● グランブルー それはどこか、遠い昔、遠い国を出航した。乗船人数は100を超え、航路は裕に数千キロを超える。 その、予定だったのだ。 だがしかし、これもまたありがちな話ではあるのだが、その船の航路はトラブルの連続。氷山、嵐、果ては謎の流行病。最終的に生き残ったのは骨と皮ばかりになった船長1人。仲間たちは皆死に絶え、或いは仲間割れや食糧難で殺された者も存在した。 船長も、その後、人知れず海上で命を落とす。帰還者は0。船は消息不明。 船上で起きた惨劇は、悲劇は、悪夢のような不運の連続は、数年後祖国の海岸に流れ着いた船長の日記で世に知れ渡った。 日記の最後には一言「呪われろ」とだけ書き残されている。 呪われた船、と後に1部で語られる事になるその船の名は(マリー)と言う。 或いは(ブラッディ・マリー)と。100名近い人間の血を吸った呪われた船だ。血の名を冠するにふさわしい。 今宵、この時、突如としてある街の海岸に現れたのは、この(ブラッディ・マリー)であった。その日、船長の命日であるこの冬の日に、船は再び海上へ姿を現した。 半透明に透けた幽霊船。船の周囲の海上は青白い炎に包まれている。まるで海面が青く輝いているかのようだ。グランブルー。雄大な青を連想させる。 船上、操舵室にただ1人。呆然と空を見つめる初老の男は、かつてこの船の船長だった男である。 船を止められるのは、船長である彼だけだ。 だが、悲しみにくれ、月を眺める彼にはそんな余裕がないのである。 自分の船が、不幸を、災害を、被害をまき散らしていることにも気付かない。 船は、グランブルーの海をただただ漂い続けている。 ● 最後の航海 「グランブルーの海は、船の放つ青い炎。対象の周囲10〜20メートル内には、船で近づくことはできない」 海上歩行や飛行は別だけど、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。もっとも、グランブルーは青い炎だ。歩いて近づけば、確実にダメージを負う。 「船は常に移動している。幸い、速度はさほど早くないけど停止することはない」 船を止める事ができるのはあくまで船長だけだ。 船長が停止を宣言しない限り、船はずっとどれだけ傷つこうとも海上を漂い続けるだろう。 「船にダメージを与えると船の速度は鈍る。けれど、船を消すことができるのは船長だけ」 まずは茫然自失の船長に、こちらの存在を知らせる事から始めなければならないだろう。 「船長の命令はなくとも、船は接近する者に対し攻撃をしてくる。青い炎、暴風雨、病毒、氷塊など種類は様々。油断はしないでね」 そういってイヴは、仲間達を送り出す。討伐対象はEフォース(ブラッディ・マリー号)とその船長。 しかしマリー号は船長の許可なく消える事はない。どれだけダメージを負っても、その動きを止める事はない。 船長を説得し、船に停止命令を下させること。 それが今回の任務の、主な動きとなるだろう……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月13日(金)23:36 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●呪われた船 呪われている、と噂され遂には乗組員共々消えてしまった船がある。ブラッディ・マリー号と呼ばれたその船に似た大型帆船が、どういうわけか海上を漂っている。周囲の海を青く青く、空より青く染め上げる炎は、その船がすでに常ならざるものであることの証拠だ。 船の操舵室に1人、呆然と空を見上げる初老の男性。この船の船長だった男だ。 彼が舵を取るこの船は、彼の命令以外で止まることはない。 ●グランブルーの海 舞い散る燐光。光は収束し、仲間達の背に小さな翼を形成する。『蒼碧』汐崎・沙希(BNE001579)の使用した翼の加護。飛べない仲間に翼を与え、一時的に飛行能力を与えるスキルだ。 自身の背に翼が生まれたのを確認し、『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)は船から飛び立つ。 『………大丈夫?』 テレパスでそう問いかける沙希。仲間達に先行し飛び立つ杏の身を案じての言葉。それに対し杏は無言で頷き、大丈夫、と伝える。 「さあ、でっかい花火を打ち上げるわよ!しっかりこっちを見てなさい!」 サーフグリーンのギターを構え、弦にその細い指を添える。収束する魔力が、真っ赤に染まる。周囲の気温が急上昇。凶暴な笑みを浮かべ杏はギターを掻きならす。 ギター特有の歪んだ音色が空気を振動させる。それと同時に、解き放たれた魔力は業火と化してマリー号周辺へと降り注いだ。 青い炎と赤い炎がぶつかり合い、押し合い、燃やし合う。海が燃えている。その光景は美しく、そして奇怪だ。外敵の接近に気付いたのか、マリー号周辺の空気が冷えた。 次の瞬間、無数の氷塊が杏目がけて降り注ぎ始めた。 「三郎太きゅん、庇いヨロシクね!」 「はい! ボクは男ですからっ!何かあっても絶対にボクが守りますっ!」 鉄甲に覆われた拳を突き出し離宮院 三郎太(BNE003381)は叫ぶ。突き出された拳から伸びた無数の気糸が、空中で氷塊に突き刺さり、砕き割った。 「マリー……。マリーね。ま、そんなことどうでもいいか。とにかく止めてやらないとね」 マリーという名前に思い入れがあるのだろうか。『黒き風車』フランシスカ・バーナード・ヘリックス(BNE003537)は闇を纏い宙を舞う。氷塊の隙間をすり抜け、巨大な鉈を振り降ろした。解放された闇がマリー号を飲み込むべく広がっていく。 しかし、マリー号から放たれた瘴気がそれを阻んだ。グランブルーの炎に猛毒の霧が混ざる。炎と瘴気の手前には、リベリスタ達の乗って来た船が停まっている。そこから先へは、船では侵入できないようだ。 船を降り、翼を使ってマリー号へと接近する影が5つ。囮役を買って出た杏、三郎太、フランシスカ以外のリベリスタ達だ。 「グランブルーの海、ねぇ。昔そんな映画あったわね」 青い炎に覆われた海面を眺めながら『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)が溜め息を零す。マリー号の範囲攻撃を警戒してか、リベリスタ達はある程度の距離を保ったまま飛行を続けていた。 「船長さんはこの船でたった1人……。それはきっと孤独で、とても辛くて、寂しくて…… このまま終わりになんてできません」 船長の境遇に想いを馳せ『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)は空中を泳ぐ。セレアとセラフィーナを先頭に、他のメンバーも船へと接近する。しかしその時、突如として船から放たれた大量の瘴気が、5人の行く手を阻んだ。 「まずはブラッディ・マリー号をなんとかすることですね」 暖かい光が『メガメガネ』イスタルテ・セイジ(BNE002937)の全身を取り巻く。瘴気を打ち消し、毒を癒す。光の粒子をばら撒きながら、イスタルテはまっすぐ上空へと舞い上がった。 瘴気と炎の壁を突き破る。夜空に瞬く無数の星が視界を埋め尽くす。視界の隅には、マリー号相手に攻撃を繰り返す杏や三郎太、フランシスカの姿があった。 イスタルテに次いで、『雨上がりの紫苑』シエル・ハルモ二ア・若月(BNE000650)も上昇。着物の裾に付いた青い炎を手で払い、まっすぐ飛び上がった。目を閉じ、胸の前で手を合わせる。渦巻く微風に燐光が混じる。癒しの光が、風に乗って戦場を吹き抜ける。 「癒しの微風よ……」 グランブルーの炎に焼かれ、氷塊に打たれ、瘴気に毒された仲間達を癒す。 『…………見つけた』 皆の脳裏に、涼やかな声が響き渡る。沙希がテレパスを使用し、直接仲間達の脳裏に言葉を届けたのである。見つけた、というのは船長のことだろう。視線の先、船上に見える部屋の中に人影を見つけたのだ。 だが、その瞬間。 轟音と共に、叩きつけるような突風が発生。マリー号周辺は急な嵐にみまわれた。 暴風雨に打ちのめされ、沙希、シエル、イスタルテの3人が青い炎に中へと消えた。なんとか難を逃れたセレアとセラフィーナが船の壁面に張り付いた。しかし、それ以上は風に邪魔され進めない。 「攻撃しない人を攻撃してどうするの? 意地でも沈めてあげてもいいのよ!」 ギターを掻き鳴らす杏と、その周辺を飛び回る三郎太。業火が降り注ぐ。杏目がけて襲いかかる突風を、三郎太が身体を張って受け止めた。 「ボクの大事な役目ですっ」 突風の衝撃が三郎太の全身を打ちのめした。バランスを崩し、落下しそうになるがギリギリのところで体勢を立て直し、空中に制止する。 「周りを見ろ! 自分の船を見ろ! あんたはその船愛してたんだろ!」 常闇を巻き散らすのはフランシスカだ。杏と三郎太を追い越し、叫び声をあげながらマリー号へ向け闇を放つ。青い炎も、瘴気も、突風も、全部まとめてフランシスカの闇が飲み込む。 急降下と急旋回を繰り返しながら飛びまわる3人。それを追ってマリー号が攻撃を放つ。マリー号からしてみれば、降りかかる火の粉を払っているだけなのかもしれないが、しかしその迎撃1つ1つが、災害級のそれである。 夜闇の中、マリー号周辺だけだ明るい。炎や雷、氷塊、燐光、様々な光が瞬き、消える。 繰り返し、繰り返し。 その光景は幻想的で、ずっと眺めていたくなるほど美しいものだった。 青い炎に身を焼かれながら、沙希はじっとマリー号を見上げていた。燃えさかる海の真ん中に浮かぶ大型帆船。暴風雨を撒き散らし、氷塊を降らせる禍々しきその外観。 かつては多くの船員を乗せ、航海に出た立派な船であったろう。 それを思うと、胸の奥に痛みが走る。 『怪我人に癒しを……』 そう唱え、回復術を放つ。飛び散る燐光が青い炎を覆い尽くし、消していく。一緒に落下してきたシエルやイスタルテの傷を癒す。 『空ちゃん』 シエルの脳裏に、沙希の声が響く。それを受け、シエルは一気に空へと舞った。翼を大きく羽ばたかせ、急上昇。暴風雨を突き抜け、船体にしがみつく仲間の元へ辿り着く。 「魔風よ……在れ!!」 シエルが魔力の宿った風を巻き起こす。周囲に吹き荒れていた暴風雨と相殺。一時的にだが、無風状態を作り出した。消耗が激しいのか荒い息を吐くシエル。そんな彼女の真横を、イスタルテが飛んでいった。 高速飛行。風を切る音が遅れて聞こえる。 「やーん…死んだ後もずっと成仏出来ないなんて、船長さんが悲しすぎますよう」 涙を零し、空を舞う。船体にしがみ付いたセレアとセラフィーナの腕を掴むと、そのまま一緒に船の甲板へと飛び込んだ。バランスを崩し、甲板に叩きつけられるイスタルテの身体。その背後で、再び暴風雨がその勢いを取り戻した。シエルの巻き越した魔風を打ち消し、再び周囲に災害を撒き散らす。 嵐に飲まれ、落下していくシエルの身体を淡い燐光が包み込む。意識はあるようだが、嵐の直撃を受けて弾き飛ばされているのだ。 その小さな身体を、沙希が受け止め傷を癒す。 『……』 沙希は微笑む。役目を果たした友を抱きしめ、彼女もまたマリー号目指して飛んでいく。 セレアは、イスタルテに手を貸し立ち上がらせる。炎の中を突き抜けてきたせいで、イスタルテは、その身に無数の火傷を負っているようだが回復に時間を使っている暇はない。 「とりあえず、船長の居る部屋に行くのが目的ね」 セレアを先頭に、セラフィーナとイスタルテが続く。甲板の上は、船外と違って雨風が弱い。どうやらマリー号の攻撃範囲は、自身の外側に集中しているようだ。 瘴気が漂う中を3人は進む。直にシエルや沙希も船上に上がってくるだろう。船の外では杏たちが暴れ回っているのか、轟音と閃光が何度も空気を切り裂いている。 暴風雨によって船体が大きく揺れる。バランスを崩しそうになりながらも、3人は船内へ駆け込んだ。先ほど沙希の見つけた操舵室へ一直線に進む。 船内に敵はいない。それどころか、船内に向けた攻撃などもないようだ。操舵室は割合あっさりと発見。万が一に備え、セラフィーナは腰の刀に手をかける。 セレアが操舵室のドアを開け放つ。広い船室の中央には舵と、その前に佇む初老の男の姿があった。ぼうっと、窓の外を眺めている。室内に入って来た3人には目もくれない。 「船長さん、どうか私達の話を聞いては貰えませんか?」 セラフィーナがそっと声をかける。 しかし、船長は振り返らない。ただただ、どこか寂しそうな目で窓の外を、暗い空を眺めるばかりであった。 急旋回と急降下。視界が何度もぐるぐると回る。上下の感覚が次第に曖昧になっていく。風に流され、姿勢制御もままならない。降り注ぐ氷塊が身体を打ちのめし、全身に強い痛みと衝撃が走る。それでも三郎太の視線は、まっすぐマリー号を向いていた。気糸を伸ばし、背後に控える杏とフランシスカを守る。 「ボク達が敵を引きつけられればられるほど説得班が事を優位に進められるはずですっ! 頑張りましょう!!」 特大サイズの氷塊を受け止め、打ち砕く。砕け散った氷の破片で三郎太の全身に裂傷が刻まれる。そんな三郎太の背後で、杏はギターを掻き鳴らした。歪んだ音色が、空気を震わせる。膨れ上がる魔力が燐光へと変じる。 「余裕があれば攻撃を止めるようお願いするように言って貰う様お願いしてみたけれど、どうなるかしら」 杏が呟く。飛び散った燐光が、三郎太の傷を癒す。燐光の中を突っ切る影が1つ。黒い翼のフランシスカだ。全身に闇を纏わり付かせ、高速で船へと接近。迎撃するように、海面の炎が勢いを増した。 「おいこら船長!あんたの航海は、マリー号の航海は確かに不運の連続だっただろうね。 だからって周りにそれ撒き散らしていいわけないだろう! 愛してた船がそんな災害撒き散らして永遠に海を漂うなんて…そんなのだめだろ! 分かったらさっさとこの船止めろ!」 大鉈を手に高速回転。黒い風車さながらに、漆黒の闇を撒き散らした。解き放たれた闇が炎を飲み込む。 青い炎を打ち消し、船体を包む。瞬間、船の動きがピタリと止まった。 その時、シエルと沙希が甲板に飛び込む姿が見えた。 ●呪われた船と共に 船の動きがピタリと止まった。呆然としていた船長が、ふと我を取り戻したように視線を自分の足元に下げる。今まで何の問題もなく動いていた自分の船が停止したのだ。呆然自失の状態にあっても、その異変には身体が勝手に反応するのだろう。 『ここは……。皆は?』 誰にともなく、船長は問いかける。その問いに応えたのは、イスタルテだった。 「貴方も、皆さんも既に亡くなられています。話を聞いてください」 背後から投げかけられた声に、船長が振り返る。驚いたような顔をしている。今の今まで、自分の殻に引き籠り、後悔と自責の念に苛まれ続けていたのだろう。イスタルテたちの存在に気付いてはいなかったようだ。 イスタルテの話しを聞き終え、船長は俯き肩を震わせる。どうしたら、とその口から声が零れた。 と、その時だ。 『もう休んではどうかしら。船にも、停船命令を……』 脳裏に響く声。テレパスで直接、沙希が船長に語りかけたのだ。シエルと共に、遅ればせながら操舵室へ到着したようだ。沙希がまっすぐ手を伸ばす。その手にあるのは1冊のスケッチブック。その1ページを破り、船長へ手渡した。 『マリー号……』 スケッチブックに描かれていたのは、大海原を行くマリー号の絵であった。 『最後に1度、マリー号を見せてくれないか?』 顔を上げ、船長は告げる。恐らくこれが、彼の最後の願いになるだろう。 「昔の仲間が命を落とした航海だからこそ、意志を引き継いで航海を続けてるのかしら」 船長を抱え、セラフィーナが空高くへ舞い上がる。他の仲間達もその周辺を囲むように滞空。遥か下には、船の上で待機する杏、三郎太、フランシスカの姿が見える。 セラフィーナの問いに対し、船長は何も答えない。 否、答えることができないでいた。涙を流し、何度もしゃくりあげながら、じっとマリー号を見つめ続けている。 『今まで……。長い間、苦労をかけた。不運の連続で、結果的に我々は航海を終えることはできなかったが……。それでも、ありがとう』 何度自分のふがいなさを呪っただろうか。仲間を死なせてしまった。マリー号に役目を果たさせてやることができなかった。自分が死んでしまうせいで、マリー号には不名誉を与えてしまうだろう。そう思うと、辛くて仕方なかった。当時の想いが蘇る。 『もういい……。お前もゆっくり、休んでくれ』 船長のその一言が合図だったのだろう。グランブルーの海が勢いを増す。青い炎がマリー号を包み込み、その船体を飲み込んで行く。 立ち昇る煙に、青く煌めく粒子が混じる。それと同時に船長の身も粒子と化して、消えていった。 「勝手な言い分かもしれないけど、だから海の底で皆と一緒に眠る方が幸せじゃないかしら」 セレアの言葉は、誰に対して向けられたものか。 船長とマリー号に、彼女の言葉は届いただろうか。 「どうか、安らかな眠りを……」 胸の前で手を組んで、静かにシエルは祈りを捧げる。 願わくば。 長い時を経て航海を終えた、船と船長が安らかな眠りにつかんことを……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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