● 四国で賊軍が暴れたのは記憶にも新しいだろう。 荒れる四国から脱出する際、私を救ったのは意外にも黄泉ヶ辻の連中であった。 剣林である私だ。 彼等の手を借りるのは正直も何もかなり嫌であったのだが、私も私で体力を消耗していた。四国を蔓延る強敵を倒しに行くのも構わなかったが、最低のコンディションで自殺しに行く程、私の心は狂ってはいない。 何より、友人達を残して先には逝けないと思ったのだ。 其の後。 彼女達から聞いたのは私を助けに来た剣林の友人達が、四国に入る事も叶わずに皆……散っていた事。 フィクサードで在るが故、死による別れが来るのは覚悟していたが、原因が完全に私に在るという点で悔やんでも悔やみきれない。 「九朗……すまない、すまない……ッすまない……」 深い悲しみと、罪悪感に駆られた私は涙という存在を忘れて怒った。 彼等の最期は知らねど、せめて少しでも報われていればと。遅すぎる願いを捧げるしかできまい。 されど安息は許されなかった。 私の右耳に吐息がかかる。 「悪いのは裏野部だよ、君の友人はノーフェイス化しても戦ったみたいじゃないか」 私の左耳にも吐息がかかる。 「悪いのは裏野部だねぇ? 貴方の友人は貴方を按じていたみたいだよぉ?」 小さな波紋が、段々と大きくなっていく様。 「復讐しないと、裏野部に。残党が居る場所、ボク知ってるんだけどな」 「復讐しなくちゃあ! 早くしないと全部見失っちゃうよぉ?」 ひそひそ、ひそひそ。ひそひそひそひそ。 耳にかけられる吐息によって、波紋がこじ広げられて、揺さぶられて、段々段々段々段々、私の何かが崩れ落ちていくのが解る。 「やめてくれ!! 私は復讐など……!!」 頭を抱え、耳を塞ぎ、首を横に振りながら抵抗する、してみる、だが無理無駄困難。彼女達の声が鼓膜に響く、響いて擦り着いて離れなくなる。 「友人は君の為に戦ったのに、君は友人の為に戦わないのかい?」 「キシシシ、報われない、報われないね? 君のせいでみんなみんなみーーーーーんな死んだのにぃ」 「や、やめ、やめて、やめてくれ、や、あ、やめやめやめやめ………ッ」 耳から離れた二つの吐息が、目の前で冷たい目線を送って私を見た。 「「卑怯者」」 「う、……うわあああああああああああああああああああああああああ!!」 腕の切磋琢磨は好きだが、殺しは好かなかった私だが。 其の時、全てがもう……どうでもよくなってしまった。 ● 「依頼を宜しくお願い致します」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は集まったリベリスタ達を見回してそう言った。 今回の相手は、フィクサードだそうだ。 「黄泉ヶ辻と剣林と賊」 多いね。 「黄泉ヶ辻のフィクサードは、剣林のフィクサードを取り込んだみたいですね。実質、此の剣林は黄泉ヶ辻に成ると思った方がいいかもしれません。名前を、戸部・馨と言いまして……」 確か、戸部馨は一度四国でアークのリベリスタと一戦交えた後、行方不明になっていたはずだ。 まさか、運悪く黄泉ヶ辻のフィクサードに捕まった、いや、唆されていたとは不運である。 「今は、ほぼ精神が破綻している状態と言いますか……賊を殺す為の機械に成っていると言いますか……」 成程、戸部馨は黄泉ヶ辻のフィクサードに有る事無い事を吹き込まれて、そうなってしまったらしい。 「黄泉ヶ辻と馨は四国の賊残党が居る場所に行きます。というのも、賊の持っている物を盗りに行く為ですね……其の、忘れ物を黄泉ヶ辻に渡さないで頂きたいのです」 賊の持ち物。 もといアーティファクトの名前は『血濡れた生神女』。逆さまの女神が装飾としてついた長い針だ。 此れは妊婦の刺せば、たちまちお腹の中の子供が革醒するというもの。ノーフェイスか、フェイトを得るかはさておき……。 「黄泉ヶ辻に渡った場合の用途は……多分、裏野部の幹部の女性に、でしょうかね。 どうせロクな事にはなりませんし、アーティファクト自体も非常に危険なので、此れの破壊か回収をお願いします」 其の血『濡れた生神女』は賊が持っている。実質、賊と黄泉ヶ辻とアークの三つ巴という形に成るだろう。 かといって、賊との共闘は非常に難しいものもあるし、賊も黄泉もひっくるめて交渉が通じる相手でも無い。 そして黄泉ヶ辻は完全の賊が油断している隙を突いた為、リベリスタが到着する頃には賊はかなり消耗している。力関係的にも圧倒的に黄泉ヶ辻勢のが有利なため、賊が勝手に壊滅するのも時間の問題だ。 何より、場所が悪い。 「それが……デパートの地下一階、フードコートで騒ぎを起こしてくれたので、一般人も居るのです。其方の被害も少なく成る様にお願いしたいのですが……すいません」 黄泉ヶ辻勢は『十・九(もがれ・いちぢく)』を筆頭とした女子高生だらけの部隊である。 『ライン』というアーティファクトを共有した16~18歳あたりの少女達で構成されている一派だ。 「十・九はホーリーメイガスです。 ラインの親機を使い、戦闘指揮に見立てた能力を使ってきます。つまりまあ、彼女さえ殺す事が出来れば黄泉ヶ辻勢はかなりの戦力低下が見込まれるかと思います。また、彼女の事を付きっきりで護るのが『上下・両輪』というクロスイージスですね。九に攻撃を通す場合は、両輪を如何にかするしか無いでしょう」 そこにプラス、剣林の戸部・馨が混ざる。 「彼女は防御を無視する事が可能なアーティファクト、刀を持っています。其方にもお気をつけて」 さて、賊だが此方は残党は残党であり、特に秀でて強い者は見受けられない。 只、アーティファクトだけはなんとかしなければならない。賊に持ち帰られても駄目だし、黄泉ヶ辻に渡すのもいけない。やる事は多いが……。 「それでは皆さん、宜しくお願い致します」 杏理は深々と頭を下げた。 ● 手にめいっぱい掴んだ精神安定剤を口の中に入れた馨。 あれから眠れない。 あれから夢に友人が出てくる。 「殺せ、殺せ、殺せ」 そう、言って来るのだ。 「殺す、殺すよ、殺せばいいんでしょう、賊を一人残らず……っ」 其れを嘲笑いながら、武器を持った制服姿の少女達の間に居た九・十と上下・両輪は笑った。 「賊専用キラーマシーンが出来たから好都合だね。序に此の侭飼い殺しも悪くないしね」 「悪い子だねぇ、九ちゃーん! そろそろ教えてくれても良いんじゃないかなぁ、なぁーんできょーちゃん様のお友達の組織連中を倒そうとするのぉ??」 「ああ、それはね」 如何やら裏野部一二三の、最後の種を孕んだ女が居るというじゃないか。 今後の本当の狙いは其の、腹の中の子。 革醒していないらしいから、強制的にそうさせる道具が欲しいのだ。 「罪の血を育ててみたら、すっごい面白そうな殺人鬼ができるよね。それって黄泉ヶ辻の為にも裏野部の為にもなるよね」 「美味しそうな臭いがぷんぷんするねぇ、九ちゃん悪い子~いっけないんだ~!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年06月01日(日)22:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「リベリスタ、新城拓真。それまでだフィクサード」 『誠の双剣』新城・拓真(BNE000644)が九へと向かって飛び込む、されど彼女の位置は後衛。拓真が切り込む前に、同じデュランダルの女子高校生が大剣を手前に彼の攻撃を受け止めたのであった。 「さあ、戦場を奏でましょう」 『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は仲間の思考と己の感覚を繋ぎ、そして指揮棒が空中を撫でる。ピッと指揮棒が止まった位置――クリミナルスタアの暴れ大蛇が奔走していた。其れがミリィを攻撃せんと迫って来た時 「どーもご機嫌麗しゅう。女子高生の黄泉ヶ辻の猫ちゃんと天使ちゃん。僕は御厨夏栖斗、今後共よろしくね」 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)がクリミナルスタアをけっ飛ばし、ミリィの手前に立つ。 現の月』風宮 悠月(BNE001450)が構成せし葬送曲が夏栖斗を追いかけて流れていく。其れに賊や黄泉の何人かが捕まった時、入れ替わりの様に賊のナイクリが『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)の首をかき切った。 溜息を吐いた九が手を前に眩い光を放つ。ミリィが作ったQドクトリンが簡単に弾き飛ばされていく。成程、流石の敵という事か。ミリィの瞳と九の視線がぶつかった瞬間、九はキッと強い威嚇を示してきた。 其の光を背に、後衛に突っ込んで来ようとした黄泉のダークナイトの少女が悠月を狙う。 「お帰り願いたいし!」 「帰るのはお前の方だ!」 されど、一人ブロックの間を掻い潜った『スターダストシュヴァリエール』水守 せおり(BNE004984)が迎え撃つ。突っ込んで来た彼女に対し、せおりは抜刀。其れにより、懇親の力で跳ね返した。 「それが、噂のアークリベリオン? うざいなぁ」 「うざくて結構だよ。君達が欲しくても手に入れられない力が私さ」 蒼の瞳に力を込め、強大なる力を見せつけるせおりに対し、黄泉は再びの舌打ちをひとつ。 其の頃強結界を敷いた『陰月に哭く』ツァイン・ウォーレス(BNE001520)だが背に違和感を感じ、其の方向を見れば賊ソミラが腰に刃を刺し込んで来ていた。 「硬…ッ」 「かてーだろ? お前には俺は殺せねえ、な!」 相手の腕を掴んだツァインは其の侭勢いに任せて賊の頬を殴った。首がぐるんと曲がりながら後退した賊を数歩追いかけ、今度は本気の光の剣を振り落す。 何より黄泉ヶ辻のサジタリーの攻撃や、賊のマグメの攻撃が悠月の葬送曲にて封じられていたのは良い結果を生み出していた。 広範囲に攻撃できる者さえいなければ、避難がしやすい。それでも飛んでくる攻撃は、『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)が商品棚を盾に防いだり、其れが無ければ身を挺して庇ったり。 泣き喚く少年の盾と成るシルフィア。 「出口はあっちだ。立てるか? 死にたくなければ急いで逃げろ」 素直にこくんと頷いた少年を見送ったシルフィアではあったが、其の口調は何時もの彼女から遠く離れてしまっている様だ。 首を右に左に廻して、シルフィアは次の救出目標を弾き出す。次は、泣いている女の子の相手か。一刻間違えれば、直ぐにでも命が飛ぶ戦場だ。歩いてはいられない、走る。あの命を繋ぎとめる為――に。 「アーク、か」 賊の一人だろうか、馨の左手には頭部、右手には刃が血だらけで滴っていた。片足には胴体を足蹴にして。 もっとよく見れば、前会った時より痩せて肌の色が青くなっている気がする。 「馨ちん……何、してんだよ」 夏栖斗が言う。 「賊狩りだ」 すぐに返事は来た。 「馨ち―――」 「煩い!! お前等が私はだいっ嫌いだ!」 ● 「『切り裂き魔』戸部・馨、貴様は今何をやっている」 至近距離。 吐息が解る程の距離で吐かれた、包み隠しさえ無い拓真の怒りに馨の眼が点に成っていた。馨は賊を一点集中で狙いに行く、だが立ちはだかったのはあいつの、彼の!! 「――お気に入りが、調子に乗るなよ……退け!!」 「退かん!!」 振り回された馨の刀。 刃の動向は解っていた、拓真の首だ。喋るなと言いたいのだろう、彼は軌道を読んで得物で防御を図るのだが馨の刀は其れをすり抜け首を切りつけた。 血飛沫――だが怯まない。 「奴が! 『斬手』九朗が貴様に賊軍を殺せなど言う筈が無い!」 「お前に何が解るというのだ、私はお前よりずっとずっとあいつの近くに居たんだ!!」 拓真の腕に噛みつき、離せと訴える姿は何処か飼い主のいない猫の様なそれ。だが拓真は離さなかった、例え其の部分の肉が千切れ血が溢れたとしても。 「奴の友人だったのだろう、ならば解る筈だ。解らないとは言わせない!」 落ちぶれたとしても、まだ剣林。言葉とは、中々に伝わりにくいものだが、これなら。 「反論があるなら、お前の技に、お前の剣に聞こう」 馨を解いた拓真は再び両の手に得物を、其の切っ先を馨へと向けた。其の意味が、解らないはずも無い。 だが馨の目は賊を追っていた。此処で立ち止まる訳には行かないと、刀だけは拓真を狙ってたのだが。其の刀が、どろりと歪み、拓真の服さえ斬れずに止まったのである。 「言う事を聞いてくれ鋼心丸!!」 「なんだその濁りきった刀身は? 眼も濁って見えねぇか」 見かねたツァインが言う。武器が言う事を聞いてくれないのは、解るだろう? 馨自身が己の意志で戦っていない確たる証拠であるからだ。 「自分の意志で剣を振りなさい。壊れた人形の敵討ちなど、彼は……『剣林』は絶対に望まない」 悠月の言葉にも重みがあった。なんで、どうして彼等は敵のフィクサード組織の事を其処まで熟知しているのだろうか。 己は其れに背いてでも復讐を果たさねばならないのに。ほら、悠月の更に奥の背後で―――『彼』が、殺せと口を動かしているじゃないか。 「……ッ!! 言われなくても、やるよ、九朗」 叫び声を上げながら馨は強制的に拓真を斬った。だが太刀筋はぶれぶれで。 「やめておけ、お前には斬れない」 「それでも、斬らないといけないんだ!!」 其の時、拓真の手が拓真の意志では無く動き出した。無意識か、拓真は其れに気づかない。 手の甲に、違う誰かの手が重なった気がした。 刹那。 「……九朗っ、私を許してはくれないのか」 拓真の腕は馨の顔面を容赦無く殴り飛ばしたのであった。 パン。 両手を叩く音。 「茶番だよねぇー、お涙頂戴。御戯れの友情ごっこは其れまでにしてよ。正直……」 気持ち悪くて、虫唾が走る。 彼女にしてみれば、折角用意した機械をメンテナンスされても困るし、何より馨がどんどん落ちていく姿を見たいのに。 「計算通りにいかない……ムカつく、死ねし、全部ぅぅ、此処に居る奴等全員……ッ!!」 「痛いよ九ちゃぁぁんっ両輪の羽むしんないで!!」 ぶちぶちぶちぶち、ムカつくムカつくムカつくムカつく。 「卑怯者は、何方でしょうね」 ミリィの声が容赦無く九へと向けられた。 「そうカリカリしてないでさ、自分の身の安全考えた方がいいよ? だって、せおりが――」 駆けだしてきたせおりが、両輪の身体を吹き飛ばす。目下スレスレ、せおりの鼻先が九の鼻にちょこんと当たった。 「ねえ、危ないよね?」 「こンの、アークリベリオンがぁぁあ!」 データに無い、ジョブ。ムカつく。だが保身を考えた九の単純思考をミリィがすかさず読んだ。 「拓真さん!」 「愛奈ァ!!」 ミリィの指揮棒が拓真へと流れ、九の目線が其の指揮棒の先を追いながら手元を見ずにスマートフォンを叩く。 「其処を退け」 「退けてみれば、いーんじゃない?」 お互いに全力の攻撃を放った拓真と黄泉のデュランダル。少しだけ拓真の方が早かったか、少女の肩が勢いよく抉れて血が溢れた。だが拓真もノックバックを決められてしまう。 其の間に馨が拓真から離れて自律行動。 そして悠月の詠唱が響く、速攻で組み上げていく魔術に九がクリミナを彼女の元へと送り込む。 「任せておけ!!」 クリミナの軌道をツァインが塞ぐ。両手を開き、彼女を抱き込むようにして止め、其の侭光輝いた剣を振り落した。痛みにゆらっと眩んだクリミナであったが、何も持っていない方、右拳がツァインの頬を穿つ。 同時進行で夏栖斗の仇花を九の元へ送り込まんとするミリィ。此の貫通技なら今、此の瞬間撃ては両輪とダークナイトを巻き込める。対して九は逆に攻撃を誘っていたのだ。 「駄目です、夏栖斗さん今は違う敵を攻撃しましょう」 「両輪ちゃんたちに攻撃しないの?」 「はい」 夏栖斗は勢い任せに攻撃をしようとした身体に急ブレーキをかけた。足が床のタイルを削り、繰り出そうとした仇花を強制的に別の対象に変える。 彼が止まったのは、ミリィが止めさせたのは、一般人が貫通の直線上、両輪がそう仕向けたからであった。 魔眼、か。言葉を巧に使う黄泉ヶ辻だ、どうせろくでも無い事を暗示させたのだろう、一般人相手に。 「両輪ちゃん、僕が一番嫌なタイプかも」 「褒められちゃったぁっ」 悠月の視界の中で見える限りの賊を解析してみたが、それだけではアーティファクトを持っている敵を判別する事は叶わない。 ならば、とリーディングを試みてみる。 「針は誰が持っていますか」 と。 されど、悠月の脳内に響いたのは大音量のノイズ。 「九は……ジャミング持ちでしたか」 刹那、切り込んで来た馨。 ダンシングリッパーか、アーティファクトのせいで味方は切れていない範囲攻撃なんてチート以外の何者でもないのだが。 悠月の目元に刃の先が来て、だが弾かれ、勢いのまま回転しながら後退した馨が一瞬「!?」という顔をした。 「ルーンシールドは初見ですか?」 「そんな訳無いじゃない、久しぶりに斬れないものがあったからびっくりしただけよ!!」 「丁度良いので、一つだけ。ノーフェイス化した九朗は彼が討ちました」 ピタ。 馨の動きが止まった。 「九郎は――最期に望んでいた戦いの決着をつけて散れました。ですからそれだけは……満足して逝けたのでないかと、思います」 ツァインが続く。 「巌は死んだ後まで九朗を守ろうとしたよ。それはきっと義理や仲間意識だけじゃねぇ、自分の在り方を通したんだよ」 「貴様等は……其の時一緒に居たのか……?」 「今のお前見たら剣林の仲間はなんて言うだろうな? オラ! 頭空っぽにして剣構え直せ! 馬鹿にはそれ位が丁度いいんだよッ!」 何故だろう。 形がぶれていた刃が、今は綺麗な刀身を見せていた。 本当は、本当に戦いたいのは賊なんかじゃなくて。九朗を倒した、彼が、彼が良い。でも。 顔をあげた竜一が、馨を眼に映した。それより竜一くん、その姿は一体全体どういう事なのかちゃんと説明して(後半へ続く) ● 賊は目の前、だが馨の前に夏栖斗が彼女を捕まえた。 「大事な人がいなくなる苦しみは……ねぇ、馨ちん!!」 「名前にちんつけて呼ぶなコラ!」 「誰かに惑わされるほどに、君は九郎のこと好きだったんじゃないのかな」 「……ぇ? 死ね!!」 夏栖斗の顔面に馨の拳が飛んだ(通常物理)。だが怯まない夏栖斗は続ける。 「君は、僕の知ってる君は卑怯者なんかじゃない」 続いた馨の攻撃、夏栖斗の身体の中心に刃がめり込んでいく。理解してくれていたのは嬉しい反面、敵として受け入れない事が第一。更に夏栖斗にはサジタリーの弾丸が頭にぶち込まれる。 悠月の葬送曲がクリミナの少女を貫き、穴の空いた腹部の先に九が見える。其の儘ばたりと倒れたクリミナ。 其の奥でたった一人辿り着けているせおりが九を瀬織津姫で貫く。流石のホリメの装甲か、すんなり入った攻撃に、吐血した血がせおりを染めた。 七派がなんだのせおりにはまだ解らない。だが彼女らがアーティファクトを持つ光景は如何にも良くないものというのは理解できているから。 「だから、壊させてね」 「ぎぐぐぐぎぎぎ!!!」 両輪のサポートがありきの九だが、せおりのノックバックが両輪を近づけさせない。かなり撃破順は変わってしまったというより、範囲に巻き込まれて雑魚から死んでいく状態だ。 それは一般人の人数も同じく。シルフィアが定位置に着き、攻撃の詠唱を唱え始めたのは一般人対策が終わった合図か。竜一こそ、馨を追いかけていく。 「覚悟しろ」 低い声でシルフィアは言う。組まれた陣から光が放たれ、雷撃が店内を暴れ巡った。 ダンシングリッパーを行い血飛沫が舞うナイトクリークではあったが、シルフィアの一撃により今度はナイクリが血飛沫に塗れた。 痛みに転んだナイクリ、其の背後に影が寄り、振り返った時には。 「じゃあな」 ツァインはそう一言言い、己が剣を再三光らせた。光を遮る様に両手を前に盾を作ったナイトクリークではあったが、ツァインは目を瞑り剣を振り落す。 生暖かい液体がツァインの前方を紅く染めた。 ツァインが両輪の手前に居る一般人を退かさない限り、味方は大元の彼女らを十分に攻撃できなかったであろう、其れは今から起きる出来事。 ツァインと馨が交差していく、馨は振り向かずにマグメイガスへと、リベリスタごと斬り込んでいった。 突っ込んで来た馨が賊のマグメイガスの首を切り落とさんとした。ずきんと心が痛んだのは、本当は間違っている気がしていたからだろうか。 だが馨が刃を振り落すより、先。遅れて来た竜一がマグメイガスの息の根を引っこ抜いていた。 「お前……なんで」 次に馨が標的にしたのはタクトの賊で。 冗談じゃないと顔を振ったタクトが逃げようとしたのを馨が先回り、一閃して殺そうとした刹那、竜一が馨の腕を掴んで攻撃を阻害する。 「お前……!!」 怒りに震えた馨であったが、無視した竜一がタクトの上半身と下半身を別つ。 「どうだ? やってみても、殺しなんてつまんないだろ? かおりん」 パチーン。 「君が斬りたいのは、こっちのはずだ。少なくとも、そういう君だから、俺は君と遊びたいんだ。それがなんだ、そのザマは!」 パチーン。 此のパチーンて音が何かだって? そりゃあ竜一がえっちな水着を引っ張って離してパチンパチンしてる音だよ。 「う……ぁ、あぁっ」 馨の眼が血濡れた竜一の下の方に目が行く。目が行ってから、逃げるように顔を背けた。もっこり。 「なんで貴様は何時もそうやって」 パチーン。 「――じゃなかった、煩い! リベリスタ風情が」 パチーン。 「此の私に説教なんてもう、聞き飽き……」 パチーン。 「……た、」 パチーン。 「おまん、やめろォ!! 其のパチンパチンやんのやめんかいダアホァ!」 馨が竜一に懇親の頭突きを放つ。 そして馨は肩を揺らして笑い始めた。戦場が静かになって、誰一人動かなくなって、馨の笑い声だけが響いた。 「嗚呼、嗚呼、竜一。貴様は……くく、キャキャ、何時も、何時も何時も、ふ、キャッキャ!!」 そういえば笑うという事を忘れていた。 そういうもので笑える己が未だ居たとは、愉快愉快。だからこそ、馨の両目から大粒の涙が零れた。 「目が覚めた。此の貸しはすぐに返してやる」 竜一から離れた馨は、最後の賊、ソードミラージュを狙う。だが賊としては堪ったものでは無い。 三六〇度回転して逃げだした彼だが、其れはミリィが許さない。 「貴方ですね、アーティファクトを持っているのは」 「な、なんで解った!?」 「え? 他の賊の方々が持っていなかったので……」 「へー、そうだねー、渡さないよー?」 其処に割り込んで来たのは九の声とジャッジメントレイ。そしてダークナイトがソードミラージュの背後から得物を振り上げる。 されど直前、其処に敵に渡せないと判断してせおりが飛び込み、ダークナイトを弾き飛ばして壁の中にダークナイトが消えた。されどされど、ソードミラージュの首を切り取ったのは馨で。 大して生神女に興味が無い馨はそれを取ろうとは思っていなかった。代わりにダークナイトが突っ込んで来たのだが、夏栖斗と拓真の撃が其の動きを止める。 其の間にミリィが放つ攻撃にアーティファクトは巻き込まれて半分に折れていく。 「く……どいつもぉぉ、こいつもおおおお」 一番重傷であった九が死にかけの身体で立ち上がった。せおりに貫かれた胴からは未だ血が溢れて。 「わぁ! 九ちゃん此れやばいよやばいよ! 両輪にげりゅよ!」 「うるさいな!! 言われなくても解ってるよ!!」 「あ、馨ちんは置いて行ってね」 「いらないよ、そんな不良品!!」 とか言っていたものの、ミリィが怖い事を言う。 「逃がすと、思ってるんですか?」 「……え」 運が良かったのは、両輪だ。散々投げ飛ばされた挙句に、リベリスタの攻撃範囲から遠退いてからこそ。 見捨てられた。 「え、ちょ、両輪?」 「あ、ごめーん九ちゃん! 両輪まだ死にたくないからさあ!」 両輪の可愛らしい笑顔の手前で、両手が合わせられた。 代わりに、死んで?(にこ) ● 過去には戻れない。 前を見て進むしか無い。 「そうか、九朗の最期を知れてよかった……じゃ、なくてだな」 此処まで説得に説得を重ねられた馨が持ち直していない事は無かったのだが、リベリスタに貸しを与えてしまったのが許せない。 だから。少し偉そうに都合の良いことを言うが。 「今日の所は退くが、次は正々堂々戦おう。私の意志でだ。九朗の分まで、私は貴様等には負けたりはしないからな」 パチーン。 「おい、それで返事をするんじゃない」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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