●役者はスポットライトを浴びる ロンドンの地下鉄、そこから直通する大きなショッピングモール。日々観光客だけでなく地元の人間で賑わうそこに、数人の男が日が傾き始めたカフェで座っていた。しかし仲のいい友人で集まっている、という様子ではなく。申し訳程度に頼んでいたコーヒーもすっかり冷め切っていた。 彼らは『ヤード』の構成員であり、現在は作戦の下準備をしている。 その理由は、さきの改造キマイラの出現を境に頻発する一連の事件。それはリベリスタや支援者だけでなく、当初防戦と様子見を決めていた『ヤード』すら重い腰をあげさせることになった。目的は敵の末端を掴み、糸を引いているであろう倫敦派を補足すること。宿敵二者は危険な駆け引きを続ける関係にあったが、それに終わりを告げようというのだ。 彼らはその決め手となりうる戦力として来るアークの面々の為に、人の出入りの多いここで情報収集をしていた。 だがその必要はすぐに無くなった。彼らの前に置かれたコーヒーが小刻みに揺れる。同時に地鳴りのような音を立てて何かが破られる音、人々の悲鳴、破壊音。何事かと彼らが身構え、喫茶店の外に飛び出すと、ショッピングモールの屋根に巨大な穴があいていた。 巨大な穴から差し込む光の下には、乗用車以上のサイズがある異形の怪物。四肢がカマキリの刃のような構造を取り、胴体はジャガーのように引き絞り、内臓が存在しないように腹部がへこんでいる。 顔のような場所は様々な動物をつぎはぎにして、無理やり人間に近づけたような形をしており、髪のある場所にはへその緒のような触手が無数に生えている。キマイラだ。 彼らがそのグロテスクなキマイラに驚愕する間に、キマイラは周囲でパニック状態になる人間をまるでテーブルの埃を手ではらうような仕草で切り裂く。ショッピングモールの床に、壁に血が飛び散り、穏やかな時間は一瞬にして地獄と化した。 彼らの一人の頬に飛び散った血がかかる。それを契機に冷静さを取り戻し、瞬時に彼らは身構え、拳銃とナイフを構える。 そしてキマイラの背から自前のリムジンから降りるように優雅に、五つの影が飛び降りたのだった。 ●遅れられぬ主役 「緊急事態です」 とオペレーターが資料を配布しながらリベリスタ達に言った。リベリスタ達はアーク上層部と『ヤード』が提携した協力のためにロンドンに向う途中のことであった。 「現在、ロンドン市内の複数個所で『倫敦の蜘蛛の巣』達が一斉攻撃を行っています。その目的は『ヤード』の戦力をひきつけてその本部を攻撃することと思われます。こちらとの連携が発動する前に機先を制した形です」 資料にはロンドンの地図が添付されており、複数のポイントに真っ赤なマーカーが記されている。 「皆さんにはロンドン市内にある巨大ショッピングモール内で発生している戦闘への増援に向っていただきます」 次のページを、と促されめくると、ショッピングモールの詳細な地図と、現在戦闘が発生しているエリアにマーカーがつけられている。 「敵はフィクサード5名とキマイラ。味方は『ヤード』の構成員が8名、しかし如何せんキマイラのパワーに押されて劣勢を強いられています。あなた方が到着するまで敵を足止めするのがやっとでしょう。あなた方に戦闘を託した後は、相手の逃走経路の封鎖、及び一般人の保護と避難を手伝う手はずになっています。要するに、後ろの心配はするな、ということですね」 オペレーターは淡々と続ける、けれどその表情はとても苦々しいものだ。 「敵の能力詳細は不明です。しかしデュランダルの技能を持つ者を中心に、ホーリーメイガスの中級能力を使う指揮官。そしてキマイラですが……強力な範囲攻撃と、対象の生命力を奪う攻撃、を使います」 資料には確認された限り、頭部のへその緒のような触手で対象をむさぼり食うことにより損傷を治したと書かれている。既に犠牲者は少なからず出ているようだ。オペレーターは言葉が詰まった後、失礼しましたと続ける。 「一筋縄ではいかない相手です。これ以上の犠牲を出さないために、ひいてはロンドンを地獄に変えないために、皆さん、よろしくお願いします」 オペレーターの彼女は、そう言って深々と頭を下げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:春野為哉 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月18日(水)22:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●石畳に踊る 夕闇に傾きつつあるロンドンの街。遠くから悲鳴に似た大気の響きがリベリスタ達の神経を逆なでしていた。今まさに、地獄への階段をこの街は滑り降り始めている。 「ろーんどんばっし、おちたーおっちったーおっちったー」 『さいきょー(略)さぽーたー』テテロ・ミーノ(BNE000011)の歌声が街中を、疾走しながら響いていく。ピンク色のツインテールを揺らしながら、現場に到着するまでの僅かな時間でも、彼女の五感は無数の情報を捕えていた。 「鉄の棒でかけろ、かけろ、かけろ。落ちる前にワタシたちがかけないといけないね」 『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)が優しく微笑みながら歌を返す。災害で何度も落ちるロンドン橋も、今回ばかりは落とすわけには行かない。彼の言葉にテテロが、笑顔のまま頷き返す。 「ロンドン橋、あたしも小さい頃一回だけ来たことがあったっけな。二度目はこんな事のために来るなんざ思ってなかったけど」 「そうなんだ、あたしは外国なんて初めてだよー。観光じゃないのは残念だけど。笑ってまた来られるようにがんばるよ! えっと、プレインフェザーさん」 「プレインでいいよ」 『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)が二人の歌を聞きながらそんなことをぼやくと、五十川・夜桜(BNE004729)が笑顔でそう言って見せてから、今度は首を傾げる。そんな夜桜を見て、自分の名前は自由に呼んでくれとプレインは付け加える。嫌な思い出を残すのは真っ平だからあたしも頑張るよ、と。 「それにしても、向こうは派手に手際よく、スマートではないけどやってくれたものだね」 「スマートじゃないついでに、カマキリの交尾よろしくフィクサードを食ってくれればいいんだけどね。手間が省けるし」 『赫刃の道化師』春日部・宗二郎(BNE004462)が自分の着用している道化を模した仮面を指先でなぞりながら、ため息をつくように言う。『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)も肩をすくめてそうだったらいいのにな、と空を見る。空は夕方でありながらいやに暗く感じられ、今にも伸びた影が笑いそうであった。 「よし、見えた。まだヤードの連中も、敵も誰一人欠けていないようだ。このまま最短ルートで地上を行くべきだな。少し先の角を曲がれば、後は一直線――しかし敵は多少手傷こそ負っているが遊んでいるな、気を引き締めていくぞ」 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)が千里眼と、更にエネミースキャンを使い戦場を観察する。敵はヤードの必死の攻勢をあしらい、手傷を負えば指揮官の女が回復し、お返しとばかりにキマイラに殴らせる。いたぶっているのだ、自分達が、更なる戦力が外部に集まるように。 「生きてるならよし! こうなったのは俺らの責任もあるんだ。今度こそキマイラごとまとめて叩き潰す!」 『スーパーマグメイガス』ラヴィアン・リファール(BNE002787)が掌にこぶしを打ちつけ、小気味よい音を立てながら吼える。彼女の言葉に、それぞれリベリスタ達が頷く。 目的地まであとわずか。各々準備を行い、初動を確実に決めにいく。誰が言うでもなく、リベリスタ達は現場のショッピングモールへと踊り出した。 ●聴衆は居らず 「ほらほら、もっと頑張らないと死ぬよ」 カソックの女がキマイラを撫でながらそんなことをのんきな口調で述べる。血まみれのヤードたちはその姿を憎憎しげに見つめ、銃口を向けるがそれよりも早く、スーツの男達の剣が振るわれてナイフで受け流すのがやっとである。もうどれほど戦っていたのか、ヤード達の外套は血でじっとりと重くなっていた。 覚悟を決めねば、とチームの指揮をしていたトムは感覚のなくなった指先でナイフを握り締める。トムが踏み込もうとしたその時、空気が一変する。強力な結界だけではない、更に高位の術と合わせて二重に使われたと瞬時に察する。それを感じたのは彼らだけでなく、倫敦派のフィクサードたちも口元に獰猛な笑みを浮かべた。 「騎兵隊のお出ましだ! 次は俺たちと遊ぼうぜスパイダーズ!」 視界内に入った次の瞬間に、影継の巨大な剣斧が振るわれる。体から湯気が噴出すほどの、掛け値なしの全力の一撃が前衛のフィクサードの一人を捉える。辛うじて剣で受け止めるが、石畳を割るほどの衝撃に、内臓が耐え切れず吐血する。 「君たちは」 「遅くなって悪かったわね、手伝いに来たわ。今特殊空間を作って一般人は外に出したから。後ろにさがって体力を温存してね」 「すまない、助かる」 セレアの言葉にトムが頷き、甲高い音の口笛を吹き、短くハンドサインを出すとヤードたちが一気に後退する。一糸乱れぬ統率と互いを庇う布陣は、彼らがここまで戦うことが出来た理由の大きな要因だろう。 「いいのよっ、こまったときはおたがいさまなの!」 同じく前衛に躍り出ながら、ミーノが聖なる力を息吹として召喚すると、ヤード達の傷が一気に塞がっていく。これなら多少の攻撃をされても問題はないと一安心しながら、その回復力に驚くヤード達にミーノが得意げな表情をする。 更に同じく前衛に布陣した宗二郎が敵をブロックしながら多数を巻き込む闇を放ち、不運を呼び込む一撃を見舞う。夜桜も同様に布陣し、立ち位置を見極めながら集中する。 プレインとセッツァーは後衛に布陣し、それぞれ気糸と魔炎を放ちながら全体を確認する。鮮やかな布陣はフィクサードとヤードの間に瞬時に壁を作り、簡単に到達を許さない。 「想像以上にできるようだね、あんた達。それでこそ遊び甲斐があるってもんだよ。お前達、加減はいいからやりな」 カソックの女が指示を出すと同時、男達が一斉に各々の肉体のリミットを外す。やはり、本来の力を出さずにいたのだ。更に女がテテロと同じ聖なる息吹を召喚し、傷と負担を一気に帳消しにする。 それにあわせて前衛に出たリベリスタ達を巻き込もうとキマイラが巨大な鎌を振りかぶり石畳をバターのように切り裂きながら振りぬく、しかし。 「来いよキマイラ! あんたの相手は私だ!」 待ってましたと前衛に布陣したラヴィアンが不敵な笑みを浮かべながら吼えると同時、彼女の全身を覆う魔力の盾が派手な音を立てる。完全物理攻撃無効の盾が、彼女の薄皮一枚剥くことすら許さず鎌を弾く。鎌の軌道を乱されると、余裕をもって他のリベリスタ達も回避する。 そう、ここまでは作戦通りなのだ。敵の動向やランクの偽装、味方の流れも全て。あとは実力でどこまで組み立てた戦術を運用できるか。簡単にはいかないが、できないわけではない。 ●夕暮れの中響く 「お前達、アレを使いな」 「テテロ、後退しろ!」 女の指示で男達が一斉に獲物の長剣を振り回し、烈風を巻き起こす。影継の言葉と同時に、一人の攻撃が放たれる。体を麻痺させるほどの衝撃を受けながら、辛うじて後衛に布陣するテテロを見ながら影継は一息つき、フィクサードに見せ付けるように破壊の神の如き気を纏ってみせる。こうなった彼には最早小手先の状態異常など効きはしない。 それでも女の指示は正確である。前衛に出ている指揮官を迂闊に攻撃せず、自分の前衛の行動を阻害する者達への対策に、次々と烈風を巻き起こさせる。それは物理攻撃を無効化するラヴィアンへダメージを蓄積、更にはブレイクさせるためでもあった。 「いてぇな! けど全然遠いぜ俺を倒すには。ほらかかってこいよ欠陥品!」 キマイラが悲鳴のような音を立てて吼え、大鎌でなぎ払う。再び派手な音を立てて、ラヴィアンが受け止める。と同時に女が舌打ちをしたのをテテロは見逃さない。 「ワタシの回復はあくまでレディミーノの補助レベル。あまり期待しないでくれたまえ」 セッツァーが歌い、仲間の傷を癒す。視線の先には鎌と烈風で手傷を負った夜桜の姿。運よく麻痺状態にはなっていないが傷は浅くない。視線に気付いたのか夜桜は一度セッツァーに笑ってみせる。 そして剣を振り上げ、深く傷を負っている男の一人を袈裟懸けに一閃。男が耐え切れず吹き飛び、剣が砕け散った。数に劣るフィクサード達の貴重な前衛が一人崩れ落ちた。 「一人目、だよ!」 「俺も負けていられないようだ」 宗二郎の大鎌が疾風の如く振りぬかれる。男の一人がふざけろ、と叫びながら鎌を受け止めるが、出血は免れない。素早く構えなおしながら、宗二郎が姿勢を低くする。 「ふざけては居ないな」 「そうそう、ふざけていたのはソッチじゃないかしら?」 彼の影に隠れて居たセレアが拡散する稲妻を碧色の本から放つ。敵全体を蛇の群れのように駆け抜け、辺りのショウウィンドウまで余波で割れてしまう。やりすぎたかな、というセレアの顔に男は感電しながら睨みつける。 「しっかし実物は本当に悪趣味だなぁ、アレ。夢に出てきそう」 感電でまた吼えるキマイラに眉をひそめながら、ガス欠になっているヤードたちをちらりと見て少し早いけど、とプレインが意識を同調させエネルギーを回復していく。これで少なからずやれるはずと視線を戻し、視線の先には唯一後衛に陣取っているカソックの女。味方が一人やられてもまるで気にしないような表情を見せているが何を考えているのか、判断がつかない。その時、女の唇が動く。 「あれと、あれと、あれから殺せ」 と、プレインの目が見開く。男達の視線が一斉に夜桜に向く。加速した思考がまずい、と叫ぶより早く察した。 女が回復ではなく、攻撃に移った。神聖なる裁きの光、高位の神聖術師のみが使える一撃はリベリスタもヤードもあまねく穿ち、ラヴィアンの防壁も打ち砕いた。 奴らは方針を変えた。勝つための戦闘はこの状況では不可能。ならばこの状態で、一人でも多く持って行く捨て身の方針。そのために前衛への集中した範囲攻撃で、後退を捨てたときの攻撃対象の選別もして居たのだ。 テテロの召喚した息吹が夜桜の傷を埋める、影継の全力の一撃が男の一人を捉える。大きく出血するが倒しきれない。ブロックしていようと、男達は構わずその疾風と化した居合いを放つ。 夜桜が防ぐ、防ぎきれず切り裂かれる。体勢を崩したところに彼女の心臓をめがけて致命的な一撃が叩き込まれる。派手な出血、力が抜け、仰向けにゆっくりと夜桜が傾いていく。 「ま、だ。だよ……!」 口からあふれ出そうになる血を噛み、飲み込みながら夜桜が踏ん張る。 「人を不幸にして喜ぶようなのに、負けないよ!」 そして吼える。自分を支えるための一声。まっすぐな瞳に、彼女の底力にリベリスタ達の闘志が燃え上がる。 「さあゆこう! 我々が奏でるは勝利の歌のみ!」 その闘志を更に燃えあがらせるためにセッツァーの歌声がショッピングモール中に響く。補助程度などとんでもない、彼もまたこの巨大な舞台で演ずる重要な役者の一人なのだ。背筋が震えるほどの歌声に傷は塞がり、武器を取る手に力が入る。 舞台は佳境へと差し掛かっていた。 ●役者達の足音 戦闘は加速する。当初は長期戦を予想していたが、これを契機に一気に加速した。リベリスタたちが優位を維持できたのはラヴィアンが徹底的に障壁を展開し、徹底的にキマイラのみを攻撃し続け、キマイラの集中攻撃を受け止めることで敵の火力を十全に発揮しきれなくした部分が大きい。更に戦線復帰可能になったヤードたちを後衛に配置し、丁重に防御しながら援護のみに徹させたところも、数的優位を大きくした。 カソックの女は回復を捨て、裁きの光を何度も放つ。男達の半数は前衛に烈風を叩きつけ、半数は持ち直したとはいえ傷の深い夜桜と、更に宗次郎の錬度が低いと見て確実に居合いで傷をつけるが、ダメージが追いつかない。後一撃の直撃が与えられず、次々と傷を埋められる。そして一人、また一人と倒れていく。 頼りのキマイラも攻撃こそ引き受けるものの、ラヴィアンに注意を引かれる上に、ヤード達の射撃をひたすら受け続け、傷を負っていく。 「だいじょうぶ! いいちょーしだよ!」 額に汗を浮かべ、肩で息をしながらテテロが息吹を召喚する。彼女が機能不全に陥らず、後衛で固く守られながら味方を支え続けたのは非常に大きい。 「はいよ、あと一押し一気に行くよ」 プレインの気糸が敵の脚を鈍らせる。彼女のEP回復支援とを含めて彼女の細心の注意をはらった行動は的確に戦況に食い込んでいたといえる。 「何か言い残すことはあるか」 前衛が壊滅し、キマイラと女の二人だけになる。そして鎌を構えた宗二郎の言葉に、女が不敵な笑みを浮かべる。 「もっとお喋りでもして時間を稼ぐべきだったよ」 「そうか、なら悪いが」 喋るつもりは無い、の言葉と同時に宗二郎の放った闇に打ち抜かれ。女は倒れ伏す。残った哀れな怪物は指揮官を失い、悲鳴とも激怒ともとれない絶叫を上げる。 「ほんと、馬鹿カマキリね」 今回の影の立役者、セレアが嘆息をもらしながら四重奏を響かせる。彼女の陣地作成が無ければ作戦の根幹が変わっていただろう。出血し、毒に侵され、キマイラがもがき苦しみ、暴れまわる。 「いい加減に、往生しろこの雑魚!」 ラヴィアンが濁流のような黒鎖を放ち、キマイラを締め上げる。散々攻撃を受け、挑発し、額から血を流しても彼女の攻撃的な笑みは消えていない。 「終わりだ」 徹頭徹尾、全力でその刃を振りぬき、最前列で叩き続けてきた影継の今日幾度目かもわからぬ渾身の一撃が、キマイラの頭を割った。 四肢から力が抜け、地面に崩れ落ちたキマイラは悪臭を放ちながら煙を上げて崩壊していく。後には焼けついたような痕が地面に残るだけで、骨すらも残らない。勝ったのだ、この場は。 一瞬の沈黙の後に、リベリスタ達を含めて全員が大きく息を吐く。そしてトムが帽子を脱ぎ、深く頭を下げる。 「本当に、助かった。君達が居なければ私達は今頃」 「お礼は」 と夜桜が言葉を遮る。 「お礼は後でいいよ、今はみんな戦ってるからね。全部終わってから、まとめていっぱい受け取るから気にしないで」 彼女の笑顔に、トムだけでなくほかのヤード達の口元がほころぶのが見て取れた。 「そうだな、私達はまだやることが山積みだ。終わったら、ゆっくり観光してくれ。ここはいい街だ」 帽子をかぶりなおし、トムが姿勢を正すとメンバー全員が背筋を正し、深々と一礼する。そして顔を上げると彼らは次の現場へと駆け出していった。 リベリスタ達も互いを見やり、頷く。自分達もまだこの街のために出来ることはあるはずだ、と。痛む傷などどこ吹く風。風が吹くならこの街を覆ってしまおうとする霧を吹き飛ばせ。そうして彼らもまた、闇夜に沈みつつある霧の街を駆けていくのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|