● ごりごり。 ごりごり。 先程まで共に闘っていた仲間が、首をあらぬ方向へと曲げ巨大な昆虫に貪られている。 見るからに生きてはいない姿だが、それでも彼の名前を叫ばずにいられなかった。 「……博物館ではお静かに。習いませんでしたか?」 涼やかな声があたり一面に響き渡り。刹那ビジネススーツを着込んだ男が銃を撃ち放つ。 右肩に広がる痛みに、青年はぐらりと傾きかけた。 痛い。しかし未だ戦闘不能に陥った訳ではない。この程度ならまだ戦える。 「蜘蛛……めっ!」 憎しみの篭った瞳を向けると、やはり表情は変わらず。何事も無かったかの様なその顔がまた憎々しい。 (……嗚呼、コイツはそんな俺達の状況を楽しんでいるのだろう) それでも、仲間を屠ったばかりの蟲達は自身達へと襲い掛かり。状況は未だ、良くないのだ。 だから、せめて、自分の傍で戦い続ける仲間達を護りたい。護れなければ、逃がした筈の人々でさえも護れなくなる。そんなの真っ平御免だ。 仲間が癒しの風を運んでくれる。よし、まだ大丈夫。自分の命続く限り、彼らを、この街を守ってみせる。 青年は体制を整えると、踵を蹴る。自身に纏わり殺さんとする蟲を切り裂くために。 月夜の倫敦。至る場所で花開く惨劇の一角の出来事だった。 ● 「緊急事態。至急ロンドンへ行って来て」 報せを聞いてリベリスタ達が飛び込んだブリーフィングルーム。彼等の姿を確認するや否や『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が語り始めた。 「最近ロンドンで起こっている事件については、もう耳に入っているよね。倫敦の蜘蛛の巣……『ヤード』側は確実に彼等が関与している事件とみているの。尤も、倫敦派の方は表向きには違うって事にしているみたいだけれど」 『ヤード』は当初は防戦と様子見でタイミングを見計らっていた。しかしリベリスタ達だけでは収まらず、支援者にまで広がる被害状況に、彼等は重い腰を上げる事を決意したのである。そんな彼等でさえ、蜘蛛の全容は未だに掴めていない。倫敦の街で巣を貼る蜘蛛は、社会の裏側にて暗躍を続けていたため未だ謎が多いのだ 「……これまでの想定していた被害状況よりも悪化している訳だし、今まで続いた駆け引きはもう終わりって事になるね」 本拠地を含め、倫敦派の状況は未だ完全には掴めてはいない。しかし『ヤード』側はアークを含めた今までの戦いから、『キマイラ』運用の裏に潜む倫敦派を可視出来る可能性を見出していた。彼等は蜘蛛に対抗しうる為の主戦力を積極的に運用する事で、敵側の末端から戦略情報について取得する事を考えたのである。それと同時に、「世界で最もバロックナイツとの交戦経験を持ち、更に彼等を撃破せしめた唯一の存在」であるアークに対し本格的に援軍を要請、自身の戦力を短期的に増強する事を図り、アーク上層部はそれを受諾した。 「ここまでは最近の話。現在における最大の問題は、『ヤード』が動き出す前に、向こうに先手を打たれたって事」 蜘蛛達は現在、ロンドン市内や地下鉄へと攻撃を開始している。更に加え、『ヤード』側の本拠地である『ロンドン警視庁地下』を制圧せしめようとする構えを見せている。 「勿論『ヤード』側も、その状況をわかっているんだよ。だけど彼等はリベリスタだから、守るものも多いの。……多分、それについても考えた上での行動」 ぱ、とモニターに写真が映る。ヨーロッパの美術品などに興味の持つ人間ならば見覚えのある者がいるだろう、そんな博物館だった。 「皆に向かってもらうのはこの博物館。『ヤード』の人達が避難させた後だから、一般人の心配は今の所ないみたい」 「敵はキマイラ三体と倫敦派五人。キマイラは二メートルぐらいの大きさで、蟻、ムカデ、カマキリの三種類の虫型なの。吐き出す粘液には強力な毒性が入っているから、くれぐれも気をつけて。勿論、蜘蛛達にも」 あの冬の夜、三ツ池公園で見た不穏な影。彼等とまた対戦する事に、不安を覚える者も存在した。 しかし、それでもリベリスタ達に退く者は一人足らず居ない。 その様子を確認すると、イヴは強い瞳で彼等を見据え口を開く。 「『ヤード』側のリベリスタが向こうに居るよ。でも状況は押され気味。……皆が着く頃には一人、亡くなっているけど、それでも六人が懸命に戦っている。だから、合流して。きっと、心強い味方になってくれる筈だから」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:裃うさ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月21日(土)22:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「そろそろ諦めては如何でしょうか?」 暗闇の中、仄かな灯りのみが支配する空間にて。 酷な事を言いますが、と前置きして発された言葉は差し向けた銃口と同じく冷たい。 「……ッ」 這い上がり、地上の平穏を貪り喰らう蜘蛛達を何としてでも止めたかった。 しかし現状は仲間を一人喪った挙句、自分達はキマイラに圧されその主へ辿り着く事も叶わない。 どう考えてみても、競り勝つには戦力不足の現状だ。 このまま退かなければ、全員が蟲達の餌になる事は必至でしかないだろう。 ……しかし、市民達に悪影響を及ばしかねないコイツ等を放ってく事は、彼にとって、『ヤード』として許せざる行為である。 だから、ダグ・ゴードンは抗う事に決めた。 例え自分の命が犠牲になろうとも。 「巫山戯るなッ!! 俺は絶対にッ、退いたりなどしないッッ!!」 「――Be,quite」 そんな彼へと更にダメージを与えるべく、トリガーが引かれるその瞬間。 この場における蜘蛛が親玉――グレゴリー・スペンサーの遥か向こう側、大きくドアが開かれる音が聞こえた。 「黙るのはお前だよ、蜘蛛」 ● 終わり見えぬ闇夜に差し込むは光。救いの手を差し出したるは海を渡りし方舟。 「君達は、もしや」 「ああ、オレはアークの焦燥院フツだ。……君達を助けに来た」 『てるてる坊主』焦燥院”Buddha”フツ(BNE001054)力強い笑顔を向けられて。心の奥底で敗北を予感していたダグの表情に、幾らか生気が戻る。 東の海の果てに、正義の味方達が沢山居ると聞いていたが。まさかこの場に来てくれるとは! 「皆さん、ひとまずこちらへ!」 『贖いの仔羊』 綿谷・光介(BNE003658)は『ヤード』の構成員を一度自分達の後ろへと下がらせるべく誘導する。既にキマイラと蜘蛛が蹂躙している真っ最中だが、其処はアークのリベリスタ達が抑えに入る分態勢を整える時間稼ぎになるとの考えだ。 更に『足らずの』晦・烏(BNE002858)が投げ込んだ光弾により、キマイラ一体と蜘蛛フィクサード二人が足を止める。全ての敵を麻痺させる事は叶わなかったが、『ヤード』のリベリスタ達が退避する助けになるだろう。 「勿論、”七人”揃ってな!」 フツの言葉にダグははっと瞳を見開いた。七人、それは先刻命を落とした仲間の分も含まれているのだ。 「今動ける皆さんは無事に帰還しましょう。……絶対にですっ!」 後を押す様に離宮院・三郎太(BNE003381)が続ける。嗚呼、それはとても優しく力強くて。 、窮地における援護が、とても暖かいものだと実感した。 「……有難う。君達の助力、感謝する」 ダグは僅かに微笑みを零すと、仲間に合図し後方へと移動を始める。その間に、倒れてしまわぬ様願いながら。 『ヤード』所属のリベリスタ達が背後に移動した後、改めて『アーク』側のリベリスタ達は博物館の一室で、粘液を纏った虫たちが蠢き滑るのを見た。 「……相も変わらず、悪趣味ですね」 地面にその痕跡を残して歩くその姿に『魔術師』風見・七花(BNE003013)は眉を顰める。これが人の手で造られて、使役されているという事を考えると余計に敵への嫌悪感が募るばかりだ。 「これも、モリアーティの計画の一つって事か」 固く張り詰めた表情を、汗がつたう。倫敦は、『血に目覚めた者』陽渡・守夜(BNE001348)にとって祖母の故郷だ。それ故に、この場所を荒らす様な真似をする輩を許せない。 「成る程。これは予想外だな」 状況は優勢、そのまま力押しで行けば勝利という所に突如増えた友軍。蜘蛛の配下は僅かに動揺を見せたものの、グレゴリーは笑みを崩さず。背後の女に至っては全く表情というものが浮かばなかった。 今放った言葉が真実であるかも判明し難い。心の底が読み辛いというのは、若干不気味さを感じさせられる。 「”博物館ではお静かに”、か。……実に同意出来る意見ではあるんだがな、戦場にするんじゃあお静かに所じゃねえだろ」 「つーか、夜って大体は静かにするもんでしょうに。博物館と云わず」 烏と『群体筆頭』阿野・弐升(BNE001158) からの二段重ねのツッコミにも臆す所が無く、笑って返す。 「はは、流石はアークの方々だ、手厳しい! ほんの冗談だと流してもらっても結構でしたのに!」 笑顔は仮面の如く張り付いたまま、銃口は躊躇なくリベリスタの方へと差し向けられる。戦闘再開の意を込められたその動作に、びりりと一同に緊張がはしった。 「手間取って悪い、いつでも行けるぞ!」 「それじゃあ、総攻撃と洒落込むか!」 背後から移動完了の声が響く。 リベリスタ達はそれぞれの武器を構え、迎撃の体勢をつくり。 さあ、反撃の時間だ。 ● 「群体筆頭アノニマス、いざ参る……っと!」 戦気を身に纏い、真空刃を繰り出したるは弐升。疾風の如く荒れ狂うそれは蟻型キマイラを切り開き、どろりとした体液が漏れる。 守夜はその姿を、まるでテレビで観た特撮番組の怪人を思い浮かべるが。 「……だが、相手にとって不足無しだ」 そう、自身がリベリスタで、正義の味方であるが故に。押さえ込むべく足は力強く、確りと笑みを浮かべて蟷螂へと向かう。 「オマエ! ルー、アイテ、スルッ!」 獣の如く地面を蹴り。リベリスタへと近付く百足型キマイラに、ルー・ガルー(BNE003931)が走り寄る。そして鋭利な爪をぐさり、ぬめぬめと光る甲羅へと突き刺した。 べとりと爪先に粘液がへばり付くが気にしない。だって彼女は獣なのだから。 アーク所属のリベリスタ達が提示したのは、キマイラ三体に対しリベリスタ三人が抑えにつき、残りの前衛で蜘蛛側の前衛を押さえ込むという作戦だ。彼等の身が倒れない限り、キマイラの攻撃が遠距離に及ばない物のみならば完全に抑えきる事が可能だろう。 博物館の中、フツの作り上げた朱雀の式符が空を舞う。炎を纏いし鳥は、蜘蛛とキマイラ達をひっくるめて確実にダメージを与えていく。 しかしすぐ直後、蜘蛛達とキマイラの傷が塞がり行く。その向こう、マグメイガスが詠唱を呟く姿を見た。回復手は彼女だと見て間違いないだろう。 「あー、そんな感じだと思ってました」 ぼそりと弐升が呟く。同じ神秘の力が特化された能力故、マグメイガスが回復を担うと考えていたリベリスタは多かった。だから、これは想定内。 リベリスタ達の戦闘方針は蜘蛛を集中して狙った後、キマイラを叩くといったものだ。ならば回復手を優先して攻撃すれば、その後の戦闘がより楽なものになるだろう。 回復手のダメージを着実に増やすべく、七花は部屋全体に雷を轟かせる。しかし、どうやらマグメイガスの女の手前に居るナイトクリークらしき男が肩代わりしている様で。 「…………庇って、ますね」 ならば、ソイツを優先に崩していくのみだ。リベリスタはそう判断し、武器をそれぞれ差し向けた。 蜘蛛と蟲と。全体を攻撃してわかった事は、デュランダルとグレゴリーには状態異常が通じないという事だ。おそらく彼等の、弐升と同じくデュランダルとクリミナルスタアが持ち得るスキルの影響だろう。 彼等を倒すには、付与効果を打ち消す烏の閃光弾とあとは力圧しで行くしかない。 しかし。 「……きゃあ、っ!」 蟻型キマイラが、身を屈して構えを取る。それに気付いた烏が閃光弾を投げ入れようとする僅か一瞬を、蟻が毒液を吐く瞬間を上回った。 ねちゃり、ねちゃり。粘り強い液体が体を蝕んでいく。粘液によって身動きが出来ない状態は通常よりもずっと気持ち悪いもので。 しかし、その状況をいち早く打破したのは光介。彼は毒液による麻痺の影響は受けないのだ。 「皆さん、お気を確かに! ……術式、迷える羊の博愛!」 清らかなる詠唱の息吹がリベリスタを包む。これによって三郎太、フツ、烏、ルー、『ヤード』側ではナイトクリーク以外の全員が状態から回復する。 再度動けるようになった烏はすぐさま閃光弾を投げ入れるが、キマイラ全部を痺れさせる事は難しい。全てを巻き込むには、距離が足りないのだ。 蜘蛛側のフィクサード達のうち前衛は抑えられているものの、抑えられていない後衛二人は自由に標的を絞れる状況で。 前衛でキマイラを抑えている中で体力が比較的少ない守夜が、一番の標的になった。 ゾーナの攻撃を強かに受けたが為、目の前の蟷螂の体液を吸い自らの物にせんと試みるが。それでも万全に回復し切る状態には届かない。 「……ぐ……っ! 悪い、後を頼むぞ……っ!!」 蟷螂に噛み付かれた傷が癒え切らない上、命中力の高い銃の使い手とスターサジタリーの集中攻撃を完全に防御する事が叶わず。グレゴリーの凶弾が強かに貫き、守夜が倒れ込む。 傷が深い様子だったが命は大丈夫。息が有る事を確認したダグと三郎太が、彼を射程距離外へと運び込んだ。 守夜が戦線離脱した為、彼の代わりに三郎太が抑えに入る事となる。 キマイラ三体の動きにより、戦線は混沌と化した状態であり。 そんな中リベリスタではただ一人、壊されない限り状態異常を受けない弐升は蟻を相手にぽつりと口開いた。 「抑え込むのは構わないけれど。”別にアレを倒しても”……ってヤツですよね」 「な、何かそれはフラグっぽい気がするんですが!?」 何か立ちそうな気配を必死で三郎太が叫んで掻き消した。それは兎も角、弐升は蟻を倒し終えると他のキマイラの抑えに加わる方針だ。 六道産キマイラより強力なそれを、彼は一人で倒しきる事が出来るだろうか。否、リベリスタの攻撃が重なり体力を減らしてくれるなら、或いは。 呪縛の解かれたフツにより、再度炎を纏いし朱雀を呼び起こされる。その上から被せ掛ける様に、三郎太による生糸が襲う。 細い繊維で雁字搦めにされたナイトクリークは、マグメイガスの回復も届かない。この間にキマイラの毒液がリベリスタ達の進行を遅らせたが、それでも確実にダメージを蓄積する事が出来た。 一度立ち上がるも、其処へ突き刺さるは光の矢と魔力弾。『ヤード』のソードミラージュとクロスイージスに庇われている、ホーリーメイガスとマグメイガスの二人による重ね合わせの攻撃である。 「これで、止めです……っ!」 リベリスタの総攻撃に体力を削りに削られたナイトクリークは、七花の雷に打たれて地面に堕ちる。 蜘蛛達は仲間の死に感慨を抱いているのかいないのか、己の仕事を黙々とこなすのみなのが不気味ではあるが。今はそんな事はどうだって良い。 庇っていたナイトクリークが瀕れた以上、次の攻撃対象はマグメイガスだ。 マグメイガスは後衛職の為か、他の蜘蛛達と比べて体力が少なく、且つ物理での攻撃が通りやすい傾向にある。故に、ナイトクリークよりは幾分容易にダメージを与え続ける事が出来た。 先ずは三郎太による生糸に巻き付かれ、ダグにより死の刻印が与えられる。それ以前にフツや七花による全体攻撃で体力が磨り減っていたが、癒しの息吹は最早彼女には届かない。 「嗚呼もう、気持ち悪いのなんのって……今までのツケ、払わせて貰うぜ」 そして、止めは呪縛から解放された烏による銃撃により、蜘蛛における回復手の女は呆気なく地に伏したのだった。 残る蜘蛛はあと三人。リベリスタは前に立つデュランダルへと攻撃すべく構えるが。 「……もう頃合だろうな。行くぞ」 「了解しました」 グレゴリーは傍らに立つゾーナヘと声を掛ける。それはリベリスタ達に見せた笑顔とは異なる、完全なる無の表情で。蜘蛛達は撤退を選ぶようだ。 回復手が倒れた現在、これ以上戦っていては自身の命に影響が出ると考えてか。そのまま事務的な会話を交わすと一気に真逆の方向へと走り始めた。 「おい、貴様ッ! 逃げる気か!!」 「急で申し訳ありませんが、此処でお暇させて頂きます! ……その子達の相手、お願いしますね」 ダグの怒号が響く中。リベリスタ達はその姿を撃ち落とすべく動かんとする者も居たが、彼等をキマイラが邪魔をする。 グレゴリーはリベリスタ達に一度振り返り、笑顔でお辞儀をすると踵を返し。非常口へと飛び出した。 あとに残るは、蜘蛛の死骸と粘液を纏いし蟲達。 キマイラが三体共未だ健在である以上、リベリスタは彼等を追う事はしなかった。 もし次が有るならば、倒すのはその時だ。 状態異常だらけの蟲達の粘液は厄介なものだが、他者回復の出来る者が居なくなった故にこれまでよりは幾分と楽になるだろう。 「さあ、立て直すぜ!」 ばちりと顔を叩き、威勢良くフツが声を上げる。この蟲達を退治すれば、ひとまずこの博物館は安心なのだから。 先ず駆け出したるは弐升。破壊のオーラをチェーンソーに纏い、蟻へと勢い良く切りつける。 何度も回復していたとはいえ、なんだかんだで蜘蛛達と纏めて攻撃を受け続けていたキマイラは、この時点で体力を半分切る程ダメージを受ける。 そして更に、雷が、朱雀が舞い貫いて。 三郎太の生糸に縛られ、ぶちゅりと音を立てて潰れた。 「…………うわぁ」 半溶けかかった中から、何色かもわからないどろり濃厚な液体が溢れ出る。今さっきまでこんなの相手に戦ってたのかと思うと、幾分グロッキー状態に落ち込むが。 それでもまずは一体撃破だ。それに今までの全体攻撃で大分消耗しかかっている。 蟷螂へとダグが刻印を刻みつけ、更にマグメイガスが魔法弾で撃ち抜いて。蟷螂が段々、”蟷螂”の形ではなくなっていく。もはや液体の様な何かは体力を回復するべく、三郎太へと歯を突き立てた。 だが、それで得た回復力よりも烏の銃撃によるダメージの方が上回った。其処で蟷螂型だったものは完全に溶け、地面へと広がっていく。 「ルー、ビリビリ、ナレナイ。デモ、ガンバルッ」 残りはあと一体。爪に電撃を纏い、ルーは全力で百足へと切りつける。ビリリと自身も痺れる感覚はあまり得意ではないが、それでも戦う事への充実感には勝てない。 全力で強かに殴りつけ、辺りに粘液を撒き散らかせ。百足も百足の形を失いつつある。 『ヤード』のプロアデプトが生糸を巻きつけ、そして最期にフツの槍が貫いて。 こうして憎しみと呪いと苦しみを糧に造り上げられたキマイラは、残らず液体となり地面へと零れ落ちたのだ。 ● そして、博物館内に静寂が戻る。 七花はあたり一面を見渡して、中々凄い状況になっている事を実感した。 地面には転がる蜘蛛2人と、斑の如く奇っ怪な色彩を放つ液体が非現実感を演出しているが、此等はアークが何とかしてくれるだろう。 室内は吹き飛ばされた際にショーケースが割れた程度で済んだ様だ。大切な資料が大事にならなかったが為に、烏はほっと胸をなで下ろした。人類の損失はやはり、困る。 何かのフラグを回避した弐升は、跳ね回り展示物を閲覧しているルーに「Be,quite」などと実践していた。 光介は千里眼で、蜘蛛の残党が博物館の外へ逃げるのを見た。当たりは暗闇が支配されているが故判明し辛かったが、何処かへ入り込む姿が確認された。 彼には其処が何処であるかはわからなかったが、夜が明けて視界も開けばどんな場所であるか確認出来るだろうか。有益な情報に繋がる可能性を考え、改めてアークに連絡を取るべくアクセス・ファンタズムへと手を掛けた。 「…………」 ダグ・ゴードン。彼は戦闘で喪った仲間の足元にて、無言で立ち尽くしていた。自分が在りながらむざむざと死なせてしまった事、敵を完全に討ち取れなかった事。色々思う事が有るのだろう。 その傍らにフツが座り込み、手を合わせる。其処で漸くダグは口を開いたのだ。 「それが、東洋での弔い方なのか?」 「ああ。……何か、伝えたい事があるか? 代わりに伝えよう」 交霊術を会得しているフツは、この際に使用する事を持ち掛ける。ダグは少し考え込んでいる様子だったが、意を決したように口を開いた。 「それじゃあ、”お前は俺にとって大切な仲間だった”、”護ってやれなくてすまなかった”と云う旨を……伝えてくれないだろうか」 フツは頷き、目を閉じた。そしてダグが伝えたかった、二度と叶わぬ物だと思っていた言葉を伝えるべく、口を開く。 今此処に在るのは、物言わぬ死体ではない。 「彼は、”俺にとってもお前は大切な仲間に変わりはない”、”何時もお前の心に居続けるからたまには思い出してくれ”と言っていたよ」 その言葉に、ダグは瞳を大きく見開いて。 ぼとり、動かない靴の上に涙が溢れた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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