●廃ビルのある階で 発火した廃棄ダンボールの炎が、獲物を捜すかのように、揺らめく。 五名の解体作業員が、肩を寄せ合い、息を殺していた。 キシャァー! という奇声。肉をむさぼる音。そしてコオロギの影が、コンクリートの壁に映るたび、いまが最期の時かと、心の底から震え上がった。 (あ……あわ……うう……) (おい! 声をだすな!) (だっ……だってよ! だってょ!) (うるさいぞ!) (なに言ってんだ、お前こそ!) 極限状態が、恐怖を怒りに変えてゆく。掴み合いのケンカに発展するまで、争いはエスカレートした。やがて巨大なコオロギが、作業員の一人にかぶりつく。 作業員たちの耳に、断末魔の叫びが突き刺さった。 仲間を見捨て、走り出す。 しかしその先には、叫びを聞きつけた、怪物の仲間が迫っていた……。 ●ブリーフィングルーム アーク本部のブリーフィングルームに指令が届く。 「当該神秘、その性質を確認。至急の対処を要請します」 クールに話す『運命オペレーター』天原・和泉(nB NE 000024)の声は、レポートの徹夜明けとは思えないほど、元気が良い。 「廃ビルの解体作業員が、E・ビーストに襲われます」 すでに三名が捕食され、生存者は五名。 ただし廃ビルの隅に追い詰められ、いまや風前の灯だ。 「当該E・ビーストを『アクリスケルパー』と呼称します。飛行能力を有し、鋭い牙と、触角からの特殊音波放出、そして爆発する卵を吐いて攻撃してきます」 作業員を退避させる際、捕食された仲間を見ると、発狂して暴れ出すようだ。 「戦闘場所の全体図と、E・ビーストの能力をまとめておきました。アクリスケルパーは七体です。そのうち、作業員を捕食中の二体は、攻撃を当てやすいでしょう。どうぞ、よろしくお願いします」 ●敵キャラクター 名称:アクリスケルパー 巨大なコオロギ状のE・ビースト。 のこぎり状の牙と、触角からの電磁波、吐き出す爆弾で攻撃する。 生き残った作業員を捕食するべく徘徊中。 攻撃手段: アクリスタスク:(物単)牙による噛みつき【出血】 サウンドフランマ:(神複)触角からの特殊音波放出による【発火】 クンバラエッグ:(物複)卵状の爆弾を吐き出す攻撃【発火】 ●戦場マップ ■■■■■■■■■■■■■■ ■□□□□E□□□■W□□■ 1.□□□□□■■□■■■□■ ■□□■■□■■□□□□□■ ■□□■■□■■□□■■□■ ■□□□□E□□□□■■□■ ■□□■■□■■□E□□E■ ■□□■■□■■□□□□E■ 4.□□E□□■■□□■■□■ ■□□DE□■■□□■■□2. ■□□□□□□□□□□□□■ ■■■3.■■■■■■■■■■ □:床 タテヨコ5メートル ■:壁・柱 タテヨコ5メートル コンクリート製 W.:作業員たち(5名) E.:アクリスケルパー D.:捕食されている作業員の遺体(3名) 1.:階段1 2.:階段2 3.:階段3 4.:エレベーター ※1~4はすべて突入・脱出に使えます。 ただしエレベーターで突入する場合、 工夫をしない限り 階段チームとタイミングが合わないでしょう。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:蔓巻 伸び太 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月19日(木)22:05 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●廃ビルのある階で ひび割れたコンクリートがむき出しになった、廃ビルのとある階。 冷たい風が吹き荒び、廃材に燃え上がる炎が、通路を照らす。 そんな廃ビルの、北西の階段の入り口で、二人の人影があった。 一人は青年で、もう一人は女の子だ。 彼らは武装しており、青年は刀と西洋剣、少女は風変わりな杖だ。 青年が勲章らしきアクセサリーを耳に当て、通話する。 彼の名は『一人焼肉マスター』結城”Dragon”竜一。右手に白痴の邪神を宿す(本人談)漢だ。 通信した仲間のリべリスタも、準備オーケーらしい。 傍らのクマさん型魔法少女『くまびすはさぽけいっ!!』テテロ ミミルノの手を引き、死臭の廃ビルへ突入した。 ミミルノは虫が苦手らしい。今回の相手を想像し、悪寒に襲われている。 でも。 「ミミルノが頑張らないと作業員さん達が犠牲なるっ!」 力いっぱい、魔砲杖を掴む。うーんうーん。 「よしっ! きあいいれかんりょうっ! いっくよーっ!」 竜一とミミルノは、通路を徘徊するアクリスケルパーと遭遇した。敵の巨大コオロギは、口から粘膜にまみれた卵を生み、咥える。 「ハッハァー! 俺の右手がうずくぜぇ!」 竜一が言った。彼が右手の包帯をほどくと、体からオーラが立ち上った。清々しいほど自意識過剰なポーズをキめ、不敵な笑みを送る。犬歯を突き出し、いまにも挑みかからんばかりだ。 その間にも、ミミルノは援護を開始する。 「ムシさん、めっ、です!」 魔砲杖が変形し、アクリスケルパーを狙う。だがしかし、コオロギは飛躍し、杖のエネルギー弾を回避した。それどころか攻撃に夢中になり過ぎて、竜一にヒットさせかけた。 「うお! あぶねえ!」 「はわわわわ……ごめんなのですぅ……」 今度は外さない。魔砲杖の照準にE・ビーストを捕える。狙いを定め、トリガーを引く。放出された魔撃が、アクリスケルパーの胴体を撃ち抜いた。 「グジゥ……」 コオロギが口から卵を吐き出す。それは緑色で、ブツブツだらけだ。赤みを徐々に増していき、やがて真紅になる。吐き出した直後、爆発した。竜一は回避したが、ミミルノはかすり傷を負う。 竜一がリベンジをしようとしたところ、彼よりも早く、ミミルノの魔砲撃が炸裂した。ケルパーの眉間を捕え、血肉を四散させる。コオロギは痙攣し、すぐに動かなくなった。 「やるな! おかげで見せ場を取られちまったぜ」 「ごめんね」 「いやいや、あやまるこたぁねえ」 この調子なら、作業員の元へ先行させても大丈夫そうだ。 「やれるか、お前?」 「もちろんだよ」 「うし!」 竜一は仲間の援護へ、ミミルノは作業員の救出へ、それぞれ向かった。 ●暴れるリべリスタたち アクリスケルパー二匹が、作業員三人を貪っている。 眼球を抉り、脳を引き出し、心臓を食いちぎり、腸を散らかした。コオロギらしからぬ巨大な口を、左右に開いて咀嚼する。血で汚れたその顔は、もはやコオロギの面影を残していない。 食事に勤しむ巨大コオロギの後ろ。階段の陰に、僧侶ともヘビメタリストともつかぬ男がいた。 『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha”フツは、数珠型のアクセス・ファンタズムに語りかける。 「こちらフツ。これからビルの中央付近へ突入する!」 突入したフツの正面に、二体の巨大コオロギがいる。捕食された三名の作業員は、無残な姿を晒していた。 彼は朱雀を思いつくが、それでは犠牲者を焼き尽くしてしまう。 粗雑な火葬をためらったフツは、緋色の槍を突いた。 「せいっ!」 槍がコオロギを突き刺す。勢いで作業員から強引に引きはがした。 すると、エレベーターが到着する。中にいたのは二人。筋肉ムキムキの大男と、若い男だ。 若い男より早く、『気焔万丈』ソウル・ゴッド・ローゼスが行動する。 隆々たる筋肉が放電する。電撃が直撃したアクリスケルパーは、表皮が膨れ、風船のように弾けた。おぞましい悲鳴をあげる。 「こいや、ムシケラども! てめえらに食われるほど、俺ァ柔らかくねえぞ!」 ソウルの背後で『落ち零れ』赤禰 諭が、式符を取り出し影人を作り出す。生み出された影人は、虚空から重火器を取り出した。捕食中のコオロギを撃つ。 「ギィッ!?」 「お食事中に失礼しますね? ああ、ご心配なく。お食事はそのままで。欲求満たしながら死んでください」 リべリスタが揃い、フツが槍を構えなおす。狙い定め、攻撃した。 「参る!」 魔槍深緋が冴えわたり、魔槍深緋の秘めたる力が、コオロギを氷結させた。 「ギギ……ギ……」 関節が氷漬けとなり、動くこともままならない。フツに向けてあからさまな、憎しみの眼を剥く。 「オラオラ! よそ見すんな!」 ソウルの激烈な放電が放たれ次いで、諭の影人が重機関銃を乱射する。 ところがケルパーは飛翔し、深手を負うには至らない。 そこで、北の通路から新手が出現した。騒ぎを聞いて駆け付けた、仲間のアクリスケルパーだ。 諭の影人を『餌』と認識する。本能の赴くまま、捕食目的で噛みついた。 噛みつかれた影人が、力尽きて息絶える。そのまま、餌となってしまった。 「まったく、可愛げの欠片もありませんね。本能だけで動いてるんですか?」 諭が言った。 ケルパーの視界に、新たな影人をが映る。手下をひとつ失った程度で、諭は動じない。 その背後では、フツが巨大コオロギと激戦を繰り広げていた。彼の法衣は炎で燃え上がっている。 「音波だか爆弾だか知らんが、こんな火でオレ達を止められると思うなよ!」 渾身の突きを放つが、直撃には至らない。 フツは火炎を振り払い、猛攻を仕掛けた。 そのままリべリスタらは優位を保ち、アクリスケルパーと交戦する。 フツの槍、ソウルの撃電が、巨大コオロギを攻め苛む。氷結し、あるいは電撃で痛めつけられたアクリスケルパーらは、息も絶え絶えであった。 やがて四体にまで増えた諭の影人が、二匹を蜂の巣にする。残すはあと一匹。 「あなた気持ち悪いです。さっさと土に帰って下さい」 諭が言った。 だがこの巨大コオロギは、小賢しく立ち回り、致命傷を避ける。 諭が目を鋭くさせると、増援が駆けつけた。 「オレ到着! いま助けるぜ! うおおおおお!」 この威勢のいい声の主は、竜一だ。 「一匹残らずブッ倒すぜ! うおおお!」 竜一は体から湯気をだし、限界を超えた腕力で剣を振るう。巨大コオロギは直撃を受け、背後のコンクリート柱もろとも、粉々に砕け散った。 「やったぜ!」 竜一が言ったが、フツは額に手を当てる。どこか残念そうだ。 「ちぃ……仕留めそこなったか」 やるなてめぇ、と、ソウルが言った。 「あとは、新田か」 作戦では、巨大コオロギをおびき出すはずだ。だが、未だ彼は現れず、替わりに爆音が響き渡っている。やはり、一人で三体をおびき出すのは困難だったようだ。 「こいつは予定変更だな。おい、焦燥院の坊さんよ。ちぃと手を貸してくれねぇか」 ソウルが言った。 フツは千里眼の用意をしている。だが、新田は激しく戦っている。いまは一刻も早く駆けつけるべきだ。 「あたりめぇよ。さっさと退治してやるぜ」 「頼りにしてますよ。私は後ろにいますんで」 諭が言った。 竜一も「オレはいつでもいいぜ!」と言っている。 「ちょっくら待ちな」 ソウルが言った。腰の発煙筒を発火し、通路に投げる。もうもうたる煙が、視界を塞ぐ。 「これでやっこさんらが逃げる時、お仲間の死体を拝まなくって済むって寸法よ」 「おお! やるな、ソウル」 竜一が言った。四輪駆動車を持ち込めず、どうなることかと思ったが、これならどうにかなりそうだ。 なおも、新田の戦いは激しさを増す。 四人は示し合わせると、新田の元へ急いで行った。 ●廃ビルの激戦 東階段をただ一人、駆け昇る青年がいた。アークの勲章を下げ、蛇の刻印が施されたナイフを握る。彼は『デイアフタートゥモロー』新田・快だ。 銀勲章型のアクセス・ファンタズムで通信し、タイミングを計る。突入すると、そこには三体の巨大コオロギがいた。戦闘の爆音に気を取られ、新田に背後を向けている。チャンスだ。 「おい、ムシけらども!」 腹の底から怒号を浴びせる。ただの罵倒ではない。アクリスケルパーの精神を揺さぶる、裂帛の挑発だった。 二匹のコオロギたちが、歯ぎしりをきしませて迫りくる。だが、背後の一匹は動じない。それどころか、作業員が退避した地点へ歩き出す。どうやら、獲物を嗅ぎつけたらしい。翼を広げ、今にも飛翔しそうだ。 まずいことになった。赤禰と合流する予定だが、一刻の猶予もない。快はやむを得ず、単独での戦いを挑む。 脱兎の勢いで駆け出し、飛翔しかけたケルパーに立ちふさがった。 「こい、コオロギめッ!」 新田は言い終わるや否や、横っ飛びに飛ぶ。もといた場所が激しく発火した。 回避した先に、イボと粘液まみれの卵が吐き出される。柱を蹴って回避するも、爆炎が新田を焼く。 「くっ!」 コンクリートの床を転がり回って鎮火する。追撃されるよりも早く、聖烈な一閃が突き抜けた。斬撃を受けたケルパーは、放電して苦しんでいる。 「どうだ!?」 すると、ミミルノが北の通路からやってきた。魔砲杖を掲げ、大きな三つ編みをフリフリさせる。 「おおーい、たすけにきたよ~!」 「ミミルノさん」 新田が言った。 「だいじょうぶだった? 「俺は大丈夫だよ。それよりも、作業員たちが心配だ。救出へ急いでくれるかい?」 「ミミルノはおっけーなんだよ。ここはまかせたよ」 ミミルノはそう言うと、作業員が退避した奥の通路へ駆けて行った。 状況は再び三対一となる。新田と巨大コオロギに、緊迫した空気が流れる。 すると、アクリスケルパーらの背後から、増援が現れた。 「ハッハァー! これもオレの獲物なのかぁー!?」 「助けに来たぜ、新田!」 「ハッ! ガキが先走ってんじゃねぇ」 いよいよ熱くなってきたが、諭の姿がない。彼は背後で、影人を作っているのだ。戦闘は、影人任せである。 大量の増援に焦ったコオロギたちは、続けざまに卵を吐く。三連続で爆発が起きたが、効き目はほとんどない。 「うぉらぁー!」 湯気を上げた竜一が、コオロギの一匹を切りつける。だが勢いのあまり、事故的ミスを侵し、ビルの外壁に風穴を開けた。 「ち、やっちまったぜ」 竜一の横で、卵を咥えるコオロギがいた。まさに吐き出そうとした時、フツの槍が顔を刺す。顔面が凍りつき、爆発卵は攻撃の用をなさなくなる。 牙を剥いて飛翔したコオロギを、フツは涼しい顔で回避した。 ソウルの肉体が、凄まじい雷撃を宿す。 「どおぉりゃあぁぁぁ!」 雷を宿した杭を、ケルパーに打つ。顔面を潰されたコオロギは、文字通り虫の息だ。 「グジュシュゥゥ!」 「さて」 諭が言った。 「真打登場といきますかね」 五体の影人の重火器が、その場のコオロギを蜂の巣にする。三匹いたケルパーは、一匹を残し、神秘の銃撃ですりつぶされた。 羽をもがれた最後の一匹が、諭を狙う。 その一匹を側面から、竜一が一撃した。限界を超えた一太刀が、アクリスケルパーを両断する。 「フィニッシュだぜ」 BoZのギタリスト然とした、ロックなポーズを決める。リべリスタは勝利した。 ●救出、そして帰還 耳を劈く爆発音。怪物の悲鳴。そして足音。五人の作業員は、この世とは思えぬ恐怖を味わっていた。 彼らの荒んだ心を癒す、可愛らしい声がする。 「みんなっ!だいじょぶっ?たすけにきたよっ!!」 クマの人形を被った、猫のような女の子だ。ミミルノは怪我がないか確かめると、励ますような声を掛ける。 ほどなくして戦闘が終了した。新田がミミルノに合図する。リべリスタらは協力して、作業員を連れ出した。避難経路は、竜一とミミルノが突入した階段だ。 道中に捕食された作業員が見える場所があるが、ソウルの発煙筒が煙を吐いており、見えることはなかった。 一方その頃、フツは捕食された作業員を弔っていた。犠牲者らと交霊するなり、神妙な面持ちが、かすかに綻ぶ。彼らは逃げた仲間を、特に恨んではいないようだ。できる限りの供養を終え、その場を去る。 リべリスタ六人は廃ビルを出ると、ビル影に停車していた竜一の四輪駆動車に乗り込む。窓越しに、仲間から迎えられる作業員たちを見た。得も言われぬ達成感がこみ上げる。 ぐきゅぅぅぅ~。 「おなかへった~」 ミミルノが言った。 「ははは、そうだな」 本部へ帰る前に、食事を摂るのも悪くない。この魔法少女ちゃんは、ゴツイ男並みに食べるだろう。竜一はナビで検索すると、アクセルを吹かした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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