●神秘秘匿のために 神秘とは秘匿すべきものである。 その理由は様々だが、最たるは人が理解できないものは恐怖を生み、戦いを生む可能性があるからだ。 だが神秘を行使することで命が救われるのなら、それを行うべきだ。リベリスタはその信念に基づき、神秘を隠しながら人を助けてきていた。誰にも感謝されることなく、しかし確かに世界を守ってきた。 しかし完全な秘匿は難しい。上手くやってもほころびは存在する。人の好奇心は強く、隠し切れないケースも少なくなかった。隠しきれず噂にのった神秘は都市伝説となるケースもある。そしてそれを追求しようとさらに好奇心が集まり、被害が拡大するだろう。 そうならない為に、漏れてしまった噂に対してフォローする必要がある。 隠すのではなく、誤魔化すのだ。 ●この和泉さんの衣装を見ながらOPを作りました。だからどくどくはわるくない。 「という趣旨です」 「色々ツッコミどころがあるぞ!」 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)の言葉に、集まったリベリスタは総ツッコミを入れた。然もありなん。 「まず依頼タイト……募集要項の『帰ってきた第四十四部隊! アーミーゾンビ、街を襲う!』って何!?」 「WWⅡ時に世界を震撼させた伝説の部隊です。それが現代に蘇り、街を襲撃します」 真剣な顔で言う和泉に、リベリスタは頭をひねる。そんな伝説聞いたこともない。アークのデータベースを読み返してみても、存在しないのだ。 「……と、言う設定です」 「は?」 「『親衛隊』襲撃時、一般人にもその姿は見られています。あれだけの部隊で装備ですから、完全に隠し通すことは不可能です。ネット上では様々な憶測が飛び交い、評論家の中には鋭いところまで踏み込んだ意見も見られます」 『親衛隊』――第三帝国復活を目的とした部隊である。かつてアークは彼らと相対し、そして勝利した。その脅威はもう存在しない。 「その噂を払拭する為に映画を作製します」 「映画!?」 「実在する場所を背景にして、『親衛隊』の服を着たゾンビを倒す……そんなモンスターホラーです。全ては映画の撮影だったと誤魔化します。 大まかなストーリーは『とある研究施設に悪漢が押し入り、封印されていた扉を開けると中からアーミーゾンビが出てきて、街にあふれ出す。なんやかんやあって最終的には施設の自爆ボタンを押して『……あれはなんだったのだろうか?』』とうやむやにして終わります」 「……B級だなぁ」 「荒唐無稽の方がいいんです。『親衛隊』なんて存在せず、全ては滑稽な映画だった。そういうことです。 撮影はVTS(ヴァーチャル・トレーニング・システム)データを改変する形で行います。皆さんにはVTS内の仮想空間で舞台に参加してもらい、映画のように加工する形にします」 なるほど趣旨が分かったとリベリスタが納得し……質問を重ねる。 「和泉さん、その格好は?」 「? サバイバルゲーム用の衣装です」 「いやそれをサバゲ衣装と呼ぶのは百歩譲ってよしとして! ……もしかして和泉さんも参加するの?」 「ええ。何か問題でも?」 いや、VTSだからフォーチュナ参加しても問題ないけど。ないけど。 「皆さんは好きな役を好きなように演じてください。ST……もとい、編集でうまくつなげます。 なお最初に研究施設を襲う悪漢役は九条さんに。滑稽さを増す為に出てくる巨乳エルフ忍者役としてリシェナさんに出演をお願いしています」 「今日の和泉さん……はっちゃけすぎてね?」 ギャグイベシナだからね。 ともあれ、割と投げっぱなしなB級映画撮影の開始である。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月29日(日)23:14 |
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●冒頭 「ここだぜ。何でも国家レベルでの秘密があるって言う噂だ」 「……この研究施設がか? とても金になるとは思えねぇなぁ……」 夜、研究所に近づく影二つ。それは徹と火車だ。慣れた手つきで扉の鍵を開ける二人。 「まぁ良いさ。こんな簡単な仕事なら大歓迎。弾めよぉ? 報酬」 「ああ、分かってる。こっちだ」 二人はそのまま厳重に閉ざされた扉の前にたどり着く。徹が小型モバイルを取り出して扉と電子的に接続し、開錠していく。液晶の数字が少しずつ大きくなる。60%……70%……。 コツン……小さな音がした。何かが歩くような、小さな音。 「な、なんだぁ!? 今の音は!」 「ん、音なんてしたか? もしかしてこの研究所を守る幽霊かもな!」 「馬鹿野郎! そんなのいるわけねぇだろうが!」 驚く火車をさらに怖がらせるように徹は話を続ける。 「分からんぞ。何せ第三帝国の研究だったからな。兵隊の幽霊ぐらいいるんじゃないか?」 「バ……バカヤロウクソハゲ! そんな話ぃ信じるモンかよ!? オ、オレは表見張ってくる!」 明らかに恐怖を誤魔化すように火車は廊下に出―― 「うわあああああああ!」 「あ? 幽霊でも見たか?」 「ゆ、幽霊じゃねぇ……ゾンビだ!」 「何……ぎゃああああああ!」 徹と火車の悲鳴が研究所内に響き渡る。殴打音が二度響き、赤い液体が壁に飛び散る。 数字は100%を示し、電子音と共に扉が完全に開く。軍服のゾンビがその中からあふれ出た。 タイトルコール。 『帰ってきた第四十四部隊! アーミーゾンビ、街を襲う!』 ●アーミーゾンビ侵攻! 「寒い……窓が開いてるじゃないですか」 メイド服を着た五月が屋敷の廊下で開いている窓を見つける。 「全く、誰があけたのかしら……」 窓を閉めようと伸ばした手が、窓の外から出てきた手につかまれ、そのまま五月は外に引きずり出され……。 「なんだ……!?」 街を歩いていた禅次郎は、裏路地から聞こえてきた音に驚く。そこにいたのは、一匹の猫。 「なんだ、猫か」 安堵する禅次郎。だがその背後に迫る影。振り向く禅次郎が最後に見たのは、自分の脳天に振り下ろされるスコップだった。 「街にゾンビが出たですと!」 「はっはっは。そんなわけないじゃん」 交番にやってくる子供の言葉に、駐在していた守と快が答える。守は紳士に受け止め、快は一笑に付す。 「本官は行ってきます!」 守は子供と一緒に現場に向かう。快は信じようともせずに見送った。連れがいなくなったしサボるか、とばかりに雑誌に目を通した。 そこに指す影。快は苛立ちを交えて顔を上げる。 「交番ですが何か……うわあ!」 鋭いペンを持った、軍服を着たゾンビがそこにいた。 ゾンビの持つペンが肉を突き刺す音。動かなくなった快から拳銃を抜き取り、ゾンビたちは去っていく。 「いやぁぁぁ!」 街中を歩いていた早苗は突如現れたアーミーゾンビに怯え、逃げていた。卿は街に服を買いに着ただけなのに。どうして、どうしてこんな目にあうの? 「ひっ……!」 早苗は慌てて路地裏に逃げ込んだ。ゴミ箱に躓きながら走り続け、たまたま開いていた扉の中に逃げ込む。タッチの差でゾンビたちには気づかれなかったのか、扉の前を通り過ぎるゾンビたち。 「ふぅ……」 安堵のため息をつく早苗。風が吹いているのか、ドアと窓がカタカタ震えているのに気づく。その音は少しずつ大きくなり―― ドアと窓が一斉に破られ、ゾンビたちがなだれ込む。あ、鉄平ゾンビもいる。早苗は腰が抜けた状態で背後に下がる。壁に追い込まれ、首を振る。 「これは夢……夢……きゃああああああああ!」 「こんな所にまでゾンビが! あたしピンチ!」 そあらはドアを背中で押さえていた。扉一枚向こう側には大量のゾンビがいるのだ。それが扉をガンガン叩いている。 そあらは首から提げたロケットに目をやる。そこに映る愛しい人。その笑顔を思い浮かべていた。大丈夫。きっと彼が助けてくれる。ヒロインはカッコイイ主人公に助けてもらわないといけないのです。あの人限定で。これから彼が颯爽と現れて……。因みに映画なので心の声駄々漏れです。 そんなことを思っているそあらの懐の携帯が鳴る。ドアを押さえながら電話に出た。 「あ、悪ぃ。俺参加してないから」 「さおりいいいん!」 扉が破られ、ゾンビがなだれ込んできた。 「俺はゾンビ。人呼んでゾンビ喜平」 扉を開けて回転しながら颯爽と現れた喜平が、ポーズを決めて自分を指差す。背後のアーミーゾンビも似たノリでポーズを決める。あ、鉄平ゾンビもいる。 「ゾンビもね、供給過多と言いますかマンネリ気味といいますか……何時までもアーとかウーとかいいながら闇雲に襲い掛かるだけじゃこの業界で生き残れないと 想うわけ、ね」 「はあ」 突如語り始めた喜平にそあらは相槌を返す。それ以外に何をしろと。 「まぁ之もその一環と言いますか、『トークで攻めるゾンビ』どうです、新しいで しょう? ……あ、何、こういうのは求めておられない? もう仕方ないなぁ、何時も通りいけばいいんでしょう。キシャー!」 「いやぁぁぁぁぁぁ!」 スラッシュ音、そして暗転。 「はぁ……はぁ……」 沙希は血まみれでゾンビから逃げてきた。壁に手を着きながら何とか部屋に逃げ込む。ここまで来れば大丈夫。安堵のため息と共に、椅子に座り込む。 ふと、乱雑に投げ捨てられた日記を見つける。なんとなく気になって、手にする沙希。日記の名前はステイシィとか書かれていた。 「……どこかの研究員だったみたいね」 沙希はページを捲りながらそんなことを口にする。何の研究をしていたかはわからないが、その過程が書かれている。 『ついに例の計画が始動された。 我らが総統閣下と偉大なる第三帝国のために、あの伝説の部隊を現代に蘇らせるのだ!』 ページを捲る。 『今日、脱走しようとした敗北主義者が処刑された。あれは危険だと叫んでいる。計画は順調だというのに何を乱心したのか』 ページを捲る。 『甘かった。奴等は私達の手に負える存在では無い。計画は完全に失敗だ』 ここから、書きなぐるように文字が乱れている。読めたのは、わずかな文字。沙希は震える手でページを捲る。 『もうおしまいだ。わたしも かんせん してるのだろ どして こんなこと かゆい まま ごめん なさ』 「まさか街にいるゾンビたちは!」 沙希が立ち上がり、日記から離れる。 ちょうど背後にあったクローゼットが勢いよく開かれる。ゾンビになったステイシィが沙希を背後から掴み、クローゼットの中に引きずり込んだ。 肉を裂く音。その度にクローゼットに入りきらなかった沙希の足が痙攣し―― 手を取り合ってゾンビから逃げていた。 「きゃーきゃー、来ないで、私は美味しくないーっ。あっ、メリッサおねーさんはもっと美味しくないからもっとダメっ」 「美味しくないって失礼ね……! 貴女のが美味しそうって、違う!」 それを追いかけているのは涼子ゾンビだった。後、鉄平ゾンビもいた。 「何で追いかけてくるのよー!」 「え? なんか仲よさそうだから。女同士だけど」 「酷ーい! 確かに仲いいけどっ!」 そんな会話を交えつつ、シーヴとメリッサは逃げ惑う。あ、本人の希望でダメージは全部服にいきます。肌が見え、息が乱れる二人。 「先に行きなさい! 大丈夫よ。あとで必ず追いつくから」 このままでは二人とも捕まってしまう。メリッサは近くにあった鉄パイプを手に、涼子に向き直った。 「メリッサおねーさん……」 「早く行きなさい!」 その声に怯えるようにシーヴは走り出す。それを背中越しに確認し、メリッサは覚悟を決めた。 だが圧倒的な数を前に、メリッサは追い込まれていく。 (ああ、これで終りか。でも、シーヴが逃げられたのなら……) 死を覚悟したメリッサの耳に聞こえるのはゾンビの声と、バイクの排気音。 「おねーさん、助けにきました!」 そしてバイクに乗ってゾンビの群れに突っ込んできたシーヴの声だった。 「貴女! なんで戻ってきたのよっ」 「逃げる時は一緒なのですっ。いつまでも助けられるばかりじゃないのです」 「もう! 何のために命を賭けたかわからないじゃない!」 怒りの声を上げながらメリッサはシーヴの言葉に安堵を感じていた。熱い何かがこみ上げてくる。 二人はバイクに乗り、ゾンビの群れから離脱する。まだ逃げ切れたわけじゃないけど、二人一緒なら怖くない。 「大丈夫ですか、舞姫さんっ!」 「くっ……! 大丈夫よ、三郎太くん。あなたは……わたしが守るから!」 怪我を追った舞姫と三郎太。二人は迫り繰るゾンビから逃げていた。こっそり鉄平ゾンビもいた。舞姫と三郎太はショッピングモールに逃げ込む。 「成熟する前の男の子ってどうしてこんなに美味しいそうのかしら。青い果実に口をつけるこの背徳感がたまんない。アタシ色に染めてあげるわね」 杏ゾンビもいた。 「ちょ、雲野さん煩悩まる出しすぎです!」 「ゾンビだから本能丸出しになるのは仕方ないのよね。あー仕方ない仕方ない。もぐもぐするわ。ショタはやっぱり下腹部がおいしいわよね。いただきます」 「三郎太くんをもぐもぐさせませんっ。BNE倫的な意味も含めて!」 言って杏ゾンビを攻撃しようとする舞姫。その前にアンリエッタが立ちふさがる 「させません! 私は彼女を護ると約束をしました。 女は今このような状態ですが、だからといって他人との約束を反故にするようなことは私は絶対にあー」 背中を向けたアンリエッタを後ろから襲いかかる杏ゾンビ。 「それじゃ、メインをもぐもぐしまーす。指から食べようかしら」 「危ない、三郎太くん!」 言って舞姫は杏ゾンビの攻撃から三郎太を庇う。鮮血が舞い、床が血で濡れた。舞姫と三郎太はそのままモール内を走り、身を隠す。 「三郎太くん……いえ、三郎太。わたしを置いて、逃げて」 「何を言っているんです! 僕は舞姫さんを見捨てたりしません!」 「もう、無理よ……。さっきの傷より前に、少し前にゾンビに噛まれてるの……」 舞姫の首には杏ゾンビとは違う傷口があった。はっとなる三郎太。 「三郎太、今まで黙っててごめんなさい。わたしは、あなたの生き別れの姉なの!」 「え? そ、そんな……何で今頃そんな事をっ!」 衝撃の事実に驚く三郎太。舞姫はそんな彼の手を取る。今にも消えそうな命の灯火。 「……最後に、おねえちゃんって、呼んで、くれる……かしら……?」 それが彼女の最後のセリフだった、 「姉さん! 舞姫姉さん! わああああああああ!」 その慟哭は天に昇る舞姫に届いただろうか。 「あ、みっけ。それじゃもぐもぐしましょう。……お?」 杏ゾンビが見た三郎太の瞳は、姉の後ろで怯えるショタの顔ではなかった。幼げな顔だが、確かな気迫をもつ戦士の顔。 「んー。強気な子を折るのもありかも」 「僕は……ゾンビを……許さない!」 そして三郎太は武器を取る。ゾンビを狩る戦士となって。 ゾンビに怯えながら、しかし戦う者達も増えてきた。 銃撃と爆風。そして人の声。 ●反撃の狼煙 「今です! Go!」 銃を手に和泉が陣頭指揮を取る。それに続くようにゾンビの群れに一斉射撃が降り注ぐ。それを援護射撃に和泉がビルからロープ片手に宙に舞う。秒間百五十発のフルオート射撃。落下しながらゾンビの群れを足止めする。 「和泉さん、援護しますっ!」 二丁拳銃を手にミリィが駆けつける。両手を広げ、三発。十字にクロスさせて三発。前に二発。振り向かずに後ろに二発。左右あわせて二十発の銃弾がゾンビに叩き込まれ、群れが崩れ落ちる。 「どれだけ現れようと私の弾丸は逃しはしませんよ?」 弾丸のなくなった拳銃の一つをくるりと回転させて、ホルダーにしまう。そのままベルトに刺してあった二つの銃を取り出し、回転しながら乱射する。ゾンビたちはミリィの弾丸の嵐に、近づくことすらできない。 「Dance of Death」 全ての弾丸を撃ちつくした後、静寂が生まれる。その静寂は、ゾンビたちが倒れ伏す音で破られた。 そのアクションに笑みを浮かべる和泉。その背後にゾンビが迫る。 だが夏栖斗の蹴りがそのゾンビを弾き飛ばした。回し上段蹴りから足払い。その後に二段蹴り。そして和泉の背中を守るようにポーズを決める。ゆっくりと円を描くような腕の動きと、片足を上げたポーズ。 「ったく、WW2の亡霊がゾンビとして蘇るなんて、穏やかじゃないね。和泉ちゃん」 「ええ、ですが皆の力を合わせれば光は見えます」 夏栖斗は頷き、迫るゾンビを捌いていく。ゾンビの爪を腕で受け止め、顔面に拳を叩き込む。横から来るゾンビに目の前のゾンビを投げつけ、背中を蹴って吹き飛ばす。道路標識を手にしたゾンビの攻撃。画面がスローモーションになり、空中を回転するように回避しながらゾンビの顔に蹴りを叩き込んだ。 「くっ! 背中を守りながらだとおっぱいが見れない! へそ出しベルトおっぱいとか超卑怯!」 「甘いですよ。三高平のベストおへそはこの私ですー!」 悔やむように拳を握る夏栖斗。その声に応じるようにユウが現れる。ピチピチなボディスーツに身を包み、銃を乱射する。自分の身長以上の重火器を振るい、ゾンビに大火力を叩き込む。その様はまさに嵐。派手な銃撃音が響く。 「あ、あそこにいるのは――!」 ユウは銃撃のさなか、こちらに逃げてくる雅に気づく。雅を追いかけてくるゾンビを殲滅しながら、こちらに来る雅を受け入れ――灼熱が走った。 「う……あぁ……!」 「まさかアナタ……ゾンビに噛まれて既に……!」 倒れ伏すユウ。雅は虚ろな瞳で次の獲物を求めて近づいてくる。叩き込まれる弾丸に、痛そうな悲鳴を上げた。 「い……いた、い。いた……い、イタい、よ」 「待て! まだ人間としての意識が――」 止める声もあったが、引き金は引かれる。三度の衝撃の後、雅は力尽きた。 「ユウ……大丈夫か?」 「私はもう駄目です。……人間の意識が残っているうちに、トドメをお願いします……」 「……分かりました」 和泉は可能な限り冷静を保ちながら、引き金に手をかける。銃声が二度、青空に響いた。 しかし悲しみにくれる暇はなかった。街の一角から迫るアーミーゾンビ。鉄平ゾンビもいた。 「ここは僕が食い止める」 「和泉さんは先に行ってください。あなたには、それを届ける使命があるはずです」 夏栖斗とミリィが和泉を逃がすべく、ゾンビたちに向き直る。 「……分かりました」 和泉はバッグを手に走り出す。 『これはアーミーゾンビに対する決戦兵器……その名を『どくどくぼんばー』だ』 四門はバッグを和泉に差し出した。中には携帯型のミサイルが入っている。 『これで、ゾンビを効率よく倒せるはずなんだ! 回数に制限があるから気をつけて!』 バッグを差し出す四門の手は震えていた。体中傷だらけで、ゾンビによる噛み傷も見られる。死が近いのは明白だ。なんかBGMもそれっぽいし。 『それを使ってゾンビたちを倒して! ……俺は一緒に行けない。もうすぐゾンビになるから』 回想したのは四門との会話。そう、和泉はこの決戦兵器を届ける任務を受けている。だがゾンビの猛攻を前に、彼女の気力と体力は限界に近づいていた。 「よーイズミン。日頃清純派ぶってあれか。ギャップ萌えとかそういうのか」 息も絶え絶えの和泉の前に現れたのはロイヤーゾンビ。ウェスタンゾンビとかどーなんだ。とりあえずロイヤーの怒りは和泉のヘソ出しサバゲ衣装に向けられていた。 「お色気担当はこのロイヤーの役目だって普段から言ってんだろーよこの間会議で決めたろーよあぼ」 途中でロイヤーの言葉が途切れたのは、突如現れたバイクに轢かれたからだ。運転席には甚内が乗っている。 「ヘーイ、ソコ行くお嬢さん。乗ってかにゃーい?」 「ありがとうございます!」 甚内の後ろに乗車する和泉。あ、背中に何か当たってる。しかし甚内はその余韻に浸ることなくバイクを走らせる。一瞬遅れれば、ゾンビたちに圧殺されていた。 「飛ばしますよー? 危なく思ったらー捕まっててーくだしゃんせぇー!」 バイクは街中を縦横無尽に走り続ける。途中のゾンビを轢きながら、途中で歩道に入りそのまま地下街に入る。地下にいるゾンビが肩を組んで並びスクラムを組めば、甚内は壁を利用してそのスクラムを飛び越える。 「いやっほーい!」 そのままバイクは地下街を走り抜ける。ゾンビたちもそのあたりのバイクに乗り込み、 甚内のバイクを追い始めた。ゾンビライダーとのカーチェイスの始まりである。 「疑問があるのだが」 「なんだ、同志九凪! 我々の受けた任務に不満でもあるのか? 我々は軍隊! 民間人を守りつつゾンビの群れに攻撃を仕掛ける任務の真っ最中なのだぞ! 軍人の誉れだ! あ、鉄平ゾンビ」 九凪の問いかけにベルカが妙に元気よく答える。二人ともそれっぽい銃を持ち、ゾンビの群れに銃を撃ち込んでいる。その合間に喋っているのだが。 「うん、説明ありがとう。それに関しては反論はない。 だが……どうして俺はセーラーを着る破目になっているのだ?」 九凪が着ているのは、セーラーである。一世代前の学校の制服ではなく、港で水夫が着ているようなアレである。 「水兵だからではないのか? 海が近いとかそういうことだ!」 「……よくわからんが納得した」 とまれ、二人は進軍を続けていく。だが、その進軍は長くは続かなかった。 「……弾切れか」 「こっちもだ、同志九凪! 武器はあるか!」 「ナイフならな」 ゾンビの群れに囲まれ、武器はナイフが一本ずつ。分かりやすい絶望に、しかし二人の軍人の顔は硬く引き締められていた。生を諦めていない顔だ。一体でも多くのゾンビを倒し、生き延びる。 互いに背中を預けあい、ナイフを振るう。まるで申し合わせたかのようなナイフの動き。しかし圧倒的なゾンビの数を前に、少しずつ追い込まれていく。 「こいつは厳しいな」 「同志九凪。私が道を開く。同志はそこから逃げるのだ!」 ベルカは懐から手榴弾を取り出すと、ピンを抜きゾンビの群れに突貫していく。 「待て、ベルカ!」 「同志よ……後は任せた!」 街の一角で、爆発が起きる―― 木蓮と龍治は公園のベンチで肩を寄せ合い、愛を語らっていた。ホラー映画では鉄板の死亡フラグである。 「たちゅはるー、ちゅー」 「…………」 口づけを要求する木蓮と、されるがままの龍治。ふと気づくと、人の気配は消えていた。 「今日は随分静かだなぁ……まあいっか、お前といっぱいくっつけるし!」 「木蓮……妙に手馴れてるな……」 「そう? いつもどおりと思うけど。それとも緊張している?」 「そ、そうではなくだな……!」 ひそひそと話し合う二人。顔を寄せ合い語り合ってる為、どう見ても恋人同士のラブシーンである。いや、事実そうなんだが。 「とりあえず、襲うけどいい?」 そんな死亡フラグを立てた二人の元に、涼子率いるゾンビの群れがやってくる。鉄平ゾンビもいた。 銃声。 木蓮と龍治がいつの間にか手にしている銃が火を噴き、ゾンビの頭を穿つ。ライフルと火縄銃。しばらく銃声が響き、静寂が訪れる。 「へへー、なあなあ、今年のクリスマスはどこいこっか?」 「……考えておく」 再び発生するラブラブイチャイチャ。死亡フラグとはなんだったのか。 「ようこそ、俺の城へ! たっぷり歓迎してやるぜ!」 ラヴィアンはビルの中に篭城し、ゾンビたちを待ち受けていた。扉は開かれ、ラヴィアンを狙うゾンビたちはその中に入っていく。鉄平ゾンビもいた。 バリケードで足止めされたゾンビたちは、突如開く落とし穴に落ちてしまう。 『頭上注意』……そう書かれた張り紙を見たゾンビたちが上を見ると、降ってくる刃物に切り刻まれる。 数多のトラップで迎撃するが、数の暴力に押し切られてラヴィアンはある部屋に追い込まれる。その顔には不敵な笑みが浮かんでいた。その手には小さなスイッチ。 「掃除してやるよ。一匹残らずな!」 ラヴィアンがスイッチを押すと、地下の火薬庫で電子音が響く。爆発が中にいたゾンビもろともビルを吹き飛ばした。 「誰かいませんか!」 守はゾンビが徘徊する町で、まだ生きている人を探して走り回っていた。時に間に合い、時に苦渋の選択をし、それでも心折れずに『街のおまわりさん』は待ちの中を走り回った。 感謝されることもあった。遅いと罵倒されることもあった。言葉なく泣き崩れることもあった。非力を嘆くこともあった。それでも、守は心が折れなかった。 街を守る。それだけのために守は走り回った。 「……宿直室?」 たどり着いたのは宿直室。施錠はされてないようだ。 中から何かを租借する音が聞こえる。くちゃくちゃと唾液が混じった音。 「まさか……ゾンビ?」 守は銃を手に慎重に中に足を踏み入れる。ギシギシと床がきしむ音。それすら押し殺すように進んでいく。 食い散らかした痕、無造作に捨てられた残りカス、それらが散らばる長いソファの上に、ケイティーは横になっていた。髪の艶は無く、血色も肌も匂いも人間のソレではない。 気怠げに、守に振り向いたケイチィは…… 「あー、たりぃっす」 スナック菓子を租借しながら、録画した深夜番組を見ていた。 「見敵必殺であります」 「うぼあー」 守は容赦なく銃を撃った。シリアスを返せ。 「溢れ返るゾンビに地獄の釜の蓋が開かれた! 向かってくるゾンビたち! 人間たちに未来はないのか……だが、人間の心は折れていなかった!」 「ねぇ竜一さん。何で私サンタ衣装なんか着てるのかしら? これ、かなり恥ずかしい恰好じゃない?」 シュスタイナは説明口調で喋る竜一の後ろで、もらったサンタ衣装の露出具合に恥じらいを感じながら問いかけた。因みに『上はノースリーブ、下はスカート丈膝上20cmのマイクロミニに調整されたサンタクロース衣装。アームウォーマー&ロングブーツ付き(原文そのまま)』だとか。 「なぜならば、この子がいる! この子こそ、人類の希望なのだ! その名をシュスカ・ザ・ハンター!」 「あれ? 何でゾンビこっちに向かってくるの? ちょ。誰が人類の希望よ。竜一さんってきゃぁぁぁ!」 突如シュスタイナを肩車して走り出す竜一。シュスタイナはミニスカ肩車というふとももの危機的な状況に慌てつつ、しっかりスカートガードを固めてゾンビの群れに突っ込んだ。もとい、竜一が突っ込み、シュスタイナは巻き込まれた。 「カップルじゃないけど……まあいいや」 涼子率いるゾンビ軍団が肩車サンタに襲い掛かる。後ろに鉄平ゾンビがいた。 「よくわからないけど、ゾンビを倒せばいいのね。えーい!」 「ハッハァー! 彼女の弾丸は、どんな男のハートも打ち抜くぜぇー!」 ゾンビの群れの中を突っ切りながら、ゾンビを攻撃するシュスタイナ。フェザードなんだけど、VTS演出で映画のときは目から光線を放っています。 しかし一瞬の隙を疲れ、竜一がゾンビに襲われる。 「すまない、シュスたん。俺は、ここまでのようだ……アイムユア、ブラザー!」 「土台さーん!? ……あ、これで出番終わり? お疲れさまー」 突如始まったシュスカ・ザ・ハンターは、開始十分で打ち切りとなった。 ●映画館ではカットされたかもしれないシーン集 「ふぇぇ、何なのあれは?」 メイはゾンビたちから橋って逃げていた。服はズタボロで、所々から見える肌。 何とか建物の中に逃げ込むも、そこに待ち構えていたゾンビの群れ。ゾンビたちの爪から逃れる為に走るメイ。背中を掴まれるが、暴れて服を千切りながら何とか逃れる。 「こっちこないでよぉ……」 しかし逃げ道は塞がれている。服を押さえるように胸元を手で隠し、壁に追い詰められるメイ。 破れた服から除く肌。怯えるメイの顔。しゃがみこんで震える様。三百六十度から撮影すようなカメラワークの後、ゾンビたちの視線に戻って、メイに襲い掛かる。 「止めて! 誰か助けて! いやああああああああああ!」 「おい君! ここは危ないぞ、すぐに避難するんだ!」 あわや惨劇、というところで時生が現れ、全年齢を保ったのであった。 「くぅ、足をやられた! しかしわらわも足の痛みを気にしている余裕はないのじゃ」 レイラインはゾンビに傷つけられた足を引きずりながら、思考をめぐらせていた。ゾンビたちはレイラインを囲むように近づいてくる。鉄平ゾンビもいた。 「そこで問題じゃ。この足でゾンビたちの攻撃をどうかわすか! 【1】可愛いレイラインがゾンビ相手に突如無双ゲーする。 【2】仲間が助けに来てくれるがむしろ囮にして逃げる。 【3】感染してゾンビになる。現実は非情である」 シナリオの詳細参照である。 「わらわがマルをつけたいのは【2】じゃが期待は出来――」 答えは『【5】レイラインがゾンビに服をひん剥かれる』である。 「え? ちょ、ま、にぎゃあああああ!」 全てが終わった後で時生が現れ、カメラに移る前にレイラインを回収していった。 「このシーンにラッキースケベなどない!」 「……あの 楠神様。何を言っているのでしょうか?」 ゾンビに囲まれた風斗とリリが背中合わせに互いを守りあっていた。鉄平ゾンビもいた 「リリさん、オレは世間の風評には負けない。行動をもって証明するのだ、オレが清い人間であるということを!」 「楠神様……分かりました。私も応援いたします」 「ありがとう。さっき黒猫が目の前を通りかかったりカラスがたくさん鳴いていたりしたが問題なし! くたばれゾンビ共!」 言って風斗がゾンビに切りかかる。一刀の元に切り伏せられるゾンビたち。そしてリリの銃弾がそれを援護する。 闘い続ける風斗の目に、リリの背後から迫るゾンビが映った。リリを押しのけ、ゾンビを切ろうと走る。滑る。見事に転ぶ。 「く、楠神様……!」 「す、すまん!」 転んだ風斗はリリを押し倒すような形となった。そこに襲い掛かるゾンビ。転んだときに剣は離れたため、近くにある硬いものを握って拳を振るい、風斗はゾンビたちを撃退する。 「助かった……ん? なんだこれは? 十字架?」 手の中にある堅いものの感触を確認する風斗。十字架と、そして何かの布切れ。紺色の布切れはシスター服を想起させる。ああ、そういえば十字架って普通胸元に掲げるよね。 「いッ……!」 押し倒されて乱れ、胸元が大きく破られたシスター服。豊満な胸は、開いた隙間からその存在を主張していた。涙目でうずくまるリリ。 「楠神さんの……ばか!」 「リリさん待ってくれ。これは事故――ぎゃあああああ!」 リリの正確無比な銃撃が、不埒な存在に天罰を与えた。 「ろんたん、もっと早く! 追いつかれちゃう!」 「はぁっ……ん、頑張るよ」 明奈と竜胆は走ってゾンビから逃げていた。来ている学生服はゾンビの攻撃で切り裂かれ、柔肌を晒している。息も乱れ、体力の限界も近い。 お互いがお互いを庇いあい、支えあいながら逃げ続けていた。先輩後輩の友情。攻撃されるたびに敗れていく制服。 そしてその逃亡劇の終着が訪れる。 「あっ、行き止り!?」 「ゾンビたちに追いつかれた!?」 目の前には大きな壁。そして背後にはゾンビの群れ。鉄平ゾンビもいた。 「お願い誰か、誰か先輩だけでも助けて!」 竜胆が膝を突き、祈るように手を合わせる。明奈はそんな竜胆を庇うようにゾンビの前に立った。 絶望的な音楽が突如明るいものに変わる。明奈と竜胆は手を取り合い、立ち上がる。 「暗闇の中ー、絶望してもー」 「手を伸ばせば、貴方がいるー」 BGMにあわせて唄いあう明奈と竜胆。 「傷つき倒れー、動けなくてもー」 「私がアナタをー。まもるからー」 スポットライトが二人に当たる。乙女の声量が場を支配し、ゾンビたちも足を止めていた。 「たとえ二人離れてもー」 「どこか出会えると、信じれるー」 「暗闇の中ー、絶望してもー」 「手を伸ばせば、貴方がいるー」 BGMは佳境に入る。二人は画面の中央で踊り、そしてポーズを決めていた。 「こんなに大切なー」 「アナタだからー」 「楽しいときもー」 「辛いときもー」 「「二人は一緒ー」」 そして二人抱き合い、ゾンビたちに向き直る。 シーン再開とばかりに動き出すゾンビたち。それを遮るように爆発が起きる。壁の上に立つリシェナ。 「そこの二人、今のうちに逃げるでござるよ!」 「ああ、今の爆発で壁に道が!」 「ありがとう! 謎の巨乳エルフ忍者さん!」 説明的なセリフと共に逃げる明奈と竜胆。 リシェナはゾンビたちの群れに向かって飛び降りる。彼女の前に現れる影。 「気づいてしまったんだ……B級映画にお色気シーンは付き物! ゾンビ役になれば違和感なくリシェナにムフフな事ができるじゃないですか! やったー!」 胸を張って叫んだのは、ツァインゾンビである。 「最低だー!」 ツァインの主張にどん引きするリシェナ。それがB級なのだ。 「和泉さんに手を出すと一部の人にぶっ殺されそうだけど、リシェナなら何か許される気がするんだ!」 うんうん、と同時に頷くゾンビたち。 「これは映画の演出だから仕方ないねッ! ってお前達もか!」 一斉にリシェナに襲い掛かるツァインゾンビ。しかし他の出演者もリシェナに襲い掛かる。りしぇなっぱいを独占しようと、ツァインは大暴れし始めた。 「このサービスシーンは俺だけのもんじゃー! 邪魔すんなー!」 「……あ、拙者お先に失礼するでござるよー」 その隙にリシェナは場から退場していた。 「その後すぐにゾンビの群れに見つかって追い込まれたでござる!」 説明的なリシェナのセリフ。武器も尽き、迫るゾンビたちの攻撃を避けるたびに服が破れていく。 後もう少しで、というところで時生が現れ……る前に小雷が割って入る。 「もう我慢ならん」 リシェナを襲っていたゾンビの一体が崩れ落ちる。拳を握り、ゾンビの群れに向けた。 「今、俺は心を取り戻し、人として蘇った」 小雷は重臣を下げ、手のひらを突き出す。隙のない鍛練を積んだものの構え。それに圧倒されるゾンビたち。 一人のゾンビが前に出る。無手のゾンビ二体は相対し、同時に地を蹴った。 突き出した拳を真下に払う小雷。そのまま懐に入り込み、息を吸い込む。丹田に力を注ぐように背筋をただして息を吐く。同時に突き出した拳には、大地を踏む力を螺旋状に体に伝えて、拳まで伝えた力を叩き込む。 崩れ落ちるゾンビ。それを見下ろし、小雷は言う。 「親衛隊の、人としての誇りを忘れたのか」 人の心を取り戻したゾンビは、そのままゾンビの群れに身を躍らせた。 「行くがいい。そのゾンビの秘密を伝えれば人間側が有利になる」 「……でもそれでは小雷殿は……!」 「行け! この身死霊と化しても誇りまでは失わない!」 小雷の言葉を受けて、リシェナは走り出す。彼女しか知らないゾンビの秘密を伝える為に。 「そう。このゾンビはウィルスによるもの。だからワクチンを作ることも可能でござる。そして――」 「そう……ウィルスに適合者するものが……いる」 声と共にリンシードゾンビがリシェナに襲い掛かってきた。手から生えた剣がリシェナを地に伏す。 「知ってしまいましたね、その秘密を……死んで貰います」 「ま、待つでござる! もしかしたらそのウィルスの治療法があるかも――!」 「うふふふふふ、そんなことは知りません。秘密を知る者は殺します。……別に胸の恨みとかじゃありません。えい」 「今演技じゃなく本気で剣に体重かけたー!?」 ヤンモードでリシェナを殺しに掛かるリンシード。そのリシェナを引っ張って助ける人物がいた。 「大丈夫よ、ここならあの子は入ってこないわ」 糾華である。あたりには蝶が舞い、それが生み出す不可視の空間内にゾンビは入ってこれないようだ。 「私もウィルスに適合した存在よ。だからゾンビが苦手なことも分かるの。 さぁ疲れたでしょう。紅茶をどうぞ」 糾華の淹れた紅茶を飲むリシェナ。糾華の言葉通り、リンシードは入れないようだ。 「ごめんね、あの子がああなってしまって……あの子は私の妹なの」 「仕方ないでござるよ。全てはゾンビウィルスが――」 「だから、私もこっちなの、ごめんなさいね」 はい? とリシェナが尋ねる間もなく、周りを舞う数多の蝶に幻惑されるようにリシェナは倒れる。 「ねえ、リンシード。胸をもぐか仲間にするか、どっちが良いかしら?」 「胸をもいだあと、仲間にするというのはどうでしょう……二重の意味で。うふふふ……あははははっ」 暗転するリシェナの視界。狂気の笑いがただ闇の中に響いていた。 ●LAST DANCE! リシェナからの情報は届かなかったが、ゾンビたちが研究施設から出てきていることは掴むことができた。生き残った人たちは決死隊を組み、研究施設に突撃をかける流れとなる。 「降下! 進め!」 義衛郎率いる空挺部隊が研究所への道を切り開く。ゾンビの脳天にライフルを打ち込み、その動きを封じている。 「手足も吹っ飛ばした方が安全なんだが、そう時間も掛けられないしな」 弾丸を装填する義衛郎。その隣にいる部下が、怪訝な表情で尋ねてくる。 「須賀隊長……この小隊で研究所を攻めればいいのではありませんか?」 「ダメだ。『施設は破棄、自爆装置での焼却にて処理する。装置の起爆は地元民に実行させるべし』……という指令を受けている」 納得できないが、これも命令だ。義衛郎は決死隊を研究所に送る為に支援射撃を続ける。 「話は聞かせてもらった! あの悪魔の研究が今頃蘇るなんて……研究施設を爆破しなければ人類に未来は無い!」 研究所への一番槍は疾風である。バイクに乗り、研究所の道を切り開く。 「和泉さんからもらったこの兵器……使うなら今だ!」 疾風が手にしたスイッチを押すと、研究所に向かってミサイルが飛来する。爆風でゾンビが吹き飛び、疾風の姿を覆い隠す。 「街を救う為だ! 行くぞ、変身ッ!」 閃光が走り、疾風を包み込む。『強化外骨格参式[神威]』に身を包んだ疾風は、そのままバイクで突撃し、研究所の扉を突破した。そこから中に入り込む者達。 「ありました! これが今回の事件の資料です!」 カメラを手にしたセラフィーナが研究施設内でデータ集めをしていた。 軍の空挺部隊を見たとき、セラフィーナはこの悲劇を闇に葬る力が働いているのを察していた。ジャーナリストの勘である。そのようなことはさせはしない。真実を隠すことなど許せない。 「写真を取って、資料は鞄に入れて……。あ、あとこの記録媒体も持って行きましょう」 次々と死霊を手にするセラフィーナ。やはり軍に関係する組織が暗躍しているようだ。後は帰って裏づけを……。だがその背後にゾンビが迫っていた。 「えっ!? こ、こんな所にまでゾンビが!」 「そこまでだ! レディの扱いは上品に行うもんだぜ」 言葉と共に飛んでくる消火器。それがゾンビの頭を打ち据えた。 「貴方は……フリージャーナリストのリスキーさん!」 「ゾンビと女性の相手なら任せてくれ!」 消火器を投げたりスキーは、親指を立てて笑みを浮かべた。リスキーに殺到するゾンビたち。 だがリスキーは机を使ってゾンビを誘導し、一度に大量に襲われない位置取りをしながら、ゾンビを撃退していく。 「武器は銃や刃物だけじゃない。使えるモノは使わないと生き残れないんだよ」 落ちてあったスパナを手にリスキーはゾンビを相手する。そのまま退路を確保し、セラフィーナと安全な場所に逃げていく。 「ウジャウジャわいてきやがる……だがその方が楽しめるってモンだ」 「まったく、数だけが取り柄な連中だねえ」 コヨーテと真澄がゾンビの群れを前に背中合わせになって戦っていた。ここはゾンビが生み出されている施設の真正面。自然とゾンビの数も増えてくる。 「真澄もまだ音ェ上げンなよォ? こんなんじゃ腹ァいっぱいにゃなれねェだろッ!」 「よくわかってるじゃないかコヨーテ。私もまだまだ喰い足りないんだ・それにおねんねするには早い時間さね。もう少し付き合ってもらうよ?」 共に満身創痍だが、むしろそれを喜ぶように戦火に身を躍らせる二人。獰猛な獣と精錬された銃撃。咆哮と共にコヨーテが腕を振るえば、それに対抗するように真澄の銃が別のゾンビの頭を吹き飛ばす。 「コヨーテ、ここは私に任せて先に行きな」 銃を再装填しながら真澄が背中にいるコヨーテに告げる。 「この先にゃもっと碌でもない身体の芯まで腐った奴が居るんだろうさ。胸糞悪いそいつを私の代わりにぶん殴ってきな」 この場に留まる危険性を口にしようとしたコヨーテは、それを飲み込み獰猛な笑みを浮かべた。 「魅せてくれンじゃねェか。最高にカッコイイぜ、真澄ィ! 分かってるよ、オレもその覚悟に応えねェとなァ!」 「男なら前のめりにね。背中から倒れるんじゃあないよ、コヨーテ!」 わかってらぁ、そんな声と共に真澄の背中にあった戦友の温もりは遠のいて行く。 だが孤独感はない。それが絆というものだから。 「来たか、亘。ここに最初に来るのは貴様と信じていたでゾンビ!」 「生きていたんですね……父さん!」 影継はやってきた亘に向き直る。研究施設の最奥の部屋だ。。 「この四十四部隊……正式名称『栄光の帝国ゾンビ兵(ライヒ・デア・ヘルリッヒカイテン・ゾンビー・ゾルダート)』を知る者は開発者の私とお前だけだゾンビ」 「ええ、そしてその語尾……まさか父さんはあの研究を完成させたというのか!?」 「ククク、永遠の命! 永遠の支配! 人類の永遠の夢だゾンビ! 貴様の恋人と一緒に、永遠に生きるでゾンビ!」 影継の言葉にはっとなる亘。彼女は戦いの前に逃がしたはず。ポケットに握り締めた指輪を握り締める。 「あれで逃がしたつもりでゾンビ? ゾンビを一匹見たら30匹いると思えでゾンビ!」 「貴様あああ!」 怒りに任せて突撃するゾンビ。しかしその前に徹ゾンビとリシェナゾンビが立ちふさがる。 「行くでゾンビ! 酒ゾンビシュナップスと巨乳忍者ゾンビ!」 「九条さんにリシェナさん! くそ……!」 亘が二人を開いていている隙に、影継は場を去ろうとし―― 「貴様、無敵執事セバスチャンゾンビ!? コントロールが効かないでゾンビ……!」 突如現れたセバスチャンのパイルバンカーに吹き飛ばされる。そのまま亘の方に向き直る。 「全ては我が主のために」 「まさか、あなたの主はあの……!」 亘が何かを言いかけて、セバスチャンに吹き飛ばされる。次回作の伏線である。 絶体絶命のそのときに、二つの影が現れる。 「やけに丈夫な粗大ゴミだな?」 「とりあえず、討伐……共に踊る、としよう」 ユーヌと天乃の二人が、セバスチャンゾンビの前に立ちふさがった。 天乃が真正面から走り、ユーヌが回り込むようにセバスチャンに迫る。セバスチャンはパイルバンカーをの天乃ほうに向け、突っ込んでいく。 ユーヌの指が印を切る。因と果を律する法則に干渉し、セバスチャンの動きを封じる。だがそれは一瞬のこと。力を篭めてセバスチャンは拘束を破壊する。 だがその一瞬で天乃はセバスチャンの視界から消えていた。床を蹴って壁を走り、壁を蹴って短刀を振るう。その一撃をパイルバンカーでガードするセバスチャン。 セバスチャンはその巨体を滑るように移動させて、ユーヌと天乃を吹き飛ばす。吹き飛ばされながら二人は体制を建て直し、それぞれの武器を構えなおす。 「やる……ね」 「口直しには丁度良い」 気丈な台詞を口にするが、相手が強敵であることは肌で理解できる。幾度となく攻撃を繰り返すが全て受け止められ、その度にそのパワーで反撃を受ける。ボロボロになりながらユーヌと天乃が立ち上がる。 これで最後の一撃、とばかりにセバスチャンが猛る。だがその突撃は、ある者の攻撃により止められた。視線を向けるセバスチャン。 「そこまでだぜ!」 そこには、ゾンビと戦った人たちがいた。 夏栖斗が、ラヴィアンが、三郎太が、ミリィが、九凪が、シュスタイナが、小雷が、リスキーが、セラフィーナが、真澄が、疾風が、コヨーテがいた。 「甘いぜ人間。ウィルス感染させて俺達の仲間にしてやるぜ!」 反対側にはゾンビとなった者達がいた。 竜一が、涼子が、喜平が、ステイシイが、杏が、アンリエッタが、ロイヤーが、リンシードが、糾華が、早苗が、沙希がいた。後鉄平もいた。 三十人近いバトルロイヤルが展開される中、亘は九条&リシェナゾンビを退けて、テーブルにあるボタンを見つける。それがこの施設を破壊する自爆装置であることを知っていた。 「……僕には、全てを終わらせる義務がある」 脳裏に広がる今までの戦い。その全てを、ここで終わらせるのだ。亘は恋人に渡すはずだった指輪を握り、拳を作る。 「一緒に……終わらせよう!」 拳が、ボタンに叩きつけられる。 爆発が研究所の各所で起き、ゾンビたちが巻き込まれて葬られていく。 決死隊の者達も爆発に巻き込まれないように、必死に逃げ出す。そして―― 研究所は跡形もなく消え去っていた。 「あのゾンビは一体なんだったんだろうか……?」 研究所から押収した物は全て、爆風の炎と機械の暴走で生まれた電磁波でダメになっていた。 アーミーゾンビの謎は闇に葬られたのであった。 出演者 :56人の参加者達皆様 音楽監修:セッツァー・D・ハリーハウゼン CG監修:トキムラ・ムービー・プロジェクト 字幕監修:どくどく 映画監督:亜乱 住士 エンディングが終わり、ENDマークが画面に刻まれ……。 「全ては私の掌の中」 謎の声と共に、『……?』の文字が付け加えられた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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