●悪魔の囁き 偶然が重なった結果の、悲しい事故だった。誰が悪いのか、と問われればた だ単純に『運』が悪い、としか言いようが無い。 出かけた先で交通事故に巻き込まれた。居眠り運転の自動車がトラックに激突したのだ。彼はその間に、ちょうど挟まれた形になる。 運が悪い、と先ほど言ったがしかし、この時点の彼は、運が良かったのかもしれない。なにしろ、車体に挟まれたのは彼の腕だけだったのだから。 左右の腕を、車のフロントに挟まれ、潰された。 運が悪かったというのは、ここからの話。 彼(宮本 洋司)の職業はプロボクサーだったのである。 自らの肉体、とりわけ鍛え上げたその腕を武器に戦うプロボクサー。長年の夢が叶い、数日後には大きな大会を控えていた身だ。 それなのに、事故に巻き込まれた。その結果、洋司は両腕を切断。夢も、仕事も、なにもかもを失った。 悲しみに暮れる洋司に対し、誰も何も、言えなかった。 流れ落ちる涙を拭うための腕は、洋司にはすでにない。 ところが、だ。 そんな彼に、二度目の、或いは三度目の不運が降り掛かる。 そいつはある晩、洋司の病室に現れた。病室の壁に開いた真っ黒い穴から這い出てきたらしい。『きしししし』と気味の悪い、耳障りな声でそいつは鳴く。 『腕、要るんだろ? やるよ、俺が』 ソイツの名前は(ゲッツ)と言う。アザーバイドと呼ばれる異世界の住人である。洋司がそれを知る筈はないが、それでも洋司はゲッツに望んだ。 だからゲッツは、洋司の腕に取り憑いたのだ。 『代わりにさあ、お前の魂を貰っていくぞ?』 そう言ってゲッツは、きしししし、と錆び付いた笑い声を漏らすのだった。 ● 鉄腕 「ゲーテの戯曲を彷彿とさせるけど……。さて、どうやら今回のアザーバイドは所謂(悪魔)に似た存在みたい」 魂と引き換えに願いを叶える。今回のターゲットである(ゲッツ)はそういう存在である、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は言う。 「ゲッツの力で彼が得たのは、思う様に形を変える鋼の腕」 モニターに映る洋司の両腕は真っ黒で、ぼんやりと赤く光ってみえる。不気味な色だ。悪意に色があるとしたら、こういう色なのかもしれない。 「リハビリのつもりなのかも知れないけれど、洋司は現在、手に入れた鋼の腕の調子を確かめるように強そうな相手を探して移動中」 時刻は真夜中。そうそう人通りがあるわけでもないがそれでも喧嘩慣れした荒っぽい連中は割と出歩いている。恐怖があるから人は夜中に出歩きたがらない。しかし、自分の身は自分で守れる自信があるのなら、割と簡単に人はこんな遅い時間でも平気で外を出歩く傾向にある。 「既に数名、被害にあっている。幸い死者はいないけど重傷者ばかり。洋司が手加減したみたいね」 相手にならない、ということか。より強い者を探して洋司は移動を続ける。 「鋼の腕と、鍛え上げられた肉体。それから(ゲッツ)による肉体と精神の強化が特徴」 相手は1体。しかし油断は禁物だ。一瞬の油断が原因で、顎を打ち抜かれ、マットに沈むボクサーも多い。 時折、銃火器にも例えられるその拳。そのパンチ。 ルールと防具が無ければ、人すら殴り殺せる。 「また、洋司には“外部からの干渉、及び内部からの脱出を阻む特設リング”を喚び出す能力がある。至近距離に自分と相手の2人しかいない場合にしか使えないけど、インファイトはボクシングの基本。注意して」 逃げられない、サポートを受けられない。リングの中で頼れるのは己の肉体のみである。 「最後に1つ。洋司自身は正々堂々を信条とするボクサーだけど、彼の魂は既に半分(ゲッツ)に侵されている」 悪魔とは常に、ずる賢く立ち回る。そういう存在なのである。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2013年12月06日(金)22:15 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●ボクサー 夜道を歩く。1人、ゆっくり。それでいて一歩一歩確実に、確かな足取りで。 シュッ、と時折風を切る音が聞こえる。目にも止まらぬ速さで突き出されたのは、真っ黒な鋼鉄の拳であった。パーカーのフードを目深に被り、顔を隠した男である。 服の上からでも、鍛え上げられた肉体のラインが良く分かる。 爛々と光る赤い目に、正気の色はない。 「次は、どうするかな」 そう呟く彼の声は擦れていた。握りしめた拳から、血が滴る。彼、洋司の血ではない。ここに来るまでの間に彼の犠牲になった不運な一般人の血だ。 ふ、と洋司は足を止める。彼の腕に取り憑いた悪魔が囁く。曰く、強者の気配を感じるぞ、と。 視線を向けた先には、周囲を木で囲まれた、小さな公園があった。 ●悪魔と踊る 「来たな……」 公園の入口に目を向け『悪童』藤倉 隆明(BNE003933)はそう呟いた。拳を鳴らし立ち上がる隆明。それに次いで『Killer Rabbit』クリス・キャンベル(BNE004747)も腰を浮かせる。 公園に入ってくる洋司の全身からは、すでに殺意染みた闘気が溢れていた。 「今日はオレのラッキー・デイなんだ。上手くやるさ」 咥え煙草に火を付けて、腰から2丁の銃を抜く。相手は拳、こちらは銃。しかしこれは闘争だ。正々堂々戦って、止められないでは済まされない。 『準備はいいか? 俺は出来てる』 す、っと拳を顔の高さに掲げる洋司。次の瞬間、タン、と意外なほど軽い音をたて、洋司の身体は弾丸のように飛び出した。 隆明とクリスが戦闘体勢を取ると同時、構えた腕の間を縫って2人の頬に鋼の拳が突き刺さる。ガツン、と殴られたにしては重たすぎる音。殴ると同時にバックステップ。距離を取る。複数を相手取るには向いていないと洋司は自覚しているのだ。 脳を揺らされた衝撃に、隆明とクリスはその場に膝を突く。 「その鋼の拳に掛かれば、どんな相手でも弱い者いじめに過ぎません」 ラベンダー色の髪を翻し『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)が前へ駆け出す。剣を一閃、洋司を牽制する。 「一般人殴ってボクサー気取ってんじゃねえ! 喰らえ、深緋!」 アラストールとは反対側から『てるてる坊主』焦燥院 ”Buddha” フツ(BNE001054)が槍を突き出す。 剣と槍の両方を、洋司は拳で受け止める。頭を下げ、武器の真下を潜るように洋司は駆けた。アラストールとフツの間を潜り抜けて後衛へと切り込む。 ジークリンデ・ゲートシュタイン(BNE004698)がそれを阻むべく立ちはだかる。銃を片手に洋司を睨みつける。 「好きな方を選ぶといい。君の両腕を使った最後の戦いを、悪しき力に染められ、一般人に怪我人まで出した、試合ですらない酷い事件とするか。あるいは君の意志をもって悪魔を追い出し、矜恃を守るか。……後者だというなら協力はするわ」 その問いかけに対し、しかし洋司からの返答はない。銃口の前に片手を晒し防御。同時に洋司の周囲に真黒いオーラが噴き出した。リング形成。自分と対象のみしか立ち入れない、タイマン専用リングを作り出す能力だ。 「悪魔との取引ですか。馬鹿ですか? 馬鹿ですね?」 嘲笑と共に『落ち零れ』赤禰 諭(BNE004571)が式符を投げる。式符は空中で影人へ変化。ジークリンデと洋司の間に割り込み、リング形成の妨害に成功。 『邪魔をするなよ』 拳が打ち出される。その一撃で、影人は砕けて散った。 舌打ちを零す洋司。その鋼の腕が真っ赤に染まり、炎が噴き出す。 「とりあえず公園でボコるわね。逃がさないわ」 後衛から戦場を見渡し『魔性の腐女子』セレア・アレイン(BNE003170)はそう言った。戦場内に一般人がいないことを確認し、陣地作成。この公園を外界から切り離すつもりだ。 「痛みを癒し……その枷を外しましょう……」 セレアの隣では『ODD EYE LOVERS』二階堂 櫻子(BNE000438)が回復役に専念。傷ついた仲間の傷を癒すべく、治癒魔法を発動させる。燐光が舞って、仲間達へと降り注ぐ。 洋司の放つ炎と、櫻子の放つ燐光が、薄暗い公園を明るく照らす……。 ヒット&アウェイ。打っては引くを繰り返す洋司。アラストールとフツ、ジークリンデなどの前衛を素早いフットワークで翻弄し、武器の長さの違いを利用して次々殴る。剣と槍とでは間合いが違い、また槍を十全に扱うにはある程度他者と距離を置く必要がある。一方で洋司は、他人のことなど気にせず、自分の身1つ、相手の懐に潜り込ませればいいのだ。 後は、悪魔の宿る鋼の拳で殴ればいいだけ。それに加え、鍛えた技術と肉体もある。 『シッ!』 鋭く呼気を吐きだし、拳を突き出す。真っ赤に燃える鋼の腕が、アラストールのボディを打つ。服が焦げ、白い肌が顕わになった。それも一瞬で、赤黒く爛れ血を滲ませる。 「貴方は、拳闘家は無法な乱暴者ではないはずだ」 血混じりの咳を繰り返すアラストール。その声はしかし、洋司の耳に届かない。 「お前さんに取り憑いてるそいつは、この世界の敵だ」 フツが朱色の槍を振り降ろす。槍の先端に呪印が浮き上がる。呪縛封印。対象の動きを封じ込める術式を発動させる。異変を見て取った洋司は、サイドステップで槍から逃れる。移動した先は、ジークリンデの眼前であった。 「くっ……。一般人を傷つけ、アザーバイトと共生するなら、私はリベリスタの仕事として、貴方を討たなければいけません」 下段から槍を振りあげるジークリンデ。その槍を、下げた拳で洋司は払う。しかしそれと同時に洋司の胸元に銃口が突きつけられていた。 引き金を引く。渇いた音と共に魔力の弾丸が放たれる。弾丸はまっすぐ、洋司の胸に撃ち込まれた。噴き出す鮮血。しかし、血はすぐに止まる。黒いオーラが渦を巻き傷口を塞いだ。塞がった傷口は、鋼のような黒に染まる。 「ゲッツか……」 そう呟いたのは、フツであった。 「クーリングオフがあるかは知りませんが、ガラクタの腕事還して差し上げましょう」 諭の声に反応し、前衛の仲間達は一斉に後ろへと飛んだ。入れ替わるようにして、重火器を手にした諭と影人が数体、前へ出る。 陣地を形成し終えたセレアもそれに続く。その手には、4色に輝く不気味な魔力が渦を巻いていた。 「そんなのと一体化して暴れてるようなら、ぶちのめすわよ?」 轟音と共に重火器が火を吹いた。同時に撃ち出される4色の魔光。四方八方から放たれたそれらの攻 撃は、公園の地面を抉りながら洋司へと襲い掛かる。 濛々と土煙りが立ち込める中、櫻子は着物の袖で口と鼻を覆い、視線を凝らす。 「終わりました……でしょうか?」 そっと呟く彼女の声が、静寂に満ちた公園に響く。 しん、と数秒時が止まった。 だが、次の瞬間……。 『久方ぶりに、楽しい試合になりそうだ』 土煙りが吹き飛び、火柱が上がる。姿を現したのは、身体の半分ほどを黒く染めた洋司であった。 その両腕は、真っ赤に燃えている。瞳は赤く、闘志と狂気み満ちていた。 クックという悪魔の笑い声が、どこからか響く。 「戦線維持は私が……皆様のサポートはお任せ下さいませ」 櫻子の声。それを合図に、仲間達は再度、戦場に散った。 楽しい試合になりそうだ、とは言ったものの、その実洋司は結構なダメージを受けていた。気を失いそうな激痛に耐え、尚も彼にファイティングポーズを取らせるのは、戦いたい、という強い想い。 その想いを糧に、ゲッツは洋司に力を与える。 力が溢れる。それと引き換えに、心の奥底、大事な何かが欠けていく。もう後戻りはできないし、するつもりもない。そもそも、後に引いた所で彼に残る物はなにもない。 ただただ、腕を失ったという現実を直視したくなかったのだ。 もう一度腕を失うのが怖かった。恐怖から逃げ続ける為に、彼は悪魔の囁きに身を任せ、拳を振るい続けていた。 今もまた……。 目の前の敵に意識を向け、一時の興奮へ、暴力へと身を任せる。 『シッ!!』 目にも止まらぬ一閃。打ち出された鋼の拳がアラストールの胴を叩く。ごぼ、と血を吐きよろけるアラストールを、フツが慌てて受け止める。追い打ちをかけるべく、洋司は再度拳を構えた。タン、と軽い音を立て地面を蹴る。 「ボクサーとしての信念を貫くようなタイプなら1対1で戦ってあげたい気もするけど……」 洋司の背後から、ジークリンデが槍を突き出す。背後からの強襲に気付いた洋司は急停止。上体を仰け反らせながら反転する。その隙にアラストールとフツは後方へと下がる。 体勢を立て直すことが先決だと判断したのだろう。 ジークリンデの槍が洋司の胸を掠める。鮮血が散って、ジークリンデの髪を赤く濡らす。赤く染まる洋司の拳。炎が噴き出す。近づくだけで、皮膚が焦げる。 『背後からとは卑怯な真似を……。タイマンと行こうぜ』 洋司の全身から黒いオーラが噴き出した。洋司とジークリンデを囲むようにオーラが展開。リングを形作る。リングが形成されるその直前、2人の間に人影が割り込む。 「うるぉァああああああ!!」 「上手くやれよ」 左右から、洋司に飛びかかるのは隆明とクリスだ。忌々しげに舌打ちを零す洋司。完成直前だったリングが霧散した。それならば、と洋司の両腕に炎が灯る。 『シッ……。イィ!!』 繰り出される左右の拳。赤い灼熱の軌跡を描き、炎の灯った鋼の拳が隆明とクリスを襲う。1発、2発、3発……そこから先は数えきれない。加速し、勢いを増す拳のラッシュ。2人の全身を打つ。皮膚の焼ける臭いが立ち込める。滲んだ血液も蒸発し、周囲に赤い霧が立ち込めた。 途切れることのないラッシュが続く。時間にして十秒程度だろうか。炎に包まれた隆明とクリスが地面に倒れる。 『ははっ……。すげぇ。これが悪魔の力か』 真っ赤に染まった鋼の拳を見降ろし、洋司は笑う。血走った眼に正気の色はない。 「悪魔に魂売ってまでチンピラ殴り倒すのがボクサー? 馬鹿みたい。貴方、これからの未来だけでなく、自分の過去まで否定してるって気がつかないの?」 そんな洋司に向けセレアが罵倒を投げつける。4色の魔光が拡散、四方から洋司を襲う。その隙に、諭の召喚した影人が意識を失った2人の身体を回収する。 「自慢の腕でどれほど防げるか見物ですね?」 魔光と拳が衝突を繰り返す。それを見ながら諭は告げる。その声は洋司に届いただろうか? 影人の回収してきた2人を、櫻子が背に庇う。 影人を警護しながらジークリンドが後退。入れ替わるように、フツとアラストールが再度前線へと移動を開始する。 「皆様の御背中に……小さな翼を」 櫻子が囁く。それと同時、アラストールとフツの背に、小さな光の翼が生まれる。 ●鉄腕のボクサー 翼を打って、2人は空中へと飛び上がった。急速に高度を上げ、2人は血霧を突き抜ける。視線を上げ、洋司はそれを追いかける。 標的を2人に絞ったようだ。洋司は素早くバックステップで後退。リベリスタ達から距離を取る。それを追って、アラストール、次いでフツが急降下。重力に逆らわず、剣と槍とを突き出した。落下の勢いを乗せた、重く鋭い2人の攻撃。 『ちっ……』 鋼の腕で、それを受ける。アラストールの剣を掴み、フツの槍は地面へ受け流した。 「う……お!?」 洋司の放ったハイキックがフツの即頭部に命中。大きくよろけるフツを尻目に、洋司は跳んだ。アラストールの胴に体当たりをかまし、よろけるフツから距離を取る。 「しまった……」 アラストールが声を漏らす。時すでに遅い。噴き出すオーラがリングを形成。洋司とアラストールはリングの中に隔離された。ロープに背中を預け、洋司は笑う。 『やっぱり、これがないとな』 ぐい、とロープを押して反動を確かめる。身体に力を入れる度、洋司の全身に痛みが走る。ゲッツによる肉体強化の反動か、そろそろ限界が近いらしい。骨が軋む、内臓が悲鳴を上げる。しかしまだまだ、戦える。 アラストールに急接近。至近距離から放たれた1撃がアラストールの顎を打つ。白目を剥き、よろける。マットに膝を突くアラストール。リングの端にしがみついたフツが、大声で叫ぶ。 「足だ、足使えー! 立て、立つんだアラストール!」 拳を振り上げ檄を飛ばす。その声が耳に届いたのか、アラストールは意識をなんとか繋ぎとめ、立ち上がった。 「無論、やれます!」 鞘を投げ捨て、剣を正眼に構えた。顎に受けたダメージが効いているのか、僅かに身体が揺れている。平衡感覚が麻痺しているのだろう。 「のんびりテンカウントなんて、待つ必要はないですよ」 諭が告げる。仲間たちから、次々に応援の声が飛ぶ。リングが一度形成されてしまった以上、一定時間が経過するまで、中にいる2人に干渉はできない。 『さぁ、戦おう!!』 洋司の拳に炎が灯る。灼熱の拳を眼前に構え、洋司はアラストールへと接近。懐に潜り込み、拳を突き出す。 それと同時、アラストールは剣を大上段に振りあげた。ガラ空きになった胴へ洋司の拳が突き刺さる。皮膚が焦げ、激痛が走る。 次の瞬間、振りあげたアラストールの剣が鮮烈な輝きを放った。バチバチと音をたて放電する。驚愕に目を剥く洋司。雷を宿したアラストールの剣が振り下ろされる。鋼の拳でそれを受け止める。火花が散った。だが、アラストールの剣は止まらない。 何度も何度も、素早く、鋭く剣が踊る。 「例えどんなに、苦しくとも、今の貴方は貴方が望んだ姿ではないはずだ」 気合い一閃。落雷のような衝撃と轟音がリングを揺らす。飛び散る雷光と、鋼の破片。洋司の両腕が砕け散ったのだ。剣はまっすぐ、洋司の肩から胸、胴にかけてを切り裂いた。飛び散る鮮血。真っ赤な雨が降り注ぐ。 『満足したよ…………。あぁ、ありがとよ、お前ら。それと、ゲッツ』 そう呟いて、洋司はゆっくり目を閉じた。洋司はすでに呼吸を止めた後である。彼の身体がリングに倒れると同時、リングは消し飛び公園には静寂が戻った。 腕の欠片も塵と化して消えうせる。鋼の腕が砕けると同時、ゲッツも消滅したようだ。 「仕事は終わりましたね……。私のすべきことはもう此処にありませんわ」 悲しげに目を伏せ、櫻子は言う。洋司の遺体に、セレアがそっと布を被せる。 悪魔と契約してまで、最後まで戦おうとした1人の男に対しフツは合掌を捧げた。せめて、安らかに眠れるように。 そう願わずには、いられない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|