●花を摘みに 君を喪った日を覚えている。 けれど目を閉じれば君はずっとそこにいた。 だから大丈夫だと思っていた。 君が日々薄れていくことに気付いた。 そんなものは耐えられない。 君を喪っていく自分など存在してはいけない。 君はそんなことを望まないだろう。 誰もそんなことを望まないだろう。 だけど俺は君を喪った世界では生きられないから。 君を完全に喪う前に君の元へ逝く。 まだ君の笑顔を覚えている。 君は花と子供が好きだった。 君の好きなものを持って逝くよ。 君は花が好きだった。 君は子供が好きだった。 ●花盗人の罪を問う 「みんなの任務は彼の自殺を食い止めること」 よく聞いてねと前置きして『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう口にした。対する反応はまちまちだ。その彼はエリューション能力者なのだろうが、自殺しようとする者を止めることがアークの仕事とは思えない。 それぞれの表情を眺めて、一呼吸してイヴは残りの言葉を紡いだ。 「自殺しようとする彼を止め、彼を討伐するのがみんなの仕事だよ」 順々に説明するねとレポートを広げ。 「彼と恋人は優秀なリベリスタだった。恋人は花と子供たちの笑顔が好きで、それを護るためにリベリスタとして戦っていたの。そして彼は、そんな彼女を護るために戦っていた」 けれど。運命は彼女の手を離れ。 戦いの末に運命を喪い、ノーフェイスとなった彼女は彼に告げたのだ。人を襲う前に、どうか貴方の手でと。 「彼は彼女を殺したよ。彼女を護るために戦っていた彼は、彼女の心を護るために」 そして――代わりに自分自身の心を壊したのだ。 「彼は自殺をする。彼女の好きだったものと一緒に」 その小高い丘は、一面にコスモスが咲き誇る彼女の好きな場所だった。その丘から見下ろす先に小さな遊園地。子供たちの笑い声。 「遊園地に4つの爆発物を仕掛け終わって、彼は丘へと向かっている。その懐に爆破スイッチを持ってね」 丘に着いたなら、彼は花に囲まれて命を絶つだろう。子供たちを道連れに。 「爆発を食い止めようとしているのがわかれば彼はスイッチを押す。だから力づくでスイッチを奪うのは難しいし、彼を瀕死に追い込んでも倒される前に押すと思う」 彼が丘につくのを足止めし、その間に遊園地内の全ての爆発物を解除する。小さいといえど遊園地には人が沢山おり、捜索に得手がなければ簡単には見つからないだろう。得意分野にメンバーを分けてそれぞれ動く必要がある。 レポートから目を離しイヴがリベリスタたちの顔を見上げた。 「彼はアーク所属ではないけど、リベリスタとして活動している以上ある程度アークの情報は持っている。あまり名前が売れてて彼に正体を知られていると、警戒されてすぐ爆弾を起動される危険があるから、今回は比較的顔を知られていないと思われるメンバーに集まってもらったよ」 彼の実力は高い。8人揃って挑めば打ち倒せるだろうが、チームを分けて爆弾を探している間、少数で彼を抑えるチームは危険が高い。だが探索の人手を少なくすれば爆弾の発見までに時間がかかる。あまり時間がかかりすぎれば爆発を止められないだろう。 「チーム分けは任せるよ。自分たちのやれることを考えて、最善を尽くして」 一呼吸。無事で帰ってねと会釈して。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月14日(土)22:33 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●『彼』 山道の中腹に差し掛かったところで足を止めた。振り返れば遊園地全体が見渡せる。 ――君の元に届けるよ。両手一杯の花を添えて―― もうすぐ一面のコスモスが。君が――迎えてくれる。 笑みを強めた男の視界に複数の影が映った。 ●花盗人 「うわー! ゆーえんちだー!」 はしゃいだ子供が1人ゲートを駆け抜けても微笑ましい笑顔が向けられるだけ。全力疾走する子供は人目のない物陰に入ると手にしたパンフレットに急ぎ目を通す。 ニット帽をかぶりカラーコンタクトで黒目にすれば、どこにでもいる遊園地を楽しむ小学生。『燐光』文無・飛火・りん(BNE002619)は急げ急げと自身を急かす――沢山の悲しいを見るのは嫌だから。 子供が沢山集まりそうな場所を確認してりんは再び駆け出した。途中すれ違う子供たちの笑顔。爆発が起これば笑顔が奪われる。その親たちの悲しみが広がって―― そんなのは絶対にごめんだから。 彼女は花が好きだった。彼女は子供たちが好きだった。それらを護るために、それらの世界を護るために戦ったのだ。 「……その挙句がこれでは彼女も浮かばれませんわよ」 遊園地に仕掛けられた爆弾を探す3人の探索班。そのうちの1人である七海 紫月(BNE004712)の嘆息は、爆弾を仕掛けたのが彼女の恋人であることに対して。 「何と言いますか……あぁ、情けないですわ!」 愛する人を亡くした事実。それは確かに苦しいことだろう。けれどわかっているはずだ、誰も望んでいないことは。彼の行動は彼の弱さに他ならない。 ――如何しようもなく壊れてしまう位、好きだったんでしょう。 紫月のAFから流れた言葉。通信の先で『視感視眼』首藤・存人(BNE003547)は静かに言葉を重ねる。 彼女はこんなことを望まない。知っていてもやらずにいられないほどに彼は彼女を愛し、そして壊れてしまったのだ。 ――静かに墓前に花を手向けるのも、子供を共に吹き飛ばすのも、どちらも死者にとっては生者の自己満足にしか過ぎないでしょう。 死者は言葉を紡げない。故に彼の自己満足は止まらない。「まぁ他の生者に迷惑なので止めないといけませんが」と続けた存人に再び嘆息が返された。 「君の残した世界を俺が守ってみせるくらい言えなくてどうしますの! 悲しみを跳ね除けて立ち上がるくらいの気概をお持ちなさいな、まったく」 まったくですねと小さく笑った存人の声に何か返そうとして―― ――背もたれに背中をつけてください。 ――あ、はい。 別の声が聞こえた。存人が誰かと会話しているのだろう。 「? 存人様は何処にいるんですの?」 「園全体を見渡せそうなアトラクションに乗ろうと思いまして」 途端、通信先で響いた子供たちの悲鳴! 慌てる紫月に「あ、これは違いますから。大丈夫ですから」と存人は言葉を返し、それではと通信が途切れた。 訝しがる紫月の頭上で、ジェットコースターが派手な音を響かせて。 大切な人を自分の手で殺して心が壊れる。 それは如月・真人(BNE003358)が感じえたことのない心境。その悲しみの深さは察するに余りある。 (けど、悲しんだ行く先がこれではあまりにも――悲劇過ぎます) 彼と恋人の悲劇を思い痛む心。感傷から引き戻したのは彼と対峙する仲間の声。 「止まって下さい」 眼前に進み出た少年に彼の足が止まる。「覚醒者ですね」と続けた少年は『ロストワン』常盤・青(BNE004763)。 「何のつもりだ?」 苛立ちを隠さない彼に青は涼しく言葉を返した。 「この先で仲間が神秘の回収を行っています。ボク達の目的の邪魔をしに来た訳で無いのなら、この先へ行くのはもう少し待ってくれますか」 花畑に向かおうとする彼に立ち塞がって口実を吐く。青を含む5人のリベリスタは、この日この時に限っては彼の足止めを目的とする『フィクサード』だった。 彼の視線が邪魔者たちを値踏みしていく。目線が合えばびくりと身を震わせて、真人が口を開いた。 「リベリスタに感付かれたくないんです。穏便に済ませていただけませんか」 戦いたくないのは正直な気持ち。故にそれが信憑性を持たせていた。 フィクサードと思わしき連中を見ても彼の態度は変わらない。彼女を喪って、すでにリベリスタとしての気概を失っているのだ。 「この先に用がある」 「自分達が帰ってからやって下さい」 青がそう時間は取らせませんからと続ければ。 「10分だ。それ以上は待たない」 時計に目を落としてから、彼が油断なく腰を降ろした。5人を相手にし、更にこの先にも新手がいるならば強行突破は得策ではないと判断したのだろう。 まずは時間を稼いだ。リベリスタたちは頷きあって仲間の連絡を待つ。 人気のアトラクションを駆け抜けて、りんが辿り着いたのはヒーローショーのステージ。開催時間になってしまえば多くの子供たちが集まるだろう。もしかしたらここに―― ――文無さん、客席を探してください。前のほうです。 AFを通した存人の声。千里を見通す目がそれを視界に捉えたらしい。返事もそこそこに辺りを探り…… 「あった! まずひとつめだよ!」 喜びの声を上げたりんが早速爆弾の処理を試みる。聞いていた通り、簡単な手順で解除できる単純な物だ。焦らず、慎重に…… 「レストランで……すぐに出てきた男の人の、手荷物が減っていたような……」 ぼんやりと呟く遊園地のスタッフに礼を言って、存人は瞳に込めた魔力を解除した。目線を逸らし気味の魔眼もなんとか効果を及ぼした模様。 「聞こえていましたか?」 ――ええ、レストランならわたくしが近いですわ。 紫月がすぐに返事を返し、そちらへと走って行ったようだ。 「では俺も処理を急ぐとしますか」 存人が手元に隠した十徳ナイフを確かめて前に進み出た。入れ替わりで子供たちとすれ違う。 目的の爆弾はすでに見つけていた。あとはその処理をするために―― 白馬に跨った存人の周囲で軽快な電子音が鳴り響く。今日もメリーゴーランドは楽しげに回りだして。 「これですわね」 テーブルの裏に設置された爆弾を外し、人目のない場所で解除に向かう紫月がちょうどりんと鉢合わせした。 りんは丘の鳥と意識を共有し、足止め班の様子を覗っていたところ。リンクを切ったりんが慌てて叫んだ。 「向こうで戦闘が始まったみたいだよ! 急いでさいごのひとつを……」 ――発見しました。俺が向かいますから文無さんは先に丘へ。 存人の声に頷いてりんは走り出す。見上げる丘は微かにコスモスが色づいて。 ●花狩人 きっと彼女は喜ばない。 彼が彼女のためにしようとすることは全て彼女を悲しませること。それもわからなくなるほど……わかっていても止められないほど、彼は寂しいのか。 できれば殺したくないし、止まってほしい。『謳ウ人形』リート・マリオン・エンデ(BNE004831)はそう願った。彼女のためにも、彼のためにも。 思考が途切れたのは黙って座り込んでいた彼がふいに立ち上がったから。 「まだ、用は済んでない。もう少し、待って」 瞬間、リートに風が迫った。否、拳だ。熟練者の拳は余計なモーションを省きまっすぐ脅威をぶつける。剛拳は暴風となってリートに一方的な暴力を産む―― すんでのところで止まったのは彼の意思ではなく、ましてリートの対処でもない。ぎしりと筋肉が上げた悲鳴は、彼の腕を掴み引き絞る青年のもの。 「何のつもりだよ」 「優奈……」 リートを守り『偽りの優しき闇の刃』蔵前・優奈(BNE004830)が睨みつけるも、彼は気にした様子もなくただ言葉を吐く。 「これ以上は待てない」 まだ約束の時間にはなっていない。そう言おうとしたリートが、彼の目に気付いてしまった。 しかと自分たちを見つめる彼の瞳は、けれど何も映してはいない。何も感じていない。空白。空虚。――狂気。 嗚呼、もうこの人は――小さく唇を噛み締めたリートの前で、己が身を盾にして。 「俺は彼女の元へ行く。邪魔する者は、みんな殺す」 愛と狂気を抱いたその拳に、決然と立ちはだかって。 ――綺麗な思い出をこんなことで汚して、それでいいのか。 「アンタにそんな権利があるのかよ!」 優奈の咆哮が丘を震わせた。 リベリスタたちが武器を構える――のを待たず、吐かれた呼吸を置き去りにして彼の身体が雷光の如く迫る。その拳が音を立てれば、かち合わせた大業物が突進を食い止めた。 誰よりも早く動くその翼は仲間へと向かう敵の拳を自身へと向けさせて。小さく息を吐き折片 蒔朗(BNE004200)は刃を差し向けた。 「おれはあなたを――」 覗きこんだ瞳に映る絶望と狂気。大切な者を喪った彼の絶望を推し量る事はその経験のない蒔朗には出来ないこと。 わかるのは。彼も、彼を想う気持ちも、ただただ途方もなく悲しいということだけだ。 でも。 彼が死を望むように、人は生きていたいのだ。 リベリスタとして彼女と共に歩んだ彼が、人の命を――生きたいと願う権利を奪うというのであればそれは。 それはフィクサードに他ならない。 「――あなたを止めます」 蒔朗は守る為にリベリスタになったのだから。 振りかざした気糸が身体を巻き取るより早く、抜け出した彼の拳が蒔朗の身体を打つ。 そのダメージも最小に、周囲に気を配る蒔朗の戦いぶりは簡潔だ。1人で彼を抑えることも、足止めを優先した攻撃も、被害を軽減し時間を稼ぐことに従事して。 炎纏い周囲を焼き尽くす拳もその身一つで対応する。その身のこなしは熟達の彼とて簡単には捉えられない。苛立つ攻撃手に笑みを見せ、蒔朗はペースを握り続ける。 その僅かな傷を優しい吐息が掻き消した。 リートの翼が小さく揺れれば、響く旋律が癒しの風を紡ぐ。この場にいる誰も倒れさせないと、己の役目を位置づけて。 「皆で、無事に帰るよ」 決意の響きが意思となって。 空間穿つ蹴撃は爆風を伴って迫り来る。が、貫き抉る力は眼前でその影響を途切れさせた。 ほっと息を吐き真人が胸を撫で下ろす。強い力を持ち複数相手に戦い慣れた彼を抑えるために、被害の軽減は必要事項。真人は回復に専念するだけでなく、その立ち位置を常に変えて攻撃を避けていた。 癒し手が複数いればこそ、回復は勿論消耗すら分配して。長期戦を想定すれば後々重要な一手となるのだ。 その真人が癒しを届けた先で、死神の大鎌が空間を切り裂いた。 中衛で彼の動きをじっくりと読み取って。気配を感じさせず瞬時に飛び出した青が大振りの一撃を見舞う。 ぎりぎりでかわしたかに見えた一撃は、けれど不可視の気糸を纏い彼の身体を巻き取った。 悪態をつく彼が拘束を引き千切るのに大した時間はかからない。けれど、その時間はリベリスタにとってかけがえのない有利を産むだろう。 倒すための戦いじゃない。命を護るための戦いならば。 ――最後の爆弾を解除しました。 リベリスタたちに、待ちわびた言葉が届けられた。 「おや、迎えに来てくれたのですか」 爆弾を解除し終えた存人の元に、駆けつけた紫月がその腕を取る。 「存人様、最短距離で移動しますわよ」 存人が何か言うより早く、紫月の祈りが光と闇を合わせ象った翼と成って。 「さあ、思いっきり活を入れて差し上げますわ!」 翼を羽ばたかせて一路、丘へ――! 「――どけっ!」 「行かせるかよ!」 周囲を薙ぎ払い突き進む彼を、優奈の大剣が切り払い連撃で押し返す。 その反撃が優奈に手痛い一撃を浴びせたとしても、その足は引き下がらない。リートの、仲間の癒しを信じれば、自身の想いを力に込めて。 「子供が好きだった彼女のために、子供を連れていくつもりなのかも知れないが……」 大剣を握り締める手がびきりと音を立てる。高揚する想いが、優奈の消失した右目に痕と五芒星を浮き上がらせて。 「その笑顔は子供たちの、アンタとの、未来を願う笑顔だと思わないのかよ!」 「――っ、お前は……?」 優奈の叫びに彼の手が止まる。その真っ直ぐな瞳に、周囲を振り返る。 仲間を献身的に癒し、その身を救う真人が。 攻撃を引きつける様立ち振る舞い、仲間を守る蒔朗が。 その瞳が。 ――こいつらはフィクサードじゃない? ではなんだ。自分を足止めする理由は。彼らの目的は。 思い当たることは、一つだけ。 慌てて懐から起爆スイッチを引き抜いた。振り返って丘の下を確認すれば、小さく動く子供たち。その指に力を込めて―― 鳥の襲撃が阻害する。 「ばかー!」 予想外の攻撃に慌てた彼へ言葉が届く。息を切らせ駆けつけたりんが、声を震わせて叫んでいた。 「悪い事して死んじゃったら地獄にいっちゃうんだよ! 恋人さんは天国でまってるのに……それじゃ会えないよ」 鈍器で殴られたような衝撃が彼の呼吸を止めた。それでも震える指先でスイッチを握り。 「無駄だと思いますけどね」 言葉は空から降ってくる。翼を折りたたみ着地した存人が促すように頷けば、彼の手元からボタンの音だけが空しく響いた。 震える手が、その瞳が憎悪に色染まり。 「何故邪魔をする! 俺は彼女に花を、笑顔を届けたいだけなのに!」 歪んだ想いを吐く瞳は狂気。その瞳が一瞬正気を取り戻した。渇いた音を響かせて。 彼の正面に紫月が立っている。少し色のついた平手は、彼の頬を叩いた証。 ●花の声を 「未来ある子供たちを自分の身勝手に巻き込むおつもりですか?」 凛とした声が降る。 「そんなことをして彼女に振り向いてもらえるとでも?」 紫月の言葉が彼に強制的に理解を促す。 自分の行動は最愛の人すら手放す行為なのだと。 「殿方だったら天から俺を見守ってくれと言えないのですか!」 「手土産がないと許してくれない恋人でもないでしょうに」 死にたい者を止めるつもりは存人にはない。その気持ちがわかるから……1人は寂しいから。 だからと見過ごせないこともある。無関係な命を彼の望みの犠牲にはさせない。 戦いの手は止まっていた。 5人で彼を抑えることは可能だった。ならば、増援が来た今彼に勝機はないのだから。 油断なく構えながら蒔朗が仲間を振り返る。 「おれには、説得の言葉がみつかりません」 放心する彼に目を戻す。その身体にいっぱいの悲しみが感じられて。 (おれは彼にとっての、大切な方よりも大事なものを見つけられないから) 「ボクは両親を亡くしました」 だからあなたの気持ちも分かると青が切り出す。 「かけがえの無い存在を失っても心臓は無神経に動き続けるし、立ち止まっていたいのに忘却がそれすら許してくれない」 でも。 「時折思います。それは両親が望んでくれた事なんじゃないかって」 死者と生者の望みは必ずしも一致しない。けど。死者に贈れる唯一のことがあるならば。 「託された願いに応える事が彼等に贈れる唯一の花束なのかもしれません」 彼が何か言い返そうとした。だが何も浮かばない。ただただ、その瞳が心に焼きつく。この目。どこかで見た、知ってる誰かのようなその瞳。 「彼女が護ろうとした、大切なもの、壊してどうするの。自己満足、で他の人傷つけたり、壊しちゃだめ」 ――それじゃ、彼女も、貴方も、辛いし、哀しいのに。 リートの言葉に重ねて。 「思い出して」 りんの声が知ってる誰かと重なる。 「恋人さんが戦ってた理由。そのココロを」 強い風が吹く。丘はすでに寂しく、ここからではコスモスが見られない。 「君たちはリベリスタなんだな」 彼の言葉の、優しい響きに誰もが目を上げた。 笑っていた。先までの空虚なそれではない、確かな感情を載せて。 「彼女と同じ目だ。彼女はそういう目をしていた。いつも誰かのことを考えていた」 優しく笑った彼が、その目の端から涙を零す。 「すまない。君を護ると言った俺が、君の心を裏切った」 「まだまにあうよ! ココロを受け継ぐ事は恋人さんがおにーちゃんの中にいるって事だよ!」 りんの一所懸命な言葉に静かに――首を振った。 「わかるだろう? 俺がそちら側にいたのは彼女がいたからなんだ」 今は大丈夫。でも時間の経過が彼女を薄れさせたように、今のこの気持ちすらなくせばフィクサードへと堕ちるだろう。 彼がリベリスタに目をやった。 「ありがとう……君たちの言葉は本当に嬉しかった」 そして……彼は拳を向ける。それが答え。ありがとうと呟いた彼の。 武器を構える音だけが響いた。 「ひと思いに終わらせるよ」 大剣を構えた優奈にリートが並び立った。2人頷きあい、真っ直ぐに彼を見て。 ――俺は君たちのようにはなれない。だけど、その気持ちが……嬉しかった。 眩しそうに目を細めた彼が、最後に抱いたものは―― ――愛しい人が居なくなっても、世界は回る。 そんなものですよねと呟いた存人がコスモスの丘を背にして。 ――踏み切る事が出来た彼が少し羨ましい。 「迎えに来てくれないかとただ待ってる俺は、彼程に覚悟も出来ていない」 土に汚れた手を払った優奈に促され、リートが子供を模した形代を供える。 「せめてもの手向けだよ」 丘の上。いっぱいのコスモスに囲まれて眼下に遊園地を――子供たちの笑顔を眺めて。 「ここに彼女もいるんだろう?」 ならばここが彼と彼女の眠る場所だ。 「彼と彼女は、幸せかな」 リートの問いに優奈は応えない。ただ、そうであればいいと思う。 緩やかな風が吹いた。それに合わせてリートが歌を紡いだ。静かに、穏やかに、緩やかな時を謳って―― |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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