●展望通路 ロンドン市内を流れるテムズ川。商業発展のためにこの川にはいくつもの橋がかけられていた。 橋の中には改修を繰り返し、二百年の年月を超えてなお存在する歴史ある橋もある。左右にあるゴシック調の巨大なタワーからは展望通路に行くことができ、ロンドン市内を一望できる観光スポットとなっていた。 その展望通路は現在封鎖されていた。封鎖したのは『スコットランド・ヤード』のリベリスタ。『倫敦の蜘蛛の巣』がそこに爆弾を仕掛けるという情報を聞いてやってきたのだが……彼らと交戦中に第三の勢力が乱入してきた。 フォルムは犬が一番近いだろうか。首が二つあり、背中から銃のようなものを生やさなければ、だが。 「……アンノウン・エリューション!」 「警部、アークから教えてもらった名称は『キマイラ』です!」 「わかっとる、だが俺は日本は嫌いなんだ。次女が日本人の男と結婚して英国を出て行ってからな!」 『警部』といわれた男は苛立ちを含んだ顔をする。それは日本に嫁いだ次女とその婿のことを思い出しているということもあるが、大部分は目の前の現状である。 『倫敦の蜘蛛の巣』は『キマイラを知らない』と言っている。キマイラは第三勢力であると。 だがキマイラ発生と同時に『蜘蛛』は動きが活発化している。この関係を無関係と信じるつもりはない。事実、キマイラの矛先は『スコットランド・ヤード』の方に向いていた。 「今のうちに逃げさせてもらおうか」 「待て! 逃がすか!」 「警部、キマイラがこちらに!」 逃げようとするフィクサードを覆うと『警部』がパイルバンカーを構えるが、それにあわせるようにキマイラが咆哮する。稲妻が爆ぜるように展開された。 (気に食わん……! 『蜘蛛』とコイツラが手を結んでいる……それもあるが) キマイラに相対しながら『警部』は思考を回し続ける。展望通路で騒ぎがあると分かるように情報を漏洩し、『スコットランド・ヤード』を誘う。わざわざキマイラを出してまで、こちらの戦力の足止めをする。 (明らかな陽動だが……乗らぬわけにはいかん!) この騒ぎを無視すれば、犠牲になるのは罪のないロンドン市民達や観光客だ。それを護るのがわれわれ『スコットランド・ヤード』ではないか。例え蜘蛛の姦計だとしても、ここで背を向けるわけにはいかない。 「応戦しろ! アンノウン・エリューション打破を第一目標に! 外部警備班は神秘情報秘匿を優先しろ!」 ●アーク 「ロンドンのブリッジは落ちるとなれば、マイフィアレディにお願いするしかないと思わないか、お前達」 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)の声が幻想纏いから聞こえる。日本からわざわざ通信をしてくるとは酔狂な。それだけ人手が足りないということなのだろう。 「橋が落ちるのか?」 「少なくとも爆弾は仕掛けられている。時間もないから移動しながら聞いてくれ」 ならつまらない前ふりはやめろ、といいかけたリベリスタを制して伸暁は説明を続ける。 「ロンドンの橋に爆弾を仕掛けたフィクサードがいる。で、こいつを捕らえようと『スコットランド・ヤード』のリベリスタが動いているのだが、そこに『キマイラ』が現れた。 キマイラは『フィクサードを襲うことなく、まるで足止めするように』リベリスタを襲ってる……ざっくり言えばそんな状況だ」 「明らかにフィクサードサイドの援軍だよな、それは」 「バックの追及は後回しだ。お前達の仕事は『スコットランド・ヤード』と共闘してフィクサードとキマイラ、両方の掃討することだ。展望通路で挟み撃ちにするぞ。逃げるフィクサードと鉢合わせる形だな。 フィクサードは逃がすなよ。爆弾の起爆装置はそいつらが持っている。次点でキマイラの殲滅だ。コイツラが街に出れば被害が拡大する」 幻想纏いに送られる簡易な地図。大体の状況は理解した。だが問題がある。 「『スコットランド・ヤード』とキマイラの戦力差は?」 「キマイラが優勢だ。 去年の今頃キマイラと戦ったことがあるやつは分かるだろう? あれがさらにパワーアップしてるんだ。『スコットランド・ヤード』が如何に強いチームでも、勝算は低いぜ」 「そっちのフォローも大事ということか……!」 『スコットランド・ヤード』が弱いというつもりはない。むしろ彼らは常識外れのエリューション相手に良く戦っているほうだ。 「他の場所でもキマイラ事件が勃発している。いよいよ本気になってきたようだぜ」 「あっちもこっちも大変だな、畜生!」 叫びながらリベリスタたちはエレベーターのボタンを押した。ゆっくりと上がっていく箱の中、通信をきって仲間達は視線を交わす。 展望通路にたどり着いたエレベーターの扉が、今開く。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月18日(水)22:09 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「この橋を爆破なんてされれば、たくさんの人に被害が出るのは明らかだ。そんなことさせる訳にはいかない!」 エレベータの中で手甲の締め具合を確認しながら『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)が口を開く。眼下にはロンドンの町並み。そこにある平和を護るために、白銀の篭手の止め具をはめた。 「ロンドン橋落ちるー、なんて歌があったような気がします……今回は洒落になりませんね」 エレベーターの重力加速を感じながら『鏡操り人形』リンシード・フラックス(BNE002684)は幻想纏いから武装をとりだす。透き通る刀身を持つ長い剣。それを手にして、心のスイッチを戦いのほうに入れる。 「マザーグースよねー? 人身御供によってー橋を完成に導くのは」 リンシードの言葉に『泥棒』阿久津 甚内(BNE003567)が応じる。脳内でリズムを刻みながら、鉾の石突で床をこんこんと叩く。一定のリズムが集中力を促進させ、頭の中がさえてくる。 「まさか、イギリスの首都で戦うようなことになるとは、思わなかったわ」 そうぼやくのはドイツ出身のジークリンデ・グートシュタイン(BNE004698)だ。本国からの任務もあるが、アークのリベリスタとして戦えといわれれば戦わざるを得まい。仕事である以上、命令には従う。 「犬ベースのキマイラか……同胞として救わねばならぬ」 呟くのは『リング・ア・ベル』ベルカ・ヤーコヴレヴナ・パブロヴァ(BNE003829)。いびつに改造されたキマイラの姿を想像し、沈痛な表情を浮かべる。同時にそのような改造をした『倫敦の蜘蛛の巣』に対して怒りがこみ上げてくる。 「ヤードの人達も含めて全員で生きて帰るよ」 『ハッピーエンド』鴉魔・終(BNE002283)は展望通路で戦っている『スコットランド・ヤード』の人たちを思いながら、ナイフを構えた。その中には知己の者がいる。あの頑固な老人はさてどう出るか。 「う~ん。敵では無いけど、味方でもないって感じなのかな?」 首をひねりながら『NonStarter』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)は『スコットランド・ヤード』のリベリスタのことを考える。話を聞き限りでは縄張り意識みたいなものかな、と納得することにした。まさか娘を取られた個人的な恨みがあるとは思いもしない。 「我々は関与していない――よく言ったものね」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は『倫敦の蜘蛛の巣』に対するキマイラの見解を口にし、ため息をついた。このアピールは誰に対してか。それがどのような意味を含んでいるのか……そこまで想像したところでエレベーターの扉が開く。 地上40メートルにある展望通路。そこを走るフィクサードと、異形の姿持つキマイラ。そして、 「警部、アークの部隊が!」 「お前達、そいつらはほっとけば逃げる奴等だ! 怪我したくなかったら大人しくしてろ!」 『スコットランド・ヤード』のリベリスタ。その声が遠く離れた場所から響いてくる。 「……心配してくれてるのかな?」 終がそんな疑問を口にするが、フィクサードを逃がすつもりは毛頭ない。 その意思を示すようにリベリスタたちは『倫敦の蜘蛛の巣』を睨みつけ、破界器を構えた。 ● 「そのまま逃げるつもり、だったのでしょうけど……そうは、いきません」 最初に動いたのはリンシードだった。水色の髪をなびかせて、展望通路を駆ける。神秘の力を言葉に乗せて、静かに言い放つ。虚ろな瞳でフィクサードたちを見ながら、唇を動かし言葉を紡ぐ。 「残念……逃がしませんよ……私と一緒に踊りましょう……?」 言葉の意味は通じなくとも、年端も行かぬ少女に挑発されていることは分かる。その県の構え方から、素人ではないことも。それを危険と感じたかフィクサードの何人かがリンシードに破界器を向けた。 「作戦開始であります!」 ベルカが前に出ながら、神秘の光を生み出す。圧縮された光は最短距離でフィクサードの中心に飛び、閃光と騒音を撒き散らす。ダメージをこそないが、相手の気勢を削ぐには十分な攻撃。足止めさえできれば、十分だ。 「では同志諸君、フィクサードは任せた!」 そのままベルカはフィクサードの横を駆け抜け、『スコットランド・ヤード』の方に走る。閃光で麻痺していることもあるが、もともと逃げるに徹する『蜘蛛』の連中はリベリスタを足止めする気はない。邪魔されることなくベルカは展望通路をかけていく。 「逃がしはしないわ、『倫敦の蜘蛛の巣』」 本来後衛である氷璃が前に出る。展開してある魔法陣で魔力をブーストし、傘を回転させながら高速で呪文を唱える。練り上げる黒の楽曲が一本の矢となってフィクサードに向かって飛ぶ。 (……起爆装置を持っているのは……アイツのようね) 氷璃は動作の怪しさから、クリミナルスタアの一人の懐に何かを隠しているのに気づく。おそらくそこに何かを隠しているのだろう。この状況なら、それが起爆装置である確率は高い。視線でそれを仲間に伝える。 「ここで終りだ。橋の爆破はさせない!」 悠里はフィクサードの足を止めるように前に立ち、白銀の篭手に電光をまとわせる。拳の軌跡を追うように紫電が走る。フットワークと体の向き。それでいて重心がぶれることのない動き。 「何をたくらんでいるのか、吐いてもらうよ!」 相手の攻撃を手甲で受け止め、そらす動作と同時に拳を振るう。その牽制で相手の体制を崩し、相手に一歩踏み込んでのワンツーパンチ。拳がフィクサードの体を穿ち、稲妻が絡み付いて肉を焼いていく。 「地元の熱いおっさんファイターかー」 甚内はフィクサードの横を通り抜けながら、手にした矛を回転させる。全力で展望通路を駆け、矛を回転させる。回転させながら足をしっかり踏ん張り、回転の勢いを殺さぬように投擲の構えに入った。 「ヤードが相手してるキマイラ寄せんとねー。せいやー」 神秘の力を矛に乗せて、キマイラに向かって矛を投げつける。風を切って矛が飛び、キマイラの背中に命中する。痛みに咆哮を上げたキマイラが怒りの表情で甚内の方を向いた。神秘の糸で矛を回収した甚内は、シニカルな笑みを浮かべ、キマイラを手招きした。 「ん。それじゃあ、行こうかな」 メイは手を突き出し、意識を収集する。体内でコントロールされているマナを手のひらに集め、鋭角的な形に練り直す。フィクサードが体勢を整えたところを見計らって、裁きの光を解き放つ。 「格闘ゲームの起き上がりに攻撃みたいな感じ?」 子供っぽい口調だが、メイも歴戦のリベリスタ。その狙いは正確である。後衛職のホーリーメイガスは勿論、クリミナルスタアの二人も避けきれず、手ひどい怪我を負うことになった。 「任務、開始」 ジークリンデはフィクサードを押さえながら、『スコットランド・ヤード』の動向に気をかけていた。キマイラの攻撃は稲妻を伴う。稲妻に囚われた者がいれば、それを払えるように。 「あなたの相手は、私です」 銃と槍。それを構えてジークリンデが『倫敦の蜘蛛の巣』のクリミナルスタアを押さえる。窓から逃げないように足止めし、逃げ道を封鎖するように攻撃を仕掛ける。詰め将棋のような緻密な攻め。祖国の軍隊の教育の賜物か。 「そんじゃ、いくよー!」 待機していた終が両手にナイフを構えて展望通路をかける。わずかな瞬きの間に距離をつめ、コンマ二秒の時間差で二本のナイフを振るう。二度のナイフの後にさらにもう一度、刃が走った。 「ホリメさん、がら空きよ」 終のナイフは回復を行っていたホーリーメイガスの胸に突き刺さる。開幕から集中砲火されていたその『倫敦の蜘蛛の巣』は、その一撃で信じられないいう顔をして、地面に倒れる。 アークのリベリスタとこの場にいる『倫敦と蜘蛛の巣』とでは、戦闘力に差がある。しばらくすれば突破は可能だろう。もう少し時間をかければ、生かして捕らえることもできる。 だが問題は、その時間だ。悠長にやっていれば、『スコットランド・ヤード』はキマイラに全滅される可能性がある。もっともその可能性を口にすれば、ダニエル警部は怒って否定するだろうが。 展望通路の戦いは、まだ終わらない。 ● 『スコットランド・ヤード』側に周ったベルカと甚内は、共闘を持ちかけるようにダニエルに語りかける。 「うぉっと、やっぱり貫通力高いねー」 甚内は気を引いたキマイラから放たれる射撃の貫通力に驚きながら、射線を味方に巻き込まないように移動する。 「良いと思うよー? 個人の主張優先でー。でも個人の我侭で振るわれる神秘なんて、フィクサードと大差ないよね」 「なんじゃと!?」 「挙句の果ては部下も一般人も危険に晒すー。大事な矜持だよねー? 僕ちゃん達はヘルプに来た。さー、どーする?」 「ふん! 恩を売るようなマネをしおって! 国に帰れ!」 甚内の言葉に激昂するダニエル。おおっと、まずかったかー。頭をかいて甚内は口をつぐんだ。 「頼みます、ダニエル警部! 今この場に於いては、我らを助けて欲しい!」 ベルカが頭を下げそうな勢いで言葉を続ける。キマイラだけに閃光弾を放ちたいが、目まぐるしく動くキマイラとダニエルたちの動きに標準を定めきれない。已む無く防御の陣を敷く。 「貴方も私も、生まれた国は違えど同じ志を持つリベリスタのはずだ! そうだ、私は貴方を同志と呼びたいのだ!」 「ふん! 呼ぶのは自由だが、こちらの手助けはいらん!」 総合火力で明らかに押されながらも、気丈にダニエルは叫んだ。 「そこにいればコイツラのいい的だ。二人ともこっちに合流しろ! アーフィー! ヴァレンタイン! いざとなったら二人を庇え!」 「ダニエル警部!」 「うわー、コッテコテやね」 完全な共闘とまでは行かないが、協力は得られそうだ。 「もらいました……隙だらけです」 リンシードの剣が一閃する。フィクサードの懐に飛び込み、跳ね上げるような一閃。光の帯が剣を追う様に走る。その速度が切れ味となり、深くフィクサードを切り刻む。その光に幻惑され、フィクサードの瞳は焦点が合わず浮ついていた。 「これで終りだ」 ジークリンデの槍が浮き足立ったフィクサードに突き刺さる。防具の重量を乗せた重い一撃。銀の長髪が重力に逆らいふわりと浮いた。その髪が戻るより先にフィクサードは地面に倒れ伏す。懐から携帯電話に似た機械が落ちる。 「あれが起爆装置か。拾っとく?」 「数が減ってからね」 メイが回復を行いながら近くにいた氷璃に尋ねる。フィクサード側の抵抗も激しく、メイは攻撃を諦めて回復に専念していた。体内のマナを循環させ、回復に必要なエネルギーを即座に得る。そのエネルギーを用いて、優しい吐息を解き放つ。 「この一件は六道紫杏の犯行であり、彼女を取り逃がしたのはアークである……とでも言いたいのかしらね?」 氷璃は黒の魔力弾を放ちながら、『倫敦の蜘蛛の巣』に問いかける。闇の中に投げかけた答えは返ってこない。それが正解なのか。あるいは彼らはモリアーティの考えなど知らないのか。 「これで終りだ!」 氷璃が穿ったフィクサードを追撃するように悠里の白い手甲が突き出される。展望通路を滑るように踏み出し、紫電の拳を振るう。時に鋭く、時に虚実交え、そして隙を見出せば容赦なく。この篭手は誰かを護るために振るわれるのだ。 そしてフィクサードの最後の一人が崩れ落ちる。 「そんじゃ、いってきまーす!」 フィクサード全ての戦闘不能を確認し、終が展望通路を一気に駆け抜けた。瞬きの間に突き進み、その速度そのものを刃にして切り刻むソードミラージュの技。一流の射手の射程範囲を一足で突き進み、キマイラに切りかかる。 「前回は警部さんに女子供は引っ込んでいろと言われたオレですが……無事! 成人しました! 大人!」 「日本の成人年齢など知らんわ!」 終の挨拶にダニエルが答える。因みに英国の成人は十八歳だとか。 「日本人だとか英国人だとか関係無いよ! みんなを護りたいとかこの人達を許せない気持ちは同じだよ!」 「そうね。国籍は関係ないわ。リンシードを守ってくれた恩を返すだけよ」 終の言葉を告ぐように氷璃が言葉を紡ぐ。諦めたようにダニエルが協力承諾の認を出した。 「……好きにしろ!」 「言われなくても!」 ダニエルの言葉に悠里が応じる。白銀の篭手がキマイラに叩きつけられた。 「その歪な姿、同胞として見るに忍びない。せめて一気に葬るぞ!」 ベルカの支援がアークとスコットランド・ヤード全てに行き渡る。的確な指示も加わり、殲滅力が加速する。 こうなればもはやキマイラに勝ち目はなかった。数の上でも四対十四。キマイラが個体のスペックがいかに高くとも、リベリスタにはそれを補うだけのチームワークと支援と回復体制があるのだ。 終のナイフが弧を描き、キマイラがそれに気をとられている隙を逃さずもう一本のナイフが突き出される。 リンシードがゴシック衣装をひらひらと舞わせながらキマイラに迫る。右に左に動く軽いフェイント。しかしリンシードの素早さで行われれば、それだけで敵を翻弄する。 甚内が相手の気を引くように矛を振るい、キマイラを引き付ける。縦横無尽に振るわれる矛の動きが相手の気を引いて離さない。 飛び掛るキマイラの爪を交わし、悠里の拳が振るわれる。イメージするより先に体は動く。思うままに動けるのは、積み重ねた鍛練ゆえか。 ジークリンデの銃がキマイラの足を止め、槍が動きを止めたキマイラを穿つ。近づかば槍が、遠のけば銃が。敵を逃さぬ灰色の瞳。 ベルカの指揮がキマイラの攻撃を上手くそらし、被害を減らしていく。歪み狂わされた同胞を弔うべく、涙をこらえ指揮を続ける。 氷璃の魔力が俊敏なキマイラに絡みつき、その動きを繋ぎとめる。氷璃はキマイラと思想こそ異なるが、狂気の実験の産物だ。それゆえにキマイラの苦しみをここで絶つと魔力を練る。 キマイラの牙から与えられる痛みをメイが癒していく。いまだに自らの道は見出せない。だが、今ここで悲劇を止めることは、メイ自身が選んだ道だ。 当然だが、キマイラも反撃を行う。だが高火力の電磁砲も、恐れるのは貫通力による一網打尽。それに気づけば散開して被害を減らすのみ。体力減少時の決死モードも、各個撃破戦法によりその威力を発揮される前に潰えてしまう。スペックを十全に生かすことができずに、一匹また一匹と潰えていく。 「そんじゃー、最後の一匹げっとー」 甚内の矛が横なぎに振るわれる。刃に氷を乗せた鋭い一撃。足をしっかり踏ん張って、体内に螺旋の力の流れを作る。その流れに破界器を乗せるように動かし、キマイラの胴に振り下ろす。 肉を絶つ確かな感触。それが橋上を襲ったキマイラの命脈を絶った。 ● 「これが爆弾なの?」 ダニエルが手にした工具箱を目にして、メイが疑問符を浮かべた。言われなければ工事の人が忘れていったのでは、と思うぐらいである。箱を開ければ、配線と何かの液体。おそらく爆薬と起爆装置なのだろう。 「任務、完了。爆弾魔も無事拘束したわ」 ジークリンデが幻想纏いを使って連絡を取る。爆弾とフィクサードは『スコットランド・ヤード』に任せたほうがいいだろう。 「ダニエル警部、ご協力感謝する!」 「助かったよ。警部さん」 ベルカが敬礼し、終がそれをまねるように額に手を当てる。 「あー、うるさい。用が済んだのなら早く帰れ。馴れ合っとる暇はないぞ」 ダニエルはフィクサードを拘束しながら、ベルカと終に答える。わざわざ答えるあたりが、律儀と言えなくもない。 「どうしても仲良くできませんか、お爺さん……私は仲良くしたいんですけど……。 その、娘さんとか、探してみて……貴方が心配していると話してみましょうか?」 「心配などしとらん! ……まぁ、探す分には好きにしろ。そこまで俺は止めん」 リンシードの言葉に突っぱねたように返すダニエル。 (探して欲しいんだな) (探して欲しいのね) 悠里と氷璃がダニエルを見て、そんなことを思う。その後で展望通路から見えるロンドンの街を見た。この高さなら、ロンドン市内を一望できる。 ロンドンの暗部を這い回る『倫敦の蜘蛛の巣』。そして狂気の研究結果『キマイラ』。それがこのロンドンを襲っているのだ。 彼らの好きにはさせない。リベリスタは眼下に見えるロンドンの町をみて、決意を新たにした。 エレベーターを降りたリベリスタたちは、また別の戦場に散っていく。 ロンドンの戦いは、まだ終わらない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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