?」 涼子の瞳に宿った光りに思わず主催(あかね)も身震い一つ。 ケーキをぶつけたいという衝動を言葉にしただけだったらしいが、涼子が言うと何故かリアリティを感じる。 「みんな小奇麗でいるより、誰かがぐちゃぐちゃになるより、全員そろって最低になったら、いちばんゆかいだと思うんだよね」 「そりゃ、そうよね!」 ぶんっ、とフランシスカの振り被ったパイが涼子目掛けて飛んでいく。避けることなく、パイを受け止め、全力で投げ返せば、クリームが辺りに散らばっていく。 「一人残らずパイぶつけ殺すッ! 呪詛? 愛? そんなモン知らねェよォ」 パイを手にコヨーテが走り出す。何故か七面鳥に突かれながら蒐目掛けてパイを投げ付けた。 ヒュッ――パイを投げてるのか分からないような速度で飛び込んだ物体。 流れる様に飛び交うフランシスカ弾幕を避け、コヨーテがドヤ顔をキメて振り被る。 「コヨーテさん……」 「へへッ、お前ェとは一度闘り合ってみたかったンだ……」 ドヤ顔のコヨーテと伊達眼鏡の蒐の視線が克ち合った。緊張の瞬間に、背後から狙いを定めてきたチコーリア(合言葉は「倍返しするのだ。おいしいのだ!」)を相手に亘がチッキーと共に善戦し続けている。 「例え友達だろうとオレは容赦しねェぜ、この戦場に立ったヤツは等しく戦士だッ! 覚悟はイイか? 遊ぼうぜェ、どっちかが倒れるまでなッ!」 ● 飛び交うパイの二次被害を受けながら雷音はせっせせっせと優しいお兄さん目掛けてパイを投げて居る。 「た、たまにはこういうのもいいかと思って」 偶にははしゃいでもいいかな、と優しいお兄さんこと竜一を眺めてみれば、楽しげに笑みを浮かべて居る。 雷音がはしゃげるのなら良いことだ。が、勝負は非情だ。手抜きせずに全力で竜一も闘おう! ほのぼのと戦ってる雷音と竜一だが、その別の場所は死地と化して居るのだから――! 「ふはははは! らいよんを俺の手で真っ白に染め上げてぎゃーーーー!?」 「えいっ! えいっ!」 ……容赦ないのはどちらだろうか。 せっせせっせと投げる雷音のパイが竜一の顔面に見事に的中している。 「くっ! らいよんを白く甘くべとべとにしてやる!」 「わわっ! は、反撃かっ!」 クリスマスは無礼講。その一心で全力で投げる雷音の黒い髪も白く染まっていっている。 へら、と笑う雷音が羽をぱたぱたとさせていれば、その羽目掛けて、だだだと走り込む巨体が一つ。 「七面鳥っ!? りゅ、竜一、ヘルプなのだ! 七面鳥が怖い顔をしてるのだっ!?」 「ターキー怖いっ! よ、よし! 肩車だ! ぐわー!? 痛いっ! 痛いっ!?」 「りゅ、竜一!」 執拗な嫌がらせと言わんばかりに懸命に突き続ける七面鳥。痛い痛いとぴょんぴょんと跳ねる竜一の方の上で捕まりながら雷音が可笑しそうに笑っている。 「……はぁはぁ……やつらめ……闘う者の顔をしておったわ……大丈夫か、らいよん……」 「うむ、竜一のお陰だな」 ぐったりとした竜一が雷音の頭を撫でつつ、告げた「メリークリスマス」。 良い話しだなぁ、で終わりにならないのがこの結城竜一だ。 「雷音ぺろぺろぺろぺろぺろぺろぺr」 べしゃぁっ! 「うびっ」 顔面についたクリームを拭う世恋の元へ仁はゆっくりと歩みより手招いた。 ハンカチで世恋の顔を拭いながら、お茶でもどうかと誘えば、世恋は「ケーキ!」と食欲全開で頷いた。 「ま、なんだ。愚痴くらいなら付き合うぞ。毒を吐く位なら全て吐き出してしまえ」 「いや、なんていうか、リア充め、って気持ちになりまして」 紅茶を口に含みながらケーキを眺める世恋に仁は頷いた。用意されたケーキは蒐や世恋が一緒に作り上げたものらしいのだが、失敗作は舞台下を飛び交っている。 「……美味い、相当練習を重ねた様だな」 「美味しいでしょうっ、あーちゃんと一緒に作ったんですよ」 えへんと胸を張る世恋に頷きながら仁の頬も緩む。やはり、月鍵は笑っていた方がいいと頷く仁を余所にケーキ自慢が始まっている。 折角のクリスマス、楽しく過ごした方が勝ちだ。 けれど、的になって居た世恋は何の不幸癖か、華麗にケーキが飛んでくる。 「月鍵、悪いが少し席を離れる。仏の顔も三度までという言葉を奴らに教えてくる」 「な、なんですって……!」 私も応戦するわ、と立ち上がった時、世恋の顔面に華麗にケーキがヒットした。 「……がんばって~」 「ふぁいとー♪」 舞台上、喫茶店チックに飾られたそこは戦場から離れて、優雅な一時を味わえるようになっている。 のんびりとした声を掛けてシナモンの風味が何処か味わい深いミルクティーを口に含む。 チャイ風味のそれは身体を暖かくさせ、糾華の唇に浮かんだのは小さな笑み。 「いっぱいのケーキ! いっぱいのケーキ! ケーキ、ちょうたべる!」 「いっぱいのケーキではしゃぐだなんて、旭さんは子供ねぇ」 ショートケーキ、レアチーズ、タルトにショコラ、マカロン、大福。 テーブルの上に置いてあったのは其れだけでは無い。おかきやポテチも用意されている。 「……い、いっぱい、ねえ」 思わず糾華も同じ言葉を繰り返す事となった。 女の子は甘い物なら別腹だ。美味しいと頬を抑えて笑みを浮かべる旭に糾華も小さく笑って机の上のケーキを取り分けていく。 「イチゴショートにモンブラン、ガナッシュショコラとかも素敵ね。 ベリー類のムースとか、酸味があるものもアクセントがあって好きよ」 「おおー! おいしそう! ちょうたべる!!」 きらきらと瞳を輝かせる旭に糾華は小さく微笑んだ。「食べよー!」と思わずはしゃぐ糾華の前でフォーク片手に旭がふるり、と手を震わせる。 「カ、カロリーなんてきにしない。だってクリスマスだもんね。サンタさんにお願いするの」 「そっか、気にしてるのね、旭さん」 「う……だ、だって……」 やはり女の子。カロリーを気にするのは仕方がないことか。お気に入りのスカートが履けなくなったらショックであるし、何より可愛く居たいのは女性のサガか。 「スニッカさんが、スニッカさんが何とかしてくれるの……! 『どうか、今日のカロリーをなかったことに』って……! さ、いっぱいたべよぉ♪」 これにはスニッカさんも驚きだ。糾華も一緒に念じて居る中、あまりカロリーを気にしない彼女に旭が羨ましそうにむぅと頬を膨らませた。 「あざかさま、太らない体質なの……?」 壮絶なパイ投げ合戦を横目にゆっくりとお茶をしたい魅零はテーブルの上にケーキを積み上げる。 「マジで全部いくの!? 多過ぎない!?」 「ぜーんぶ食べるよ、大丈夫。夏栖斗くん食べれなくても魅零が食べるよ!」 可愛い女の子とデートなのだがらエスコート、と定番のショートケーキを手に振り返った夏栖斗があんぐりと口を開けて居る。 用意した紅茶はまだ熱い。机に置く事が出来ないからとティーカップは夏栖斗の掌に収まっていた。 「大丈夫大丈夫、さ、甘い物は別腹であって、女子は甘い物好きだよ……んー、おいしー!」 「マジでいい食いっぷりだなあ」 普通のクリスマスを過ごしてるとうんうん頷く夏栖斗を横目に魅零がにまにまと笑っている。 生クリームの味が丁度良く、口の中に広がる甘味に思わず笑みが浮かんでくる。 「いやぁ、美少年目の前に甘い物食べるって最高ですな~!」 「あ、クリーム、顔についてるよ」 ほらほら、と頬を指差す夏栖斗に魅零が眼を丸くして「え? どこどこ!?」と慌て出す。 沢山食べたら太るなんて紳士として口に出せない言葉は呑み込みつつ、「こっちこっち」と笑う夏栖斗は「ふええええっ!?」と大仰に慌てる魅零に小さく笑う。 年上の魅零の子供っぽさには思わず笑みが浮かんでしまうのだが、『子供っぽい』だけが魅零ではない。 「あっ! 夏栖斗くん大変!! 服の中、胸の間にケーキのカケラが落ちちゃった、取って!」 「胸っ?!!! いや!? じ、自分でとって! 服! 染み付いちゃうから早く!?」 魅零の遊びに慌てて心臓の鼓動が速くなる。手が伸びそうになるその衝動を抑えて「耐えろ、耐えろ」と念じ続ける夏栖斗の邪な心を注意する様に何処からがパイが顔面へとぶち当たった。 「おお! ケーキがとんでる! もったいない! まだ食べれなくもない! ぴよーーーー!」 同じく顔面にぶち当たったとしても比翼子は満足そうだ。もぐむしゃ。美味しい美味しいと飛び交うケーキを食べて居る。 「ほらやっぱり! むしゃむしゃ。うまいっ! 何か大きなものを失った気がするが……美味しければいいのだ! そう思うだろう、同胞七面鳥よ! なに? 同胞が危機? どこだどこだ、どーこだー」 ――同胞の危機は少し遡る。 「こんにちは、世恋。メリークリスマス」 「やっほー、メリークリスマス世恋ちゃん!」 目を丸くするレンと賑やかだねと笑う悠里。 その声にビクリと肩を揺らせた世恋の肩にぽん、と触れて笑ったのは悪魔の使者――ではなく火車。 「オス伝説! 包丁研いでっかぁ!」 「で、でたな……!」 身構える世恋に向けて飛んでくるパイを身を張って受けとめた悠里が「ぎゃ」と鈍い声を上げる。 賞賛するレンの傍で「伝説の腕……大事にしろよ! 国宝だろ!」と火車が世恋の肩を叩いている。 伝説を越えて国宝になった月鍵(25)。 「じ、実は団地の人からクリスマスだからって七面鳥を貰ってね」 「団地の人、なんなの!? 漁師だったり猟師だったりするの!?」 「おお、でけェ! ソレはまさか……アイツ……!?」 火車とレンが悠里の抱える七面鳥を見つめている。 ここからダイジェストでお送りしよう。 拡大解釈された七面鳥の大きさはと言えば、 「全長3m! 体重3トンを超える超弩級鳥類! 噂では捕獲に向かった調査団を強靭な脚から繰り出される打撃で延々とツッパネ最終的には戦車すらもその嘴で粉砕してきたと言う陸の主!」 「あの有名な調査団が全滅したと言う噂の鳥類……! 世恋はこんなものまで軽く捌いてしまうというのか……。やはりひと味も二味も違うな、世恋は。 さすが伝説と言ったところか。 俺はまた新たなる伝説の瞬間に居合わせることができたのだな!光栄に思うぞ!」 「ええええええええ!? まってええええ!?」 適当な鳥類情報ではあるが、実際がどうなのかは触れないでおこう。 白目を向いている月鍵の様子なんて気にならない。凄いと輝く瞳のレン。 この瞳を裏切る事なんて出来ない――けど、目の前にいるのは鳥類だ。 「世恋ちゃん程の腕になるとこの時期に七面鳥なんて捌き飽きてると思うけどお願いできるかな?」 ――鳥類だ。大事なので二度言いました。 「やあ設楽悠里くんとゆかいな仲間たち! 無垢なる涙が落ちる音がした! あたし参上! なになに何してるの? とり? あたしと身長同じくらいあるじゃんやだ細マッチョのイケメンじゃん」 「おや、こんにちは。凄いぞ、歴史に残る伝説の技だ。見て行って損はない」 同胞の危機(?)に駆け参じた比翼子が七面鳥と白目の世恋を見詰めて首を傾げて「ぴよ?」と鳴いた。 「あ、比翼子ちゃん。今から世恋ちゃんが七面鳥を調理してくれるいんだけど、見ていかない? 凄いよ!」 「へ? 調理? ケーキじゃなく? なにを?」 首を傾げる比翼子。首を傾げたくなる私。けれど、七面鳥は待ってはくれないのでした。 包丁を握りしめた世恋が「うぎい」と美少女(外見)有るまじき声を発している。 暗転。 「えっ包丁を…? あっ。 あっ。 おい馬鹿。やめ…やめろ!! あ……あーー! と、とり……そんな手際よく……」 「う……ぅむ……流石は伝説。まるでプラモをパーツ毎に分けるかの如く、だぜ……」 暗転。 「また……守れなかった……」 がく、と膝を付いた比翼子。同胞が、同胞が……。 「ほふ~~、ことしもいろいろあったけどもうすぐ2014ねん!」 ホイップたっぷりのホットココアを飲みながらケーキを眺めてミーノが尻尾を揺らして居る。 「本当に、色々あったわね……。パイ投げをのんびり眺められるのも皆が頑張ったから、ね……」 マシュマロを入れたココアは美味しい。甘さ控えめのそれに那雪が小さく頷きながらケーキを見詰めて眼を輝かせた。 「ふおぉぉぉぉ~~ケーキたくさんっ!! どれにしよっかなどれにしよっかな」 「やっぱりイチゴは外せないと思うのよ……」 ショートケーキ、チョコレートケーキ、レアチーズ、ミルフィーユにアップルパイ。 那雪セレクトを取り分けて振り返れば、先に席に戻って居たミーノは手当たり次第にケーキをもぐもぐ。 口元にべったりとついたクリームに小さく笑った那雪が「じっと動かないでね……?」と優しく拭いてやればミーノはキリッとした表情で「たべるの!」と那雪にもケーキを勧め出す。 「ん、これでばっちりなの……。また、いっぱい、食べれるわ……」 イチゴショートケーキを食べながら、美味しいと微笑むミーノに那雪がこてんと首を傾げて見せる。 「ミーノさんのお勧めは、どれかしら?」 「これ!」 近くで白熱した戦いがあるけれど、ゆっくりまったりも偶には良い。 しあわせな時間をのんびりと。 その頃、クリームに塗れ茫然としている『伝説』の隣で膝を付いていた鳥は。 「……おぼえたぞ」 「ひっ!?」 ぞわり、と『伝説』の背筋に何かイヤな気配が走ったのだった。 ――Merry Christmas! |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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