●地獄への道は正義で舗装されている 逃げ惑う相手に、四つの影はじりじりとにじり寄る。か細い悲鳴をあげて、今宵の彼らの獲物である小さな体躯の魔物は後ずさった。 ――往生際の悪い獲物だ。先程から逃げ回ってばかりいる。 自身の背後が壁である事に気付いた魔物の表情が、絶望に染まる。その瞳はすっかり恐怖という感情に塗りつぶされており、歯向かう気力もないのか弱々しく首を横へと振るばかりだ。 けれど、影にとって相手は討伐すべき敵。世界の安寧のため、そして自分達が経験を積むためにも、見逃してやるわけにはいかない。 常に自分達に這いよる期待と栄光に背を押されるかのように、『勇者達』は一歩、また一歩と相手との距離を縮めていく。 「い、いや……、こないで……、こないでよぉ、化物っ!」 魔物が奇妙な叫び声をあげた。聞き慣れぬ言葉だ。彼らにはその意味は分からない。そもそも、魔物の言葉などに耳を傾ける気などない。 故に彼らは、怯える相手に向かい容赦なく武器を振り下ろす。夜の通りに、断末魔の悲鳴と共に鮮血の花が咲いた。 魔物……否、ただの中学生だった少女の遺体を、異世界からの来訪者達の色を持たぬ瞳が見下ろす。 月明かりに照らされる、人と同じサイズの四体の人形。彼らの表情は、ピエロのような仮面で隠されていて何を考えているのか窺い知れない。 少女が完全に動かなくなった事を確認し、人形達はまた次の獲物を求めて街をさ迷い始めた。 ――足りない。レベルアップにはまだ足りない。 ――世界の平和には、まだ、足りない。 ●ゆうしゃさまが あらわれた! 「アザーバイドの討伐をお願い」 ブリーフィングルームに立つ、銀色の髪の少女。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の唇が、今宵も運命を紡いで行く。 標的であるアザーバイドは、ピエロの仮面を被った人形のような姿をしている。数は全部で四体。 リーダー格である通称勇者は、素早い動きで斬りかかってきたり、相手を惑わす呪文を唱えたり、剣から眩い光を放ったりするのだという。 他にも、斧での力強い攻撃を得意とし味方を庇う事もある戦士、回復に長けた僧侶、神秘的な攻撃を繰り出す魔法使いがいるらしい。 アザーバイド達はとある街の大通りで、倒すべき獲物を探し徘徊している。今から向かえば、犠牲者が出る前に彼らと接触する事が出来るだろう。 「彼らは残り一体になると、その場から逃走しようとする。逃がさないよう、上手く回りこんでね」 D・ホールはすでに閉じてしまっている。討伐する以外の道はない。 イヴに見送られ、リベリスタ達は戦場へと足を向けた。それぞれの正義を、胸に抱きながら。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:シマダ。 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月26日(木)22:12 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●エンカウント、カウントダウン 「異世界からの勇者か。この世界に害を為す者であれば、それはただの侵略者。正義などあろうはずもない」 『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)は、堂々とした出で立ちで言葉を吐いた。あくまでこちらの言い分だが、引っ込めるつもりなど毛頭ない。 力なき正義は正義に非ず。我が正義を押し通すまで。正義の甲冑は、魔剣、質実剛剣グランセイバーを構える。 「出で立ちが道化だなんて、それっぽくもないですものね。お望みどおりピエロにして差し上げますわ」 七海 紫月(BNE004712)はそう言って、いつもように「おほほ」と笑みをこぼす。 「此方は女勇者を筆頭に、格闘家、戦士、剣士、暗黒騎士二人に、僧侶、賢者……ちなみに、私の前職は遊び人でした」 そう呟くのは、『天の魔女』銀咲 嶺(BNE002104)。今宵集ったこの世界の勇者達も、なかなかにバラエティに富んでいる。最も、『向こう』には、自分達の事は大魔王やその臣下に見えているのだろうけれど。 月明かりが照らし出すのは、街を徘徊する四つの影。道化師の仮面をつけた来訪者達は、自身の糧となる獲物を探し求めていた。 勇者という通名がつけられたアザーバイド達。彼らからすれば、これから行おうとしている虐殺劇もいつもの魔物狩りの心算なのだろう。 「けど残念ながら、今から始まるのはラストバトルなんだよ」 『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)の呟きが、夜の街へと落とされる。 自分達の前へと立ちふさがったリベリスタ達の姿を見やった瞬間、アザーバイド達の仮面の奥の瞳が歓喜の色を宿した。 ――嗚呼、獲物がきた。 とでも、言うかのように。 ●狩って駆って勝って 勇者が、食らいつくかのようにリベリスタ達に斬りかかろうとする。けれど、義衛郎が素早く彼の前へと立ち塞がった。相手の攻撃を受けながらも、赤茶の瞳を持つ男は挑発的に笑う。 「此方の勇者が来るまでの前哨戦って事で、少し付き合ってもらおうか」 言葉が通じないのは承知の上だ。気を引けるなら、それでいい。 結界が展開されているとはいえ、一般人や動物が迷いこんできてしまう可能性はゼロとは言い切れない。万が一に備え、わざと挑発的な態度をとり義衛郎は勇者の狙いが自分になるように誘い出す。 彼の作り出した氷刃の霧が、近くにいた勇者と戦士を飲み込んだ。戦士の体が、みるみる内に氷像と化していく。 「演算速度オールグリーン。情報処理速度極めて良好。超頭脳演算、開始します」 嶺の形の良い唇が、流れるように言葉を紡ぐ。卓越した頭脳で即座に最適なプランを組み上げた彼女は、的確に指示を出し味方を導いていく。 直後、辺りを彩ったのは赤色。魔法使いが放った炎の魔法が、リベリスタ達に襲い掛かったのだ。轟々と燃え盛る炎が、リベリスタ達の体を蝕む。 「そっちの世界では勇者様だったんだろうけどな。こっちではオマエらが狩るモノは何もないんだよ」 ――その首、俺の牙で噛みちぎってやるから待ってろ。 炎の中、そう告げるのは一人の虎。『輝く蜜色の毛並』虎 牙緑(BNE002333)。火の粉を振り払い、牙緑は駆ける。彼の巨大な剣が振るわれ、強力な一撃が僧侶へと叩き込まれた。 「別世界の勇者……。出来るなら言葉を交わし、認識の違いを説いて自分たちの世界に帰ってもらいたいですが……」 しかれども、言葉は通じない。ゲートはすでに閉じてしまっている。帰還してもらう手段も、もうない。 『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)は複雑そうに呟き、けれどすぐにキリリとした面持ちで敵へと向き合う。 放たれるは、雷の呪文。こちらの世界の勇者が紡いだ呪文は、雷となり勇者一行を貫いた。 「正義の為に、平和の為に行動するのは立派です。立派なんですけど、僕達にとっては大迷惑なんですよね」 なんだか、正義の味方全般にこういう問題抱えてるような気がしてくる。と、如月・真人(BNE003358)もまたやりきれなさを孕んだ声音で、独り言ちた。 少女と見紛う容姿を持つ少年は、立ち回りに注意しながらも体内の魔力を活性化させ、傷ついた仲間を癒す為に備える。 僧侶が癒しの魔法を唱え、仲間の状態異常を打ち払う。氷像と化していた戦士が、自由を取り戻した。 「無抵抗の人間の命を奪い取る鬼畜外道め、俺が相手だ」 『完全懲悪』翔 小雷(BNE004728)は、テレビゲームに馴染みがない。RPGだの勇者だの、聞かされてもピンとはこない。 けれど、今街を闊歩している“勇者”と呼ばれるアザーバイド達が罪のない人々に襲い掛かる未来を、彼はフォーチュナから聞き、知った。 ならばそれは、完全懲悪を冠する自分の敵だ。 水の如き構えを取り、小雷は次の攻撃に備える。悪を滅する為の拳は、怒りに震えていた。 「勇者を阻止すべく動くわたくし達は、彼らにとってはさしずめ悪の使いというところでしょうね」 おほほ、それもまた一興でしょう……わたくしダークナイトですもの。そう続け、紫月は笑みを浮かべる。 ならば、その闇の力を思う存分見せつけてやろう。少女の体が、闇を纏った。 そう、今宵の敵は、異世界からやってきた勇者達。だが剛毅は、彼らをこう称す。 「侵略者どもよ。疾風怒濤フルメタルセイヴァーが討伐してくれるわ」 紫月に続き、剛毅も漆黒のオーラを撒き散らした。 戦士が、自身の行く手を遮る小雷へと斧を振るう。力強い一撃が、リベリスタの体に傷を作る。 勇者の動向に目を光らせながら、義衛郎は凄まじいスピードで武器を振るった。冷たい霧が、再び勇者達に襲い掛かる。 「あなた方には、私たちが何に見えているのです?」 嶺の問いかけに、当然返答はない。 六枚の翼を背負った女……。魔族の女にでも見えているのだろうか。なんであれ、味方とは思われていない事は確かだ。 こちらへの敵意を隠そうとはしない勇者達を、銀色の瞳は見つめ返す。 「残念ですが、冒険はここでおしまいにしてくださいね」 嶺の放った気糸が、勇者達の武器を持つ手を正確に狙い撃った。魔法使いが、致命的な傷を受け苦悶の声を漏らす。 反撃とばかりに、魔法使いの唇は詠唱を紡ぐ。雷が、牙緑に向かい落とされる。 勇者も、周囲の者を惑わす呪文を唱えた。しかし、それは誰の事を誘惑する事も叶わずに終わる。 そんな勇者に、何か励ましの言葉をかけようとしたのかもしれない。あるいは、ただの偶然かもしれない。彼の方を見やろうとした僧侶。 しかし、彼女の口から言葉がこぼれ出る事はなかった。牙緑の破滅的な破壊力を持った一撃が、僧侶を切り裂いたのだ。 アザーバイド達には、自分達の事が魔物にしか見えていない。分かり合う事は、難しい。 「でも、倒す事でしか解決できないというのなら、下手に分かり合ってしまうのよりはマシなのかもしれませんね」 光が、再び雷の呪文を唱える。ただでさえ集中して攻撃を受けていた僧侶にとって、それがとどめとなった。倒れ伏した彼女は、それきり二度と起き上がってくる事はなかった。 回復役がいなくなったといえど、油断する事は出来ない。知性がある相手だと、戦術面が怖い。 (ピエロの仮面で迫るのも、ホラーな感じがして怖いです!) 警戒し、そして少しだけ恐怖に震えながらも、真人は大いなる存在へと呼びかける。小雷の体を清らかな微風が包み込み、彼の傷を癒した。 「平穏を乱す外道。貴様こそ『悪』と言う名にふさわしい。この世界から消え去れ」 小雷の拳が炎纏い、まっすぐに戦士に向かい振るわれる。剛毅の闇のような一撃が、勇者達を撃ち抜いていく。 更にアザーバイド達に襲い掛かるは、紫月の受けた痛みを孕んだ呪いだ。度重なるリベリスタ達の猛攻により、魔法使いもその命の炎を燃やしきる。 厄介な後衛二人がいなくなった。残すは、前衛二人。あとは、力と力でぶつかるのみだ。 戦士が唸るような雄叫びをあげながら斧を振り回し、周囲の者達に襲い掛かってくる。 「くっ……!」 まともにその攻撃をくらってしまった小雷が、膝から崩折れた。日々の鍛錬の成果のおかげかかろうじで意識は残っているが、戦闘の続行は難しいだろう。その好機に、勇者は小雷のほうへと向かおうとする。 「おっと、オレを忘れてもらっちゃ困るな」 しかし、義衛郎がそれを許すはずもない。三度繰り出される、彼の攻撃が勇者の行く手を阻み、戦士の命をも削り取る。 リベリスタ達の猛攻は続いていく。劣勢に、勇者が歯噛みするような音が響いた。 「おほほ、存分にイラつかせてあげましょう。わたくし、ワルモノですからね」 勇者には、紫月の言葉を理解する事は出来ない。しかれども、言葉が通じなくとも、剣を交える事で強さは通じる。 勇者はもう知っているのだ。今宵自分達が狩ろうとした『魔物』は……獲物などと気軽に呼ぶ事の出来ない、強敵だという事を。 ●彼らの為の教会はない 道化師の仮面を被った影も、残るは一体だけとなった。 ついに全ての仲間を失った勇者は、態勢を立て直すためにその場から撤退しようとする。 しかし、相手をみすみす逃すほどリベリスタ達は甘くない。嶺の仕掛けた罠が発動し、勇者の逃走を阻害する。 フハハハハハ!という笑い声が、月夜に響いた。疾風迅雷セイバリアン、愛機のサイドカーに乗った剛毅が勇者の退路を塞ぐ。 すっかり回りこまれてしまった勇者。それでもなお、アザーバイドは逃げ道を探し続けようとする。 経験値稼ぎ中に死ぬだなんて、洒落にはならない。生きて、世界を平和にするのが、自分の使命なのだから。 けれど―― 「知らないのか?」 「だいまおうからはにげられない」 義衛郎の言葉に、剛毅が続く。右を見ても、左を見ても、そこには勇者にとっての『魔物』の姿があった。 ――これでは、いつもと違う。いつもは自分達が、逃げる魔物を追う側なのに。 言葉が通じずとも、彼が困惑している事は伝わってくる。そんなアザーバイドに、牙緑は告げてやった。 「オマエら故郷では有り難がられてるのかも知れないが、残念だったな。ここでは、オマエが狩られる方なんだよ」 牙緑の挑発が効いたのか、勇者は逃げるのを止めリベリスタ達に再び剣を向ける。 けれど、忘れてはいけない。この場には、もう一人勇者の名を冠する少女がいるのだ。 「ボクは、ボクの目指す勇者らしく……!」 光の、高威力攻撃がアザーバイドへと放たれる。勇者だからといって、一人で活躍して目立てばいいというわけではない。勇者だからこそ、仲間と協力して戦う事が重要なのだ。少女は仲間達と声を掛け合い、互いにサポートし合いながら勝利へと突き進む。 先の戦士との戦闘で出来た傷は、真人が癒していく。 「受けて見よ我が必殺剣! セイヴァーダイナミック!」 剛毅の自慢の愛剣が、勇者の体に向かい振り下ろされる。まさにダイナミックな一撃が、アザーバイドの命を削る。 「おほほ、闇の騎士が勝つというストーリーもなかなか味がありましてよ?」 続けて、襲い掛かるは紫月の一撃。アザーバイドにはその身をもって、感じてもらおう。『ゆうしゃよ、たおれてしまうとはなさけない』、を! 生憎と、勇者は間に合っている。こちらにはすでに、光という名の勇者がいるのだ。 「……あら? そのお供がダークナイトでは、格好つかないでしょうか?」 なんて、小首を傾げる紫月。少し考えてみはたものの……それについては、気にしない事にした。自身の血に塗れながらも、少女は不敵に笑う。何故なら彼女、七海 紫月は、光も闇も操るのだから。 嶺の気糸が、精密に勇者に狙いを定める。 「あの世で、ご朋友の皆様とゆっくり語られませ」 そしてその一撃は、正確に異世界の勇者の命を貫いた。 この世界に、コンティニューはない。勇者だろうが外道だろうが、命が尽きれば倒れ伏すだけ。 彼らの冒険は、今、ここで終わったのだ。 ●街は何も知らず、平穏を取り戻す 最後に小雷が彼らの仮面を外した時、そこにあったのは何の変哲もないただの人形の顔だった。 無機質なその顔が象っていたのは、エンディングへと辿り着けなかった無念だったのか。それとも、使命から解放された安堵だったのか。 何にせよ、任務は終わった。リベリスタ達は、その場を後にする。 嶺の対処により、戦闘の痕跡はもうどこにも残っていない。誰も気付く事はないであろう、ここで魔王と勇者の最終決戦があった事など。 知っているのは、今宵彼らと対峙した、この世界の勇者達だけだ。 「サヨウナラです……異世界から来た、勇者さんたち」 一度だけ足を止め、光は呟く。けれども、振り返る事はなかった。 朝焼けに染まる街の中、この世界の勇者達は歩みを進めて行く。自分の信じる、前へと向かって。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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