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<倫敦事変>ブラウン・ベス、マスケットパーティー

●マスケットガン、その力と象徴。
「アタシのじいさんの話だ。半分くらいはホラだと思うがね」
 ベアスキン帽を被った女が、よれた煙草をくわえて言った。
 黒眼に長い金髪。一般的といえば一般的なイギリス人女性だったが、右側の目は真っ赤な眼帯に覆われていた。
 軍靴の音が近づくにつれ、彼女は目を瞑る。
 女は、手にマスケット銃を握っていた。斜め下に向け、休むように。
「マスケット銃っていうのは、サムライでいうところのカタナみたいなもんさ。一本一本手作りで、クセも形もてんでバラバラ。ティータイムと称してジンを一日中かっくらうような連中が作ってたんだ、そりゃあ統一なんてムリさね。しかしまあ、共通してる部分がひとつだけある。わかるかい?」
 彼女の後ろで、軍靴が止まった。
 女は振り返る。
 顔の半分はべっとりと血にまみれていた。
 銃を天に向け、銃底でドンと床を打つ。
 対応するように、数名の男たちが同じく床を叩いた。
 彼らは赤い服を身に纏っていたが、女と違って帽子を被っていなかった。
 男のひとりが口を開く。
「隊長! 敵兵とバリケードの破壊、完了しました!」
「ご命令を!」
 彼らの足下には、ここを守っていたであろうリベリスタの死体が転がっている。
 念入りにトドメを刺したようで、恐らく二度と起き上がることはないだろう。
 その様子を確認してから、女は小さく息を吐いた。
「せめて冗談には応えようや。まったく我が国の英国紳士は絶滅したってのかい、嫌になるね。それこそ日本のサムライと一緒で……ああ、命令かい。待機だ待機。お前たちで殲滅できる程度の兵隊ってことは、調子にのって突っ込んだ先に強い連中が待ち構えてるってケースかもしれんよ」
「ヤードの本隊、ですか?」
「もしくは助っ人のアークだね。地図はあるかい?」
「は、地図でありますか……」
 口をぱくぱくとさせる男に、女は露骨に嫌な顔をした。
 後ろでは他の男が胸や腰のポケットを叩いたりしているが、どうやら探すフリらしい。
「あーいいよもう。誰も貰っちゃいないんだろ。アタシらを傭兵だと思って適当にあつかってくれてからに。命令も、なんだっけ? 突っ込んで壊して殺してこいだ。弾丸かなにかだよ、扱いが」
「隊長、キマイラを連れて来なかったのはなぜです。暴れさせるだけならうってつけだったはず」
「ヤだね。あれは伝統ってものがないよ。兵隊を強くしたいからバケモンにしましたなんて、英国紳士のやり方とは思えないね」
 女は露骨に舌打ちをして。
 くるりと前に向き直る。
 そして銃を構え尚した。
 なぜか?
 足下で死体に擬態していた男が急に立ち上がり、剣を繰り出してきたからだ。
 女は素早く銃を取り回すと、剣を跳ね上げ、相手を打ち据え、倒れた所へ流れるように弾丸を撃ち込んでやった。
 びくんとはねて、男は今度こそ死んだ。
「まあ、いいさ。これでアンタらにもおまんま食わせられるってもんだし。それに――」
 もう一度銃をくるりと回すと、先程襲いかかってきた男を軍靴で踏みつけにした。
 声を強くして言う。
「『我ら敵中に打ち込む十丁の銃なり。どこかの誰かの勝利のために、弾を放つ撃鉄なり』」

「「『我らブラウン・ベス。十丁の銃なり!』」」


「作戦目的、フィクサードグループ『ブラウン・ベス』の迎撃。生死不問! どや、思ったより単純な任務やろ?」
 場所も時間も変わって、会議室。着流し姿のフォーチュナがカラカラと笑ってそう言った。
「他にむつかしいこたぁあらへん。なんなら作戦の背景説明しよか? えーとな……」
 懐からしわくちゃの和紙を取り出すと、顔をしかめて読み始める。
「改造キマイラとその事件は覚えとるやろ? あれがさっぱり収まっとらんのもや。ロンドンの一派はこれに関して知らんぷりしとるが、ヤードさんらはそう思っとらんのやな。あっちのリベリスタだけやなく、支援団体まで燃やされちゃそうも思うわな。そんで今回、アークに手伝ってもろてロンドン一派をぶん殴ろぉ思うたわけやな。せやけどロンドンの連中もアホやない。いざアークの手を借りよぉ思うた時にはもうカチ込み始めてたんや。あ、今言うとるロンドン連中ゆぅのは『蜘蛛』のことな。ちょい前にうちらともやり合った連中や。今回のやり方もえげつないでぇ。まずロンドン地下鉄で暴れるやろ? それでヤードさんらが引っ張り出されたところで大事な地下施設を制圧する作戦らしいねん。他人の命をゴミみたいに扱うれんちゅうやでほんま……」
 フォーチュナはそこまで述べると、和紙を再び懐に戻した。
「で、今回うちらのグループに渡ってきた任務がこれっちゅうわけや。地下通路での敵グループの迎撃! シンプルやろ。図にするとこうやな」
 懐から巻物を出し、デスクで開いてみせる。
 簡単に言えば、五人ほど腕を広げたらいっぱいになるような幅の通路である。
 そこに詰まるような形で十個の印がついていた。
「これが敵の位置や。勿論足ついとるから、前にも後ろにも動くで。ほんでこの通路やけど、万一地下施設が浸水した時に水捨てるための予備通路らしいねん。まあウソかホントかわからんけど、そういう名目なだけあって一本道や。突破されたらモロに打撃食らうと見てええ。けど他に影響でにくいし後ろが詰まりやすいしで、敵味方共にあんま戦力入れられへん場所でもあるわな。一応の攻めと一応の守りや。敵も敵で外注戦力突っ込んどるみたいやし、傭兵対傭兵って構図になるんやろか……」
 どうやらこのフォーチュナは話の長いタイプのようだ。リベリスタのひとりがあくびをかみころしたのを見て、こほんと咳払いをした。
「悪い悪い、ほんじゃ最後にサクッとまとめるで。敵はフィクサードグループ、十人や。全員マスケット中の使い手やで。めちゃくちゃ堅実で統率力バツグンや! そのくせこう、ビシビシッとな、狙ったとこをうまく撃つねん。一応普段は人が通る通路やから照明あんねんけど、こんな作戦やから暗視や透視はデフォやろし、狭い場所での打ち合いになるでこれ。ッカァー、そう考えたらおもろそうやん!」
 フォーチュナはそんな調子で、あなたに資料を手渡した。
「な? たのむで、ひとつ!



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月17日(火)23:01
八重紅友禅でございます
さらっと補足します。

●『ブラウン・ベス』
オール、クリミナルスタア。
上級三人、中級三人、初級四人の戦力です。
ジョブからして範囲攻撃と単体攻撃をうまく使い分けてくるのと、人によってはドラマ値が高いのがスペック面での特徴です。
全員もれなくマスケット銃を装備し、これを振り回したり撃ったりという形で戦闘します。ゆーても神秘兵器なので連射ききますし、現実のマスケット術とはかなり異なります。
作戦目的は彼らの迎撃です。本部に入ってこないようにすればOK。
逆にその場を突破されたりした場合は突破された人数に応じて本部にダメージが行きます。まあ相手もアホじゃないので皆さんをスルーして突っ込むことはしないでしょう。勝ったら勝ち、負けたら負け。シンプルに考えて貰って結構です。ただしその分連中の戦力は高いです。

●重要な備考
1、このシナリオは本部シナリオです。
2、『ヤード』本部が陥落した場合(戦略点が0となった場合)、戦略上敗北となります。
3、『ヤード』本部の戦況は『<倫敦事変>の冠を持つシナリオ』の戦況で判断されます。戦略点の増減等は敵・味方の損耗率、実際の戦闘状況等々をSTとCWが総合的に判定します。直接的な戦略点の影響は『本部シナリオ』が最も大きくなりますが、他シナリオも影響します。今後の攻勢の為に必要な倫敦派の情報を取得するという意味では『市街シナリオ』、『地下鉄シナリオ』にやや高いチャンスがあるでしょう。
4、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
5、海外任務の為、万華鏡探査はありません。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ヴァンパイアプロアデプト
逢坂 彩音(BNE000675)
ハイジーニアスクロスイージス
祭 義弘(BNE000763)
ジーニアスソードミラージュ
ルア・ホワイト(BNE001372)
メタルフレームデュランダル
雪城 紗夜(BNE001622)
ジーニアスデュランダル
イーリス・イシュター(BNE002051)
フライダークスターサジタリー
ユウ・バスタード(BNE003137)
ハイジーニアスクリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
ビーストハーフスターサジタリー
クリス・キャンベル(BNE004747)

●ブラウン・ベス
 長い通路を進む軍靴の音。
 自然とそろった足並みのなかで、一人微弱にズレている者が居た。
 若い男で、自分の装備にキル数の星印などつけるような人間だった。
 彼は軽い調子で言う。
「この先に強い奴がいるんスよね! だったらオレに行かせてくださいよ。穴あきチーズにしてやりますから!」
「ジェイ、調子に乗りすぎだ」
 ジェイというのは恐らく名前の頭文字だろう。この例で言えば、今の髭男はエックスである。
 その隣にはバンダナとゴーグルマスクをしたキューという性別不詳の仲間がいたが、彼は一言も発する様子は無い。表情も読めない。
 口笛を吹くジェイ。
「アールさん、いいですよね? オレもっと経験溜めたいんスよ!」
 先頭の女、アールは振り向きもせずに問い返した。
「勝算はあるのかい」
「そりゃあもう。ぼーっと立ってる所にオレが突っ込んで、早撃ちで瞬く間に何人も撃破! 続いてオレに向かってきたやつを後退しながら一方的に撃破! バババババーッ!」
 マスケット銃をサブマシンガンのように降って見せるジェイ。
 エックスはとうとうため息をついた。
「敵が愚かで貧弱であることを前提に作戦を立てるな。ここが敵中枢である以上俺たちの侵入はばれている。ジンを賭けててもいい。そうだろうエル」
「ええ、かつての大国兵がアフガンゲリラ相手に泥沼化したのは『敵は愚かだ』と慢心したからに他なりません。ヤードにしろアークにしろ、彼らは尊敬できるほどに賢い。特に恐れるべきはアークです。彼らは常識にとらわれない。一体何をしてくるか」
 エル。眼鏡をかけた温厚そうな男だ。
「ダブル。そんな連中が相手だったとして、的確な作戦を立てられますか」
「…………」
 大柄でスキンヘッドの黒人男性が無言で頷いて、言った。
「神に祈る」
「……そうですか」
 と、そこで。先頭を歩いていたアールがぴたりと足を止めた。
 腕信号を出して隊ごと止める。
「どうしたんスか」
「総員、帰ったらエックスにジンを奢ってやんな。大当たりだ」
 銃を構え直すアール。
 そこから、距離にして50mほど先に――。


 時間をいくつか吹き飛ばし、この段階から、この側から語ろう。
 『黄昏の賢者』逢坂 彩音(BNE000675)がリング型のピンに指をかけ、一息に引き抜くところからだ。
「勢いをそがせて貰うよ。みんな、いいね?」
 大柄な『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)の後ろに身を隠すように立ち、大きく振りかぶる。
 それと敵兵の射撃が始まるのに数秒の差もなかった。
「ナパーム!」
「ひるむな、総員散会しつつB弾幕!」
 目を覆ってふらつく数名の兵士を置き去りにし、先頭の女が突っ込んでくる。アールだ。
 走りながら砲撃。飛び出した弾丸が黒い鎖に変化し、回転しながら彩音の首を狙う。
 だがそれは身体をはった義弘に阻まれた。義弘は自らの首に巻き付いた鎖を握りしめ、ほんの僅かに笑った。
 絶対絞首を仕掛けてきたということは、こちらに回復担当がいると思い込んでいる証明だ。でなければ彩音と義弘を巻き込んで複数攻撃を仕掛けた方がずっと効率がいい。
「幸い敵の手数は減少している。押し切れ……っ!」
 自らの身体に次々とめり込む弾丸に歯を食いしばりながら、義弘は唸るように言った。
 その横を鳥のようにかけぬける『雪風と共に舞う花』ルア・ホワイト(BNE001372)。
 いや、翼こそ無いが鳥そのものだったのやもしれない。ルアは天井めがけてまっすぐに飛び、天井で飛び込み前転をかけてから敵兵めがけて斜め上からの突撃を仕掛けた。
 一本目のナイフが閃き、それを眼鏡の男が回した銃底で受け止める。エルだ。
 続いて腕を交差させるように突きだしたルアのナイフがエルの肩口に突き刺さった。
 余った衝撃を逃がすように身体をまるめ、両足で相手の身体をキック。回転しながら大きくバックした。
 が、着地の寸前に膝を弾丸が貫通。これも素早く銃を回したエルのものだった。
 空中で強制的に回転させられたルアは地面へ強かに頭を打ち付け――るかと思いきや、ナイフを口に保持させ片手を地に着けて衝撃を吸収した。
 一足遅れて『あほの子』イーリス・イシュター(BNE002051)が突撃、それぞれ突撃槍を構えてのチャージアタックである。
「チクショウ、思いっきり前のめりじゃないスか!」
「予定通り神に祈れ。生き残ったら……」
 迎撃のために銃を構え、壁ギリギリまで左右に広がるジェイとダブル。
「うちの犬を撫でさせてやる」
「わーい嬉しいなっと!」
 全く同時に射撃。弾が銃口から飛び出た瞬間から銃を回し、弾込めと煤払いと火薬詰めを一瞬でこなす。一回転して戻ったときには既に撃てる状態にある。
 このサイクルで数十発をイーリスたちに叩き込んでくるのだ。
「なんと! 匠の技なのです!」
「ぶつかりがいがあるじゃないか。ひとつ胸を借りるとするよ!」
 敵の前まで至ったところで『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)が影から飛び出し戦闘状態にシフト。出現から戦闘状態に入るまで大きなタイムラグがあるのが難点ではあるが、そこまで間違った攻め方ではない。現に紗夜の出現位置は敵の背後だった。
 紗夜とイーリスの狙いは、自分たちを迎撃するために突っ込んできた髭ずらの男、エックスだ。
 その後ろに控えている新兵風の男たちのほうが手頃だったが、今手元にいる相手と手の届かない相手とでは優先順位が開きすぎだ。
「やあどうも、キミらの目的、叩いて砕いて切り刻ませて貰うよ!」
「決め台詞か。ずいぶんと長いんだな」
 紗夜の大鎌を銃で受け止めるエックス。
 流れる動きで紗夜の顔面に銃口が向いたが即座にかがんで回避。
 エックスが発砲する直前になってイーリスのランスアタックが炸裂した。
 要するに勢いをつけて突き立てる動作だが、強いエネルギーが働いたためか貫通よりも打撃を主にした攻撃になっていた。身体をくの字にして後方へ吹き飛ぶエックス。元々照準していたルアが射程外に出たことで、咄嗟にイーリスたちへ照準を変更、発砲。飛び出た弾丸は奇々怪々なカーブを描いてイーリスと紗夜を同時になぎ倒して見せた。
 ジェイたちの牽制射撃で充分ダメージを負っていた二人である。うっかり意識を手放しそうになったが、ギリギリのところでこらえた。
 その、一方で。
 アーク側とて全員が全員、駆け寄って殴りつける作戦に出ていたわけではない。
「敵が分散してる。援護するから、落とせるところから落としていけ」
「お言葉に甘えまして」
 『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)が横走りしながら二丁の拳銃をアトランダムに連射した。
 狙いは新兵らしき敵だ。『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)はライフルを構え、距離を目測し、弾道を計算し、神様につばを吐いて、引き金を引いた。
「伝統と栄光のマスケットを前に、みもふたもない神秘小銃で恐縮ですが」
 フルオートではき出された弾が無数に分裂、炎の矢となって敵兵全体に降り注いだ。まあ、こうなってしまえば照準もなにもあったものではないのだが。
「まずは奴らからだな。よし」
 半身に構えて銃を突き出す『ラック・アンラック』禍原 福松(BNE003517)。
「ここを通りたいか? オレの相棒をたらふくくらってくれたら考えてやる!」
 弾丸と弾丸が大量に交差し、そのうちの一つが福松の帽子を撥ね飛ばす。
 福松は空中でそれをキャッチして被り直すと、兵士の一人を銃でしとめた。
 ここでいう『しとめる』というのは頭部を破壊して永遠に動けなくするという意味だ。
「ドラマチックな展開を期待するな。端役のごとくフレームアウトしな」
「……」
 バンダナにゴーグルマスクのキューが、担いでいたマスケット銃と背中にくくっていた銃あわせて二丁を両脇に抱えて飛び出してきた。
「マスケットなんていう骨董品が――!」
 クリスは即座に相手の両肩を狙って射撃。それも腕の付け根にあたる部分である。常人ならばよくて脱臼。悪くて両腕損失。どちらにせよ銃など撃てなくなるような致命傷である。
「……」
 キューはしかし、何事も無いかのような顔をしてマスケット銃を連続発砲。二つの弾丸がクリスの眼孔へとホールインした。
「っ――この、程度!」
 両目からどす黒い液体を流しつつも、まるで見えているかのようにキューへの射撃を継続。
 キューの指が吹き飛び、クリスの足がへし折れ、キューの頭が三割ほどはじけ飛び、クリスの脇腹に大きな穴が空いた。同時に息を吸い込み、フェイトを使って全部位を強制修復。
 クリスは地面を蹴りつつマガジンを交換。キューもまたスピードローダーのような器具をつかって弾を再装填した。リボルバー式か?
「さすがは人外。人間の常識が通じんな」
 砕けた歯(これも修復した)を吐き捨てるクリス。
「腕も足も銃も、撃てば撃つほど無意味だと気づく。まるで不死の化け物が殺し合っているようだ。心底震えが来る」
 お互い、距離にして五メートル。
 互いの銃口が相手の胸に向き、ほぼ同時に発砲される。内容物をぶちまけてのけぞるクリス。
「しかしだ」
 半歩下がるようにして、クリスは踏みとどまった。
「ソレを侮ったことを謝罪させてくれブラウン・ベス。いい銃だ」
 かふ、と血を吐き出し、クリスは仰向けに倒れた。
 一方でキューは。
 腰から上が消えていた。


 完全なる殺し合いである。
 回復はおろか、味方を気遣ってのフォローすら中盤から抜け落ち、自らのもてる最大火力による最大効果を敵へ叩き付ける行為を繰り返すに至っていた。
 ブラウン・ベス側も、アーク側も、それは同じだ。
「それ以上、立ち上がらせないのです!」
 マスケット銃を杖のようにして立った敵へ、イーリスは槍による突撃をかけた。
 腹に突き刺さり、貫通し、そのまま壁へと突き刺さる。
 コンクリートで覆われたと思しき壁に放射状の亀裂が走り、相手は即座に息絶えた。
 壁と敵から槍を引き抜く。
 その瞬間に、イーリスの頭を右から左へ通過。イーリスもまたうつ伏せに倒れる。
 頭部破壊か……と思われたが、直前に紗夜が腕を引っ張ったおかげで弾を掠めるだけで済ませていた。
 はらはらと落ちてくる金髪。
「はうあ!? 髪の毛が! わたしの髪が!」
「ごめんね。髪は女の命だっていうけど、もうひとつの命が助かったってことで許してよ」
 体勢を低くした紗夜が敵兵めがけてダッシュ。地面すれすれの所で鎌をスイングすることで敵の両足をすっぱりと切断してみせた。
 みっともなく顔から倒れる敵兵。
「まあ、なんだ」
 そんな相手を強く踏みつけ、福松は頭部心臓部その他の急所全ての弾丸を打ち込んでやった。
「こうなることも織り込み済みだろ? あばよ」
 敵兵は答えない。死体が喋らないからだ。
 福松はスピードローダーでもって弾を込め直した。
「弱い連中は粗方片付いたか?」
「ううん、もう一人いるかな」
 ギラリと目を光らせ、同時に振り向く紗夜と福松。
 いかにも戦場慣れしていないという顔をした男が、がちゃがちゃとマスケット銃をいじっていた。足に怪我をしているのか、片膝立ちの状態から動かない。
「た、弾が出ない! 出ない! うわあ、ママ――!」
 みっともない奴だ。頭の片隅で失笑すると、二人は拳と鎌を同時に振り上げ――。
「英国紳士がみっともないですよ」
 ――ようとした刹那、敵・紗夜・福松の三人を中心とした位置に眼鏡の男が割り込んだ。エルだ。
 彼は銃をスイングしながら発砲。カーブを描いた弾が紗夜の胸を貫通し、壁を跳ねて福松の後頭部に直撃した。それだけに留まらず、エルは銃身に握り替えてスイング。福松の頭を強かに打ち付け、強制的に殴り倒した。フェイトを削ってぎりぎり持ちこたえようとしたところへ、大量の弾丸が叩き込まれた。
 エルを中心としたエリア一帯に、ジェイとダブルによる範囲射撃を行なったのだ。
 当然その場の全員は無事では済まされない。
 新兵は見るも無惨な有様で息絶え、福松や紗夜も甚大な被害を受けてその場に倒れた。
 立っていたのはエルのみである。
「くそ……味方を巻き込んでまで……」
「こちらは傭兵ですからね。命に価値など無いのです」
 福松の頭に銃を突きつけ、容赦なく発砲するエル。福松はびくんと撥ねて動かなくなった。
 フェイトを削ることでかろうじて立っていた紗夜が、僅かに顔を上げる。血を吐きながら言った。
「いい待遇をうけていないようだね。どうだい、そちらも随分死んでいるし、撤退してみては」
「撤退交渉ですか?」
「いくら貰ってるか知らないけど、部下をこれ以上喪ってまで欲しい金額かな?」
 この状況にありながら薄い笑いを浮かべる紗夜。
 対するエルもまた、同じような笑みを浮かべて紗夜へ狙いをうつした。
「同じ台詞を言って差し上げましょうか。あなたがたはおそらくアークでしょう? ヤードなど捨てて、今すぐ日本に帰りなさい。死んでまでして、あなたになにか得るものが?」
「……死なせたり無いみたいだね」
「ええお互いに」
 エルが発砲するその直前。周囲を白い光が散った。まるで粉雪が舞い上がったかのような光景に思わず身を固めるエル。
 そこへ現われたのは、誰あろうルアだった。
 それも二人の間を駆け抜けるようにだ。
「私はもう、守られるだけの女の子じゃない!」
 誰に向けた言葉でもない。いうなれば自分への言葉である。
 ルアは凄まじい速さでエルの腕や胸を切りつけると、勢い余って地面を転がった。
 生まれる隙。
 微細な隙。
 しかし決定的な隙である。
 ユウの放った炎の矢が、横殴りの雨のごとく降り注ぐ。エルは即座に発砲を中断。世界法則を歪めて炎をかき消した。
 同時に立ち上がる紗夜とイーリス。
 二人の鎌と槍が同時に叩き付けられる。吹き飛ばされ、エルは壁に激突した。
 それをアイアンサイト越しに見つめるユウ。ふうと息を吐いて、彼の頭を吹き飛ばした。
「エルさん! クソが……こいつらは俺がやる!」
 ジェイがうなりをあげて突撃してくる。
 決死の覚悟なのか、彼の弾は見事にイーリスと紗夜をなぎ倒した。
 が、しかし。
「それ以上はやらせん」
 メイスを掲げた義弘が身体すべてをはった体当たりを仕掛けた。
 思い切りよろめくジェイ。そこへおもむろにメイスを叩き込む。
 咄嗟に銃を掲げたが、まるで小枝のようにへし折れた。
 ぐしゃりという音をたて、崩れ落ちるジェイ。
 その段階になって、義弘は仲間の様子をうかがった。
 クリス、福松、イーリス、紗夜。戦闘不能者が増えすぎた。
「ユウ、それにルアの嬢ちゃん。こいつらを抱えて本部まで下がれ」
「義弘さん? でもっ!」
「早くしろ!」
 ジェイの死に動揺を見せること無く追撃をしかけてくるエックスとダブル。
 それらを自分の身体で受け止める義弘。
 ルアは歯を食いしばり、福松たちの足を掴んで必死に走った。
 彼女を横目に、義弘は『俺の人生もここまでか?』と考えた。
 と、そこへ。
「いや、待った。殺し合いはここまでにしないか」
 つかつかと靴音を鳴らし、彩音が両手を挙げて割り込んできた。
 エックスとダブルは何を今更という顔をして銃を向けた……が、しかし。
「銃を下ろしな、エックス、ダブル」
 アールの声が強く響き、彼らは銃を下ろした。
 それに応じて、ユウへと目配せする彩音。
 ユウは頷いて銃を下ろした。次にルアへ問いかける。
「彼らの状態は?」
「じょうたい……って」
「死んでいるかい?」
「……ううん、まだ、大丈夫」
 彩音はこくりと頷き、アールのほうへと身体を向けた。
「だそうだ。こちらは半数が戦闘不能に陥ったが、明日には万全の状態で迎え撃てる準備がある。そちらはどうだ」
「十人中七人死亡。いや、エルは生きてるね」
「そのようですが……隊長?」
 怪訝そうにするエックスに、アールは手を振って応えた。
「充分敵戦力を削れたろう。こちらは引き上げる。死体は置いていくが、とりあえず銃だけ拾わせてくれ。墓標にしたいんだ」
「いいだろう。折角だからアークに来てしまう気は?」
「福利厚生もばっちりですよー」
 便乗したユウがイーリスたちを引きずりながら言った。
 眉を上げるアール。
「この先だまし討ちが無かったら考えておくよ。こちら傭兵隊ブラウン・ベス。隊長のアールだ。名刺はないけどね。それじゃ、お互い生きて帰ろうや」
「……感謝する」
 アールと彩音は軽く『左手で』握手をした。

 この後彩音をはじめとするアークチームは死者をひとりも出すこと無く本部へ帰還。
 ブラウン・ベスも同じくして撤退し、迎撃作戦は成功とされた。
 かのアールたちがこの基地から無事逃げることができたのか、今後どのように身を振るのか。
 それは定かではない。

■シナリオ結果■
大成功
■あとがき■
 お疲れ様でした。
 激戦の末、死者重傷者なし。
 本部への侵入もなし。
 迎撃作戦は成功となりました。
 リカバリーの無い状態で大胆につぶし合うことになったので、このまま敵兵皆殺すべしと言って粘ったら一人くらい死んでいてもおかしくありませんでしたが、戦闘以外の部分でうまく折り合いをつけることで被害をとどめることができました。思いつく限り、というより想定していた以上に好ましい結果です。
 なので、大成功判定とします。
 重ねて、みなさまお疲れ様でした。