● 『この世界の者達の知力は、如何程のものか』 半人半馬の識者が興味を持つのは、出会った者の知力。 『この世界の者達の戦いは、どのようなものか』 そして同時に、出会った者の強さにも興味を持っている。 いて座のアザーバイド、ボレアリス。 彼は幾多の世界を渡り続け、出会った様々な人々との知と勇のやり取りを楽しむ存在。 しかし彼はそのやり取りに満足できない――即ち、知と勇のどちらかが著しく欠けたやり取りになれば、段々と怒りを溜めていく。 そしてその怒りが頂点に達した時、曰く父親の雷とも言うべき激しい雷雨がその場に降り注ぐだろう。 ボレアリスが得意とするのは、そういったやり取りを行うための空間を作り上げること。 所謂、特殊空間的なものを用いてのやり取りを彼は好む。 「せっかくだから俺はこの赤い……じゃねぇ、勇の扉を選ぶぜ」 彼とのやり取りを望み、この場に立つ者がいた。目の前には、ボレアリスが作り上げた特殊空間へと通じる扉。 名を風祭・翔。 逆凪に所属するフィクサードではあるが、数人のリベリスタとも交流を持ち、悪事よりも自分が強くなる事を主眼として動いている少年である。 個としてみれば、彼の強さはアークの精鋭にそう引けをとるわけではない。 そう、彼は強いのだ。 『勇の扉だな。では青い扉を通ると良い。君の強さに期待しよう』 「ははは、目に物見せてやるぜ!」 だがボレアリスは知らない。 風祭・翔は根本的に馬鹿なのだ。赤と青の違いくらいはわかるが、なぜか指示通りの青い扉ではなく、赤い扉を潜るほど――だ。 それは色の違いがわからないから、ではない。 東に進むといいながら夕日に向かって進むとすれば、どれほどのレベルか伝わるかもしれない、それほどの馬鹿だからだ。 『――勇の扉をなぜ潜らないのか。……まぁいい、では最初の問題だ。簡単なものからいこう』 「あぁん、なんで問題になってんだ? いやまてよ、俺が通ったのは青じゃなく赤……! 選びなおしは!?」 『残念ながら無理だ。では問題。『山茶花』の読みを答えてみよ』 扉の選びなおしが出来ぬまま、ボレアリスと翔のやり取りが始まる。 答は『さざんか』であり、習ってさえいれば誰にでも答えられる簡単な問題。 「知るか! パス!」 『……じゃあ扉を壊して通れ』 もしわからなくとも、次の課題の待つ部屋への扉を破壊すれば次のステップには進めるらしい。 『……次の問題』 「パス!」 『……これくらいなら、わかるだろう。否、わかってほしい! 1+1の答は!?』 「めんどくせぇ!」 果たして本当にわからないのか、それとも単に扉を破壊すれば先に進めるのだから破壊してしまえという考えなのか。 幾つかの課題を、翔は全て扉を破壊して進んでいた。 『……ここまでストレスが溜まる相手も珍しい。シルバーウィザードが来たいと望んだ世界は、こんなものか。アルタルフやレグルスが言うほどの事は無かったか』 最早ボレアリスの怒りのボルテージはMAXに近い――。 ● 「誰か、この子に勉強を教えてあげて」 深い深いため息をつく桜花 美咲 (nBNE000239)だったが、勉強を教えるにしても、どのレベルから教えれば良いのだろうか? 「……難しいんじゃないかなぁ」 等と『白銀の魔術師』ルーナ・アスライト (nBNE000259)が言うように、理解させるまでの道のりはきっと険しいこととなるだろう。 さておき、今回はボレアリスの雷撃が周辺地域に降り注ぐ前に、彼の試練を突破する事がリベリスタ達に課せられるミッションだ。 通るべき扉は、青き勇の扉。 赤き智の扉は風祭・翔が進んでいるため、開くことは決してない。 「勇の扉の方が、進むだけなら簡単でしょうね。それぞれの部屋に現れる敵を、倒して進むだけだから」 美咲がそう言うのも当然だろう。 もしも翔が間違えずに勇の扉に入っていれば、そもそもリベリスタ達が召集されることもなかったわけだが。 部屋の数は3つ。 それぞれの部屋にも現れる敵にも特徴はあるが、どの部屋も最後に待つボレアリスが作り上げた存在であるため、突破するだけなら大した問題はない。 「問題があるとするなら、ボレアリスに至る前に消耗することが必須、ってことだけど……」 智の試練において、扉を破壊する回答は即ち簡易的な勇の試練。 勇の試練において、消耗を抑えつつ突破する方法を考えなければならないのは、簡易的な智の試練。 集まったリベリスタ達が上手く戦えば戦うほど、翔の強引な試練突破によるボレアリスの怒りのボルテージは抑えることが出来る。 即ちそれは、最後に待ち受けるボレアリスの攻撃が多少は弱体化することを意味している。 「なるほど、早く突破すればするほどに楽になるんだね。ただし迅速な突破を狙えば狙うほどに、消耗も激しくなる、か……」 うなずいたルーナは、どちらが正しいかを図りかねているらしい。 可能な限り万全の状態を維持して怒りのボルテージが高まったボレアリスとぶつかるか、それとも消耗した状態であっても怒りのボルテージの低いボレアリスとぶつかるか。 どちらが正解かは、その場ですぐに決められる話ではないだろう。 「簡単だけど資料は纏めておいたわ、対策を練ってから挑んでね。じゃあ、頑張って」 全ては集まったリベリスタ達の手に、委ねられた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:雪乃静流 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年01月02日(木)23:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●挑戦者を試す扉 「知と勇を試す、か。射手座のモチーフになった神は兼ね備えてたらしいわね」 ボレアリスの星座はいて座。神話においては賢者ケイローンがそのモチーフであり、『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)は神話とアザーバイドの奇妙な繋がりに感じるものがあるらしい。 その繋がりも影響しているのか、いて座のアザーバイドであるボレアリスは、この2つの試練を用いて訪れた世界の人々を試しているのだろう。 『新たな挑戦者か。生憎だが、今は赤の扉は試練の最中だ。勇を試す青の扉しか開かない。受ける受けないは自由だが……』 ふと、耳に届くボレアリスの声。 先約がいる扉は封鎖されてしまうため、リベリスタ達が受けられる試練は勇の試練である。 「翔君……馬鹿だとは思ってたけど想像以上だったよ」 もしも先に試練に挑戦した風祭・翔が青き勇の扉を選んでいたらと、『愛情のフェアリー・ローズ』アンジェリカ・ミスティオラ(BNE000759)は深いため息をつく。 「以前に遭遇したアザーバイドを知るアザーバイドと出会う機会を得られたのは幸運だ。だが! その理由があの馬鹿とは!」 ヒルデガルド・クレセント・アークセント(BNE003356)の拳は、わなわなと震えている。 彼は馬鹿だが、実力はアンジェリカもヒルデガルドも認めるレベル。 勇の試練を受けてさえいれば、こうして集まる必要もなかったと考えるのも無理はない。 「フィクサードの彼は紛れもないアホだとは思いますが……まあ分からなくはないです。こういう時は赤い扉を選ぶのがお約束なんですよ」 しかし赤い扉を選んだ事は本能的なものであるのだろう。それがお約束なのだからと『デストロイド・メイド』モニカ・アウステルハム・大御堂(BNE001150)が頷く。 先ほどボレアリスが言ったように、試練を受けるも自由、受けないも自由。 『腕に力があるならば、試練を受けるがよい』 とはいえ、集まったリベリスタ達はこの勇の試練を突破するために集ったのだから、 「もちろん受けるぜ」 答えた鷲峰 クロト(BNE004319)にも、他のリベリスタにも一切の迷いはない。 (俺もどちらかと言えば馬鹿な方だから、俺様さいきょーの翔が知の試練に行ってくれたのは助かったな) むしろクロトは勇の試練が受けられて良かったと思い、 「純粋に知恵と力を見たい、競いたいって言われるのは、悪い気分じゃないよな」 扉に手をかけた『赤き雷光』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)のように、智と勇、どちらであっても試練自体を楽しむ気概を持っている者もいる。 「試練の種類がどうあろうとも勇と智とを両立させてこそ、大御堂の名を持つ者としての拍が付くというものです」 ならば、行こう。促す『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)の言葉に頷いたカルラが、準備が整ったと判断し――否。 「19歳でも幼稚園児!」 自身の能力を活かし(?)園児服を着た『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)が彩花の姿をコピーしたところで、準備が整ったと扉を開く。 『――その行動に意味があるのかね?』 「シャチョー弄りをしないとなんか落ち着かないんですよね。放送終了時に座布団が残ってる紫の人みたいな感じで」 『まぁ、好きにするが良い……』 耳に届くボレアリスの声には、わずかながらため息が混じっていた。 ●ボレアリスの試練 最初の扉を開いたリベリスタ達を待ち受けるのは、無数の獣達。 しかしそのどれもが、普段から相対しているエリューションよりは少し弱いと聞き及んでもいる。 普通に戦っても楽に勝てる相手ではあるが、状況は迅速な突破を彼等に望む。 「ともかく、彼がやらかしすぎちゃう前に試練を突破しないとね」 そう言いつつ、不吉を告げる月を輝かせるのはアンジェリカだ。 可能な限り多くの敵に不吉を届け、出来うる限り相手の攻撃を避ける。戦い方としては理想的な結果を追い求める彼女ではあるが、やはりその数の多さは決して一筋縄ではいかない。 そのせいか火力も決して油断出来るものではなく、直撃を避けるのが精一杯といったところか。 「俺は火線を薄くするか。ほら、こっちにも敵がいるぜ!」 そんな激しい攻撃を掻い潜ったクロトの刃が時を切り刻み、2匹のタートルを氷漬けにしたところで、敵の注意が彼の方へと向いた。 戦場においては一瞬の油断が命取りとは言うが、部屋に巣食う試練の獣達はまさにそれを体現したのかもしれない。 「俺の拳だけで倒しきる必要はない……だろ?」 一瞬であっても生じた隙を逃さず、カルラのばら撒くガトリングの如き激しき拳の嵐が獣達の注意を逸らせば、 「そういうことだな。わたくしも今ならば攻撃に転ずることが出来るぞ」 ヒルデガルドの放つ気糸が、標的を選びかねているウルフの機先を制してその動きを封じる。 加えて幸運だったのは、この時に数匹の獣がバランスを崩してあられもない方向に攻撃を打ち込んだことだろう。 本来ならば、そんなお粗末な動きを見せる存在ではないはずの獣達。彼等は所謂、不運に見舞われていた。 「効いていたのね、あの月が。なら、今は態勢を整えさせてもらおうかしら」 「今がチャンス、っていうやつだね」 その不運はアンジェリカによってもたらされたもの。その機運を小夜香は後を考えて態勢を整えることに使い、ルーナは雷を迸らせて攻撃を途切れさせないように努めた。 第一の部屋において必要とされるのは、強い火力だけではない。 アンジェリカの届けた不吉が、クロトの刻んだ時が、ヒルデガルドの操る糸が積み重なれば、相手の火力は自然と弱まっていくのだ。 後はその弱まった火線に耐えつつ、カルラやルーナのように一気に攻撃を叩き込んでいけば良い。 受けた傷は小夜香とキンバレイが健在ならば、特に大きな問題にもならないはずだ。 「皆に続いて速攻を狙いましょう。お嬢様、指示を」 「では、全力を持っての殲滅を」 彩花の指示を仰ぐモニカのガトリングが火を噴く一方、モニカをタートルの十字砲火から、突撃するウルフから庇い守る彩花。 『こちらは見応えがあるな』 翔と智の試練のやり取りを続けるボレアリスにとって、第一の部屋を突破せんとするリベリスタの戦いぶりは『見事』という他になかったらしい。 「ところで質問があるんだ」 そして第一の部屋の敵を倒しきった後、ボレアリスに対してそう呼びかけるクロト。 『聞こう』 「インターバルはありか?」 問うたのは休憩の是非だ。多少なり休んで態勢を整えてから進もう、それがリベリスタの取った試練攻略の手である。 智の試練を翔が強引に突破している今、迅速さを求められる状況でのインターバルは、ある意味では危険とも言える一手。しかし万全を期すという意味合いでは決して悪手ではない。 『それもまた戦略であろう、試練としては高得点を出せる選択ではないがね』 とはいえ、ボレアリスは明確にその辺りのルールを定めていない。それに気付くのもまた試練ということか。 第二の部屋の石像は、第一の部屋で見せた連携を駆使すれば、それほどに手強い相手ではなかった。 時間が経つごとに体力を奪われる術を施された点だけが厄介だったものの、それくらいで怯むリベリスタ達ではない。 大きな問題として立ちはだかったのは、やはり最後に待ち受ける第三の部屋だ。 「数が多い上に手数を打てない、か。厄介だな」 カルラがそう毒づいたのもしょうがない話ではある。 この部屋に現れる敵は第一の部屋と第二の部屋に現れた敵が混在し、そして数も多い。 「こういう戦場は試練って感じがするぜ。出し惜しみしないといけないってのは、歯痒いけどな」 何かしらの技能を使う場合、必要とされるのは2回分の力。必要な弾薬も2倍、魔術ならば2倍の魔力。 クロトの言うように出し惜しみをしなければ、下手をすると媒体が枯渇して強力な攻撃を扱えないままにボレアリスと刃を交えなければならない。 『グァァァ!』 そんな時、一斉に踊りかかってくる狼達。 騎士と魔術師の石像は、その硬さを利用しての壁役だろうか。最後尾に展開する亀達は、可能な限りの安全を確保した上で砲撃態勢に入った様子が見て取れた。 「抑えることには賛成だよ……最後にとっておきたいからね……」 飛び込んできた狼の攻撃を難なくかわし、返す刃で指先をむけて力を奪い、自身の糧とするアンジェリカは温存策に賛同し頷く。 「そうだな。わたくし達ならば自前で何とかする事も可能だからな」 「モニカ、もう少し弾薬を補給しましょう」 これまでの戦いで使い果たした力をインターバルの最中に補給した上、ヒルデガルドと彩花はこの戦いの中でも仲間の補給を主眼に動いている。 「ここが正念場ですね。撃ち抜きますよ」 「一気に数を減らしたいところだな。そっちはいけるか?」 補給さえ受けてしまえば、弾薬が2倍となろうが余裕はある。手数をばら撒く役目はモニカとカルラが担い、 「3回までならな。じゃあ、行くぞ!」 斬り込み役のクロトは、亀への道を阻む石像群へと突っ込む戦法を選んだ。 「癒しよ、あれ」 「今だけはマジメなんですよ?」 飛び交う砲火から受ける仲間達の傷を小夜香とキンバレイが癒す中、最後の試練はそれでも徐々にリベリスタ達を消耗させていく。 『良き戦い方だ。善哉、善哉』 戦い方としては見事という他にないリベリスタの戦いに、さしものボレアリスも満足げだ。 ――しかし。 『こちらの方も終わりそうだな』 どれほどに迅速に勇の試練を突破しようと、とったインターバルの分だけ翔は進む。ボレアリスが智の試練の終わりを口にするほどに、である。 智の試練、勇の試練。そのどちらも、最後の試練に到達する時は近い。 ●いて座の賢者 「いざ尋常に勝負……ってな」 『どこまでの余力を残しているか、試させてもらおう』 あくまでもこれは試練だ。軽く地を蹴るステップと共に、軽やかに舞うクロトの刃を受け流したボレアリスは、そうリベリスタに釘を刺した。 「少なくとも俺は全力だぜ……あんたも、出し切ってくれるんだよな?」 『全力? 全力とは、こういうことか?』 ここに至るまで、そしてここに至ってからもカルラは自身の智と勇の全てを出し尽くしている。故にボレアリスに対しても全力を望むカルラだが、その全力は現時点では想像もつかない。 その全力がどれほどのものか? 「よっしゃ、全部クリアしたぜ!」 『もう少し勉強してこい!』 その答は、翔がボレアリスの雷撃をまともに受けて崩れ落ちた事で理解は可能だろう。 彼とてアークの精鋭にそう引けを取るものではない実力を持っている。しかし、ボレアリスの雷撃は怒りが頂点に近い事もあってか、その威力を格段に増加させているらしい。 「気を抜ける相手ではないわね」 つぅっと小夜香の頬を汗が伝う。既にこれまでの戦いで消耗させられている今、目の前のアザーバイドを真っ向勝負で倒しきる事は相当に難しい事を、誰もがわかっている。 ならば課された試練、即ちボレアリスが『これで良い』と判断するだけの戦いぶりを見せて、完全なる怒りの爆発を抑える事が重要となってくる。 「勝手にやって来て勝手に試練とか言い出して、勝手にストレス貯めて爆発されても困るんだけどな」 そう愚痴を零すアンジェリカだが、受ける受けないは挑戦者の自由である事も事実。 誰も試練を受ける者が現れなければ、それはそれでボレアリスは良かったのだろう。 だが、受ける者がいた。 赤と青を間違えるミスはある意味ではボーンヘッドであり、その結果がボレアリスの怒りを招いている事実を考えれば、別にボレアリスの勝手が全てではない。 「……まったく、余計な仕事を増やしてくれた」 相手の死角、後ろを取りにかかったヒルデガルドは、真っ先に戦線離脱した翔を一瞥し、ボレアリスを攻め立てていく。 「今はそれを考えても仕方がないですね。あなたの足は止めます。モニカ!」 「わかりました、お嬢様」 どうやら狙いを単体に絞らなければ威力の落ちるらしい、降り注ぐ雷撃に耐えつつも、果敢に前に出てボレアリスに十字の斬撃を打ち込む彩花からの指示がモニカに飛ぶ。 『上司と部下か』 「私のような役割もそれはそれで戦闘に必要なんですよ。私はメイドですから。私の力は私自身の物ではありません」 構えたモニカの得物は殲滅式自動砲。 対するボレアリスも、彼女に合わせるかのように弓を構える。 「私を使う者がこの力を活かすんですよ。そういった考え方もあるって事です」 『軍師の存在は軍勢には不可欠。シルバーウィザードがそうであったな』 モニカの戦い方、考え方に共感を示すボレアリスの矢と、モニカの銃弾が放たれたのはほぼ同時。 中空で激突する両者の射撃は激しい衝撃波を巻き起こし、部屋の中を全員の攻撃の手が一瞬止まるほどの重圧が荒れ狂う。 「すごい衝撃だね……」 『お前は……いや、違うか。口調も容姿も見間違いそうなほどに似ているが、感じる強さがシルバーウィザードより脆弱だ』 この時、ルーナの姿を見たボレアリスがそう口にした事を気に留めた者がいたかは定かではない。 しかしボレアリスが驚いたそこに出来た一瞬の隙を、見逃さなかった者はいた。 「掛け値なしのフルパワーだ! 全弾もっていけ!!」 『ぬ……しまった!』 全力の中の全力。 ありったけの力を込めたカルラの拳が、寸分違わずボレアリスの腹へと叩き込まれていく――。 ●試練の終わり 「そこに直れ風祭! 貴様が勇の試練を受けていれば、わたくし達アークが出る幕もなかったのだ!」 「いやほら、間違いってのはあると思うんだ!」 翔が意識を取り戻し起きると同時に、説教を始めるヒルデガルド。 彼が間違った選択をしなければ、こうしてボレアリスの試練を受ける手間は発生する事はなかった。 「結果として、レグルス達の話を聞ける部分も否めないけどね」 「そうではあるが……しかし! 賢くなれとは言わぬが、判断を誤るほどの馬鹿でどうする!!」 だがその間違った選択が、小夜香をはじめ数人のリベリスタが聞きたかった、知りたかった話を得られるきっかけになったのも事実だろう。 (耐えろ、耐えるんだ) 思わずあまりの馬鹿さ加減に笑ってしまいそうな衝動を、カルラは必死に堪えてもいる。 姉に思い切り怒られる弟のような様相を呈するせいか、翔は反論も出来ぬままに肩身が狭くなっている様子だ。 そんなヒルデガルドの説教が続く中、やはりボレアリスとの会話の中心となったのは、やはりその事について――だった。 かに座のアザーバイド、アルタルフ。 しし座のアザーバイド、レグルス。 数名のリベリスタにとっては、面識のある友といえる存在。 『レグルスは今も戦いの真っ只中だな。アルタルフの軍勢とシルバーウィザードが助勢してはいるが、不利な状況のようだ』 「この世界に影響を及ぼす可能性はないのかしら?」 彼等の現状を口にしたボレアリスに、小夜香が問う。 毎月のように誰かしら星座のアザーバイドが現れる以上、問題が飛び火する可能性が高いと考えれば、その質問は当然か。 『……ないとは言い切れぬ』 そしてそれに対しての回答は、ゼロではないというもの。 もしかしたら、近い将来にそれは形となって現れるかもしれない。 「まぁ、そんときゃ俺がぶちのめしてやるからよ!」 話を聞いていたらしい翔が、料理の乗った皿を手に自信ありげに言う。 「トマトとバジル、スモークサーモンをオリーブオイルで和えてみたよ……どうかな?」 「うめぇ!」 皿に乗っているのはアンジェリカが岡持に詰めて持ってきた冷製パスタだ。『おいしい』の一言に満足げに頷いたアンジェリカは、料理を仲間達にもボレアリスにも振舞っていく。 (どうやらフェイトは得ているようですし、問題はなさそうですね) 一方で懸念されていたフェイトの問題を、ボレアリスを見る限りでは大丈夫だと判断した彩花は、心配が杞憂に終わった事に胸を撫で下ろしていた。 ……のだが、彼女の眉間にはすさまじく皺が寄っている事には誰も気付いてはいない。 「シャチョーさんの機嫌が悪いので姿を変えますか……アク倫に挑戦! マイクロビキニ彩花モード!」 原因はキンバレイの悪ふざけが極まっているせいなのだが、彩花の傍に控えるモニカは指示が出ないせいか止めようとしない。 じわりじわりと、この試練が始まるときから溜まり続けていた怒りは、最早爆発寸前。 「あ、幼稚園彩花は電子の妖精で大御堂のTOPページに貼り付けておきましたので……」 「……失うのが物理的なモノだけとは限りませんよ?」 それでも止まらないキンバレイの暴走に、ついに堪忍袋の緒が――切れた。 にこやかな笑顔の裏に隠された怒りのオーラは、翔に対して怒りを爆発させかけたボレアリスのそれと同等か、それ以上で。 『くわばらくわばら。諸氏には避難を勧めるぞ』 とまで言わしめるほどだったとか。 いて座のアザーバイドは、しばらくの後に元の世界へと帰っていく。 めぐる運命の輪が次に指し示すのは、やぎ座の輝き――。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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