●例えば ホーム。電車が来ている。飛び降りたいと思った事。 或いは、前に居る人の背中をドンと押したいと思った事。 車。急カーブ。このままアクセルを思い切り踏み込んでみたいと思った事。 仲の良い友達。談笑中にいきなりその子の顔面を殴ってみたいと思った事。 食事。整然と並んだ料理。机を蹴り飛ばして全部台無しにしたいと思った事。 高層ビル。屋上から或いは窓から飛び降りたいと思った事。 道端。通り過ぎる小さな子供の頭を思い切り叩いてみたいと思った事。 花壇。綺麗に咲いた花々を土足で踏み荒らしたいと思った事。 電話。通話中、相手に有りっ丈の罵詈雑言を吐き散らしたいと思った事。 お偉いさん。その毅然とした面に唾を吐きたいと思った事。 カッターナイフ。欝でもないのに手首を切り裂いてみたいと思った事。 エトセトラ。 破壊衝動の様な何か。 ●理性はいつも大変です 「物を思いっきり壊してみたい、喚き散らして暴れたい……といった衝動を、経験した事はおありでしょうか」 事務椅子をくるんと回し振り返った『歪曲芸師』名古屋・T・メルクリィ(nBNE000209)が一同を見渡し問うた。そして、今回の討伐目標はそういった『衝動』を増幅させるEフォースなのだとフォーチュナは言う。 「革醒者、非革醒者に関わらず、そのEフォースの傍に居る者は『暴れたい』『滅茶苦茶にしたい』『全部台無しにしたい』といった衝動を増幅されます。特に非革醒者は抗いようがないほどにそうなってしまうらしく……えぇ。自殺。他殺。器物破損。暴力行為。放っておけば被害ばかりが増えるでしょうな。 目標の出没地点は三箇所。班分けについては皆々様に一任しましょう。Eフォース自体は戦闘特化ではないので、出鱈目に苦労する可能性は低いかと。……但し、件の特殊能力で理性的な行動を取るのが少し厳しくなってしまうやもしれませんが」 全ては気の持ちようだと、メルクリィは微笑んだ。そして「武運を祈りますぞ」と続けるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ガンマ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月09日(月)00:26 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●メトロ 地上はヒヤリとしていたのに、地下は生温く横たえていた。 「んーっありますねーそういう! ちゃぶ台ひっくりかえしてみたくなったり! みちばたのかんからけっとばしてみたくなったり! えっちがう?」 良く分かんないけど何とかしよう。頷いた『リコール』ヘルマン・バルシュミーデ(BNE000166)がその闘気を解放する傍らでは、『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が印を結んで強結界を作り出す。 「Eフォースは一般人に知覚されにくいんだろ。だったら電車が来る前に倒しちまえば大して記憶にも残らん! 強結界も使っとくしな。行くぜヘルマン!」 「はいっ! がんばります!」 視線の先。ホームの隅。ユラユラしている半透明のショウドウ。それの精神に作用する能力とフツの結界のお陰か、周囲の一般人は何処か虚ろな目をしたまま『非日常現象』に気付く様子はなさそうだ。 とは言えそれも時間の問題かも知れず――兎にも角にも急いで済ませた方が正解なんだろう、ぐっと地面を踏み込むヘルマンがショウドウとの間合いを一気に詰めた。 「人の多いところにはいちゃいけないんですううう!」 暗くくすんだ脚甲だけで武装した脚。そこにのみエネルギーを集中させれば、薙ぎ払う様に回し蹴り一つ。威力のままに吹き飛ばす。吹き飛ばした方向は線路、落ちる、段差の下、ホームからは見えない。 「警備員だってそんな早くはやってこれん。早々に決めるぞ!」 言いつ、フツも追うように跳んだ。電車こそ来ていないが、ホームから飛び降りるのは自殺を思い起こさせて中々に良い気分はしないものだ。降り立つ。見えた。その直後にはフツが術式の鎖を放つが――ヘルマンが攻撃を加えるまでは気を抜いていたからか戦闘モードではなかったのか、束縛の鎖は直撃には至らず。腐ってもフェーズ2。完封は厳しいか。 今度はこちらの番だと言わんばかりに揺らめいて下がるショウドウが光線を放った。それは二人のリベリスタを撃ち抜き、痛みを刻む。 「ぐっ……」 それと同時に心の奥から何か、湧き上がるのは。フツの手にある緋色の長槍『魔槍深緋』がヒヤリと、いっそう彼の手から温度を奪うような心地がした。フツは奥歯を噛む。引き攣った口角で笑んだ。魔槍を握り返しながら。 「深緋、サービスだ。もしオレが自分の衝動に負けたら、今日は好きにしていい。『殺す』のはお前の方が得意だし、お前の方が好きだろう。――好きなようにやれ。 ただし、やるのはあのモヤモヤしたやつだ。ヘルマンと一般人はくれぐれも殺すなよ」 衝動に、そしてショウドウに負ける気など欠片もないが。応える様に『少女』が何かを囁いた様な気がした。 フツが振るう槍の一閃、それに合わせてヘルマンも力一杯蹴撃を繰り出し続ける。前よりは上手く戦えるようになったかな。それでも相変わらずだけれど、やっぱり、痛いのは嫌なものだ。 ショウドウが放つ衝撃波。ずどん、と真正面から壁に叩き付けられる様な。 「うわ、っ」 両手を交差し、地面をしっかり踏みしめて防御、多少押し遣られたものの耐え忍ぶ。押し遣られたのなら押し返すのみ。 「ぶっとべーーーっ!」 お世辞にも自分の事を『戦闘の熟練者』だなんて思ってはいないが、ヘルマンが思い出と共に重ねてきた経験は本物で。何度も使った技。力をこめて、踏み込んで、力の限り、蹴り飛ばす。メガクラッシュ。轟と一撃。 息は弾んでいた。でも、胸の奥に何とも形容し難い何か。しょうどう。衝動ってなんだろ?ヘルマンはEフォースに挑みかかりながら思う。聞いた話では、何だかおっかない事ばかりだったけれど。急に、何か、こう、ぐわっと、やりたくなる事か――他にも沢山あるような気もする。 (あそびたい! とか、にげたい! とか、だきつきたい! とか、泣きたい! とか……) 守りたい、とか。 衝動的に。 衝動。 それは必ずしも悪い事ばかりではないのかも、しれない。結論も正論も分からないけれど。前向きなのは大切だという事は、分かっているつもりだった。 「啄め、千兇!」 ヘルマンの視線の先、フツが投げ放つ術符。無数の烏となったそれはショウドウにけたたましい羽音を響かせながら群がって、啄んで、鳥葬の濁流。烏の鳴き声が消えた頃、そこには何も残っては居なかった。 勝った。終わった。 はぁっ、と息を吐いた。しばらく膝に手を吐き息を整えていたヘルマンは顔を上げる。暗視能力のある目は、暗いくらいトンネルのうんと先まではっきりと見渡せた。――電車が見える。随分と先で、この駅にまで着くにはもう少し時間がかかるだろうが。 ああ、うん、そうだ、そう、ここに居たら電車が来る。逃げないと。ホームに上がらないと。そう思うのとは裏腹に、彼はボーッと遠くの電車を見詰めていた。見詰めていた。 (……このまま、) このままここに立ってたら、もう、ひとをころさなくて、いいのかな。 がたんごとん。がたんごとん。 棒立ち。 目を閉じてしまおうか。 そう思った。 けれど。 「……おい、どうしたヘルマン? 行こう」 「え? あ ……はい、そうですね、うん、いきましょう」 呼ばれた声と、先にホームに上がったフツが伸ばしてきた手と。ヘルマンは「いきましょう」ともう一度、自分に言い聞かせるように呟いて。差し出された仲間の手を、取った。しっかりと握った。 ●スカイハイ ひゅうぅぅ。落ちる。人間。響く羽音。伸ばされた手。抱き止める。減速。ビルから飛び降りた筈の人間。 「我々は救出の専門機関です。この場所は危険なので出来る限り遠くへ避難して下さ――って気絶してますか」 飛び降りた一般人の一人を抱え、『ミックス』ユウ・バスタード(BNE003137)はそのまま地上へと滑空しつつ一先ずの安堵を。神秘秘匿や諸々の面倒の心配はしなくて良さそうだ。急ごう。 「一般人、お許しください! ……ってなっちゃうのは洒落になりませんしねぇ」 今はまだ衝動に身を委ねる訳にはいかないのだ。ビル横の路地裏に着地すれば速やかに一般人を横にさせる。その近くでは加護によって翼を得た七海 紫月(BNE004712)が、同様にもう一人の者を横たわらせる。優先すべき命は救った。 (それにしてもユウ様の羽が羨ましいですわね、ぐぅ) 思いつつ。ショウドウが降りてくる様子は無い。飛行能力が無い故かどうかは知らない。二人は上の彼方を見やった。 「では、本番と参りましょうか」 「は~いりょうか~い」 広げた翼。再び飛び立つ。 斯くして舞い降りる。 ゆらり。迫って来ると共に、ショウドウは衝撃波によってユウと紫月を出迎えた。湧き上がるような衝動と植えつける様に。 「いててっ……」 特殊改造銃器Missionary&Doggy&Spoonsを構えて防御の姿勢は一応取りながら。緩い口調とは裏腹に、ユウは体中が拉げる様な痛みを覚える。口唇がぬるつく。血だ。鉄臭い。ペッと吐き捨てる。衝動。衝動。あるある。 「今も戦ってますよ。名古屋さんのトゲトゲを紙やすりでガリガリ擦ったら、きっと先っぽが丸くなって可愛いだろうなーとか」 射撃体勢。研ぎ澄ませる。照準を合わせるのはゆらゆらふらふら寄って来る半透明のEフォース。射手に寄って来るなんて当てられに来たのか。当てられたいのか。どっちだっていい、どっちだろうが逃がさない。引き金を引いた。撃ち出すのは炎の嵐。前から後ろから横から。急所っぽい所が良く分かんないなら絨毯爆撃だ。これから毎日エリューション焼こうぜ。蕩けるほどに焼き尽くす。百発百中。業々と赤い。 「痛みを刻み、痛みを祓う――さながら痛みを統べし女王ね、おほほほほ!」 嗚呼、かっこいいですわぁ。ちょっと残念な陶酔に浸りながら、高笑う紫月がその手の剣を天に掲げた。巻き起これ、痛みを祓いし癒しの風よ。この世界に美しく光と闇がうんたらかんたら。要は天使の息。ユウの身体を包み込む。 さて。見澄ます先。ショウドウ。正に衝動的に攻撃を繰り出すその様に指を突き付けて。 「衝動の赴くまま行動しては世界は成り立ちませんわ。仮面を被ってこそ人は円滑な社会を営めるのですから」 悲しい事に、『嘘は絶対にいけません』だけでは生きていけないのが現実。すかした言葉で言えば優しい嘘、か。あ、今かっこいい事思ってしまった。やれやれですわおほほほ。 それはそうと斯くも凶悪なフェーズ2相手にこちらはたった二人、燃えるシチュエーションじゃあないか。 銃火が奔る。ユウは照準を定めながら、手にした銃を膝でへし折ってしまいたい衝動に駆られていた。ふーーっと息を吐く。じゅくじゅくと腹が痛いのは光線にぶち抜かれたからだ。それもとびきりぶっとい奴。運命を代価に取り敢えず致命傷にはなってない。はぁ、もう。嗚呼。ああ。落ち着け自分。帰ったら名古屋さんの肩のアレを思う存分割れると思えばこれぐらい。これぐらい。 「これぐらい――」 言いながら、銃を。 自分の足へ。ぱん。放たれた対神秘弾は皮膚を破り肉を貫き血管を千切り骨を砕き神経を抉り、そして反対側へ。靴ごと足の甲の丸い穴。思わず喉の奥で呻く痛み。それでも消えない。胃袋の裏側から湧き上がるソレ。故に、もう一発。ぱん。反対の足。 「大丈夫、翼と腕が残ってれば戦えますから」 たとえ銃がへし折れようとも、この羽がある。広げた。羽ばたいた。巻き起こす風は神秘の力を纏い、ショウドウに襲い掛かる。戦える。まだ戦えるから攻撃する。 「さぁ、逃がしはしませんよ」 再度、銃を構えた。 その一方で、紫月が奥歯を噛み締めながらも唇を歪ませて笑っていた。抱き締めた己の両腕に爪を立てる。ギリ。白い肌に赤い線。垂れた髪。衝動。血への欲求。痛みへの渇望。手っ取り早く欲しい。ならば。ぶちぶちぶちと爪で肉を裂いて、血でぬるつく手で剣を振り上げて。ケラケラケタケタ笑いながら、歓喜と愉悦。ずぶり。己の身体に銀の剣。根元まで深く。躊躇いは欠片もなかった。血化粧の唇は三日月の形。綺麗な白銀のドレスは綺麗な赤。裂かれた内臓が胎内で痛みの産声を上げている。口いっぱいに広がる鮮血の美酒。酔って、震えて、悦に浸って。 「ふ。ふふ、ふ」 蹌踉めいて。頽れて。ずるり。真っ赤に染まった剣を引き抜く。運命が燃えた。状況に燃える。倒れても尚立ち上がり、その上で刻まれた痛みを乗せて相手を斃す――なんと素敵な、夢に見た状況! 「今こそ、終焉を……!」 普通じゃないのは自覚している。けれども自分は『そう』なのだ、仕方ないのだ。刃に込めるは己の痛み。最大級最大限有りっ丈込めて。振り抜いた。込められた苦痛の呪詛は悍ましい刃となりて――ショウドウを、断頭する。 正義は勝つ。仲間とハイタッチ一つ。 ●アイムホーム まひるっちって呼び方が少し恥ずかしいのだけれどどうにかならないだろうか良い渾名が思いつけば言い返せるのだけれど頭を捻れど浮かんでこない難しいむむむむむ はっ お仕事はちゃんとせねば。 一旦思考に区切りをつけ『Le Penseur』椎名 真昼(BNE004591)は前を向いた。その先では彼に渾名をつけた張本人である『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が、その金の髪を靡かせて迅雷の如く駆けている。 見えた――その隻眼に映るのは軽トラック。虚ろな目をした運転手。真正面。鉢合せ。不敵に笑う舞姫が片方の腕を差し出した。そのまま手招き。 「へいへい、チキンドライバー。チンタラと安全運転ご苦労様」 精神を逆撫でする魔の言葉。途端に眦を吊り上げた運転手がアクセルを踏み込んだ。加速。刹那。真昼の思考の糸が細く鋭くタイヤを撃ち抜いた。減速。されど勢いは未だ止まらず。 来い。舞姫は逃げない。覚悟の上だ。己の事など顧みず、ただ一心に人命を救う。その衝動に全て奉げればいい。それは信念。たとえ傷だらけになろうとも、人を守り抜いてみせる。 そして。 ――鈍い音が響いた。 撥ね飛ばされた舞姫の身体。彼女の背後には生垣。始めから『そうなるように』地図を確認していたから。自他共に被害が軽減できる場所に敢えて誘い込んだのだ。真昼が軽トラックのタイヤをパンクさせた事で被害も幾らか軽くなったか。とは言え車に撥ねられた事は事実、潰れた生垣から這い出てきた舞姫は苦しげに顔を顰める。 「ぐ……げほ、っ」 「人間エアバッグとか戦場ヶ原さん無茶しすぎです……」 手を貸しながら取り敢えずの無事に一息を吐いた真昼は、そのまま謝罪する。本来なら少しでも舞姫を支援する為にと、パンクさせた後に思考糸で車を絡め取るつもりだったが、如何せん時間が足りなかった。 けれど、感謝しますと舞姫は礼を述べる。立ち上がる。運転手は気を失っている。あまり派手な音が起きなかった為か家人が留守なのか、生垣が壊れた家の住人が出てくる気配はなさそうだ。ならば一気に、決める。時間も回復も人目を避ける手段も無いのだから。 「あはは、痛い、イタイ……こんなに痛いのは、全部、おまえのせいだ。微塵も残さずおまえの存在を引き千切りすり潰してやる」 電光を纏い、黒曜を抜き放ち。獣の様に牙を剥くその先には、ショウドウが揺らめいていた。その姿を見ているだけで、ふつふつと舞姫の腹の底から烈火の様な衝動が湧き上がってくるのだ。 「殺してやる、殺してやる、殺してやるッ!」 真正面よりの、特攻。形振り構わず。彼女は身も心も湧き上がる衝動に委ねていた。しかし、たとえ狂おしいほど衝動的になろうとも、身体に本能に叩き込まれ培ってきた武技は健在。反射運動と言ってもいい。築き上げ鍛え上げてきた経験は努力は肉体は彼女を裏切らない。 「はァあああああッ!!」 眼前の敵を効率的に全力で破壊せよ。そう、衝動が告げるままに。繰り出すのは研ぎ澄まされた瀟洒なる一撃。倒せ。斃せ。屠れ。毀せ。立ち塞がる者あれば、これを斬れ。徹底肉迫。絶対攻勢。 破壊衝動。 相性すごく悪そうですね。なんて、真昼は思考する。 破壊衝動。叫びたくなる事。暴れたくなる事。自分にだってあると思う。否、ある。確実に。手が届かなかった時のやりきれなさ、許せないと思った時の怒り。しかしだからと言って喚いて暴れて当り散らして見た所で、何一つ変わりやしないのだ。なんにも取り戻せやしないのだ。 「だからオレは今日も考えます」 彼の武器は『考える事』。いつも通りだ。思い考える事が力を生むと信じて。 「さあ思考を始めよう」 舞姫とは対照的に、衝動に抗って。極めて冷静。努めて平然。思考の停止こそ究極の敗北にして最も恥ずべき行為である。それが椎名真昼という少年だった。 脳細胞を駆ける電気信号で糸を紡いで。編んで。良く狙え。出来る事を全力で。放つ罠。縛り、縛る。 だが長くは拘束出来なかった。まもなくして糸を引き千切るショウドウがそのまま衝撃波を放つ。どん。鈍く全身に響く痛み。されど舞姫は踏み止まる。噛み締めた歯列の隙間より血を吐こうと。幾ら刻まれ、ズタズタになっても。そのセーラー服を赤い血で染めようとも。背負う運命を犠牲にしようとも。少女は戦う事を、決して止めない。 「その程度で……止まってやるものか……!」 その俊敏さを以てしても運命を焼かざるを得なくなったのはやはり先ほど車に撥ねられた事もあるか。相手はフェーズ2。手に負えないほどではないが、フェーズ2の名には恥じぬ。だが――構うものか。 「おまえの腐った思念など、染み一つ残してやるものか。壊し尽くしてやる。喰らい尽くしてやる。 ……おまえの存在を、わたしは絶対に赦さない!!」 影すら絶つ程の速度。踏み込んだ。それを迎撃せんとショウドウが攻撃態勢に入るが――「させないよ」という声が、その動きを封じ込める。正しく言うならば夕焼けの紅光にきらりと光を返す気糸の罠が。 「君は暴れて衝動を満たす事もできず、縛られたまま消えるんだよ」 残念だったね。ショウドウに掌を翳した真昼が静かに言い放つ。 動けない異形。その時にはもう、舞姫の間合い。少女が放つ真っ黒い一閃。飛び散る光すら飲み込む黒。飢えた狼の様な斬撃が、ショウドウを跡形も無く飲み込んだ。 それからはもう、静寂。一時的かもしれないが、平和の再来。 一先ず安堵の息を吐いた。そうだ。仲間達に連絡をせねば。そっちはどうか、無事か、と、確認をしなくては――…… 『了』 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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