● 正義と悪、人の物差しで見方が変わる言葉だ。だからこそか。絶対悪だなんて言葉はあるものの、其の三文字を冠する者、モノ、物が此の世に在るか無いかと言えば限りなく無いに近いのだろう。どういうものが『其れ』にあたるか考えてみれば、単純に私利私欲に狩られて他人を陥れたり、黄泉ヶ辻のような人の不幸を笑う存在も『其れ』に近いと言えば近いようにも聞こえる。……とは言え、此れも俺の小さな物差しから見た世界だ。違う、と他が言えば其れもそうなのかもしれない。さて、俺はどうであろうか。断言するが、俺は正直に正義も悪もどうでもいい。人が創造した不安定なものを馬鹿な俺の頭で考えた所で、明確な答えに辿り着くとも思っていない。リベリスタが正義でフィクサードが悪だったとしても、否定はしない。 しな……い……。 「………ぐ」 難しい事を考えて自分の本能を抑えてみたら、頭から煙を噴き出し、鼻から血が出てきた。 ぶっちゃけ、正義や悪を議論する場所じゃねーから! そんな事、如何でも良いのだ! 何故かと言うと、今、俺の目の前には七派の一角、穏健とかほざいている所の奴が作った、地下闘技場を観戦しているからだ。面白いものがあると言われてホイホイついて来たが、確かに此れは面白い。 合法とは思えない、現実から隔離された場所。 一般人が身体や体力、対人戦闘能力の腕を競い合い、其れを周囲の馬鹿共が金を賭けて遊ぶコロシアム。いや、殺さないが。 見た感じ、恐らくルールは簡単だ。 相手が起き上らなくなるまで、戦う。武器の使用は一切禁止、己が拳や足、総合的に身体で熱く語り合う場所だ。 「俺も、……俺もやりたい」 「抑えて、薫ちゃん! 僕もやりたいけど、流石に一般人相手は駄目だって!」 「けど、けど……!」 如何にも、剣林の俺には誘惑が過ぎる。 嗚呼、大勢の人々の前で、嗚呼、此の鍛え上げられた身体を、嗚呼、研いだ技術を、嗚呼、見せびらかせるのであらば、嗚呼嗚呼嗚呼嗚呼。 「ふむ。場外乱入アリみたいだな」 「何!? 場外乱入有りなのか!!? やるやるやるやるやるやる!!」 「ああ?! 日爪ちゃん余計な事言わないでよ!! ほら行っちゃったじゃん!!」 ● 「ていうノリで、一般人相手に剣林の精鋭が出張って来たので、大事に成る前に如何にかしましょう」 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は顔を逸らしながらそんな事を言った。 今回の依頼は言葉で言うのは簡単だが、少々厄介。 未来視の映像でもあったが、一般人の闘技場に剣林が混ざった。恐らく放置すれば、本気の剣林が一般人を殺しかねない。それはマズイ、非常にマズイ。ましてやノリと勢いで殺される一般人が可哀想だ。 だから、それを……方法は問わないので如何にかするのだが。 「皆様が行って欲しい場所は、一般人だらけの地下闘技場。 ……つまり、一般人が沢山いるので、大変申し訳ございませんが皆さんが使うスキルは、その、なんと言いますか……一切禁止と言いますか。それに加えて、武器の装備も禁止させて頂きます」 一般人に神秘が暴露されてしまうのは問題だ。 例えばスキルを使って、其れが本気で一般人にバレない程度なら、許可しても良いのだが……。 「ともあれ、保険に保険をかけたみたいなものです。 相手する剣林フィクサードも、闘技場のルールに乗っ取って試合をするみたいなので、 都合の良いフェアプレイで、戦いましょう、ねっ」 ルール、その壱。 リンクの上に立ったら、勝ち残るか動けなくなるまで戦い合う事。 ルール、その弐。 凶器刃物その他武器に成り得るものの使用は禁止。 ルール、その参。 ギブアップは許されない。 「という事なので、参戦するのであればお気をつけて」 尚且つ、リベリスタ到着時にはフィクサードが乱入し始めた所で、リンク上には一般人が数名居る。其の数人が、どれくらい技量を持った戦士であってでもだ、一般人は一般人。革醒者に勝てる訳がない。 だが何も、剣林から一般人を護りつつ交戦するだけが此の場を収める方法では無いだろう。例えば一般人を誘導してみたりなどなど、方法は多くあると思える。 更に注意して欲しいのは、あくまでも剣林は自己顕示欲を満たしたいと思っているという事。 「ともあれ、剣林は戦いたい欲、見て欲しい欲さえなんとかなれば撤退する気がするんですよね。 一般人が見ている所で、フィクサードを殺すのも割とまずいと思うので……もしやっちゃうなら全て終わった後にサクっと殺すと良いかもしれませんね。 此方としては、一般人の死人は出して欲しくないので……リンク上が肉塊ぶちまけ祭りになる前に、なんとかしてくださいね! それでは、宜しくお願いします」 杏理はぺこりと、頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:夕影 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2014年05月19日(月)23:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「すいません、すいませぇえん通してくださーい」 『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)が身体という名前の壁にむぎゅむぎゅと押し潰されながら、会場の中心を目指していた。 やっとの思いで、フェンスにしがみ付いた陽菜は剣林フィクサードの姿を眼の中に映す。 「あっ、だめっ」 薫が腕を振り上げ一般人の顔を殴らんとしていた。陽菜の心の中が焦る。 「ごきげんうるわしゅー、乱入にまいりましたー」 フェンス頭上から声。其の主は『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗(BNE000004)である。 乱入者は子供、会場中がざわついた。褐色肌の少年、命知らずか、だが屈強な男の拳を受け止める。其の拳の重い事、夏栖斗が全力で受けたにも関わらず、数歩後退を余儀なくされたのだ。 「アークが何の用だよ!!」 「何のって……解らない?」 此処で、カウンター。夏栖斗の腕が薫へと伸びていく。が、其の腕は殴る用では無く、薫の後ろ首を掴んでから己が口元に薫の耳を寄せた。 「一般人相手より、革醒者のほうが楽しめるだろ。それとも一般人相手に俺つええ! する方が楽しい?」 「はン、侮るなよ御厨の!」 薫は数歩下がり、やる気を見せびらかすように指を鳴らした。 「遊びに来たンであらば、ルールに乗っ取って楽しくゲィムしてやらねーとなァ?」 「遅いな」 革醒者ではない者の攻撃なんて止まって見えて。 『無銘』熾竜 ”Seraph” 伊吹(BNE004197)は一般人が放ってきた攻撃、右ストレート。其れを捕まえるように右手を掴み、勢いのままにフェンスへと投げつけた。 大きな音と共にフェンスが男の形に歪む。地面に落ちた男は、一般人にしてはしぶとかった。伊吹からしてみれば、褒めてやりたくなる程に。 「だが、そろそろ遊びは終わりにしないとな……ん?」 「るせぇ!!」 投げ飛ばしまくった男がついにキレてナイフを取り出したのだが、伊吹は大して驚く事も無かった。むしろ、終わったなコイツと呆れる程。 「次からは、フェンス内に入る前に身体検査が必要だな」 「うるあああああああああ!!」 涎を垂れ流し、血眼に成り、一般人はナイフの先端を伊吹に向けて走って来たのだが。 「きゃー!? 退いて退いてー!!?」 ひゅるるる、どしん! 「あいてっ!!」 「ぎゃっ」 フェンス上から陽菜が落ちてきて、其の尻の下敷きに男は成った為、攻撃が中断。此れには伊吹も頭を抱えた。 「だから退いてって言ったじゃん!」 かなりの理不尽を言いながら陽菜は男の上から降りた。 「投げれないので、お願いしまーす」 「ああ……」 代わりに『悪漢無頼』城山 銀次(BNE004850)が男の首を掴み、片手で男の足が地面からさようならする程度まで持ち上げたのであった。 「てめェ……殺せなかったが殺される覚悟あるっつーこったよなァ……?」 ド低い声で銀次は言いつつ、片腕の力を少しずつ少しずつ強めていく。言葉らしき声も紡ぐことができず、泡を吹きながら男は意識を手放したのであった。 其の儘場外に投げ、一般人の一角が其の男を受け止める。 ● 「そんじゃま、やり合おうぜ!」 「ちょっと待て、御厨」 所で、何処かからBGMが流れてくるんですがって薫は言いたかったのです。 『剣龍帝』結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)――もとい、先ほどから白馬に乗った変質者が場外にいらっしゃるのですが。 「ふ……気づかれたか。俺は謎の覆面格闘家マスク・ド・ドラゴン!」 特に誰も問いかけていなかったのに、自ら名前を名乗ったマスク・ド・ドラゴンであった。 一体……彼は、何龍帝だというんだ……。 「結城竜一か」 薫が空気を読まずに言った。 隣で夏栖斗が両手で顔を覆った。 「あ、やっ、違います。マスク・ド・ドラゴンだから、あのアークのイケメンの結城竜一じゃないから」 「結城か」 「違います。流浪の格闘修行の合間に立ち寄ったナイスガイさ」 「もうやめて! りゅーにゃんは本当は良い子なんです!!」 強情に首を振り続ける竜一に、遂に夏栖斗がいたたまれなくなった。 「まあ、良い。アークの有名人が相手なら悪くないからな!!」 「良かった! 相手が馬鹿で良かった! ね、りゅーにゃん!」 「マスク・ド・ドラゴンな」 「餓鬼が……ンでこんな所に」 一般人の中でも一段と身体が大きい男が『質実傲拳』翔 小雷(BNE004728)を見て、機嫌悪く嘆いた。 小雷は右見て、左見て、ついでに後ろを見てみてから理解した。 「餓鬼とは……俺か?」 「他に誰がいんだよ!!」 「確かに……貴様から見ればそうかもしれん」 吹き飛んできた腕、だが、小雷は冷静に拳をかわして男の懐に流れるように入った。 「あんまり……舐めるなよ」 「ぎゃぎぃ!!?」 小雷の拳が男の腹に食い込む。一斉に胃液を吐き、少し目が飛び出た状態で男は今度は断末魔を上げた。会場中が驚きの声がどよめいていく。 かなり目立っているがいつも通りの軽い表情をしたまま、ひょいと男の身体を持ち上げた小雷は場外に男の身体を投げた。 ずしん、と砂埃が会場の外に巻き起こったが、休む暇無く違うどよめきが会場を支配する。 なんで。 なんで。 なんで。 ……フェンス内に女がいるんだ!!? 馬鹿なの? 「ぐるるるるる……」 「馬鹿はどっちですの……」 フェンスの上、ルー・ガルー(BNE003931)と『残念系没落貴族』綾小路 姫華(BNE004949)が立っていた。いいね、その位置。スカートの中身が見えちゃうね。 じゃなくて、乱入は百歩譲って良しとしても、服を選べェ!! そして服を着ろォ!! 「……オマエラ、タイジョー」 身軽にフェンス内に着地したルーは即座に、一般人の男の首を掴んで上へと投げた。 「おお」という溜息にも似た歓声が上がった刹那、ルーは飛び上がり其の男を蹴り飛ばしてはフェンスの外へと。観客の一部に其の男が砲弾のようにしてぶつかっていく。 獣の様に瞳孔が開いたルーは、確かな手応えと共に次の獲物を探す。 其の中、姫華は日爪に突進を決めていた。後退した日爪と入れ替わったようにして、一般人の男が前へと出た。 突如身の毛が弥立つ様な感覚を覚えた姫華。見られている目線が普通じゃない、クスリか、それとも。 「女ならなんでも食べたいお方ですの?」 なんだ、只の獣か。 伸ばされた手が姫華の服を掴んだ、男性リベリスタ全員が其の事態にいち早く気づいたのだが――。 「服がぁぁ、伸びますわ!!」 此処で姫華の蹴りが男の股間を捕えた。 食住よりも衣を優先して生きる彼女にとって、服を引き千切られそうになる事態だけは避けたい訳であった。 「仕方ないなぁ」 転げあがった男を陽菜が掴み、両手で頭より上に持ち上げる。丁度、「よーいしょっと」とでも言っているような軽い感じで陽菜は男を場外へと投げたのであった。 ● 姫華の口から荒い息が漏れる。相手は流石の剣林の精鋭と言った所か。やはり一筋縄ではいかなさそうだ。 「やめるか? 優しく放り投げてやろうか?」 「うるさい……ですわ!」 まだ、リベリスタが定めた敵を倒す順番というものでは日爪の番はまだである。それまで姫華の体力が持つかは、まだ解らない。 戸部薫には、馨という妹が居る。 彼女は確か賊軍と戦い、黄泉ヶ辻に会ってからが行方不明だ。 彼女は特に無害なフィクサード(一部超有害)であった為か、此の場にいた一部は彼女の居所を兄に聞けないか考えていた。 「馨ちん、行方不明になって3ヶ月くらい? 連絡、ないの?」 夏栖斗の言葉に伊吹も聞く耳を此方へと立てた。だが、帰って来た返答は。 「妹を知ってるクチか! 残念ながら知らねえ、だがまあ大丈夫っしょ!」 と、かなり軽いもので。正直なんの役にも立たない。 「余所見……ですか?」 「ち、ちがう」 錬の声、伊吹は振り返るが其の刹那には錬のワンパンチが伊吹の頭を極端に回転させた。 明らかまずい方向に首が回ってしまっている為、フェンス外から叫び声が聞こえたが、伊吹意外にも此れをスルー! ぐるんと首を持ち直した伊吹は、錬の腕を掴みフェンスへと投げる。轟音と共にフェンスが軋み、其の先に居た一般人が思わず驚きの声を出した。 「随分と、剣林は暇に見えるが?」 「暇……うん、まあ、僕達別に常日頃修行してる訳でもないから……」 つまり、暇だった。 そろそろリベリスタやフィクサードよりフェンスの方が壊れないか心配である。何故かと言うと、我こそはと命知らずの一般人がフェンスを上りはじめたからだ。 だがここで竜……もとい、マスク・ド・ドラゴンが本気を出す。登って来た一般人を尽く場外へ投げ返し、投げ返し。 「あ、あんなの一般人にはできない芸当だぜ……!だってフェンスの上を走ってやがる!!」 「ピエロか! ピエロなのか! これァ大道芸か何かかァ!?」 「今日のコロシアムは一段と別格揃いだな…」 とか一般人が騒ぎ出したから、竜一……マスク・ド・ドラゴンの口端が吊り上がった。 「ふははは! 戦いの場に立つには貴様たちは未熟! この龍のアギトを掻い潜れぬ者に立つ資格はない! 大人しく見ておれ、戦いというものを!」 「んだてめぇコラ!! 餓鬼が調子乗んなァ!」 場外で乱闘が始まった。竜一が、マスク・ド・ドラゴンが其の上ってくる一般人を投げ落とし投げ落とし、ヘイトを彼が稼いでくれている分いくからフェンス内の革醒者はやりやすい。 「良かった、竜一さん居て良かった!」 陽菜は上を見上げつつそう思っていた。だがすぐに顔の向きを変えた陽菜は、手元の携帯を見て一言。 「う……時間が、無い」 タイムリミットまで、あと少し。 しかし竜一一人で一般人を抑え込むのも大変そうであった、先ほど足を踏まれたり引っかかったり肘をぶつけられた恨みを込めて。 「よいしょー!!」 陽菜が内側からフェンスをタックルして揺らし始めたのだ。彼女こそ革醒者である、物理攻撃こそ低くとも身体能力は人よりはあるのだ。だからこそ、揺れる揺れるフェンス。 ● 「やめておけ、女人を傷つけるのは趣味では無いのでね……」 傷つき過ぎた。だが姫華の瞳は勝利を望む。此の場、けして倒れる訳にはいかないのだ。 「それは、勝ってから行って欲しい台詞ですわ」 足に力を込め、前へと出る。全力投球の右拳、それが日爪の頬を掠っていく。だがカウンターとして彼の拳を腹部にまともに受けてしまえば、胃液が逆流。 「だから、無駄だと……しぶとい女は嫌いでは無いがな」 込み上げた胃液を飲み込み、姫華は未だ立つ。ふと、日爪は頬に違和感を覚えた。 「な……んだと?」 日爪の頬より血が伝った。 よく見れば、姫華の爪先が彼の皮膚を抉っていたのだ。其の指の先についた血を姫華は舐め上げて、其れを体力回復の糧とした。 「貴方の相手は私ですわ。余所見させる暇なんて、与えてやらないのですわ!!」 確かに、場内に居る奴等は人の域を超えている動きをしている……気がする。と一般人は察し始めた。何故が目の前で格の違う動きされていたら声も出ない。 だが、中でも。 「あいつぜってー人じゃねえ」 ルーの動きは明らかおかしかった。 360度の壁になっているフェンスを、超高速で乗り移りながら多角的に薫を攻めていく。 目の前の夏栖斗だけでも面倒な相手なのだが、ルーは特に、何処から来るか解らないという意味では恐ろしさを秘めている。 「コッチ、コッチ」 喉を鳴らし、敵の視界を誘導するが。とんできた攻撃は薫が顔を向けた方向から逆方向。 薫の腹部に噛みついたルー、だが薫は此れを弾き落した。だが彼女の攻撃は止まらない、飛ばされた勢いにフェンスの着地したルーは其の侭前へと出て薫に突進を仕掛けたのだ。 「チッ!」 だが薫も彼女の動きに目が慣れたか、さらりと良ければルーは其の侭夏栖斗へとぶつかって二人一緒にフェンスにお世話になった。 薫の追撃。 「これで終わりにしようなァ?」 右腕に力を込め、すれば彼の腕がビキビキと音を鳴らして締まっていく。明らかおかしい、人間じゃない。だがこれ、マジで通常物理攻撃。 夏栖斗がルーを背に置き、ルーは警戒心と威嚇の意から敵意むき出しの唸り声を上げた。 その彼等と薫の間に割って入ったのだが小雷であった。 「こっちだ、俺が相手だ!!」 利き手の指、人差し指を上にクイっと曲げて見せれば、 「いいぜ? だがそう簡単に壊れてくれんなよ?」 薫の拳は小雷へ定められたのだ。 「馬鹿だ、どうしよう薫って馬鹿だ!!」 本日二度目の馬鹿で良かったが発動した夏栖斗であった。 命を大事にとは良く言ったものだ、この言葉には己が命は含まれているのだろうか、いや、含まれていない。 歯を食いしばりながら、小雷は薫が近接に来るのを待った。だが彼が思い描いていたよりも早く薫の拳は、そう、瞬き一つしていた瞬間に顔を捕えられたのだった。 だが、だが、倒れなかった。 フェンスを支えによじ登り、足で確かに立ったのだ。 「ハン、やるじゃねーのよ?」 薫は止まらない、止まってくれない。二度目の攻撃が小雷を狙っていた。だがパンチが彼の顔を砕くより先、一瞬だけ意識を飛ばしたかのように小雷の足が折れたのだった。 攻撃の勢いは止まらない、そして小雷は小さく笑った。次の瞬間――― 「な、なんだ、これ!?」 薫が貫いたのはフェンスであり、其の金網が薫を捕えて離さない。そう、今此の時を待っていたのだ。 「無様やのう」 銀次が嘲笑いながら、彼の背中に立つ。冷や汗ひとつ流した薫だが、けして負けは認めないだろう。 「なら、倒さねェと負けてくれねェよなァ?」 銀次の眼が獅子のそれへと変わっていた。目の前に居るのに、敵が居るのに、世界的に殺しても問題が無いフィクサードが居るのに、殺せない? ――――イライラする!! 其の力を此の拳に込めて。もし間違って、うっかり首の骨を折ってしまっても仕方ないと言えるくらいに。 「歯ァ……食いしばれよォォォ」 「フェンスから抜けろ俺の手ェェ!!?」 打撃だが赤く染まれと。 振り上げた拳、無頼の拳では無く通常物理。ぶおんと一般人の耳でも聞こえる音と、風圧が発生。其れに息を飲む暇さえ与えずに、銀次の腕は薫を捕え、これまたぐりんと首がいけない方向へと曲がった。 首が曲がった、確かに曲がったが薫は其の侭立ち上がった。 「嬉しいねェ……アークとこうやって戦えるのは、よぉ」 両手で首を持った薫は力任せに首を正位置へと戻す。其の顔、狂気のように笑っていた。 殺気。 「それはまずいよ薫ちゃん!」 一番冷静でいた錬が焦った。伊吹の腕を掴んで、背負い投げ。だが上手く着地した伊吹は錬の腰に手を回し―― 「プロレス!?」 「一回やってみたかっただけだ」 其の儘、バックドロップ。 一瞬だけ白目を剥いた錬であったがすぐさま我を呼び戻し、伊吹を跳ね除け至極単純なパンチを伊吹の胴に繰り出す。 込みあがる吐き気、だが伊吹は耐えた。 戦いは望まない伊吹であったが、チラりとみた薫がやばそうだ。 「ここでは互いに力を出し切れまい。後日、別所で再戦を所望したい」 「そうしたいけれど薫ちゃんがぁぁ!」 正直、錬と戦う意味ってなんだろうと伊吹は少しだけ思った。 引き続き薫だが、瞬時に夏栖斗が動いた。此処で誰一人として血を見させる訳にはいかない、楽しく殴り合いしに来たのだ。殺し合いなんて、 「――駄目だ!!」 フェンスを蹴り、跳躍。彼の身体が回転する勢いに乗りつつ、右足で薫の肩を蹴りフェンスへと激突させた。 「ハッ、……頭冷えた」 「今ので!?」 いかんいかん、頭を横に振った薫だが刹那夏栖斗の眼前まで一気に間を詰めた。振り上げた拳、夏栖斗も咄嗟に反応して片腕を振り上げ――其の儘、クロスカウンター。 お互い鼻血を吹き出しよろけつつ、そして。 「僕達の勝ちだね」 「あー……仕方ねーなァ。ま、いっか! 楽しかったぜ? 箱舟の」 倒れ伏した夏栖斗と入れ替わる様にしてマスク・ド・ドラゴンとルーが前に出たのだ。ルーは頭で薫の胴を突き、 「ひゅー! いくぜェェ、3、2、1!」 フェンス上から繰り出された盛大な踵落としが薫の脳天をかち割り、彼は地面に倒れ伏した。 ……が、しぶとく這い上がって来た。 「まだだ……まだおわんねェェやっぱ負けるとか無理ィィ」 「「「寝てろ」」」 おかわり。 錬を後にした伊吹と銀次、小雷がほぼ同時に右と左と前から薫を蹴りあげた。 まるで漫画のように曲線を描き、薫の身体はフェンスの上に洗濯物みたいに引っかかって止まった。今度こそ、本当に終わり。 「さてさて、あとは貴方一人ですわよ?」 「ふむぅ……」 残りは姫華の抑えている日爪と錬。錬にしてみれば元よりやる気が無かったのだが……しかしその時であった、会場入り口からパトカーサイレンの音やら足音が複数聞こえる。 「あり? 予定よりちょっと遅かったくらいかな?」 原因は彼女、陽菜であった。こそこそっと警察に連絡していた訳だが、三尋木が居るから駄目って言ったでしょ! やってしまったものは仕方ないが。 「てててて撤退させてくださいいい」 「……全く、水をさしやがって」 錬と日爪が薫を抱え、フェンスを乗り越えた。リベリスタ達もお互いにお互いの視線を送り合い。 ――逃げよっか? そんなこんなで、今日はお開き。どうせ三尋木はもう逃げてるだろうし、ね。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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