● 断続的に続く雨音をついて、中世のたたずまいを残す街並みに雷鳴がとどろく。朝から降りはじめた雨は弱まるどころか強さを増して、風に揺れる銀色の幕がチェスキー・クルムロフの静かな町並みをすっぽりと包み込んでしまっていた。 「いっそ雪になればいいのに」 チェコのリベリスタ組織『白バラの祈り』に属するリベリスタ、ヴィエラ・ストルニスコバーは飲み屋の薄い軒下で細い肩を震わせた。 季節はクリスマス前。さすがに寒かった。いまいるのは季節を問わず観光客がそぞろ歩く石畳の通り道だが、左右どちらを振り向いても人影は見当たらない。地元の警察によって緘口令が敷かれていたが、やはり事件の影響は出ているようだった。 チェスキー・クルムロフを訪れていた観光客が行方不明になり、数日後ヴルタヴァ川の下流で見つかるという事件が相次いでいた。 街に流れる噂からしてどうやら神秘絡みの事件らしい、と地元警察から要請を受けてヴィエラがやってきたのが3日前のこと。今日こそ街に出没するエリューションをこの目で捉えたいのだが……。さて、こちらの思惑通り現れてくれるだろうか。 ついに日が暮れて、オレンジ色の明かりが灯り、街に見せかけの暖かさをもたらした。雨は相変わらず降り続いている。 今日はもうおしまい、と濡れた石畳の上をホテルへ向かって歩き出したそのとき、ヴィエラの耳に小さな女の子がすすり泣く声が聞こえた。 「あ、待って!」 ヴィエラの前を、黒い髪を長く伸ばした少女が目に手をあてて俯きながら歩いていった。たしかに少女は歩いていたのだが、恐ろしく速い。うさぎのポシェットを揺らしつつ、城へ続く木製の橋に向かってどんどんと遠ざかっていく。 ヴィエラは駆け足になった。橋の中ほどでようやく少女に追いついて、肩に手をかけて立ち止まらせた。 ≪怖……婆……≫ こちらを見上げた少女が発した異国の言葉よりもなによりも、チェコのリベリスタはその幼い顔に穿つ2つの穴に暗いショックを受けて息をのんだ。 少女の小さな手が麻痺して動けなくなったヴィエラの手をつかみ―― 川へ落とされる寸前にヴィエラは幼い手を振りほどき、翼を広げて白い鳥が飛ぶ空へ逃げた。 ● 「そのエリューションの少女、どうも日本人らしいんです」 そう言って『まだまだ修行中』佐田 健一(nBNE000270)は湯呑を下した。 今回、ブリーフィングルームに集まったリベリスタたちに振舞われたのはメドヴニークというチェコのはちみつのケーキだ。はちみつの香る生地の間には黒蜜のクリームが、上には砕いたくるみときなこがかけられており、日本茶にあうよう和風にアレンジされている。 「ほんもののメドヴニークはあちらでお召し上がりいただくとして……」 健一はテーブルの下から『どや顔うさぎ』のポシェットを取り出した。『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が身に着けているものと同じものだ。 「これ、手に入れるのに大変苦労しました。イヴちゃん、貸してくれないし……と、限定品らしいですね。当然、日本国内でしか販売されていません。エリューションの少女がこれを身に着けていたところから、アークに討伐の依頼話が持ち込まれた次第」 エリューションのフェーズは1らしい。ただ討つのは簡単なのだが、現地のリベリスタは異邦人の子が泣きながら街を徘徊し、心配して声をかけた人を川へ落として溺死させるワケを知りたいのだという。 バックのモニターに、ひの字を横倒しにしたような流れの川とおとぎ話に出てくるような街並みが映し出された。画面はそのまま川へズームしていく。 「『白バラの祈り』の情報によると、エリューションは心配して声をかけた人を橋まで誘い出して麻痺させ、川へ落とすようです。エリューションと接触したあちらのリベリスタの話では、落とされる寸前に見た川底にニワトリの足がたくさんあったとか……」 想像すると気持ち悪いですね、と健一は体を震わせた。 「まとめると、みなさんにはエリューションの少女と接触して話を聞き出してもらい、その後に討伐というか、供養してもらうことになります。ニワトリの足に関しては、少女と関係なく無害と判明すれば放置して構いません。あとは地元リベリスタに任せていいでしょう」 ● 「それではよろしくお願いします。くれぐれも気をつけて、いってらっしゃい」 立ち上がった健一を、リベリスタの1人が手を上げて呼び止めた。 「『白バラの祈り』のバックアップは?」 「ヴィエラ・ストルニスコバーというフライエンジェのリベリスタが1人だけ。残念ながら日本語は話せません。あ、英語とロシア語は堪能らしいですよ」 複数のリベリスタたちが不満から鼻を鳴らした。 「……あ~、プラハのスメタナホールで、イギリスのフィルハーモニア管弦楽団が特別講演を行っているそうなんです」 健一に近い席に座っていたリベリスタが、それがどうした、と首をひねる。 「ケイオスの楽団の生き残りがひとり、このオーケストラにファゴット演奏者として入り込んでいるんですよ。バチカンと復讐の機会を狙っているポーランドの『白い盾』、ネクロマンサーの取り込みを狙う大小さまざまなフィクサード組織が互いにけん制しあって、プラハの街は一触即発の雰囲気らしいです。で、なにごともなく公演を終えてお帰りいただくために、『白バラの祈り』の主力たちはスメタナホール周辺の警戒にかかりきりになっているとか。それに、日本と同じくチェコ国内でも小さな神秘事件は日々起こっていますからね」 はっきり言えば『白バラの祈り』に人を割りさく余裕はないということらしい。 「そんなわけでして……。みなさんはチェスキー・クルムロフのエリューション少女に集中してください。以上」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:そうすけ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月14日(土)22:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 大使館訪問とチケット手配を『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)と『クオンタムデーモン』鳩目・ラプラース・あばた(BNE004018)に任せ、まだ暗いうちにプラハを出たリベリスタたちは、日の出とともにチェスキー・クルムロフに到着した。 昨夜、雪が降ったのだろうか。バスを降りて目にしたレンガ色の屋根の上にはうっすらと雪が乗っていた。また犠牲者が出たかもしれない。 白バラの祈りのリベリスタ、ヴィエラ・トルニスコバーの出迎えをうけた『Brave Hero』祭雅・疾風(BNE001656)は、白い息とともに不安を口にした。 鼻がちょっといかめしいが、モスグリーンの二重目がやさしいヴィエラ――鬼ババには見えない――は疾風にNOと短く答えると、笑顔で「モンダイナイ」と言った。どうやら少し日本語を調べたらしい。 緊張の糸を緩ませた一行は、教会の鐘の音が響く中を濡れ光る石畳の道をそぞろ歩き、今夜の宿である川沿いのホテルへ向かった。 到着後、レセプションで荷物を預けるとチェックインの午後2時に再集合とだけ決めて、あとは早速ペアに分かれて調査となった。 『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)は持参した手土産を持って、疾風とともにヴィエラをホテルに併設されたカフェのテラスへ誘った。 疾風はウェイターに手渡されたタオルで濡れたシートをふきつつ、薄い霧を這わせるヴルタヴァ川に目を向けた。 「思ったより流れが速いですね」 影継は川へ顔を向け、ああ、と頷いた。それから手土産の包をほどきつつ、ヴィエラに川の深さを訪ねた。 深いところで2~3mぐらい、という答えが返ってきた。雨で増水すればもっと深くなるだろう。手ぶりを交え、夏にはカヌーやラフティングのゴムボートが川を行き来する、とヴィエラは言った。 “How lovely!” 箱の中身は色とりどりの練りきり花で飾られた生チョコ大福の庭園と、そこで遊ぶ栗きんとんケーキのモルだった。 『外国人女性にも受ける良い和菓子見繕ってくれ、経費で!』、と影継が出発前にフォチューナに依頼したのだが、どうやらこれは彼の自作らしい。 疾風が包に添えられていた紙を手に取り、広げて読み上げた。 「こっちが『雪平生地で生チョコレートを包み、表面にココアパウダーをまぶしましています。その上に練りきりの花をあしらいました』で、そっちが『栗きんとんにバターと卵を加えて練り上げた生地をモルの形にして焼き、手に粒栗を持たせました』と書いてあります。日本語で……」 チェコ語とは言わないがせめて英語で説明文をつけられなかったのか。友好のきっかけに、と頑張ったのは分かる。が最後の詰めが甘い、と影継はため息をついた。 “Hamster?” “No. This is the mole” モルとはなんなのか。疾風は詳しい説明を避けるため、ホークの先でモルケーキをつつくヴィエラにコーヒーを勧めた。 これは俺の推理だが、とコーヒーカップを片手に影継が切り出す。 ――今回の事件には林田一家とスラブ民話の妖婆バーバ・ヤーガ、その住居のニワトリ足の小屋が関係している。 影継は包み紙の裏に絵を描きつつ推理内容を説明した。 隣で疾風が感心する。 ヴィエラも影継の推理には大いに感心していたが、ただ一点、川の下に死体が埋まっていることは否定した。颯花たちを除き、行方不明の届け出があった人たちと水死体の数は一致しているという。 ならばおそらくは人々を一旦川に流してどこかへ運び、それから何らかの理由でまた川に死体を破棄している違いない。 影継はテーブルの上に地図を広げると、妖婆が潜伏していそうな川沿いのスポットをヴィエラにマークしてもらった。 「よし、この場所を夏栖斗と俊介に伝えて調べてもらうか。俺は念のため橋の下を調べてから街に近い森を調べに行く。疾風とヴィエラは?」 「私は街で林田一家の足取りを追おうことにします」 ヴィエラは影継に同行することになった。 『覇界闘士<アンブレイカブル>』御厨・夏栖斗と『破邪の魔術師』霧島 俊介(BNE000082)は街の雑貨屋で人数分の傘を買い求めていた。 俊介は「雨や雪がしのげればなんでもいいんよ、なんでも」と夏栖斗に話しかけつつ、柄のデザインや傘の模様を選んでいた。 それは夏栖斗も同じで、やはり傘を広げては色やそこに描かれている模様をいちいち確認している。 ビニール傘が売られていればそれを買ったかもしれないが、数が少ないとはいえなまじデザインがあるだけにこだわってしまう。旅先だからこそ、ばっちりコーディネイトは決めたいものだ。たとえ戦闘ですぐ壊れてしまうにしても……。 なんとか人数分の傘を選んで買い求め、ホテルへ届けてほしいと店員に告げたところで夏栖斗のAF(アクセス・ファンタズム)に通信が入った。 店員が勲章に話しかけながら外へ出る夏栖斗を怪訝な顔で見送る。 「おばちゃん、ありがとね」 俊介は極上の笑顔で店員のこわばった顔をとろかせると、バイバイと手を振りながら店を出た。 「え、バーバ・ヤーガ? 神かあいつは?」 「うん。よくわかったよな。で、影継が僕たちにそれらしい場所を調べに行ってほしいって」 夏栖斗は地図を広げた。俊介が肩越しにのぞき込んでくる。 「広くね?」 夏栖斗がペンで囲ったのは郊外にあるゴルフ場の近くで、蛇行した川に挟まれた部分だった。 「とりあえず行ってみよう」 「……だな」 ふたりはトゥルドロという甘い菓子パンを並んで買うと、朝食に焼き立てをほおばりながら郊外へ散策、もとい調査へ向かった。 「この人たちを知りませんかなのだ?」 『きゅうけつおやさい』チコーリア・プンタレッラ(BNE004832)は、『谷間が本体』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)に後ろから抱きかかえてもらい、レセプションのカウンターに林田一家の写真とアーク職員にチェコ語で書いてもらった紙を置いた。 写真に目を落とすなりホテルのスタッフは首を振った。 「ここもハズレね」 シルフィアはチコーリアを下におろすと、小さな手を引いて18軒目のホテルを出た。 チコーリアは数が少ないといっていたが、チェスキー・クルムロフには旧市街地だけでもホテル、ペンションタイプ合わせて50軒近く宿泊施設があった。郊外まで広げると148軒もあるらしい。 まだ半分もまわっていないのにもうチコーリアは調査に飽きたらしく、ガイドブックを開いてはあそこへ行きたい、ここへ行きたいとしきりに騒いでいる。油断していると手を振りほどいて勝手に走り出すから困ったものだ。 19軒目のホテルについたところでチコーリアが急に走り出した。ホテル前の門をくぐった先にある公園へ駆け込んでいく。 その公園からは城を含めた街のほぼ三分の一が眺められた。目の前にガイドブックの写真と同じ風景が広がっている。 しょうがないなぁ、とこぼしつつシルフィアもチコーリアと並んでしばし景色を楽しむ。 「ふたりをかわいく撮ってくださいなのだ」 チコーリアは居合わせた欧米人カップルにカメラを渡して写真を撮ってもらった。ようやく満足したらしく、シルフィアに手を引かれるまま公園を出てすぐ前にある元修道院のホテルに入った。 ――この日本人の家族なら先々週、二泊していったわ。 チコーリアが差し出した写真を見ながら、レセプションの女性がすこし癖のある英語で答えた。 シルフィアはAFで全員にホテルの名とチェックアウトした日付を伝えた。通信を終えた直後に疾風から、「すぐ行く」という連絡が入った。 5分後、駆けつけた疾風とともにシルフィアはレセプションの女性から、林田一家はレンタカーで街にやって来ていて、チェックアウトの日はものすごい土砂降りだったことを聞き出した。 「ふむ。林田一家が襲われたのは街の郊外が可能性大ですね」 「楽しい旅行が一転……ね。よくある話ではあるけど、生死不明というのが面倒極まりないわね」 「バーバ・ガーヤが殺していなければあるいは生きているかも」 「バーバ・ガーヤ?」 なにそれ、と問うシルフィアとチコーリアに、疾風は影継の推理を話して聞かせた。 「すごいのだ。颯花が言っていた『怖婆』はバーバ・ガーヤなのだ! ヴィエラさんじゃなかったのだ」 彼女が聞いたら怒るわよ、と笑いながらシルフィアはチコーリアを脅した。 昼を過ぎて空に雲が広がりだした。 スヴァルノスティ広場まできた綺沙羅とあばたは、ちょうど開かれていたクリスマスマーケットでホットワインを買った。 「アルコールが足りません。これは頂けない。やはり酒は体の芯を下からガツンと突き上げてくる熱いものを感じさせてくれなければ」 未成年の綺沙羅が飲めるほどである。アルコール分などあって無きがごとし。 それにしてもチェコのビールはうまいがワインは旨くない、すぐ近くのオーストリアは白ワインがいけるのに、とあばたは嘆く。 「赤ワインだからじゃない? それより、ホテルへ行く前にここで少し聞き込みをしましょう」 綺沙羅はプラハにある日本大使館で林田一家に関する情報を得ると、万が一の場合には彼らの遺体を日本へ送り返す手続きをアーク代表として行った。 その間あばたは大使館の一室に籠り、ネットジャンキーとして持てる技術のすべてをつぎ込んで完売しているはずのあるコンサートの席を人数分確保した。もちろん、ちゃんと代金は時村財閥から出してもらった。ただ、特別な客のために常に確保されている貴賓席を特別な方法でリザーブしただけだ。 プラハで必要な手配を済ませたふたりは仲間から遅れること6時間後、問題の街にやって来ていた。 ホットワインを飲み終えると、ふたりは広場近くの自然派化粧品の店に入った。 “Hello. Let me ask you something”と綺沙羅。 あばたが近づいてきた店員に林田一家の写真を見せると、店員は母親を指さして「チューブ入りのスキンクリームを5本も買っていったわ」、と流暢な英語で言った。どや顔ウサギのポシェット写真を見せ、連れていた女の子が身に着けていたという証言を得た。 それ以上の情報は引き出せず、しかたないと通りへ出たところでシルフィアたちと出くわした。 「チコは拷問博物館に行きたいのだ。でもホテルに戻ろうってシルフィアおねえさんはいうのだ。集合時間だって」 「チコったら。明日でもいいでしょ?」 「でもきょう颯花が出たら……」 ひらり、とリベリスタたちの目の前を白いものが落ちていった。見上げた空からゆっくりと雪が舞い落ちてくる。 「出そうだね」 あばたは、疾風のつぶやきに頭を垂れたチコーリアの手を取った。 「では急いで見学に。小雪様、荷物とチェックインの手続き、それにみなさまへの報告をお願いします」 「やったーなのだ♪」 三人はやれやれと苦笑いするとホテルへ戻っていった。 ● 「颯花が現れた! 今から追う」 影継はAFに向かってそう怒鳴るとヴィエラとともに少女の影を追った。広場であばたとチコーリア、橋のすこし手前で疾風とシルフィア、綺沙羅と合流した。 橋の反対側から郊外の森の調査を切り上げて城を見学していた夏栖斗と俊介が駆けつける。 橋の両側を抑えたリベリスタたちは、ゆっくりとエリューションとの距離を詰めていった。 俊介は念のために強結界を張った。それから聖人の像のたもとで颯花のために選んだピンク色の傘を差しだしつつ、ゆっくりと少女の前に腰を落とした。 「俺達は日本人だから言葉は通じるよ。何があったのか教えて欲しいん。君の名前はソヨカちゃんやんな?」 名前を呼ばれたことに驚いたのか、少女はびくりと体を震わせた。 「……寒いよね。寒かったよね」 かわいそうにという言葉を飲み込んで、夏栖斗は日本から持参したマフラーを颯花の首に巻いてやった。白字にピンクのどや顔ウサギ柄だ。 「颯花ちゃん? どうして人を川に落とす様な真似をするんだ?」 颯花は疾風に目のない顔を向けて、「怖いおばあさんが……おばあさんが……」と言った。 震えだした颯花を落ち着かせようと、あばたが後ろからそっと腕をまわして抱きしめる。 と、3つのことが同時に起こった。 空に白い鳥を見つけたヴィエラが飛びたち、川におりていたチコーリアと綺沙羅の影人が底から浮かび上がったニワトリの足に蹴散らされて悲鳴をあげた。そして―― あっと思ったときにはもうあばたは水中にいた。川の中ではない。ニワトリの足の上に水で作られた小屋、金魚鉢のようなものの中に閉じ込められていたのだ。 小屋はぽうっと青く光っており、中からの攻撃をすべて素通した。どうやら結界めいたもので作られているらしい。 川に出現した金魚鉢のような小屋は4つで、それぞれ中にあばたとチコーリア、人影、そして颯花を閉じ込めていた。完全に密封されているらしく、人影とE・アンデットである颯花はともかく、あばたとチコーリアは空気を求めて水の中でもがいている。 「拙い!」 疾風は変身ポーズとともに七色の風を呼び集め、強化外骨格参式[神威]を体にまとった。 影継が橋の欄干に飛び乗った。ニワトリの足目を狙い、斧を振って闘気の弾を飛ばす。 弾はあばたを閉じ込めた小屋の足にあたってつんのめらせはしたが、金魚鉢を割ることはできなかった。 「影継、ニワトリの足やない。あばたたちを狙って撃て」 ノックバックで金魚鉢から飛び出したらオレがすぐ回復させる、といって俊介も欄干へ上る。 空からはヴィエラが、橋の上からはシルフィア、綺沙羅がほぼ同時に影継の攻撃をうけて遅れた小屋へ攻撃を放った。 臆せず川に飛び込んだ疾風がチコーリアを閉じ込めた小屋へ向けて弐式鉄山を放ち、ショックを与えて足止めした。 影継がメガクラッシュを放ってまずはあばたを、続いてチコーリアを金魚鉢の中から弾き飛ばした。すかさず俊介がふたりの体力を回復させる。 颯花を乗せた小屋が逃げていった。 「俊介、ボクは昼間目をつけておいた場所へ先回りする。シルフィア、綺沙羅、影継、行こう!」 夏栖斗たちが去った後、ずぶぬれのあばたとぐったりしたチコーリアを抱えた疾風が橋に戻ってきた。チコーリアは気を失ったままだ。 「チコの分までやっつけてきてやるからな」 ヴィエラに小さな体を預けると、俊介たちはバーバ・ヤーガが潜む森へ向かった。 ● 「『お前たちのガキは本当にグズだよ。子供をさらってこいといったら肉のまずそうな年寄りばかり連れてくるし、今夜は今夜で帰りが遅いし』、と言っています」 綺沙羅が煮えたぎる大釜の前の巨大な妖婆の言葉を訳す。 事件の黒幕はアザーバイドだった。 大釜の中を巨大な棒でかき回しているのは颯花の両親だろう。ふたりはやせ細りながらもまだ生きていた。 『今度また大人を連れてきたら、お仕置きにあの子の目の前でどっちかを食っちまおうかね。ひひ』 ふざけんな、と夏栖斗は木の影から飛び出した。褐色の指先よりはなった白い幻の花びらが、妖婆の醜いワシ鼻を突き抜けて赤く染まる。 鼻を手で押さえつつ、バーバ・ヤーガは白い鳥を4匹召喚した。そこへ颯花と人影を乗せたニワトリの足、見張り役の白い鳥が川から戻ってきた。ぱんと音をたてて水の金魚鉢が割れ、傘をさした颯花が両親の元へ駆け寄る。 『なんだい、お前たちは!』 「死の使いです」 綺沙羅は敵の密集箇所狙ってフラッシュバンをたたき込んだ。 シルフィアと影継が流れるような動きで武器を振るいニワトリの足を一掃する。 「糞婆! お前だけは絶対許さんよ!」 駆けつけるなり俊介は全身から強烈な閃光を放った。 神聖なる裁きをかろうじて逃れた鳥たちをあばたが狙い撃ち落としていく。 苦し紛れに颯花たちを襲おうとしたバーバ・ヤーガを疾風がとらえて投げ飛ばし、落ちてきたところで夏栖斗の仇花が胸を貫いてトドメを刺した。 「日本だけじゃなく世界中でこんな神秘の犠牲は日常茶飯事だって思うと気が重いよ」 「な、夏栖斗。あとどれだけ殺せばこの世界の悲劇は終わるんだろうな」 エリューション化しフェイトを得る未来のない颯花は救えない。 泣き叫ぶ両親を仲間に任せ、心で血の涙を流しながら俊介は颯花の首をひねり折った。 ● プラハ。 スメタナホールのロビーでリベリスタたちは意外にもネクロマンサーから笑顔の出迎えを受けた。敵であろうとも金を払ってホールに足を運んだ人は大切なお客さん、ということか。 影継がバーバ・ヤーガ事件への関与を疑ったというと、クルトは口の端からふっと皮肉めいた笑いを漏らした。さすがに100キロ以上離れた場所の死体は操れないと。 「そんなことができる人物がいるとすれば、認めるのも癪だがかの魔術師『黒い太陽』ウィルモフ・ペリーシュぐらいだろう。彼は死霊術師ではないがね」 偉大なるケイオスを『たかが死体使い風情』と侮辱した大バカ野郎だが、その実力は認めざるを得ない。 奴のことは口にすること自体が苦痛、といわんばかりの顔でクルトは続けた。 「まあ、わたしも奴もその事件とはまったく関係がないよ。それより今夜はせいぜい楽しみたまえ。サロネンは非覚醒者であるにも関わらず素晴らしい指揮を執る。もし時が味方すれば、いずれはケイオスと肩をならべるかもしれない逸材だ」 絶対に寝かせはしない、だから寝るな。チコーリアの髪をくしゃくしゃにしてクルトは楽屋へ戻っていった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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