●世界を敵にする決意 「お前は将来男子にも負けない立派な剣士になれる。弛まぬ努力と修行を積んで正義の為に剣を振るんだ。心配はいらない、お前は俺の娘だ。生まれ持った才能とその努力で他の奴らを見返してやれ」 父が昔私に言ってくれた言葉を今でも覚えている。道場の剣技大会で同じ年の男の子にひどく負かされてしまって私は悔しさのあまり涙を滲ませた。 体力の違う男子に負けたのが悔しくて仕方がなかった。私のほうが毎日彼らよりも練習しているのに力ではどうしても勝てなかった。 毎回一回戦で力負けしてしまっていた私は剣術をやめようと思った。所詮女子は男子には敵わない。いくら技術を磨いても力には勝てないのだと。 私が道場の娘だということも問題を大きくしていた。道場の娘なのにいつも一回戦でまけていた私を彼らは陰で揶揄した。強くて当然のはずなのに負けるとは余程才能がないのだと言われたのである。私はそれを耳にしてショックを受けた。 もう剣術なんてやめてやる。私は試合後に父に思い切って言った。 その瞬間、私は頬を殴られていた。気がついた時、頬を抑えた手からうっすらと血が滲んでいた。父は私に向かって怖い顔でその言葉を私にくれたのである。 あれから私は覚醒してリベリスタとなった。それまでの日々は決して平坦な道のりだったわけではない。まさに辛い修行と鍛練の繰り返しだった。 幾度の負けと修行を繰り返して私はいつしか負けなくなっていた。挫けそうな時はいつもあの父の言葉を思い出して困難な局面を乗り越えてきた。 その父がフィクサードに襲われたと聞いた時は血の気が引いた。もう命はどうしても助かることもできずにもって数日だという。 私はある一つの任務を終えたばかりの帰宅中にそれを聞いた。私はその時敵から回収したばかりのアーティファクトを握りしめた。 もしかしたらこれを使えば父を救えるかもしれない。もちろんそれはリベリスタとしてやってはいけないことだった。だが、私にとって父は掛け替えのない存在だった。 たとえ世界を敵にしても私は父のことを救ってみせる。 私は仲間を裏切ってアーティファクトを持って逃走する決意を固めた。 ●忠孝の理 「任務中にリベリスタが敵から回収した危険なアーティファクトを持って逃走したわ。彼女を止めて一刻も早くアーティファクトを回収または破壊してきてほしい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が緊迫した面持ちでブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに状況を伝えた。 逃走したリベリスタの名は神谷菫。年はまだ若いが剣の実力は確かでこれまでに多くのフィクサードの剣使いを切り伏せてきた実績を持っている。 正義感に強く曲がったことが嫌いで一途な面を持っていた。仲間や出身の道場の後輩たちからも慕われている存在だった。 その菫が任務中に回収したアーティファクトを持って行方をくらました。フィクサードに襲われて瀕死の状態に陥った父を助ける為だ。 プロテクター型のアーティファクト「オーキンジャー」は生命力を活性化させる機能を持っている。だが、それと引き換えに身につけた本人のフェイトが失われてノーフェイス化が進行してしまうという代物だった。 「たとえノーフェイスになっても最愛の人が生きていて欲しいという気持ちは親を想う娘の気持ちとして理解できないことはないわ。けれど、そんな危険な代物をアークとしては野放しにしておくことはできない。さらに父の重蔵はすでにその防具を身につけさせられているみたい。早くしないとノーフェイスになって取り返しのつかないことになる。何とかして彼女たちの暴挙を貴方達の手で止めてきて欲しい。辛い仕事になるかもしれないけど、同じリベリスタである貴方達のいうことなら聞いてくれるかもしれないわ。それじゃ、くれぐれも無理しないように無事に帰ってきてくることを祈ってる」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月31日(火)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●泥沼の道 林の中は深い藪で覆われて足元が泥濘んでいた。獣が通る細い道が奥に続いている。時折獣達の吠える声が聞こえた。見渡す限り木々に覆われて視界が悪い。この先にあるはずの神谷道場の姿はまだこの場所からは見ることができなかった。 早くしなければ道場の神谷重蔵師範が娘に装着されたアーティファクトによってノーフェイスにされてしまう恐れがあった。一刻の猶予もないリベリスたちは意を決して道場が存在している林の中に足を踏み入れた。 「つばさのーかごー! みんなこれでだいじぶっ!」 表情を引き締めた『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)は先を急ぐ仲間のために翼の加護を与える。付与を貰った仲間たちが一斉に飛び上がった。長いピンクのツインテールが可愛らしく揺れる。遅れないように懸命に後から追いかけた。 すぐに戦闘指揮を発動して仲間を援護できる態勢を整える。口唇を固く結んで必死になって仲間の状況を分析する。ミーノは意気込んでいた。仲間が最大限の能力を発揮できるように惜しみなくサポートを展開するつもりだ。 お礼を言って真っ先に飛んだのは『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)だ。風で飛ばされないよう帽子を押さえる。フリルのついた豪奢なスカートをはためかせて奥へと飛んだ。大きく澄んだ瞳をいつになく強張らせている。 辺りを警戒しながらすぐ後ろを『現の月』風宮 悠月(BNE001450)が追う。ブーツを履いた長い足で藪を払い除けて道を作る。千里眼で敵のいる場所を確認すると相手は直ぐ側の木の上から攻撃の機会を伺っていた。 「気をつけてください。敵は木の上にいます!」 その直後に敵の閃光弾が頭上から襲ってきた。悠月の注意にいち早く気がついたリベリスタたちが咄嗟の判断で攻撃から身を交わす。 バラバラに散らばったリベリスタをチャンスとばかりに敵の回復手がマジックアローを放つ。聖骸闘衣を纏って『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が敵のいる場所に派手に躍り出た。義弘は攻撃を受けて一瞬顔を顰めたが堪えた。 義弘が奮闘している間に道場へ向かうリベリスタ達が脇をすり抜けていく。何とか攻撃を食い止めた義弘だったが、今度は接近してきた敵のレイザータクトの振り上げた剣で斬られてしまう。 「いっくよーーー! ちょう! ませんこーーー!」 すぐにミーノが大声で叫んで漆黒の禍々しいオーラーを撃ち放つ。背後から撃たれた敵はようやく義弘への攻撃の手を止めて後退した。 「がんばろうねっ! ふぁいっおー!」 ミーノが癒しの吐息を施すと義弘は歯を食いしばりながら立ち上がる。 たとえどんな風になっても大切な人に生きていて欲しい、その気持ちは自分も同じだった。だが、リベリスタである以上それを看過すべきではない。たとえそれが最愛の恋人であっても――義弘はそこまで考えてメイスを力強く握りしめた。 再び剣を振り上げてきた敵に義弘は覚悟を決めた。一歩も引き下がろうとしない敵に中途半端な攻撃はかえって逆効果になる。 敵は命を捨てて決死の思いで振りかぶってきた。義弘は敵の動きを察知して寸前のところで交わす。横から腹を十字に切り裂くと敵は血を噴きながら倒れた。 ●喜劇の終幕 林が開かれるとそこには神谷道場が静かに佇んでいた。大きな入口の扉には屈強な身体をもつ道場の門下生が剣を構えて立ち塞がっている。林の中をすり抜けた『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)と『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)が先頭に立って鋭い得物の切っ先を敵に向けた。 「生憎と加減は苦手でな……悪いが、押し通る。この先に用がある」 拓真は素早く左足を踏み込むと刀を思いっきり突きつけた。油断していた門下生は拓真の剣を捌ききれずに後ろに吹き飛ばされる。宗二郎も他の一人を抑えるために斬りかかった。激しい応酬が繰り広げられて敵味方の血が櫻のように辺りに舞い散る。 宗二郎は腹に一撃を食らって苦しんだ。だが、後ろで突破を狙っている仲間のために何としてでも食い止めなければならない。身体で敵の剣を止めて踏ん張る。 拓真と一緒に戦っていて不意に何故か懐かしい想いに駆られた。自分の知らない心の奥底の感情が訴えてくるが、今は思い出に浸っている場合ではなかった。 宗二郎は奇抜なピエロの仮面を付け替える。感情を入れ替えて大鎌を振りかぶる。 ノーフェイスになっても大切な人に生きていて欲しい。 大切な人との死別というのは辛いものだ。 けれども、それは許されることではないことも、そして、どういう結末を招くのか。彼女はわかっていたのだろう。 ならば、掛ける言葉はない。幕を下ろす手伝いをするだけだった。 「──さて、終幕をはじめようか。アンコールは存在しない。これ以上の喜劇は必要ない。ここがラストシーンだ」 宗二郎はようやく身体を後ろに引いた。敵が追いかけて前進する所を狙って反撃する。漆黒のオーラーを纏った渾身の一撃が周りの敵を巻き込んだ。 「たとえどんな風になっても大切な人に生きていて欲しい、その気持ちは分かるつもりだ。だが、それでいいのかね……。親父さんだって、俺達やお前さん達のように、リベリスタだろうに、な」 外の敵を片付けた義弘も加勢してメイスで殴りかかる。堪らずイージスは血を吐いてその場に突っ伏してしまった。ミーノも傷ついた宗二郎たちを援護して回復を施す。 仲間のリベリスタたちは宗二郎達が奮闘している間に道場を破って中に進撃していた。中では神谷菫と明神弥太郎が待ち構えていたように剣を抜き取っていた。 「貴方たちに邪魔はさせない。ここから一歩でも動いたら斬るわ」 菫はガンブレードを突きつけて吠える。 「どんな手段を使ってでも大切な人を失いたくない……その気持は痛い程分かるわ。けどね、それが理に反する事なら、必ずツケが返ってくるわ。『リベリスタ』である貴女なら、その意味を理解してるでしょう? ……納得はしていなくても、ね」 『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が菫たちに電撃を纏った鎖を放つ。一瞬、菫は表情を苦しそうな表情を見せたが、すぐに顔を横に振る。 シルフィアの後ろに隠れていた『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)も背後から銃を突きつけて弾丸をぶっ放す。 クリスは黙って菫たちに銃口を向け続けた。自分から話すことはない。菫はすべてをわかった上でそれでもあえて破滅の道を歩もうとしている。ならば自分にできることは、忠実に任務を成功させることのみだった。 菫が堪らず対抗してガンブレードから弾丸の雨を降らして反撃に出る。シルフィアとクリスが狙われた。悠月がそうはさせまいと長いスカートを翻して前に立つ。 菫は物資透過で先回りして襲いかかった。悠月は察知して後ろを素早く振り返る。 自付で強化した腕でガードして剣を弾き飛ばした。 態勢を崩された菫は後退した。その間に傷ついたクリスをシルフィアが癒しの歌で回復させた。クリスは重蔵を狙い撃ちする素振りを見せてけん制する。苛立った菫が集中力を乱す。不意を付かれて悠月に四色の魔光の光を浴びせられて苦しんだ。 ●世界を守る在り方 弥太郎が剣を抜いて菫たちに加勢しようとした時、アンジェリカが壁際をよじ登って斜め上からの態勢から突っ込んだ。気がついた弥太郎が咄嗟に目標を切り替えて襲う。 アンジェリカは大鎌で弥太郎の剣を受け止める。激しい火花が散って両者は衝撃のあまり後ろに弾き飛ばされた。壁に激突したアンジェリカはうめき声をあげる。弥太郎も壁の穴から身体を起こしてすぐにまた剣を素早く繰り出した。アンジェリカは攻撃を大鎌で受け止めて必死に抵抗する。弥太郎の自在な動きに翻弄されて反撃ができない。 クリスはアンジェリカを助けるために援護射撃を放つ。背後から嫌がらせのように狙われて集中力を乱した。その隙にアンジェリカが勢い良く前に飛び出す。 「貴方は間違ってる!」 アンジェリカが大声で弥太郎を叱り飛ばした。不意を突かれた弥太郎は攻撃を避けきれず腹に強烈な一撃を食らって口から血を吐いて壁にぶち当たる。 「何が間違っている……僕は師範を死なす訳にはいかないんだ」 「確かに貴方にとって重蔵さんは大切な人かもしれない。菫さんは尊敬すべき先輩かもしれない。だけど貴方は今回の事を自分の頭で考えてみた? 貴方達がしている事は重蔵さんの人としての尊厳を奪う事にしかならないんだよ! このままだと重蔵さんは記憶も、理性も失ってしまう。貴方は師匠をそんな存在にしたかったの? 自分で考えずに盲従するだけなら子供にだってできるよ!」 弥太郎は頭を抱えて激しく頭を振った。今まで師範の為にと戦っていたが、アンジェリカの言葉にもしかしたら間違っていたのは自分かもしれないと動揺する。 身体はともかく心に大きなダメージを受けた弥太郎は喚きながら頭を何度も畳にぶつけて苦しがる。アンジェリカも傷ついていた。フリルの裾が破けて白い太腿が覗いている。 その時、宗二郎が入り口の敵を倒してアンジェリカを助けに入った。 「……お喋りな奴は嫌いだ。すべては剣で語れ」 宗二郎が弥太郎を吹き飛ばして叫んだ。 「今のうちだ!」 アンジェリカは大鎌の柄を強く握り締めた。人として死ぬことができないかもしれない重蔵のために怒りを込めて死の大鎌を振り回す。 光とともに一瞬で五つの残像が弥太郎を襲う。弥太郎も反撃に剣を繰り出したが、アンジェリカの攻撃のほうが相手に早く叩きこまれた。 弥太郎が地面に倒れ込むのを見たシルフィアが好機とばかりに重蔵の元へ走る。 「貴方が神谷重蔵師範ね。初めまして……私は貴方と同じリベリスタの者よ」 シルフィアはハイテレパスを使って心に呼びかけた。重蔵は朦朧とした意識の中にあって理解しているのかわからない。それでもシルフィアは言葉を続ける。 「リベリスタの先達として戦場を駆け抜けた貴方なら、アーティファクトはどういう物か、分かるんじゃないかしら? 体は既に死に体だとしても……魂までは屈さない。それが世界を守るリベリスタの在り方。……そうではなくて?」 重蔵は微かに目を瞬かせた。苦しそうに藻掻きながら何かに戦っている。 「世界を……そして貴方の娘を守るためにも、ほんの一握りの力を貸して欲しいの。一言だけでいいの。貴方の娘に、貴方の魂を伝えてあげて。間違った路を突き進ませない為にも……!」 シルフィアはうわ言を呻きながら暴れだそうとしている重蔵を渾身の力で押さえつける。その隙にクリスが重蔵からアーティファクトを脱がせにかかった。 ●何が為に振るう正義 「父を死なすわけにはいかない。邪魔するものは全員殺す!」 菫がアーティファクトを脱がせたクリスとシルフィアに叫んだ。クリスは思いっきりアーティファクトに至近距離から弾丸を浴びせる。反射を受けながらも懸命に堪える。シルフィアも魔曲の光を食らわしてついにアーティファククトは粉々に砕ける。菫は怒りを露わにして剣を突きつけた。二人に攻撃を仕掛けようとした所を狙って再び悠月が両手を広げて立ち塞がった。 虚無の一手を叩き込んで菫の自付を破壊する。 「父に生きて欲しいという貴女の想いはよく解ります。でも……貴女は何をしているのです?」 悠月は静かに問いかけた。 同い年で同じく父の遺志を継ぐ者として見過ごせなかった。悠月も他ならぬND時に両親を失っていた。何もできずにただ見送ることしかできずに悔しい想いをした。 「貴方に、貴方に何が解ってるっていうのよ! 私の父はまだ生きてるの! たとえ、この世界を敵にしても私は諦めたくないの!」 「貴女が御父上の誇りと魂をも殺そうというのなら――私達が護る」 悠月は決意を込めた。両親から受け継いだ名と誇りと魂にかけて渾身の力で真っ向から勝負を挑む。菫もガンブレードをぶっ放してきた。悠月は激しい攻撃に晒されたが、その時背後から駆け着けてきた拓真が代わりに剣で受け止めた。 「神谷菫、剣を引け。お前の行為はお前の父の想いを踏み躙っている事に気づかないのか」 拓真が悠月を庇って敵の剣筋を受けた。代わりに受けた攻撃によって拓真は流血した。それでも力を緩めずに双剣で菫の得物を捌いて上からたすき掛けに斬る。 拓真もND時に動乱の京都で師を失った。出来ることならば同じ時を歩みたかった。だが、もしその時自分が同じ状況に立たされたとしてもノーフェイスにはさせない。 あの人の生き様をねじ曲げてまで助けたいとは思えなかった。 「神谷菫、問おう──お前の正義とは何だ。神谷菫が神谷重蔵に学んだ剣とは……何の為に存在する?」 拓真はもう一度構えて菫の剣をふるう理由を問い正す。 「私は、私の剣の正義とは……」 弱き者を守るが為の力。かつて弱者だった自分のような無力の者たちを救うためにリベリスタを志した。菫は重蔵に教わった言葉をもう一度思い出していた。 「神谷重蔵が、その剣に込めた誇りとは一体何だったのか! 答えろ、神谷菫! ──他ならぬ、娘であるお前が解らないとは言わせない!」 菫はふと我に返った。もしかしたら自分は間違っているのかもしれない。付き物が落ちたように拓真を見返した。どちらが正しいのか剣にて確かめたい。 菫はこれまでの修行の成果を見せるために剣を構えた。神谷流を受け継いだ娘としての自負と誇りを胸に最高の剣筋を今この瞬間に試す。 真っ先に拓真の懐に飛び込んで流れる動きから上半身を倒して一撃を放つ。 拓真は左剣で受け止めた。一瞬の出来事だった。 そのまま身体を反転させて右剣で菫の空いた脇腹を切り伏せた。 菫は血を噴きながら地面に倒れこんだ。 ●いつまでも側に 「どうして……私はまだ生きているの?」 菫は傷ついた身体を起こした。傍らでは同じようにまだ寝ている弥太郎の姿がある。リベリスタは菫たちにトドメを刺さなかった。 「やったー、ちょうおっけい!」 ミーノが悠月やシルフィアと協力して生き残った二人を回復させていた。元気そうな姿に思わず大声で飛び跳ねて喜んだ。アーティファクトは破壊されてしまって彼らが戦う理由はすでになくなってしまっている。 まだ茫然自失な菫を見て義弘は少し心配になった。最期は降伏をしてくれてよかったと思った。それでも菫はこれからどうやって生きていくのか。再び剣をとってリベリスタをやってほしいと思うが今は無理かもしれない。 その時だった。うわ言を呻いていた重蔵が苦しそうに口を開けた。 「菫……それでいい……弥太郎たちを、頼む……」 「お父さん!」 菫はすぐに父の元に駆けつけた。一時的に意識が戻った父の元に娘が駆け寄る。手を握って菫は涙をこぼした。最期に重蔵は苦しみから開放されたように頬を緩ました。 動かなくなった重蔵に菫は何時までも側に寄り添っていた。アンジェリカが目を瞑って澄み通った優しい鎮魂の歌を捧げる。宗二郎とクリスが菫とともに協力して重蔵を運んだ。 神谷道場の空き地に一筋の煙が立ち上る。それを見詰めていた悠月は傍らにいるパートナーに寄り添いながらそっと袖を掴んだ。 「拓真さん、私――」 もし私がノーフェイスになったらどうします?と聞こうとして悠月は口を噤んだ。お互いND時に最愛の家族を失った似たもの同士だ。今回の事件を機に改めて自分たちの境遇を考えると思わず寂しくなってついその言葉が口から出そうになった。 だが、悠月はいつも一緒にいる彼の心の中を想像してみた。 拓真さんならきっと私を気遣った言葉をかけてくれるに違いない。 そしてたとえ無常な結末が待っていたとしても最期まで諦めずに戦ってくれるだろう。 悠月は袖を掴んだまま頭を逞しい肩に静かに寄せた。 「どうかしたか?」 「――もう少しだけ、こうしててもいいですか」 拓真は傍らの愛しい人に口元を緩ませて優しく頷いた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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