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<恐怖神話・現>ク・リトル・リトルの落とし子


 ほら来る、一歩ずつ来る、恐怖が来る。
 月明りが恐怖に脅えて、雲に隠れた。星も破滅に向けて、輝くのを止めた。
 光は無い、闇しか無い。
 其が目覚めたのだ。
 気まぐれな揺り籠が連れて来た。笑いながら連れて来た。絶望を連れて来た。
 もう助からない。もう希望は無い。
 無知なる人を壊しに来た。無知なる人を喰いに来た。愚かな世界を荒しに来た。
 其は感じ取れない。
 其は視る事が出来ない。
 其は触れない。
 其は聞こえない。
 姿形は脳が隠す。声も足音も本能が隠す。其の存在に六つ目の感覚が脅える。
 暗雲を従え、歌声は響く。世界の果てから歌声が響く。

 認識してしまった。
 『未来日記』牧野 杏理(nBNE000211)は認識してしまった。
 背に広がる不気味な気配を―――――――。


 欧州を発端に、奇妙なアザーバイドが動き始めている。其れ等は残念にも最悪にも、此の日本全国津々浦々をターゲットとした様だ。
 つまりは、日本でアザーバイド事件がこれから多発する。
 其れは今までのフィクサードやアザーバイド、エリューションの比では無いだろう。覚悟して欲しい。
 此の事件に関わりがあるとして上げられるのは、つい先日あったオルクス・パラストからの依頼で遭遇した『ラトニャ・ル・テップ』という愛らしい少女の存在だ。彼女は異世界の神、つまりはミラーミスで在ると言う。其れが本当か、彼女が何なのか本質的部分は未だ真実に辿り着けてはいないが、其の考察が嘘とも取れない。
 シトリィン曰く、彼女は歪夜十三使徒第四位『The Terror』である事は間違い無いという。シトリィン本人も、ラトニャより数十年前に何かしらの悪夢を見せられているのだろう。
 ともあれ、ラトニャがミラーミスであるのなら、其の世界の生物が此の世界に侵略を開始してきたのは考えられる。調査依頼の結果からして、ラトニャがアークに強い関心を持っているのは拭いきれない事実であろう。
 彼女の目的は未だ知れないが、此処で更なる悪い報告が一つ。
 万華鏡の探査が遅れているのだ。
 何故なら、あまりにも敵の侵略が急であったからだ。かと言ってまだ間に合わない訳では無い。何か良くない事が起きる前に、全力で此の案件に対応して頂きたい。

「……という訳で」
「杏理?」
 杏理の姿がおかしい。目の白目部位が異常な程に真っ赤なのである。
「何があった?」
「いえ、只……認識しただけで此の有様です。申し訳ありませんが、杏理をこんな風にしたアザーバイドの対応を皆様にお願いしたいのです」
 件の事件の中には危険な敵も居るであろうが、本件の敵は其の中でも単体で強敵。
「ク・リトル・リトルの落とし子。巨大な、なんなのでしょう……魚の様な鱗を持った巨大な生物」
 二本足に、日本の腕。背には翼の様な形状のもの。そんな感じ。
 超大まかな説明によく解らないという顔をされたが、其れ以上言える事が無いのだという。
「あれは認識ができない。皆さんなら、認識しにくいと言った方が良いですね。
 脳が処理しきれなくて、本能的に回避してしまうのです。
 なので、時折視えなかったり、気配を感じなかったり、何も聞こえない事があるのでしょうが目の前に敵は居ます、お気をつけて」
 其れは強い意思さえあればなんとでも成るのだろうが。
「認識すると、杏理みたいになります」
 眼から出血、鼻から出血、極度の頭痛。
 それでも戦えというのは、なんとも酷い話なのだが。やるしか無い。
「だから、もしかしたら貴方の隣のリベリスタが突然敵を認識しなくて頼れなくなる事はあるかもしれません。最悪、信じられるのは自分だけになるかもしれません」
 それでも、行ってみるなら話をしよう。

「落とし子は、詳細不明の魔術書が連れて来ました。其の魔術書は……恐らくラトニャの世界のアザーバイドが置いたのか流したのか知れませんが。
 魔術書の1ページは、鎖に繋がれた認識できない其れを召喚してきました」
 未だ魔術書とは繋がったまま、沖縄の海から市街地の方へ巨大な子は動き出している。
 運良く時刻は夜中なので周囲に一般人はいない。だが市街地なら居るだろう。其処へ行かせる前に、子を倒すか、魔術書の中に押し戻すのが今回の依頼だ。
 最悪、突破させた場合何が起こるか解ったものでは無い。
「魔術書には対魔術の耐性がある。つまり神秘的攻撃を受け付けない能力を持っています。其れは鎖に繋がれている限り、子にも影響します」
 だが、鎖が無いなら無いで、子の移動する速さが高くなるのも事実。

 子は先にも説明があったが、単体にして強力だ。
 その図体のでかさから、足を止めさせる事は不可能だろう。押し返すにもかなりの力が必要と成る。
「攻撃ひとつひとつも威力がでかい。加えて特殊効果がついたものも多いので、十分に気を付けて欲しいのです」
 付け加えて、子が動けなくなった場合に背中に寄生しているという触手が子を護る様にして動いてくる。其れも十分に考慮して欲しい。
「魔術書に関してですが、此れは現在全てが不明です。解析する前に、解析するもの全てが機器異常を起こしました。皆さんには深淵ヲ覗クや、魔術知識という便利なものをお持ちの方がいらっしゃるでしょうが、やめておいた方がいいかもしれませんね……此れは、杏理のただの勘ですが……ね。
 それでは皆さん、お気をつけて。まだ、被害が出ていない今だからこそ皆さんが希望に成る事が必要なのです。宜しくお願い致します」
 杏理は深々と、頭を下げた。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:夕影  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ EXタイプ
■参加人数制限: 10人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2014年05月25日(日)23:23
 また沖縄か、夕影よ
 仲間を信じるか、自分だけを信じるか 恐怖に屈するか、それとも立ち向かうか
 伸びる影は巨大ですよ

 以下詳細

●成功条件:アザーバイドの討伐、または魔術書に押し返す
●失敗条件:敵の突破を許す

●アザーバイド:ク・リトル・リトルの落とし子
・上位世界の割とマズイ方の何かです、単体でめちゃんこでかくて強いです
 魔術書から召喚されており、魔術書のページから鎖のようなもので繋がっております
・名前が長いので、プレでは『子』とだけ書いて頂ければと思います
・飛行はしません

・でかいので、狙える部位が分けられます。部位狙い補正はありません
 近接で攻撃する場合は、その部位までたどり着く必要もありますし落される事もあります

 頭:防御力少なめ、此処を攻撃してきたPCを優先して倒そうとします
 胴体:防御超高め、回避は少なめ
 足:損傷の度合いで一回に前進する距離が短くなります
 鎖:魔術書と繋がっている部位です。切り離せば魔術書の効果が得られなくなりますが、相応に耐久性がある為時間はかかるでしょう。また繋がりが消えた場合、歩く速度が早くなります

 以下の敵の能力に注意して下さい

*1ターン、二回行動
 一回目は速度の順に従い、二回目の行動は必ずPCの最後に動きます

*ブロックは無効です、またノックBには150%以上ヒットが必要です

*WP判定(意思の力)が成功しなければ、敵を認識できません
・WP判定に失敗した場合は、脳が本能的に認識したらマズイと解釈し、生存本能が警鐘を鳴らす為に、敵から逃れようと動きます(其のターン行動不能、強制後退)
・此の判定には『鉄心』、『魔術知識Ⅱ』、『幻想殺し』がある場合はWP判定の数値が有利に傾きます
・WP判定に成功した場合は、敵を認識してしまう為にWP判定成功直後にBS失血が発生し、直後に其のダメージが入ります

 攻撃方法は以下です
・黒の招雷(神遠2単BS呪い感電)
・レドの歌声(神遠範BSショック流血呪殺)
・ダイダルウェイブ(物遠域ノックバックBS凍結)
・セイクレッド哀歌(神遠全他付、神攻プラス補正、HPEP回復スキル使用不可化)
・ぐっちゃんぐっちゃん(物近単ダメ極大必殺、戦闘不能者が受ければ死亡判定発生)←敵の視界内に関係無く攻撃を行ってきます

●落とし子の触手×5
・タコのような、イカのような触手で落とし子に寄生しております
 落とし子がBS麻痺や呪縛等の行動が不能に成るバッドステータスを受けている間のみ、出現します
 触手だからってえろいことにはな……なるかもしれない!!
 超変幻自在に動くので以下の能力を持っております

・庇う耐性(PCが庇うを行っていた場合、庇われている対象も攻撃を受けます)

・切り裂く鞭(物遠複BS出血致命)
・薙ぎ払う鞭(物近範 ノックB)
・投げちゃう鞭(物遠単 100%ヒットで沖の方に放り投げられます)

●魔術書:名称不明
・出所不明、名前不明、著者不明
 中身を理解しようとすると酷い事が起きます

*魔術書と繋がっている場合、全ての敵が『神秘無効』の補正が無条件で着きます

●沖縄県那覇
・開けたビーチ、時刻は夜
 足場が砂地で緩く、非常に暗いです
 海辺では更に足場が悪く、沖に行くに連れてペナルティ補正が高いです
 全て非戦によって打破可能です、アイテムでもまあまあ

●重要な備考
 このシナリオの結果により崩界度が1~3点上昇する可能性があります。
 またエリア毎の失敗数によっては不測の事態が発生する可能性があります。

●Danger!
 このシナリオはフェイト残量によらない死亡判定の可能性があります。
 予め御了承下さい。

目から血でも流しながら戦いましょう
それでは宜しくお願いします
参加NPC
 


■メイン参加者 10人■
★MVP
アウトサイドデュランダル
鬼蔭 虎鐵(BNE000034)
アークエンジェホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
ハイジーニアスインヤンマスター
四条・理央(BNE000319)
アウトサイドクロスイージス
春津見・小梢(BNE000805)
ナイトバロン覇界闘士
設楽 悠里(BNE001610)
アウトサイドスターサジタリー
雑賀 木蓮(BNE002229)
ノワールオルールクロスイージス
ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)
ジーニアス覇界闘士
ミリー・ゴールド(BNE003737)
ジーニアススターサジタリー
靖邦・Z・翔護(BNE003820)
ハイジーニアスソードミラージュ
桜庭 劫(BNE004636)


 其の場所には何かが物足りなかった。
 何時もの海、何時もの砂浜。何時もの夜で、月明りと星々を隠す雲。
 異常なのは、海の上に魔術書が浮遊している事だけであろう。
 魔術書は何か鎖を吐き出しており、だが……其の鎖の先を辿っていくと不思議と何も見えない。空間が一部削り取られている様な、其処には何も無いと思い込まされている様な。
「見えない……」
 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は何回か瞬きを繰り返して、深淵を感じ取ろうとするのだが矢張り何も視えない。
 だが彼の隣で『ANZUD』来栖・小夜香(BNE000038)と四条・理央(BNE000319)が両手で顔を抑えた。其の、指の間から伝ったのは赤い――血。
 そうか、悠里は飲み込まれたのだ。感じ取れない恐怖とやらに。
 視えない何かから攻撃は勿論飛んでくるだろう、だが前か、後ろか横か上か、彼には其の判断を下す事は出来ない。
「成程な、中々に気持ちわりぃじゃねーの」
 『元・剣林』鬼蔭 虎鐵(BNE000034)こそ、見えない何かを視ているらしい。彼自身、カオスシードという名の混沌と共存する為かこういうものには慣れていた。
 ふと、耳に違和感を覚えた虎鐵は深化によって虎の耳となった其処に手を伸ばした。ドロリ、何かぬるっとした感触。手を見れば、微量の血が指先から手の平に伝っていく。
 嫌なものだ、獣の耳が血で固まるじゃあないか。
「やっばい、今時代に乗れていない」
 敵が見えない。
 つまり、流行りに乗れていない。
 『SHOGO』靖邦・Z・翔護(BNE003820)はちょっとした、そんな事に危機感を覚えてみたのだが、悠里同様何もいない。何もいないのだ。
 如何して皆、血を出しているのか。
 如何して誰しもが苦い表情をしているのか。
「そっか、見えないのね」
 一筋の流れた風に、少女の長い髪がふわりと揺れた。
 『ベビーマム』ミリー・ゴールド(BNE003737)は目と口から血を吐き出しながら、其れでも笑いながら上空を指差したのだ。
 ご覧よ、此の世の異様を。くそったれがくそったれを呼びやがったのだ。あれが――
「――見えないのね!」
 轟、と。流れた強い海風。
 刹那、悠里や翔護、『銀狼のオクルス』草臥 木蓮(BNE002229)と『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)の身体が、反射神経が働いたかのように、一斉に後ろへと下がった。
「あ、あれ? 俺様何やってんだ?!」
 木蓮の頭には、「?」の文字が無数に浮かび上がり、
「……如何やら、私達も取り込まれてしまったようですね。子の、恐怖に」
 尻もちをついたユーディスは、腰に着いた砂を振り落しながら震えている足の違和感に苛立ちを覚えた。
 人の感情や、どれだけ強い心があったとしても。子の恐怖は全てを凌駕して乗り込んでくる。怖くないと思っていても、手が武器を捨て。此れよりも怖いものを見て来たとしても、足が竦んで動けない。
「厄介ですねぇ……」
 『本気なんか出すもんじゃない』春津見・小梢(BNE000805)は口から血を吐き捨てながら言った。此れじゃあ、カレーも血の味が混じって美味しくない。どうしてくれよう。
 ずしんと一つ、風が起こった。砂煙を払いながら、『停滞者』桜庭 劫(BNE004636)は片目から血を流し、処刑人の剣を控えさせる。
「退場して、貰うぞ……」
 劫の目の前には、子の目があった。
 彼の上半身程にでかい直径の瞳で劫を物珍しく覗き込み、其の鼻息が絶えず劫の髪の毛を揺らす。
「――行きます!!」
「さて、始めよう」
 小夜香が天に手を伸ばし、出血により微量の体力が削れた仲間へ力を送る。理央は札を解き放ち、翼を仲間へと与える。
 そして赤い瞳に映った劫が剣を振り被ったのであった。


「此れは食えねえなぁ……」
 お伽噺の中のこういうものはオリーブオイルで食えるとかなんとか。だが木蓮の瞳に見えた其れは、如何にもこうにも食えそうに無い。
 標準を定め、……というかでかいので木蓮程の針穴通しであれば難なく当てられる。其れが直撃するかはさておき。
 暗視ゴーグルの中、血が溢れて涙の様に零れていく。痛みが集中力を削っていく。
 だが、鉄心を込めた木蓮の心はそれによって壊れる事は無い。
「ここで止めさせて貰うぜ!」
 轟音と共に解き放った弾丸が子の足を捕えた。
 一個。穴を開け、其処に繋がる様にして槍を突き刺すユーディス。弾丸を更に奥へ押し込むようにした其れに、確かな手応えを感じつつ、耳から流れ出た血が彼女の服を紅く染めていく。
 だがなんだ、此の子の身体は岩のそれかそれともコンクリか。硬いのだ、しかりと貫かなければユーディスの手首がイカれてしまう程に。
「これでも動きますか!」
 そして子はリベリスタ達を無視して突き進もうとしていた。蚊でも止まったかと思っている様に、リベリスタには興味を一切示さずに。
 其の移動距離は攻撃によって限られたのは幸いであるものの。
「行かせるかァ!!」
 劫が剣を遠心力に任せて振り回すのだが、次の瞬間目の前から子が消えた。空ぶった剣、右見て、左見て、二秒前まで居た敵が見えない。
「くっ、悪い、頼む!!」
 全身から嫌な汗が噴き出し、劫の足は自然と後ろへと下がっていく。
「オッケー、ミリーに任せるのだわ!」
 劫の肩をトンと叩き、炎と共に子の足へ向かうミリー。
 心が躍った、おっきくて、すごくおっきい敵! なんてすばらしい事なのでしょう、其れに神秘なんて無くても物理で通る。ミリー向きで、愉快愉快!
 ―――……とまで言っておきつつ、意外にもミリー。胴へ放ったのはゲヘナの火であった。正真正銘の神秘攻撃、しかし直撃できないそれは子を炎に包むことが叶わない。
「焼き魚失敗だわ!」
「ミリーちゃん、そう楽しんでられないよ!」
「あらまだわ!!」
 眼前、迫りくる荒波。
 悠里がミリーの手を引き、飛び上がり直撃を免れようとしたが、ミリーは波に飲み込まれて彼の手からすり抜けていく。
「こ、ン、のぉぉ!!」
 敵が起こした波を蹴り上げ、空中で氷柱と成った其れを幾重にも飛ばし胴を貫通させていく。其の勢いに押されてか、後方に倒れた子は巨大な波を巻き起こしながら海上に倒れたのだ。
 ピシリと海が凍った。
 凍った其処に縫い止められた子を、上から見下ろす跳躍中の悠里は口から血を吐き出した。
 一瞬だけぶれた悠里の視界の中、触手が一斉に飛び出してきたのは確認が出来た。そういえば、敵は動けなくなると防衛本能のような機能が働く事を。
 伸びた其れは小夜香と、今は動けないでいる木蓮を掴んで海へと投げ飛ばす。翼により抵抗を試みてみるが、ほんの数mだけ着地点がブレる程度のもので終わる。
 残りの三本は虎鐵と悠里の胴を貫き、ユーディスをなぎ飛ばし、小梢は鋼鉄の身体過ぎて切り傷しか着かなかった。
「ん? なんか今通った?」
 小梢は今、子が見えていない状況だ。まるで鎌鼬にあったように切れた腕を見ながら、まあいいかと顔を斜めに向けたのであった。
 ――ドクン。
 と鼓動が打たれたような感覚を覚えた虎鐵。存在感を示すようにして、彼が持っているカオスシードが――熱い?
「へっ……テメェの狂気も偶には役に立つじゃねぇか」
 カオスシードによって、こんな小さな狂気なんてちっとも虎鐵の精神に傷を残さないのだ。
 斬魔・獅子護兼久を軽々振り上げ、子の右足、丁度膝の部分を輪切りにした。流れ出した子の血が、一瞬だけ其の場に赤い雨を巻き起こす。
 雨に撃たれた理央は、もうどれが自分の血なのか解らない程に全身を濡らしていく。
 常に正気を保ち続ける事、そうでなくては此の先ラトニャや其れ同格の存在と相対する事もできまい。倒れられなかったし、狂う事もできない。何より負ける事は許されない。
 理央は札を放ち、自分と似たもう一人を作り出した。指を刺し、子の後方を捕えるように指示を行う。
 こくんと頷いた影人は全力移動で子の方向へと走っていく。願わば、彼女が何か勝利への助けに成る事を思って。


 足が傷つき、一歩前へと出る力が弱まった子であった。しかし戦況はリベリスタが有利とは一言でさえ言えない状況だ。
 此の砂浜の何処かから、少女が歌っている様な美しくも愛らしい歌が聞こえてくるのだ。其れが小夜香の回復を妨害していた。
「ミリーが、やぁっちゃうよ! でもちょっと遠いわ!」
 投げ飛ばされている小夜香と、ブレイク持ちのミリーの距離は遠かった。二回ほど全力移動を行えば辿りつけられるのだが、そうしている暇も無い。
「大丈夫よ、ありがとう」
 小夜香はクロスを自分へと向ける。ブレイクシードが光っていた、此れを自分で自分を攻撃すれば付与は外れるはず。少し痛いだろうが、クロスを鈍器のようにして己を攻撃し、確かに付与は外れたのだが――
 その時には迫ってきていた。
「あぶな―――ッ」
 一緒に海上に飛ばされていた木蓮が言った、されども、遅かった。
 ぶおん、と撓った腕が小夜香を掴んで握り潰す。バキバキイと握り潰して、子の手の中から小夜香の大量の血が噴き出し、其の侭ゴミのように海上に投げた。
 塩水の世界に沈んでいく小夜香であったが、フェイトによって一命は取り留めた。だが周囲の塩水は傷には優しく無く、折れた骨や拉げた身体から激痛が走り今にもブラックアウトが発生しそうでもあった。
 だが六枚の翼を広げて、海上へと戻る。役目があるのだ。
「慈愛よ、あれ」
 両手を前に出し、乞う様に光を集めた小夜香。
 傷を癒し、護る事を誓いとする彼女が一番回復を必要としていたのは、小夜香にとって悔やまれる点だったかもしれないが。其の慈悲の力は仲間に守護を齎した。
 傷が逆再生のように治っていく劫の頬。
 小夜香が危ない今、此れをするしかない。剣を手に胴へと、混乱を植え付ける為に。
 回転しながら刃を腹部へと刺し込み、一気に横に引けば内臓のようなものが一緒に釣れて出て来た。ぐちゅっと切れた中身から血が飛び出し、返り血をいっぱいに浴びた劫だがお返しと言わんばかりに暴れた子の触手をまともに受けてしまった。
 子は直立で立って歩行している為、胴体を狙う場合は面接着さえ無ければ足場とする場所が無い。だからこそ、飛行をしていたという点で回避も何時も以上にままならない。絶影の名が廃れてしまうが、仕方なく。バウンドしながら海上にキスした劫の身体からフェイトが飛んだ。
 其の身体を受け止めたのは、翔護であった。
「タコの癖に二本足だとか、大阪の人泣くよね」
 足は海の中に浸かり、左手に劫を、トリガー部分に右手の指を入れて武器を回転させながら、素早く手の中にパニッツュを持つ。本当はパニッシュなのだが、パニッツュと書いてあるパニッシュを。
「あ、これ? ちょっと書き間違えちゃったんだよ。次からは英語で刻もうと思うワケ」
 元々翔護は木蓮とは対角の位置に居たのだが、今は木蓮がびゅんと飛ばされてきたので同じ位置に。
 唸るパニッツュ、混乱をしている敵に更なる置き土産だ。
「其の前に刻んでおこうかな、呪いという名のパニッシュを☆」
「手伝うぜ!」
 雄々しく、木蓮も弾丸に精神力を込めた。同時に右目から零れたのは涙にも似た、血。其れが口に入る前に口を閉じ、翔護のタイミングの良い銃声に合わせて撃ちだすのは、力。
「いっけええええええええええ!!」
 轟音、轟音轟音轟音。
 腹部を狙いし、其の攻撃により子の腹部の鱗がはじけ飛んだ。空中で何度も回転した其れは其の侭、砂浜の上に突き刺さり砂塵を舞い上げる。
「わ、ぷ」
 舞い上がった其れを手で避ける小梢。
 小夜香が……遠い。攻撃してもあまり期待はできないダメージであろうと踏んでいた小梢がやるべき事は小夜香の場所へ辿り着く事である。
 そして触手はあえて小梢を吹き飛ばさない。
 彼女が彼女を護っている事、何よりなかなかの防御により触手の攻撃も彼女の身体に傷を残せない事が一番の原因だ。
「めんどくさいやつ」
 再び嘆いた小梢は、心の底からカレーが食べたくなっていた。どうしたら早くカレーにありつけるか、だがそれにはやはり小夜香の場所へ辿り着く事が一番だ。
 砂浜に軌跡を残しながら、小梢は走る――願いを乞い、仲間を助ける彼女の下へ。
 だが、やはり、どうしても……ぷつんと混乱が溶けた子が冷静な判断で狙ったのは小夜香だ。風を切る音と共に、大津波が小夜香を飲みこもうとしてくる。
 身を屈め、衝撃に備えつつ新たな回復の詠唱を行う彼女は編成の要とも言えるだろう。
「させるか!!」
 悠里が氷柱を撃ちこみ、杭の様に敵を地面に縫い付けて其の身を封じる。其れに寄り出現した触手が、子の代わりを担って。
 虎鐵が子の腹を打ち抜き、ユーディスが槍で突く、木蓮が弾丸を敷き―――されど、触手という同じ場所に居る違うユニットの存在を、誰一人狙わなかったのは悪手であった。
 漸く追いついた小梢が背に小夜香を隠して身を挺すも、触手が小梢の身体のラインを傷つけながら小夜香ごと貫く。
 傷の着かない小梢が真っ赤に染まった理由とは、小夜香の血を背で受けたからだ。
「……っ」
 目を見開き、倒れるように前へと倒れていく小夜香。目を閉じ、嗚呼、此の侭海で流れてしまえば楽かもしれない。
 ―――が。
 一歩、踏みとどまった。
「……大丈夫、私は……まだ、まだ」
 小梢の背に体重を預けて、気力だけで持った。戦闘不能の数値零に陥る寸前で1だけ残した彼女の体力。
 だから。
「デウス!!!」
 小夜香は叫んだ、叫んで、護ってくれる貴女と貴女を囲む仲間の為に神を降ろす。
 眩い光を嫌がる様にして、子は目元を腕で影を作った。ギギギと無くよくわからない生物なんぞに負ける訳にはいかなくて、そう、負けられない、誰しもが、そうでしょう?
 だから此れは意地なのだ。例え目の前で既に触手が迫って来ていようとも。
「やめろ」
 劫の声。
 木蓮が其れを弾丸で弾こうとも、
「やめろよ」
 劫の声。
 小梢が触手を掴んで止めようとしても敵の攻撃は小夜香を貫くだろう。
「私は、逃げなかったわ」
 一回も。
 敵の恐怖に脅える事無く回復を続けた少女の――
「やめろ――――ッ!!」
 ――血濡れたクロスが海上で吹き飛んだ。
「て、めェ……ッ!!」
 ぷつんとキレた劫の、頭の中の何かの記憶。そういえば家族だったか友人だったか、壊されたのを酷く思い出した。
 只、日常が欲しいだけなのに。如何して神秘というやつはこうも。何故。どうして。
「全てを、奪っていくんだ……部外者がぁぁ!!」
 海上、普通水面なんか足場にできないのだが塩水が弾けて劫が跳躍した。切れかけの翼の加護を頼りに飛び、向かったのは子の背中。
 貫き、刃を奥へ奥へと突き刺すのは憤りか、身体の奥から迸る熱さが吼えるからか。突き刺した其れを横に引いて、傷を作り、即座に定位置に戻るソードエアリアル。
 敵に混乱を与えることさえ叶わなかったが、子の眼が怒りの眼で劫を視た。其れに対し、劫は子へと中指を突き立てる。
「貴女の代わりは、ボクが……!」
 浜辺に眩く光った、理央の光。それは呪いを打ち殺す破邪の光である。
 光を放てば子は嫌がった、その分リベリスタの傷を癒し、流れゆく血の涙を止めてみせた。
「さあ、此処から先に行きたければボク達を倒してみればいい……!!」
 昇る日が視えたとしても、子を倒すまでは此処に立ち続ける事を願って。


 子の前には、虎鐵、理央、悠里、ユーディス、ミリーが。後ろには劫、木蓮、翔護に小梢が位置していた。
 小夜香が倒れてしまった今、長期戦は叶わないだろう。編成を見ても火力が足りないとも多いとも言い切れないが、此方が倒れる前にやらねばならない。
 其の中でも特に火力を誇ったのが虎鐵である。
 胸の奥に暗黒性を埋めながらも、振るう刃の重みは。彼の此れまでの経験を物語っている様だ。
 動かぬ感情が、けして恐れを許さない。いくらそう思っていても、身体が勝手に下がる素振りを見せればイラつく度合が増していく。
「こんな所で……立ち止まってらねェんだよ」
 刃を持つ手に、更に力が籠る。
 彼が立つのは子の肩。此処まで来るのに少々ターンも使ったし、上ってくる敵を攻撃しない敵でも無かった為かそれなりに傷ついてしまったがなんのその。
 ジャガーノートが彼の身を護り、そして出血以外の呪いを一切許さない。
 今もだ、巡る触手が虎鐵の肩口や耳を吹き飛ばしたとしても彼の眉さえぴくりと動くことも無かった。
「其の首、いらねェが貰うぞ」
 囁くように言った言葉の直後、ゆらりと揺れた斬魔・獅子護兼久。
 右回りに一回転、其の間に服を千切り露出した筋肉が肥大し、デュランダル最高威力の其れを一の字に切った。だが、しかし―――。
 くぱっと開いた傷口の持ち主は触手で、忙しく其の一本が痛みに悶えて、其の侭動かなくなった。木蓮がもともと削っていた事もあり、虎鐵が子を庇った触手を殺すのは容易かったのだが。一番攻撃が通るべき相手に通らないのは悔しいもので。
 その下では鞭のように撓った触手にミリーと理央の身体が傷つき、フェイトが溢れる。
 やり返しの様にして、炎を腕に、否、全身に巻き付けたミリーが子の特攻した。輪切りにされた足を、セルフ火葬していくのにミリーの炎は役に立つ。
「其の儘、燃え尽きちゃえばいいわ!!」
 こんな時でも笑顔で、其の中に真面目さも兼ね備えた彼女の表情は次に来た触手が胴を貫いた為に歪む。
 血を吐き、それでも立たなければいけないのは酷かもしれない。だがミリーはそれでも再び笑顔を作った。狂ったかと思う様に笑い、声が漏れる。
 嬉しいのだろうか、自分より強い相手が目の前に居る事に。だから戦闘は激しくて、熱くて、相手が強いほど良い。
「でも負けないんだから」
 触手を抜いた、其の胴に触手大の穴が開いていた。此れを埋める手はいないものの、其処から血が溢れて、ミリーの足下は影では無く血溜まりが作られていくのだが。
「もっと、もっとよ!!」
 ――熱く成れ、我が炎よ。
 月明りの代わりになる程、彼女の炎は輝く。眼鏡に赤い光がチラつく理央は指示を出していた影人が小夜香の身体を遠くに持っていくのを見て、まず一安心。
 ……だが安心ばかりしてはいられない。気持ちを切り替えた理央は次には呪印封縛の印を張るのだが、今一子に対しては理央のBSは通りにくい。
 幾ら胴が回避が少ないとは言え、流石一強で十人が必要な敵は間違いなく強敵と言えるだろう。ならば攻撃を積み重ねて少しでもダメージを重ねて敵が倒れるのを狙うしか無く。
 されども、その攻撃も触手が吸い込むのだ。虎鐵が触手を撥ね退け、木蓮がハニーコムガトリングを敷く為、残りの触手は此処に来て残り三本ではあるのだが……リベリスタが先に倒れるか、触手が先に消えるか、まだ暗雲の先は見通す事ができない。
 ユーディスは考えた、ならばと触手から倒すべきでは無いかと。只、それは触手が出てきていたらの時の話ではあるのだが。此処までかなり触手がリベリスタにとって壁であったのは言うまでもないのだから。
 虎鐵が触手に吹き飛ばされ、継続されていた翼の加護が彼を空中で繋ぎ止めた。だが其処は回避がしにくい、二本目の触手が彼を叩けば、威力が倍に跳ね上がり彼の身体が斜めに切り裂かれたのだ。
 ハッとした理央が即座に呪いを打ち消す光を放ったのはまだ救いではあったが、虎鐵も虎鐵で体力が危うい状況だ。
「こっちですよ、貴方の相手は……私です」
 指を上向きに、子の精神力を奪ったユーディスはそのままラストクルセイドを放つ。虎鐵の様に移動に時間を盗られてしまったのは少し悪手か。だが、其れでもと槍を子の頭へと突き刺し骨を抉る。虎鐵が庇いの触手を此の十秒だけ退かしてくれたからこそ、通った攻撃だ。
槍の刃から中部までを飲み込ませて、此の子の硬さにはもう慣れた。だからこそか、最早怖い等と思う事も無く。いける――と力強く思えたこの気持ちが仲間にも伝われば良いと願い。
 突如鳴き出した子の叫び声が、耳に響く。既に血が長るる耳には此の上無くうざったい声であった。
「そのまま……倒れてしまいなさい」
 奥へ、奥へ。脳を貫けば子でさえ黙ってはいないだろう、撓った鞭の触手が横からユーディスの身体を貫き、血飛沫を下へと落とす。子の肩からは絶えず、ユーディスの血が流れていく。だが、攻撃がユーディスに向いているからこそ――
「今です!!」
 理央が叫んだ。一斉に、子の反対方向に居た木蓮は翔護、小梢。そして悠里と理央が子へと一斉に攻撃を放った。
 誰しもが全力を出して望んだ攻撃であった、やっと子へと届いた攻撃―――だから、こそだった。
「やったか!?」
 翔護は言う。だが、子の―――歌声が聞こえた。刹那。虎鐵の頭が弾けて、彼の身体が地面に落ちた。
 空中で弾けた脳髄やら血、其れらを真に受けた悠里の全身が友人の父親の血で侵食されていく。
 悠里の視点から見れば、空中でいきなり友人が弾けた様に見えていた。瞳孔が開き過ぎるまでに開示された瞳に、全身から嫌な汗が流れていく。
 悠里の周囲が暗転した。真っ暗な世界で、悠里の背後には影の悠里が立っており、こう話しかけてくるのだ。
『もう、逃げちゃったほうがいい』
 肩を叩かれ、顔は振り向かずに悠里の目線だけ後ろに行った。
『だって、勝てっこないじゃないか』
「それでも」
『孤児院を作るんだ、こんな場所で死ねないじゃないか。なあ、僕?』
「違う、そうじゃ、ない」
 僕は……僕は、僕は、僕は。
「しっかり!!」
 理央の声が響けば、悠里の闇の世界にヒビが入って壊れた。自分を殴った悠里、そして顔を左右に振ってから前を視た。
 ――見える、確かに敵が。
 忘れるな、戦う理由を、戦う相手を、守るべき者達を。拳を、握れ。心を奮わせろ。全てが遅れたら勝利への手掛かりが消える。
 此処が、境界線だ。
「うおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
 氷で縛るのは、精神力が無かった。されど、彼にはナイトバロンとしての牙がある。噛みついた敵の胴、味なんか覚えていなかった。けれど、鉄の臭いだけはこびり付いた。もはや血の臭いなんて嗅ぎ過ぎて慣れていたが。
 敵の鱗と皮ごと引き千切った悠里、大量の血が降りかかれば彼の金髪でさえ赤く染まった。叫び声に泣き声、だが、刹那、速度にものを言わせて飛んできた拳が悠里を轢いた。
 骨が軋む音を間近で聞きながら、悠里は砂浜の上をバウンドして赤い跡を残していく。
 だが攻撃はそれだけでは終わらなかった、勿論の事だが頭を狙っていたユーディスに問答無用で攻撃は飛んだ、空中で形勢された水の塊がユーディスを狙う。
 ただ、飛行の能力があった彼女は飛んでそれを回避せんとするが、しつこく追撃してくる水弾。右に曲がり左に曲がり、上に曲がったりと不規則な動きで敵の攻撃を撒こうとするが追いつかれ被弾。肩からは遠のいてしまった。
「いい加減に、しろ!! 止めさせて貰うぜ!!」
 いい加減に海に浸かっていた足が冷めて来た。そろそろ風邪を引いてしまうからもう本当にいい加減にしたい。
 木蓮のトリガーを引く指が何度も何度も何度も何度も。子を穿ち尽くして穿ち尽くして、穴を開けていく。流石の子もこれには堪らなかったか、叫び声を上げた。続く、翔護の攻撃も精密に木蓮の後を追う。
 されど刹那、轟音と共に飛んできたのは雷であり、其れが翔護の身体を射抜いてしまう。刹那、武器を手から離して倒れてしまった。
「……う!?」
 木蓮が上を見れば、子の拳が振り落される寸前。劫は動ける状態では無かった、木蓮も攻撃を終えたばかりですぐには行動ができない。
 だからこそか、
「後でカレーを奢らせよう」
 動いたのは小梢であった。彼女が海上で子の拳を受け止めれば、荒波が一つ発生した。
「よーいしょ」
 横へ、いなすようにして子の拳をかわした小梢。彼女の外見的には外傷は無かったのだが、恐らく骨は幾らかヒビが入ってしまったらしい。
 これじゃあカレーが上手に食えないじゃないかと愚痴を吐きながら後ろを見た。翔護が次、狙われないように沖へ、敵から離さなければならない。その為には手番が取られてしまうのだが、仲間が死ぬよりかはマシであろう。理央の影人も波に飲まれてしまえばすぐに消えてしまう。今此処で動けたのは小梢。一人なのだから。


 見上げた劫、己が息も荒く体力も少ない。血が、目からつぅ……と流れていく。敵の興味が如何やら逸れたらしい、子は沖縄に上陸し一歩一歩ゆっくり市街地へと向かい始めている。
 悠里が氷を撒けない今、頭部に誰も辿り着けておらずに敵を留められない今、敵の行動不能を誘うには劫の攻撃が一番であり、かつ木蓮の頭部狙いが要か。
「できるか?」
 木蓮が不安そうな声色でそう言う。
「問題無いさ」
 劫が返した言葉には何時でも勇気が籠っていた。
 ならばと、木蓮は迷わずにトリガーを引く。もし木蓮が頭部を当て、敵の攻撃を引き付けた場合狙われる。だが混乱でカバーしておけば木蓮の被弾が揺らぐかもしれないからだ。
「じゃあ、頑張れよ!! 俺様も、最後まで付き合うから」
「勿論だ、退場させるんだこんな奴……」
 何度も敵が見えずに阻まれたものの、これで丁度十回目のソードエアリアル。飛び込んだ劫は腕に力を込め、シャウト効果か怒鳴った。
「お前たちみたいな……!!」
 剣が胴、否、子の背に突き刺さった。其処から血がゆっくりと裂け目から漏れ出して――
「余所者が、足を踏み入れて良い場所じゃねぇんだよ……!!」
 横に引いて傷口を広げて、精神力を撃ちこんで混乱を招いて。子の背を蹴りながら、再び木蓮のもとへ戻らんと劫は足に力を込めた。
 入れ替わって弾丸が飛んでいくのを見た劫は満足気な笑顔を向けた――――のだが。不運にも、か。劫の眼が見開いた時には拳が飛んできており、彼の身体が拳の下敷きになって海の中に見えなくなっていく。
「う、うわ、うわああああ!!」
 拳が退き、即座に木蓮が劫の身体を拾い上げた。其の儘走り、敵から遠退ける為に遠くへと遠くへと。此の時には木蓮は子が視えなくなっていたのだが、気にする余裕も無かったという。
「もしかして」
 ぴょこっと子の眼に映ったミリー。
「ミリーの活躍する場所かしら!」
 にこーと笑ったミリーの顔は子の眼に如何映ったかは知らねど、無邪気な笑顔は逆に恐怖を秘めていた。それの予想も的中したか、ミリーは人差し指で子の眼をぴちゅっと突いては、子はあまりの痛みに叫びあげたのであった。
 頭を縦横無尽に振ってミリーを落そうとするものの、ミリーは子の耳に噛み尽きながらしがみ付いて離れようともしない。顔を楽しそうにしたまま、ジェットコースターを楽しむ子供のようになっていた。
 ほんの少ししてそれも止まった時、ミリーは肩に着地して足下から渦撒く炎を醸し出した。
「さ、焼き魚のお時間だわ!」
 右手を振り上げ、そこから、右左右左右左右左右左右左と交互に出しては子の頭を殴っていく。序に最後に回転蹴りをくらわせば、子の頭がぐるりと後ろを向きながらべきっと鳴る。
 直後、雷がミリーを貫いたのだが、
「うー効く~!!」
 とくらくらとしてみせて、すぐに持ち直したのは意地か。だがそれも彼女が敵さえ見えなくなってしまったが最後、後退してしまったミリーは敵が視えないとキョロキョロを周囲を見回した。
 されど其の頃には拳を振り上げた悠里が胴を狙っていた所だ。氷鎖を放つには最低でも二回のゲインブラッドが必要である、最早味の解らない口で敵の鱗を引き千切る彼は獣のようでもあったのだが。暫く彼の行動を見ていれば、氷漬けにされては堪らないと子の腕が一直線に悠里を狙っていた。
 ドゴォと、地を揺らすような轟音が響いたと共に理央はスタートダッシュを決めつつ、札を一枚子の胴へと投げる。其れは紙から鴉へと成りて攻撃を行うのだが、怒りを付与するには乏しい。
「止まれ……止まれ!!」
 こんな所で負けられないのだから。と、先に思っていた事を再び思い出して思い返した。理央こそ、高い精神性から子の闇に囚われる事さえ少なかったのだが、影人も役目を与えてそれが仲間の為にはなってきたのだが、一人では此の子の強敵は倒せる事ができない。
 悔しい思いに奥歯を噛んだ。ブロックが不能なのは解っていたが、理央は子の足にジャベリンを刺し込んで止めようとするのだが止まる事は無い。止まらない。
 何がいけなかったか、何がいけなかったか、ユーディスの槍も子へと刺し込まれて。元々子の性質によっていくら攻撃手を揃えたとしても行動できない者は出てくる。つまり十秒の中で動ける者の数が変動するのはそれの分だけダメージが通り辛い敵であった。だがリベリスタは巨体の敵に登る為の飛行の上昇や、移動によって更に悪循環を悪循環へと変えていたのが敵が未だ動けるという結果を作ってしまっていた。分断されてしまった事もそうだが、時間のロスが今になって響く。
 蟻の巣を水浸しにしたからといって、巣の廻りにうろつく蟻まで殺し尽くす程、子も暇では無いか。何か使命を果たす様にして歩く、歩く、無い脚を引きずって。最後の一人まで戦うと誓うリベリスタ達ではあったが、其れが達成される事は無かった。

■シナリオ結果■
失敗
■あとがき■
依頼お疲れ様でした、結果は上記の通りになりましたが如何でしょうか

非情に惜しかったです、本当にあと少しで倒せました
失敗についてですが、行動に制限の存在する下で、それを更に圧迫した事が一番響いたかと思います
他にも理由はありますが、リプレイ内で詳しく書かれていると思います

中でも虎鐵さんの威力は一体全体どういう事なの、夕影びっくりした
一人で数人分のダメージを与え続けた貴方に、MVPを送ります
貴方の存在は今回の編成で必要不可欠な存在であったと思えます

それではまた違う依頼でお会いしましょう