● 天守閣に潜む姫 城の象徴とも言うべき天守には、様々な役割がある。例えば、城の敷地を見渡せる事、城主の権力を主張する事などが上げられる。 しかし、その実非常時以外の場合、天守は主に物置として使われることが多かった。 そんな天守に、それは現れ、居座りはじめたのである。 現在は観光地となった古城。その上層部、天守の隅に玉座を構え御簾の向こうで優雅に煙草など燻らせるそれは、十二単を身に纏った美しい女性だった。 しかし、一目で異質と分かる外見でもある。そもそも今時代、天守に座して十二単など纏った者など、異質以外の何者でもないのだが。 『平和な世になったものよな』 城の敷地内を見下ろし、姫は一言。涼やかな声で告げる。その頭頂部からは、白い獣の耳が飛び出している。体のサイズも、よくよく見ればかなりの大柄。立ち上がれば3メートルは超えるだろうか。 ため息と共に紫煙を吐き出し、つまらなそうに鼻を鳴らした。 『戦乱と狂気が懐かしい。それを眺めるのが好きだったのだが』 姫の眼は、異世界の様子や遠く離れた場所の光景を覗き見ることができる。その力で、かつてのこの国を覗いた事があるのだろう。 傍らに開いたDホールを撫でて暫し思案顔。このまま元の世界へ帰るか、それとも今暫く留まるか、悩んでいるのだ。 『せっかく来たのだし、遊んで行くか』 偶然開いたDホールを潜り、この場所へやって来たのだ。なにもしないまま帰るというのは退屈だ。 『昔はもっと、ギラギラした目の輩が多かったように思うがなあ』 記憶を頼りに、姫は周囲に自分の領域を展開する。邪魔な見物客を城外へと追い出し、立ち入りを禁止。堀や壁などすでに朽ちていた城の一部を修復。鎧武者や足軽、忍を配置。 まるでゲームのステージでも作るように、辺りの空間を自在に書き換える。 そして最後に、城の最上部へ白い狐の瓦を設置。 『こんなものかの?』 満足顔で、姫は言う。 御簾から覗くその瞳は、まるで狐のそれであった。 ● 古城攻略戦 「観光地になっているかつての城跡が、アザーバイド(小刑部姫)に占拠された」 現状を簡潔に、かつ事実のみを告げる『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)。観光地件歴史資料館の扱いになっていた古城が、今は現役時代のそれに近い外見と機能を取り戻している。 「小刑部姫がいるのは最上階。そこまでたどり着くまでに、城門を3つ突破しないといけない」 元々小山の中腹に建てられた城である。ゆるく長いのぼり坂を上った先に、城はある。合計3つの厚い城門を突破する必要がある。 「もっとも飛行できれば門を攻略する必要はないけど。でも、飛んでいると天守閣の小刑部姫から丸見え。姫の攻撃や矢の良い的」 槍や刀、弓矢で武装した兵士が合計30〜40体は存在しているだろうか。それに加え、数こそ少ないが城内を中心に忍も配置されている。 「城内に立ち入る事が出来るのはE能力を持った者だけ。また、城の領域は時間とともに拡大している」 小刑部姫の目的が、戦乱と狂気である以上、放っておくと訪れるのは最悪の結末。それを防ぐためには、一刻も早く姫を止めるしかない。 「城を形成、拡大している間、姫は天守を動けない。近接戦闘に持ち込めば、集中できずに城や兵の維持ができなくなる」 もっとも、姫もそれを自覚しているのだろう。数多の兵や、遠距離攻撃の手段を彼女は持っている。 反面、近距離戦闘は不得意という弱点もある。十二単など纏ったまま、暴れまわることができるはずがないので、当然と言えば当然だ。 「傍らにDホールが開いているし、強引に押し込めても大丈夫。ちょっと体躯が大きいけど、2〜3人いればいけると思う」 無論抵抗はしてくるだろうが。 「姫の送還、あるいは討伐。それが今回のミッション。よろしくね」 そういってイヴは、リベリスタ達を送り出す。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月22日(日)23:48 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●天守閣から望む者 千里眼を持つが故に、彼女は外出を好まない。とはいえ、やはり千里眼で見るのと、実際に見るのでは臨場感が違うのだろう。特に、天守閣から望む城攻めの様子など得も言われぬ興奮を覚える。 今、自分の居座っている城へ向け、殺意の大群が押し寄せて来るのだ。 それを圧倒的なまでの武力で、幻術でもって駆逐する瞬間が好きだった。 天守閣に住む妖姫(小刑部姫)と、人は彼女のことをそう呼んでいる。 古の城を再現し、古の兵士を再現し、彼女は今、城攻めの興奮を再び味わうためにこの世界に現れたのだ。そんな小刑部姫の千里眼が、城に近寄ってくる8人分の人影を捉える。 『おや? 客人かの?』 どこか楽しそうな調子で、姫は侵入者たちを眺めている。 ●落城ホリデイ 「なかなか、気の合いそうな相手。戦乱も狂気も、興味は無い…けど、闘争、は楽しい、ね」 長い長い坂道が始まる。城の手前に配置された3つの城門。その1つ目を視界に捉え『無軌道の戦姫(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)が駆け出した。鉄甲が怪しいオーラに包まれている。彼女の接近に気付いた兵士が数体、弓矢と刀を構えた。 「血を、汗を、流し、命を削り、運命を投げ捨てるかのように、一瞬の煌きを追い求める。そんな闘い、は最高、だね。さあ、楽しい楽しい、闘争の宴、を始めよう」 天守閣から、こちらの様子を見ているであろう小刑部姫に向け、天乃は言う。その声が姫に届いたかどうかは分からない。しかし、彼女の言葉が合図であったかのように、その時一斉に矢が放たれた。 「攻城戦ってのも厄介だよな。攻め手には、3~10倍の必要だって言われてるってのに。 防御側の方が5倍以上かよ。ま、こっちは優秀な若い奴らに奮起してもらうとすっか!」 凶暴な笑みを浮かべ『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼス(BNE000220)が吠える。パイルバンカーを盾に、身体を張って矢を受け止めた。 「それじゃあ頑張って攻め落とすとしますか」 ソウルの激に応えるように『ファントムアップリカート』須賀 義衛郎(BNE000465)が刀を抜く。身を張って仲間を庇ったソウルの左右から、天乃と義衛郎が飛び出した。 刀と拳が鋭く閃く。最前列に居た兵士を斬り捨て、義衛郎が敵陣へと切り込んだ。刀に切られた兵士が鮮血を散らす。しかしそれでも、兵士は引かない。数の暴力。3人の兵士に一斉に切り掛かられ、義衛郎の動きが止まった。 天乃も同様、数に阻まれ上手く前に出れないでいる。 と、その時だ。 目の眩むような閃光が、辺り一面を白く染め上げたのは。 「やーん、お城を攻め落とすのって大変ですよう」 閃光を放ったのは『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)だ。神気閃光。兵士の動きが鈍った隙に、ソウルは強引に門へと突っ込む。パイルバンカーを掲げ、力任せの体当たりを慣行。それを防ぐべく、ソウルへと弓矢が向けられた。 しかしソウルは止まらない。矢を全身に受けてでも、門を破壊してしまうつもりだろう。 そんなソウルを後ろから眺め、『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)は溜め息を零す。 「まったく、蟻のようにぞろぞろと煩わしいですね」 諭の重火器が火を吹いた。轟音が響く。門の手前に弾が着弾。土と粉塵を撒き散らす。放たれた矢は、粉塵と爆風に阻まれソウルに命中しない。 地面が揺れる。バキバキと木の倒れるような音。怒号と共に、第一の門が砕け散った。土煙が晴れると、そこには荒い息を吐くソウルの姿。 強引に、しかし迅速に。 第一の城門、突破である。 「この戦は敵殲滅ではなく、大将を討ち取ることっ。これはいかに効率よく敵対象までたどり着けるかを考慮しなければいけません」 後衛。前衛から一定の距離をとって後を付いていくのは離宮院 三郎太(BNE003381)。門を破壊した今となっては、門の警護に当たっていた残党を相手にしている暇などないのである。三郎太は、隣を走る『魔術師』風見 七花(BNE003013)に視線で合図を送る。無言で頷き、七花は片手に魔導書を開いた。魔力が集中し、その性質を電気に変じさせる。 解き放たれた電光が、城門周辺を薙ぎ払った。飛び退る兵士達を尻目に、後衛たちも門を抜ける。 「………。何か、来ますっ!」 門を潜り抜けたその直後、七花の足がピタリと止まった。周囲に視線を巡らせる。一瞬感じた鋭い殺気に気を取られて、動きが止まる。 「忍出現ですか? 注意を払いましょう」 七花と背中合わせになるような陣形を取る七海 紫月(BNE004712)。剣を片手に意識を集中させる。このままじっと、この場に留まるわけにもいかない。兵士の残党がこちらに迫ってくる。 「上です!」 緊張がピークに達したその時、七花が叫ぶ。その声を合図に、紫月は剣を突き上げた。禍々しいオーラに包まれた剣が、頭上から飛び降りてきた忍の胸を貫いた。忍の放った苦無が紫月の肩に突き刺さる。 無傷とはいかないが、致命傷でもない。追ってくる兵士を無視し、七花と紫月は踵を返す。 目指すは第二の城門へ。 「小細工など必要ないですね。攻城戦で必要なのは、ただひたすらに鉄と火薬ですよ」 最前列に影人を並べながら諭は言う。影人の手にした重火器が一斉に火を吹いた。地面が揺れ、鼓膜が破けるような轟音が轟く。弾幕に続いて、魔炎が兵士を薙ぎ払った。 「まずは手下の数を減らし、それから突破です」 魔炎を放ったのは七花である。炎と砲弾。圧倒的な火力で持って、数の不利を無理矢理覆す。 「皆さんは攻撃に集中をっ!」 「俺を足止めしたきゃ、小細工せずに命を取りに来いってんだ!」 小刑部姫の指示か、それとも元より恐怖を感じていないのか。兵士達は炎に焼かれ、砲弾を浴びながらもこちらへ攻め込んでくる。一斉掃射された矢の雨がリベリスタ達を射抜く。 しかし即座に、三郎太が回復術を発動させた。飛び散る燐光が傷ついた仲間を癒す。矢の雨に紛れ、至近距離まで接近してきた兵士をソウルが迎撃。城門破壊の邪魔はさせない心構えだ。 「後ろから追手が来ましたよ!」 「やーん。後方から、6体接近中ですよぅ」 後方の警戒を受け持つのは、紫月とイスタルテの2人だ。剣を手に敵を迎え討つ構えの紫月。そんな紫月に先行する形で、閃光が走る。神秘の光が兵士を焼いた。動きは鈍るが、討伐には至らない。 「門の上の弓矢兵が邪魔ですね。後ろはオレが食い止めましょう」 刀を片手に義衛郎が後方へと駆ける。義衛郎の傍らに控えていた天乃は、無言で1つ頷くと天乃はまっすぐ、城門目がけて駆けていった。 一閃、二閃と刀が閃く。斬撃の嵐が兵士を襲う。兵士の突き出した槍が、義衛郎の脇を貫いた。痛みに顔を歪める義衛郎。そんな彼を補助するように、紫月が前へ。追手を食い止めることを優先するのは、すぐにでも仲間が第二の城門を破ってくれると信じているからだ。 「悪く、ない、ね」 囁くようにそう言って、天乃は城門を駆け上がった。面接着による規格外の行動範囲。あっという間に門の上に到達すると、目にも止まらぬ速さで跳んだ。 鋭い打撃が、数体の弓矢兵を纏めて門の下へと叩き落す。飛び散った鮮血が、天乃の全身を赤く濡らした。矢の雨が止まったその瞬間、影人達が一斉に前へと駆け出した。門に銃口を突きつけて、引き金を引く。 大爆発と共に、第二の門は木端微塵に吹き飛んだ。 坂の終わりが近づいてきた。城はもう、目の前だ。最後の門のその前に、無数の兵士が集っている。その数は20を超えるだろうか? 門の上には数体の忍の姿も見える。 『さぁ。楽しませてくりゃれよ』 何処からか、声が響く。小刑部姫の声だろうか。楽しげな声だ。血と硝煙の臭い。戦場の臭いだ。生と死が隣り合い、殺意と闘気がぶつかり合う、そんな空間。戦場特有のこの空気こそが、小刑部姫の求めたものだ。 「さぁっ狙うは最上部! アーク軍の侵攻開始ですっ!!」 三郎太が叫ぶ。敵の数が多い。敵の本陣はすぐそこだ。鉄甲に包まれた拳を、叩きつけるように振り下ろす。飛び散る燐光が仲間達の体力を回復させる。 淡い光が舞い散る中、リベリスタ達はそれぞれの武器を構えるのだった。 「散開してください!」 異変を察し、真っ先に動いたのはイスタルテだった。一旦上空に視線を向けると、仲間達に散開を指示する。イスタルテの指示から一拍遅れて、天守閣から無数の青い炎が零れる。 青い炎は、小刑部姫の撃った鬼火である。まるで流星だ。炎の尾を引き、戦場を燃やす。 地面に落ちて、炎は拡散。炎の海が視界を覆う。千里眼を持つイスタルテは、その中でも仲間の位置を把握していた。回復術で、ダメージを受けた仲間を治療する。 そんな彼女の背後に、苦無を構えた忍が迫る。 イスタルテの首筋目がけ、苦無が振り下ろされた。だがしかし、刃が彼女に突きささることはなかった。突き出された太い腕が、苦無を受け止めたからだ。獣じみた凶暴な笑みを浮かべ、ソウルは忍の頭を掴む。 「俺のやる事はいつだってシンプルさ」 忍の胴に杭を押しつけ笑う。後は杭を打ち出すだけだ。 振り下ろされた刀を、魔力銃で受け止める七花。彼女の背後には三郎太の姿。回復役を守ることが、彼女の役目だ。 「魔術師の仕事ではないですが!」 元より腕力には自身がない。受け止めはしたものの、七花の力ではそう長く刀を受け止めることはできないだろう。 それで構わない。数秒時間が稼げればいい。兵士の背後に紫月が攻める。音も無く突き出された剣が、兵士の胸を貫いた。 「っと。戦なら自分の世界で存分にやってくださいな……」 そう呟いて、紫月はやれやれと首を振る。傍迷惑な異界の姫に対し不満を述べるが、その声は怒号に掻き消され、誰の耳にも届かない。 混戦の中、諭の影人が次々に切り倒されていく。重火器を構えた彼の影人は、至近距離での戦闘には不向きなのだろう。 「悪趣味な高みの見物とは良いご身分ですね? 古すぎて脳に黴でも生えてますか?」 天守閣からこちらを覗く小刑部姫を見やり、諭は不快そうに眉を顰めた。試しに1発、天守に向けて砲弾を撃ち込むも、すぐに鬼火で打ち消されてしまった。 仲間の姿が見当たらない。土煙りと鬼火に巻かれながら、義衛郎と天乃はまっすぐ城門へと駆ける。立ちはだかる敵を切り裂き、殴り飛ばし、一気に門へと近づいていく。 義衛郎が切り開いた道を、天乃が駆け抜けた。髪を靡かせるその様は、まるで一迅の風の如しだ。義衛郎の肩を足場に、天乃は門へと飛び乗った。面接着を活用し、門を駆け上がる。忍の放つ苦無も、弓兵の放つ矢も、全て無視してひた走る。 門へ近づく兵士は、義衛郎が斬り捨てる。彼の全身は傷だらけだ。苦無や矢が突き刺さったまま、それでも動きは止まらない。 門を駆けあがった天乃は、そのまま門の反対側へと姿を消した。 「よし……」 額から流れた血が、義衛郎の視界を赤く染める。眼前に迫った兵士を斬り捨て、義衛郎は笑う。 数秒後、門の向こうで「カチリ」と小気味のいい音が鳴った。 ギギギ、と軋んだ音を立て、最後の城門がゆっくりと開く。 門を抜けて十数メートル。城の入口には2人の兵士。 それらを纏めて、七花の魔雷が吹き飛ばす。次々と門を抜けるリベリスタ達。ただまっすぐ、敵陣を突っ切り、城へと攻め入る。後はまっすぐ、天守閣を目指すだけだ。 ●小刑部姫 死角から襲い掛かってくる忍達を、次々に迎撃していく。頭上から飛んでくる苦無を鉄甲で受け止め、足元から突き出された短刀を剣で薙ぎ払い、天井から飛び降りてきた忍を撃ち落とす。 狭い通路で回避行動を取ることはできない。武器の取りまわしも十全にはできない。 しかし、七花の持つ超直感とESPをフル活用し、いち早く敵の接近を察知することで、迎撃を容易にしているのだった。七花の疲労は尋常ではないが、その労に見合うだけの効果は上がっている。 もう1つ階を上がれば、そこはもう、小刑部姫の待つ天守閣だ。 「奇襲は防がせてもらいます!」 天井に向け銃を撃つ七花。短い悲鳴と共に、魔弾に射抜かれた忍が消える。 『なかなか面白い見せ物じゃの』 ふふ、と含み笑いを零す小刑部姫。コツン、と床を指で叩く。瞬間、小刑部姫の眼前に巨大な影が現れた。真っ赤な肌に、鋭い角、口の端からは牙が突き出している。太い腕を振りあげ叫ぶその姿。まさしくそれは、鬼だった。 天守の手前、階段付近に鬼が居た。鋭い爪と太い腕を振りあげ、野太い咆哮を上げる。傍らには2体の忍。鬼の姿を視界に捉えるなり、紫月が前に飛び出した。 「わたくしも吸血鬼。鬼の名のつく種族ですからここは負けられませんわね」 振り下ろされた鬼の腕を掻い潜り、その身体へ鋭い斬撃を叩き込む。鬼が怯んだその隙に追撃を叩き込もうと剣を引く。しかしその瞬間、紫月の背に苦無が突き刺さった。痛みに紫月の動きが鈍る。 「うっ……」 紫月目がけて、鬼の拳が振り下ろされる。 それを受け流したのは、鬼の懐に滑り込んだ義衛郎だ。鬼の拳が床を砕く。 「早急に城の形成を停止、元の世界へ戻っていただきたいのですが……。皆さん、先へ」 鬼が邪魔で、上階へ上がれない。義衛郎の姿が、複数にぶれた。一瞬にして放たれる無数の斬撃が、鬼と忍を切り裂いた。階段を塞ぐように立っていた3体の陣形が崩れたその刹那、紫月と義衛郎を除く仲間が一気に階段へと駆け上がる。 小刑部姫の元へと向かうリベリスタを追って、忍の1人が跳んだ。 忍が苦無を放とうとしたその瞬間、その手足に無数の気糸が巻き付き、動きを封じる。気糸を放ったのは三郎太だ。 「ボクをただの回復役だと思っていたのなら……それは大間違いですよっ」 小刑部姫を倒せば、鬼も忍も消える筈だ。 その役割は、先行した仲間に任せ3人はこの場に残る道を選ぶ。 最上階。天守の覗き窓から外の景色を窺っていた小刑部姫は、ついにここまで辿り着いた客人を、余裕の笑みで迎え入れた。 『素晴らしい余興であったぞ……。褒めてつかわす。たった8人で城攻めをやってのけるなぞ、見た事がなかった』 くっく、と喉を鳴らして笑う。 「やーん、素直にもとの世界に帰ってくれるとよかったんですけど」 困り顔のイスタルテ。それとは反対に、小刑部姫は楽しげだ。 「やっとついた。さぁ……踊ってくれる?」 そう訊ねるのは天乃だ。彼女の問いに小刑部姫が答えるより早く、天乃は床を蹴って跳ぶ。壁を、天井を足場に跳びまわり一気に小刑部姫へと肉薄。その首筋目がけ、拳を突き出す。 だがしかし、小刑部姫の放った黒い雷撃が室内を埋め尽くす。黒く染まる視界。白目を剥いて床に倒れる天乃。至近距離から受けた雷撃が、彼女の体力を根こそぎ削る。 雷撃と同時。イスタルテの使用した回復術が、ダメージを受けた仲間を癒すが、天乃には間に合わなかった。白目を剥いたままの天乃を小刑部姫は冷たい目で見やる。 その時、天乃の指先がピクリと動いた。次いで放たれる鋭い裏拳が小刑部姫の足を払う。 『なにっ!?』 ここに来て初めて、小刑部姫は焦りの声を上げた。 「悪くない、ね。……続き、踊ってくれるん、でしょう?」 満身創痍。しかし戦意は失せては居ない。 七花と諭の援護を受け、天乃とソウルが小刑部姫へと距離を詰める。接近戦は苦手な姫が、遠距離から牽制の雷を解き放つが、受けたダメージなどイスタルテが即座に回復。仲間の戦闘をサポートする。 『ちょこまかと鬱陶しいのぅ』 大柄な小刑部姫からしてみれば、細かく動くリベリスタたちはやりにくい相手なのだろう。元々、ここまで接近されての戦闘は想定外だ。両手の胸の前で合わせ、黒い雷を呼び出す。 一度放たれてしまえば、部屋中を埋め尽くす黒雷だ。天乃とソウルの動きに躊躇いが生まれる。 だが次の瞬間、小刑部姫の表情が歪み、ふらりとよろける。 「ああ、不味いですね。内面を表した味ですか、素直な味が好みなのですがね」 不意打ち気味の諭の攻撃。エネルギーを吸収され、小刑部姫に隙が生まれた。城の形成に多大なエネルギーと集中力を使っていたのだ。 集中力が途切れ、城の形成が解除された。まだ城内に残っていた忍や兵士が消えて、古の外観を取り戻していた城も崩壊。忌々しげに小刑部姫が呻く。 『己ら……、よくも』 パン、と渇いた音が鳴る。胸の前で小刑部姫が柏手を打ったのだ。解放される黒雷。部屋を漆黒に埋め尽くす。 「満足したかい? 狐のお嬢ちゃん。満足したなら、とっととお家に帰りな。でなきゃ、眺めて楽しむだけじゃいられなくなるぜ?」 『なにっ!?』 黒い雷を強引に突き抜け、突破してきたのはソウルだ。全身に火傷を負いながらもパイルバンカーを掲げ突進。小刑部姫の巨体に杭を叩きつける。 ズルリ、と小刑部姫が後退。背後にはDホール。強引に押し戻すつもりだ。七花と天乃もソウルに加勢。全力を傾け、小刑部姫をDホールへと叩きこんだ。 『己ら……覚えておれよ』 そう言い残し、姫の姿が消える。それを確認し、イスタルテがホールを破壊。 後に残されたのは、黒焦げの部屋と傷だらけのリベリスタたち。 戦の爪後を残し、怪異の姫君は消えていったのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|