●ブラッド・クリスマス 街はクリマスイルミネーションに輝いていた。色とりどりの電飾が街を華やかに彩ってクリスマスのムードを引き立てている。クリスマスソングが流れるブティック街を幸せそうに肩を組んだカップルたちが寒さに身を寄せながら笑顔で歩いていた。 永松美咲と島村光彦もその中の一人だった。 雪が降る幻想的な光景だった。聖なる夜に祝福された恋人たちは白い息を吐きながら互いに一つのマフラーに顔を寄せあって微笑んだ。 誰もが互いの恋人を見つめていた。視界には自分の大切な人しか映らない。クリスマスのイルミネーションはもはや彼らにとっては背景でしかなかった。 聖なる夜にジングルベルが鳴り響く。ふと、誰かが夜空を指して声をあげる。 「あれは、サンタクロースだ」 光彦が指す空にソリに乗ったサンタクロースが現れた。 何かのアトラクションの催しだろうか、次々に空から拳ほどの小さな袋が落ちてくる。恋人たちは疑いもせずにその落ちてきた袋を受け取ろうとした。まるで自分たちに送られたプレゼントであるかのように。 手にプレゼントが触れた瞬間だった。不意に光が反射したかと思うと、大きな衝撃音とともにいきなりその袋が爆発した。 隣にいた彼女が悲鳴を上げた。彼の体が飛び散って辺り一面の雪が真っ赤な血の海に覆われた。辺りにいた恋人たちが逃げ場を求めて逃げ惑う。 「絶対にここから通させない。お前たちが憎い。全員この場で祝福の血に染めて二度と動けなくしてやる」 逃げ惑う光彦たちの後ろから白髭のスーツを来た親父が立っていた。なぜか手にチキンを持っている。怒り狂った親父が凶器の骨のチキンを投げつけてくる。 仕方なく前に逃げようとした光彦たちに今度は赤と黄色の服をまとった道化のピエロが現れた。口元を三日月に歪まして手にはなぜかピクルスを持っている。 光彦は大のピクルス嫌いだった。側で震えている彼女をそのまま放り出して光彦は一人でその場を逃げ出してしまう。 「待ってよ、お兄ちゃん。なんであの女と一緒にいるの? クリスマスは一緒にいるって約束したじゃない」 そこに立っていたのは光彦の妹の麻美だった。光彦は目を疑った。出刃包丁をもって目はすでにハイライトが消えている。麻美は大のブラコンだった。あまりに帰りが遅いことを心配した麻美はついにブチ切れて光彦を追ってやってきたのだ。 光彦は絶体絶命のピンチにその場所に気が遠のいてへたり込んでしまった。 ●爆発する恋人達 「クリスマスに賑わっている街で恋人たちを襲うエリューションが現れたわ。このままでは幸せなカップルたちが次々に襲われて血祭りにされてしまう。そうなるまでに何とかして貴方達の手で哀れな子羊たちを救ってきてほしい」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)が緊迫した顔でブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに状況を伝えた。 恋人たちが集う街の夜にエリューションが出現した。モテない人たちの憎しみが積もってエリューションを覚醒させてしまった。彼らは幸せな恋人たちを見つけて血祭りにあげることを目的としている。すでに現場は混乱の渦に巻き込まれていた。 蘭子も実はクリスマスに外に出歩くことは好きではない。何故なら嫌でも目に入るカップルの幸せそうな姿を見るのが我慢ならなかったからだ。だからエリューション達の気持ちもよくわかった。だからといって幸せそうなカップルを爆破していいことにはならない。 「敵は幸せそうな恋人たちを見ると優先的に襲ってくるみたい。貴方達の誰かが恋人同士の囮になって敵を上手く惹きつけることができるかもしれないわ。ただし、敵はかなり用心深いようだから中途半端にやっては逆効果。その場合は敵を怒らしてますます殺戮を激しくさせるから注意して。けれど上手く行ったらそれだけで一般人への被害を食い止めることができるわ。それでは気をつけて行ってきて頂戴ね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月27日(金)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●胸の高鳴り 雪の降り積もるクリスマス一色のブティック街で大勢の恋人たちが逃げ惑っていた。空からサンタクロースがプレゼントを投下して辺り一面を爆破させる。さらに近くの店に置いてあったマネキンの白ひげ親父とピエロが動きだしてカップルたちを襲う。 鬼の形相をしたヤンデレ妹とBL漫画家が人々を追いかけながら恨みの呪詛をばら撒く。恋人たちの聖なる夜にモテない者達の怨恨が爆発していた。 悲惨な光景に現場に到着したばかりのリベリスタ達も言葉を失う。だが、何時までもただ突っ立って見ているわけにはいかない。早く恋人たちをエリューションから救わなければならなかった。 梶原 セレナ(BNE004215)は側にいる恋人の『遊び人』鹿島 剛(BNE004534)の腕をとってしなだれかかった。突然の出来事に剛が驚いて顔を向ける。 「なんだか……クリスマスって、ドキドキするの」 セレナは人差し指を口元に立て上目遣いに剛を見上げた。 「ほら、こんなのドキドキしてる」 彼の手をそっと導いて自分の胸に押し当てた。その瞬間に、剛の顔は真っ赤に染まってしまう。セレナは構うことなくさらに彼の体に抱きついた。 公衆の面前で恋人とイチャイチャすることに剛は抵抗感があった。だが、今はエリューションを退治する任務の重要な作戦だった。いつもより大胆に甘えて来るセレナに内心はかなり羞恥心を覚えながらも剛はしっかりセレナを抱き止める。 セレナは目を閉じて顔を上に向けた。剛は彼女の細い腰に手を回す。その小さな口唇に向かって優しく剛は自身の口唇を重ねた。 『謳ウ人形』リート・マリオン・エンデ(BNE004831)と『偽りの優しき闇の刃』蔵前・優奈(BNE004830)は優しく手を握り合って歩いた。互いの指には一緒にいることを誓って送りあった指輪が光っている。エリューションをおびき寄せる囮とはいえ、リートはこうやってクリスマスを愛しい人とデートできることが嬉しくて仕方がない。 優奈も幸せそうにはしゃぐ彼女を見て思わず微笑んだ。不意にリートが手をぎゅっと引っ張ってきた。優奈は意図を察してすぐに彼女の頭に合わせるようにしゃがむ。 「あのね……大好き。ずっと一緒にいようね」 リートは顔を真赤にしてはにかみながら優奈に潤んだ大きな瞳を向ける。 「うん、俺も、大好きだよ。ずっと一緒に居て、君を護るからな」 優奈もリートの手を強く握り締めた。 彼女と出会って今まで想って来た揺るがない気持ち……。だから、その幸せを傷つけるモノが居るのならば、誰であろうと容赦はしない。 「来なよ、俺たちが相手になるよ」 優奈が鋭い視線を向けると同時に哀れなエリューションたちが一斉にこちらに向かって突撃してくるのがわかった。 ●爆発しろ! 「警備会社の者です。過激派テロリストが出現したと報告がありました。ここは私達が抑えますので、皆さんは極力前の人を押さない様避難して下さい」 警備会社の職員に扮した『桃楼の斧』ルイリス・ストロフィア(BNE004848)が大声で混乱する人々に叫んだ。それを聞いた恋人たちが一斉にその場を逃げ出す。 「落ち着いてこの場を離れて下さーい。彼女を守り抜いて下さいねー」 逃げ出す人々が将棋倒しにならないように『ちび』ジュリー・モーガン(BNE004849)が辺りの状況を見ながら的確に避難指示を出す。落ち着いて押し合わないように自らが先頭に立って敵とは反対方向に誘導する。 「恋人たちの聖なる夜を惨劇に変えるわけにはいきません。守りぬいてみせます」 『魔術師』風見 七花(BNE003013)は転倒して動けなくなっていたカップルに手を差し伸べた。七花の優しい気配りにそのカップルはようやく立ち上がることに成功する。 敵のサンタクロースはすぐ側まで迫っていた。七花はカップルが狙われないように自分が盾になりながら急いで安全圏へと二人を連れて逃げる。 「愉快犯ではあるが爆竹などを炊いているやつが居る! 危険だから皆、離れてくれ! こっちが安全だ!」 剛も叫んで自らが囮になって敵をおびき寄せた。隙を見て強結界を張る。 「みんなどいつもこいつも爆発させてやる!」 その時、敵が囮役の恋人たちに迫った。そうはさせまいと囮役のリベリスタたちの前に『狂気的な妹』結城・ハマリエル・虎美(BNE002216)が手を広げて立ちはだかる。 「なんかヤンデレ妹に縁があるね。ま、私自身がどうあるかが問題であって他のリア充どもが幸せだろうが妬む気にもならないんだけどさ。だからと言ってわざわざ見捨てる気にもならないって言うか……虎美は優しいなぁってお兄ちゃん、ほんとの事言わないでよ」 ブレインラヴァーを全開にして虎美は一人で語る。お兄ちゃんと一緒にいちゃつきながら避難誘導ができる一石二鳥の作戦だと虎美は嗤いが止まらない。 だが、傍目からは一人しかいないその奇妙な光景に敵は気味悪がった。この怪しい女を倒すために白ひげ親父が骨付付きチキンを投げつけてくる。虎美は後ろに攻撃を当たらせないように自ら盾になって前に出て銃を突きつけてぶっ放す。 リートは戦闘開始とともに仲間に翼の加護を付与した。一斉にリベリスタ達は散らばってまずは目障りな目の前の敵から攻撃を展開する。 七花がハイバランサーで迫って電撃を纏った鎖を撃ち放つ。巻き込まれた白ひげ親父たちが顔をしかめて呻いた。攻撃の手を止めて一旦後退する。 さらに一般人の避難が概ね済んだところで七花は両手を広げて灼熱の炎を展開させた。辺り一面を焼きつくすように火炎弾を放つ。 敵が怯んだその隙に白ひげ親父にルイリスが大戦斧を構えて突っ込んだ。 「カップルが羨ましいとか憎いとかは分からないでも無いんですけどね」 背中ががら空きの白ヒゲおやじを後ろから斧で突き立てる。真っ二つに切り裂かれた親父は絶叫しながら地面に崩れ落ちた。それを見たサンタクロースが頭上からプレゼントの爆弾を次々に投下させて爆発させてくる。 爆発に巻き込まれてルイリスとジュリーは吹き飛ばされた。すぐにリートが飛んで行って回復の息吹を吹きかける。すると立ち上がったジュリーが金髪を靡かせながらその美しい碧眼で頭上のサンタクロースを睨みつけた。 「この間抜け! 同じ手は二度と喰らわない!」 次々に落ちてくるプレゼントに集中を重ねて今度は爆破する前に狙い撃つ。サンタクロースが手を離した瞬間にプレゼントは盛大に起爆した。 サンタクロースとトナカイは自分の爆弾に巻き込まれて地面へと墜落してしまう。落ちてきた所を今度は剛が銃を至近距離から放ってトドメを刺した。 「一般人が犠牲になるのは許せないクチでね」 ●みんなホモになればいい 仲間がやられて残ったエリューションたちも後がなくて攻勢に出てくる。BL漫画家の浅場美沙子が叫びながら腐った漫画本を一斉に投げ尽きてきた。 「クリスマスなんて大嫌い。恋人同士でイチャつくなんて絶対に許せないわ。こんな世界みんなホモになればいいのよ!」 剛は背後から漫画本の攻撃を受けて転倒した。近くにた優奈が剛を守るために自らが間に入って助け起こそうとする。剛とは万が一の時に備えて目を合わせないように背を向け合って戦っていたが目の前でやられている仲間を放っておくわけにはいかなかった。 だが、浅場の執拗な攻撃を受けて優奈も漫画本を顔面に食らって剛の側に転倒した。 ジュリーが二人を助けるために再びピンポイントで狙って漫画本を食い止める。ようやく二人がその隙に起き上がって互いに顔を見つめ合った。 「優奈……」 「剛……愛してる」 恥ずかしそうに男二人が瞳を濡らしている。助けに入ったジュリーは嫌な予感がした。その瞬間、二人は互いに手を取り合って激しい愛を交わす。 それを見たリートとセレナが悲鳴をあげた。自分の最愛の恋人が目の前で他の――女ではなく男の熱い抱擁を交わして体を絡ませ合っている。 リートは二人のヒートアップしていく禁断の光景に胸が高鳴りだした。 「あれ……ちょっと、どきどき、する?」 優奈と剛が魅了にかかっているから早く回復させなければならない。だが、リートは二人を見ているうちにいつしか釘付けになっていた。絶対に駄目なのにもっとみていたいという自分でもわからない衝動にかられて熱心に動向を見つめていた。 「優奈の口唇が――欲しい」 剛が無理やり優奈の頭を掴んで顔を寄せ合おうとする。優奈はされるがままに剛に抱きしめられたまま目を閉じて顎を上げて濡れた口唇を差し出した。 男同士の貪るような熱いキス―― 「そうはさせません!」 剛と優奈が口唇を重ねる寸前に七花が叫んだ。魅了された二人に向かって体当りをして引き離して回復を施す。魅了状態を解かれてようやく剛と優奈は我に帰る。 優奈はお返しとばかりにスピアを振り回して浅場と島村を巻き込んで斬り刻む。続いて後ろからセレナが怖い顔で魔弓を構えて撃ち放った。 浅場は苦しみもがきながら絶命する。それを見た島村麻美が人質の光彦を連れて一緒逃げ出そうとした。 「光彦お兄ちゃんどいてそいつ殺せない!」 虎美が大声で叫んで注意を引きつけると麻美が憤慨した。 「お兄ちゃんは絶対に渡さないんだから!」 島村麻美は倒れている光彦を背にして庇った。そこへ虎美が振り向きざまに銃を突きつけてぶっ放す。攻撃を正面から浴びて麻美は膝を着いた。 「自分のお兄ちゃんを庇うなんてやるね。泥棒猫を始末したくなる気持ちはわかるものうふふふふふふふ。でも、虎美のほうがお兄ちゃんへの愛は絶対に負けない。世界でお兄ちゃんを手に入れられるのは一人だけで十分。だから可哀想だけど死んでね」 虎美は頭を狙って乱れ打った。脳みそを吹き飛ばされて麻美は息絶える。側で倒れこんでいる光彦と美咲の縄を切ってジュリーは二人を安全な場所へと避難させた。 「ルー!」 残った敵はピエロただ一人だけだった。剣や銃の攻撃が効かずにまだ体力が残っている。しかも遠距離から腕や脚を伸ばしてきて地味にピクルス攻撃をしかけてくる。 「こいつが一番気持ち悪いわ!」 ジュリーもピンポイントで狙って攻撃を食い止める。目を撃たれて動揺したピエロは後ろに反転して逃げようとした。 七花は逃げ出すピエロの後ろに回りこんでブロックする。至近距離から力いっぱい殴られるがそれでも七花は必死に庇ってそれ以上前には行かせない。 セレナはピエロを捕まえるために閃光弾を放つ。怯んで力が弱まった所めがけて今度はルイリスが大戦斧を大きく振りかぶって集中する。 恋人達を守りたいとかは別に無い。というよりも程度不幸になってくれた方が気分良かったりする。でもクリスマスは別に恋人だけのお祭りではないのだ。ルイリスだってケーキとかチキンとか食べたいし正直こういうのは迷惑だった。 「ということで……どうぞお亡くなりあそばせ?」 大戦斧がピエロの首を掻き飛ばしてすべての敵は倒された。 ●恋人たちの祝福の夜 エリューションが退治されて聖なる夜が再び戻ってきた。だが、クリスマスイルミネーションが彩られたブティック街はリベリスタ達以外誰もいない。恋人たちはすべて避難させてしまったから辺りは閑散としていた。 「せっかく敵を退治したというのにこれでは勿体無いですね」 七花が残念そうに零す。隣にいたジュリーも七花の意見に頷いた。一年に一度しかないクリスマスの日に飾られたイルミネーションが虚しく思えてしまう。 「虎美と一緒にデートしたいって? いいよ、お兄ちゃん。聖なる夜に一緒に散歩しながら見て回ろう。お兄ちゃんペロペロ、ペロペロ愛してる」 虎美は怪しく一人で何やら語りながら物陰の方へ消えて行った。それを見ていた他のリベリスタたちも折角だし自分たちでクリスマスを楽しむことにした。 七花は残っていた漫画本を焼却したあと、さっそく近くのコンビニへと売れ残ったクリスマスケーキを買いに走って行く。 不意にその場に居残った剛と優奈が互いに目を合わせて気まずそうにする。先ほどのことを思い出してどうしていいのかわからなくなった。 「私よりも蔵前さんがよかった?」 セレナがむっとして剛にしなだれかかる。 「そんなわけないだろう。俺はセレナが一番だ」 「そう言ってくれて嬉しい。私も鹿島さんが世界で一番大好き」 剛は先程よりも強くセレナを抱きしめて再び甘い口唇を重ねあわせた。 「ねえ、寒いね。温まろう」 リートが寂しそうに優奈の元にやってきて身を寄せる。先程は敵の腐った漫画本を見て優奈と剛が濃厚に絡んでいた。思い出すだけで胸の奥が高鳴りだす。だが、わずかにちくちくと胸が痛かった。リートは二人に知らず知らずのうちに嫉妬していた。 優奈も優しくリートの手をとって握りしめた。二組のカップルは他のリベリスタたちをよそにしてふたりだけの世界を作り出す。 「羨ましいですね。私達も――カップルになります?」 「いや、それはちょっと――お友達なら」 ルイリスとジュリーは互いに冗談を言って笑いあった。 聖なる夜に雪がしんしんと静かに降り注ぐ。ホワイトクリスマスはまだまだこれからが本番だった。恋人たちを祝福する夜が始まろうとしていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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