●敵を知るために リベリスタは日々、様々な敵と戦っている。予測不能の進化を遂げたエリューション。意思無き脅威アーティファクト。この世界の範疇にすらないアザーバイド。そしてそれらと同様に、力とフェイトを得ながらもそれに従わないフィクサードが存在する。 仁蝮組をはじめとする連合も記憶に新しいだろう。彼等程の規模と力量ではないにしろ、フィクサード集団は他にも存在するだろうし、いずれそれらと衝突する日も来るかもしれない。 そして何より、様々な敵種の中でフィクサードはリベリスタと共通する点が極めて多い。ゆえに―― 「訓練です!」 どことなく熱の篭った声で、天原和泉(nBNE000024)はそう宣言した。 決定的な一点、『思想』という面を除けば、フィクサードとリベリスタは戦闘力として同条件と言えるだろう。つまりアークのリベリスタが協力すれば、実際に近いフィクサード戦のシミュレーションが可能なのだ。 危険無く経験が積めるほか、敵であるフィクサードの立場に立つ事で見えてくるものもあるだろう。 ●そして味方を知るために 「では、詳細を説明致します」 自前らしきゴーグルを装備し、和泉が説明を続ける。 「フィクサードがある要人の殺害を企てている事を察知、我々アークはその状況を利用してのフィクサード殲滅を依頼します」 そういう状況を想定、という事だろう。 「『リベリスタ側』は依頼に従い、現れるフィクサードを殲滅してください。逆に『フィクサード側』の目的は、対象である要人を殺害し、自らが生きて帰る事になるでしょう。 戦場としては山間部にある廃屋を使用。中に要人の居る廃屋を挟み、それぞれ逆方向からのスタートとなります」 敵の情報は、言うまでも無いだろう。今ここで顔を合わせている内の誰かが敵になるのだ、自分の目で見た方が早い。 「人払い、負傷者の治療などはこちらで責任を持って行います。ですが、特に最後の一撃はやりすぎないよう気をつけてください。 ……せっかく舞台を準備したのですから、有意義な訓練にしてくださいね?」 お膳立てのおかげで実戦に近い戦いはできるだろうが……飽くまでこれは訓練だ。フェイトを削るような事態は避けなくてはならない。 そして準備にはそれなりに予算がかかっているのだろうか、そう言う和泉の目は笑っていなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ハニィ | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年08月05日(金)22:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●訓練 開始の合図と共に、真っ先に動いたのはリベリスタ側だった。静かに、かつ迅速にフィールド中央の廃屋に向かい、敵に接触することなく中へと入る。急遽それらしく整えたのであろう廃屋の居住スペース、その安っぽいテーブルの所に『要人』は居た。 普通なら突然の侵入者に「何だお前らは!?」等のセリフが出るのかも知れないが、今回の要人は人形である。砂を詰め込まれた抱き枕のようなそれは、無言のままリベリスタ達を出迎えた。 「さて、それでは予定通り……」 熱感知で相手側の突入に備えつつ、『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が仲間達に目配せする。 「要人の方にはご協力願いましょう」 ウーニャとは反対に表口側を警戒しながら、『シャドーストライカー』レイチェル・ガーネット(BNE002439)がそれに頷いて応えた。 「よーし、任せてよ」 人の重さの人形を担ぎ、『臆病強靭』設楽 悠里(BNE001610)が悪巧みでもしているような表情で倉庫側へと向かう。フィクサードに狙われる要人を部屋のド真ん中に鎮座させたままでは何かと都合が悪いのだ。 「……ハードワークになりそうだな」 倉庫奥へと避難する要人を見送り、『隠密銃型―ヒドゥントリガー―』賀上・縁(BNE002721)がそう呟く。訓練とはいえ、フィクサード役に回っているのは実戦経験豊富なメンバーだ。アークのリベリスタとしては『駆け出し』である彼にとってはなかなか歯応えのある状況と言える。 そしてもう一人のアークの新メンバー、『紅翼』越野・闇心(BNE002723)は室内を見回し、倉庫から居住スペースまで一通り視界に収めていた。索敵というわけではなく、彼女なりの戦場把握だ。天井は3mとはいかないまでも、標準的な高さがある。飛べなくもないだろう。 戻ってきた悠里と共に、リベリスタ側のメンバーは扉を守るように布陣する。後は、敵を迎え撃つだけだ。 リベリスタ側が襲撃に備えている間、攻守で言うなら攻める側、フィクサード役の3名はどこかのんびりとスタートを切っていた。 「向こうはそろそろ終わったかのう?」 『泣く子も黙るか弱い乙女』宵咲 瑠琵(BNE000129)が軽く背伸びをするように廃屋を眺め、後ろの二人に尋ねる。攻守の取り決めは事前に交わしてあるのだから、のんびりして見えるのも当然と言えば当然なのだが。 「せいぜい首を洗って待っているが良いさ」 「準備するだけ無駄って事を教えてやるぜ、ヒャッハー!」 完全に役作りを終えた『悪のフィクサード』、ラキ・レヴィナス(BNE000216)と『狡猾リコリス』霧島 俊介(BNE000082)がそれぞれに応じる。リベリスタとして戦う普段とは違う立場に立てる、フィクサード側はある種貴重な体験をしているのだ。 「突入ルートはわらわに任せるのじゃ。さーて……?」 仲間達に結界の守護を纏わせ、瑠琵は値踏みするように目を細める。熱源感知能力と持ち前の直感を駆使し、最適なルートを探り出す。 集中を高めたラキを先頭に、彼等は行動を開始した。 言うまでもなく、ここからが本当のスタートである。 ●状況開始 表口二つと裏口を見張り、どちらから来ても倉庫への扉は守れるようにと身構えるリベリスタ側。だが熱感知を以って気配を探っていたウーニャが警句を飛ばしたのは、もう一つの進入経路。 「窓!」 全員の目線がそちらに向かい、破砕音が戦いの火蓋を切って落とす。窓を割って飛び込んだラキに続き、俊介が廃屋へと転がり込む。 「此処であったが100年目ェ!?」 せっかくのセリフの語尾が不自然に上がる。敵の突入タイミングに合わせて放たれたレイチェルの気糸が、俊介の頭上を掠めていったのだ。偶然生まれた一瞬の差。その結果、気糸が絡みついたのは窓枠に乗ったばかりの瑠琵だった。 「いきなりなんじゃあああぁぁ!?」 悲鳴が窓枠の向こうに消えていくのと同時に、悠里が立ち上がる前の俊介へと襲い掛かる。冷気を纏った右腕は、しかしブロックに入ったラキによって阻まれる。 「はっ! 随分と必死だなァ、正義気取りのリベリスタが!」 機械化した腕で拳を受け止め、ラキが咆える。キャラ作りのせいもあるだろうが、持ち前の喧嘩っ早さが表に出たか、反撃の一撃には荒ぶる闘気が漲っていた。 「実戦前に試させてもらうぜ!」 荒覇吐。群れ為す蛇を髣髴とさせるそれは、しかし悠里がその身体を以って受け止める。濁流となる前に塞き止められ、流れは他を巻き込む事無く潰える。 「これが噂の……!」 「でも、聞いてたほどじゃないね」 陣形が散開気味だったのも幸いした。感嘆の声を上げるウーニャに、悠里が笑って付け加える。実際のところ一撃の重みは洒落になっていないのだが、彼が精一杯強気に笑う事で他が生きるのだ。 「よーし、遠慮なくいくわよー」 ウーニャの放ったカード、そして悠里がラキを抑える内に駆け寄った縁のブラックジャックが俊介を襲う。 「ちょ!?待ッッ!?」 「待たない」 いきなりの集中攻撃にうろたえる俊介。そこにテーブルを飛び越え、低空飛行した闇心がデスサイズを閃かせる。 「くそっ、俺ばっかり!」 決定的な当たりこそないものの、真っ直ぐとしか形容しようのない闇心の突撃で意図は十分に伝わったようだ。 「回復役が狙われるのは当然だよ」 「彼女さんの許可はもらってるからねー。安心して倒れて?」 「何それどういうこと!?」 どこもかしこも敵だらけ。だが俊介には少なくとも二名、頼もしい味方が付いている。トラップネストによる麻痺から早々に復帰し、顔を出した瑠琵が彼に癒しの符を貼り付ける。 「うろたえるでないぞ。まだ標的を見てもおらんではないか」 そう、彼女の言うように標的の人形の姿は見えない。こんな段階から俊介に倒れられては困るのだ。 「簡単にはやらせませんよ!」 「ああ上等だ! 十年早ぇって教えてやるぜ! ひゃっはー!」 神気閃光。調子を取り戻した俊介のそれと、威力に劣るものの正確性に勝るレイチェルの閃光が交錯する。光は両軍を薙ぎ、何人かの目を眩ませる。 そしてその間隙を縫い、濁流の如く蛇が舞う。その真価を発揮したラキの荒覇吐が俊介に接敵していた縁と闇心を呑み込んだ。 「どうしたリベリスタ。その程度か?」 致命的とはいかないまでも大打撃を被った二人に、『手強いフィクサード』は挑発的に告げる。 「……もちろん、まだだよ」 目を眩ませながらも縁が気を吐き、応じる。戦いは、まだ始まったばかりだ。 ● 倒れかけた二人を一旦下がらせ、ウーニャが癒しの符でカバーする。リベリスタ側の方針は変わらず、天使の歌や浄化の鎧等回復手段が豊富で、しかも放っておけば高威力の神気閃光を撒き散らす俊介への集中攻撃だ。しかし本人の回復能力もさることながら、適時フォローに入る瑠琵の存在が攻略を難しくしていた。 「行きます!」 レイチェルの放つピンポイントの攻撃は、狙った俊介の眼前で瑠琵に受け止められてしまう。 先程のような癒しの符はもとより、直接的に行動を庇い、時には氷の雨を降らせて体力と攻め手を同時に奪う等、器用な振る舞いは敵としては厄介としか言いようが無い。 フィクサード側も神気閃光によるショック状態を起点とし、状態異常を重ねて畳みかけたい所だが、それは今のところどちらも上手くいってはいなかった。 こういう場合、綻びは回復手段が尽きるか、回復が間に合わなくなった時に起こる。今回の戦闘では後者だった。 度重なる全体攻撃はリベリスタ側の五人を同時に撃つ。それをウーニャ一人でカバーするのはやはり無理がある。 何よりも彼女自身が倒れるわけにはいかないのだ。戦況そのものがひっくり返ることを考えれば、倒れかけた味方よりも、ラキのピンポイントで撃ち抜かれた自身の回復を優先させざるを得ず―― 「成る程、隠し場所はそんな所か」 悠里の行く手を遮りつつ、ラキが不敵に笑う。その言葉は勿論はったりに過ぎないが……言われた悠里がはっとした時には既に遅い。彼の頭を過ぎった光景を、ラキはリーディングで読み取っていた。 「ん、白鳥……?」 「……行かせない!」 だが読み取ったそれをラキが消化する前に、闇心が『何かを守るように』意思を持って飛び退る。 ――ラキがつられてそちらを追う間に、ウーニャは自身の傷を癒す。リベリスタとして。そして、目的のために。 瑠琵の生じさせた氷雨が止まぬ内に、レイチェルの放つ神気閃光が俊介と瑠琵を正確に射抜く。タイミングが良いというべきか悪いというべきか、照射された光をまともに見てしまった二人がその目を覆う。 直後に俊介が、天使の歌でなく浄化の鎧を選んだのは、ショック状態からの復帰を図っての事だった。瑠琵の回復を優先したのも、今までの流れでは当然の事。しかしその中に、飛んでくる火力の頻度に油断はなかっただろうか? 例えば、全体攻撃に苛まれてまともに動けていなかった者が、回復を捨てて前へ出てきていたら。 「俺なんか眼中に無かったか?」 それは命取りになり得る。縁の銃口から発されたのは、弾丸ではなく漆黒のオーラ。至近距離で放たれたそれは俊介の頭を大きく揺さぶる。 「……やってくれおる」 呼び出した鴉を縁の頭に止まらせ、瑠琵が渋面を作る。 「……そんな馬鹿なッ!この俺様が……ッ」 致命の攻撃を喰らった俊介は、上体の定まらない様子でぐらぐらと揺れている。このままでは…… 廃屋自体は大して広くもない。増大する違和感に苛まれながらも、ラキはすぐに闇心に追いついた。傷だらけの彼女が守るように立ったそこ……居住スペースの端の一角は、先程のリーディングで見た光景とは似ても似つかない。 「嵌められたか」 誘導されたと勘付いた彼に、闇心が喰らい付くような勢いでラッシュをかける。手傷を負わせる事には成功するが、それだけではラキを倒すには至らない。 一方攻撃を受け止めたラキは、フィクサードらしい台詞を読み上げるように尋ねてみせた。 「あいつが影でどんな事やって来たと思ってやがる? それでもアイツを守るってのがテメェらの正義なのかよ」 「……!」 闇心の行動は、勝利のためというよりは守護のためという意味合いが強い。だがその理由は、『守りきれないのは何だか悔しい』という曖昧なもの。ゆえに彼女はその問いに対する答えを持たない。 「じゃあ、それは次の宿題だな」 ロッドの先をぴたりと彼女の鼻先に止め、ラキはリベリスタの顔に戻ってそう告げた。 ● 悠里の魔氷拳をまともに喰らい、俊介を庇いに入っていた瑠琵の身体が凍りつく。 「ちっくしょう!」 最後の足掻きとばかりに天使の歌を奏でた俊介の頬を、一枚のカードが掠めて過ぎた。 「そこまで、ね?」 したり顔のウーニャの声を聞き、『倒された』俊介はその場に崩れ落ちる。大げさな倒れ方は演技半分、実際の疲れがもう半分といったところだろう。 「ま、がんばった方じゃろ」 「しょうがねぇ、ちっとそこで休んでな」 瑠琵と合流したラキが倒れた俊介を見遣り、メンバー中最も『痛い』役を担った彼にそれぞれ労いの言葉を投げる。 「標的の位置は分かってる。すぐに終わるさ」 すぐに戦闘態勢に戻ったラキは、そう告げつつピンポイントで倉庫の扉を破砕する。そう、そこで標的を殺し、逃げ果せればそれで終わる……が。先程リーディングで見た光景がそこにあった。 「何じゃ、あれは……」 「……こういうことか」 「スワンボートだよ、見たことくらいあるでしょ?」 思わず呆れたような声を上げたフィクサード側に、悠里が胸を張って応える。倉庫の中は、彼が幻想纏いで運び込んだボートが所狭しと置かれていた。 多少の障害にはなりこそすれ、押し通るのに問題は無いだろう。だがやはり見た目のインパクトは相当だ。 「ま、どっちにしても僕が倒れるまで通れると思わないでよね!」 倉庫への扉の前には悠里が立ち塞がり、レイチェルとウーニャがその後方へと回る。前へ出て畳み掛けるという手も無いでは無いが、対するラキの荒覇吐を警戒すれば自ずとこういう選択になるだろう。 一方のラキとしては、消耗の著しいあの技はなるべく効果的に、可能ならば後衛二人に叩き込みたい。だが、肝心のもう一人は…… 「これはこれで、涼しくて良いかもわからんのぅ」 「……」 伏兵も居らず、回り道も奇襲も難しい。戦況は、どろどろのどつきあいへと突入し―― 「あっはっは、悪いね!」 「殲滅、完了ですね。お疲れ様でした!」 顔面を腫らした悠里と、その後ろでレイチェルが勝利を宣言する。最後に立っていたのは、リベリスタの側だった。 ●状況終了! 「それでは皆さん、『反省会』に参りましょう」 訓練は終わり、それぞれの治療と後片付けも済んだ。そして彼等はレイチェルの号令に従い、場所を変えての反省会へと雪崩れ込んでいった。 「どうせなら憂さ晴らしにぱーっとやれる所が良いのぅ」 「ま、まぁまぁ」 とどめの一撃を思い出してやさぐれた表情を浮かべる瑠琵に、その一撃を浴びせた張本人である悠里がとりなすように言う。その様子を笑って観ていたウーニャが、ふと思い出したように声を上げる。 それは、訓練企画中の雑談で出た話。 「そう言えば覚えてる? 『反省会は負けた方の奢り』って」 「はて。そんな話じゃったか?」 「いいね。なら僕は寿司が良いかな」 そらとぼける瑠琵をスルーし、落ち着いた様子の縁が希望を述べる。 「俺貧乏学生なんで、任せた」 「なぁに、給料払いって手もあるさ」 旗色の悪さを悟り、逃げようとしていた俊介の首根っこをラキが捕まえ、その後ろに糖分に飢えた目の闇心が続いた。 「私はあんみつか善哉が食べられるならそれで良い」 寿司と甘味という難しい注文に蛇行しつつ、彼等は反省会という名の打ち上げに向かう。 本当の反省はまた明日から。今は、休息の一時を。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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