●期待を込めて 「今年も私はクリスマスを一人で過ごすことになるのかしら……」 『Bell Liberty』伊藤 蘭子(nBNE000271)はため息を吐いた。毎年のこととはいえ、やはりこの時期になると気が思わず滅入ってしまう。 蘭子はすでに28歳だ。決して若くはない。年が明ければすぐに自分の誕生日が来てしまうことも憂鬱の種だった。このまま独り身で三十路になるのだけは避けたいと焦るが、素敵な人は一向に目の前に現れない。一度でいいからクリスマスにイルミネーションを見ながら肩を組んで素敵な人と一緒に雪の降る夜を過ごしてみたい。 蘭子は三高平市内でクリスマスの日にイルミネーションの光夜祭のイベントを行うことを思いついた。蘭子は心躍っていた。アークに来てから初めてのクリスマス。一緒に過ごす素敵な彼氏はいないけれどこの一年でお世話になった人たちと共にクリスマスを過ごすのも悪くはない。それにいつもならこの時期、同人即売会に向けて必死になって一人で部屋に篭って漫画をかいていた。 蘭子にとってそれが充実した生活だと思っていたが、今年はクリスマスの日は作業を中断して皆と一緒に聖なる夜を過ごしたいと思うようになった。 「恋人がいる人もいない人もよかったら皆で聖なる夜を過ごしましょう。大切な人と一緒に素敵な思い出を作ってクリスマスをお祝い出来たら嬉しいわ。それじゃ、皆で一緒にメリー・クリスマス!!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:凸一 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月05日(日)22:12 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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● 冬の街は光り輝くイルミネーションに彩られていた。夜の空が虹色の明かりで染まってまるで鏡の国にいるようだ。周りは大勢の恋人たちで賑わっている。互いに顔を寄せあって楽しそうにブティック街でショッピングをしている。 蘭子はクリスマスに飾られた街を楽しそうに眺めながら歩く。すでに両手には買い物袋が下げられている。お洒落な雑貨店に入ってアクセサリーなどを買っていた。 楽しそうにジングルベルを口ずさみながら窓越しに洋服を見て回る。 「わーい、蘭子おねーさーん! 今一人かな?」 大声で近づいてきたのは竜一だった。恋人たちが溢れる街の中で一人で寂しく買い物をしていた蘭子は目立っていた。耳慣れた声を聞いて蘭子は思わず振り返る。 「おねーさん可愛いのに、なんで独り身なんだろうね」 竜一の特に悪気のない発言に蘭子は眉間に皺を寄せた。大きなお世話だと思ったが、実際にクリスマスを一緒に過ごす相手がいないのだから仕方がない。 「年末のコミケに向けて頑張ってたから彼氏を作る暇なんてなかったのよ。それより、竜一くんはメガネのショタに辱められるのは興味ある?」 「あ、俺に腐った話はノーセンキューで! 俺はまともなんで! 女の子とか大好きです! 荷物持ちとかするよ! 服のコーディネートもするよ!」 漫画の題材のモデルになってほしいと言われて竜一は慌てて首を振った。腐ってさえいなければとモテるだろうにと同情せざるをえない。だが、自分が腐った主人公になるのだけは勘弁だった。竜一は慌てて話を誤魔化して蘭子を連れ出す。 「オススメはシマパンかな! シマニーソにシマパンにすると統一感が出ると思うんだ。無論、あえての統一感を外していくのもオサレというもの。まあでも、譲るべきじゃないものはシマパンとミニスカかな」 竜一は下着の店の前で熱弁を奮い始めた。通りすがりの人が怪しい目で二人のことをじろじろと見ながら去っていく。蘭子は付いてきたことを後悔し始めていた。 「この黄金セットは最高だと思うので、ぜひおねーさんも着るべき。まあ、さすがに年がいった人が着るのはきついが……俺はアラサーが頑張っちゃってる感も嫌いじゃないわけで――」 竜一が縞パンを手にとって振り返るとそこにはもう蘭子の姿はどこにもない。 お洒落なレストランに二人の大人の女性が仲良く肩を組みながら入ってくる。すれ違った人たちが思わず美貌の二人に後ろを振り返る。 普段は御めかしをあまりしないリュミエールとミーノが美しく着飾っていた。クリスマスに予約したレストランで食事をするために着付けてきたのだった。 二人とも髪をアップにして耳元と首元には鮮やかなアクセサリーが光っている。口元には薄くルージュが引かれて頬は若干赤く染まっていた。普段は背の低さから子供っぽく見られることが多いが二人共もうすぐ18歳の大人だ。きちんと身なりを整えれば誰もが振り返ってしまうほどの大人の女性にすでになっていた。声をかけてきた男たちをやんわりと断って二人はテーブルの奥の席に座る。 「静かなところだからちゃんと丁寧に食ベロヨ」 リュミエールが向かいに座ったミーノに対して食事の前に注意する。マナーがわかっていなさそうなミーノが心配だ。案の定、早速ミーノが真ん中のフォークとナイフを取ろうとしてリュミエールは待ったをかける。外側のを順番に使うようにお手本を見せた。 ミーノはひとつの食事を終えると次が運ばれてくるまでそわそわした。 「まだかな~まだかな~つぎはなにかな~」 「オチツケ、慌てて食うと喉に詰まるからナ」 「――ぐうっ!?」 リュミエールの忠告も虚しくミーノは喉に詰まらせる。リュミエールは何とかミーノに水を飲ませて事なきを終えた。ようやくメインデッシュのステーキを食べて一息ついたところでやはりミーノがケーキを食べたいと言い出してきた。 「ほふ~おいしかったからおなかがすいたの~。ねらうは……うれのこりのクリスマスケーキ! いざしゅつじんっ!」 リュミエールは仕方がないと思いつつ、ミーノと手をつないで夜の街へと繰り出した。 ● 「蘭子さん、よかったらボクと一緒にイルミネーション見て回ろう」 蘭子は竜一を巻いて来ると公園にたどり着いた。すると可愛らしいハットを頭に載せたアンジェリカが笑顔でフリフリのスカートを翻して蘭子に走り寄って来る。蘭子は折角だからと誘いを受けて一緒にイルミネーションを見て回ることにした。 光のアーチを潜りながらアンジェリカは白い息を吐く。周りの恋人たちをみながらいつかボクも神父さまと肩を並べて歩けたらいいなと思った。 隣を歩いている蘭子もどこか寂しそうだ。そういえば蘭子には恋人やいい人はいないのだろうか? アンジェリカはふと思ったが、結局は黙っておくことにした。ここに一緒にいる時点でそういうことなのかもしれない。 「や、メリークリスマス、伊藤さん。楽しんでる? 新しいコート、嬉しそうだね」 快が公園を歩いていた蘭子とアンジェリカを見つけて声をかけた。 「ありがとう。新田くんこそメリークリスマス。それはひょっとしてお酒?」 蘭子は快が持っていた袋に興味を持った。中にはクリスマスマーケットで購入したソーセージやらチキンが入っており、さらに特製のグリューワインが入っていた。暖を取るのに最適でイルミネーションを見て回りながら楽しむつもりだ。 「こんばんは。今夜は素敵なイルミネーションですね」 振り返るとそこには可愛らしいコートを被った和泉の姿があった。アークのオペレーターを務めている和泉の登場に快も蘭子も笑顔で会釈をする。 和泉は壮大なイルミネーションのパノラマを見て思った。クリスマスの時期は街中が華やかな電飾で彩られ幻想的な空間を作り出している。特別にあしらわれた空間はさらに夢のような世界を作っていた。中央のクリスマスツリーは特に輝きが違う。 これだけの装飾にどれだけの費用がかかっているのだろう。和泉は思わずそう考えた自分に対してなんて夢がないんだろうと思ってしまう。 「天原さんも俺達とどうです?」 「皆さんとご一緒してもいいんですか」 和泉は笑顔で問い返す。 「ま、お祭り事なら深く考えず便乗して楽しむのが、一番賢いんじゃない?」 快の誘いに和泉を頷いた。友達と見に来たらよかったと思っていた所だった。ちょうど後ろから追いかけてきた竜一と合流して和泉たちは公園内を散策する。 ● 「――大きなクリスマスツリーね。とってもステキ」 祥子は傍らにいる義弘の腕を取って一緒に大きなツリーを眺める。公園の真ん中に立っているクリスマスツリーはまるで夜空に向かって伸びているようだ。 間近で見上げるツリーは果てしなく大きい。電飾に彩られて鮮やかな虹色に点滅していた。降り積もった雪が電飾の色に染まって大きな絵を描いている。 祥子は街のクリスマスの雰囲気に心が踊っていた。義弘と二人で雑誌に見つけたお洒落なバーに向かう途中にイルミネーションを偶然に見つけたのだった。 「義弘さんのところには何歳までサンタクロースが来ていたの?」 「小学生の中学年にはもう来なかったよ。サンタクロースってのがどういう存在か、分かってしまったしな。……まあ、覚醒してから敵にも仲間にも、色んな奴らに会って本当にいるかもしれないと思うようになったがな」 二人はツリーを見上げながら喋った。本当にサンタクロースがいたら自分は一体何をお願いするだろうとふと思う。アークに来てから色んなことがあった。楽しいことばかりではなかった。もうすでに会えない友達や知人もいる。 二人でこれから家で作るクリスマスケーキの計画を話しながら義弘は思った。 ずっとこうして祥子と一緒にいたい。願うならば死に急ぐことなくずっと側にいたかった。 祥子は寒さに震えて肩を竦めていた。義弘は優しく抱き寄せた。クリマスのイルミネーションの中にいるとまるで幻想の中にいるようだ。 このまま祥子を幻の中に失ってしまうわけにはいかない。 「……冷えたか? なら、もう少しだけ温まってから店に行くか」 手を繋ぐと祥子が恥ずかしそうにこくりと頷く。 温かい手の温もりによって義弘は現実の世界をはっきりと感じとった。 祥子達のいる場所とはちょうど反対側に蘭子がいる。一人で他の仲間から少し離れてクリスマスツリーを見ている時だった。後ろから懐かしい声が聞こえたと思って振り帰るとそこには紛れもない海依音の姿があった。 二人は喜んで手を取り合って再会を喜ぶ。まるで親友同士みたいに手を握りながら満面の笑みでその場で飛び上がる。蘭子は同い年のアラサーである海依音と会えて嬉しかった。 「いい服あったかしら? あ、そのコート素敵ね。クリスマスらしい色だわ」 海依音は蘭子の膨らんだ荷物を見て言った。 「海依音ちゃんこそ、そのキャラメル色のダッフル似合ってる」 服を褒めあって笑顔を向ける。 「お互い彼氏がいないとクリスマス暇よねーって蘭子君は原稿なのよね。えっと、コミケ? 間に合いそう?」 蘭子は苦笑した。なかなか進まずにずっと家に引きこもっていたことを明かした。気分転換になるかもしれないと蘭子は取り敢えず外に出ることにしたのである。 蘭子と海依音は近況を語り合った。蘭子はアークに来てから今までのことをすべて海依音に話す。仕事が大変で逃げ出しそうになったこともあったが、そのたびに昔を思い出して自分を鼓舞してきた。 思えば今の状況は蘭子と海依音が初めて会った時と同じだ。あの時はフェイトを失ってしまってもう死ぬしかなかったところを奇跡的に救われた。 蘭子が今ここにいるのは他ならぬ海依音たちのお陰である。蘭子は海依音に感謝していた。ただずっと照れくさくて言いそびれていた。 「時間とまっちゃえばいいのにね」 海依音は綺麗なクリスマスツリーを見上げながら嘆息する。もうすぐ自分の誕生日がやってくる。一週間後には蘭子もひとつ年をとる。一足早く海依音のほうがお姉さんになると思うとなんだか可笑しいと二人は笑いあった。こうやってたわいもないことで友達同士で一緒に過ごすクリスマスも悪く無いと思う。 ふと、少女の歌うアヴェ・マリアが聞こえてきた。辺りを見回すがどこに見当たらない。陰に隠れてよくわからなかった。ヴァイオリンの調べに乗って聖なる夜に声音が高く響く。 突然天から聞こえてきた聖なる調べに、恋人たちが一斉に何か大事な想いを大切な人に伝え合っていた。蘭子も意を決して海依音に言葉を告げる。 「ねえ、海依音ありがとう。これからもこうやって仲良く年を取っていけたらいいね」 空からは再び雪が舞い落ちてきた。イルミネーションに輝いた雪のクリスマスツリーを二人は一緒に飽きるまでずっと眺めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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