●さすらい人を誘う路 ドイツ、メルヘン街道。古くからある街道ではないが、グリム兄弟の生誕地『ハーナウ』、そしてブレーメンの音楽隊で名高い『ブレーメン』を繋ぐ全長600kmにもおよぶその道中は、ツアーが組まれることもある程に有名な観光名所である。 そして、その道中に神秘の影があった。 『旅人さん、旅人さん、道に迷っておいでですか?』 街外れ、童話の舞台にもなった古城へと続く遊歩道。観光客なのだろう。ガイドブックを片手に遊歩道を歩いていた数人の異国人に、声を掛ける者がいる。ある者には英語に、ある者には日本語に、ある者には中国語に。彼らに判らずとも、聞く者によってその言葉の響きを変える神秘の囁きはどこからのものかと、観光客は周囲をくるりと見回した。 『こちら、こちらです。はい、少し斜め下』 観光客が声のする方向を向くと、そこには長靴を履き、羽根飾りのついたトリコーンをかぶった直立歩行をする猫の姿。背の丈は幼い子どもと同じ程度で、身体のサイズに合わせて拵えたのか、腰にはレイピアを吊っている。 まるで人間のようにお辞儀をすると、目を丸くしている観光客たちに向けて猫は言葉を投げ続ける。 『道に迷っておいでのようですね? もしよろしければ、この先の古城までご案内いたしますよ』 流暢な喋り様に、畳みかけるように続けられる言葉。母国語で話しかけられてるせいか、それとも怪異の異能が為せる業か、観光客たちの警戒心がみるみる解かれていく。 『このまま遊歩道を歩いて行くと、城に着くころには夕暮れです。私の知る近道をご案内しましょう。道すがら見える、木立を挟んだ城の風景はとても綺麗ですよ』 観光客たちは迷うそぶりを見せたが、ひとり、またひとりと猫のほうへと歩を進める者が出て、最終的には8人の観光客たち全員が猫の先導に従った。 『では皆さん、こちらへどうぞ――迷子にならないように気をつけて下さいね』 さくり、さくりと観光客の足音が下生えを踏んで行く。 さすが猫というべきか、その怪異は足音どころか、足跡ひとつすら残すことなく――8人の観光客を連れ、何処へか消えていった。 ●さすらい人にしか討てぬ怪異 その日、欧州リベリスタ組織『オルクス・パラスト』ドイツ支部からの連絡をリベリスタたちに取り次いだのは一介の女性オペレーターだった。彼女は海外組織からの依頼があることを告げ、その依頼に関して送られてきた情報を纏めた書類をリベリスタたちに配布すると、同時通訳のために着席した。 『アークの諸君、はじめまして。私はオルクス・パラストの渉外部門を勤めている者だ。私のプロフィールは今回の依頼には関係ないから自己紹介は省かせて貰うよ』 通信画面に映るのは質実剛健が服を着て歩いているような容貌をした男で、語り口もまた硬い。 『単刀直入に言おう、君たちアークのリベリスタでなければ討つことの出来ないエリューションが発生した。事件解決のため、8人ほど借りたい』 アークリベリスタでなければ討てぬエリューションと聞いて幾人かのリベリスタが首を傾げる。アークの戦力が過大評価されているとしても、その言い回しはたしかに奇妙に聞こえた。 『事情を簡素に述べると、だ。そのエリューションが持つ特性として、我ら欧州に住む者には認識されないという一面があるのだ。被害者も旅行者が主でね。こちらのフォーチュナがなんとかエリューションの存在と大まかな特性までは察知したが、接触どころか目視確認すら出来ずお手上げといったところだ』 大きな溜息。組織全体、ひいては渉外担当の者も、その事件に手を焼いているのだろう、眉間には深い皺が刻まれている。 『手の及ぶ範囲で最大限の情報収集、提供は既にそちらの渉外担当に送ってある。君たちの手元に書類が届いていて、なおかつ私たちに手を貸してくれる者が居ることを祈っているよ』 硬い表情のまま、男は神に祈る十字を切って通信を終えた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:Reyo | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月18日(水)22:00 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●猫出現注意! 旅行気分、とでもいうのか。一般飛行機エコノミークラスで空の旅、約半日。オルクス・パラストドイツ支部に挨拶を済ませ、事件が起きているというメルヘン街道に到着したのはアークを出立してはやくも1日が過ぎようという頃だった。 「うみ? の向こうにも大地が広がっていて、沢山の人が住んでいて」 感慨深げな声は少し気怠げだ。初めて体感するいわゆる時差ボケを新鮮な喜び半分、任務への支障がないかという不安半分で受け止める『陽だまりの小さな花』アガーテ・イェルダール(BNE004397)。尖った耳は丁寧に隠されていて、おろおろ、ゆらゆらと周囲を見回す様子は欧州見物に来て迷っているようにしか見えない。 「メルヘン街道か。一度きてみたかったのだ」 「看板はさっき通り過ぎたんやけど……あっるぇ、今、俺らどっち向いて歩いてるんや?」 地図をくるくると回す『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)に、彼と雑談する『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)とリベリスタの面々は仕事を前に旅行を満喫していた。 「どどいつ~どいつ~め~~~るふぇん!!」 その周囲を『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ ミーノ(BNE000011)がぴょんぴょんと駆け跳ねまわっている。旅行先でテンションが上がっているようにも見えるが、平常運行である。 集団の中にいながら、ひとり黙々と観光案内の旅行雑誌を読んでいる『ロストワン』常盤・青(BNE004763)。時折目線を本から上げて風景を見ては、ファンタジー小説の挿絵にありそうな遊歩道の光景にそわそわと、どちらかといえば畏敬の念に近い落ち着かなさを隠せないでいた。 つかず離れずの位置には『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)がいつも通りの無面目で歩いている。たまに立ち止まるのは、周囲の音を聞き漏らすまいとするためか。彼女の耳に届くのは、冬でも枯れぬ常緑樹のさざめきと――混じり聞こえる獣の息吹。 異国情緒を満喫しながらも、各々のスキルで周辺の探知を怠らない彼ら彼女らの後ろを追いかけるようにして『ディフェンシブハーフ』エルヴィン・ガーネット(BNE002792)が強結界を張り巡らせている。森を範囲に含めぬよう、遊歩道から人払いをするためにこまめな結界作成を心がける彼の歩みは少しばかり遅い。 エルヴィンを追うように、さらに後ろから殿を勤める『墓掘』ランディ・益母(BNE001403)は周囲を見回しながら不意打ちを警戒していた。生来の厳めしい表情がことさらそう思わせるのだろう、まるで学生を引率する教師のように見えなくもない。 「人払いは大体終わったぜ。にしても、ただの森でも雰囲気違うなー」 「いかにもメルヘンな奴らが出る場所だ。それっぽいんじゃねぇの」 苦笑しながらランディは肩をすくめる。厳めしさがすこし緩んだ。 迷っているフリ、つまり行く先の定まらない散歩道中は先頭を行く俊介と雷音の主導で数十分続き、 『旅人さん、旅人さん、道に迷っておいでですか?』 行く手をさえぎるように現れるのは直立歩行の猫。俊介の千里眼が捕らえるのは目前の1匹に加え、かなり統率された陣形で取り囲むような配置に隠れた7匹。 『もしよろしければ、この先に良い休憩所がありますので、ご案内しますよ』 まるで滲み出るように、長靴を履いた騎士猫がゆらりと現れて一礼した。 ●Katze(意:猫 独語) 遊歩道から外れているとはいえ、まだ地図にある道をうろついていたのが幸いした。足元は整備されてないとはいえ歩道だ。まだ戦いやすい立地である。 俊介の眼には、猫は降って湧いたように見えた。まるで最初からそこに居たように、その場所に滲み出るように。どこかに巣を持つようなタイプではなく、遊牧民のように旅人を求めて彷徨うタイプだと戦いにシフトしつつある頭で迅速に判断。千里眼の反応や、猫が一方向から来るのではなく既に包囲しているという根拠を添え、AFへ小声で囁き仲間に伝える。 「休憩所か。ちょっと歩き疲れて迷っていたんだ。ありがたいよ、案内してもらえるかい?」 AFから漏れる声を猫たちに聞こえぬよう、雷音が猫に話しかける。猫の反応を待つ間にもリベリスタ達は、猫に興味を持つフリをしながら陣形を整える。 『はいはい、旅人さん。この先、あと10分もあるけばございますよ。木立の中にあるひっそりとした東屋でございます』 猫がにっこりと笑う。どこか嘘くさい笑みは猫ならではなのか、それとも罠にかかった獲物にほくそ笑んでいるのか。 「皆もそれでいいな?」 「おう、構わない――が、ちっと試させろ」 仲間たちの用意ができているかを確認するべく振り返る雷音と、ニィと口角をあげて応えるランディ。 『? どうかいたしましたか?』 猫が首をかしげる一瞬。その一瞬があれば、リベリスタが不意を撃つには十分だった。 「言語関係ない語りかけ、テレパシーみたいな能力かもしれんしな」 轟っ、という闘気と魔力の練りあげられ放たれる衝撃が木々を揺らし、周囲の思念をかき乱す。ランディの覇気が為した、これが彼なりの「ジャミング」だ。 その瞬間、周囲を『視て』いた俊介には猫たちがたじろぐのが、耳をそばだてていたユーヌには明らかに動揺した動きの音が聞こえた。 「へっ、ビンゴか」 「てきのうごきがみだれたよっ!」 テテロの一声。雷音が引き出した隙に、ランディの覇気で乱れた猫たちの動き。先手を得るには十分な時間が生まれる。 「みんないくよっ! つばさのかごっ!」 舗装されてない足元の僅かな不利を打ち消し、木々を足場とする三次元機動。テテロの援護を待ち、軽やかなステップを得たリベリスタが猫たちの元へと疾駆する。 「さて戯れようか? つぶらな瞳は可愛いな――見つめられると突きたくなるほどに。しかし似合わないな、長靴は。裸の猫ならば和む人もいたものを」 陣形の中央に立つユーヌの言葉。周囲の猫から、一撃たりとも許さぬという気魄を込めたエルヴィンに守られながら、魔的な囁きが猫たちの気を引き、挑発となる。 「確かに旅人なんだけどさ、ちょっとワケありって感じでさー、色々あるん。悪いね、倒させてもらうよ」 一言。その間に俊介の手元で編まれた神聖術式が眩い光を放つ。ユーヌに気を取られていた猫はまともな回避行動をとることもできず、その光に灼かれる。 「みぎににひきと、ひだりによけたねこさんがいるよ!」 「了解なのだよ! ――來、來、氷雨!」 逃れる猫は3匹。圧倒的ともいえる精度の五感でそれを察知したテテロが続く雷音に言葉を飛ばす。応じて飛んだのは、式符で招来された凍てつきの雨粒。猫たちの毛皮に着弾し、逆立った状態でその毛皮が凍結する。 間髪いれず、木々を利用して放たれた気糸が1匹の猫の動きを止める。猫たちの死角へ潜り込んだ青の一撃だ。 猫たちの行動を許すことなく、不意打ちから怒涛の攻め。戦場の良く見える位置へとバックステップしながら、アガーテは攻撃に備えるべく防護障壁を纏う。数は同数。ユーヌが攻撃を一挙に引き受ける役をしているとはいえ、対策するにこしたことはない。 猫たちがやっと動き始めるが、語りかけの言葉はない。それどころか、千里眼に視えていたような統率された動きはどこへやら、連携という字の欠片すらなく、8匹の猫たちがてんでばらばらにリベリスタへ攻勢を仕掛けていく。 みゃーみゃーという鳴き声が本来の声なのか。万国共通の言葉がテレパシーか何かではないかというランディの読みは的中していたわけだ。 「絵のように可愛いけど、物語の猫は悪魔さえ言葉巧みに騙したんだ。油断なんてしないよ」 気糸を木々に引っ掛け、レイピアを構え突撃してきた猫の一撃を悠々と回避する青。続く2匹目の猫の突撃は爪によるもので、これが事前情報よりも広範囲を薙ぎ払うような一撃となるが、動きに統一感のない猫たちの連撃は避けるだけの空隙も多く、テテロとランディは半身引くだけでそれを回避する。 ユーヌに挑発され、わき目も振らず突撃するのは5匹の猫で、それぞれがレイピアや爪を振りかざして突貫するものの、ただ一撃たりとも届くことはない。颯爽と躍り出たエルヴィンが、その五撃を悉く弾き、あるいは己の身体を以て食い止めているのだ。 「この数はキツいが――頼りになる仲間がいるからなっ!」 刺突や斬撃がエルヴィンの肌に傷をつけ、頬には赤い横筋。数の暴力に押されてはいるが、にやりと笑う不屈の表情は、仲間への信頼で満ちていた。 一人でも魅惑すれば活路が開けると思ったのか、1匹、怒りからも逃れ、傷の浅い猫が逃走を図るべく目を妖しく光らせる。狙うは、猫同士の会話を阻害しているランディだ。 フカァっ! という威嚇の声と共に威圧と魅了の力を伴った不可視の圧力がランディを襲う。まるで寒い冬の布団のような圧力をもったそれが、じわり、じわりとランディの戦意をかき消してしまう。魅惑の魔眼が、ランディの発していたジャミングをかき消す。 その瞬間を待っていたのだろうか、逃げようとランディを魔眼で睨んだ猫の背後から、またもや滲み出るようにして4匹の猫が現れる。仲間の援護だとでもいうのか、ジャミングが外れた猫たちの言葉がまた聞こえる。 『――とんだ旅人さんたちです。善意の案内を、仇で返すなんて。もうこのまま、観光地に案内せず食べてあげましょう!』 「増えたぞ――ちっとオイタが過ぎるんやないかな?」 俊介がひきつった笑みを浮かべる。敵の数は12匹。個々の実力では十分に上回ってるとはいえ、数の暴力はやはり荷が重い。 「ちっ――可愛いじゃねぇか、猫助が……」 「ランディ様!? ねこさんが可愛くても油断してはいけませんよ!」 増えた猫を見て、魅了された険しい顔が僅かに緩む。呟きを聞いたアガーテが注意の言葉を飛ばすが、魅了の魔力を打ち破るには至らない。 この猫を逃してしまってもいいんじゃないか、どうせ食われる人数なんてタカが知れている、弱肉強食だ、と魔の囁きがランディの脳裏で響く。 「おい、ランディ、しっかりするのだ! 正気に戻るのだ!」 ランディの異変を察して、雷音が叱咤を飛ばす。 ――俺の目的は何だった? 正気だった時を思い出せ…… 「すぐにかいふくするよっ! まっててっ!」 テテロの声が、魅了されているランディに届く。 ――抗えない世界なら、抗える世界にすることじゃないのか? こんな体たらくで、それが出来るのか? 「聞くに耐えない猫の鳴き声にやられてどうするの、ランディ。そんな様子では、ツキに見放されるぞ」 その間にもユーヌの言葉は挑発と仲間への激励を共にして、逃げようとする猫を捉えて戦場へと引きずりこむ。 さらに増えるユーヌへと殺到する猫の数。エルヴィンがユーヌを庇い立つが、周囲を乱舞するように掻き裂いていく猫爪の攻撃はじりじりとリベリスタたちの体力を削り、さらにほぼ全ての攻撃を受けているエルヴィンの体力は傷の蓄積でかなり削り取られている。最早いつ倒れてもおかしくない。いや、踏みとどまるその様子は、既に一度倒れようとした身体を、気力で持たせているとしか考えられなかった。 さらに仲間の一人は魅了されている。状況は不利に近い。 ランディが墓掘りの戦斧を振りかぶる。僅差で回復が間に合わなかったのかと俊介とテテロが表情を歪める。 「世話をかけた、すまん」 斧の一撃が薙ぎ払うのは、ユーヌとエルヴィンにまとわりついていた猫たち。 烈風を纏った一撃が、猫だけを的確に弾き飛ばし、その中でも手傷の深いものを2匹、そのまま両断した。 「まだまだ強さが足りないな、俺も――オイ、猫助……今の一撃はとっておきだ、とっときな」 斧を肩に担ぎ直しながら一言。鬼神の如きランディの気魄に猫たちが一斉に長靴を後ずさらせる。後ずさりながらも、挑発に応じるような憎らしげな視線と、ゴロゴロと鳴る威嚇の喉声はユーヌへと向いている。 「ふん、不満げだな? 案ずるなよ、鉄と鉛ならお腹いっぱい腹いっぱい、はち切れるまでくれてやる」 当のユーヌは、まるでランディが己を取り戻すのを見通していたような余裕を見せつけ、髪を手で払っていた。鋭く冷徹なその表情は、もしかしたらランディの魅惑が解けなくても揺らぐことがないのかもしれないけれど。 ●当座の目的は博物館へ 一度ペースを取り戻せば数が多いだけの雑兵だった。 数に圧され、エルヴィンや爪の攻撃に巻き込まれたリベリスタは傷だらけだったが、ランディの展開したジャミングが猫の連携を妨害したこと、ユーヌとエルヴィンの囮戦法により1匹たりとも逃さない状況を作り上げたリベリスタ側の作戦勝ちである。 数が多いだけあってスタミナの消費も激しく、急場に備えた回復術式を用意していたアガーテの用心もまた、殲滅速度の増加に一役買った。 周囲を俊介が千里眼で探査し、ユーヌとアガーテがそれを聴覚や熱感知でサポートするも、12匹の猫以外、周囲にはなにもいない。倒し終えた12匹が全てと判断して、仕事の部分は終わりを告げて 「さて、仕事は終わりだ――少しくらい、観光しても役得だろう? そうは思わないかい?」 雷音の一言に、全員が満場一致で賛成した。 「はーい! ミーノはほんばドイツのソーセージがきになるの! おみやげになるかなぁ?」 「それなら、近場の町に戻れば路面電車の駅にフランクフルトの小型店舗があったな。道すがらだ、寄って行ってもいいだろう」 元気いっぱいに挙手して希望を挙げるテテロに、思案顔で返すランディ。 「そういう雷音ちゃんはどこ行きが希望? お菓子の家でも灰かぶりの豪邸でも、お望みとあらば付いて行くさどこまでも」 どこまで本気かわからない冗談めかした俊介の言葉。雷音は苦笑しながら、それでも旅先の興奮で長広舌を揮い応える。 「なら、グリム博物館だな。去年リニューアルされたと聞いていて、一度行ってみたかったんだ。童話ではヘンゼルとグレーテルが好きなのだよ、お菓子の家には一度行ってみたい」 「見聞は広いに越したことはない、グリム博物館はそれなりに面白そうだ」 ユーヌも無表情で頷く。 「それに、グリムが同類と逢ってたりするのか、気になる。可愛げでは童話が上だったが」 僅かな興味がのぞく表情。 「はくぶつかん、が何なのかよくわからないのですけれど――皆さんと一緒に行くのなら、きっと楽しい場所なのでしょうね」 ふわり、とアガーテが微笑む。この場に居る誰よりも、最も遠く離れた異国からこの地を訪れた彼女にとって、見て、感じるものすべてが新鮮なのだろう。異邦の地を訪れた胸の高鳴りは、初めてこの世界の土を踏んだ時以来のものかもしれない。 「さて! じゃあグリム博物館だっけ? せっかくだし遊びに行くのは大賛成だ。道は調べるから、ランディさん運転宜しくな!」 「今度はフリでも迷うなよ?」 くすりと、エルヴィンとランディの応酬に、戦いで疲れた身体が笑いの癒しを得る。 わいわいがやがやと、リベリスタ一行がドイツの地を歩み往く。帰り道は迷うことなく都市部まで。 先を行く7人に少し遅れ、猫が現れた遊歩道を振り返る青。 「……」 明らかに日常とは違う風景。そこに彼が感じるのは旅先の叙情ではない。 木々が木枯らしにざわめいて、枝葉がまるで誘う様に手招きをした。 「――どうしたの? 早く行くよ!」 「………………うん、今行くよ」 旅は道ずれ世は情け。呼び戻してくれた仲間の元へ、青は急ぎ足で駆け寄った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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