● 「ほら、よく見てください。そこ! そこです!」 つばを飛ばしつつ叫ばれてもリベリスタたちにはまったく見分けがつかなかった。 遠くから指をさすよりポインターを使えばいいのに。 大モニターの画面いっぱいに映し出されているのは猛吹雪のなかの雪原だ。 『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)が説明するところでは、画像の中に複数のアザーバイドが映っているらしい。場所は北海道、抜海村。ゴマフアザラシの観測地点として有名なところだ。 「あれです! いま動きましたよ。ほら、ほら、これなんて口を開けています! あ、閉じちゃった」 佐田がこそあど言葉を連発しているうちにVTRは終わった。 リベリスタ一同の口から疲れの滲んだため息がもれる。 照明がつけられて、ブリーフィングルームの中が明るくなった。 テーブルの上に佐田が持参した和菓子と熱い茶、一枚ぺらの資料が置かれていく。 「本日の菓子は大福もち。赤ちゃんアザラシのような姿のアザーバイドを模してみました。そう、モニターに映っていたやつです」 白くて丸くてふっくらとしていて……。 ああ、なるほど猛吹雪の中の雪原にいたらわからないよね。 テーブルの端から「ンなの、わかるかっ!」と突っ込みの声が飛ぶ。 「えー。何度か見ればわかりますよ、なんとなく。で、 目はゴマ粒、ヒゲは糸飴、口は焼き入れてます」 前脚は餅にちょっと切込みを入れて申し訳程度に伸ばしてある。しっぽも同様に。ただ、後ろ脚はなかった。 とうぞお召し上がりください、と佐田はみんなに菓子をすすめた。 「依頼の内容はこのアザーバイド、認識名『大福』12体の討伐です。見た目はこのようにまん丸な赤ちゃんアザラシで愛らしいのですが、性質は凶暴かつ獰猛……肉食です。お配りしている資料をご覧ください」 ■判明している『大福』のスペック 体長1メートル。体高75センチ。大福型。保護色。フェイトなし。 赤ちゃんアザラシのような見た目ですが、これで成体。 寒さにはめちゃくちゃ強いです(凍結、氷結、氷像無効) ・軟体。 よく伸びます。伸びた体で獲物を締めつけたり、顔に張りついて窒息させたりします。 ・誘惑。 食べちゃいたいほど愛くるしい容姿。生でも食べられますが、中身は(猛毒)。でも美味。 ・後悔。 攻撃されると泣きます。つぶらな瞳が悲しげに……心がめちゃくちゃ痛みます(ショック)。 ・膨張。 焼くと膨れます。最後には破裂して熱い肉片(猛毒、火炎)を四方にまき散らします。 ・吸血。 体の中で唯一とがっている牙で吸血します(麻痺)。HP回復。 「保護色は幻視ではないのでE能力では見破れません。おいしそうな匂いをしているらしいのですが、現場は猛吹雪のため近づかないとなかなか分からないでしょう。あ、知らずに踏むとめちゃくちゃ怒ります」 それはなにも『大福』に限った話ではないだろう。誰だっていきなり体を踏まれると怒る。 リベリスタの1人が手を上げてD・ホールの有無を問うた。 佐田が顔をわずかにしかめる。 「抜海湾を少し出たところ、冷たい海の底にあります。かなり小さくなっています。1匹通るか通らないか……。到着から4時間前後で自然消滅するでしょう」 『大福』を送り帰す、帰さないの判断はリベリスタに任せる、と和菓子屋は茶をすすった。 「最後に。ゴマフアザラシを間違って殺さないように気をつけてください。幸い、出産期ではないので本物のアザラシの赤ちゃんはいませんが、成獣も十分猛吹雪のなかでは見分けにくくなっています。人はいませんので神秘秘匿に関して気にする必要はありません」 佐田は大福もちを平らげると立ち上がって、リベリスタたちに頭を下げた。 「それではよろしくお願いします。いってらっしゃい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月05日(日)22:17 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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● 景色は白一色ではなかった。微妙に青を混ぜ込んだ灰色が濃淡を細かく変えながら斜め横へふき流れていく。 今朝、リベリスタたちが宿を出た時の気温はマイナス12.5度。強い横風が絶えず吹いているため、体感気温はさらに下回っている。 腕を脇の下に巻き込んで前かがみになりながら、奥州 一悟(BNE004854)はたまらず叫んだ。 「うおっ、寒い! ちゃっちゃと終わらせて熱い風呂につかりてぇな」 暖かい服装で、とあらかじめ注意を受けていたにもかかわらず、一悟は普段着にダウンジャケットという服装である。北国をなめているとしか思えない。 「動けば温かくなるって」、と強がる唇はすでに血の気が失せていた。 その一悟の斜め後ろでは『三高平のモーセ』毛瀬・小五郎(BNE003953)が、寒さのために激しく体を震わせ、左右に残像を作り出していた。いつもよりぷるぷるが激しい。息子夫婦が用意してくれたコートの内側に使い捨てカイロを装備していたが、やはり寒いものは寒いようだ。 かわいい孫にもらった“まふらー”をしっかりと首に巻きつけて、小五郎は雪の中へ足を送り出す。 「寒いばかりの場所ですが、心だけは暖かいですな……。しかし、寒いですな……」 「アザラシの観測所にあともう少しでつく……はずです。みなさん、頑張りましょう」 メガネを白く曇らせた離宮院 三郎太(BNE003381)が、寒さに耐えながらもくもくと歩く仲間たちを励ました。それから耳当ての位置を調節する。 それらしき箱が見当たりませんね、と手で目から吹雪を遮った『永遠を旅する人』イメンティ・ローズ(BNE004622)が言った。 「見渡す限りほわいとふぃーるど。この冷たき白き欠片がすのうなるものですかー?」 強い風に飛ばされないよう、相棒のフィアキーは今、ふんわりたっぷりまとったマフラーの内側にいる。 彼の世界にも季節の移ろいはあるが、この寒さは未体験だ。 「箱舟のありし地も今は寒いとですが、想像を絶する寒さ。箱舟のふれんず達の世界は摩訶不思議」 イメンティはぷるっと体を震わせると、長い睫を白くする霜を指で落とした。 「あ、あれじゃないかな?」 キャメル色のコートにこげ茶色マフラー、足元をやはりキャメル色のファー付き安全靴で防寒した『ロストワン』常盤・青(BNE004763)が前方の一点を指さした。 飛び込んでくる雪のかけらを手で避けつつ、よく目を凝らしてみれば、なるほどホワイトノイズの向こう側にうっすらと四角いシルエットが見えた。 一悟の口から漏れ出た安堵のため息が白い霧に変わって横へ流れていく。 「やれやれ。まだ何もしていないのに、もう一仕事終えたような感じだな」 先が思いやられる、とコートの襟を掻き合わせてリオン・リーベン(BNE003779)もまたひっそりとため息をついた。 ● 観測所を出るまでがまたひと苦労だった。 原因は日本が誇る癒し系暖房器具“こたつ”である。一度入り込めば抜け出すのは至難の業……ミカンとリモコンがあればいうことなし、というアレである。 ちなみに、アザラシ観測所にはストーブが設置されているがこたつは用意されていない。 三郎太と青がストーブをつけている後ろで、「炬燵を設置して暖を取りますじゃ」と、小五郎がアクセスファンダズムから畳もろとも蜜柑つきで引っ張り出してきたのだ。 炬燵のスイッチが入るなり真っ先に布団をめくって飛び込んだのは一悟、続いてイメンティと小五郎が座り込んだ。 空いた一辺にはちゃっかりリオンが滑り込んだ。 割を食ったのは、誰よりも細やかな気配りがきくゆえに、観測所に入るとまっさきにストーブをつけに行った三郎太と青のふたりだ。 ずるい、という言葉を飲み込んで、三郎太はにっこり微笑んだ。 「……奥州さん、お昼にちゃんと食べられるようにシチューを仕込み始めましょう」 一悟が額を、ぺしりと手で打った。 「うっかり忘れるところだったぜ。サンキュー、三郎太」 調理はすぐとなりにあるラーメン屋の厨房を借りることになっていた。ここは普段、土日のみの営業で、天候の悪い日は閉まっているのたが、アークが事前に手を回して借り受けていた。 「よし、ちょっと行ってくる」 一悟は素材の入った袋を手に立ち上がると、観測所を出て行った。 空いたところへ三郎太が入る。 青はホワイトボードの前に立つとフェルトペンを手に取った。 きゅっきゅと音を立てながら、ボードに周辺の地図を書き込んでいく。 「大福調査の区域とまわる順番を決めよう。ボクはまずここから始めるのがいいと思う」 とんとん、と青がマジックペンの先で指したのは抜海湾だった。 いや、待て。とリオンが立ち上がる。 「灰色のテトラポットに暗い海面であれば真っ白な大福を見つけるのは簡単。だからこそ俺はここを最後にしたほうがいいと思う」 「では、どこから始めます?」、と炬燵に手を入れながらイメンティ。 ホワイトボードの前でリオンは、青が差し出したフェルトペンを受け取った。 「まず、宿と観測所の間を排除しよう。熱感知で辺りを探りながらここまで来たが、その間何も見つからなかった。俺は陸側から大きく回って一番遠い――」 リオンの説明は激しくドアを叩く音に寸断された。 一同がドアに顔を向けると、うっすら曇ったガラスの向こうで鼻の下を凍らせた一悟が立っていた。 「誰だ、カギかけたの! 入れてくれー、さみーっ!!」 ちゃっかりリオンが座っていた場所に収まった青が、「カギなんてかけていませんよ」と言う。 「誰もドアのところへ行っていませんがのぅ」 と、言いつつ、小五郎はちらりとドアに一番近いイメンティへ視線を向けた。 「イメじゃありませんですよー。フィアキーもちゃんとここにいるとです」 フェリエはドアに背を向けたまま、机に出した菓子袋の中から極細ベッキーを一本引き出すとぽりぽり音をたてて食べた。 「ふむ。誰もカギをかけてないのにドアが開かないとは、不思議なこともあるもんだ……じゃない! 図ったな、常盤!」 いや、不思議でもなんでもない。 単に薄着のまま外へ飛び出してしまったために、一悟の手が寒さでかじかんでドアノブがうまく回せないだけの話だった。 リオンが青の背に回って炬燵から引き出そうとし、ようやくドアノブを回すことができた一悟が寒風とともに室内になだれ込んできたとき、観測所からそう遠くないところで1対の黒い目がじっと獲物が集まる箱を見つめていた。 ● 「よし、もう切るぞ!」 リヨンがそう宣言すること3度目。とうとう炬燵のスイッチが切られた。ため息とともにだらだらとリベリスタ一同立ち上がる。 「なんとかシチューもおでんも仕込み終わりましたし、お昼ごはんを楽しみにして周りのアザラシを傷つけずに目標だけを討伐していきましょう」 他の誰でもなく、自分自身に向けて言い含めるような口調で三郎太が言った。メガネに曇り止めして耳当てを装着すると、一転、きりっとした声を出す。 「奥州さん、アザラシたちへの避難呼びかけ、よろしくお願いします!」 「おう、任してくれ」 一悟はどこからか予備でしまわれていた青い防寒着をひっぱり出してきていた。袖に腕を通しながらドアを開ける。 冷たい風を頬に受けながら、リベリスタたちはそれぞれ自分が持つ能力を活性化させた。 「……ん? ちょっと待て、奥州!」 手にした方位磁石を握りしめ、リオンが叫んだ。一悟が歩く少し先に熱源を発見したのだ。 吹く風に負けぬよう、力強く翼をはためかせて空へ上がった小五郎が暗視と千里眼を用いて雪原を見渡した。 「いましたのじゃ。不自然なぐらいまんまるなあの小山……大福に違いありませんですじゃ」 「えっ!? どこ?」 「イチゴ、後ろ!!」 イメンティが叫ぶと同時に、一悟が後ろ足で大福の顔を踏みつけた。 ぶぎっ、とブタのような鳴き声を上げて大福がへこむ。 とたん大福の体が左右に伸びて柔らかなシーツのような形状となり、一悟の体を包み込んだ。 すかさず弓を構えたイメンティが援護射撃の矢を放つ。 「イチゴ!」 ややかぶって「大福!」の掛け声。 「これぞイチゴ大福ってか? 冗談じゃねーぜ!!」 解かれたシーツの中から憤怒の形相で一悟が転がり出てきた。 「奥州さん、はやくこちらへ!」 三郎太が一悟の回復を行っている間に、小五郎が高みから真空の刃を落として大福を切り刻む。 リオンから戦闘支援を受けた青は大胆に獲物との距離を詰めると、直死の大鎌を振るって大福に死に神の口づけあとを残した。 弱った大福に一悟が炎の拳を打ち込む。 ぷうっと膨らんだアザーバイドの体を、やはりリオンの指示でイメンティが打ち抜いて破裂させた。 まずは一匹目。 観測所を出て探すまでもなく倒せたのはラッキーだった。無駄に浪費した時間をわずかでも取り戻すことができた。 「誰だ! さっきイチゴ大福って言ったやつは!?」 「誰も言っておらんよ、一悟さん。気のせいじゃよ、気のせい」 怒る一悟を小五郎がなだめた。 うん、たしかに一悟自身を除いて誰もイチゴ大福とは言っていない。「イチゴ!」「大福!」とばらばらに叫んではいたが……。 誰が「大福!」と叫んだかはこの際詮索しないでおこう。なにせ大福討伐は始まったばかりなのだから。よけいなもめごとを起こしている場合じゃない。 真っ先に三郎太がそのことを指摘した。 「日のあるうちになるべく多くの大福を退治しましょう」 「うむうむ。しかし、晴れてくれるとよいのですがのぅ。実は孫達にあざらしの写真を取って来て欲しいと頼まれましてな……」 カメラを手に目をしょぼしょぼさせながら小五郎がこぼす。 「ともかく、先を急ぐぞ!」 リオンを先頭にして、リベリスタたちは前を行く者の背に手が届く距離を保って歩き出した。 誤って大福を踏まないように、一列になって北の端を目指す。 殿は空の上から小五郎が務めた。 ● 司令官にリオン、副官に小五郎を置き、リベリスタたちは大福キリングのプロ集団と化していた。 まず、先頭を行くリオンが熱感知で生物の集団または個体を捉え、殿の小五郎が千里眼と暗視を使って大福の大体の位置と数を特定する。 「美味しそうな大福ですな……。しかし、ここはお前達の居場所ではないのじゃよ……?」 攻撃指示をだそうとした小五郎をリオンが手をあげて止めた。 「……まて、まだ周囲に生体反応がある。奥州、逃がしてくれ」 次に一悟が動物会話とファミリアを使ってアザラシたちに避難を呼びかけ、イメンティがなかなか移動しないアザラシを「逃げてー」と押し転がす。 大部分が移動した後でリオンがドクトリンでの全員の攻撃力と防御力をあげる支援を行い、暗視ゴーグルをつけた青とイメンティが範囲攻撃で複数の大福に一度にダメージを与えた。 「大福さん達が多すぎて囲まれてしまっては怖いですねー。エル・バーストブレイクで適度に大福さんを吹き飛ばすとです」 明るいオレンジ色の炎がじゅんじゅんと、雪片を蒸発させながら雨のごとく大福たちの上に降り注ぐ。 大福の体から出る甘いにおいに、肉の焼けた香ばしさが加わり、すっかり凍りついたリベリスタたちの鼻腔に流れ込んできた。 「うぉぉっ! 腹か減ってきたぜー!!」 リオンの指示を受けながら一悟が弱った個体にさらに焼き入れをしてふくらませ、吹雪の中でも比較的見分けやすくなった大福を青が雪の中で舞いながら切り刻む。 「確かに美味しそうだけど……我慢がまん。食べるとお腹を壊すからね」 鎌の刃をくいこませた大福が目に涙を浮かべて青を見上げた。 きゅん……と切ない鳴き声ひとつ。 うっかり大福と目を合わせてしまい、魅了されてしまった者や飛び散る大福の肉片でやけどを負った者は小五郎が素早く見つけだした。 「こりゃいかん! 三郎太さん、あっちで青さんと一悟さんが大福に魅了されてしまったようじゃよ。白い体に首までしっぽり包まって幸せそう……いや、ピンチじゃ」 「はい、すぐに助けに行きます!」 イメンティの矢で解放された仲間を、小五郎の指示を受けて急行した三郎太がてきぱきと癒していく。 三郎太は時にはピンポイントスペシャリティを放って大福にトドメを刺すこともあった。 「送還でもよかったのですが……。アザーバイドにやっかいな攻撃手段がある以上、致し方無しですね……」 足元に落ちた大福のかけらを見下ろしてしんみりする三郎太の顔の前に、湯気の立つカップが差し出された。 「どうぞ。いつまでも飲み物が温かく保てる不思議な筒にほっとここあを詰めて来たとです」 「ありがとうございます。いただきます」 三郎太はイメンティからココア入りのカップを受け取って飲んだ。冷えた体がじんわりと温もっていく。 見ればリオンたちも青から生姜の入った甘めの紅茶とチョコレートを受け取って食べていた。 「ええっと、リーベンさん。いまので何匹目になりますか?」 「7匹目だな。合計で8匹倒したことになる」 「あと4匹……」 水筒の蓋を閉めながら青が呟いた。 朝からの吹雪はいまだ止まず、刻々と明るさだけが失われていく。 あと4匹、日没までになんとしても倒し切りたい。 リオンは青からもらったチョコレートをかじりながら、冷静にチームひとりひとりのコンディションを調べた。 どの顔にも疲れが出ていた。 「想像以上に厳しい、か。……ふむ。一度戻るか」 この調子でガンガンのしていこうぜ、と気炎をあげる一悟の肩に腕をまわし、リオンは「シチューとおでんを食べて体がよく温まったらな」、と言った。 遭難しては目も当てられない。 「さあ戻ろう。炬……いや観測所へ」 ● 「おおっ! 晴れてきましたぞ!」 炬燵でミカンの皮をむきながら小五郎が窓に向かって叫んだ。剥いたミカンを置いて、いそいそとAFからカメラと三脚をひっぱり出す。 やれやれ。これで孫たちとの約束が果たせそうだ。 「皆さんも一緒に記念写真を取りませんかのう……?」 「いや、このチャンスに残りの大福を急ぎ探して始末してしまおう」、としごく真面目な顔してリオンが立ち上がる。 そこへ隣のラーメン屋で汚れものを洗い終わった一悟と青、それに三郎太が、観測所に戻ってきた。 「晴れてきましたね。毛瀬さん、近くにアザラシもきていますよ」 「おう、それに遠くに山が西日を受けて綺麗だぜ」 一悟がいう山は利尻富士のことである。 抜海の海の向こうで、ゆるりと沈んでいく夕日を受けた山肌がサーモンピンクに輝いていた。 その前方をきらきらとダイヤモンドダストが舞い落ちて、とってもキレイだよ、と青が言う。 「アザラシさんときねんしゃしん、いいですねー」 ちょっとだけなら、いいじゃないですかー。撮りましょう、とイメンティが小五郎に加勢する。 「しょうがないな。みんな、ちょっとだけだぞ」 そういったリオン自身もちょっぴりわくわくした顔になって外へ出た。 「三脚まっすぐ立たねーな。ちょっと斜めになってもいいか?」 一悟の宣言に、アザラシを交えて利尻富士をバックにしたリベリスタたちからブーイングが飛んだ。 「せっかくの記念写真ですじゃ。ちゃんとした1枚が欲しいですのぅ」 みんなの真ん中でプルプルと震えながら小五郎が言う。 「ちぇ。しょうがないなぁ」 「イチゴ―、うしろにいい盛り上がりがあるですよー」 「あ、ほんとだ。サンキュー、イメンティ。ここにカメラを置こう」 一悟は雪こぶにカメラを置き、アングルを整えてタイマーをセットした。 走って戻ってくる一悟の後ろを見つめつつ、青が三郎太のよこで、「あれ?」と小声を漏らした。 「どうしたんですか?」 「あれ、もしかして大福じゃ――」 ビンゴ! 三郎太がリオンに熱感知で雪こぶを探るように伝えたのと同時に、カシャリとシャッターが下りた。 機械的な音におびえでもしたのか、眠っていた大福がぱちりと目を覚まし、伸ばされた体にまたしても一悟が囚われてしまった。 ドタバタの末、みなで力を合わせて大福を倒したのもつかの間のこと、イメンティがフィアキーともども西の方角を指さして、「あちらから転がってくるのはアザラシなるひとです?」と言った。 いや違う。あれは大福。三匹の大福。 吹雪きがやんで、腹を空かせたアザーバイドたちが、熱い血を求めて転がってきたのだ。 「手間が省けたな。む、意外と大福たちの動きが早いぞ! 奥州、ローズ、急いでアザラシたちを避難させてくれ」 「ああ! カメラが、カメラが……」 雪原に投げ出されたカメラを回収すべく、小五郎が大福たちの前に飛び出した。 「ちょっ! 毛瀬さん、危ない!!」 孫まふらーに向かって伸ばされた三郎太の指はわずかに届かず、小五郎はカメラに飛びついた。 口をあけ、鋭い牙をたてた大福が小五郎に襲い掛かる。 リオンが急ぎ戦力強化、青が飛び上がった大福たちに鎌を振るった。 戻ってきた一悟とイメンティ、そして三郎太が青に加わって大混戦。 その中で小五郎が手にしたカメラがカシャ、カシャとシャッター音を響かせていた。 3時間後。 みんなが宿の風呂で冷え疲れた体を温めているころ、ひとり部屋に残った小五郎は携帯電話を耳に当てながら、カメラの液晶を見ていた。 「なかなかよい写真が撮れとるんじゃよ。うんうん、ちゃんとアザラシも映っているからの。それから大福も。楽しみに待っていなさい」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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