●得るために、或いは失わぬために、更なる試練を求める者へ 勇敢さは大切であろう。 冷静さと堅実さも大切である。 だが、それらよりも大切なのは協力と連携ではないだろうか? 1人で出来る事は少ないが、2人、3人になれば出来る事は増えていく。 1人が2人、3人を上回る事は難しい。 人を捨てず、人のままであろうとすれば。 人の儘で在りたいと思えば、尚の事である。 ●ふたつの道 「以前調査に協力して頂いた、アーティファクトの件ですが」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)はそう言って、『試練の迷宮』と呼ばれるアーティファクトについて話し始めた。 大きさは掌に収まるくらいの特に飾り気のない立方体。 材質は何か金属のように見えるが、詳細は不明。 試練を望む者を、モンスターとトラップの配置された迷宮へと転移させる修練型のアーティファクト。 それが、今のところ判明している情報の全てである。 タワーオブバベルに似た能力で所持者と周囲へと呼びかけ、応じた者達を創り出した迷宮へと転移させるのだ。 「以前、調査の為に幾人かの方に迷宮に挑んで頂いたのですが、それを基に調査している最中に、新たに別の試練に挑めるようになったみたいなんです」 これまでの情報からこのアーティファクトは過去……といってもどれだけ昔か分からない程の過去に、何者かが、修練の為に造り出したのではないかと推測されている。 逆に言えば、その程度の事しか分かっていないとも言えるのだが…… 「今回も直接死亡するような危険は無いようですし、負傷によって動けなくなった者は強制的に迷宮の外へと転移させられるようですので……調査に協力、という形で迷宮に挑んで頂きたいんです」 マルガレーテはそう言って集まったリベリスタ達を見回した。 アーティファクトの呼びかけに応じれば、応じた者たちは迷宮の入口へと転移させられる。 入口は門のようになっており、怪我などをしなくてもそこから迷宮を出る事は可能なようだ。 「今回は入ってすぐ、通路が二手に分かれています」 分かれ道では迷宮に入る時と同じように、謎の声がそれぞれの通路について説明してくれるようである。 便宜上、1の通路と2の通路に分けて説明しますと前置きしてから、フォーチュナの少女はそれぞれの通路について説明し始めた。 1の通路はすぐに扉へとたどり着き、その先は大きな部屋になっているようだ。 中に入ると扉が閉まり、3体のモンスターが姿を現す。 「伝承などに出てくる悪魔のような姿をした敵です。とりあえず、レッサーデーモンと呼称します」 人間の上半身を持ち、山羊に似た頭部と下半身を持つほか、背中からは大きなコウモリの羽を生やしている。 「腕には鉤爪が生えているようで、それを使って攻撃を行う他、マグメイガスのスキルに似た能力も使用するみたいです」 初歩的なもののみではなく、中堅クラスの使用するスキルに似た力を使いこなすようだ。 力は強く、動きも機敏。 肉体は頑丈で耐久力にも優れている。 「強力な敵ですが、こちらの通路はこのモンスターを倒す事ができれば試練を乗り越えた事になるようです」 対する2の通路は、文字通り迷宮の内部を目的地目指して進んでいく事になる。 幅も高さも同じくらい……5m程度の通路はすぐ先で分かれ道となり、更なる多数の分かれ道と扉を経て、大きな両開きの扉の先の大部屋へと続いている。 「今回は迷宮の罠と大部屋のモンスターの他、途中の通路の方にもモンスターらしき敵が現れるみたいです」 通路にいるのは人間よりも背の低い、角と牙を生やした小鬼のような人型のモンスターである。 「こちらの仮称はゴブリンとさせて頂きました。小振りの剣や斧を持っており、それを武器に襲ってきます」 個々の戦闘能力はリベリスタに比べ大きく劣るが、とにかく数が多いらしい。 「最低でも2体以上で迷宮内を徘徊しているみたいです。加えて近くで戦いの音等を聞けば、すぐに集まってくるでしょう」 全てを避けることは出来ないが、消耗を避けるためには出来るだけ戦いを避けた方が良いかも知れない。 「大部屋にいる敵の数は6体。こちらは武装した人間のような姿をした、黒い影のような存在です」 シャドウと呼称しますと前置きして、フォーチュナは詳しく説明し始めた。 幻想的、ファンタジックな、とでも言うべきか。 影の3体は鎧を纏い武器を持った戦士風の外見をしているようだ。 残りの3体は、それぞれ異なった外見をしている。 「弓を持った身軽そうな影、聖職者のような服装の影、ぶかぶかの服と帽子をかぶり杖を持った影、という内訳になります」 それぞれが、デュランダル、スターサジタリー、ホーリーメイガス、マグメイガスのスキルに似た力を使って戦闘を行うようだ。 ちなみに会話等を行うことは出来ないが戦うための知性等はある程度持っているようで、個々の能力を活かせるように行動するらしい。 「実力ですと皆さんの方が勝っていると思いますが、そこに行くまでに消耗したり大きなダメージを受けていたりすると、厳しい戦いになるかも知れません」 もちろん戦えなくなった者は強制的に迷宮外へと転移されるので、命の危険は無い。 「あとトラップの方ですが、今回は種類だけは判明しています。警報装置のようです」 迷宮内の通路の数ヶ所に仕掛けられているようで、作動すると周囲に警報音が鳴り響く。 「直接被害が出る訳ではないですが、徘徊している敵がいる事を考えると余計に厄介かもしれません」 音が周囲に響けばもちろん近くのそれを聞きつけたモンスターたちがやってくる。 ただ、警報は扉を超えては響かないようだ。 その辺りに上手く危機を切り抜けるチャンスがあるかも知れない。 「どちらの道を選ぶのかは、試練に挑む皆さんで決めて下さって構いません」 そう言って説明を終えると、マルガレーテはもう一度集まっていたリベリスタ達を見回した。 「迷宮に挑戦しても良いという方がいらっしゃいましたら……今回も調査への協力、お願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 6人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月13日(金)23:35 |
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■メイン参加者 6人■ | |||||
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●迷宮、再び 「試練の迷宮は、どうやら挑戦者を求めている様子だね」 「何の為に何を試そうとしているのかな、この迷宮は……」 『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)の言葉に続くように、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)は呟いた。 2人は共に以前の迷宮に挑み、それを突破した者たちである。 そして現れた、次なる試練。 (「まぁ手前で望んで挑んでる訳だし出来る事を出来る様にさせてもらおうか」) 「冒険の終わりに製作者の意図の一端でも測れれば良しとしよう」 自分に言い聞かせでもするかのように喜平が呟く。 (「遊びなのか挑戦者を選別しているのか、動機が気になる所ではあるけど……」) 「……今考えても仕方ないかな」 キリエもそう考え、思考に一旦決着を与えた。 「よくある謎かけとかだと『片方の道はハズレ』じゃない?」 同意を求めるように、『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)の言葉が響く。 「どっち行ってもゴールできる試練ってちょっと珍しいわね」 つまりはこれらの試練を挑む者が乗り越えてくれることを、創り出した者は望んでいるという事だろうか? 「今回は通路にも敵が出るんだね」 様々な不安を感じつつも、『ニケー(勝利の翼齎す者)』内薙・智夫(BNE001581)は、とにかく迷宮を突破するのだと自分自身に言い聞かせた。 もっとも不安の種は尽きず、次々いろいろと湧き上がってくる。 「これで倒した敵が復活したりしたら、まるっきりコンピューターゲームみたい……」 (実際に目の前でそんな事が起こると、ちょっとショックが大きいかも) 冗談ぽくしようとしても、笑顔が強張る感じなのだ。 対して『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)の顔には、挑戦を心待ちにするかのような何かが滲んでいた。 「私、こういう迷宮とか冒険とか結構好きですよ」 アニメとか映画の場面みたいで楽しいです。 そう言ってから彼女は、それに……と、付け加えた。 「私はまだまだ未熟です。試練があるなら乗り越えて、強くなりたいんです」 (皆を守れるように) 誰かが……あの人が守りたかったものを、守れるように。 その力を、そのための試練を……この迷宮は与えてくれるのだろうか? 「迷宮再び、か」 目の前に広がる、現実的でありながらもどこか無機質に感じられる通路を眺めながら。 四条・理央(BNE000319)は、問い掛けるように呟いた。 「破界器の迷宮はどこまで続くのかな?」 ●第2の道へ 隊列を整えると6人は早速、奥の部屋を目指しての探索行を開始した。 理央と智夫は用意した方眼紙等の紙と、ペンや鉛筆を使ってマッピングを行いながら進み、キリエも用意したマジックで分岐に通し番号を振ってゆく。 セラフィーナは低く飛びながら、罠に注意して進んでいった。 色が変わっている場所や、血等の付着している場所に注意するというのが、彼女の警戒指針の1つである。 以前の挑戦者の痕跡が消えてしまっている可能性はあるが、残っていれば危険を回避する手掛かりになるのではないか? そう考え、彼女は暗視を使って通路の先を確認しながら進んでゆく。 懐中電灯や暗視ゴーグルを用意した者もいるが、能力を活かせば更に先を見通す事が可能なのだ。 隊列の前衛に位置を取っていた喜平は頭を軽く振って呟いた。 「……馬鹿な事を考えてないで仕事しよう」 ナイスバディでちょい露出多目の女盗賊でも居れば、是非に場所を譲って後方から尻を眺めていたい。 そんな事をふと、考えたのである。 邪な考えを振り払うと、そのまま喜平は自身の力を破壊の気へと転化した。 戦いとなった際、いつでも全力を発揮できるようにする為である。 消耗の大きな能力ではあるが、永久炉によるエネルギー生成を行えば負担は大きく軽減されるのだ。 前方はセラフィーナや喜平、後方は智夫や理央らが警戒し、一行は隊列を組んで迷宮内を進んでゆく。 理央は常に2体の影人を作りだして最後尾に伴い、後方からの襲撃を警戒しつつマッピングを行っていた。 道は幾度か直角に方向を変えながら伸び、丁字路や十字路へと続いている。 十字路に着くと理央は更に影人を作成し、敵が来たら動かずに攻撃するよう命じてその場に残し、進んでいった。 今のところ何かが近付いてくる気配はなく、後方から戦いの音等が響いてくる様子も無い。 セレアは事前に聞いた警報装置に警戒しながら進んでいた。 足下に不自然な切れ目、踏むと凹むスイッチ的なものが無いか? ワイヤー等が張られていないか? そういったことを注意する。 「ワイヤーが張ってないかは、長めの棒の先に軽い重りを下につけた紙テープ垂らしたものを、釣り竿みたいな感じで前に掲げて歩くといい、って知り合いの軍人が言ってたわね」 紙テープ程度ならワイヤーに触れても反応しない可能性が高いし、明確に動くから見つけやすい。 そんな言葉を思い出しながら、彼女は足元に警戒した。 そういった発動装置は一般的には多いのかも知れないが、何しろ今回はアーティファクトが創り出した迷宮が舞台である。 (神秘的な意味で常識が通用しない可能性もあるわね) そう考えれば、警戒のし過ぎという事は無いだろう。 皆も、速度より万全さを取るという方針で進んでいるのだ。 魔術知識や深淵を覗く力を総動員して、彼女は周囲を警戒する。 そのまま6人が1つ目の扉を越えた後だった。 微かな足音と声のようなものが響いた後、通路の先から武器を持った小柄な存在が姿を現す。 一行は即座に戦闘態勢に入った。 ●戦い、そして先へ 現れたゴブリンの数は2体。 それに対して真っ先に反応したのはセラフィーナだった。 霊刀東雲が光の飛沫を舞い散らせるような幻を残して、怪物の身を斬り裂いてゆく。 続くキリエが全身から伸ばした気の糸を通路へと拡げ、ゴブリンたちを貫いた。 セラフィーナの攻撃で傷付いた1体はそれで限界を迎えたらしく、悲鳴をあげながら消滅する。 聖光を掌に宿した智夫も、残ったゴブリン達へと裁きの光を向けた。 断末魔を封殺することで少しでも敵の結集を防ごうと、喜平は鉄塊の如き巨銃にオーラを纏わせ、怪物の頭部へと叩き付ける。 続くセレアの攻撃が止めとなった。 放たれた拡散する雷を受けて、ゴブリンはもんどりうったように倒れ、消滅する。 理央の番を待つことなく戦いは決着した。 一行はそのまま移動を再開する。 次の扉を越えたところで6人は傷や消耗の回復を素早く行い、短い休息を取ってから再び歩き出した。 喜平は不意の遭遇や襲撃を警戒し、曲がり角や先が見通せない場所には特に注意を払いながら、罠に関しては壁や床に注意を払いながら進んでゆく。 彼も暗視能力のお陰で、先を見通すということに関して不便は無かった。 智夫と理央は後衛でマッピングを行いながら、それぞれ周囲に注意する。 智夫は物音等が聞こえないかと耳を澄まし、理央は引き続き後方へと気を配った。 残した影人たちが戦ったのか、時折大きな音やゴブリンたちの声らしきものが響く。 通路が幾度も向きを変え、前に通過した交差路に辿り着く事もあったが、キリエの付けた印や理央と智夫の作成した地図のお陰もあって、6人は3つ目の扉を越えることに成功した。 時間が掛かりはするものの堅実な方法で、一行は迷宮を進んでゆく。 本来ならそれだけ多くのゴブリンたちに察知される可能性があったものの、後方に残す影人の影響もあってか、6人はこれまで大きな集団とは遭遇せずに迷宮内を進んでこれた。 もっとも、小集団との接触は幾度も発生している。 後方から敵が現れた事もあり、前後方の者たちは小さな傷を負っていた。 それでも警戒を続けていた甲斐あって、喜平とセレアは床板がスイッチとなって沈み込む仕掛けを発見する事に成功した。 セラフィーナが床に触れぬように翼を羽ばたかせて先行し、沈み込む床板が一枚分だけなのを確認する。 引き返す事は考えず、一行は5mの床板一枚を飛び越え、あるいはセラフィーナの助けを借りて乗り越える事で先へと進んだ。 そして、4つ目の扉を突破する。 挑戦者を待っているなら、部屋の周囲は特に警戒しているはず。 そんなキリエの推測を裏付けでもするかのように、ゴブリンたちの出現する頻度は増していった。 それでも、一度に多数との戦いを行わずに済んだことで、6人の消耗と負傷は大きく軽減されていたのである。 ●最後の部屋へ向けて 一度確認した形状のトラップは確実に回避できるようにとセレアは床板を警戒し、智夫は何か物音を聞きつければ即座に皆に注意を促した。 少数が相手で不意さえ打たれなければ、ゴブリンは6人の敵では無い。 速さと精確さを備えたセラフィーナの攻撃は時にゴブリンを一撃で葬るだけの鋭さも備えていたし、セレアの放つ雷の直撃を2度耐えられるゴブリンは存在しなかった。 それだけ消耗も大きかったが、セレアは敵から力を奪う能力を持っていたし、キリエと智夫という2人の癒し手も控えている。 キリエはそれ以外でも戦いの際、敵の何かが探れないかと感情探査も行なっていた。 どんな気持ちでいるのかという興味があったし、迷宮の謎のヒントになるかもしれないという想いもあったのだ。 残念ながらゴブリンたちからは感情らしきものは察知できなかったが、それはキリエに別の考えや疑問を投げかけた。 つまりこのゴブリンたちは、いかにも感情があるかのように騒いだり動き回ったりするが感情の無い、プログラムのような存在という事ではないだろうか? 考えつつもそれに溺れることなく、キリエは落ち着いた態度のまま戦い、道を進み、分岐路に印をつけてゆく。 喜平も堅実な活躍で、探索と戦闘に貢献していた。 攻撃力は勿論だが、彼の特徴は防御力を含めた耐久力、エネルギーを生産し続ける事による継戦能力にもある。 突破される事なく前線で敵を押し止め、弱っている個体を狙うことで確実に敵戦力を減らす。 数が多ければ突出し、範囲攻撃で一度に複数を薙ぎ払う。 探索の方に関しては戦闘のような派手さは無かったが、それは逆に言えば大事にならなかったという事である。 発動させる事なく警報を発見することで、彼も敵との遭遇を減らす事に貢献していた。 とはいえ遭遇を避けるという点で最も貢献していたのは、影人を活用する事で敵を別の場所へと引き付けた理央と言える。 戦闘に関しては後衛から援護として攻撃を行う程度に留め、探索時は地図の作成などの重要ではあるが地味な作業を続けていた彼女は、多数の影人を操る事で多くのゴブリンたちをそちらへと向けさせ、チームの消耗を大きく軽減していた。 もっとも、彼女がそれだけ力を揮う事ができたのは、絶えず回復を行った智夫とキリエが居たからこそでもある。 理央も自身で消耗を回復する力を持ってはいたが、それだけでは容易に回復できない膨大な魔力を彼女は消費していたのだ。 だが、その甲斐あって彼女やキリエ、セラフィーナらが警戒していたような、多数のゴブリンから包囲され襲撃を受けるという事態は発生しなかった。 遭遇したゴブリンたちを取りこぼす事なく撃破しながら一行は迷宮を進んでいき……探求の末、目的地を示す両開きの扉の前へと到着したのである。 ●影との戦い 扉の前に到着した時点で、理央とキリエは後方の状況を確認した。 智夫も不審な物音等が聞こえないかと耳を澄ます。 敵が迫っている様子は無さそうだった。 一行は態勢を立て直し、戦闘準備を整える。 智夫とキリエは負傷や消耗の回復を行い、理央も癒しの力を用いて傷付いた者を回復させた。 キリエは詠唱によって大天使の力を具現化させ、魔に抗する力を理央へと施す。 喜平は改めて破壊神の如き闘気を身に纏い、セラフィーナは全身に雷光を纏うことで自身の反応速度を究極の域まで昇華させた。 準備を整えた一行は扉を開け大部屋へと突入する。 全員が部屋へと入り扉が閉まるのと同時に部屋の中央に6体の黒い影が現れ、6人に向かって動き出した。 戦士風の3体が前衛となり、弓使い、魔法使い、僧侶らしき姿をした影たちが後衛に位置し、リベリスタたちを攻撃しようとする。 その機先を制するように、圧倒的な速度でセラフィーナが戦士の1体へと距離を詰めながら刃を抜いた。 かつて姉の手に在って鬼の王すら傷付けた刃が、光を迸らせながら黒い戦士を瞬時に貫く。 キリエは部屋中へと伸ばした気の糸を操り、後衛たち、特に僧侶を第一目標として、弓使いと魔法使いも範囲に含められるようにと計算しながら精密攻撃を開始する。 影たちより先に動いた智夫は、まず魔法使いらしき影に向かってエネミースキャンを開始した。 対象を行動不能にする攻撃手段を持っていた場合、優先して撃破しようと事前に方針を定めていたのである。 魔曲・四重奏に似た能力を所持している事を確認した智夫は、即座にそれを仲間たちへと連絡した。 直後、敵の後衛にいた弓使いがセラフィーナへと狙いを定める。 素早く、まるで動きを見切るように放たれた矢は、特殊な効果こそないものの精確にセラフィーナを貫いた。 派手さは無いが厄介な攻撃である。 加えて後衛にいる以上、遠距離攻撃手段を用いなければ集中攻撃も難しくなる。 喜平はまず敵前衛を牽制すべく前進した。 巨銃を高速で旋回させる事で烈風を生み出し、それを纏ったまま2体の戦士に向かって突撃する。 後衛に位置したセレアは暴れ狂う雷を両手の内に創り出すと、それを解き放ち部屋中へと拡散させた。 放たれた雷は轟音を響かせながら一帯を翔け抜け、後衛たちを薙ぎ払う。 理央は戦士たちを足止めするように前衛に位置を取ると、不運をもたらす力を僧侶の影へと向けた。 残存する影人たちは後衛を庇うように位置を取る。 麻痺していない戦士たちは喜平とセラフィーナへオーラを纏わせた武器を振るって攻撃を仕掛け、魔法使いは毒の魔弾をセレアに向けて発射した。 セレアを庇った影人が、魔弾の直撃を受けて消滅する。 そして最後に僧侶が、味方全体へと癒しを施した。 派手さは無いものの崩し難い堅実な戦い方である。 それを破る為にと、リベリスタたちは先ず僧侶に攻撃を集中させた。 キリエは射線を確保できるように移動しながら気の糸で後衛たちを狙い、智夫も回復が不要と判断すれば聖なる光で武装した影たちを焼き払った。 回復が自分だけでは厳しいと判断すれば理央へと呼びかけ、それに応じるようにして理央は攻撃の合間に癒しの力を揮う。 喜平はそのまま烈風で戦士たちを翻弄し、セレアも強烈な雷を連続で放って敵の後衛たちを攻撃し続けた。 シャドウたちもリベリスタ側を切り崩すべく攻撃を集中させようとするものの、戦士たちは喜平によって行動を妨害されセラフィーナに翻弄され、その力を完全には集中できない。 弓使いと魔法使いは後衛のセレアへと攻撃を集中させようとしたものの、智夫と理央の癒し、影人のカバーによって攻撃を妨害されていた。 僧侶は変わらず全体回復を行っていたものの、不運等の異常によって力の発動すら失敗する事もあるという状態である。 その状態で、キリエ、セレア、理央の攻撃に加え、一時的に戦士たちの動きを留めた喜平が加わった事で、僧侶は限界を迎えたらしかった。 喜平が放ったエネルギー弾の直撃を受けた影が、周囲に飛び散るようにして消滅する。 それを確認したセレアと理央は、優先目標を魔法使いへと変更した。 「アークがここまで歩んできた道は、とても厳しいものでした」 (けれど、その全てを乗り越えて私達はここにいる……だから!) 「こんな試練なんかには負けられないんです!」 東雲を閃かせ高速の刺突を放ったセラフィーナは、そのまま手を留めずに連続攻撃を繰り出した。 堪え切れず、彼女と対峙していた戦士の影が消滅する。 魔法使いは全体を攻撃する雷や多数の状態異常を伴う強力な単体攻撃を繰り出してきたものの、智夫はキリエや理央らと声を掛け合いながら回復を行うことで、被害を軽減する事に成功していた。 続く集中攻撃で、魔法使いは呆気なく撃破される。 半数、しかも回復役と強力な攻撃手を失った時点で、戦いの趨勢はほぼ決した。 それでも、最後まで油断することなく。 智夫が回復を続け、喜平は動きを妨害し、キリエは回復と攻撃を使い分け、理央、セレア、セラフィーナが攻撃を集中させる。 それから1分と経たずに戦いは終わり、リベリスタたちによって全てのシャドウが撃破された。 ●試練の先 「それで、クリアーおめでとう的な御褒美はないのか?」 冗談めかした風の喜平の言葉に続くように、皆の内に声が響いた。 『見事だ、汝らは試練を乗り越えた』 同時に、周囲の風景が揺らぎ始める。 以前と同じその光景を眺めながら……キリエは考えた。 この創り主は何を望んでいたのか? 自分はそれに応えられたのだろうか? その行きつく先に、何があるかは分からない。 ただ……誰かの問いかけなら。 「答えられればいいなと思う」 そんな事を考えながら…… キリエは再び、仲間たちと……現実へと帰還した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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