●魔煉の塔へようこそ 『魔煉の塔』と呼ばれる場所がある。 建造されて数年。まだ規模は小さいようだが、それはエリューション組織であり、いわゆる研究所であった。 革醒し運命を手にした者、その全てが戦いの中に身を置くわけでは無い。善、あるいは悪、そのどちらでもない道を進む者もいるのだ。 神秘について勉強し、自身の身の置き所を神秘世界としながらも、リベリスタ、フィクサードという概念に囚われずなお神秘を解析し続けることに没頭する生き方も存在する。 その志は決して、否定される生き方ではないのだと思う。 話を戻そう。 『魔煉の塔』と呼ばれる場所がある。 革醒し神秘について勉強した者が、なお神秘の可能性を夢見て日々研究を積み重ねる場所。 道無き道を作り、神秘世界という広い夜の海に明かりを灯す。未来を目指す者の道しるべとなるように。 新たな力を求め神秘技術を発展させる。いつかその理想が未来の現実となるように。 リベリスタでもフィクサードでもない中立の神秘研究組織。それが魔煉の塔である。 ●逸脱者の集うかの地 息を吐く。綿密に繊細に練り上げた神秘、紡ぎ高めた魔力。脳から全身に渡った痺れを解きほぐすような吐息は、ついで荒ぶる神秘を解き放つ術式を象って。 突き出した指先に魔力が収束する。術者はそれを地面に叩きつけ――力の解放は一瞬! 瞬時爆風が前方の人型を模した標的の足元から噴きあがる。その勢いは周辺に散らばらせた布切れはもちろん、木材すら空へと舞い上がらせる……が、さほど重量のない人型は倒れず揺れるにとどまっていた。 「――ふぅ」 息を吐く。今度は純粋に身体を休めるために。 「おお、相変わらず見事なもんじゃのぅ」 術者の優男の肩が背後から強く叩かれる。にぃっと歯を見せた大男は落ちてきた木材を受け止めて。 「あれだけの勢いでありながら、人体を傷つけず撫で上げるように噴きあがる。烈風にしてそよ風。絶妙な力加減、妙技じゃのぅ」 「そっちこそ」 大男は身体中おびただしい量の汗をかいていた。そしてそれは優男も同じ……大男が近づいた時からだが。 「同じ部屋にいるだけで熱気にやられそうだ。汗で張り付いて服がぐっしょりだよ。見事な術だ、火の」 「お互い様じゃな、風の」 男たちは笑みを向け合い、再び修練へと戻る。自慢の術をより高みへと。幾度も繰り返すことこそ練達の道と信じて。 その彼らが手を止めたのは、別の同志が興奮気味に駆け寄ってきたからだ。 「新しい術を開発したぞ!」 「おおそれはめでたい! して、どんな術じゃ?」 神秘研究に命を燃やす彼らは、日々己独自の神秘を編み出すため努力している。同志の日々の努力が実ったことは喜ばしいことだ。駆け寄ってきた小男が自慢げに口を開く。 「聞いて驚け。なんとこの術は――周囲の女をちょっとえっちな気分にさせるのだ! どんな貞淑な女もこの術でぶべらっ!?」 顔面に拳を叩き込まれ鼻血を振りまいて地に沈んだ小男を、男たちが冷たく見下ろした。 「男の風上にも置けないクズめ」 「待ってくれ! これは男の浪漫じゃないか!」 必死にすがる小男に、しかし優男は怒りに震える声音を搾り出す。 「何がえっちな気分にさせるだ……女の子はそういうもんじゃない! 女の子ってのはな、女の子ってのはなぁ……ふわふわのマシュマロの類で出来た天使ちゃんなんだよ!」 「天真爛漫純粋無垢、はにかみ笑顔はそっと触れるべき壊れ物! 女の子は無条件で良い匂いがするもんなんじゃー!」 マヂ顔であった。 「お、おお……おおお」 泣き出した。 「僕が間違ってたよ! 女の子は天使なんだ! こんな間違った研究……こうだ!」 ビリビリと音をたて、紙の吹雪が空を舞う。それを穏やかに見つめて、男たちは小男の肩を叩いた。 「それでいい。お前には服を急激に乾燥させて縮める術があるじゃないか、乾燥肌の」 「ああ。自分の術の練達に努めるよ」 彼らは誇らしげに笑いあう。空には紙吹雪。背景には厳かな彼らの学び舎。 ここは魔煉の塔。神秘について勉強した者が、なお神秘の可能性を夢見て日々研究を積み重ねる場所。 彼らの悲願はただ一つ。望む神秘を発現させること! 「日々研究し、練磨し術を高め……そしていつか完成させてみせる」 見よ、生徒たちのこの希望に満ちた表情を――! 「幸運事故(ラッキースケベ)を自由自在に操る神秘を!」 ●賢者の学院? はあ? 「ぶっ潰してきてくだサーイ」 満面の笑みを浮かべて『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)がリベリスタに手を振った。 「……とりあえずもう少し説明を」 「ぶっ潰してきてくだサーイ」 「いや……」 「ぶっ潰してきてくだサーイ」 よく見ると目は笑っていなかった。 「魔煉の塔とは、とある学術機関を卒業した生徒たちが集まり、より深い神秘の研究に没頭する組織デース」 まぁ良いことだ。 「ただしその神秘は突発事故(ハプニングエロ)限定デス」 良いことじゃなかった。 「というわけデ、魔煉の塔の研究活動はめでたくフィクサードであると認定されたので塔をぶっ壊すことが決まりマーシた。主にワタシの意見で」 まぁ女の敵だよね。 「魔煉の塔は文字通り塔の形をしていマース。人気のない山奥に建造された5階建ての塔ネ。最上階にいる学長の馬連導師が塔の爆破スイッチを持ってるので奪ってポチッとなしてくだサーイ」 なんでそんなの持ってるの。 「それぞれの階には四天王が待ち構えていマース。皆オリジナルの秘術を使ってきますので気をつけてくだサイね。どれも威力は皆無デースがラッキーハプニングの危険がありマ-ス」 何に気をつけろと。いやわかるけど。 「あと特筆すべきは……ンー、卒業した学院の影響で全員『あえて穿かない』デスが特に気にする必要ないネ」 「気にするわ!」 「いーからもっとテンション上げろヨ。悪党倒してうまくいけばラッキーハプニングだぜひゃっはーでいこうゼー」 「お、おー!」 「強制なら仕方ないな、久々にエロくなるとしますか!」 「そろそろ俺も本腰入れるとするか」 一部無理やり士気向上、そのままダッシュ。一方で当然だだ下がり。 「……あの、最上階まで変態の相手しながら登っていかなきゃダメなの?」 嫌そうな言葉にさらりと。 「最上階に窓あるよ?」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年11月30日(土)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●男祭りになると思っていた時期が私にもありました。 森の奥深くにそびえたつ異形の塔。見る者を圧巻させるそれは神々しさすら感じさせ。それは内部から漂う神秘の存在故か、あるいは――今より誘われる戦いへの緊張か。 表情を引き締める一行。その中でも『Small discord』神代 楓(BNE002658)の表情はより深く。 塔の研究はフィクサード活動であると認定された。世界は彼らを討つべき敵としたのだ。それでも。 ――何だかんだ言って俺も男だからな。あんた等の気持ちは良くわかる。 が、それを口に出したら楓の命が危ない。だから楓は戦う。戦うが―― 「なので、応援するためにハイテレパス取ってみたぜ!」 今ト゛ヤァって音がした。 「……そのうちマステレ取りたいなって思ってたし……後悔なんて……あるわけ……」 ネタ専乙。 さて、楓の手にしたビデオが撮影音を立てる中(この時点でばればれ)、その隣で同様にデジカメを構えるロイヤーがいる。 ロイヤーがいる。 「こーゆー依頼では他人様の姿になっておとーさんのでぃーどらいぶに貢献するのデース」 いつものビキニ、いつもの口調。違っているのはその中身。『究極健全ロリ』キンバレイ・ハルゼー(BNE004455)、本日は濡れ透け対策に他人様に怪盗中である。つかおめーなにしてんの。 「あと皆さんの勇姿は念写でデジカメに記憶するのデース! 頑張ってらきスケしてくだサーイ」 つまりそういう戦いである。 全身タイツにネクタイを締め、日差しに輝いたのは胸に付けた校章だけではない。 静かに塔を見上げた『最高威力』鎖蓮・黒(BNE000651)の眼を濡らし輝かせ滴り落ちた雫。 母校。学び舎で時を共有した、懐かしき――旧友(とも)。時間を忘れ熱く理想を語らいあった。肩を叩き夜明けまで飲み明かした古き記憶。 それでも――今日黒はリベリスタとしてここに来た。その意味を噛み締めて。 口を開く。けど、言葉が出ない。何かを、言おうとして―― 「ぱんつはかないと何かよいことあるですか?」 別の口から言葉が出た。とんでもないのが。『水睡羊』鮎川 小町(BNE004558)は「んー」と思案顔。 世の中には知らないことがたくさんあるものだと頷いた小町は、試しにと本日は穿かないでここに来ている。 「はうぅ、お股がたいへんすーすーするです」 やっぱりよいことないですと結論が出た模様。 「ぱんつは穿いた方がよいわ。お風邪ひいちゃいますのよう!」 小町が教えてあげるとキリッと睨みつけた先、魔煉の塔がその口を開く。 ●第一の刺客! 登場! 風のウィンダリオ! 「来たか、崇高な神秘を理解しない輩め!」 突きつけた指先に風が纏う。四天王の1人ウィンダリオが見つめる先、一行の先頭に立つ少女は―― 「おとこのこもおんなのこも慎みだいじ! わたしがみんなを守るの!」 鉄甲をつけた腕を伸ばし開いた。柔らかな笑顔が決意に染まる。鉄甲に載せた想いは、友達を護り抜く乙女の意思! 「――天使」 「ふぇっ!? 今日は清楚なメイドさんだもん!」 新しく購入したメイド服仕様の『囀ることり』喜多川・旭(BNE004015)。普段の衣装はきわどいらしいよ。重要。 「もう、がつんと教えてあげるの!」 そのがつん(物理)は清楚じゃない。とにかく飛び出した旭、その身体を足元から風が取り巻く! 「見られてもへーきなぱんつだから恥ずかしくないもん! ……あう、やっぱなんかはずかし……っ」 すねから太ももへと撫でるように駆け上る風。ぞわぞわっと背筋に走る感覚に旭が顔を歪める。 「やぁあん! えっちなのだめー!」 必死にスカートを抑えるも、用途に特化した魔術の前には無力――っ! 「って、あ、あれ?」 風の影響が掻き消える。静まった風にほっと胸とスカートを撫で下ろせば、見上げた先に鉄混じりの背中。 愛する自慢のカラダと胸を張って、不埒な視線から旭を護る。風が揺らした肢体に注がれた視線を受け止めくすりと笑い。 「見えてるんじゃないわぁ、み・せ・て・る・の、よぉん♪」 投げキッスと共に『肉混じりのメタルフィリア』ステイシー・スペイシー(BNE001776)がポーズを決めた。 「すていしーさんすていしーさん、つつしみ、だいじです……!」 慌てる旭に「あらん?」と首かしげ。 ならばもう一度――紡ぐ風を止めたのは音無き咆哮、魂の音叉。ウィンダリオの目線がテレパスの主、楓へと向けられた。 ――突風によるパンチラは確かに素晴らしい。だが、それは奇跡の瞬間を目の当たりにできたという喜びも大事なんじゃね? 驚きに見開かれた眼。だが楓は構わずその先を紡ぐ。 ――この面子、たゆん居るだろ! 下からの突風ができるんなら、たゆんの揺らし方にも拘れよ! ちょっと何言ってるかわからないです。 「――開眼しました!」 理解しちゃった。 再び紡ぐ術式。けれど今度はより深くシンクロさせ、ターゲットを正面に立つロングスカートに絞って! 「舞い上がれ!」 吹き上げる風がスカートを巻き上げた。ドヤ顔はしかし、すぐに放心へと変わる。 舞い上がったスカートをそのままに、『心殺し』各務塚・思乃(BNE004472)は微笑をたたえていた。 ウィンダリオが口を動かす。が、言葉は出ない。 「ガーターベルトをしているだけよ。穿いてないわ」 だってそのほうが、素敵でしょう? 優しく笑いかける。釣られてぎこちない笑みを見せて―― ――パァンッ! そのままの表情でウィンダリオが床に崩れ落ちる。 腹に一発。失神した男を見下ろして。 「だって、興奮するじゃない?」 にこりと思乃が微笑んだ。 ●第二の刺客! 熱き漢の咆哮を聞け! 「最上階目指してれっつらごーですっ」 てててと走る小町。その足が何かに取られればそのままつるーっと滑っていく。 「わ、わ、こまちスケートすきよ」 楽しそうだ。 見れば床がつるつるしていた。視線が奥に進めば進むほど床を濡らす液体は増えていき――奥で滝の如く垂れ流す人型がある。否、人型は人、滝は……汗! 誰かがひっと息を飲んだ。自らの汗をぴしゃりと踏みつけて大男が歩み寄る。 「わしの相手は誰かのぅ」 「どんどん汗がでてくるのよ」 ゴルゴンゾーラが近寄るにつれ、小町のみならず一行の額、うなじ、そして服の内側と汗が滲んでいく。 ――これは良い。 「おお?」 届けられたテレパス。例の如く楓である。 ――ただ水に濡れるわけじゃない、汗で濡れるから良いんだな! だから、アレだ、頼むからもっと長いこと頑張ってくれ! 「諦めんなよ! もっと熱くなれよ!」 熱くなりすぎて途中で声が出てた気がする。 「ぬるぬるちょっとたのしーです。ふぁいとー、なのよう!」 が、小町も叫んでたので見逃された。 「がはは、ファンの要望にお応えして火力アップじゃ」 急激に噴出す汗。このままでは服が透けるのも時間の問題だ! 「む?」 ざっと、1歩踏み出して鉄甲を向ける。キッと睨みつけた旭の口上! 「正義とか悪とか、リベリスタとかフィクサードとか関係なく、へんたいさんは殴っていいってわたし学んだの」 鉄甲に纏う赤が汗を輝かせる。火を扱う大男に、より強き炎を魅せつけて。 「火はわたしのが上手に扱えるよ」 言うや駆け出す! 「わしの熱を越えられるか!」 意識をそちらに向ければ、熱が集中し旭を襲う。吹き出る汗に、服が―― 「ねぇん?」 呼びかけに首を動かしたゴルゴンゾーラ。視線がステイシーに絡めば、指が穿いてない大男の下方を指し示す。 ちっちっちっ。指が左右にゆっくり振られた。 そして、ふっと薄笑い。 「ぬぐおぉ!? ……は、しまっ――」 意識の集中を解かれ、慌てて正面を見ればその眼前に容赦なく迫る炎の拳! 「うぼあー!?」 ずびしゃーと自らの汗をすべり壁に激突すれば、大男は完全に沈黙する。 「アレコレ変な塔をおっ立てるよりもぉ実践積まなくちゃ、ねぇん?」 微笑むステイシーを振り返り。 「しょうりっ!」 旭が誇らしく笑顔を見せた。 ●第三の刺客! しゅんころ 「ここまで来たということはやつらは倒されたか……まぁいい、やつらは四天王の中で最弱、我らのべんば!?」 小男がそっこー殴り飛ばされました。ふーふーと息を荒げ、首をかき切るジェスチャーを見せたステイシーが歩み寄る。血走った目で。 「あ・ん・た・ねぇ。乾燥してボロボロになった肌を毎日毎日ワセリン塗って鎮めては悲観にくれる気持ちとかぁ、 逆にファンデーションで隠そうと厚塗りした挙げ句悪化する負のスパイラルに陥った背伸びしたいお年頃の気持ちとかぁ、 世の中のいたいけなオニャノコの心を踏みにじろうとした罪は、おーもーいーわーよぉぉ!」 「ひぃぃ!?」 開始5秒で勝負が決まりそうだ。 「ワオ! ちょっと待つデース! ビキニが縮んでぱーんと胸ぽろりは、おとーさんのでぃーどらいぶの糧にする必要がありマース!」 先程まで黙々と女の子たちの姿を念写し続けていたキンバレイ。このままでは神秘が発動する前に終わってしまうと、他人様の身体なので遠慮が全く無い。 その隙に慌てて距離を取った森口が、神秘の術式を練り固めていく。全ての衣類を縮めるために――! 「乾燥肌なの? 大変」 耳元をなぞる吐息に術式が霧散した。隣で思乃が優しく笑顔を見せる。 「私が使ってる化粧水と乳液使う? 塗ってあげようかしら?」 ――ね、マッサージしてあげようか? 耳に残る艶やかな声。意味深な言葉に顔を真っ赤に染めた森口が「は、はひ……」と顔を上げ―― 「じゃあしてあげるわねぇん?」 ステイシーが入れ替わってた。 「乾燥肌はもちろんぶっころ☆」 悲鳴が3階を覆い尽くした。 ●第四の刺客! イケギャクパラダイス いくつもの試練を乗り越え、最上階まであと一階層。 多くの者が(心に)傷を負っていく現状、涼しい顔で駆け抜ける者もいる。 「なんと言うか、間違った方向に情熱を燃やす輩って居るものね。野に出る前にしばけ、ってことなんでしょうけど」 ここまでの刺客を思い出し衣通姫・霧音(BNE004298)は嘆息を漏らす。 ――まあ私は、彼女が必要以上に被害を受けなければそれで良いわ。 ちらりと隣を一瞥する。並び共に駆ける親友を。 「みんなみんな、わたしの手の届く限りまもるから。手を伸ばすから。わたしの全部で、みんなをまもるの」 旭がどこか虚ろな目で呟いてた。 疲れがピークに達してきている。霧音の視線に気付き、慌てて旭が手を振った。 「だいじょうぶだよ。きりねさんは、わたしがまもるから!」 そう言ってにこりと笑った親友の顔を霧音は抱き潰す。 「ふぁっ!? きりねさんー?」 「貴女は私が守るわ。友達だもの」 そう微笑んで。 「此処が一番心に来そうね……」 霧音の視線を辿れば、視界を埋め尽くす肌色の群れ。いやこれもうすでに来てる。 顔を引きつらせそちらを見る一行、その瞬間影から振りまかれたオリーブオイル! 「ひゃっ!?」 悲鳴を上げたのは旭。被害を受けたのは――それを庇った霧音だ。 「わ、わたし守ってる場合じゃないよう!」 ぬるぬるのオリーブオイルが霧音の胸元を濡らし、着物に染み込んで肌に押し付けられていく。 「……微妙に恥ずかしいから止めなさい」 霧音の言葉を待たず、追いオリーブが更に襲う。追加の油が霧音のスタイルの良い輪郭を浮き上がらせれば、うっすらと濡れた襦袢が覗かせて。 「……」 着物はそう簡単に透けはしない。わかっている。が。 「……つまりやっぱり恥ずかしいから止めなさい」 静かな怒りが霧音の表情に重ねられた。 もこっちが新たなオリーブオイルを握り再度振るう――前に立ちはだかった思乃。 「なんでも料理にオリーブオイルを加えればいいっていうものじゃあないわ。なぜならオリーブの匂いで本来の料理の匂いが消えてしまうからよ」 邪道だわとオリーブオイルを否定すれば、怒りのオリーブオイルが襲い来る! びしゃりと音を立てれば油でぬるぬるになるのだが――濡れた服を思乃はあっさり脱ぎ捨てた。下のガーターにお揃いの黒いネグリジェが姿を見せ。 「あら、みえる? ふふふ。いいのよ、いくら見ても。減らないもの」 気にしないわと口にして。 ――だって、興奮するもの、ね? 言葉と腹パンは同時に繰り出され。 「ううう……だめー!」 ぬるぬるの霧音、迫るぬるぬる四天王たち。それらの姿にここまで溜まった緊張と恥ずかしさが臨界に達したらしい。顔から蒸気を発して旭が絶叫と共に見境なく暴れだす。 その姿にぴきりと音を立てたのは別の人物。親友の泣き声が引き金となったらしい。 「はずかしかったんだから……っ!」 旭の頭をよしよしと撫で、その周囲に浮かぶ桜の花弁。 「ひとつ言っておくわ」 そうしながら、霧音は深く笑いかける。 「この着物、結構気に入ってるのよ……お前ら全員叩きのめすわ」 殺 意 全 開。 真の怒りは当然親友の涙であろうが……ボロ雑巾たちには関係ない話。 あ、章タイトルはイケメンギャクサツパラダイス。 ●俺たちの還る場所 「おめでとう。君たちの勝ちだ」 最上階でそんな声が一行を出迎える。魔煉の塔責任者、馬連導師その人だろう。 「導師……貴方が此処の責任者よね」 対する霧音が油断無く櫻嵐に手をかけながら問う。 「貴方は何か研究とかしてないの?」 「馬連先生が教えるのは、生きるすべで御座います」 声は後ろから。馬連が懐かしさに目を細めた。 「黒、君であったか」 鎖蓮・黒。かつての教え子。中立の学園組織の中で、神秘世界を生き抜くすべを叩き込んだ者。 黒はゆっくりと頭を下げた。 「恩師馬連先生御久しゅう御座います。神秘の深遠を仰ぎこのような素晴らしい塔を。ご立派に御座います」 そう口にした黒の、その表情を馬連は忘れないだろう。 「わたくしに禁断の技ギガクラッシュをお授けくださった日を覚えておりますでしょうか。先生はおっしゃいました。ひとたびこの技を使えばリベリスタかフィクサードどちらかの道を歩む事になると」 馬連はその話の続きを知っている。黒の、その涙が物語っている。 世界へ影響を及ぼす事は中立たりえない。故に、中立たる学院を去る日が来たことを。 「わたくしはリベリスタとなりました」 それが答え。そして、今ここに黒がいる理由だ。 決意の鉄槌が音を立てる。 「先生。ここはもう一つの学院だった筈の場所です。今先生が行おうとしている事はフィクサードの所業に他なりません……止めさせて頂きます!」 そこにいるのはリベリスタ鎖蓮・黒。教え子の、この立派な姿に涙せぬ師がいようか。 「ああ……来い、黒!」 男たちが笑いあい、向かい合い―― 「まあ、どの道最終的にはこの塔爆破するんだけど」 窓を振り返ると一行が背に翼を生やし離脱していた。霧音がいつの間にか手にしていたスイッチをポチっと押して。 窓から脱出した霧音の背中越しに、爆音が森中に轟いて。 ●Ten Years After(嘘) 「終わったわね……」 終わらせた霧音が感慨深げに呟いた。 「ああ、全部終わったんだ」 楓が興味なさげにビデオの調子を確認していた。 「ところでこの塔、どうして潰されるですか?」 小町、お前。 「おとーさんのでぃーどらいぶのためとはいえオイルまみれは辛いのデース」 他人様の姿をどろどろに汚し続けてもデジカメを死守し続けたキンバレイが、その変装を解いた。 「最初から最上階の窓に突入すれば楽でしたよね。らきスケ無くなるので言いませんでしたけど」 仲間たちに翼を生やす力を持つ少女はそんな言っちゃいけないことを平然と呟いて。 「これでよかった……んだよね」 「きっと満足してるはずよん」 旭の呟きにステイシーが優しく肩に手を添えた。 思乃が黙って手を合わせる。 「あ、そうです。ロイヤーさんにきちんと報告しないと」 全く興味ないんだなキンバレイ。 一行は炎を見つめていた。 一つの時代が終わりを告げたのだ。 愚かで、不器用で、それでも確かに一つの生き方を歩んだ、その墓標。 崩れる塔は、漢たちの墓標だった。 ――ワン・フォア・オール、オール・フォア・ワン―― 「え?」 誰かの声がする。いや歌だ。優しく響く歌だ。誰かを許し、許される。そんな歌だ。 炎の中で山が動く。揺らめき近づくそれは徐々に大きく――煙が晴れて姿を現す。 気絶した30を越える人の群れを背負い、その下でゆっくりと力強く歩むその男。 男は優しく歌を響かせて――そして穏やかに微笑んだ。 「ハッピーエンド、ですね」 ――帰りましょう、私達の母校へ。 鮎川 小町 ――ぱんつはかないと何かよいことあるですか? 各務塚・思乃 ――だって、興奮するじゃない? キンバレイ・ハルゼー ――おとーさんのためとはいえ、オイルまみれは辛いのデース 衣通姫・霧音 ――つまりやっぱり恥ずかしいから止めなさい 喜多川・旭 ――つつしみ、だいじです……! 神代 楓 ――後悔なんて……あるわけ…… ステイシー・スペイシー ――乾燥肌はもちろんぶっころ☆ 鎖蓮・黒 ――帰りましょう、私達の母校へ 『魔煉の塔』 and ―― 『賢者の学院』 Thank you all ~ FIN ~ |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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