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<倫敦事変>白のフラム


「ウヒョー! 超楽しい玩具じゃないっすかぁ、こういうものは新鮮なうちに使ってあげないと駄目なんすよぉ。うお、すげっすわー踊り食いってやつっすかー?」
 千里眼、千里眼。
 見通した先は、ヤードが首を噛み千切られて血が噴き出すそんな映像。
 面白可笑しいと腹を抱えて笑いそうになるのを必死で堪えていた若い彼。もっと面白くならないかと期待を込めずにはいられない。手に汗を握りながら、唾を飲みこんだ。
「普通、悪いことした奴をヤードが追いかけるっすよ。でも今は逆っすよ。狩る方が狩られてるっすよ、超見物じゃないっすかー。ヤードにもこんな使い道あるっすねー勉強になるっす、まじ感謝っす」
 場所は一本道。もはやヤードの左右に逃げ場は無く、かと言って前後にも逃げ場はない。完全包囲の全滅希望。作られた鳥籠の中で、死ねよ鳥。
 嗚呼、面白い、凄く面白い!! 間近で命が食われてやがるの、ばっかでー!
 そんな感じだろうか、この若い彼。喜怒哀楽の内、怒哀が完全に抜け落ちている。元から無い、そんなものあったら此処にはいない。
「いやーこれから楽しくなるっすよ!」
 そう、今は目の前の踊り食いを見ていたい。


「絶対に一回しか言わないから、耳かッぽじってよく聞いておきなさいよ」
 『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は移送中の車の中のリベリスタ達を指さした。何故だろう、マリアからいつも以上の依頼やる気が見える。明日は雪だろうか。

 倫敦市内にてキマイラによる事件が多発している。収束に向かう所か激化していると言った方が正しいか。
 倫敦派は此の事に関与していないと言っているものの、『ヤード』は其れが全くの嘘であると確信している。今まで事件が起きたとしても防戦に回る一方だったが、此処に来てやっとヤードは動く事を決意した。
 とはいえヤードは倫敦派の状況を完全に掴めてはいない。しかし道は途絶えている訳でも無い。
 キマイラを運用してくる彼等組織の末端から少しずつ情報を集めて、霧の中の蜘蛛を掴んでいく事を決めたのだ。其処で『世界で最もバロックナイツとの交戦経験を持ち、彼等を撃破せしめた唯一の存在』であるアークの支援をヤードは希望とした。
 其れをアークの上層部が受諾したのはつい最近の話か。
 されどヤードとアークが動く前に、先手は既に蜘蛛に取られた。倫敦市内、あらゆる場所で蜘蛛の手先が蔓延っている状況だ。此れはリベリスタとしては放っておくことはできない。
「だからマリア達も蜘蛛を撃退するのよ。ね、簡単なお話でしょ?」

 さて、この班が行く先は一本道。其処で起きた事件は既に出撃したヤードが抑え込んだものの、今度はヤードが引き付け過ぎたキマイラ達に囲まれ、完全に逃げ場を失っている。
「だからマリアたちはその片方を撃退してヤードを助けるわ。ヤードの体力はそれなりに消耗していると思うから念頭に置かないと駄目よ。ま、キマイラたちの方も戦闘しているなら体力マンタン!って訳では無さそうね。
 あ、もう片方のキマイラはパンダの人形持ってる根暗の班が対応しているから……まあ大丈夫なんじゃないかしら。目の前の敵を撃退するのに躍起になればそれでいいのよ」
 勿論、行く先に万華鏡の加護もフォーチュナの予知も無い。精々情報があったとして、キマイラであろうエリューションと『ホワイトキャット』というものだけか。しかし多少のイレギュラーを回避できないリベリスタ達でも無いだろう。落ち着いて事に当たればきっと大丈夫だ。
「マリア、あっちのパンダ根暗とどっちが先にヤードを救えるか勝負しているわ。だから頑張りなさいよね、でもマリアが一番だもの! ふんだ!」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月20日(金)22:54
 夕影です 以下詳細

●成功条件:夕影側の敵の撃退
●失敗条件:ヤードの全滅

●注意
・この依頼はらるとSTの依頼『<倫敦事変>黒の処刑者』とリンクしており、同時に参加する事は出来ません。また、依頼の結果が相互に影響を与えます

●場所:大通りの一本道
・両端は建造物となっております。戦闘に不自由はありません
夕影側リベリスタ → エネミー → ヤード ← エネミー ← らるとST側リベリスタ
 という状況になっております

●『ホワイトキャット』
・倫敦フィクサード
 ビーストハーフのインヤンマスターという情報があります
 非常に楽天家な若僧で、笑うツボは浅いようです

●Eキマイラ:サンフレイム(フェーズ2)
・全身燃えているライオンです
 防御高、自己回復大、精神無効、呪い無効、火炎無効
 近接攻撃でサンフレイムを攻撃した場合、反射が発動し200ダメージ受けます。ですが炎系BSを無効化できる場合はこの反射は無効化できます

 攻撃は全てBS業炎のバッドステータスが着きます
 攻撃方法は獅子の體でできる事全てですが、特に口から吐く広域の炎にはお気を付け下さい

●シュトゥルム(フェーズ1)×35体
・水で構成された鳥のキマイラです。わらわら
 HP低、自己回復小、精神無効
 攻撃方法はひとつだけで、突撃してきます。CTするとノックBが発動します

●ヤード
・十数人のリベリスタがいましたが、今は半数以上死亡しております。残りは非常に少ないです

●マリア・ベルーシュ
・マリアが動向します
 基本的に自分で考えて行動しますが、
 相談にて【マリア指示】と書かれた最後の投稿を参考に動きますので、何かあればお書きください

●重要な備考
1、このシナリオは市街シナリオです。
2、『ヤード』本部が陥落した場合(戦略点が0となった場合)、戦略上敗北となります。
3、『ヤード』本部の戦況は『<倫敦事変>の冠を持つシナリオ』の戦況で判断されます。戦略点の増減等は敵・味方の損耗率、実際の戦闘状況等々をSTとCWが総合的に判定します。直接的な戦略点の影響は『本部シナリオ』が最も大きくなりますが、他シナリオも影響します。今後の攻勢の為に必要な倫敦派の情報を取得するという意味では『市街シナリオ』、『地下鉄シナリオ』にやや高いチャンスがあるでしょう。
4、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
5、海外任務の為、万華鏡探査はありません。

 それでは宜しくお願いします
参加NPC
マリア・ベルーシュ (nBNE000608)
 


■メイン参加者 8人■
ノワールオルールクリミナルスタア
依代 椿(BNE000728)
ハイジーニアスマグメイガス
風宮 悠月(BNE001450)
アークエンジェマグメイガス
宵咲 氷璃(BNE002401)
ハイジーニアススターサジタリー
白雪 陽菜(BNE002652)
ハイジーニアスナイトクリーク
鳳 黎子(BNE003921)
メタルフレームクロスイージス
白崎・晃(BNE003937)
フライエンジェスターサジタリー
我妻 湊(BNE004567)
ジーニアスソードミラージュ
中山 真咲(BNE004687)


 ――遠い遠い場所。
 ビル風に髪を揺らしながら、『ホワイトキャット』を名乗る若い彼は腹を抱えて笑っていた。
「あン?」
 しかし、イレギュラーが入り込むのは間も無くだ。
 ヤードの一人の胴体から首が千切れて、回転しながら地面とキスした愉快な映像に酔っていたかったものの。
「ンだよ、シラケるなぁ。ヒーローは遅れてやってくるなんて今時……」

 そんな愚痴を知らない八人の。
 東方より出でた、強者たちの。
 ――到着により形勢逆転の死戦喜劇は開幕した。

「隙だらけだわ」
 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)は溜息を吐きながら、人差し指を噛み切った。傷痕からぷく、と膨れ上がった血を地面へと落とす。浮いている氷璃の足の下を駆けて行く血は、陣を組み上げ、鎖を放つ。
「キャハッ!! お姉様、マリアもお人形遊びする!!」
 鎖に続いた『クレイジーマリア』マリア・ベルーシュ(nBNE000608)は、片手に滾る雷の子を天へと投げ、其れが雷を地へと落とした。
 突然の、後方からの攻撃に動揺したか、敵の目線は一斉に此方へと向いた。
 鎖に捕らわれたシュトゥルムは置いておき、サンフレイムは駆けだす。
 本格的な交戦の火蓋が切られた事を実感した『現の月』風宮 悠月(BNE001450)。体の周囲に魔法陣を束ね、長い髪を揺らした。

 作戦は一気に殲滅――単純明快な其の作戦に誰もが一目散に攻勢を打たんとする時なのだ。

 マリアと、この後の旅行のプランは頭の片隅に。『十三代目紅椿』依代 椿(BNE000728)は思考を切り替え、煙草を唇に挟んで火を点け……る手前で、止めた。後方にはマリアが居るのだ、近くで煙草を吸われても大丈夫だと言われたのだが。疼く親心は娘の健康が優先だ。
 刹那、椿の隣を弾丸の如く通過したシュトゥルムが一体。椿の頬に傷を一つ着け、後ろの『三高平の悪戯姫』白雪 陽菜(BNE002652)の右肩に突き刺さり、そして血が舞う。
 痛みに顔にシワを寄せた陽菜だが、血が噴き出る肩を抑えて神秘のベールを己に施した。まだ、まだ始まったばかり――こんなので倒れる己でも無い。
 其の頃、『カインドオブマジック』鳳 黎子(BNE003921)はサンフレイムの手前に立つ。
「うーん、義によって参上……というのはらしくもないですねえ。来たいので来ました。やりたいことやったら帰ります」
 彼女はサンフレイムの後ろに見えるヤードをチラ見しながらも跳躍。上から下に落されてきた獅子の右手を避けてみせた。
 もちろんだが上へ飛べば火は熱さを増すというもの――其のはずなのだが、黎子にはそんな自然の節理は通用しない。秘めた、赤い紅い紅蓮の記憶が彼女の守護を止めない。
「温い火ですねえ。少しは楽しませてみせてくださいよ」
 双子の月を空中で構え、回転させながら獅子、水鳥を血に、血に、血に染め上げていく。
 流石エリューションキマイラ、と言った所か。いくら血が噴き出しているとはいえ…‥それだけで死ぬ存在では無い。
 黎子の演武の合間に見える獅子の瞳はまだ煌々と輝いているではないか。獲物を見つけた野生の本能は健在と認識して間違いでは無い。
 『アクスミラージュ』中山 真咲(BNE004687)は自付を施しながらも、己の唇を舌で右から左でなぞった。かの敵が、どれ程の強さか、超えられるのか、己の力は通用するのか、試すのが楽しみで仕方ない。滾る此の感情、如何止めてくれよう。
「ねえ、ベルちゃ」
 『落とし子』我妻 湊(BNE004567)は白き翼を広げた。すれば、小さな羽が舞い上がり風になびいて――獅子の炎が其れを灰に。
 「なによ」と顔を向けたマリアの紅の瞳に、漆黒の瞳が覗き込んだ。
「どっちが先に多く倒せるか勝負しようか?」
「いいわよ、負けた方は何をするのかしら!」
「んー……じゃあ、ジュースを奢る方向で」
「いいわよ!」
 フライエンジェの会話を横耳で聞きながら、『立ち塞がる学徒』白崎・晃(BNE003937)の放つは、ラグナロク。光を放ち、神秘がベールを形成。仲間にも施し、彼等を護る。
「……色々と忙しないな」
 ふう、と一息。晃は次の一手を演算しつつ、思い返してみる。
 キースの遊びを跳ね返し、傭兵の要請を受諾し、現在に至ってはバロックナイツの一角組織が六道のお姫様と組んでキマイラ発生。ヤードが陥落しかけて、共戦の受諾。報告書で辿った一連の出来事がこれだ。
 現実に戻って目の前を見てみれば、ヤードを救出しつつマリアのお願いを叶えないといけない現状。『アークのやる事』という荷物に押し潰されても不思議では無い。
 大変だなあ、と一言だけ言いながら家で中華料理を作っていれば終わる話だろうが。胸内に芽生えていた晃の正義が救えと五月蠅いのは恨むべきか、誇るべきか。
「……アークか……?」
「オイ、起きろ、起きてくれよ!! 助かるかもしれないんだぞ!!」
「う、うぅ……すまない……すまない」
 なんて視界の中で手を伸ばされていたら、
「さあ、廻していくぜ!!」
 助けずにはいられなかった。


「マリア、あれに近づいては駄目よ」
「わかったわ!」
 氷璃の目線が横に平行移動し、マリアを見た。もう既に分かっている事だろうが、サンフレイムは近接に寄らば炎が撒きついていくる。特に耐久の無いマリアが近寄ればその翼が燃え尽きるのは確実だろう。氷璃の静止に首を縦にふったマリアは、今日はなんだかとても素直であった。
「お姉様、マリアね、あいつら皆殺し希望!!」
「えぇ、そうね……」
 ところで。
「誰や!! マリアさんに大きい鎌持たせたん!!」
 椿が叫んだ。叫びながら、指を手前に――其の最中にも腕にシュトゥルムのクチバシが刺さる――獅子の魂を引き抜いて己が糧にする。美味しくない作業に唇を噛んだのだが。
 そう、気になるのはマリアだ。氷璃の攻撃の後に続かんとするマリアなのだが。
「歌ってねー綺麗な綺麗なだん、まつ、マッ……重いわ」
 先程よりマリアの手にあるのは、何時もの魔法石の入ったテディベア(マジックシンボルらしい)では無く巨大な大鎌。
「ナイスチョイスでしょ?」
 剣を振り回し、光を放って弾幕攻撃を作る陽菜が、合間にニコッと笑いながら回答している。
「前の武器も良かったんだけど、小さな女の子がああいうの振り回す姿もいいかなーってグフッ」
 説明中陽菜の胸にシュトゥルムが一体刺さって後方へとノックバックされつつフェードアウト。成程、そういえば数日前に陽菜よりプレゼントされていたマリアの武器。
 一方、マリアへ飛んだシュトゥルムが道中で燃え尽き、灰の残さず消えていく。湊の弾丸がシュトゥルムを確実に射抜いていくのだ――数は多けれど、仲間と息を合わせて弾数を当てて行けば簡単に尽きていく水鳥。
 手応えの良さに、にやっと笑った湊はマリアへ向いた。
「今の所、こっちの勝ちっぽいけどねー」
「ムキー!!」
 勝ち誇った、悪戯染みた笑顔にマリアは空中で地団駄を踏んだ。

 ぶちんと音をたてて切れたのは椿の絶対絞首の力だったか。椿が舌打ちしながら再び縛らんと力を使う、そのただ一瞬手前。
「おやおや? これは……」
 数の多いシュトゥルムの数は減っていくが、流石に三十五もいれば黎子であれど。
「油断しましたぁぁ」
 胸を貫かれ、其の侭後方へと身体が飛ばされていく。
 たったその一瞬を見逃さなかった獅子は飛び上がり、リベリスタ達後衛陣に飛び込まんとしているではないか。咄嗟だ、黎子は後衛へ下がれと目線を送るの。
 それよりも早く。
「おっと、此処から先は通行止めだが?」
 晃は獅子の着地点に立ち、右手を牙に、左手をたてがみを掴んで前進を止めたのだ。
 腕から伝わる獅子の熱は晃を焦がしていく。抑えに最適であった黎子の様にはいかないが、此処から先に行かれて後衛を崩されるのは絶対に避けなければいけない事であっただろう。
 噛みしめる歯、されど獅子は容赦せず。移動したクセに口を開き灼熱の焔を吐き出した――。
「マリ……ッ!!」
「お姉さ……っ」
 氷璃が咄嗟に、迫りくる炎にマリアの盾にならんとするが――一歩遅かった。

 ――まるで太陽が目の前にあるかの様。それ程までに明るくて、熱くて。

 後衛さえ巻き込んで放たれた攻撃は域の範囲だ。勿論巻き込まれて、幾体かの水鳥は消え失せている。
 焔が消えた後のリベリスタ達は誰もが身体を黒く焦がし、髪やら服やらが燃えている。少々、被害は甚大であったと見えるか。
「けふっ」
 真咲が吐き出した空気が灰色混じりだ。しかし手は止めずに、無傷健在のシュトゥルムを一体斧で両断す。
「なかなかやってくれたけど。まだまだこれからなんだからね!!」
 二つに分かたれた水鳥の血と、舞う翼を肩で受けながら。真咲は再び斧を振り上げた。
 そう、戦闘とはこうでなくては! 一方的な残虐劇ができるのなら態々日本から出向かなくても良いのだから。強敵を前に、真咲の瞳は彩を増した。少しでも早くサンフレイムを両断するために、今は、先に、水鳥を壊すのだ!
 真咲の身体を縫うように湊の追撃は走る――更に続くは氷璃。ええい、数が多くて射線の通らない水鳥が多かった。だが、減った今ならば!!
 派手に華やかに上品に、氷璃は詠唱を唱える。本来長い詠唱の文を、短く書き換え演算された文を。
「邪魔よ、呪縛の檻で朽ちなさい」
 氷璃は畳んだ箱庭を騙る檻にて、宙に描く光を繋げ、紡いで、陣を一つ。其れを力を集約し放つ場所とした。淡い光を放つ其れに、血の流れる右手を当てれば放つ葬送の鎖。二体逃したが、六体の拘束に成功した。
「マリア」
「ん……」
 氷璃の声にパチっと目を覚ましたマリア。燃え上がる羽に痛みを覚えて、地面に伏せっていたが、顔を上げる。氷璃に、お姉様に続くのだ。陣を乗せた大鎌を、振り回して投げた血鎖が捕えている水鳥を破裂させて消していく。
 残りは獅子と、水鳥の二体。目でも追える程の数になった敵だ。
「任せて!」
 元気よく声をあげた陽菜が剣を構えた。なぎ払い、振り払い、精神力を弾丸に刃を放てる不思議な剣を。
「百発百中ぅぅ~!!」
 轟――と燃えたのは剣であった。
 先程の広域の焔を味わったが其れのお返しと言わんばかりだ。紅蓮に燃ゆる刀身を右に一閃、なぎ払い剣風に載せて炎が蛇の様に放たれ水鳥を喰い散らかした。


「これであとは!!」
 陽菜の声に反応した悠月は雷を構成する詠唱を切り替え、魔曲を謳う。
「おい、またこいつ!!」
 晃は叫んだ。獅子の口の中に溜めこんだ炎。つまり。
「あぁ、先ほどの……」
 そう、再び行きの焔を出そうというのだ。
 晃は苦い顔をしていたが、悠月は涼しい顔で呟く「二度目は無い」と。
 組み上げた陣は、悠月の足下に輝く。展開していた魔法陣が限界まで回転しながら、力を悠月へ送る。悠月は頭の中で距離を演算しながら放つ――射撃。
 四色の音色。一色は獅子の焔を溜めた口を縛り、一色は獅子を地面へと繋げ、一色は身体を貫き、一色は呪いを与えていく。
「このまま、終わらせてしまいましょう」
「せやな、ヤードもまだ……あっ!?」
 悠月の声に頷いた椿がヤードを見て初めて気づいた。此方は未だ戦闘中であるが、『彼方』は既に戦闘が終了していたのだ。晃はそれを見て、心の奥でほっとした。救えるはずの命を救うというのはリベリスタにとってできないときもある。
「良かった……あとは」
 と呟いた所で晃は背でマリアの殺気を感じていた。
「こ、これは……どうしよか……」
 椿が振り向く事を止めた。おそらく後ろでは賭けに負けたマリアが怒っているであろうから。
 ともあれ負かしてしまったのは己の責任でもあるか、そう考えると何故か怒りが沸いて来た椿。さて、この力如何してくれよう。
「この……駄犬があああ!!」
 両手に絡まり構成されたのは精神力の鎖――またの名を『グレイプニル』。千葉を収める十三代目の真なる力の権化である嘘ですすみません。
 辛辣な鎖が絡むのは獅子の首だ、言う事を聞かぬ犬には鎖と首輪が必要であろう? 尤も、その首輪は首を断頭してしまう悪戯的なものであったが。ヤバイヨヤバイヨー。
「やったか!?」
 晃は声を上げる。顔、というものが無くなった獅子は滑稽な形をしていた。
 血をまき散らしながら、一番近くに居た晃の身体を紅く染め上げて。されどまだ動くのはキマイラというものであるからだろうか。新しい顔を形成しようと筋肉が蠢く。
 緩みそうになった顔をこわばらせ、晃は光に溢れんばかりの鉄扇を横に舞わせて切り崩した、だが、返り血が再び彼を染めただけ、まだ、まだ動くのだ。
「どうやら、ヤードを逃がす手間が省けてしまったようですので、此方に来ました」
 とん、と獅子の背に足を置いた黎子。膨らんだ胸の間から取り出したのは一つのジョーカー。
「占いはお好きですか? ……ま、何処かの魔女と似ていて塔しか引き当てませんけど」
 塔は無いのでジョーカーをそれとしよう。一枚のジョーカーを投げれば刹那――増殖し、一定間隔で並んだカードの群が出現。
「やっぱり、これしか引き当てませんね」
 見えた未来は獅子の細切れ死体。その望みに沿うかのように、カードの群は獅子に突き刺さり、貫通し、血をまき散らせば踊っている様か。
「あーあ、ボクの出番なしかなぁ……」
 唇を尖らせた真咲はミンチ化していく獅子を見ていた。が、ともあれカードの隙間から見えたのは核(燃えた心臓)か。
 念には念を入れ、更に念を入れておこう。なんといっても再生するのがキマイラであるからして。
「たった一欠けらだって、駄目だよね。ボクのやることみーっけた!」
 斧を持ち上げた、瞬時に地面を蹴りあげた。高く跳躍した彼女の身体、瞳はけして核から目を逸らさない。
 縦に一回、己が身体を回転させれば自然と斧が断頭台の役目を果たす。轟と燃えた臓器は、二つに割れれば肉の塊に戻り機能を止めた――。
 ――ご馳走様でした。


 周囲はちょっとしたグロテスクな現場。肉塊が散乱する様は異様でもある。
「こっちが一二体。そっちは?」
「数えてないもん……」
 そんな中、湊はマリアに何体倒したか問い詰めてみたものの、マリアは負けているのだろう口を開こうとしていない。
「次は数えないと駄目だよ、今回はこっちの勝ち」
「むー」
 不満だ、と顔全体で表しているマリアは湊からぷいと顔を逸らした。そらして、刹那、堕天落としを何処かへと打った。おそらく彼方の班へと打ったらしい。
「まあまあ、落ち着けマリア」
「いやよ! 晃、ご飯作って」
「今は無理だ……」
 服が大きく焼け焦げた晃は苦笑いをしながらマリアの頭を撫でて、機嫌を取ろうとした。惜しい、機嫌取りがあと一歩早ければ彼方の犠牲はなかったものを。
「そういえば前の話やけど、マリアさん」
「んー?」
 ママと呼んでいいかの話だそうだ。椿がマリアを一直線に見た、なによと挑発染みた瞳が見返してくる。そう呼んでも良いという返事と共に、
「マリアさんのこと、マリアって呼んでもえぇやろか?」
 と逆に聞き返した椿は照れ臭そうにしていた。少し顔が紅潮したマリアもマリアで何故か恥ずかしそうにしており。
「ん、いいよ」
 だなんて絞り出すような声で返していた。

「ホワイトキャットや~い!出っておいで~♪ 出てきたらなでなでペロペロしてあげるよ~!」
 陽菜は空に向かって叫んでみる――しかし、動く影は無い。
 悠月や氷璃は索敵をしてみたものの、彼女等は致命的に敵の容姿を知らなかった。幾重に不審な能力者を発見しては追ってみた式神も消えている。
「逃げたわね」
「そのようですね……」
 故に、倫敦の霧は深い。
「ベル……帰りましょうか」
「はぁい」
 悠月の手を握ったマリアが、肉塊を蹴り飛ばして道を作った。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
依頼お疲れ様でした
結果は上記の通りになりましたが、如何でしょうか
どっちが先に~の勝負は、如何やら此方の敗けだそうです
ともあれ、ナイスファイトです、ヤードも全員救われました
それではまた違う依頼でお会いしましょう