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[新聞部]甦りし魂 執念の奔流

●極神学園
 極神学園の新聞部にはいくつかのタブーが存在する。
 その大半がある教師を怒らせてはいけないというものや特定の場所に踏み入ってはいけないなどの他愛のない笑い話である。新入部員を迎え入れる際にその百を超える決まりを覚えさせるのが歓迎イベントになっていた。
 しかしその中でも一つだけ念を押される内容がある。このタブーについて語るときだけはどんな陽気な先輩でも真顔になる。これを破ることは文字通り死を意味するという前置きで話は始まる。
 この件を真面目に受け取る新入生はいない。鬼塚直樹もそうだった。実際に噂の張本人が現れたことで、その認識が甘かったと思い知らされることとなった。
 それまで騒がしかった新聞部は地獄谷刹那の襲来によりしんと静まり返る。最初の一人が用事を思い出したと言って帰宅したのを皮切りに、我も我もと部室から逃げ出して行った。最後に残ったのは状況を飲み込めずに行動が遅れた鬼塚ただ一人だった。
 長い黒髪の女性は真っ直ぐに鬼塚を見つめ、一歩、また一歩と距離を詰める。思わず中腰になったところに肩を掴まれ、か細い腕からは想像も付かない力で椅子に押し戻される。真上から見下ろす切れ長の目に鬼塚は恐怖を覚え、意識せず身体を震わせた。
「貴方、新聞部の鬼塚くんよね」
 凛とした女性の声に身を震わせながらうなずく。どうして自分の名前を知っているのかという疑問を口にする余裕など無かった。
地獄谷は肩から手を離し、右手で前髪をかき上げた。
「旧校舎、2-B。場所はわかるわね。今夜、日付が変わる頃に来なさい。いい、約束したからね。もし来なかったら」
 軽く握られた左手から直径十センチほどのジャックナイフが飛び出す。銀色に輝く刀身を鬼塚に喉に当て、刃のない面をゆっくりと這わせた。
「裏切り者は、殺すわよ」
 突如として部室のドアが開かれる。遅れてやって来た新聞部の先輩は地獄谷を見るなり、うめくような声を上げた。
 地獄谷は落ち着いた仕草でナイフを手の中に収める。入り口の前に立つ景山を押しのけて廊下に出ると、その場でくるりと振り返り、念を押すように鬼塚を睨み付けた。
 ようやく地獄谷の呪縛から解放されると、鬼塚は脱力して椅子から崩れ落ちた。先輩の景山が駆け寄り、今はだれの姿も無い廊下を二人で見やる。
「リビングデッドに、目を付けられたのか」
 景山の問い掛けに、鬼塚は力なくうなずいた。
 新聞部にはいくつかのタブーが存在する。その中でも特に危険とされているのが、極神学園三年、地獄谷刹那の存在であった。
 地獄谷はとある事件に巻き込まれて致命傷を負った。極聖病院に運ばれ、奇跡的に一命を取り留めて戻って来た彼女は性格がまるで変わっていた。常に殺意と警戒心をむき出しにして歩くその姿を見た学生たちは一様にこう思った。
 あれは一度死んで地獄の鬼に身体を乗っ取られた、リビングデッドだと。

●ブリーフィング・ルーム
「どんな世界にも触れてはいけない禁忌がある。私たちリベリスタの存在もそう。フェイトをその身に宿したとき、当たり前だったはずの日常は失われてしまった。本当は気づかないほうが幸せだったかもしれないのに」
 集まったリベリスタたちに対し、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は仕事の概要を話し始めた。
 場所は極神学園旧校舎二階の教室。鬼塚を呼び出した地獄谷は深夜零時にこの場で降霊術を執り行う。降霊術とは言っても本式のものではなく、紙とコインを用いただけの簡易的な、はっきりと言ってしまえば降霊ごっこの類である。
「こっくりさんって知ってる? 十年以上前にオカルト好きな女子のあいだで流行った趣味の悪い遊び。ハイとイイエの選択肢と鳥居のマーク、それに五十音の書かれた紙の上にコインを置いて狐の霊を呼び出すの。もちろん本当に霊が降りるわけじゃない。コインは人の力で動かされてるだけ」
 本来であれば遊びに過ぎないこっくりさんだが、極神学園では事情が違う。実際にヒトならざるものが降りてどんな質問にも答えてくれる。降霊術を執り行った人間の命を引き換えにして。
「極神学園でのこっくりさんはエリューションを呼び出す儀式になってるみたい。相手はノーフェイス。この学園のだれかに深い恨みを持ってるわ。多分、こっくりさんの最中に殺されて、その犯人を探してるんだと思う」
 依頼の大まかな説明を終えたイヴはモニタの一つを切り替え、地獄谷のデータを映し出す。
 そこには革醒者であることと、特殊なアーティファクトを所有していること以外の情報は記されていなかった。
「彼女には注意を払っておいて。革醒者ではあるけど今のところはフィクサードらしい動きもリベリスタらしい動きもしてないみたい。アークでもその目的と正体を探ってるところよ」
 最後に鬼塚のことはちゃんと守るよう付け加えてリベリスタたちを送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:霧ヶ峰  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2011年08月05日(金)22:08
目的は鬼塚の救出、戦いの場所は夜の旧校舎教室です。
二人がこっくりさんを始めたところに駆けつけます。
夜中なので他の生徒や先生はだれもいません。
警備室に警備員が一人だけいますが、居眠りしています。
鬼塚は神秘を体験しているので隠す必要はありません。
地獄谷はリベリスタたちが来ることをわかっているのでこちらも取り繕う必要はありません。

こっくりさんはいっしょに参加してもいいですし、見守っていても構いません。
ただし、すでに始めているものを中断させることはできません。

こっくりさんを始めてしばらくするとエリューションが現れます。
エリューションは鬼塚の身体に取り付いてリベリスタおよび地獄谷を襲います。
特殊な攻撃は持っておらず、鬼塚の身を人質に、という状況を最大限に利用してきます。

エリューションは命の危険を感じると鬼塚の身体から離れます。
ギリギリのところまで追い詰めなければ離れませんが、鬼塚は生身ですので痛めつけすぎると死亡する可能性があります。
なお、地獄谷は余計な手出しをしなければ今回のところは敵には回りません。

以上、ご参加をお待ちしています。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
プロアデプト
彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)
クロスイージス
レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)
覇界闘士
付喪 モノマ(BNE001658)
★MVP
ソードミラージュ
アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)
ソードミラージュ
番町・J・ゑる夢(BNE001923)
ソードミラージュ
桜田 国子(BNE002102)
マグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)

●深夜の旧校舎
 夜の零時を過ぎた極神学園旧校舎はにわかに騒がしくなっていた。
 そのきっかけを作ったのは机の上に置かれた紙とコインを指し示す地獄谷刹那である。教室に入って来たリベリスタたちに対して何かを問い掛けるわけでもなく、顔を一瞥しただけで興味を失ったように鬼塚直樹への説明を続けた。
 一方の鬼塚は顔見知りである『さくらさくら』桜田 国子(BNE002102)の姿を見つけて安堵の表情を浮かべた。立ち上がりかけたところを地獄谷に名前を呼ばれ、うつむき加減でまた席に座り直した。
「おいお前ら。何か面白ェことやるそうじゃねーか。シカトしてねぇで俺らも混ぜろよ」
入って来るなり大きな声を上げた『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)が鬼塚の首に腕を回す。地獄谷が答えるのを待たずに鬼塚の隣を陣取り、五十音の書かれた紙を物珍しげに掴み取った。
「薄暗い中でこっくりさんとか肝試しみたいですね。万が一があってはいけないので予備の明かりも用意して来ました」
 旧校舎を照らすのは中央の机を取り囲むようにして並べられている四本のロウソクのみである。光源を増やした雪白 桐(BNE000185)はランプを教卓の上に置き、椅子を引いて地獄谷の隣に腰を下ろす。
 さらに地獄谷を挟むようにして『BlackBlackFist』付喪 モノマ(BNE001658)が、モノマの隣、アッシュとの間に『少女J』番町・J・ゑる夢(BNE001923)が座る。ちょうど地獄谷とアッシュが正面に向かい合う席順となった。
 他の四人はこっくりさんには参加せずに事の成り行きを見守る。中でも『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)は一人教室には入らず、廊下から中の様子を伺っている。
「参加するならコインの上に指を置きなさい。途中で離したら死ぬわよ」
「その前に聞きたいことがあるんだけど、いいかな」
 国子の言葉で地獄谷の指が止まる。感情の読み取れない瞳を国子は鬼塚の背中越しに見返した。
「なんでわざわざ鬼塚くんを呼んだの。彼じゃなきゃいけない理由があるの?」
「こうして私達が呼び出されて来たことがその答え。私にはそう思えてならないのだけど、どうかしら」
 国子の問い掛けに合わせて『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が口を挟む。
 地獄谷は無言のまま氷璃に視線を移す。おろおろと二人を見やる鬼塚の肩に国子が手を置き、ただ一言、大丈夫だよと耳元でささやいた。
「俺らが居たほうが都合がいいからってことなんだろうが。てめぇの勝手な都合で無理矢理関係ない奴を巻き込む様なやり方は気に入らねぇな」
 しばしの沈黙をモノマが乱暴な物言いで破る。
 地獄谷は深く息を吐き、片手で前髪をかき上げた。
「私はただ確認したかっただけよ。鬼塚くんがこうして無事で居られるのは偶然なのか、それとも必然だったのか」
 顔は氷璃に向けたまま、両の瞳を国子に動かす。
「貴方はこれで三度目。他は初めて。つまり貴方たちは組織で動いてるのね。その組織は事件を予知するチカラを持っている。そう思えてならないのだけど、どうかしら」
 先ほどとは攻守が逆転する。氷璃は特別に表情を変えることも無く、冷静に受け答えた。
「狐の霊より、貴女に聞きたい事の方が多いわ」
「なら聞いてみるといいわ。本物のこっくりさんならきっと疑問に答えてくれるわよ」
「貴方を殺した犯人もそれで見つかるといいわね」
 それで話を打ち切った氷璃は隅に置かれた椅子に腰を下ろす。他に問い掛ける者も無く、こっくりさんを見守る者はめいめい一定の間隔を空けて教室内に散らばった。
「んじゃま、始めるとすっか。確かこいつの上に指を置きゃいいんだったよな」
 アッシュがコインに指を乗せたのを皮切りに他の人間も次々と人差し指を伸ばす。
 最後に地獄谷が指を当て、こっくりさんを呼び出す呪文を唱えた。

●こっくりさん
 呼び掛けに答えるようにしてコインが揺れ動く。一度ハイの位置に移動し、また鳥居の書かれた場所に戻るのを確認すると、お互いに顔を見合わせた。
「だれかが動かしてる、なんてことはないですよねー」
 ゑる夢の言葉を質問と勘違いしたらしく、コインはイイエの位置に進んだ。
「鬼塚くん、何か聞いてみなさい」
「えっ? ぼ、僕がですか」
 戸惑いながらも辺りを見回した鬼塚は、背後に居る国子の耳に目を留めた。
「えと、さ、桜田さんの耳にある斑点は、病気か何かでしょうか」
 コインは一切の迷い無くハイの位置へと移動した。
「ち、違うよ! これ模様だから! 病気でもアレルギーでもありません!」
 またコインが動き出し、イイエの答えを示した。
「後で病院にでも連れて行ってあげなさい。じゃあ次は隣の貴方、何かある?」
「そうですね、地獄谷さんは悩んでいますか? で」
 コインはしばしその場に留まり、ゆっくりとハイに向かって動き出した。
「なるほど。では何を悩んでいるんでしょうか」
 初めて、コインが五十音の欄に移動する。い、の、ち、と文字を繋いだところで鳥居の中に納まった。
「死人が現世に留まってることを悩んでると言ってるんですかねー。でも地獄谷さん、黄泉返りにしてはお綺麗じゃないですかー」
 軽口を叩きながらゑる夢は地獄谷の目を覗き込む。
「あなたのそのお綺麗な瞳には、何が映っていますか?」
 地獄谷はゑる夢を一睨みしただけで、何も答えることは無かった。
「殺しと言えば俺も聞きたいことがある。お前を殺した犯人の目星はついてるのか。こっくりさんの最中に殺されたんだったよな」
 これまでで最も素早くコインが滑り出す。順番に文字を読み上げると、じ、ご、く、だ、に、せ、つ、な、と一つの名前に行き当たった。
 その答えに地獄谷は笑みを見せる。皆の視線が集中する中、最後の質問を行った。
「寺島栄子。私を殺したのは、貴方?」
 突如、教室全体が激しく揺れ動く。思わず鬼塚が指を離した瞬間にコインが割れ、煙と共に人の影が浮かび上がった。
 即座に反応したアッシュが椅子を蹴って立ち上がる。片手で鬼塚を突き飛ばし、飛び掛ってきたエリューションを文字通り自分の身で受け止めた。
「来やがったな不意しか討てねえ臆病者が。俺様の身体は居心地がいいかよ」
 悪態をつきながらもアッシュは身を屈める。
顔を上げたときには、アッシュの声でアッシュのものとは違う口調の言葉が発せられた。
「思わぬタナボタね。そっちの普通の子よりこの身体のほうが使えそう」
 コントロールを奪ったエリューション、寺島栄子がポケットの中をまさぐる。武器になるものを持ってないことを知ると、軽く舌打ちした。
「残念だが探し物はこっちだ。その身体はハズレだな」
 モノマは見せ付けるようにしてアッシュのアクセスファンタズムである眼帯を持ち上げる。
 取り囲まれた寺島は怒りを滲ませながら自分のモノとなったアッシュの首に爪先を当てた。
「それ以上近付くとこいつの喉を掻っ切るわよ」
「そうしたければ、どうぞご自由に」
『トリレーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)が悠々と寺島に歩み寄り、肩口をピンポイントに狙い打つ。躊躇の無い攻撃に二人分の苦痛の声が上がった。
「彼の、鬼塚君の生死も含めてだれが生き残ろうと関係ないの。貴方を退治することが私たちの役目。それだけよ」
 反対の肩も手加減無く痛めつける。危機を察した寺島がアッシュの身体に憑依したまま教室を逃げ出そうとするが、廊下で待機していたレナーテがその前に立ちふさがった。
「ごめんねアッシュ君。できるだけ早く終わらせるから」
 アッシュの顔面に分厚いシールドを叩きつける。横殴りに倒されそうになりながらも反応の良いアッシュの身体は自然と受身を取り、床への直撃を回避した。
「し、正気なの。仲間の身体だってのに」
「アッシュ君だってそうして欲しいって思ってるはずだよ。他人に自分の身体を使われるくらいならね」
「ま、待って! こいつ、この女を殺せれば私はそれで満足なの。終わったらこいつの身体はすぐに返すわ」
 両手にシールドを構えるレナーテを警戒しながら地獄谷を指差す。地獄谷は獲物が自分から近付いてきたことに笑みを浮かべ、突き出された腕にバタフライナイフを突き刺した。
「つっ……! こ、この痛み、まさかアンタも」
「殺したかったのは私も同じよ。この機会を与えてくれたことに感謝するわ」
 身を乗り出した地獄谷の前に四色の光が飛び交う。魔光は先ほどまでこっくりさんを行っていた机を粉々に破壊し、老朽化した床に風穴を開けた。
「……次は当てるわ。下がりなさい」
「何のつもりかしら。貴方から死にたいの」
 氷璃への敵対心を見せる地獄谷を彩歌があいだに立って制止する。
「待って地獄谷さん。ここは私たちに任せてくれない?」
「どうせ殺すんでしょ。だれが殺っても同じじゃない」
「私は貴方のこともまるっきり信用してるわけじゃないわ。鬼塚君は二度もアンデットに襲われてるらしいし、今回も死人がらみ。疑ってるってほどではないのだけど」
「地獄谷さんは自分を殺そうとした犯人を捜してるんだよね。でもその人は自分を殺したのは地獄谷さんだって言ってる。確信が持てない内は任せられないよ」
 彩歌の疑問に対しレナーテも賛同の姿勢を見せる。
 獲物を見下ろしたまま地獄谷は黙り込む。再び声を掛けると、ナイフを手の中に戻して椅子に座り直した。
「なら好きにしなさい。仲間の身体だからって躊躇するようなら考え直すわよ」
「それなら大丈夫。どういう状況にせよ、エリューション撃破が最優先だから」
 レナーテ以下、だれの行動にも迷いは無い。全員が目の前のエリューションを屠るため、取り付かれたアッシュの身体に襲い掛かる。
 それでもまだハッタリだと高を括る寺島の顔面スレスレを国子の弾丸が通過する。リボルバーから漏れる硝煙を息で吹き消し、再びアッシュの顔に狙いを定めた。
「あら? 惜しい。逃げ回るから外しちゃったじゃない」
「わ、わかってるの。私を殺したら、この男だって」
「憑かれた人間を生かしておくほどリベリスタは甘くないよ。うざったいから避けないでね」
 二度目の射撃は頬を掠めた。流れ落ちる血を指先で拭った寺島は悲鳴を上げながら室内を逃げ惑う。高性能なアッシュの身体は回避能力こそ並以上だが、武器を持たずにリベリスタ七人と戦えるほど強いわけでもない。隙を突いて攻撃を試みようにも思ったほどの被害は与えられず、防戦一方となっていた。
「やっぱりアッシュさんは一筋縄ではいかないですね。私で当てられるとすれば」
 仲間の協力を得て寺島を隅に追い詰めた桐は、光り輝くグレートソードを高々と掲げ、一気に振り落とした。
 刃が深々と胴体を切り裂く。吹き飛ばされこそしなかったものの痛手を負った寺島は机を蹴って飛び上がり、桐の攻撃範囲から脱出した。
 しかし逃げた先は新たな狩場だった。拳に炎を纏わせて待ち構えていたモノマは冷酷な瞳でエリューションを睨み付け、腕を真後ろに引いた。
「ぶちぬけぇぇぇぇ!!」
 鍛え抜かれた拳が胴体を強打する。炎がアッシュの身体へと燃え移り、身を焼き焦がした。
「どうやら人質頼みの戦い方しかないみたいですねー。さっさと終わらせて帰りましょー」
ゑる夢の合図で指先から鴉が飛び立つ。トップスピードでアッシュの胴体にくちばしを突き刺し、元の紙に戻った。
「な、なにこれ……気分が……」
「おやおや、毒にやられたみたいですねー」
「ア、アンタ、アンタからも言ってやりなさいよ。アタシの目的はあの女を殺すことよ。それが終わったら解放されるのよ」
 追い詰められた寺島が中に押し込めたアッシュの意識に問い掛ける。
 途端に笑い声が上がり、元のアッシュが顔をのぞかせた。
「この俺様が、雷帝アッシュ様がてめぇらバケモンの言いなりになるとでも思ってんのか。てめぇこそ言い分があるなら今のうちに言っておけよ。二度目の復活はねぇだろうからな」
「余計なことを!」
 言葉を吐き捨てながら教室の隅に匿われている鬼塚に目をやる。
 アッシュの身体はだれが見ても瀕死の重傷を負っている。一切の手心を加えないリベリスタたちに対し、身体を乗っ取ることができるエリューションが取れる行動は一つしかない。
 わずかに身を動かした寺島の前に国子が歩み寄る。手には一振りのダガー。アッシュの命を絶つには十分なものだった。
「これで終わりにしてあげる――サヨウナラ」
 ダガーがアッシュの脳天に突き刺さる。それとエリューションが飛び出したのはほぼ同時だった。
 生身となったエリューションは御しやすい鬼塚の身体へと向かう。迎え撃つモノマは真空破で無防備な身体を切り裂き、地面に叩き落した。
「おいアッシュ、生きてるか」
 モノマの呼び掛けに弱弱しい声が上がる。アッシュの額に突き立てられたはずのダガーは姿を消しており、傷口すら残されていなかった。
「な、なんで。確かに……」
「貴方が知る必要はありませんよ。それじゃ、今度こそお終いです」
 最後まで自分が国子の作り出した幻影に騙されて飛び出したことを知る機会は与えられず、桐によって切り伏せられた。

●鈴の音に消えた過程
「お疲れ様アッシュ君。無事、じゃないみたいだけど」
 瀕死のアッシュに駆け寄ったレナーテは、取り合えずの処置として身体を蝕む毒から解放する。癒し手がおらずこの場での治療は望めなかったが、命に別状は無いようだった。
「こんなもん、つつ……怪我のうちにも入らねぇよ」
 強がって見せながらも一人の力では身体を起こすこともできない。モノマに預けていた眼帯を身に付け、やっと落ち着いたように息を吐いた。
 リベリスタたちはエリューションが退治された後もまだ警戒を解いていない。地獄谷はそんな周りの目など気にせず寺島の死体に近付き、その場に片膝をついた。
「これで貴方の復讐は、終わったのかしら」
 問い掛ける氷璃に地獄谷は視線だけを向ける。
「こいつはあくまで犯人の一人よ。実行犯かどうかも定かじゃないわ」
「この学園にそういうグループがあるってことなの?」
 彩歌の疑問には答えず、ゆっくりと立ち上がる。
 その際に小さな鈴の音が響き渡る。リベリスタたちはそれぞれに眩暈を覚え、自分の目元を押さえた。
「貴方たちが知る必要は無いわ」
 鈴の音は徐々に大きくなっていく。一人、また一人と倒れ込み、最後に立っているのは地獄谷のみとなった。

 リベリスタたちが目を覚ましたときには、地獄谷も寺島の死体もその場から消えていた。
 消えていたのはそれだけではない。学園に来てからどのようにして今に至るのか、その過程がすっぽりと記憶から抜け落ちていた。
 エリューションを退治して鬼塚を救出した。リベリスタたちに残されたのは、その結果のみであった。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
ご参加ありがとうございました。
またご縁がありましたらよろしくお願いいたします。