●やっぱりお前か 「夜倉先生、オ・ハ・ヨ」 「……赤嶺先生。頭の打ちどころが悪かったので?」 「アラ失礼。ワタシ何時もこうでしょうが」 三高平学園高等部・職員室。『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000202)に朝一で話しかけてきたのは、現代語教師・赤嶺(おネエ系)であった。非常勤である夜倉と彼の上下関係は語るまでもないが、彼らはそれに対して鼻にかけたり卑屈になったりすることはない。優良な関係だということである。 だが、出し抜けに話しかけられたからには「何かある」……そう、彼は考えていた。きっと裏があるのだ。間違いなく。 何せ今日は終業式だ。クリスマスを前にして何もなし、は無さそうではないか。今年は問題ない。コンビニケーキを買えばいいだけのことだ。 「あのね。今年の冬休みの補習なんだけど……」 「プリントの消化と簡単な解説程度なら僕でも出来ますし、お忙しい日があるのであれば代わりますよ」 暇ではないが。断じて暇などではないのだが。 「助かるわ、実は他の学部でもあんまり人が足りてないらしくて……」 うわぁ。 何処と無く嫌な予感はしていたけどそう来たか。 成る程、と夜倉がひとり納得している中、実は大体のことは決まっていたりするが気にしてはならない。 斯くして、クリスマスイブと当日は補習のお目付け役として潰れることがここに確定した。 ●そしてまさかのお前だな そしてクリスマスイブ。夜倉が学園の玄関をくぐった瞬間、その放送は鳴り響いた。 『あーあー、マイクテスト、です……本日はお日柄も良く……』 「……クミ君?」 そう、その声は誰あろう『Rainy Dawn』兵藤 宮実(nBNE000255)である。校内放送をジャックするとは大胆な。 『ただいまより「冬の夜倉狩り」のゲリラ開催を宣言します。何故なら』 「何故なら?」 『私は補習が嫌です』 「…………アホの子の理屈だこれー!?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月08日(水)22:52 |
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■メイン参加者 14人■ | |||||
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●閑話 「ドーモ、レイニー・ダウン=サン。アップリカートです。補習受けるべし。慈悲は無い」 「ドーモ、アップリカート=サン。ヒョードー・クミです……キエーッ!」 「グワーッ!」 クミの平手打ちがアップリカートの頬を強打! 「キエーッ!」 「ゲホーッ!」 手近な胡椒をアップリカートの顔めがけ投擲! ナイスクッキング! 「人の呼び名を間違うなどスゴイ・シツレイ! 『レイニー・ドーン』だ! わかったか!」 「アッハイ……れーちゃん、なに笑ってるんですか」 「いえ、まあ……補習人数が一人から二人に増えたなあと」 「……始めましょう……慣れないテンションで凄く疲れました……」 「ワタシも手伝いますぜクミ姉さん!」 「明奈さんは入試の勉強しましょう、日がもうないですよ……!?」 改めて。 アップリカートこと義衛郎、嶺、明奈、そしてレイニー・ドーンこと宮実の三名がいる場所は、食堂である。 相手が言わんとしていることを察し、強襲めいた反撃を行った宮実は流れに乗ったためかテンションがずれて疲労困憊である。 だが、やらねばならない。こうして捕まってしまった以上は、勉強せねば無事に帰る事は叶わない。夜倉狩りにも参加できない(尤も、参加出来るのもどうかと思うが)。 こうなった経緯について……現在、絶賛逃亡中の夜倉を交えつつ、時計の針を戻して進めていこう。 ●高等部→中等部 「それにしても宮実さんもすっかり夜倉狩りが板に付いてきたね。これなら俺も夜倉狩りを君に任せて、安心して大学を卒業できるよ」 「えっ、新田さんに『任される』とか裏の意味を察してしまって、正直なところ少しだけヒくんですけど……」 「ちょっと待って、もう半年以上経ってるのに俺に対しての偏見直ってないとか酷くない?」 三高平学園、大学キャンパス。 放送室から出てきた宮実を迎え、上着を腕にかけて不敵に笑う快に対し、彼女は汚物を見るかのような視線を向けた。 それもこれも、女性用下着が絡んだ過去の依頼で女性陣に混じってあれやこれやしてしまった快がだいたい悪いのだが、そろそろ時効でもいいんじゃないか、とは思う。ここは女性の感性が大きく反映されるのでこればっかりはどうしようもないね。うんどうしようもないんだ。 「クミ姉さんがやるってんならワタシはどこまでも付いていきますよ! 何でも言って下さい! さあ! さあ!」 「明奈さん、気持ちは嬉しいですし貴女のことは精一杯手助けしてあげたいんですが、その……学力ばっかりは私も手伝えなくてですね……?」 「受験勉強? いいじゃないですか逃避したって! 一日くらい!」 他方、アイドルとしても(引退済みだが)学生としても(エスカレ式の学園の下位だが)後輩に当たる明奈がこうして彼女の暴走に乗ってくるのは生き馬の目を抜くアイドル業界で生き残るための当然の行動原理である、のかもしれない。 いややっぱ違うわ。これ単に慕ってるだけで裏とかねーわ。疑っちゃダメだわこれ。 「……とら君、アウト」 「あいたっ!? 夜倉せんせえ、とらに厳しくない?」 「厳しくありません。補習中のケーキはギリギリ許可しますが、天下の三高平で野放図に神秘を行使するのは許可できません。こと、僕の目が黒くて君が高等部にいて僕が高等部の非常勤である限りは」 「あと一年以上無理じゃん!」 一方、背筋に激しい寒気を感じていた夜倉はとらにチョークを投げつけていた。とらから貰ったチョークを、である。 高等部での補習に参加していたのはミーノ、とら、そして前者の付き合いで訪れていたリュミエールを始めとした生徒たちである。 とらがやらかそうとした何やかやについては、仔細に描写すると彼女のリベリスタとしての寿命がマッハなので敢えて書かないことにします。あと、既にくっつけているテーブルの上にケーキがありますが夜倉への甘味テロではないのでごあんしんです。 「ほ、ほしゅう……これがおわらないとふゆやすみが……」 「去年モ進学スルノニアレダケヤッタノニ今年モカ」 リュミエールはミーノの扱いを心得ている。だからこその呆れ顔なのだろうが、それでもきっちり付き合って完遂させようとする辺りは友達思いもいいところである。光速で終わらせたのだろう、冬の課題も。 寧ろそうであってくれ。 「ミーノのクリスマスとおしょうがつのぜいたくおしょくざんまいがっ」 「大学エスカレーターでも成績不審者ハアガレルワケナイダロ? 頑張レ」 「ケーキとかおもちとかおせちとか……」 「ケーキなら食べていいよっ☆ 終わるまで返さないけど」 「何気ニ鬼畜ダナお前……」 殆ど飯のことしか頭にないミーノに関しては既に今更であるが、思わぬ伏兵の合流にリュミエールも焦りがかいま見える。 目の前に人参をぶら下げれば馬は走るだろうが、人参を最初に食べさせてしまったら馬力が落ちるのと同じようなものである。認めるって言った以上、夜倉も止めようが無いので困りどころだ。 「ぼちぼち休憩時間ですね。次の先生がダメって言ったら、それダメですからね……?」 「こんなのほんとにじゅぎょーでやったっけ……」 「じゃあ、春はあけぼのを我流に訳すね♪」 「勝手ニシロ……」 リュミエールが心配だ。 春は明け方 中二だから高速ぶっ飛ばして迎える夜明けが幻想風景 夏は夜 寝ちゃえば暑さもわかんない 秋は夕暮れ 楽しい夜はこれからだ、ヒャッハー☆ 冬は早朝 バカげた寒さも自販のホットコーヒーを美味しくする調味料だと思えば、いとワロス (とら) 「「全然時代考慮が無ェ!?」」 教室から出るところだった夜倉も思わず突っ込んでしまった。 で、中等部への移動中にその襲撃は発生した。 「私、夜倉さんの味方ですよ? なので、狩るとか考えてません。でも一つ確認したいことがあって……彼の件ですけど」 「あのすいません小夜君、弓を引き絞りながら口にする言葉じゃないということはご理解頂けますか?」 「彼の件、ですけど」 「アッハイちょっと探索が滞ってて同行が掴めないだけですちゃんと探ってますのでもんだいはありません」 「……いくらあの人が好きだからって、相思相愛な私達を引き裂こうと彼のこと探査しないとか、駄目ですよ?」 「何その発想!? その発想どこで何したの!?」 夜倉狩りの本隊が登場するより早く空き教室に引きずり込まれた夜倉は、何故かファー付き手錠で暖房用灯油パイプに繋がれて小夜の詰問を受けていた。どうしてこうなった。 小夜が口にする『彼』が誰であるかは各人の善意に任せたいところであるが、概ね碌でもない人物評だということを予め理解して頂きたい。 だがそれでも、小夜はその相手に並々ならぬ好意を持っており、夜倉は巻き込まれるも同然の扱いで現状に至るわけだが……愛ってこえーな。 「私、同性同士もアリだと思いますし、夜倉さんの趣味を否定はしませんが……」 「だから人の性的嗜好を勝手に捏造しないで下さい!? あんまり噂すると余計」 「え?」 「ハイ」 「……彼の探査、お願いしますね? 今日は私の誕生日ですし」 「別に探査精度とそれは関係な」 「え?」 「アッハイ」 否定は許されなかった。 「じーちゃん、学校には通ったことないの? どう? 補習だから人はすくないけど、普段はもっとがやがやしてるよ」 「集団生活って感じね、いいなあ。あたしも若ければ通うのに」 夜倉が手錠掛けられた頃、夏栖斗とエレオノーラは高等部をゆったりと移動していた。体面上デートらしいが、事実としてそうとしか見えない外見なのがなんとも言えない。その実際をあれやこれや詮索するのは善いことではないので、仕方ないっちゃ仕方ないのだが。 日本とロシアの教育体制の違いというのは然程大きくないのかもしれないが、そこは彼の育った環境というものが寄与するところが大きいのである。尋常ではない環境が普通かそうでないか、幸せなのか否かは外界を知らない限り理解しようがない。 彼にとってのそれがどうであっても、日本の環境、ことエスカレーター式のこの学園規模においては目新しい物に違いない。 「勉強することとかいろいろあってリベリスタ業との兼業はきついけど、やっぱ、普通の青春送りたいじゃん? 僕も」 「今しか出来ないなら今やらないとね。後悔したくないもの。……勉強とか、宿題とかね」 エレオノーラなら中等部で通用するのでは、などと軽口を叩いた夏栖斗への意趣返しか。 宿題が終わっていないことを指摘され、喉奥から絞り出すような呻きを上げた彼に、エレオノーラはにこりと笑う。 語学力もさることながら、これは手を抜けない指導官がついたものである。 「狩りの……時間、だ」 「いいえ補習の時間です。舞姫君、早々に教室に戻りましょう」 舞姫はトランス状態だった。真っ先に自分に襲いかかるものと身構えた夜倉は、しかし彼女の状態が尋常では無いことに早々に気づき、首を傾げる。 「今日この日こそ、わたしがリベリスタとして磨いてきた技と力を示す時……街にあふれ出す、邪悪どもを駆逐するッ!」 (カップル滅ぶべしとかかな……?) 「赤黒い衣装を纏った白髭の老人のようなその顔には、厭らしく歪んだ笑みが浮かぶ……憐れな善男善女を絶望の淵へと叩き込む邪悪なサバトの主たち……」 (ニ……じゃなかった、あれか) 善なる男女だったら、子供なら絶望どころか希望まみれではないのだろうかと突っ込みたくなった夜倉だがそこは我慢。話しかけたら終る気がする。 「ヒャッハー! サンタ狩りだッッ!!! サンタを狩り尽くす使命を果たすため、補習免除を申請する!」 「却下に決まってるでしょうが!」 だめだこいつここで止めないと。 「何故? 何故、却下なんです!? 貴方たちには、世界が危機に晒されていることが分からないんですか?」 「危機に晒されているのは舞姫君の脳内設定ですよ! 落ち着きなさい!」 夜倉だってクリスマスイブにこんなところで自分の受け持ち生徒とこんな議論したくない。クリぼっちは寂しいもんな。 「口で言ってわからぬならばぶほァゥ!?」 「……え?」 強引に突っ切ろうとした舞姫の頭部を、白い球体がストライク。独楽めいて回転して壁面にダイブ! ポイント倍点! 一瞬で動きを止めた彼女に駆け寄った夜倉は、それがなんであるか確認するまえに第二波に弾き飛ばされた。 「それじゃ、今年最後の夜倉狩りだ。派手に行くぜー!」 「夜倉さんをここで倒せば私の補習が……!」 「クミ姉さんカッケー! そこに痺れる憧れるゥ!」 「ゆ、き、だま、かぁぁぁぁぁ!?」 そう。 それは夜倉狩りの面子が用意した雪球。見事にストライクしたところから何とか立ち上がった夜倉は、一目散に中等部へとかけ出した。 足を止めたら、死ぬ。 ●中等部・最終決戦(何の?) ( ゜非゜) 「……あの、まお君その格好は」 「こんにちは、夜倉先生。まおは影武者がんばります」 中等部。入ってきた夜倉を出迎えたのは、だぼだぼの袖を揺らし、彼と近い背丈で闊歩する某かの姿だった。ハロウィンで見たぞコレ。まおの仮装だ。 背丈のマジックはよくわからないが、頑張っているようだ。包帯の面積が丁度一年前に退行しているが、頭に血が上ったメンバーなら気付くまい。 ……気づかないとそれはそれで大事なのでは? そう夜倉が考えるより先に、まおは歩き出していた。 「と、とにかく無理せず! 冬休みは始まったばかりなんですからね!」 「はい、がんばります」 わかってくれてるのだろうか、これは。 「メリークリスマス。はい、プレゼント」 「……珍しいですね。会って一発目に普通に挨拶とは」 「そこまで珍しくないわよ。受け取って」 夜倉の発言も大概問題だが、そう認識されてしまうほどにシュスタイナは夜倉にとって鬼門だった。嫌いではない。苦手……とは違うか。無下にしにくいだけに厳しい相手だ。しかも、何故か後ろに竜一が居る。見なかったことにしよう。 彼の肝煎りとかすげえ恐いんですけど。 「まあ、いいです。開けさせ……」 ドムッ。 鈍い爆発音と共に、夜倉の顔が垂直に跳ね上がる。首は縦に百八十度をマークし、たたらを踏むでもなく膝から崩れ落ちた。 ヤバい。口から煙出てる。 「ごめんなさいっ」 「ヒャッハーーー! さあ、シュすたん! 肩車で撤収だー!」 「今回は肩車は必要なくない?」 最初からわかってました風の竜一が、シュスタイナを肩車で担いで一目散に逃げ去っていく。 残された夜倉は、数秒間そうしたあと、何事も無く立ち上がった。 「くそっ……救援が要りますかね……!」 通話先は市役所。確か半ドンの彼が居たはず。 そこから暫く先の話。 「あーまずった。……そうだ」 「ん? プレゼント? 俺に?」 懐から取り出された小箱は、可愛らしい女性趣味に満ちたものだ。竜一が手に取ると、顔を逸らしながら言葉が続く。 「これは爆発しないから。……その。お……お兄さんに」 一瞬の沈黙。そして、 「うおお! ありがとうー! お兄ちゃんだよ!」 すりすりすりすり 「ちょ! すりすりはダメよっ!」 すりすりすりすりすりす 竜一、アウト(倫理的に) 「義衛郎君、今終わりですか? 終わりですね? すみません、クミ君を何とかして下さい」 「いきなりどうしたんですか月ヶ瀬さん。いつものことじゃないですか」 「いつもより悪質だから言ってるんですよ!?」 とまあ、振り出しに戻るわけである。 宮実と明奈は、義衛郎と嶺という二人の監視がある以上逃げ場もなく補習を受けることとなり(方や入試勉強だが)。 何故か逃げ切っていた快は舞姫に何故かサンタ狩りの対象にされたりとかしながら。 高等部三人娘はきっちり二人分の及第点をゲットして意気揚々と下校、そのまま遊びにいったりとかして。 クリスマスイブは、騒乱の中続いていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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