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<倫敦事変>パウダー・パープルの飴玉


 アプリコット、プリムローズ・イエロー、シャレイ・ブルー、アフリカン・バイオレットのイルミネーションが色取り取りのロンドンの宵闇に華々しい輝きを映し出している。
 アウタースペース・ブルーの夜空の星が霞んでしまうほど、地上に咲く星たちは綺麗であった。
 街にあふれるクリスマスの装い、レッド・グリーンの看板が至る所に散りばめられている。
 空からチラチラとペール・ホワイトの雪が落ちてきて、掌に掬えば瞬く間に水へと変わっていた。
「あはは! もうすぐ、パーティ! 少しだけ早いけれど俺らから君たちにプレゼントをあげるよ!」
 ピエロの様な仮装を身にまとい青年は高い声を上げる。
 後ろに続く大道芸人の様な出で立ちをした集団は、このロンドン南部ブリクストンのマーケットをゆっくりと歩いていた。
「さぁ、そこのお嬢ちゃん、お坊ちゃん! 飴をあげよう、こっちに寄っておいで!」
「わぁー!」
「やったぜ!!!」
 子供達が次々にサーカス団の周りに集まっていく。ニコニコと笑顔を振りまきながら道化師は飴を小さな手に乗せた。
 そのサーカス団の後ろにはジャック・フロスト――雪だるまに扮した人々が並んでいる。
 楽しげな表情を浮かべた彼等は、はしゃぐ子供達と戯れながらマーケットをパーティの渦に巻き込んでいった。嬉しげに、楽しげに。
「ママー! あれー!」
「ダメよ、坊や。パーティはまた今度ね」
「そうだ! 今日はママの手伝いをしたあと、パパと一緒に遊ぼう!」
 プラチナブロンドの髪をした親子はサーカス団を一瞥してロンドン中央部に位置する自宅へと車を発進させた。坊やがふと車の窓から外を眺めるとジャック・フロストと手を繋いだ自分と同じぐらい子供が、路地裏へと消えていく所だった。
 すぐに見えなくなったその光景は少年の記憶にも残らない一瞬の事柄であったのだろう。
 子供がアイル・トーン・ブルーの氷の中に閉じ込められる場面など、覚えていない方が幸せだった。
 一人、また一人と姿を消していく子供達に気づく大人は誰も居ない。
 彼等の親たちは此の場所には処らず、それが明るみに成る頃には全て手遅れなのだ。


 ロンドン警視庁――通称『スコットランド・ヤード』は、英国が誇るリベリスタ組織という側面を持っている。
 そんな彼等と因縁深い『倫敦の蜘蛛の巣』と呼ばれるフィクサード組織を率いるのはモリアーティ教授――かのシャーロック・ホームズのライバルを自称する存在であった。
 宿敵同士は長きに渡って闘争を続けてきたが、この秋口からは状況が変わりつつある。
 突如出現した『キマイラ』と呼ばれる存在によって――。
 二種の敵を相手にするのはさすがのヤードにも荷が重いのか。はたまたとある事情も絡んでの事か。
 ヤードは日本のアークと連携し、敵の対処に追われながら今日までやって来た。
 事情の一つはキマイラと言う存在にある。それは遠く日本のフィクサード組織『六道』に所属する『六道の兇姫』六道紫杏が生み出した人造エリューションである。その点、アークは対処の術を心得ていると言えた。
 もう一つのアークの内部的な秘密にある。塔の魔女との秘密同盟は、その内容が『バロックナイツ』の壊滅であるのだ。
 倫敦の蜘蛛の巣はキマイラとの関与を否定しては居るものの、そんな世迷言を信じるヤードではない。
 ヤードとアークが連携し、短期的な戦力増強が図れたこの機会に、ヤードは倫敦派の尻尾を掴む算段で居たのである。
 だがしかし、モリアーティは甘くない。彼等はヤードに紙一重先んじるように倫敦市内で、地下を駆け巡るザ・チューブで行動を開始した。それはヤードの本拠地である『ロンドン警視庁地下』の制圧を戦略目標に据えた大攻勢だったのである。

「至急、ロンドンに向かって下さい」
 イングリッシュフローライトの髪の間から垣間見える『碧色の便り』海音寺 なぎさ(nBNE000244)の表情はあまり良いとは言えなかった。緊張感が漂うブリーフィングルームでフォーチュナは言葉を紡いでいく。
 子供達を攫っていくキマイラの出現とそれを隠蔽するように現れたサーカス団。
 サーカス団の演技やパフォーマンスに夢中になっている間に、大量に湧いたジャック・フロスト達が子供を連れ去り氷漬けにしていく。気に入った子供はそのまま何処かへ運ばれていくらしい。
 何を目的にしているかは不明であるが、ヤードの手を煩わせるには持ってこいのシチュエーションであろう。
「現地ではヤードの方が一般人の誘導に当たってくれます。皆さんはキマイラとフィクサードの対処をお願いします」
 誘導が進み、戦闘が始まればヤード側のリベリスタが増援に掛けるけてくれるらしい。
 右も左も分からない、万華鏡の使えない場所で彼等の力は助けになるだろう。
「どうか、子供達を救って下さい」
 海色の瞳をリベリスタに向けたなぎさはぺこりとお辞儀をして彼等を送り出した。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:もみじ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2013年12月17日(火)23:15
 もみじです。こちらは市街シナリオ。子供あつめ。

●目的
・キマイラの討伐
・フィクサードの撃退
(一般人の救出はヤード側に比重が置かれています)

●ロケーション
 宵。ロンドン南部ブリクストンのマーケットの路地裏。
 足場に問題はありません。光源、人払いは配慮したほうがいいでしょう。
 裏路地には氷漬けにされた子供、キマイラ、フィクサードが居ます。

●敵
○『キマイラ』ジャック・フロスト
 触れた相手は凍ってしまうようです。現在数体が存在している模様です。増加の恐れ有り。
 高防御、自己再生があるであろう事がキマイラの特性から予想されます。
 他、不明。

<サーカス団>
 倫敦の蜘蛛の巣を構成するフィクサード集団であると思われます。
 キマイラとの関係性は否定します。
○団長
 シルクハットに燕尾服、ステッキを持った男。指揮官タイプと思われます。
○ザ・フール
 道化師の姿をした青年、能力傾向は不明です。
○セルマ
 柔軟な動きを見せる女性。トリッキーそうです。
○マリカ
 空中演技を得意とする女性。敏捷性が高そうです。
○スコット
 怪力男。見ての通りパワータイプでしょう。
○アラン
 ファイアジャグラーの男性。能力は不明です。

●援軍
○ヤードのリベリスタ6人
 6人は連れて来られた子供達の救出に当たります。
 デュランダル2名、クロスイージス2名、ホーリーメイガス1名、プロアデプト1名

●子供達数名
 氷漬けにされています。BS解除スキルで氷は溶けます。
 おそらく氷像の効果を受けた直後です。


●重要な備考
1、このシナリオは市街シナリオです。
2、『ヤード』本部が陥落した場合(戦略点が0となった場合)、戦略上敗北となります。
3、『ヤード』本部の戦況は『<倫敦事変>の冠を持つシナリオ』の戦況で判断されます。戦略点の増減等は敵・味方の損耗率、実際の戦闘状況等々をSTとCWが総合的に判定します。直接的な戦略点の影響は『本部シナリオ』が最も大きくなりますが、他シナリオも影響します。今後の攻勢の為に必要な倫敦派の情報を取得するという意味では『市街シナリオ』、『地下鉄シナリオ』にやや高いチャンスがあるでしょう。
4、アークの関わらない事件(非シナリオ)も同時に多数起きていますが、其方は『ヤード』の対処案件です。
5、海外任務の為、万華鏡探査はありません。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
フライダークホーリーメイガス
アリステア・ショーゼット(BNE000313)
ハイジーニアスナイトクリーク
神城・涼(BNE001343)
メタルフレームデュランダル
雪城 紗夜(BNE001622)
ジーニアスマグメイガス
イーゼリット・イシュター(BNE001996)
ハイジーニアスダークナイト
山田・珍粘(BNE002078)
アウトサイドソードミラージュ
レイライン・エレアニック(BNE002137)
フライエンジェホーリーメイガス
丸田 富江(BNE004309)
ジーニアスナイトクリーク
常盤・青(BNE004763)


 ミスティック・パープルの宵闇がロンドン市街のブリクストンマーケットを包んでいる。雑多な店舗が立ち並びオレンジ色の街灯が店の外に出された商品を照らしていた。
 その明かりの届かぬ場所に、手を引かれた子供とパウダー・パープルの雪だるま達。
 ジャックフロストが子供達に触れると忽ち綺麗な氷に小さな身体が覆われた。
 ふわりと純白の羽根が灰色の地面に落ちる。ほんの一瞬だけ暗い裏路地が仄かに明るくなった。
『淡雪』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が戦場に舞い降りれば、子供達を閉じ込めていた氷牢が砕け散る。
 ――どうしてこんな事するの。サーカスは子供に夢を与えるものでしょ? ちゃんとお家に帰すからね。
 彼女のコバルト・ヴァイオレットの瞳はジャックフロストとその前に陣取ったフィクサードに向けられる。
 それに……今回は一緒に戦えるんだもん。変な所見せられないや。気合い入れなきゃ。
 アリステアは前を走りだした『パニッシュメント』神城・涼(BNE001343)の広い背中を優しい目で見つめた。
「やれやれ。倫敦の蜘蛛の巣? 大層な犯罪組織みたくしてるが、子供をどうこう、って時点で底がしれると思うぜ?」
 涼のレイヴンブラックのコートから繰り出される、漆黒と無色の鋭い爪。
 宵闇の月明かりを切っ先が反射する。その彩りはポーカーのカードを振りかざした。
「はは、俺自身も惚れた相手の前だし、それなりにはカッコイイところを見せなきゃいけないんでな。そういうわけで、さくっとやられてもらうぜ?」
 柔軟な動きを見せるセルマを捉えて涼の剣が舞っていく。5つのカードが示される役は最強の印。
 聖杯のスートがミスティック・パープルの夜空に舞い上がる。叩きつけられる二刀は状態異常を伴ってフィクサードの身体を切り刻んだ。
「まァ、所謂なんだ? ダブルアップチャンスってやつでな」
 突き付けられた聖杯の頭上に輝くのは剣のスートだ。二連撃の最強役がセルマの体力を半分削ぎとっていく。
「君たち何? 見たところヤードって感じじゃないよね?」
「くすくす。そんな事どうでも良いじゃないですか。それよりサーカスなら芸で楽しませてくれるんですよね。もし、つまらなかったら。槍で身体に穴を開けて、街灯に吊るしますから」
 エメラルドの瞳が嗤う。『グラファイトの黒』山田・珍粘(BNE002078)が己の深淵(くろいろ)を開放しながら巨体のフィクサードの前へと立ちふさがる。
 ぐつぐつと煮えたぎる瘴気は漆黒の霧を闇の中に溶かしこんでいた。
「気持ちは分かります。幸せな笑顔。苦悩と絶望に染まった断末魔。そんな素敵な瞬間を、氷漬けにして留めて置きたいと」
「……」
 目の前のスコットから発せられるのは無言。
「あれ? 違う話でした?」
 シルクハットに燕尾服を着たサーカス団の団長が自身の力を高めて行く。
「はるばる故郷を飛び越えて。こんにちは、貴方達がロンドンの蜘蛛の巣ね」
『敬虔なる学徒』イーゼリット・イシュター(BNE001996)がペール・アイリスの瞳を細めた。
「サーカス団が子供を浚うなんて古典的。そんなのって斜陽の大英帝国におあつらえ向きだと思わない?」
 口の端を小さく上げて、自身の内側に魔法陣を展開させる。――それじゃ、神秘探求を始めましょ

『遺志を継ぐ双子の姉』丸田 富江(BNE004309)目の前で白くて眩しい閃光が放たれる。それは、サーカス団の道化師が放った麻痺を伴う光。
「さぁて久々の出番だけど……やっこさんたち手加減はしてくれそうに無いねぇ」
 しかし、彼女の恰幅の良い身体は状態異常を寄せ付けない鋼の硬さを誇っている。
 富江の出で立ちは戦場においても変わること無く、安心して背中を任せられるだろう。
「守る事だって立派な戦いだよっ。アタシの……そう、丸田の戦い方ってやつを見せてやるさぁっ」
 受け継いだ記憶は富江の中に息づいていて、温かなぬくもりを戦場に立つリベリスタに与えた。
 その隣に立つアリステアも眩い閃光の中に取り込まれたがアイリス・シルヴァの髪が揺れただけだ。
 彼女もまた、麻痺を寄せ付けぬ技術をまとっているのだ。
「ひゅぅ。可愛いお嬢ちゃんとママンは凄いねぇ!」
 ケラケラと手を叩きながら道化師はひらりと舞い踊っている。それに目隠しされるように闇の月がリベリスタを襲った。セルマが放ったムーン・ダークの力はアークとヤード両方に降り注いだが、子供達を傷つけることはなかった。
 サーカス団の後ろに控えていたジャックフロストが一人の子供を抱えて戦場から逃げ出していく。
「待て!!!」
 ヤードの職員が止めに入るより一足早く、伸ばされた手をすり抜けて闇の中に消えていく雪だるま。
「くそ!」
「残った子供達だけでも救い出しましょう」
 回りこむ用にプロアデプトとホーリーメイガスが駈け出し、子供達を拾い上げる。彼等はリベリスタと分かれて子供達の救出に向かっていたのだ。
「おいおい、そいつら必要なんだよ。親に心配もされねぇガキなんか救っても意味ねぇだろ?」
 ファイヤージャグラーの男がヤード職員に向けて高威力の一撃を放つ。彼は新人リベリスタであったのだろう。
 腕の中の小さな存在を守り切って命が蒸発していく。子供と一緒に冷たい路地に倒れこむ死体。
「さぁみんな、自由に飛び回るんだよっ!」
 富江に翼の加護を施されたもう一人の職員が仲間の死体を横目に子供を抱えて走り去った。
「連れ去ると言うことは、子供達をキマイラの材料にするつもりなのかな?」
 サーカス団の行く手を阻むのは『偽悪守護者』雪城 紗夜(BNE001622)のアランブラの瞳。
 立入禁止の看板を設置し、仲間より一足先に現場に来ていた紗夜は自身のリミッターを解除していく。
「さぁ? どうだろうね。俺らにはダディの考えてる事なんて分かんないしっ!」
 応えたのは道化師。何時も笑顔を絶やさない奇妙なクラウンだ。
 紗夜の笑みも負けず、悪魔的な旋律を奏でていた。この戦場には『笑顔』を浮かべた存在が多い。
 ふふふ……気が付いたらロンドンに居たよ。いや、なんでなんだろうね? ブリーフィングルームに居たところまでは覚えているんだけれど……。また、箱に詰められて輸送でもされてしまったのだろうか。
 ……まぁ、作戦については聞いていたから、しっかりと子供達を助けようじゃないか。
 サーカス団が戦闘準備を整えている隙に、仲間の死体の間から子供を引っ張りあげて、ヤード職員が後退していく。
 そこへ賑やかなマーケットの方から人影が現れた。
 子供の手を引いたジャックフロストが戦場に乱入してきたのだ。
「ギャハハ! そいつはハズレだよ! そっちの子供を連れていきな」
 子供を指さして道化師が飛び跳ねる。その声に反応してジャックフロストが子供を見つめた。
 通行止めの看板を紗夜と一緒に取り付けていた『ロストワン』常盤・青(BNE004763)は空中演技が得意なマリカの前に立ちはだかる。
「子供達を返して貰います」
 ブルー・ブラックの瞳が何時もにも増して目的を見据えていた。
 ――欧州ではクリスマスは家族と一緒に祝うものだって聴いているよ。
 ボクにはクリスマスを一緒に過ごせる家族はもういないけど、あの子達はそうじゃない。
 ボクはサンタクロースじゃ無いけど、あの子達に家族と共に過ごせる幸せなクリスマスを贈りたい。
 振るう大鎌はミスティック・パープルの夜空に高く掲げられていた。
 また、一人子供がジャックフロストに連れ去られて行く。


「どんな目的があろうと、子供達を誘拐するなど許してはおけぬ!」
『ふたまたしっぽ』レイライン・エレアニック(BNE002137)の声が裏路地に響く。
 3人目の子供を連れて行こうとする雪だるまの目の前に降り立ったレイラインは、一瞬の隙を付いて子供をヤード職員の手の中に預けた。
「そのまま安全な所までの輸送をお願いするぞよ。こちらへの援護はその後余裕があったらで大丈夫じゃ」
「分かった。任せたぞ、アーク」
 向き直ったフィクサードに細くなったローズ・レッドの瞳孔が鋭く突き刺さる。
「悪いが、本日付でお主らには閉幕してもらうぞよ!」
 鉤爪を前に。切り裂くのはサーカス団の団長。敵の長をレイラインの麻痺爪が犯していく。
 残る子供は後1人。けれど、生存しているヤードの職員はこの場には存在していなかった。
 冷たい外気に晒された死体があるだけ。
「えー、それハズレって言ったじゃん。いいよ。食べちゃいなよ」
 フールの声に反応して、ジャックフロストが大きな口を開ける。――バクリ。
 コロコロ。コロコロ。
 パウダー・パープルの飴玉が転がっていく。弾けて飛んで。気づいた時には雪だるまが1体増えていた。
「なっ――!?」
 生命エネルギーたる血を変換してキマイラが増殖していたのだ。リベリスタの視線が増えたキマイラに向く。
 敵の軽戦士が目の前の青に剣を突き入れた。痺れるような感覚が彼の身体を駆け巡る。
 那由他はウィスタリアの髪を揺らし、ジャックフロストの元へ駆け寄ろうとするが、自身がブロックしていたスコットに行く手を阻まれ戦場の最中に押しとどめられる。
「あは、熱烈ですねぇ」
 三日月の唇がねっとりと絡みつく奈落の槍は邪魔な巨体を貫くが、状態異常が通らない。

 興味深いのはキマイラの事。それよりも教授さんの事。それより何より、彼等がキマイラとは無関係だと言い張る強弁の事。なんの為にそうするのかな。くすくす。
「ねえ、どうして?」
 イーゼリットが自身の血を贄に暗黒の鎖をミスティック・パープルの夜空に撒き散らす。
 彼女の魔法は体力の減ったセルマを絡めとって――地に落とした。
「答えなさい。あの子達をどう利用するつもりだったの?」
 くすくす……。
「分かるでしょ? 私は別に正義感溢れるような『どうするつもりだったんだ』なんていう意味で聞きたいわけじゃないの。興味があるの。命より安いでしょ?」
「ギャハハ、綺麗なお姉さんも悪趣味だなぁ! どう、『切開かれるか』を聞きたいだなんてっ♪」
「フール、ベラベラ喋ってんじゃないよ」
 イーゼリットの身体が突然炎に包まれる。痛みに顔を歪めたペール・アイリスの瞳がアランを見据えた。彼女の体力は瀕死状態であろう。焼け焦げた肌が痛々しい。
「大丈夫! アタシに任せな!」
 富江の放ったエルヴの光がリベリスタを包み込む。傷ついた肌が一瞬にして消え失せたのだ。
 愛情たっぷり富江の回復は、肝っ玉母さんの温かな安心感があった。

 スコットの大剣は那由他の綺麗な髪の毛を少しだけ焦がす。もう少し反応が遅ければかなりのダメージを負っていたであろうその攻撃。
 青は大鎌を振りかざし可視の気糸をマリカへと伸ばす。本来であれば目の前の相手は格上に相当する実力をもっているのだろう。けれど、彼は刃を向けた。
 なぜなら、彼はナイトクリーク。夜の闇を往く黒の眷属。そこに裏打ちされた力は単なる運試し的要素だけではない。技術に特化することで的確に敵を屠る“絶対命中”の糸なのだ。
 青はその存在感の無さを利用して、一瞬マリカの視界の外側へと踏み入れる。
 敵が彼の存在に気づいた時にはもうその漆黒の鎌は喉仏を切り裂いて神経麻痺の毒を滴らせているのだ。

 紗夜は上手くフィクサードの間をすり抜けてジャックフロストの元へ到達していた。
「それにしても、ジャック・フロストか……」
 紗夜が想像していた通りの可愛らしい雪だるまが目の前に3体存在している。このキュートなフォルムで子供を丸呑みする光景はシュールすぎるのだろう。
「キマイラということだし、切り刻めば血も出るのかな?」
 ストア・ブラックの大鎌から繰り出されるバトラーズアバランチはジャックフロストに見事に命中した。
 増殖したてのキマイラは体力も少なく、彼女の攻撃でかなりの体力を減らす。
 しかし、戦場を見渡せばジャックフロストの前に立つのは紗夜のみ。
 那由他と涼、青はフィクサードに行く手を阻まれてキマイラの元へ来れずに居たのだ。
 紗夜がジャックフロストの集中攻撃を受けて氷像の中に閉じ込められた。

「おっと、これ以上増やす訳にはいかんからのう」
 キマイラは増殖しようと紗夜をも飲み込もうとするが、マーメイド・ゴールドの髪を揺らしたレイラインによって阻まれる。フィクサード後方に翼の加護を受けて飛んできていた彼女は紗夜の窮地に間に合ったのだ。紗夜が体力を削ったキマイラ目掛けて風の真空で切り裂く。
 あと少しでこの雪だるまは溶けて消えるであろう。
 しかし、突き入れた側から少しずつ傷が治っているのをレイラインは見つめていた。
 突破力が足りないのだ。集中攻撃足りえる人数が未だ――――足りない。


 戦闘は苦戦を強いられる事になった。フィクサードによって集中攻撃を受けたイーゼリットが血煙の中に沈み、キマイラの前に立ち続けた紗夜が冷たい路地に伏せていた。
 戦力の分断は思いの外戦況に響くのだろう。
 しかし、それを押しとどめるのは個々の実力が伴っているからである。

 仲間が地に伏している横でレイラインは3体のキマイラ相手に立ち回っていた。
 獲物を狙う猫の如くしっぽでバランスを取り、上手くジャックフロストの氷撃を華麗に避けている。
 彼女が居なければキマイラ側の戦線は崩れ脅威の攻撃力がフィクサード集団に加わったであろう。
 けれど、彼女は流線的なラインをその爪に宿し、一体の雪だるまを地面にバラバラにした。
 ジャックフロストの白の中に交じるアガットの赤はきっと犠牲になった子供のそれであろう。
 彼女はぐっと眉を寄せて他のキマイラに向き直る。
「子供を犠牲にしてまでこんな……お主ら、許さぬよ」
 それは誰に向けた言葉だろうか。キマイラかフィクサードか。将又、その裏で糸を引いているであろうモリアーティだろうか。或いは『子供に固執する何者か』。
 敵の軽戦士はキマイラの元に全力移動した青に追いすがることが出来ず、ターゲットを涼へと変更した。漆黒のコート目掛けて剣を振るうマリカ。
「生憎と、先約済みなんだよな」
 彼女の魅了は涼には効かない。何故なら、彼にはアイリス・シルヴァの天使が居るからだ。
 恋人の前において他の女性に感けているとあれば、小さな恋人はきっとすねてしまうだろう。
 縦しんば涼が魅了にかかったとしてもアリステアの回復はそれを跳ね除ける力を有している。
 だから、彼は最前線に立ち剣をふるうことが出来る。背中を優しく包み込んでくれる恋人がいるから。
 負けられないし、カッコ悪い所なんて見せられない。
「さあ、運命のポーカー遊びと行こうか!」
 聖杯のスート、剣のスートをダブルアクションで叩きだした涼はイノセントとノットギルティをミスティック・パープルの夜空に解き放つ。
 けれど、それだけでは終わらない。まだ、もう一つのスートが残っている。
「ラスト――――ペンタクル」
 護符のカードが切られて蜘蛛の軽戦士は地を派手に転がった。
 流石に肩で息をする涼をエルヴの息吹が優しく包み込む。アリステアの滑らかな声が神々の意志を引き連れてこの戦場に癒やしの加護を落としていた。
 ――大丈夫。貴方の背中はきちんと守るよ。
 何時消えてしまうか分からない世界で生きているから。今この時の彼を癒やすことが出来るなら、此処で彼が運命の五線譜から外れてしまう心配は無い。

「この期に及んで、キマイラとの関係を否定するつまらない人達は、見せしめになっても仕方ないですよねえ。百舌の早贄って知ってます? くすくす……最期の芸ですね」
 蓄積されたダメージはスコットの巨躯をも蝕み、グラファイトの黒の前に赤い傷口を晒している。
 その身体に深々と突き刺さっているのは、フラーレンの大きな槍だ。那由他の持つ鋭い獲物は突き上げるように怪力の男の心臓を串刺しにする。誰が見ても致命傷であろう。
 那由他の槍を伝うのは宵闇の月明かりに照らされた、アガットの赤い血筋。
 フィクサードの後衛が回復役を狙って長距離の閃光を放つ。穿たれる傷口は富江とアリステアのもの。
「アタシ達が回復する限り、みんなが倒れることも無いっ! って事はアタシらさえ倒れなきゃなんとでるってことさねっ」
 その通り。彼女たちがいるお陰で本来であれば簡単に運命を消費していたであろう攻撃も治っていくのだ。速度違うアリステアと富江の回復は、傷を追う度に挟み込まれ致命傷足り得ない。

 しかし、それは敵とて同じことであった。拮抗勝負が続く中、時間だけが過ぎ去っていく。
「待たせたな、アーク!」
 声が響いたと思うと、一斉に飛び出してきたヤード職員がキマイラを取り囲むように布陣した。
 天秤の針が大きくリベリスタへと傾いていく。
「ギャハハ、団長どうする? ちょっとヤバげー?」
「目的は果たしたからな。面倒だから退くぞ」
 劣勢と悟ったのか。地面にあった土管にするりと潜り込んだフィクサードはそのまま逃亡を図った。

 青がブラック・ブルーの瞳で見据えた視線の先にジャックフロストのパウダー・パープルの飴玉の様な目があった。彼は鮮やかなステップで間合いを詰めて、飴玉の中に自分の姿を映し込む。
 植え付ける死の宣告はミスティック・パープルの夜空に浮かぶ月の如く綺麗で美しい。
「メリークリスマス……」
 ぽつりと呟いた言葉と共にジャックフロストは粉雪になって空に舞った。




■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。いかがだったでしょうか。
きちんとキマイラの対処をされており良かったと思います。
ただ、作戦の方向性は良かったのですが、戦力分散による苦戦が見られました。